ふたば系ゆっくりいじめ 664 町人Aの逢引 ~所長代行とゆっくりあやや~

町人Aの逢引 ~所長代行とゆっくりあやや~ 52KB


虐待-普通 加工場 幻想郷 スコップ



町人Aの逢引 ~所長代行とゆっくりあやや~



【前書き】
・ 幻想郷が舞台です。2作目。
・ 1作目の『町人Aの~』と同じ世界の話。(単品で読めます。)
・ ハートフル加工所ゆ虐考察クリスマス物。
・ 餡子のネタとかが何個か混じっています。(不味かったら御免なさい…)










幻想郷の人里。
ここにAという名の男が居る。
歳は25、背丈は高く無愛想。
村はずれで果樹園と家庭菜園を営んでいる、農家である。

季節は年の暮れ、冬。
男は雪の降る道を歩いていた。
人里のとある家に行く為だ。
正直言うと寒いから外に出たくはないのだが、村社会は人付き合いが命。
男は夜からの会合に向けて、荷物を持ちながら村に降りて行った。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



人里。
文字通り人間が集まっている里である。
ここには人間が生活する為の様々な施設があり、その中にはゆっくりを加工する施設も存在する。
その名前は加工所と呼ばれ、村の人々へ餡子等の甘味を安価で提供していた。

加工所は村全体で3つ4つ程しかなく、どれも小規模である。
そしてここに、所長が休みがちになっている加工所が一件在った。


「ゆっくち! ゆっくちさせちぇにぇ!」
「やめちぇぇぇぇ! ちゅぶりぇりゅぅぅ!」
「ゆぴぃぃぃぃぃぃ! ゆんやぁぁぁぁぁ!」
「しょちょうさんやめてね! おちびちゃんにひどいことしないでね! むきゅぅぅぅ!!」
「おでばいじばずぅぅぅ!! おぢびぢゃんをだずげでぐだざいぃぃぃぃぃ!!
 ばでぃざとばぢゅり"ーの"どっでもゆっぐりじだおぢびぢゃんな"ん"でずぅぅぅぅぅ!!」

「だ~か~ら~、私は所長"代行"って言ってるでしょ~? 馬鹿なの~? 餡子脳なの~?」
「おお、あわれあわれ」

キュイィィィイィィィン
オチビチャアアアン ニゲテェェェェェ
ヤメチェニェ!! コッチコニャイデニェ!!
キョワイヨォ!! オキャーシャン!!
イチャイィィィィ!! ユンヤァァァァァァ
イチャイィィィィ!! ユンヤァァァァァァ
ショチョウサンヤメテネ!! ユピィィィィィィ!! ユンヤァァァァァァァ ポヨンポヨン
オチビチャァァァァァァァン!! ユンヤァァァァァァァ ポヨンポヨン

キュイィィィイィィィン グチャブチャ グルングルン


『ミキサー』と呼ばれるかっぱ製の道具が唸る。透明なボウルの中で餡子の塊に変わる赤ゆ達。
その様を同じく透明なケースから見る事しか出来ない親ゆ達。ぽよんぽよんと跳ねても無駄である。
何故ボウルが透明なのかと言うと、親ゆが中を見れる様に配慮した為だ。こうすれば悲鳴が大きくなる。
生産ケースを大きくして飛び跳ねれる様にしたのもこの為だ。
涙と涎を撒き散らしながら飛び跳ね、全身で悲鳴を表現するその様は心をくすぐる。親の餡子も甘くなる。

