ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ジョルノ+ポルナレフ-16

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匿名ユーザー

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…あ、ありのまま今起こったことを話すぜ。
わ、私は『土くれのフーケ』を捕らえる任務に参加して、『土くれのフーケ』が誰かわかっちまったからそいつを撃退した。
だが私は『土くれのフーケ』が目覚めるのを待って『土くれのフーケ』にごめんなさいした。

な、何を言ってるのかワカラナイと思うが、私にも何が起こったのかわからなかった。
これも全て『土くれのフーケ』の罠だとか私の正直さが悪いとかそんなチャチなもんじゃねー!
男と女の間に横たわる深くて広い川の存在を味わったぜ!

対岸は見えそうだが、今は流れが速すぎて渡れそうにねぇ…その事は、マチルダお姉さんに同情的なルイズ達を見ればよくわかるぜ。
ここにジョースターさんがいれば、私をからかいつつもマチルダお姉さんを罠に嵌めてくれただろう。
『土くれのフーケ』ことマチルダお姉さんはもう冷静にこの状況を理解したらしく、そう考えて自分を慰める私をちょっぴりの哀れみの視線と、
勝利を確信した笑みを浮かべて見下ろしてくる。

「ミス・ロングビル。本当に申し訳ありません。このエロ亀が…!」
「顔を上げてくださいミス・ヴァリエール。私全く気にしてませんから、オールド・オスマンに比べれば可愛いくらいじゃないですか」

余裕たっぷりに対応するマチルダお姉さんの言葉に、ルイズは感謝する。
よかったわね、ヴァリエールなんてキュルケが珍しく慰めるような言葉をかけ、次いでルイズが学院の男性陣が如何にアホかと言う事を論じていく。
私の事を哀れんだような目で見ただの、目つきがいやらしいだの、上級生のベリッソンの食事のマナーが悪いだの…私は悔しさに打ち震えた。
だが、今の私が発言すると完全に冷戦状態に陥ってしまうような気がする。
この後『土くれのフーケ』が用意した罠をかいくぐり、盗まれた『破壊の円盤』を奪取するにはチームワークが必要なのだ。
私は我慢した。先程マチルダお姉さんに謝った時の正座の姿勢のままで…ジッと耐える。
それに同調したマチルダお姉さんにより、偉大なるオスマンが「偉大な方ですが、毎日スカートの中を使い魔を使って覗こうとしたり、
お尻を触ろうとしたりセクハラばっかりで…」と言われ、マチルダお姉さんがため息をつく度にオスマン株が下落していくのを、ただジッと耐えるしかなかった。

「幻滅したわ。偉大な方だと聞いてましたのに…」
「偉大さとスケベさが奇妙に同居した方ですから…噂によると、風呂場を覗いて今は亡きオルレアン公に半殺しにされた事もあるとか」
「…本当に?」

何故かその時だけ、黙って周囲を警戒しながら先を進んでいたタバサが、興味を示した。
あくまで噂ですがと、マチルダお姉さんがしれとした顔で言うが、討伐に出る時に出会ったオスマンを思い出し、『ちょっと意外だがやりそう』と私でさえ思った。
しかし…タバサがオルレアン公とかいう奴に興味があるなんて、なんか妙な感じだった。
あって少ししか時間が経ってないが、この件でオールド・オスマンに学院長室に呼び出された時はおろか、
荷馬車の中とかでキュルケがそれとなく話に参加させようとした時でさえ、タバサはずっと本を読んでいただけだったんだぜ?
そんな、友達とさえ特に話さねぇタバサが、オルレアン公の名前が出た時には強く興味を示したように見えたんだ。
シュヴァリエとかいう、なんか功績を残さないと貰えない爵位を持ってる事といい、妙なガキだぜ。

