ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

使い魔は皇帝<エンペラー>-2

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匿名ユーザー

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ホル・ホースは自分の意識がゆっくりと覚醒していくのを感じていた。
「あんた誰?」
彼がはっと目を開けるとそこには美しい少女の顔。
状況はよくわからないが、とりあえず名前を聞かれているらしい事だけはわかった。
このような美少女からの問いを無視するのは失礼だろうと思い、ゆっくりと起き上がり答える。
「俺はホル・ホースだ、美しいお嬢さん」

彼女はその言葉に面食らったようで、やや顔を赤くしている。
『ゼロのルイズ』と馬鹿にされるのが常であるルイズは、直接的に容姿を褒められる事に余り免疫がないのだった。
「あ、ああんたどこの平民よ!」
ホル・ホースは方膝をつき、彼女の手を取り、さらにキザったらしい笑みを浮かべつつ、
「世界中が俺の庭さ。女の呼ぶ声があればどこにだって駆け付けるぜ」
などとのたまった。しかしホル・ホースの手は顔を赤くしたままのルイズにあっさりと払いのけられる。
「へ、平民が気安くさわんないでよ!」
(何よコイツ……! なんか……ギーシュと同類な気がするわ……)

「ルイズが平民を召喚したぞ!」
そこへルイズ心の中なんかおかまいなしに、周りから野次が飛んでくる。
「さすが『ゼロのルイズ』! 平民喚ぶなんてルイズにしか出来ないな!」
「うるさいわね! ちょっと間違っただけよ!」
そしてその後もなんやかんやと言い争いが続く。
ルイズが野次にいちいち言い返すため、なかなか終わりそうにない。
一方突然一人置いてけぼりにされたホル・ホースはというと、冷静に周りを観察していた。
周りの風景、人間、話の内容――
しかし得られた結論は、わけわからんぜ、という事だけ。
とりあえずはこのまま様子を見ようと決めた。

しばらくして、話が終わったのだろうか、ルイズが近寄ってくる。見ればほんのりと頬が赤い。
「あんた、貴族にこんな事してもらえるなんて、普通は一生ないんだから感謝しなさいよね」
彼女はそう言うと、呪文を唱え、ホル・ホースの額に杖を当てる。
そして、ホル・ホースの頬にルイズの両手が添えられる。ルイズの頬は先程にもまして赤い。
ルイズにとってそれは、ただせさえ恥ずかしい行為な上、しかもこれが初めてだ。
「じっとしてなさいよ」
(なんだ? ……これじゃあまるでキスするみてーだぜ……)
ホル・ホースがそんな事を思っていると、本当にキスが交わされた。

「おいおいお嬢さんよ……いきなり随分とって何だアア──ッ!」
若干の動揺を隠しつつ口にした言葉は、しかし体の内から溢れた猛烈な熱さによって中断せざるをえなかった。
「うるさいわね! すぐに終わるから黙ってなさい!」
スタンド攻撃を疑い『エンペラー』を構えようとしたホル・ホース。
だが、その前に言う通りに熱が引いたので、結局そうするのはやめた。
代わりに質問をぶつける。
「一体おれに何をしたッ!?」
「使い魔のルーンを刻んだだけよ」
「使い魔のルーン?」
なんだあそりゃ? と思っていると、いつの間にやら寄って来ていた黒ローブの男が自分の左手を眺めているのに気付く。
「ふむ、珍しいルーンだな」
ホル・ホースも自分の左手を見ると、手の甲に見慣れない文字が書かれていた。
というかこれは本当に文字なのだろうか。模様と言った方が近い気もする。

「これが使い魔のルーンてやつかい?」
「そうよ」
「珍しいルーンだが、とにかく『コントラクト・サーヴァント』はきちんとできたね。それじゃ、みんな教室に戻るぞ!」
さっきの男がそう言うと、男の体が宙に浮く。さらに続けて周りにいた者達も同様に宙に浮く。
「ルイズ、お前は歩いてこいよ!」
「あいつ『フライ』はおろか、『レビテーション』さえまともにできないんだぜ」
「その平民、あんたの使い魔にお似合いよ!」
そうして周りにいた少年少女は口々にルイズに嘲りの言葉をかけながら飛び去っていってしまった。

それを見たホル・ホースはポカーンと口を開けている。
「なんだありゃあ……」
余りに非常識な光景に、さすがに動揺が口からこぼれる。
何か仕掛けがあるようには見えないし、あれだけの人間がみな同じスタンド能力を持っているとも思えない。
飛び去っていった者のセリフからは、宙に浮くのは「技能」のような印象を受けた。
だが大勢の人をトリックもなく宙に浮かせる「技能」とは? そんなものはホル・ホースの記憶のどこにもなかった。