この馬鹿共の世話をするのは苦痛だけど、この瞬間だけは最高だわ。ふふっ。


「さーてAが来る前に用意しないとね~急がないと」
「おお、ごしゅじんやるきやるき」




幻想郷の人里。
ここにKという名の女が居る。
歳は25、胸囲は人並み、愛想も悪くない。
飼いゆのゆっくりあややを駆使し、加工所を運営する結婚適齢期の女性。

ゆっくり加工所 副所長。
またの名を所長代行。

誰がどう見ても分かる通り、虐待お姉さんである。


そしてこれは。
そんな彼女が意中の人を落とそうと躍起になる、ハートフルゆ虐ストーリーである。














   Title : 町人Aの逢引 ~所長代行とゆっくりあやや~

   Author: 旅人あき











◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



さて、Aが来るのは明日。つまり今日は決戦前夜に当たる
それまでに準備をしようか。

「ゆぅう! おしょらをとんぢぇるみたい!」
「はいはいおそらでちゅよ~」

と言う訳で加工所は生産室の赤ゆ保存棚の前まで来た。
ぽいぽいと赤ぱちゅりーをボウルに入れていく。生クリーム用だ。
その奥で生産ケースに入れられた親ぱちゅりーが泣いて子供の命乞いをしている。当然その鳴き声は耳を素通り。
ボウルに入ったこいつらはミキサーで生クリームにする予定だ。どんな声を出すのか実に楽しみ。


「わざわざ呼び出したと思ったらケーキとは、うちは和菓子屋だぞ…」
「いつも卸してるんだからそのぐらい良いでしょ」
「この前もAがゆっくり用の傘を作ってくれとか言って来たし、和菓子屋に無茶をさせる…。
 お前達、和菓子屋は何でも作れる凄い奴とか思ってないだろうな?」
「良いからさっさと生地作って」

今話をしている相手は、加工所の隣にある甘味処の店長だ。


ケーキというのは余り作った事は無いが、この店長を数日前より捕まえて、サポートに当たらせている。
失敗が許されない重大なミッションである為、その筋の人を用意した訳だ。
彼は私ともAとも面識があるので、何かと都合が良い。融通が効く。

「やるのは良いが…しかし訳前は貰わんとなぁ! ただではやれんなぁ! ただではなぁ!」
「餡子3kgタダであげるわよ」
「そんだけぇ!!?」

特徴はお調子者で器用貧乏。弱腰な所もやりやすい。
ゆんやぁぁぁぁぁと言いながら悔しそうに廃棄用のゲスまりさを叩き潰したりしている。勿論顔は演技だ。
至って構わないが、あれが30を超えた男の行動とは思いたくない所である。
画してプロの菓子職人を従え、2名は結婚適齢期を逃さない為への行動を開始した。


「おお、ひわいひわ」
「………」
「お、おお、いまのはうそ いまのはうそ」


2名+1名は、ケーキ作りを開始した。











◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



ケーキ作りを開始して1時間程。
店長が私に質問を投げて来たので、それに答えて作業を進めていた。

「加工所には入った事が無かったが…」
「結構広いでしょう?」

幻想郷には加工所が3つ4つ程ある。
分類は個人商店だがその殆どは、酒造酒屋の一角を切り取った様なそれなりに広い面積を誇る。
理由はゆっくりの生産室と販売室が場所を占める為である。倉庫も場所を取る。
そしてこの加工所にも存在するが、ペット用の躾をする育成室もある。
所謂金バッジ銀バッジであり、バッジシステムは幻想郷でも根付いている。
このシステムのおかげで飼いゆっくりは安全が保障され、野良ゆっくりは安心して排除出来る仕組みとなっている。


幻想郷の加工所の内部施設は大きく分けて、
ゆっくりを生産する『生産室』
ゆっくりを加工する『加工室』
ゆっくりを躾する『育成室』
ゆっくりを販売する『販売室』の4つが必ずある。

それに加えてオプションで従業員用の寮や休憩室なども、勿論ある。
当加工所ではこれに加えて外部に『甘味処』を設け、そこに直営店として餡子などを卸している。

つまり店長は、この加工所の直営甘味店の店長、と言う事になる訳だ。
と言っても全件委任で、原材料だけ卸すという形であるが。
その為お互いに無茶も言い易い、対等親密な関係である。