「全く、男と来たら毎日毎日む、むむ胸胸胸胸…!」

タバサの様子を見ようとした私の心に言葉がサグサ突き刺さる。
本当に刺されたわけでもないが、私は胸を抑えて正座して痛くなった足を投げ出すように倒れこんだ。
痛みに呻きながら見上げたルイズとキュルケ、その…どことは言わないが、どうしても比べてしまう私は反論できなかった。
苦笑して相槌を打っていたキュルケがあっけらかんとした調子で言うのが、悔しさをかみ締める私の耳に届いた。

「あら、案外可愛いいと思うけど?」
「アンタは慎みが足りないのよ! ヴィリエ達が時々食堂で何話してるかしらないの?」
「知ってるわよ」

鼻息荒く言うルイズにまぁそのボディじゃあねぇとキュルケとマチルダお姉さんは口には出さないものの勝者の余裕を漂わせながら苦笑する。
ルイズがそれに気付き、自分の胸とキュルケの胸を見て歯軋りした。

「かか、か体でしか気を引けないなんて女性として、ど、どうなのかしら!? ね、ねぇタバサ。そそ、そんなのにつられてくるような男って碌でもないと思わない?」
「…どうでもいい」

素っ気無くタバサが呟き、足を止めた。

それに気付き皆、順々に足を止める。タバサが足を止めた場所から1メートル程の距離から、森が開け視界を遮るものの無い小さな空間ができていた。
マジシャンズ・レッドの視界には小屋が一つ見えている。元は木こり小屋かなんかだったんじゃねーかと思うが、今は廃屋みたいだ。
しかし、久しぶりに固定化がかかってない建物を見たな。
錆び付いた釘やうっすら浮いた苔、朽ちた様子に、うまく言えねぇが、奇妙な味があった。
私は小屋から目を離し、小屋の中から見えないようにと、森の茂みに身を隠したまま廃屋を観察しているルイズ達を見る。

「私の聞いた情報だと、『土くれのフーケ』はあの中にいるという話です」

いや、マチルダお姉さん…アンタが土くれだろ?

マチルダお姉さんが笑いながら言ったことを、ルイズ達は緊張した様子で人が住んでいる気配が全く無い小屋を見ている。
いやだからよ。後ろでマチルダお姉さんが笑ってることに気付こうぜ?
果たしてどう行動すべきか、ルイズ達は相談を開始した。
その中心になったのは意外なことにタバサだった。
てっきり、ルイズとキュルケが言い争うと思ってたんだが、タバサが地べたに正座して、ここに来る間に考えていた作戦を説明し始めた。
枝を手に、地面に絵まで書いて解りやすく説明していく。

「あーもうッ! おまえらな!! いるわけねぇって!! だから『土くれのフーケ』はその女だって言ってんだろ!!」

タバサ達は私の入った亀を一瞥して、疲れたようなため息をつくと相談を再開しやがった。
マチルダお姉さんがそれを見てプププと噴出しそうになっているのがまた腹立たしい。

「無視かッ! 手前ッ笑ってんじゃねーぞッ!?」
「何の事でしょうか?」

私が突っ込みをいれた時には、もうマチルダお姉さんは真面目な表情に戻り作戦を聞いていたような振りをしている。
命懸けでエジプトへ旅した時が、懐かしいぜ…私は涙を堪えた。

その間にルイズ達の相談は進んでいく。
まず。偵察兼囮が小屋のそばに赴き、中の様子を確認する。
そして、中にフーケがいれば、これを挑発し外に出すという作戦らしい…
土系のメイジ。特に巨大なゴーレムを作るには小屋の中では無理で必ず外に出ると言うのだ。
そこを外で待機する残りのメンバーが、魔法で一気に攻撃をする。
ゴーレムなど作る隙は与えずに、集中砲火でフーケを静めるという作戦だった…そのフーケは作戦会議に参加してるけどな。
「で、偵察兼囮は私がやるのか?」
「よくわかったわね。アンタ、ギーシュと決闘した時素早かったから適任よね」

