What is DS?

回折spectroscopyについて

Reviewの頁も参照してください。

What is Diffraction Spectroscopy?

新しい視点

  • 分析化学の教科書を広げるとまず「定性分析」「定量分析」といった言葉が出てきます。「物質の成り立ち(組成)」を化学の立場から調べるときには、砕いて様々な試薬との反応性を見たり、成分に分け秤量したり、といった破壊分析というアプローチが重要になります。他方、「物質の振る舞い(物性)」を物理の立場から調べるときには、光や電磁場を当て、応答を調べる非破壊分析が有効になります。
  • こうした非破壊分析の手法は大きく「分光法」「顕微法」「回折法」「時間分解測定法」に分類することができます。検出器の改良が重ねられ、「エネルギー分解能」「空間分解能」「角度分解能」「時間分解能」が大幅に向上してきました。さらにこれら4要素を組み合わせることで、新しい視点からの手法が誕生します。
  • これまで「時間分解分光法」や「顕微分光法」が盛んに行われてきました。「時間分解顕微法」も登場しています。それに対し「回折法」と他の組合せは少数派です。「回折法」的測定は往々にして時間がかかるからです。
  • 光を固体表面や分子に当てて飛び出す電子を分析する「光電子分光法」は物性を決定する電子状態を直接観察するのに有力な手法のひとつです。
  • 他方、電子回折法は元素選択的な原子構造解析法として多くの研究があります。
  • 両者をうまく組み合わせることによって原子一つ一つの電子状態を解き明かすような手法ができないものか、と手探りで進めているのがこの「回折スペクトロスコピー」です。
  • 第三世代放射光施設の登場で高エネルギー分解能・微小ビーム・パルス・可変偏光という特徴ある光を手にすることのできるようになりました。各地で「顕微法・分光法・時分割測定」を組み合わせた新手法による研究計画が進められています。「回折スペクトロスコピー」の展開にはマルチチャンネル高速検出がブレークスルーとなります。

ねらい

  • 「回折スペクトロスコピー」の研究の独自性は、光照射された試料からあらゆる方向に放出される信号を余すところなく拾い集める検出器を用い、先端分光を展開する点です。
  • 具体的にはこれまで光電子・Auger電子回折とX線光電子分光・X線吸収分光法を組合せ、磁性薄膜や超伝導体表面のサイト選択的・原子層分解の電子状態や磁気構造を解析してきました。
  • また単一エネルギー電子ホログラフィの解析アルゴリズムの開発も進めています。
  • 一度に回折"snap"パターンが測定できる特徴を活かし、2D focused beam scanによる微結晶・不均一系構造解析や時間・温度依存性測定による反応・相転移ダイナミクス追跡を狙っていきます。
  • 電子状態や磁気構造の原子サイト選択的・立体的解析がキーワードとなります。
  • 力を最大限発揮できる対象は結晶・配向性試料です。
  • 遷移行列要素の解析や遷移過程の偏光依存性から直接アクセスできる「原子軌道」の情報はユニークです。そこから新しい物理に結びつく道を探っていきます。
  • 手法開発とその応用による物性研究の「二本足の研究」です。

手法

  • 詳細を順々に説明していくことにしましょう。以下に関連する手法と対象をリストします。
Photoelectron spectroscopy / diffraction / holography
Auger electron diffraction / holography
X-ray absorption spectroscopy
Low energy electron diffraction
Reflection high energy electron diffraction

研究対象

atomic and electronic structure of surfaces
chemical reaction on the surfaces
low dimensional systems
etc.

  • 以前まとめた「二次元光電子分光メモ」の序文を
    再掲しました。再構築を考えています。
+ ...

