小ネタ/俺がこんなに弟なはずがない


「あにパン! あにパン以外にありえないでしょ!」
「私はおにパンの方がピッタリだと思うんだけどなぁ……」
「私はにぃパンを推奨したしますわ」


桐乃とあやせと沙織の三人はリビングでなにやら盛り上がっている。
まさかあやせの居る前でオタク談義はしないだろうから
多分ファッションとか、そういう話なんだろう。俺の知らない単語も出てきてるし。
こうしてみると、沙織も桐乃やあやせとそう変わらない、俺からみりゃ年下の女の子なんだなーって思ったり。
なんつーか、こうしてあいつらが楽しそうに喋っているのを見守るだけで、俺満足?
この気持ち、まさしく兄だ!

「……なに厭らしい目でいこっち見てんのよ、変態」

OK、前言撤回。一瞬足りともコイツを庇護下に置いた俺がバカだった。
「お前らが楽しそうで何よりっつー俺の兄心になんてこといいやがるんだ、お前は」
紅茶をテーブルに運び、全員に渡す。
桐乃は砂糖1個、あやせはミルク、沙織は砂糖ミルク共に無しっと。
この気遣いもまさに兄心だね。決して小間使いに堕ちてるわけじゃないからな。
「京介お兄様は兄の純粋種ですものね」
おお、沙織はよく分かってるじゃないか!!
「変態な部分を除けば、お兄さんは理想のお兄さんかも知れませんね。そんなお兄さん、お兄さんじゃないですけど」
喜んで良いのか泣いて良いのかわからんぞ、あやせ……
「あんたがベストオブ兄貴?! 寝言は寝て家っての! ウザッ。よくそんな事言えたわね。
 あんた、エロゲから何にも学ばなかったの? あの妹の為に生き、妹を心から愛し、妹の為に闘う兄貴と、あんたのドコが一緒?」
二次元と三次元を一緒にするんじゃねぇ! つーか、俺がいつベストオブ兄貴を自称したよ!?
そんな賞の受賞無理だかんね?! 俺は世界最速でもなけりゃ、天を突くドリルも持ってねーし、パーフェクトもハーモニーも捨ててな

いからね?

「たっくよぉ……兄貴なんてやってられねぇよな。ロックが羨ましいぜ。弟で、姉ちゃんがいてな。俺には一生味わえない感覚だ」

「あら? では京介お兄様は今日一日、私たちの弟というのは如何でしょうか?」

……は?
いや、沙織、何言ってるの? 弟がイイなんてのはちょっとした冗談だっての。
「どうせなら私と結婚いたしますか? そうすればお姉様が京介さんにはできますわよ」
「は、はぁ!? ちょ、ちょっと何言っちゃってんの沙織! じょ、冗談でもコイツと結婚とか、アンタが可哀想すぎるって!」
「そ、そうですよ! お兄さんは変態なんですから、お姉さんの身だって危険ですよ!!」
「お前ら非道くね?」
しかし、沙織の提案で、結局俺は今日一日こいつらの妹をすることになったのであった。マル。

「……っていっても、どうすりゃいいんだ? 取り敢えずアイツらをお姉ちゃんとでも呼べばいいんだろうが」
と俺の前をあやせが横切っていった。
……へ、いいぜ、やってやろうじゃねえか!
思い出してみれば、俺はこういう状況程燃える男だったじゃねぇか!
相手があやせとなれば、さらに萌えるぜ!