全員が私を見ていた。
なんというか、…複雑な気分だ。一言で言うと私コイツの使い魔やってていいんだろうか?って気分だ。
まぁ、別に契約してねぇから逃げられなくも無いが…
私はそんなことを思いながらマチルダお姉さんを見る。

「……いいだろう。だが私は魔法には詳しくない、メイジの協力が必要「ミス・ロングビルなら駄目よ」

私は亀の中で口をパクパクさせた。
やっぱりか…あえて言うならそんな気持の篭った目が、私を見下ろしていた。
濡れ衣なのに…! マジで今回だけは濡れ衣なのに…!
隠れてニヤニヤするマチルダお姉さんを見上げ、私は食い下がった。

「い、いや私一人だと何か起こった時対応が…」
「その時は逃げてくればいいのよ。こっちにはトライアングルが二人もいるんですからね」

食い下がる私に、キュルケが言いながら杖を振って見せ、タバサも頷いた。
ま、待ってくれ。なんなんだこの状況は…!
普通、普通の話をするぜ。

こう言う場合、既に正体がばれちまったマチルダお姉さんが焦って、3人がマチルダお姉さんを怪しむ場面じゃあねぇのか?
それが、どうしてこいつらは聞き分けの無い私を説得する大人ぶったような態度で話を進めてるんだ?

私は、この難解な謎について考える余り、亀の中で頭を抱えた。
あの太ももは間違いなくマチルダお姉さんなんだぜ? それは間違いない。
いや、こういう言い方だから不味かったのか?
私は不意に気付いてしまった。
ちょっと嘘入れて、顔を見たとかなんとか言っておけば今頃帰還中だとか、そういうことか?

「ちょっと、私もいるわよ!」

混乱する私を置いて、話は進んでいるようだ。
ルイズも杖を構え、やる気を見せるが、一緒になってマチルダお姉さんが杖を構えてる辺り駄目過ぎる…
駄目だ、こいつら………私がなんとかしないと…!

言いようの無いやるせなさを感じながら、私は小屋に向かった。

腑に落ちないが、これは考えようによってはチャンスでもあるからな。
『破壊の円盤』に一体どのスタンドが入っているのか、私には気がかりだった。

ジョルノ達から効かされた『グリーン・デイ』や『ノトーリアス・B.I.G』なんていう無差別攻撃する奴じゃなきゃ…まぁ、なんでもいいがな。
一応背後を取られてる形になっちまうんで、私の目は背後をうかがったまま小屋に近づいていく。
何も言わぬマジシャンズ・レッドだけが頼りだぜ…私はマジシャンズ・レッドの視界で、念のため小屋の中を窺った。
この世界のメイジ達が罠なんぞ使うとはあんまり思えないが、念のためだ。
外から見た感じでは何も無い…私は再度念を押して、一度亀を下ろし、マジシャンズ・レッドに壁を素通りさせて中を見る。

小屋の中には一部屋しかなく、真ん中に埃が積もったテーブルと椅子が一つあるだけだった。
後あるものといえば、崩れて使い物になりそうにない暖炉位か。
いや…テーブルの上に、私は光る円盤を見つけた。
いないぜって合図をルイズ達に送り、私は中に入っていく。
ここからは時間の勝負だ。ルイズ達より先に『破壊の円盤』を確認しなきゃならん。

回り込むのも面倒臭いんで、私は窓をブチ破り、中へと駆け込んだ。
そして室内の埃を押しのけて、私は円盤を亀の中へといれさせた。

手にとったディスクは埃が付いちまっていたが、傷は付いていないようだ。
しっかし、こっちの世界の連中はいまいち作法がなってねぇな…こんな置きかたをしたらディスクに傷がつくじゃねーか。
私は急ぎディスクを傾け、照明の光を調節して当てていく。
こうするとうまくすれば中身が何か、光の反射で垣間見ることができる時があるのだ。

