ダミーリム方式のブレーキについてある程度の結論が出たのでまとめてみます。


ダミーリム方式のブレーキの問題点は大きく分けてブレーキロック問題と効きが悪いという2点に集約されると思います・・・というかブレーキなので問題っていうとコレくらいしかないんですが。
この手のブレーキが付いた車輌に乗る人は大体どちらかの問題、もしくは両方ともに悩まされています。
まずはブレーキの基本、リーディングとトレーリングについておさらいします。

回っているダミーリムにブレーキシューを押しあて、制動力を得る訳ですがダミーリムの回転方向に対してブレーキシューの支点から前側をリーディング、後ろ側をトレーリングと呼びます。
特性としてブレーキシューをリムに押し当てるとリーディング側はリムに食い込む方向に押す力が働き反対にトレーリング側は反発する方向に押す力が働きます。これは力学の基本ルールで、このようなリーディング側の食い込む力の作用をブレーキの世界では自己倍力作用、セルフサーボと言います。
食い込まないようにリーディング側を戻す機構が無いと簡単に食い込んでロックしてしまうのでこう云ったブレーキには必ずリーディング側を食い込まないように引っ張るリターンスプリングが付きます。
VMCCのブレーキブロックに付属するマニュアル。各リムブレーキのリーディングとトレーリングが記載されてます。
ブレーキシューの支点を中心に進行方向前側がリーディング、後ろ側がトレーリングとしつこく書いてみる。
ちなみに説明書ではトレーリングエッジ、リーディングエッジとか記載されていますが図の一番上はシュー全体がリーディング、上から2番目は全体がトレーリングになります。
どちらもブレーキシューの材質とリターンスプリングのバランスを相当うまく取らないと使い物にならない駄目なシステム。


それでは例えばトレーリング側のみのブレーキシューがあったとします。このシューをリムに押し当てるとどうなるでしょうか?
もしそのようなブレーキシステムがあったらブレーキシューが弾かれてしまい制動力がまともに発生しません。
それでは何故必要のないトレーリング側があるのでしょうか?
それは上り坂などでダミーリムの回転方向が反対になった時の為です。
上り坂などで停止すると進行方向とは逆側にダミーリムが回ろうとするのでそれまではリーディングだったシューが完全に逆転してトレーリングになってしまいます。
もし進行方向に対してリーディング側のみしかないブレーキの場合、反発する力を抑え込むだけの無駄な力が必要になり、上り坂の停止時等に普通にブレーキを踏んでもまともな制動力が得られなくなります。
以上の事からダミーリムにブレーキシューが食い込む主な原因はブレーキシューのリーディング側セルフサーボ能力よりも強いリターンスプリングが付いていないから、と言う事になります。
ブレーキを使っているうちにリムとシューの当たり面が変化して使い込むほどに食い込む力は大きくなっていく傾向が有ると思うので新品では大丈夫でも使いこんだらロックした、なんて言う事も起こりえるでしょう。
参考までに使っていくうちにロックするような場合、直前にゴツッ、ゴツッと小さなロックが発生するようになるのでそうなったらなるべく早い段階で対策してください。近い内にロックします。
そうならないように使い込んだ時の事まで見越した強いばねは対ブレーキロックには必須かと思われます。
1914年Douglasのリアブレーキ。上にあるVMCCブレーキブロックの説明書の一番上の図の実物です。
リーディング側のみな上に折れ曲がったブレーキロッドなど駄目っぷり全開です。
恐らく直進方向にはそれなりの制動力が得られてもリムが逆回転になる上り坂での停止時では思いっきりブレーキペダルを踏まないと止まらない筈です。


次はもうひとつのテーマである効き目を上げる事に付いて。
リムブレーキの殆んどはあまり厚くない鉄板をU字状に成型したものなので剛性はその後のドラムブレーキに比べて格段に弱いのが普通です。
したがってドラムブレーキに使用するような摩擦材をブレーキのブレートに貼ってリムに押し当ててもリムが変形して力が逃げてしまいブレーキの効きが相当甘くなります。
逆に東急ハンズにおいてあるような固めのゴムブロックを切り出して使う場合、ゴム側が変形して非常に効き目は良いのですが減り方が尋常ではないので使い物になりません。
色々試してみましたがVMCCにおいてあるブレーキブロックがやはり効き目と減りのバランスが良いと思います。

