• 家父長制の定義(56)

  • 男性の「家父長制的戦略」
男性が自己の利益を守る「家父長制的戦略」には二つある。第一は女性を賃労働から排除することであり、第二は女性の労働を男性の労働よりも低く位置づけ、女性をそこに封じこめておくことである。(59)

  • 広い意味での家父長制
非対称的な性と世代の変数の中で、男性・年長者に権威が配分されるようなシステムを、広い意味で家父長制と言う。(77)

  • 世代は互酬的で、性別は互酬的でない。
年少男性は、長老への奉仕を通じて貴重財を入手し、やがて自分じしんが長老の地位に上がっていく。ただ世代的な先後関係だけが年長者と年少者との搾取・被搾取関係を分けることになれば、一人の人間は、若い時は被搾取者、老いては搾取者であることを通じて、全体として、「一般的互酬性」を達成する。こういう互換性のある関係は、階級関係とは呼びにくい。
ところで女はどうか。女性の立場は男性と互換性がない。女は婚資を通じて「分配される側」であり、ふつう貴重財の所有者にはならない。貴重財へのアクセス権は、集団の男子成員の間で分配されており、婚資もまた、夫の男性親族から妻の男性親族へと移動するのであって、夫から妻へ贈られるわけではない。(81)

  • 再生産が生産に抵触するわけではない。
再生産が生産に抵触するという考え方の中には、人々がギリギリの生存ラインで総力を挙げて生産活動にいそしんでいる、という前提がある。「生産力水準の低い社会では」というこの前提は、事実上、石器時代の生産力水準にとどまっている「未開社会」が労働時間のわずかな「豊かな社会」であるという観察[Sahilins, 1974]によってくつがえされた。(85)

  • 家父長制の廃絶
したがってフェミニストの要求は、第一に再生産費用の両性間の不均等な分配を是正すること、第二に、世代間支配を終了させることにある。後者の点については、(1)再生産費用を子供自身の権利として自己所有させること(家族手当ではなく児童手当child allowance)の支給と、(2)老人が独立できるだけの老齢年金の支給と公共的な介護サービスの確保、の二点があげられる。
もちろんこれは第一に両性間の相互依存(その実女性の男性への依存)と第二に世代間の相互依存(その実子供の親に対する依存と、親による子供の搾取)とを断ち切る点で、「家族破壊的」な戦略である。というより、もっと正確に言えば、家族の性/世代間支配の物質的基盤を破壊し、家族の凝集力を、ただたんに心理的基盤の上にのみ置くための試みである。婚姻の基礎が女性の男性への(強制的な)経済依存の中にしかなく、親子関係の絆が子供に対する親の(強制的な)資源コントロール以外にない、と考えるもっとも家父長的な人々だけが、この戦略を「家族解体的」と呼んで非難することだろう。(106-7)

  • 子供はぜいたく品
成人した子供の経済価値と、彼らの老いた親に対する貢献の重要性を評価するフォルバーでさえ、かさみすぎる再生産費用から、ついには子供は一種の「ぜいたく品luxury」になったと指摘する。(108)

  • 狩猟採集社会は多産多死ではなく、そもそも受胎がすくない。
もっとも生産力水準の低いと考えられている狩猟採集社会で、人口の純再生産率はほぼ一・〇におさえられている。多産多死によってではなく、受胎率そのものが低いのだ。(231-2)
最終更新:2007年04月22日 14:22