このほか『多目的室』が当加工所には在り、今現在ここでケーキを作っている所である。
水道設備も有り防音加工済みのため、ゆっくりの実験等にも使う。

「ここでゆっくりの実験か…今までどんな実験をしたんだ?」
「ん~とね、この前Aとしたのが水槽にゆっくりの家族を5匹ぐらい入れて、水を入れる奴ね」
「Aとしたのか。 どんな実験だ」
「水を避けれる高台があると、どんな反応が起きるかを実験」
「面白そうだな…どうなった?」





ボトッ!
ベチャッ!
「ゆぴぃ!!」
「ゆべぇ! ゆえぇぇ~ん! いたいよぉ~! もうおうちかえるぅぅぅぅ!!」
「ゆびぃ! れいむのあんよさんがぁぁぁ!! いたいよぉぉぉぉぉ!!」

「れいむのかわいいおちびちゃんがぁぁぁ!! ゆっくりしてね!!」
「おちびちゃん! ゆっくりしてね!!」


大きな水槽に放り投げられるれいむとまりさの親子。数は5匹。
親まりさと親れいむ、子れいむ2匹。そして赤まりさ1匹だ。Aと森で拾って来た。

水槽には階段状に2段ある高台が水槽の端に置いて有り、下段は親ゆが2匹ほど登れる広さがある。
そして最上段は小ゆ1匹しか乗れそうにないスペースがある。
下段と坂道で繋がっている、頂上だ。高台はこの2段だけである。

「それじゃ水を入れるぞ」
「ホースで最初は徐々に入れて行ってね」
「まぁこの家族だと、結果はやる前から分かるけどな」
「え? ほんと?」
「次はもっとマシな家族を使った方が良い。 じゃあ水を流すぞ」


チョロロ・・・スァーーーーー


「ゆゆ!! おみずさんがきてるよ!!」
「ゆぴぃぃぃ!! おみずしゃんはゆっくちできにゃいぃぃぃぃ!!」
「おちびちゃんこっちにきてね! このやまさんにのぼるよ!!」
「ゆっくりにげるよ!!」

「ゆぴぃぃぃ!! おきゃーしゃん! まりしゃをおいてかにゃいでにぇ!! つれてってにぇ!!」

だが親れいむは、どのゆっくりよりも早く高台に逃げ込んだ。続いて親まりさが続く。
高台は水槽の端で親達はその最寄り。子れいむや赤まりさ達は高台と反対方向の端に落としておいたのだ。
そして水は高台の傍から流し入れている。水は高台周りを浸しているが、まだ赤まりさ達には達していなかった。


「ゆぴぃぃぃ!! おにぇーしゃん! まりしゃをおいてかにゃいでにぇ!! つれてってにぇ!!」
「なにいってるの? まりさをまってたらやまさんにみずさんがたまるでしょ? れいむそんなのいやだよ!!」
「ばかなの? しぬの? まりさはじぶんでなんとかしてね!! れいむたちはゆっくりにげるよ!!」

「ゆんやぁぁぁぁぁぁ!! まりしゃそんにゃにはやくあるけにゃいよぉぉぉぉ!!」

赤まりさの叫びを尻目に、姉の子れいむ達は救う所か罵声を浴びせて素通りしていく。
必死に高台を目指す小ゆ2匹。赤まりさは這いずり回っている。
だが暫くして、親まりさだけは赤まりさを助けに行った。すれ違う親まりさと子れいむ達。

「ゆっほ、ゆっほ、・・・おとーさん!!」
「おとーさん! れいむたちをたすけてね!」
「れいむたちはじぶんでなんとかしてね!! おとうさんはいまいそがしいよ!! ゆっくりりかいしてね!!」
「どぼじでぞんなごどいうのぉぉぉぉぉぉ!!?」


既に水が水槽全体に浸かっており、水深は2cm程になっていた。
ぱちゃぱちゃと水溜まりとなった水槽を跳ねるゆっくり達。おかげで波が発生している。
子れいむ達は高台の手前まで行く頃にあんよがふやけ、赤まりさに至っては目元まで水が浸かっていた。