◆はしがき

光電子分光の今

光電子分光は、光を使って固体内部の電子が持つ情報を引き出す強力な手法である。発端は100年以上も前のHertzの光電効果を示唆する実験やEinsteinの光量子仮説まで遡る。時代は下って、光電子分光が信頼できる固体の電子状態と原子構造の解析手法となった基礎に、ここ数十年来の真空技術の進展や放射光をはじめとする新しい光源の開発があげられる。その結果として今日の日進月歩の物質科学を支える重要な役割を期待されるにいたっている。

今や高エネルギー分解能、高角度分解能の測定が市販の装置で容易に行える時代、これまで見えなかったものが「見えすぎる」くらいになってきた。今までの荒い近似の妥当性が常に疑われるようになってきていて、むしろ基本に立ち返ることの重要さが増している。

先のHertzの話であるが、電磁気学と量子力学の両体系の形成過程の歴史はやはり面白い。Hertzの電磁波の検証実験(1887)はMaxwellが電磁波論(1873)の形成過程の延長線上にあったが、前提とされた波動の媒体「エーテル」の存在はEinsteinの特殊相対性論(1905)の確立によって最終的に否定された。こうした科学真理探究の論争を現代に置き換えてみると、また励まされる思いである。独自に工夫した装置・手法で膠着していた論争の解決の鍵を見つけていく作業に物性科学の醍醐味がある。その過程でまだ誰も気づいていなかった新しい普遍的な物理法則に出会うことをいつも夢見ている。

本稿の目指すところ

さて、弁証法の命題のひとつに「量から質への転換」があげられる。放出された光電子を、とある方向で捉え分光するのが従来の光電子分光である。それに対し、放出された光電子を二次元的にすべての方向で分析するのが本稿の中心テーマである「二次元光電子分光」、ということになる。上記の高エネルギー分解能、高角度分解能化の流れを少々挑戦的に「木を詳しく見る」視点とよぶのならば、我々の「二次元光電子分光」はそれとは対照的な「まず木は置いといて森を見よう」路線、と特徴付けられる。多次元的なデータ量を扱うことで一気に得られる情報の質が豊かになることを本稿でみていきたい。

最近ようやく我々も「木も見よう」という段階にたどり着いた。この流れに身をおいていて面白いことは、「木を詳しく見る」路線で議論されてきた物理を
「全体像:森」として捉える視点から考えることができる点である。先の「木を詳しく見る」視点も行き着くところは「木を見て森も見る」ではないだろうか。

光電子分光の教科書といえばS. H{\ddot {\rm u}}fnerの名著``Photoelectron Spectroscopy"や「固体物理」に連載された高橋隆先生の「固体光物性」が挙げられる。しかし、実際の実験や解析で直ちに必要となるが、原典に当たっても多少の手計算や読み込みが必要となる事項がある。当初の目的はそうした普段用いる各種公式集の作成であった。書き溜めたものを並べてみると、過去に自分が別個に行ってきたX線の吸収分光法や回折法が光電子分光法と面白いように結びついてくる、という実感がある。弁証法のもうひとつの命題「螺旋的発展」である。光電子分光「概論」というのにはまだまだ穴だらけであるけれども、そのうちに表題をそのように変更できるように、気長に整理して記述を続けていきたい。

構成

まず光電子分光の概要を1章で述べ、光電子励起過程(Fermiの黄金則など)について2章で整理した。続く3、4章で内殻、価電子それぞれの励起過程について記述した。5章にて光電子分光の実験的基礎について、締めくくりとして6章にて二次元光電子分光の測定例を紹介した。いくつかの基礎事項は付録にまわした。始状態には球面調和関数を用いた原子軌道とtight binding近似、励起
過程には双極子近似、終状態には自由電子モデルを仮定して単純化している。
実際の系ではこれらの近似を見直す必要が出てくる。まだまだ、これから書き足していかなければならない部分が多い。このメモの今後の展開として以下の問題を考えている:
  • 終状態効果と伝導体
  • 多電子励起
  • スペクトル関数、準粒子とFermi面の決定
  • 温度、振動、Debye-Waller因子
  • 共鳴光電子分光、スピン分解光電子分光 などなど

表記について

座標系の定義や物理量の表記法の統一は今回「メモ」をまとめるに当たって、
苦労している点である。以下に示すのはその統一の当面の指針である。
  • エネルギーと運動量
光子のエネルギーはh\nu、運動量は{\bf k}_{\bf photon}とする。電子の運動量には{\bf k}を用いたが、始状態の電子と終状態の光電子の運動量を区別するときはそれぞれ{\bf q}{\bf k}とした。
  • 演算子など
スカラー量と区別するためには演算子には\hat {A}を付した。
{\bf Bold}体はベクトル、あるいはマトリックスを表わす。
変数(n,l,m\cdots)、定数(c,e,\hbar\cdots)に斜体を
用いる。
自然数の指数付けとして量子数にnlm、軸や方位の表記にabchkl、$xyz$を
用いた。