「カメナレフ! フーケは? いえ、『破壊の円盤』はあった!?」

私は駆け込んできたルイズに、ちょっと考えてから「いや、まだ見つかってねぇ」と嘘をついた。
まだ中身を確認してねぇのにこいつらに渡すわけにはいかなかった。

「ちゃんと探したの?」

ルイズは埃っぽい部屋を見て嫌そうにしながらも部屋の中を捜索していく。
タバサは何も言わずに崩れた暖炉の中に入りそうな勢いだったが、私はディスクの確認に忙しかった。

「もう逃げた後なのかしら?」

キュルケが言いながら、炭にでもするつもりだったのか積まれたまま埃を被った薪を崩す。

マジシャンズ・レッドの視界でそれを見ながら、ディスクを少し傾ける。だがまだ映らない…しかし、マチルダお姉さんはなんでこれをあっさり返したんだ?
その事を疑問に思った私は、急いでマジシャンズ・レッドに周囲を確認させる。
マチルダお姉さんの姿は、もう見えなくなっていた。
焦って確認してる間に逃げられたのか!?

「ん…!? おい、ルイズッ、マチ…いやミス・ロングビルはどうした!?」
「…アンタ、また何かする気じゃあ「いいから教えてくれ」っ外で周囲を警戒してるわよ!」

キツイ口調で私に言うと、ご主人様になんて口きくのよ、とか全く、そんなにあの人が好きならあの人の使い魔になればいいのよ、とかなんとかルイズはブツブツ言いだす。
だが、そんなルイズに突っ込みを入れてやる余裕は、私からは消えようとしていた。

なんだと!?
私は慌ててマジシャンズ・レッドを外に出す。
だが、もう遅かった。
その時には、マチルダお姉さんは既に造られた、大体30メートル位はありそうな巨大な土のゴーレムに捕まれ、森へと投げ捨てられる瞬間だった。
私にはわざとらしく聞こえる悲鳴を聞いて、ルイズ達が小屋から飛び出してくる。

舌打ちをして、私はディスクの中身を見るのを後回しにして、退却を決断した。
このゴーレム相手。しかも本体が逃げちまった状況で戦うのは、かなり不利だぜ。
だが、問題が一つある。ルイズだ。

先日、このゴーレムにまっすぐ向かっていったルイズの行動を考えるなら、ルイズがこのまま何の手柄もなく下がるなんてことは無理だろう。
私は手の中にある円盤を見た。せめて…コイツをゲットしねぇとルイズの頭に退却はない、かもしれねぇな。

「ルイズ、一旦退却しようぜ…!」
「ふざけないで…! 私達は何をしにきたと思ってんのよ!」

一応試しに提案したが、あっさり断られた私はイライラを誤魔化す為に頭をかいた。
ルイズだけじゃねぇ、仕方ないって顔してキュルケまでが杖を抜いてやがるのが、マジシャンズ・レッドの視界に写っている。

どうすりゃいいんだ?
さっさとディスクを渡しちまえば撤退できるのかもしれない。
だが、ディスクに対する執着が、私を迷わせていた。
まだ中身も確認できてねぇってのに、渡しちまっていいのか?

迷う私の耳に、爆発音が届く。
誰より早く、ルイズの爆発がゴーレムをちょっぴり焦げさせたのだ。
それを物ともせず、ゴーレムが振り下ろし、タバサの「エア・ハンマー」がその腕を叩き、軌道を逸らす。
一部だけ腕が砕かれ、風に吹かれて私たちに土砂が降り注ぐ。
ゴーレムの砕け散った部分は、また土を集めて急速に再生しようとしている…
それを見た私は、歯軋りしながらディスクを渡す事を決めた。

