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今年のバレンタインは日曜日という事で沙織と黒猫が遊びに来た。
二人の女の子が家までチョコを届けに来てくれるなんて何て俺は幸せ者なんだろうな。
そういや、桐乃も昨日の晩に手作りチョコの制作に奮闘していたな、前日に麻奈実からもらった分も合わせると今年は4個も貰えるのか。
しばらく人生最多チョコ獲得記録更新の夢に浸っていると、桐乃と沙織がお互いと黒猫にチョコを配り始めて居た。
「て、おい俺の分は無いの?」
「はぁ、てかあんたそもそも何でここに居るの?あんたは呼んだ覚えないんだけど」
うわー、バレンタインなのに妹にここまで邪見にされるなんて……。
普通、バレインタインには「お兄ちゃんどうせ今年もチョコ0だったんでしょ、これあげるからありがたく食べなさいよ」的なイベントが起こるはずだろ!?

「京介氏、心の声がダダ漏れですぞ」
おっといけねぇ、エロゲのやり過ぎか……最近妹物エロゲばっかりやってるからすっかり洗脳されかけてたぜ。
「キモっ」
桐乃の目がいつも以上に冷たい。

「まあまあ、きりりん氏。意地悪もこのくらいにして置くでござる、本当は京介お兄様の分も用意してあるのでござろう?」
「え?そんなの無いけど?」
「うわっ、即答しやがった!」
今年は本当に貰えないのか……。

「そう言えば、黒猫は持って来てないのか?お前料理とか得意そうなのに」
「ええまあ、持ってきては居るのだけれど……」
いつも自信満々の黒猫にしては妙に歯切れが悪いな。
「何だ失敗でもしたのか。見かけが悪いくらい気にしないから持ってきたのなら出してくれよ、俺も黒猫のチョコ食べたいな」

「ほ、本当に見かけが悪くてもちゃんと食べてくれるのかしら?前言撤回は認めないわよ」
「ああ、もちろんだ。黒猫が愛情込めて作ったチョコが不味いわけないしな」
「ふ、ふん。私の手料理をまだ食べたことないくせに良く言えたものね」
そう言う黒猫は照れたのか少し顔が赤くなってるぞ。
「なら貴方に一番最初に食べる事を許可するわ、光栄に思う事ね」
そう言うと黒猫は持ってきたカバンから丁寧にラッピングされたチョコの箱を取り出す。
なんだ、ちゃんと用意してあるんじゃないか。さてと、中身の方はと……。
「うおっ!なんじゃこりゃ!?」
箱の中身の正体が咄嗟に判別出来ず、黒猫の意図を理解しようと顔を上げると黒猫の奴ニヤリとした嘲笑を浮かべてやがる。
「先程も言ったけれど、前言撤回は認めないわよ。さあ、じっくり味わいなさい」
引っ掛かったなと言わんばかりの見事な悪役面をしてやがる。
「いや、でもこれは……」

「何どうしたの?どんな不細工チョコだったの?」
「京介氏、食べる前に拙者にも是非拝ませて頂きたいでござる」
あまりの俺の狼狽ぶりに桐乃と沙織が興味津々という感じで俺の手元にあるチョコを覗き込みに来た。
「げっ!糞猫!あんたなんて物持って来てるのよ!!?」
「これは実に造形深い……」
俺たちは三者三様の感想を述べた

「失礼ね、れっきとしたチョコじゃない」
確かに立派な形をしているが、これは……どう見てもカブトムシだった。
しかも、足の形とか妙にリアルだぞ。これは素人に作れる様な代物じゃない魂篭ってる。
「あー、思い出したでござる。少し前にネットに話題になっていた昆虫グミというキットで作ったのでござるな」
「あら、バレてしまった様ね。この日の為に買っておいたのよ」
なんでも沙織が言うには、子供向けのおもちゃで昆虫そっくりのお菓子が作れるキットが売られているらしい。
詳しくは昆虫グミでぐぐってくれ。一応注意しておくが、虫がダメな奴とご飯時には開くなよ

