俺の幼馴染がこんなに不人気なわけがない01



俺の幼馴染がこんなに不人気なわけがない

最近のきょうちゃんの様子がどこかおかしいのは気付いていた。
小さな変化は結構前からあって、ちょうど一年前ぐらいからだった気がする。妹の桐乃ちゃんに『人生相談』を持ちかけられて、それを解決しているうちに少し険悪だった兄妹仲が改善されたらしい。
それ以来どことなくきょうちゃんはいろんな人に優しくなった気がする。元からお節介焼きで優しかったけど、それがさらに二割から三割増しぐらいで優しくなった。
それと「お兄ちゃん」って呼ばれてみたいらしい。三年生に進級する少し前ぐらいにきょうちゃんの家で、ぱそこんの画面に映っていた可愛らしい女の子の絵にもそう呼ばせていた。きょうちゃんは全力で否定してたけど、これも兄妹仲が良くなった影響なんだろうなぁ。
桐乃ちゃんがアメリカに行ってからは、きょうちゃんは「気にしてねぇよ。むしろせいせいすらぁ」と強がりを言っていたけれど、やはり少し元気を無くしてしまっていた。
こういうときこそ幼馴染の私が少しでもきょうちゃんの心の穴を埋めれれば良いのになぁ……と、あのとき私はそんなことを考えていた。
でも、その役目は、どうやら素敵な先約がいたらしい。いんたーねっとで知り合ったお友達で、同じ高校の後輩となった黒猫さん(本名は五更さんというらしい)にスポットライトは当てられた。


それから数ヶ月、私が気付いた時にはいろんなことが変わっていた。
きょうちゃんは三年生という時期になったというのに部活に入ったそうだ。
黒猫さんと同じ部活動で、げーむ研究会だそうだ。機械が苦手な私には全く何をするのか想像出来ないが、ときおり聞かされる話によると何やら大変面白いらしい。
その代わり、私ときょうちゃんがいっしょに下校する回数は減ってしまった。
放課後は部活動だけでなく、黒猫さんの掃除のお手伝いをしてあげたこともあった。
どうも黒猫さんがクラスで打ち解けていないらしくそれが心配なようだ。私も心配だったので黒猫さんのために手伝ってあげた。
その代わり、私がきょうちゃんに図書館で勉強を教える回数は減ってしまった。
休日も黒猫さんとよく会っているらしい。げーむを作って、それをお披露目する発表会があるため、そのげーむのでばっくという作業をやっていたとのこと。
きょうちゃんは休日返上でお節介を焼いていて、やっぱり優しいなぁと思った。
その代わり、私の家にきょうちゃんが遊びに来る回数は減ってしまった。
黒猫さんと遊んでいるときょうちゃんは本当に楽しそうな顔をしている。私にもたまに微笑みかけてくれるけど、それとはどこか違う心底楽しそうな笑いを黒猫さんには見せている。
私は幼馴染。だからきょうちゃんの隣に私が居るのは当たり前の日常のこと。
黒猫さんは……。
これは多分、きょうちゃんの隣に黒猫さんが居るのは特別な非日常のことなのだ。
きょうちゃんにとって私の存在は普通であって、決して特別な存在ではない。
ここ数ヶ月ばかり、そのことをひしひしと我が身に感じていた。


隣に居ると安心して、とっても地味で、気を置かないで話ができる幼馴染の女の子。
それが私の限界なんだと。きょうちゃんの中で存在する私の限界なんだと。
そんなことを考え感じていたここ最近であったが、ついに私は私の限界を現実に突きつけられる光景をこの目で見てしまった。
忘れもしないあの日の校舎裏。時刻は三時半だった。
アメリカに居る桐乃ちゃんから来ためーるを見てから、どこか顔色が悪くなって、
私の携帯電話を借りてあやせちゃんに電話をした後に、「ヤボ用ができた」と言って一人で学校へと戻っていったきょうちゃん。
私はそのまま家に帰ろうと思ってたけど、どうしてもきょうちゃんが気になってしまった。めーるを見たあとに垣間見たきょうちゃんは、どうにもただならぬ様子だったからだ。
私はきょうちゃんの後を追って学校に着き、下駄箱にきょうちゃんの靴がないのを見て屋外に居るのだろうと思いきょろきょろと校舎外を探し続け、校舎裏できょうちゃんともう一人の人影が見えた。
もう一人の人影が黒猫さんであることがわかるぐらいまで近づいたそのとき、私はまるで鈍器で頭を殴られたかのような衝撃を受けた。
好奇心から後をつけようなどという卑しい気持ちは無く、ただ純粋に心配で追いかけていっただけなのに。
好奇心から隠れて覗こうなどという卑しい気持ちは無く、ただ偶然にもその光景を見てしまっただけなのに。
きょうちゃんのピンチに私が颯爽と現れて助けてあげれば、今までみたいに私の相手をもっとしてくれるようになるかもしれないなどという卑しい気持ちは無く、ただ、ただ、ただ。
本当に、ただ本当に、きょうちゃんの助けになりたかっただけなのに。

私の見間違いで無ければ、黒猫さんはきょうちゃんの頬に背伸びして口付けをしていた。

このっ……、このっ……、このっ………………! 泥棒猫ぉッ……!!
こんな汚い言葉を、今すぐに叫んでしまいたいほどの衝動に私は駆られ、それでも何とかその衝動を押さえつけ私はその場から駆け足で立ち去っていた。




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最終更新:2010年02月22日 23:49
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