その間にキュルケの炎がゴーレムの足を焼く。大きな足の一部を溶かす熱が、風に乗ってこちらまで微かに届いていた。
キュルケがつけたの炎は、勢いが衰える事無く一瞬で燃え広がってゴーレムを焼く…マジシャンズ・レッドの能力は炎を操る事、その炎を操り、巨大な足を一本溶かす勢いにまで高めていく事も可能!
これで少しは時間が稼げるはずだ。

「おかしいわね…あんな動きをするなんて」

その炎を放ったキュルケが鋭い目をして言ったが、それを確かめるより今はゴーレムの相手をするのを優先し、次の魔法を唱えていく。
私も、炎が妙な動きをした事を誤魔化すより先に、次の行動に移っていた。
こんなもんじゃ腕と同じで、すぐに治しちまうだろうからな。
そう考えて、足を片方なくして、地響きと共に倒れるゴーレムを警戒しながら、私はディスクを亀の中から出し…固まった。

亀から出そうとしたディスクの表面は、炎に照らされ輝いていた。そのせいで、見えちまったんだ。
ディスクの表面に、見よう見ようとしていたディスクに込められたスタンドの姿が…一瞬だが、はっきり見えた。

忘れようもない…
あのスタンドは…あのスタンドは…!

ディスクをルイズ達に渡して、撤退をしょうと決めていた私の心は、酷く乱れた。私は決断を再び迫られていた。
このスタンドと他のスタンドを渡すのは、私にとってはわけが違った…ルイズ達はゴーレムに視線釘付けのはず、ディスクには気付いていないはず…そんな考えが浮かんじまう!
亀の中にしまって戦うか、それとも先程考えたとおりにディスクを渡して目的達成したから退却するぜ!って流れに持っていくか、どうすりゃいい…!?

迷っていられる時間は、少なかった。
周りに土はたくさんあるからな。倒れたゴーレムの体は、もうすぐ再生し、立ち上がってくる…!

「畜生ッ…! ルイズ! 『破壊の円盤』を見つけたぜ! 目的は果たした…一時撤退だ!」

あんまり強くかみ締めたせいで、歯が軋むような音を立てた。
悔しいが、仕方ねぇ…ガキが自殺しにいくのを止めるのは大人の甲斐性だからな…!

だが…糞っ
あのディスクは…あのディスクに刻み込まれているスタンドは…!
間違いなくDIOの『世界』だ…!
確かに無差別に人を殺すようなもんじゃねぇが…
あんなもんを、たかが一人のメイジに侵入されて盗まれるような魔法学院にみすみす渡すしかねぇのか?
迷いが、そして共に奴を倒す為に旅した仲間達の姿が私の頭を過ぎるが…私はルイズにディスクを投げ渡した。
言ってみりゃハイスクールの学生と変わらないこいつらを、私の都合で危険に晒すような真似は、私の誇りに傷をつける。

だが…承太郎、! アブドゥル、ジョースターさん、!花京院! イギー!
これで正しかったのか…!?
私は、亀の中でそう思わずにはいられなかったのも、確かだった。

もう一発エア・ハンマーを食らうのは避けたいのか、ゴーレムのまだ回復しきっていない腕が振り上げられ、私達の上に影を落とす。
横倒しになってるくせに、いや、だからこそ改めてデカさを実感しながら、私はマジシャンズ・レッドを操り、ルイズを抱えてその場を離れる。
キュルケとタバサは、レビテーションだかフライだかわかんねぇが、自分で逃げ出せていた。

「よくやったわ! カメナレフの意見に賛成よッ! 一旦退却しましょう!」

キュルケが賛同する声が聞こえる。そして、タバサの使い魔である風竜がマジシャンズ・レッドの視界に写った。
だがディスクを受け取ったルイズの顔は、喜んでる顔じゃあなかった。むしろ怒りに包まれているように見えた。

「嫌よッ私は貴族…盗賊如きに後ろを見せるなんてできないわ!」

…ジョルノなら間違いなく見捨てただろうな。
腹立ちを抑えながら、私はマジシャンズ・レッドを操り近くまできたシルフィードの背中に、私の入った亀と、暴れるルイズを投げた。
ルイズは乱暴に扱われて怒ったようだが、私が渡してやった『世界』のディスクを持っていない方の手に杖を持っているのを見て、私はもっと怒りが沸いていた。
ったく何の為に『世界』のディスクを渡してやったと思ってんだ?