広場に取り残された二人は、ホル・ホースは混乱から、ルイズは屈辱に耐えるようにしてしばらくの間黙っていた。
だがやがてルイズはホル・ホースに向き直り、怒鳴った。
「あんた、なんなのよ!」
「そりゃあこっちのセリフだぜ。わからん事が多すぎる。ちょっと一から色々と教えてくれ」
「まったく。どこの田舎から来たのか知らないけど、説明して上げる。ちゃんと聞きなさいよ!」

ルイズの説明を、ホル・ホースは一つずつ確認して頭に入れていく。
ここはハルケギニアのトリステインはトリステイン魔法学院。
彼女達は貴族で、メイジと呼ばれる魔法使い。驚くべき事にここでは普通に魔法が使用されている。
おまけにドラゴンやグリフォンといった生物までいる。
自分は魔法で『召喚』されここにやってきた。
彼女の名前はルイズ・ド・ラ・ヴァリエール。
今日から自分の主人で、自分は彼女の使い魔というものになったらしい──
にわかには信じ難かったが、実際に人が飛ぶところや、さっき周りにいた奴らが連れていたおかしな生き物達を見ていたので、
まだ半信半疑だが、一応信じる事にした。
「陽が暮れてきたわね……部屋に戻るわ。着いてきなさい」
そう言ってさっさと歩いていってしまったルイズを、ホル・ホースは仕方なしに追っていった……。

到着したルイズの部屋は十二畳ほどの大きさで、置いてある家具は高級そうな物ばかり。
ホル・ホースは「今度はおれの番だ」と言い、こっちに来た時の状況や元いた世界の事をルイズに説明した。
「それって本当?」
「誓って本当だぜ」
「信じられないわ。別の世界があるなんて聞いた事ないもの」
「おれだって聞いた事ねえ。だが事実だ。少なくとも月が二つ見える世界なんてのは知らねーぜ」
窓から空を見ながら言う。
「じゃあなんか証拠見せて」
「証拠だとォ?」
証拠と言われてもホル・ホースは今大した物を持っていない。
愛用のジッポと煙草、あとは金と腕時計。
ホル・ホースはとりあえずそれらを見せた。
「確かにハルケギニアのお金じゃあないみたいね……これは何?」
ルイズがジッポを手に取り尋ねてくる。
「それはな、こうするんだ」
キンッという心地よい音がして蓋が開く。そして点火。
「何これ、火系統の魔法を使ってるの?」
「魔法なんかじゃあねえ。技術だ。」
「魔法じゃないの? こっちのは時計? 随分と小さいけど……」
「ああ。高い金払って買った最新物だ。正確さは折り紙つきだぜ」
あの時のような事はごめんだからな、と心の中で呟く。
「これは何?」
「煙草もねーのかよ。これはこうすんだぜ」
煙草を一本加えライターで着火し、煙を吐き出す。
「ちょっと! これパイプ!? 部屋にニオイが付いちゃうから消して!」
「こんなとこ来てまで煙草消せと言われるとは思わなかったぜ……」
世知辛い世の中になったもんだ等と思いながら、渋々煙草を消した。

「まあ、とにかく信じてもらえたかい」
「まあいいわ。一応信じてあげる」
そうは言ってもルイズの表情を見るにまだ半信半疑といったところのようだ。
「そりゃありがてえ、それじゃ元の世界に帰してくれ」
「無理よ。あんたの世界とこっちの世界を繋ぐ呪文なんて聞いた事ないもの」
「俺を呼んだ魔法を使えばいいじゃねーか。あれであの鏡みたいのが開くんだろ?」
「『サモン・サーヴァント』は呼び出すだけの魔法よ。元の場所に帰す魔法なんてないわ」
「物は試しって奴だ。一回やってみりゃあいいじゃねーか」
「それも無理」
「なんでだ?」
「『サモン・サーヴァント』はね、使い魔が死なないと、もう一度は唱えられないの」
「なんだとお!?」
「死んでみる?」
小悪魔的な笑顔で尋ねるルイズ。かなりかわいいが、言ってる事はとんでもない。
「いや、遠慮しとくぜ……」