「あやせお姉ちゃん、お出かけの準備できた?」

「なっ…なっ……何を言ってるんですか! 気持ち悪いです、お兄さん!」
「いや、ホラ、俺、弟……」
マジレスされたので、俺はかなり困った。が、あやせも思い出したらしく
「そ、そうでしたね、お兄さんは今弟なんでした」
「あやせお姉ちゃん、お兄さんじゃなくて京介って呼んで?」
調子に乗ってお願いのポーズもしてみる。いいぞ、なんかテンション上がってきた!あやせたんヒャッホゥ!
「きょ、京介…さん……」
「お姉ちゃん、どうしてさん付けなの? 俺達姉弟でしょ?」
「きょ、きょ、きょ、京介!!」
「お姉ちゃん、顔真っ赤だよ? 風邪引いちゃった?」
コツン、と額を合わせて温度を測ってみる。姉弟ごっこをしているとはいえ、俺の方が背が高いのはどうしようもない。
「ひゃうっ! ふ、不潔です! 触らないでください!!」
「お、俺、あやせお姉ちゃんの心配をしただけなのに…ッ!」
「ぁぅ…ぁぅ……ご、ごめんない。痛かった? お姉さんがナデナデしてあげますね」
おおう、なんということでしょう!
普段なら手錠とか通報とかに成りかねない、あやせタッチが弟ならし放題どころか
あやせから俺に触れてくるとは!? ビバ弟!! もう俺、兄貴に戻らなくてもいい!!

ぽた…ぽた……

「って、あやせ! 血! 血! 鼻血!!」
「は!? ……あ…っ…あ…」
目の焦点が合ってないあやせに、危機感を覚え、俺はもう弟では居られなくなった。
慌ててあやせの背中をさすりながら、ティッシュを探して鼻に詰めてやる。
「…っ……こ、これは……お兄さんが弟で可愛かったから……
 というかお兄さんをナデナデしててたらボーッとしてきて……」
何かブツブツとうわごとを繰り返すあやせは、ハタと俺を見上げて、状況を確認しているようだった。
「よ、よう、大丈夫か?」
「……な、なに触ってるんですか」
「へ?」
と、俺はあやせの背中に回した手に気づき、半歩飛び下がる。
「違っ…これは純粋にお前の事を心配して……」
「死ねエエエェェエエェェエエェェ!!!」


「痛ってぇ……これがアレか? 理不尽な姉に振り回される弟の哀愁ってやつなのか?」
……妹・桐乃に振り回されている兄・俺と大して変わらない構図な気がするのは気のせいか?
「あら京介、どうかしまして?」
「あ、沙織」
「京介、お姉さんを呼び捨てにしたらいけませんよ?」
口を「ω」にする沙織。ははは、コヤツめ、既に姉弟コスプレに入っておるな。
「ああ、実はさ、あやせお姉ちゃんにドつかれてさ」
「あらあら、あやせちゃんは乱暴ですわねぇ。痛いの痛いの飛んでいけー」
「沙織姉ちゃん、ガキじゃないんだから、そんな事されたって痛いまんまだって」
「昔はこれで京介も泣きやんでいましたのに……京介もいつの間にか大人になったのですわね」
「いや、俺今泣いてねーし」
つーか、「昔は」って……いや、設定的には正しいのか?
さすがは沙織というべきか、細部までつくりこんでやがるな。
ふ……そうでなくてはな。これは俺の持論だが、闘いはこうやって、ある程度実力が近くなくては面白くない。ブルアァァ。
「沙織姉ちゃんさ、別に俺は大人じゃねーよ。っていうか、大人になんかなりたくない。
 大人になったら、沙織姉ちゃんの弟じゃ居られなくなるだろ。俺、ずっと姉ちゃんの弟がいい」
お、これは結構いい感じのセリフが出てきたな。俺って意外と芝居のセンスがあんのか?
「私が大人になって、京介が大人になっても、私達はずっと姉弟ですわ」
「ホントか? ……ならさ、やっぱ昔みたいにしてくれよ」
「昔みたいに?」
「痛いの痛いのとんでけーじゃなくてさ、もう一つあったろ? 忘れちまったのか?」
「まさか、私が京介との思い出を忘れるわけがございませんわ」

「じゃあ、その……昔みたいにギュッとしてくれるよな?」

「ええ勿論、昔みたいにギュッと……ええ!?」
おやおや、沙織さん、地がでてるぜ、くっくっく……
「俺、沙織姉ちゃんの胸に抱かれるとさ、すげー安心するんだよな」
「そ、そうでしたの……?」
「姉ちゃん、覚えてないのか……やっぱ、俺を置いて大人になっちまったんだな……」
「京介! お、お姉ちゃんは絶対に京介を置いていったりしません!」
ガバッ!と擬音にするならそんな感じで、沙織は俺に両手を開いて突撃してきた。

