「ちょっと違った未来」 ※原作IF 京介×桐乃
朝の光が眩しい。どうやらレポートを書き上げるとそのまま寝てしまったようだ。
授業は午後から。それでも毎朝定時に起きてしまうのはそれまでの習慣からか。我ながら怠惰な性格だと思っていたが意外や意外、割ときっちりしているらしい。
「飯にすっか。」
白米をよそって適当におかずを冷蔵庫から取り出す。それを朝食としながら午前の行動を考える…うん、図書館で勉強でもしよう。
俺の名は高坂京介。今年大学4年生になる。
もともと高校も地元の高校に通っていたし、大学も無事地元の国立大学に合格した。しかも法学部に受かるというちょっと意外な結果だった。
これには両親、親父とお袋も大いに喜んでくれ、かねてから考えていた一人暮らしの用意もしつつ俺の人生は色鮮やかなものとなっていた。
真奈美や赤城とは学部が違ってしまったのはさびしい気がするけれど、今でもたまに一緒に食事をしたり遊びに出かけたりする。付き合いはあの頃から全然変わっていない。
変わったのは―――俺と家族、とりわけ桐乃との関係だ。
大学合格の通知が届いた時、家族は総出で祝ってくれた。お袋はもちろん、親父もいつになく笑みをほころばせ嬉しそうに話しかけるのだ。よかったな、京介と。
とりわけ驚いたのは桐乃だった。いつもどおりの悪態はどこへ、大はしゃぎしながら携帯でメールを打つ。そうしたらすぐに俺の携帯にメールが届いた。
黒猫に沙織、あやせに加奈子、瀬菜からのお祝いメール。今でも思う。いい友達を持ったと。
その日は家族でお祝いに外食に向かった。少し高級そうなイタリア料理店で親父が勝手がわからんとばかりにときおり「むう…」と言っているのがほほえましかった。
桐乃の選んだ店で、前々から一度来てみたかったんだと。
その日はとても楽しかった。いつもより家族の団欒が暖かかったのは錯覚じゃなかったと思う。
数日後親父に呼び出された。大事な話があるからと。親父の部屋に入るとお袋も座っており、俺も礼にならって姿勢を正しつつ椅子に座る。
そこで聞かされたこと―――それは俺は親父とお袋の血が繋がった子供ではないということだ。
18年前親父は刑事の試験に合格したばかりの新人で、半人前の域をでない新米刑事だったという。そこで親父の教育係としてきたのが、俺の本当の父親に当たる人だという。
親父が刑事として初めて配属されたのが殺人等を扱う課で初めて任された事件が銃殺による殺人事件だった。そこで親父とその先輩刑事、俺の本当の父親は重要参考人として任意での事情聴取を行うべくその家に出向いた。だが、それがまずかった。
犯人と思わしき者は激昂、銃を親父に突きつけた。そのまま親父は死を覚悟したらしいが血を流して倒れていたのは先輩刑事だった。
そのまま犯人は取り押さえられ、殺人の罪で刑務所へと収監された。
親父は自分の身代わりになった先輩のことを思うと涙が止まらなかったという。だが、それで終わりではなかった。その先輩には子供がいたのだ。名は京介。
先輩刑事の妻、俺の本当の母親に当たる人は俺を生むと同時に息を引きとり、しかも身寄りもなかった。親戚はいたが疎遠で、葬式の時は子供の引き取りにそ知らぬ顔であった。無理もないと思った。ほとんど知らない他人当然の親族の子供を誰が引き取るのか。しかし親父は逆に光に見えたという。
この子を代わりに育てる。妻も賛成してくれ二人で京介を育てる決意をした。
初めは罪滅ぼしの気持ちが強かったがやはりはじめての子供というのか、俺を実に可愛く思えたという。
その3年後、桐乃が生まれた。
その話を聞いてからの数日はよく覚えてない。正直その話ばかりが頭にぐるぐる回っていた。だが、怒りや憎しみなんてなかった。
俺は親父とお袋に感謝していた。お袋だって普段あんな言葉を取るがそれが息子への愛情の裏返しだってわかってる。親父だってそうだ。俺と桐乃に血のつながりなど関係なく公平に接してくれた。そうでなければあの話を打ち明けてくれたときあんなにも優しい目を二人ともしていたわけがない。今だってそうさ。感謝している。
問題は桐乃だ。
俺は桐乃にたいしてどう接していいのかわからなくなった。今まで兄として桐乃と付き合ってきた。だが血が繋がってないと知ったとたんそれが何を意味するのか。俺の心の底に蠢く黒い塊はとても抑えられそうになかった。
俺は桐乃から逃げるように家を出た。
(少し昔のこと思い出しちまったな。)
あれから家には夏の盆や正月以外帰っていない。が、連絡はよくし合う。というより帰りづらい。なぜなら、
「兄貴~来たよ~。って、もう起きてんの?」
まあ、こういうことである。
あの後俺の行動を不審に思ったのか、俺のアパートに桐乃が押しかけてきた。俺は話をはぐらかそうとしたが、桐乃は全て知っていたらしい。
「アメリカ留学の時にね、兄貴が養子だってわかっちゃった。」
その後どちらが先にお互いを求めたのか、よく覚えていない。恍惚の中桐乃は俺への想いを口にした。ずっと好きだったと。誰にも取られたくなかったと。
俺も精神的にすこしきていたのかもしれない。それまで抑えていた桐乃への想いを口にしつつお互いを貪り合った。それは獣のようでお互いに初めてとは思えなかった。
そのあともたびたび桐乃は俺のアパートを訪れた。悪態をつきつつ世話を焼いてくれ、お互いの愛を確かめ合う。そんな日々が丹念に積み重ねられた。