「おとーしゃん! たしゅけてね!! ゆっぷ! ゆっぷ!!」
「おちびちゃぁぁん!! おとうさんのくちのなかにはいってね!! ゆっくりしないでね!!」

空を仰ぐ事でなんとか息をしていた赤まりさ。その赤まりさを親まりさは口の中に回収する。
一方小れいむ達は高台に登ろうと必死だった。高台の下段は15cm程の高さだ。
親なら一跳びで登れるが、あんよがふやけた小ゆでは足りない。乾いた状態でギリギリの高さだ。
水が入り続ける水槽は、既に水深が5cm程に達していた。水が跳躍のエネルギーを奪い、上手く跳べないだろう。


「おかーさん! れいむをたすけてね!! ゆっぷ! ゆっぷ!!」
「ゆっぷあ!! もうやじゃあぁぁぁあ!! おうぢがえるぅぅぅぅぅぅ!! ゆっぷ!!」
「おちびちゃぁぁぁぁん!! ゆっくりしないではやくのぼってね!!」


必死に登るのを指示する親れいむ。だが自分でお飾りを咥えて引き上げる等は一切してしない。口だけだ。
一方の小れいむ達も高台の前で無様にジャンプをし続けて、あんよが十分ふやけていた。
バシャバシャと水しぶきだけが空しく響く。
そして遂に一匹のあんよが裂け、中の餡子が水の中に漏れ出した。裂けたのは小ゆの片方、姉れいむだ。

「ゆっぷあ!! あんよさんがぁぁぁ!! ゆっぷ! もうやじゃあぁぁぁあ!! たしゅけてぇぇ!!」
「もうつかれぷ!! ゆっぷ!! つかれたぁぁぁ!! ぷああ!!」
「ゆっぷあ!! ゆっぷ! いたい!! あんよいたい!! あんよぷ!! あんぷ!!! ぷ!」
「おちびちゃぁぁぁぁん!! ゆんやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

もはや水深は12cmに達しようとしていた。小ゆは体長10cm、ジャンプしないと完全に水没している水深だ。
妹れいむはまだ余力が有ったが、あんよが裂けた姉れいむの方は。
跳んでなんとか口だけを水面に出す状態であった。

餡子が流れ出る事も構わず、必死にジャンプして水面に顔を出し続けていた姉れいむ。
だがとうとう水面に口から上を浮かべ無くなり、髪飾りが間を置いて水面にわずかに飛び出るだけになった。
そして姉れいむが餡子を撒き散らしながら水没する。
窒息の苦しさに水中で狂った様に暴れ回る姉れいむ。少ない餡子は振り撒かれ、水の中に広がっていった。


ブクブク…

「ゆんやぁぁぁぷ!! しにたくぷ!! しにたくないっぷぁ!!! ゆびゃぁあああ!!」

「おちびちゃぁぁぁぁん!! こっちにきてね!! はやくしてね!!」

姉れいむが水没し、もう一匹の妹れいむが必死の形相で叫ぶ。
水没した姉れいむの顔を見たのだ。水の中で苦悶に顔を歪める姉の顔を。絶望と苦痛に満ちた顔を。
その恐怖が実力以上の跳躍を妹れいむに与えた。浮力の助けも借り、自力で高台に上がったのだ。

ザバァ!! ボチャ、コロン

「ゆばぁぁぁぁぁ!! ゆひぃーー!! ゆひぃーー!!」(ガタガタ)
「おちびちゃぁぁぁぁん!! ぺーろぺーろ!!!」



何とか高台に上った親れいむと子れいむ。既に小れいむの体は全身がふやけている。
一方の親まりさは口に赤まりさを入れたまま、帽子に乗って水面に浮かんでいた。

高台は2段構成になっている。最上段は小ゆがギリギリ乗れるぐらいだ。
勿論水はまだ止めない。最上段が水没するまで。









◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「おちびちゃん、ゆっくりしてね! ここはもうだいじょうぶだよ!!」
「おかーさ、ゆえええ・・・」
「ゆっくり! ゆっくりぃ!!」