ハムッ

キターーーーーーーー
沙織の柔らかい二つのおっぱいに俺は顔を埋める形になった。
おお、これ超ヤベェ!? こんな桃源郷が世界に存在していたとは……
神は人に試練を与えたもうた。それを乗り越えし者にのみ、この祝福を授けたのだ。つまり弟万歳!!
ずるいぜ、弟ってずるいぜ。兄貴が妹の胸に顔を埋めたら変態だが、弟なら姉貴がおっぱいさせてくれるってのかぁ!?
なんか左右から叩かれてるし。おっぱいで俺叩かれてるし。なんつーこった! 叩かれて喜ぶとは俺はMだったのか!
だがそれがいい。これがMだというなら、それは無限大のMだ。つまりおっぱいは宇宙だって事なんだ!

「つーか、もう止め……っ……沙織……苦し……」

オッパイロックされたまま、身体を両手でガッチリ掴まれて、左右に振り回されている俺。
沙織のアトミックシザースは俺を離す気配もなく、月の繭に俺は埋葬されかけていた。
いかん、もう息が……俺の命が……弟の命が吸われていきます!
ああ、光が広がっていく……花火かなぁ? 違うな、花火はもっとばぁーって広がるもんなぁ……




し、死ぬかと思ったぜ……ふー……
だが、まだ俺は弟をやりとげていない! ここまできたんだから、桐乃のヤツもお姉ちゃんって呼んでやるぜ。
あいつ、妹萌えだからな。案外、弟もいけるんじゃねーの?
くっくっく、最初はエロゲーの妹のように従順でお姉ちゃん大好きな弟を演じてやるが
取り入った後はいつもの貴様のように、ワガママで高慢で姉貴を振り回す弟になってやるのだーーー!!

コンコン

「姉貴ーいるー?」
「は? チッ……そうか、弟か。入れば?」
おい、なんかいつもと変わらなくねーか?
つーか俺も「姉貴」はないだろ、「姉貴」は。これじゃあ従順で可愛い弟には遠いだろ!
「よ、よう姉…」
「頭が高い。アンタ、姉貴を見下ろしていいと思ってんの?」
「お前は殿様か!!」
「っていうか何? 姉貴の部屋にやってくるのに手土産の一つもないわけ? 使えない弟ねぇ。お菓子ぐらい持ってきなさいよ」
「まてやコラ! なんつー横暴さだ!」
「はあ? はっ! 大方、沙織やあやせに甘やかされてきて調子乗ってるんでしょうけどね、いい? これはあたしが姉貴だからしてや

ってんのよ」
はあ?
「甘やかしてばかりで、弟がダメ人間になったら困るじゃん? だからあたしだけは弟をこき使って世の中の厳しさを教えてやってんの


「な、なるほど……」
「わかったなら、桐乃おねーさんの優しさに感謝しなさい? ホラ、足舐める」
「へいへい、分かりまし……って、アホかーーー!! 騙されねーぞ、俺は! よしんば騙されたとしても、姉貴の足を舐める弟がどこ

にいる!!」
「余所は余所、ウチはウチでしょ。余所の家がどうか知らないけど、ウチでは弟は姉の足を舐めるの」
「舐めねーよ! そんな家庭だったら、俺家出するね!! 盗んだバイクで走り出すね!!」
ベットに座る桐乃に対し、向かい合うように椅子に座る俺。
「はあぁ……アレか? やっぱ姉貴呼びが悪かったのか」
「何言ってんのよ?」
「だから、姉貴じゃお前萌えないんだろってこと。桐乃お姉ちゃん!とか、桐乃ねえたま!とか、そう呼べば良かったんだろってさ」
「キモっ……」
「お前がいつもエロゲーの妹達に呼ばせてることだよ!!?」
「それなら別に、姉貴呼びの妹もいるし。あたし全然萌えられるしぃ」
そうだった、こいつは妹に関してはもはやプロレベルだったのだ。
「つまりあれか、弟がダメだと」
「そりゃそうじゃん? 妹と弟の間には越えられない壁があるのよ。堅さでいえばガンジョーダXぐらい?」
表宇宙なら最強の堅さだな。裏宇宙ならザルだけど。
「それに、アンタの顔と声で弟とか、鳥肌が立つっての」
冷静に考えてみりゃそれはそうだが、その鳥肌の立つような行為を既に2回もしてきた俺って一体……
くそっ! また後先考えずに突っ込む俺の悪い癖かぁぁ!? なんなんだこの病気! 厨二病か? 疼くのか? 静まれ、お調子者の血

