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4巻2章 桐乃視点 地味子訪問前



「チッ。おっそいな~何やってんのよあいつは」
リビングのソファに深々と腰掛けて、あたしは兄貴がなかなか戻ってこないことにイライラきていた。
朝、お母さんが出かけるとき玄関の方で声がしたから少しあせったけど、
『あら、京介? あんたもどっかでかけんの?』
『いや、ちょっと買いもんいってくるだけですぐ戻るよ』
って言ってたくせに。いつになったら戻ってくんのよあいつは。
――日曜日、いつもならお母さんがここでポリポリお菓子を食べつつテレビを観てる時間帯だが、今日は居ない。お稽古事の仲間と行楽に行くということで出かけてったのだ。お父さんも仕事で夜遅くなるらしい。
なわけで今日は夜の22時くらいまで親が戻らず、子供にとっては気兼ねせずにいられる嬉しい一日なワケだ。
あたしにとってもそう。リビングで堂々とゲームやったりアニメ観たり出来る絶好の機会なんだよね。
この貴重な時間の為、色々と考えてたんだ。
まず午前は携帯ゲーム機をリビングのテレビにつないで大画面で遊ぶでしょ。
んでシスカリの対戦で兄貴を飽きるまで負かす! 最近少しは強くなったけどまだまだ弱っちぃから楽勝だよねー。
しょうがないからちょっとハンデでもあげて――、それでも勝てなくて『ぐぬぬっ』ってくやしがってる顔見てやんの。くふふ。
それからお昼になったら、罰ゲームとしてご飯作らせる! ま~、買い物くらいはいっしょに行ってあげてもいいけどぉ。
ん~~、何作らせよっかな? カレー……は無しね。お母さんよく作るから兄貴も別段反対しないだろう。かといってあんまり凝ったものは作れないだろうし――。
鳥のから揚げとサラダくらいでいっかな。一個が一口二口くらいで食べれるからカロリー調整も簡単だし。
スーパー行って、どーせ『よく分かんねえよ』とか言うだろうから兄貴にはカゴ持たせてあたしが食材ちゃんと選んでやって――あ、でも恋人とかに見られたらキモいから少し離れさせよ~っと。
シスコンの兄貴は残念がるかもね~、キヒヒ。
買い物から戻ってきたら作らせるんだけど、家庭科ぐらいでしか料理したことないだろうから少しは手伝ってやるかな。
ったく、だらしないんだから。
でも、ほっといたらバタバタして何時間も待たされそうだし、しゃあないか。
キャベツの千切りとか手ぇ切っちゃいそうだもんね。あたしが代わりにやったげて感謝させてやるわ。
代わりに兄貴にはおコメ炊かせよう。それくらいならさすがに出来るでしょ。
あ~あ、ダメな兄貴を持つと苦労すんよねぇまったく。

それからぁ、から揚げを揚げる時もあたしがしてぇ~。そんとき油飛んだりしたら『大丈夫か?』とかって手を取って水で冷やしてくれたりしたりして?
うっえ~、似合わないっつのぉ。
しかも結局ほとんどあたしが料理することになんじゃん、ダメ兄貴使えね~。
……まぁ、出来た料理食べさせて、『おまえって料理も上手かったんだなぁ』とか言わせてやるかな。
料理の件はそれでチャラにしてあげよう、うん。
お昼ごはん食べた後はメルルちゃんの映画、過去のも合わせて全部観よっと。
前に黒いのとの鑑賞会で何かいちゃもんつけてやがったから、この際ちゃんとメルルちゃんの魅力をキッチリ教えてやる!
映画のグリグリ動く神作画とあの泣けるエピソード見せたら絶対文句なんか出ないっつ~の。
カーテン閉めて部屋暗くしたら、映画館みたいな雰囲気出てキブンもけっこう盛り上がるかな?
あっ。でもあいつはシスコンだしスケベだから映画観てて、寝たフリなんかしてあたしに寄りかかってきたりなんかしたら……。や~襲われちゃうのあたし?
い、いやいや、そこは殴る! いくらシスコンだからってメルルちゃん見てる最中にそんなスケベなこととか許せないよねっ? うん。
――全部観終わったらけっこういい時間だろうし、外に夕ご飯食べにいこ。
せっかく門限ヤブっても平気な機会だし。そだなー、駅ビルの上にイイ感じのレストランあったよね、あそこ行こうかな? 夜景とか見れそうだし。
バカ兄貴はどうせあんなとこで食事したことないから意外にはしゃぐかも。
もぉ、恥ずかしい思いすんのはあたしなんだからね。なんか変なことしたらスネ蹴っとばしてやる。
お酒とかも――ちょっと頼んでみようかな? 大丈夫だよね? まぁ未成年って注意されたらそん時はそん時で。
んで酔って帰っちゃって、家に戻ったとこでお酒臭いことに気付いてお風呂入るんだけど、兄貴は酔いつぶれて寝ちゃってて、あたしが入ってたら兄貴が起き出してきてそのままお風呂に……。
あ~~ダメダメ。この前のラブホだってやらしい目であたしのバスローブ姿見回してたしぃ。マジ犯されるかもしんないからお酒はやめよう!
変態でシスコンで強姦魔とか、これ以上のダメ兄貴になったら救いようがないもんね。
もっと普通に考えよう。
ご飯食べて、帰って来て――そんでお風呂入った後は~~~。
……そだな、あたしの部屋でまだやらせてないエロゲやらせよっかな。
一緒にやりたくないとか言っちゃってくれてるけど、本心はどうだかね~。
………………。
それに――それにあたしが…一緒にしたいし……。
アメリカ行きの件、お父さんの説得が大変でまだどうなるか分からないけど、あれはあたしがどうしてもやりたいことだからだから絶対やる。
でもそうなると兄貴とは…あと少ししか……ないから。
――なんかあたし、いつのまにかほんの少しだけ、そう数ヶ月前よりほんの少しだけ、自分の中にある感情を素直に出せてる気がするな。
だから今日のことも、兄貴と二人でなんて普段なら絶対イヤだと言い聞かせてたことも今は――今だから…ね。うん。

ガチャリと音がして、玄関の方から声が聞こえてきた。
「チッ。ようやく帰ってきた。遅いっつ~の」
思わずソファから飛び跳ねるようにして立ち上がるが、少し浮かれてる気持ちを見透かされるとイヤだからちょっと待機する。
フン、ほんとに少しだけだっつの。
~~~ふぅ。よし、まずはどこ行ってたか文句言ってやる。
リビングの扉を開け、玄関の方へ向かうと――、
「え……」
「あ……」
そこであたしは〝兄貴がとても大切にしている〟ものを見ることになるのだった。





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最終更新:2010年07月30日 23:10
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