母の元で泣きだす子れいむ。目の前で姉が水没し、溶けて行く光景は想像を絶する恐怖だったろう。
親れいむが何もしなかったのを気にも留めていない。所詮はゆっくりだ。


「にんげんさん!! れいむおこってるんだよ!! ぷくぅーー!!!!」

「きいてるのにんげんさん!? いまならまだゆるしてあげるよ! だからあまあまをもってきてね!!」

「おれんじじゅーすさんでもいいよ!! はやくもってきてね!! そのあとしんでね!!」

「きいてるの!? はやくしてね!! くそばばあ!!」


糞饅頭がほざきやがる。オレンジジュースを知ってるのなら元飼いゆか何かか。
まだ水が入り続けているのに、もう安心しきっている様だ。火刑にしたい。

親まりさの方は帽子に乗って浮いている。何も言わないのは口に赤まりさが居るからだろう。
水責めという状況である限り、もはやあの親子は完全に助かるだろう。

「さぁどうかな」

そんな事を思っていたら、Aがそう言ってきた。時々Aは心が読める妖怪なんじゃないかと思う時がある。
はたまたそんな顔をしていたか。彼は勘が鋭い。おかげで山ゆもすぐ捕まえる。
まぁ確かに実験だ。結果を見ないと何も分からない。
水かさはどんどん増して行き、ついに高台の下段をも浸食し始めた。水深が15cmを超えたのだ。


「ゆゆゆ!!? どぼじでおみずさんあがっでぐるのぉぉぉぉ!!!」
「ゆんやぁぁぁぁぁ!! もうにげれないよぉぉぉぉぉぉぉ!!! つかれたぁぁぁぁぁぁ!!」
「おちびちゃん!! ここにのぼってね!! ここならあんぜんだよ!!」

親れいむの指示を受け、最上段に登ろうとする妹れいむ。
小ゆが通れる程度の細い坂道になっており、なんとか這いずりながら登っている。
一方で親まりさの方を見ると、水面に浮かびながら舌を器用に使い、赤まりさを自分の帽子のふちに乗せていた。
そして赤まりさは自分の帽子に乗り、水面に浮かびだした。

「おちびちゃん、ゆっくりとおぼうしにのっててね」
「きょわいよぉぉぉ! ゆぴぃぃぃぃぃ!!!」
「おちびちゃん、おとうさんはいまからおかあさんのところにいくから、ここでまっててね」
「いきゃないで! おとーしゃん! まりしゃきょわいよぉぉぉぉ!!!」


すいすいと伸ばした舌を使い高台に向かう親まりさ。
枝が無くてもこんな事が出来るとは。そのまま高台に到着する。
だが既に水深は30cmを超えていた。
最上段は50cm、下段は15cm。体長30cmの親れいむは、ジャンプしないと体半分が水没する状態だった。


「ばでぃざぁぁぁ!! ゆっぷあ!! だずげで!! でいぶをだずげで!!!」


バッシャンバッシャンと大波を立ててジャンプする親れいむ。親まりさが波で落ちそうになる。
泣きながらまりさに助けを求める親れいむ。いや、むしろ命令している。

「ばでぃ"ざぁ"ぁ"ぁ"!! はやぐだずげろ"ぉ"ぉ"ぉ"ぉ"!! ゆっぷ!!」
「れ、れいむ・・・まりさにもむりなんだぜ」
「どぼじでぞんなごどっぷ!! ゆぶ!!」
「まりさのおぼうしはまりさひとりしかのれないんだぜ。 れいむはおくちにはいらないんだぜ・・・」
「ばやぐ!! だずげろ"!! ごの"げず!! ゆっぷ!!」