物質名詞(Ag、spin、photon)や固有名詞(例えば原子AとBなど)、それに形容詞(effective、groundなど)に属するものは
添え字でもroman体を用いるが、
軌道の名称spdは斜体を用いた。
物質名詞でも電子はeと斜体にし、自然対数の表記{\rm e}^xと区別した。
eは素電荷量という意味も兼ねている。
また電場ベクトルは${\bf e}$、$\epsilon$は誘電率に用いた。
iは始状態を意味するのにたいし、$i$は虚数単位を示す。
${\bf i}_{r}$は単位ベクトル${\bf r}/r$を表す。
  • 単位
単位は基本的にはMKSA系に従うが、波数の単位は[{\rm \AA}^{-1}]を用いる。
roman体(eV, {\rm \AA})で表記する。
  • 座標系
斜体(x,y,z,R,\theta,\phi)で表記する。
右手の直交座標系と極座標系を併用する。
(親指がx軸)
表面法線方向、光の進行方向、量子化軸などを$z$軸とする。
  • 固有名詞など
人名についてはローマ字表記とする。
漢字文化圏の場合も論文などで原典があたれる場合はローマ字とした。
  • 有効数字
サブmeV領域の高エネルギー分解能の光電子分光が話題になる時代である。
励起エネルギーを数10 eVとすると10^{-4}から10^{-5}の桁の差を扱う。
その場合、有効数字も5-6桁は必要となってくる。
本稿で取扱うのは現時点で10 meVあたりまで。
有効数字は概ね4-5桁とした。
  • 微小量と微分
\Deltaを付した変数は相対量である。
化学シフトや前方散乱ピーク位置の回転シフト、
誤差や分解能、遷移の際の変化量もこれに含まれる。
微小量を表すときにはKroneckerのそれと混同しない限り、\deltaを変数に付す。
ただし、位相シフトは慣習に従って\delta_{l}記号を使い、下付の指数で区別した。
摂動にはH^{\prime}というように\primeを付した。
{\rm d}x\partial xは微分・偏微分の演算子である。

参考文献

膨大な量の論文・文献を参考にした。
現段階ではリストは不完全であるが、
おって充実させる。
数表を何点か引用している。
文書公開の際にはデータ転載について考えていこう。

原稿作成について

LaTeX2\varepsilon を用いて文書を作成した。
図は主にPOV-Rayを、グラフはOriginを用いて作成し、GIMPにて加工した。
第一原理計算にはWIEN2kのコードを用いている。
\vfil
\begin{figure}
\begin{center}
\includegraphics[width=8cm,keepaspectratio]{P1/chap1_F-mirror.eps}
\end{center}
%\caption{
(a)東大寺正倉院に収められた平螺鈿鏡と(b)Si(001)表面からの$2p$の光電子回折パターン。
%}
\label{Mirror}
\end{figure}

二次元光電子分光へのいざない

ここでは一つ綺麗なデータを紹介しよう。
上図は
正倉院に納められている
古代の鏡の背面の装飾で、たまたま2005年度秋の出展会で出会ったものである。
半透明の螺鈿を四回対称に配置し模様を形成している。
特に埋め込まれた螺鈿界面に彫り物を施すなど高度な技術が見られるのが驚きである。
同じ時期にSPring-8にてsiliconの表面からの光電子回折パターンを測定していた。
右はSi(001)表面のSi 2$p$光電子回折パターンである。
前方散乱や回折強度が作る模様が偶然の一致を示していて面白い。
さて古の工芸師らはこのパターンを見ることができたのならば、どんな感想を持つであろうか。

連絡先

今後、研究の進展にあわせて更新していく(internet上にて公開)。
本稿には誤植や誤った記述が多く存在する、と思う。
皆さんのコメントを頼りによりよいものにしていきたい。
連絡は下記の宛先までよろしくお願いします。


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最終更新:2008年05月10日 12:03