もうひとつブレーキの効きを上げるためにはレバー比についても正しい知識が必要です。が知識とか言っても大したことはなく、小学校で習ったテコのお話です。
日常何気なく握っているレバーは全てテコです。テコについて忘れてしまった人はココでググって基本をしっかり頭に叩き込んでください。
でレバーが取り付けられているネジの部分が支点、手で握っている部分が力点、ワイヤーのタイコが付いている所が作用点になります。
つまり引っ張る対象物をより強い力で引っ張りたければ支点から作用点の距離を縮めるかレバーの握る位置を少しでも遠い位置で握ってあげれば良い訳です。
こうするとブレーキシューの移動量が減る形になりますが極端でなければ調整で実用上問題無くなる事が殆んどです。
こう云った理屈をエネルギー保存の法則と言って力学上の大原則になります。より簡単に言えばレバーを握って与えられたエネルギー量は変化しないという事です。実際には摩擦や各種抵抗によって目減りしますが。
つまりレバーを握った力をテコ(レバー)を使ってより多くブレーキシューの移動量に変換すれば押し当てる圧力が減り、逆にブレーキシューの移動量を減らせば押し当てる力が増えるという事です。

残念ながら古いモーターサイクルでは元々レバー比が適正とは言い難い物、純正のレバー比と違う物と交換してしまった物、本来のブレーキシューの材質と違う等の理由で単純にレバー比が適正ではない事も多く見られます。
レバーの遠い位置を握るにはレバー自体の長さも有って中々難しいので支点と作用点の距離、つまりレバーの取り付けネジとワイヤーもしくはロッドの取り付けの距離を縮めるのが現実的となります。
外付けレバーの場合ならばより支点と作用点の近いレバー(つまりタイコとレバーの取り付けネジの距離がより近いレバー)に交換するか自分で近い位置に穴をあけ直せば良いですがインバーテッドレバー(ハンドルエンドから生えているレバー)の場合は形状的にコレも難しいです。
そういった場合は対象物のテコ比を変える事で対応します。つまりブレーキプレートから生えているアームの長さをより長くすれば良い訳です。
握る方のレバーもテコですが引っ張られているブレーキシューのアームもこれまたテコです。レバー側と同じ様に引っ張っているロッドをより長くしてあげればテコ比が変わります。
同じ入力エネルギーでより多くアームを移動させる事になり同じ入力エネルギーが以前より多く圧力に変わるので、より強くブレーキシューを押す形にできます。
レバー側を改造出来ない場合はこちらの方がより現実的な対策でしょう。どちらにしろ色々と面倒ですが。


以上の理屈から安全にリムブレーキを効かせる条件をまとめると、

1 リーディング側が食い込まないようにする為にリターンスプリングはしっかりとしたものを使用。場合によっては追加する。
まともに走っていなかった車輌はリターンスプリングが弱い物が多いです。Vintage期のTriumphのようにしっかりした新品が手に入る場合は新品に、手に入らなければスプリング屋で特注(付いていた現物を渡して何割程度固い物、みたいな指定で十分です)してしっかりしたものを使用する。

2 適度な硬度のブレーキシューを利用する。
恐らく大抵のダミーリムブレーキシステムではVMCCで売っているブレーキブロックがベターかと思います。もっと良い材料があれば教えてください。

3 ブレーキブロックはしっかりベースプレートに固定する。
柔らかい材料を使う場合はブレーキプレートにしっかり固定されているか注意、特にVintageTriumphとVMCCブレーキブロックの組み合わせでは明らかに固定不足。リーディング側が曲がって食い込む危険性アリ。

4 リーディング側の当たり面を増やす
リーディング側の当たり面が少ない場合はベースプレートを自作して増やす、ブレーキシューの支点の位置を変えてリーディング側を増やすと効きが上がる筈です。
ただし食い込みやすくなると思われるのでリターンスプリングの強さもしっかり調整。

5 場合によってはテコ比を変更する。
最終手段。以上の対策をしても尚効きが悪いのならばレバー比変更も仕方なしかと思います。一枚板からより長いブレーキアーム削りだしとか。


結局私のSDで行ったのは1から3番までで、VintageTriumphに関しては純正のレバー比とシューの面積で十分適正のようです。
ゴムブロックを用いているのであまり激しく使わないように考えてブレーキを使っていますが効きは十分、耐久性に関しても見るたびに形状が変化していますが最低でも3000から4000キロは持ちそうです。
ブレーキシステムとしてはあまり関心出来ないダミーリムブレーキですがしっかり対策すれば十分現代でも使い物になるというのが今の感想。
同方式のブレーキでお悩みの方は参考までに。あまり持て余しているようならその英国車お引き取りします。安価で・・・。

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最終更新:2010年11月13日 23:20