「私は食べてないのだけれど、材料は普通のチョコよ安心しなさい」
「食べてないのかよ!」
つい反射で突っ込んじまったぜ。
いや、いくら材料がチョコだと分かっていてもこれを口に入れるのは躊躇する。
だが、形が悪くても食べると言ってしまった手前やっぱり無理でしたなんて口が裂けても言えない。
「ええい!どうにでもなれ!」
俺は目を瞑ってカブトムシの恐らく頭の方から齧り付いた。
角部分が舌に触れた時は悪寒がしたが……。
「ん?味は普通にチョコだな」
手に持ったカブトブシの胴体部分を見ると危うく吐き出しそうになるが、味はむしろ美味いと言って良い。

「うげー。あんたよくそんなの食べられるね」
桐乃が感心したというか呆れたというか汚らわしい物を見る目で、皆から5歩ほど離れた位置からそんな感想を漏らした。
「あら、貴方達の分もあるのだけれど、まさかデカ女のチョコは受け取ってこの私のは受け取らないなどど言い出さないわよね」
流石、黒猫黒い……。名前に黒が付いている事だけはある。
「そうですぞ、きりりん氏。我らは親友同士ではござらんか、せっかく黒猫氏が丹精込めて作った代物ですし受け取って差し上げましょう?」
沙織はガンプラ好きなだけあって虫にも耐性があるのか。

沙織の説得の甲斐もあって桐乃と沙織も黒猫のチョコを受け取った。
というか沙織はさっそく封を解き始めた。
「お、拙者のはカブトでは無くダンゴムシだったでござる。食べやすい手頃な大きさにしてくれるとは黒猫氏は気が利きますな」
型はカブトムシだけじゃなかったのかよ!こっちは足がいっぱいあったり丸まってるのまでありやがる。
「ふ、せっかくだから3人分別の形にしておいたのよ」
と言う事は桐乃のは何が入ってるんだ?と思って桐乃を見ると受け取った未開封の箱を見つめながら苦笑いをしていた。
「どうしたんだ開けないのか?」
3種類あると聞いては最後の一つが何なのか正直気になるので、包装を取ってやろうと手を伸ばすと。
「い、嫌!開けたくない!」
桐乃は受け取ったのは良いものの封を切るのにはまだ拒絶していた。
「きりりん氏、意外といけるでござるよこのチョコ」
沙織は既にダンゴムシチョコを食べ始めていた、よくこれを躊躇なく食えるな尊敬するわ。
とは言え、桐乃や黒猫みたいな変わり者だらけのコミュニティのリーダーを務めるにはそれくらいの器の広さが無いと駄目なのかもな。

「私達の仲は所詮そんな物だったのね。貴方は友達もそのチョコの様に開けずに捨てるんでしょう」
黒猫の言葉攻撃えげつねー。これは口論じゃ敵う気がしないな。
「なっ、そんなわけないじゃん。何さこんな箱の一つや二つ」
やっと開ける気になった桐乃の持つ箱の中身が御開帳されたー。
「ひぃっ!!」
箱を少しだけ開いて中を覗き込んだ桐乃が箱を放り投げた。が、丁度目の前に居た俺が慌ててキャッチした。
「何やってんだよ桐乃、食べ物は粗末にしちゃダメだぞ」
そう言って俺の手の内にある箱をせっかくだから開けてみた。
「うおっ!なんじゃこりゃ!?」
つい1回目のカブトムシと同じリアクションしちまったぜ。
「どれどれ、ほほーぅこれは中々」
と言って沙織も興味津々という顔で箱の中身を覗き込んだ。
問題の中身は芋虫だった。芋虫ていうかカブトムシの幼虫か?
ホワイトチョコで出来てるのかクリーム色で、色と良い形と良い完全に本物と瓜二つだった。
頭の黒い部分と体下部の斑点が色分けされていたり三つの中で一番気合入ってる。