!!
「ま、妹抜きにしたって、やっぱ弟には全然萌えない。あやせや沙織にちょっかいだすアンタみてたけど、萌えられなかったし」
見られてたーーー!? もういい、もう殺してくれ……デス・弟……
「変態……」
「ボソっというなー!」


「やっぱさ……兄妹がベストだよね」

「ん……さぁな。俺他に知らねーからわかんね」
コイツのエロゲーやってても、兄妹最っ高!ってなったことはないしな。
「む……ちょっと、あんたこっち来なさいよ」
「あんだよ……」
もう俺は弟じゃなく、いつもの兄として、桐乃の命令を聞いていた。
「……ナデナデ」
「……は?」
桐乃が俺の頭に手を伸ばして、ナデナデをしていた。
ちなみに結構距離があることと、俺の方が座高…背が高いこともあって、桐乃はちょっと大変そうだ。
「お前、何して……うわっぷ!?」
「うっさい! だまれ! シスコン変態バカ兄貴!!」
なんか柔らかいのが当たってるんですが……沙織ほどデカくないが、これはこれで……
「って、うあああぁああぁあ!?!!」
俺は桐乃の胸から慌てて飛び退いた。
「い、い、いきなりなんばするっとねーー!!」
「アンタ千葉人でしょーが!!」
「何考えてんだよ、お前は!!」
「だ、だから、同じことやったんでしょ!」
はあ!?

「お、弟と姉でやれることなら、べ、べつに兄と妹でもできるってこと! わかったでしょ!!
 それに、姉弟でやるより、兄妹でした方が良かったでしょ? そうでしょ!!?」

は、はぁ……?
つ、つまりコイツは、姉弟より兄妹が優れていると証明したくて、今日の俺をトレースしたってことか?
なんつー……筋金入りの妹萌えだ……
「どうなの! 答える!」
「あ? あー…まぁ、そうかもな」
「そう、ってどういうことよ?」

「それは、つまりだな……ああもう! そうだよ、弟としてナデナデされたりギュッとされるより
 兄貴としてナデナデされたりギュッとされた方が良かったよ! ああ良かったね! これで満足か!!」


「へ、へぇー……やっぱアンタも筋金入りのシスコンだよねぇ……キモッ」
ぐっ……また勢いで㌧でもないこと言っちまった気がするぜ。
腹立つなぁ、ニヤニヤ笑いやがって!!
「ほら、アンタもさっさと準備しなさい!」
「は?」
「なに惚けてんの? 妹に相手してもらえて天国行ってた? 超きもっ!
 これから観光でしょうが。それでアンタは荷物持ち。わかってんの?」
そういやそうだった。
はあ、荷物持ちねぇ……しゃあねぇな、それが俺の立場ってか。
桐乃がこっち見て八重歯を覗かせた。


「さ、はやく行こっ あ に き !」

「……おう」
結局、俺はどこまでいっても兄貴なんだって、まあそれだけ気づいたことでよしとするか。
俺は桐乃の後を追った。
沙織やあやせも俺達を待っているようだ。
今日も一日、兄貴として頑張りますか。




おしまい




+ タグ編集
  • タグ:
  • 高坂 桐乃
  • 新垣 あやせ
  • 槇島 沙織

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2010年11月18日 12:35
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。