「目的は円盤が第一だろ!? 一旦距離をとるぜ!」
「イ・ヤ・よ! 私は貴族なのよ! 魔法が使える者を貴族っていうんじゃないわ! 敵に後ろを見せない者を貴族と呼ぶのよ! まだ何もしていないのに逃げるなんて…そんな貴族的らしくない振る舞い…できるわけがないじゃない!」

キュルケが呆れたような、感心したような顔を見せる中、私は愕然とした。私にはそれはただのヒステリーな言葉に聞こえた。
その間にタバサのエア・ハンマーが、ゴーレムをまた砕いてその足を止めにかかる。
足を掬われた形になり、倒れていくゴーレムを見て、ルイズの顔には悔しさが浮かんでいた。
ゴーレムを、そしてタバサを睨みつけるルイズの目に、私はルイズが長年溜め込んだ、どろどろした、鬱屈した感情が見えたような気がした。

『ゼロ』、そう繰り返し呼ばれ、見下され、貴族としてこれ以上ない侮辱を受け続けてきたことが、この頑なな態度を作り上げている、
のだが、今の私にはそんなことはわからなかった。
今のルイズじゃあ、どう考えても勝てるわけがねぇ…解ってるのはその一点だけだった。これは確定だろう。

なんせ相手は『土くれのフーケ』じゃなく、『土くれのフーケが作ったゴーレム』だ。
ルイズの爆発で倒せるかどうかも微妙な所だが、別にゴーレムなんぞ倒す必要はねえ。
キュルケ達はどう考えてるかはわからんが、倒した所で何の意味もありゃしねえんだ…遠隔自動操作型のスタンドみたいなもんだからな。

だが、ルイズは、あのゴーレムから逃げることが恥だと勘違いしてやがる…私はそう思って拳を握り締めた!
そのせいで、馬鹿にされることを恐れて、ルイズは無謀な事をしようとしてやがるんだ。
ゴーレムにミンチにされちまうってわからねぇ程馬鹿じゃねぇだろうが、また馬鹿にされて悔しい思いをする方が、ずっと納得できないと思い込んでいるらしい…
ルイズの一見気高い、だが私にすれば、サイズ的に言って、例えて言うならノミの蛮勇でしかないこんな行動をさせるわけには行かなかった。

ディスクの奪取だけで十分な功績と、私は思うからな…口の悪い連中は、どんな功績を挙げようが陰口を叩くもんだぜ。
胸糞悪くなった私は吐き捨てるように言う。

「そういう奴らは、どうせ何したって言う。言わせとけばいいじゃねぇか!」
「黙りなさいカメナレフ! あいつを捕まえれば、あいつを捕まえさえすれば、誰ももう私をゼロのルイズとは呼ばないでしょ!」

私はそれを聞いて舌打ちする。
私も若い頃無鉄砲だったと思うが、ここまで酷くはなかったぜ。

ジョースターさんが撤退するのに反対し、DIOに向かっていこうとした時の私もこんな風に見えてたんじゃねぇだろうな?
承太郎が来なきゃあ、こんな、無謀な真似を…こんなのは誇り高い、勇気を振り絞った行動じゃねえってのに。
私は反吐が出るような気分で、覚悟を決めた。戦うと。

「チッ、こんな事なら渡さなきゃよかったな…わかったぜルイズ。だが、今は距離をとる」
「嫌だって「いいから聞け! アレはフーケじゃねぇ! フーケが作ったゴーレムだ!いるとすれば…」