「もう開けたんだから良いでしょ、早くそれ仕舞ってよ」
桐乃はあんまりショックだったのかソファーの影まで逃げて頭だけ出してこっちを見ていた。
「他の二人は食べてくれたのに貴方は食べないのかしら薄情な人間ね、スイーツ(笑)の癖に」
最後のスイーツの癖にの部分の嘲笑は実にキマってた。こいつ役者やれるんじゃねーの?
「嫌!それだけは勘弁して!無理だからムリムリ」
桐乃はもう完全に涙目だった。だが、不覚にも桐乃のこんな顔も可愛いと思ってしまった。
だからなのか、悪戯心がくすぐられ芋虫チョコの箱を持ちながらこう口走っていた。
「沙織、桐乃を押さえろ。無理やり食べさせる」
「合点承知でござるよ、ニンニン」
沙織の奴も完全にノリノリである。
大柄な沙織の手により簡単に後ろから羽交い絞めにされてしまった桐乃はそれでも口を固く閉じイヤイヤの動作をする。
が、それが余計に俺のS心に火をつける。
「ハッハッハッ、観念するんだな。一度入れちまえば楽になるぜ」
我ながらすっかり悪役の台詞である。
「そうでござる、こんなに甘美な味わいは他にないでござるよ」
「お願いだからやめて!何でもするから!」
何でもと聞いて一瞬エロい妄想が広がりそうになったが、それを必死に振り払い一度開かれた桐乃の口をアゴを掴んでロックする。
「あがっふぐっ」
桐乃は口を無理やり開かされ、はじめてのはいしゃさんのドリルに泣き喚く子供の様な顔になっている。
「待ってろよ、今入れてやるからな。ほらしっかりお口で味わいな」
そう言って芋虫型チョコを桐乃の口に無理やり押し込む。
「ひぎぃぃ!」
叫んだ瞬間に口を閉じ芋虫が桐乃の口の中で踊る。
桐乃の顔は、すっかり涙でくしゃくしゃになっているが、虫だけに無視出来ない芋虫の味が口の中に広がる。
「うぅぅぅぅー!あぁぁぁあぁぁ……あへ?」
俺がアゴを抑えているので吐き出せない事を悟ったのか咀嚼し始めた桐乃の表情が点になる。
「どうした?どんな味がするんだ?」
「甘い……すっごい甘い」

「涙を流して喜んでくれる何て、私も作った甲斐があったわ」
と言いながら黒猫は吹き出しそうな顔をしていた。こいつのこんな顔初めて見たかもな。
たまにはこんな騒がしいバレンタインも悪くねえ、結局桐乃からはチョコ貰えなかったがな。

黒猫達が帰って夕飯時後に自室に戻るとノックの音がした。
なんだ?桐乃か?あいつがノックするなんて珍しいな。
と思ってドアを開けると泣き腫らした顔の桐乃が手を後ろに回して何故かもじもししていた。
「なんだ桐乃か、チョコ無理やり食べさせたのを怒ってんの?仕返しか!?」
「ち、違う!ち、チョコはチョコだけどッ!あの二人が居るときに渡すのは恥ずかしかったから……」
ん?なんだ俺にチョコくれるって言うのか?なんだ桐乃癖に妙な気使いやがって。
赤くなった顔と相まって妙に色っぽかった。
「はい!じゃ、もう寝るからおやすみ!」
そう言って半ば押し付ける様にチョコを俺に手渡し桐乃は背を向けた。
「おう、サンキューな」
俺が桐乃の背中に声をかけると、桐乃は振り向いてー。
「あと、次今日みたいな事したらあやせに言い付けるからね!」
親や警察じゃない所が可愛いが、その二つよりよっぽどあやせのが恐ろしい。
「ああ、もう嫌がるのを無理やりこじ開けてぶち込んだりしねーよ」
「ハァ?ちょっと言い方が変態っぽいんですけどー、やっぱりそのチョコ返して」
「やだよ、貰ったもんは俺のもんだ」
「ふん、勝手にすれば!」
そう言ってドアを思い切り閉めて、桐乃は自室に引き返して行った。

「ふう、それじゃあせっかく貰ったんだし開けてみるか」
そう思い箱を開けると。
「うおっ!桐乃の奴!」
手のひらサイズのハート型チョコの横に例の芋虫型のチョコが虫食いの様に横たわっていた。
ハート型のチョコの方だけを少し齧ってみると、ほど良い甘さとほろ苦さが心地良かった。




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最終更新:2010年02月22日 12:35
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