ホル・ホースは、はあ、と溜息をついて、なんとはなしに自分の左手を見つめた。
「それは私があんたのご主人様って印みたいなものよ」
「それでおれは使い魔、だったか? それって辞められねえのか?」
「辞めるなんてできないに決まってるでしょ! もう契約は済んじゃったんだから!」
「『契約』ってのはお互いの意思確認の元にするもんだぜ。あんな一方的なものを──」
「うるさいわねッ! 私だってあんたみたいなただの平民、使い魔にしたくなかったわ! でもしょうがないでしょ!」
ホル・ホースは再び溜息をついた。
「それじゃあ、その使い魔ってのは何をすりゃあいいんだ?」
「まず、主人の目となり耳となることね。でもこれは無理みたい。あんたが見てるもの、私には何にも見えないもの!」
「はぁ……」
「それから、主人の望むものを見つけてくるのよ。例えば秘薬とか。でもこれも無理ね! あんた、秘薬が何かなんて知らないでしょ?」
「ああ、そうだな」
ルイズは苛立たしそうに言葉を続けた。
「そして、これが一番重要なんだけど……使い魔は主人を守る存在なのよ! 
主人を敵から守るのが一番の役目! でもあんたじゃ無理ね……」
ホル・ホースは考える。たいていの人間相手ならば自分の『皇帝』でどうにかなるだろう。
しかしさっきの広場には竜らしきものまでいた。あれに勝てるかは微妙だ。
それに自分は「守り」に向いていない。単独で戦闘するのにも向いてない。大きなことは言わない方がいいだろう。
なので一言、「まあ、そうかもなあ」とだけ答えた。

「だから、あんたにも出来そうなことをやらせてあげる。掃除。洗濯。その他雑用。」
「それをこなすんなら、おれの衣食住くらいは保障してくれるのかい?」
「ええ、そうね。」
「そうか。なら使い魔ってのをやってもいーぜ」
「当然でしょ。しゃべってたら眠くなっちゃったから寝るわ」
ルイズはあくびを一つすると、ブラウスに手をかけ、ボタンを一つずつ外していく。
下着があらわになったになったところで、ホル・ホースから声がかかった。
「おいおいお嬢ちゃん、今日出会ったばかりの男の前で着替えるなんてえのは、よした方がいーぜ」
「男? 誰が? 使い魔に見られたってなんとも思わないわ」
いやそうじゃあなくて、無防備すぎて危ないぜ、という事なのだが、それを言うと話がこじれそうなのでやめておいた。
とりあえず後ろを向いておく。
「じゃあこれ、明日になったら洗濯しといて」
ぱさっ、ぱさっと飛んできた物を掴んで見ると、キャミソールとパンティであった。
「へいへい、りょーかい」
適当に答えるホル・ホースに「ちゃんとやりなさいよ」と声をかけ、ルイズはベッドに腰を落とす。

「で、おれはどこで寝りゃあいいんだ?」
ルイズは無言で床を指差した。
「だろうなあ」
そう言いホル・ホースは床にごろんと寝転がる。
これにルイズの方が困惑したような表情を見せる。
反発されると思っていたのだが、文句一つ言わずに従われてしまった。
元々多少は悪いかな、と思っていたのにそうされると、罪悪感というものが余計に湧いてくる。
「これ、使いなさい」
なので、そう言って毛布を投げ渡した。それが彼女なりの精一杯であった。
もっとも、ホル・ホースにしてみれば、女性を差し置いて自分だけがベッドで寝るなんて考えられないし
今日出会ったばかりの、それもまだ幼い少女といきなり同衾するなどということも考えられないからなのだが。
だがもらえる物はもらっておこう。そう思って毛布に包まった。

ルイズがパチンと指を鳴らすと明かりが落ちる。これも魔法か、便利なものだと思う。
明かりが落ちてしばらくすると少女の寝息が聞こえてきた。ルイズは早々と眠ってしまったようだ。

窓から見える二つの月を眺めつつ、ホル・ホースは考えていた。
突然異世界に来てしまった。帰る方法もわからない。だが何が何でも元の世界に帰りたいという理由はなかった。
元の世界では大した目標もなく世界を流離っていた。
こっちでだって今までと同じように、「仕事」をして金を稼いで、たまに女と遊べりゃあそれでいい。
その為にはとりあえずの生活基盤を作ることが必要だ。
そしてこっちの世界の地理や文字といった様々な事を学ばなければならない。
特に魔法については重要だ。この世界には魔法使いがいる。そいつらの多くは貴族だという。
自分の「仕事」の対象はお偉方が多い。こっちでも同じ事をするのならそれは変わらないだろう。
ならば魔法を知り、対策を取れるようにしなければ。幸運にもここは「学校」である。
色々と学ぶにはうってつけだ。
やる事が増えた。明日からの生活は大変そうだ。
そんな事を思いながら、ホル・ホースも眠りに落ちていった──

To Be Continued

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