反論しようとするルイズを怒鳴りつけ、私はマチルダお姉さんが落ちていった辺りを見る。
マジシャンズ・レッドの目でも、まだ見えないが、近づけば見つけられないことは無いはずだ。
最悪、森を焼いちまうって手も無いことも無い…やりたくはねぇがな。

「いるとすれば、フーケは森だ! この辺りにはいねぇんだからな! そっちを叩きゃいいんだ…魔法の事はよくわからんが、なんせ向こうはゴーレムを作ってる。本人は無防備なんじゃねぇのか?」

私の言葉に、ルイズはちょっぴり冷静さを取り戻して森を見る。
だが、飢えたような目だ。功名に焦り、周りが見えてねぇ…そんな風に感じられるぜ。
心配する私を他所に、ディスクが傷つきかねない強さで、ルイズは指に力を込めていた。

「あのゴーレムと…他の強力な魔法を同時に使うのは、無理」

私の言葉にタバサは同意してくれたようだ。
シルフィードがきゅい、と鳴いてゴーレムから逃げる動きから、マチルダお姉さんが落ちていった森へと向かう動きへ変化する。
キュルケが後ろを振り返り、乱れる髪を押さえながら手を伸ばしてシルフィードを掴もうとするゴーレムを見た。

「そうね…それに幸い、シルフィードの方がゴーレムより速いわ」
「でも、…どこにいるのよ!」

焦りを口にするルイズの頭をマジシャンズ・レッドの手でくしゃくしゃにしながら、私は言う。
こいつらは信じちゃあいないが、『土くれのフーケ』は間違いなくマチルダお姉さんだ。
それはこれまでのマチルダお姉さんの態度からもはっきりしてる。

「まずはミス・ロングビルが落ちた辺りだ。どこにいるにしろ。あの人を拾おうぜ」

そして見つけ次第私はまた殴り倒す。そうやってゴーレムが消えちまえば、流石にこいつらも認めるだろうからな。
シルフィードが私の言葉を聞いたタバサの指示を受けて、飛んでいく。
マジシャンズ・レッドを飛ばし、私はマチルダお姉さんを探す。

しかし、遠距離操作型のスタンドとの戦いは、本体を叩くに限るんだが、まさかファンタジーでも通用するとはな。
後の問題は眼下に広がる森は広大で、人一人探しながら巨大なゴーレムの攻撃もかわさなくちゃならねぇってことだ。
ジョースターさんなら、あっさり見つけられるかもしれない。
ちょっと回りを攻撃したりして、それに対するゴーレムの反応とか、『ハーミット・パープル』の能力なら位置を絞り込むのかもしれん。
だが私にもマジシャンズ・レッドにもそんな能力は……私はそこでいい事を一つ思い出した。

フフッ、今日の私は冴えてるぜ。

「マジシャンズ・レッド!」

私は、炎の線で結ばれた、四方と上下の6つで一つを構成する炎を生み出させ、その様子を見る。よし、賭けだったが、私にもできたか。
突然叫び、炎を出現させた私にルイズ達は驚いていた。

「カメナレフ、貴方…先住魔法が使えたの?」
「先住? いや違うが、炎は操れる」

炎に照らされているだろうマジシャンズ・レッドの視界で燃え上がる炎を見つめ、死ぬ直前のアブドゥルを思い出して私はしんみりした気分で説明を始めた。

「この炎は生物探知機だ。人間とかの呼吸や動く気配を感じ取る」
「6つの炎は、方向?」

私は説明されるまでわからなかったんだが、タバサは検討をつけたらしい。
あぁ、と私は頷いた。

「半径15メートル…こっちじゃメイルか? その範囲内にいるものならどの方向にどんな大きさのものが隠れているかわかる!」

私の説明に、低空飛行を始めるシルフィード。
それを指示したタバサに、どうせ見えはしねえだろうから、そのままの高さを保つように言って、私は炎を操る事に集中していった。


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