あたしの兄貴の幼馴染みがこんなに――


 アメリカから帰ってきたあたしを迎えてくれたのは、家族、親友、学校の友達にシスコンの馬鹿兄貴――そして、もう二度と口をきくこともないと思ってた、大嫌いな地味子だった。


 あたしの兄貴の幼馴染みがこんなに――


「――で、なんであたしのケータイ番号知ってるんですかァ? キモいんですけどぉー」
ここは近所のファーストフード店。二人分のセットを運んできた地味子に、あたしは何より先に嫌味を投げつけた。ハの字に下がる眉を見て、なぜだか舌打ちがしたくなる。
「えーとね、えーと」
……口を開くのもトロくさい。言いたいことがあるならさっさとはっきり言いなさいよ。トレイを置いて、バーガーとポテトを並べて……って、手を動かしながら喋ることもできないのかこの地味な女は。
最後にドリンクをあたしの傍に置いて――ご丁寧に紙コップのつなぎ目の線がこっちを向いている、あたしは線を向こう側に向けて飲むってのに、マジムカツク――ようやく地味子はあたしの質問に答えた。
「桐乃ちゃんの番号はー、あやせちゃんに聞いたんだよー」
「あやせぇ? なんでアンタがあやせとそんな仲良くなっちゃってるワケ?」
予想外の答えに思わず素に返ってしまった。てっきりあの馬鹿のしわざだと思ってたのに。「あやせちゃんとはお正月に仲良くなってー、それからちょくちょくお話とか、してるんだー」
「……あっそ」
キモ。あたしの生活に入り込んで来んなっつうの。
そういえばこいつは結局、クソ猫とも仲良くなってるんだったっけ……あー、キモキモ。トロい喋りとあいまって、あたしのイライラがどんどん高まっていく。



「で、話って何ですかァ? 奢りって言うから来てやったんですケドぉ」
不機嫌のままにポテトを頬張る。いただきますなんて死んでも言ってやるもんか。手料理でも無いし。
すると地味子はにこやかに言った。
「桐乃ちゃん、紙ナプキン使うー?」
「いいからさっさと用件言えっつの!! さっきからはぐらかしてばっかでキモい!」
「はぅわっ!? ……使わないのー?」
「はァ!? ……チッ」
 受け取らないと話が進みそうにないので、あたしは渋々地味子から紙ナプキンをひったくった。
あたしが指の塩と油をぬぐってる間、地味子はあからさまにほっとした様子だった。
トロくて、おどおどしてて、そのくせお節介で……マジでムカツク。イライラする。超帰りたい。帰って残りの積みゲー崩したい。やり直したいゲームもあるし、だから休日のあたしは忙しいのだ。読モ舐めんな。
そんなあたしの内心を知るはずもなく(そう、知っているわけがない)、ようやく地味子は本題っぽい話を切り出した。
「ねえ桐乃ちゃん。お話っていうか、聞きたいことがあるんだけどー……」
「ハァ? なんであたしが答えなきゃいけないワケ? 暇じゃないんで、とっとと帰ってやりたいコトあるんですケドぉ」
「桐乃ちゃん」
あたしの軽口を止めるように、地味子は真剣っぽくあたしの名前を呼んだ。……ちょっとだけ、気圧された。
「な、……何よ」
「桐乃ちゃん」
 あたしを呼ぶ。地味子があたしの名前を呼ぶ。
少し息を吸って、地味子はあたしに聞いた。

「――桐乃ちゃんはー、どうしてわたしのこと、嫌いなの?」







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最終更新:2010年11月15日 14:58
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