非情な現実を突きつけるまりさ。
そうだ。どの道親れいむはこの実験では助からないのだ。ある一つの方法以外では。

「ぞれな"ら"!! ゆっぷ!! こっぢぎでね"!!」
「わ、わかったんだぜ・・・」

まりさが近付く。
きっと最後の頼みか、遺言だろう。そう思って近付くまりさ。助けられない引け目もあるだろう。
だが深く沈み込んだ親れいむは、あろう事か反動を付け、水中からまりさに勢いよく体当たりをしていた。


「!? ゆぶっ!!」(ボチャンッ)
「ゆっぷ!! ごれで!! まりざのぼうじば!! でいぶのものだよ!!」

そうやって帽子を咥え引き寄せるれいむ。
だがまりさも黙っていない。黙っていれば死ぬのだ。透明な水槽の壁越しに水中のまりさが良く見える。
水中でれいむと帽子を挟んで取っ組み合いをするまりさ。ゴボゴボと空気の泡が水面に上がっていく。
やがてまりさはれいむに噛まれ、餡子を流し出した。

危険を感じ必死の形相で浮上しようとするまりさ。餡子が漏れている。

だがれいむはさらにまりさに噛み付き、追い打ちを掛ける様にあんよを噛み千切った。
そしてそのまま高台の下段へと戻る親れいむ。一方のまりさは苦悶に顔を歪めている。

ザバァッ

「ゆっぷ!! やっだよ!! げずはぜいっざいっじだよ!!」

そう勝ち誇るれいむ。
まりさはと言うと地面に着地し、高台下段へとジャンプしようとしていた。
だがあんよを噛み千切られたまりさが地面を跳ねても。
たった15cmの下段にすら届く事が出来ず、何度も跳ね直す始末。勿論届いてもれいむに蹴り落とされる。
そして姉れいむと同じく、親まりさは水中で狂った様に暴れ出した。

狂気で顔が歪むまりさ。

死ぬのを悟ったのだ。もう助からないのを。絶望しか無い事を。
人間だって本当に溺れて上がれないのを理解したら、狂った様に喉を引っ掻いたり暴れ出す。
まりさも同じ様に暴れている。どうしようもないのに、何とかしようと必死である。

だがその必死の形相。苦悶の顔。水中で大きくのた打ち回り、大口を空けて水面を絶望の顔で覗くまりさ。
口でははっきりと「しにたくない」と言っている。「たすけて」と言っている。でも死ぬしかない。
その光景を透明な壁越しに、胸にこみ上げる物を押さえながら眺める私。2度と見れない永遠の瞬間。
そして苦しみ抜いた親まりさは、次第に動きが小さくなり、餡子の大半を撒き散らしてそのまま動かなくなった。


後で聞いたら艶のある顔をしていたとか言われたけど、最高だったわ。


そうこうしている内に水深は40cmを超えていた。最上段は50cm。
まりさにせいっさいっをした後、自分が帽子に乗っても水没してしまう事に気付いた親れいむ。
持ち主と水中で格闘していた際に、帽子が破れてしまったのだ。この実験の唯一の生存方法を…哀れだ。

もはや助かる場所は小れいむの居る最上段しか無い。
小ゆしか乗れない細い坂道を、水の浮力を借りて登っていくれいむ。そして頂上に辿り付く。

「おちびちゃん! おかあさんにそこをゆずってね!!」
「ゆんやぁぁぁぁぁ!! もううごけないぃぃぃぃ!!! つかれたぁぁぁぁぁぁ!!」
「おちびちゃん! おかあさんにそこをゆずらないとおこるよ!! ぷくぅーーーー!!!」
「ゆびゃぁぁぁぁぁ!! どぼじでおこるのぉぉぉぉ!?」

だが移動など出来はしない。何時しか水深も50cm手前。
最上段以外は、一面水溜まりとなっていた。もはやカルネアデスの板そのものである。

「おかーさん、れいむここをうごいたらおちちゃうよ!」
「だまってうごいてね! おかーさんのこなら、おかーさんのためにしんでね!!」
「どぼじでぞんなごどいうのぉぉぉぉぉぉ!? もうやじゃぁぁぁぁぁ!!!」

「とんだげすだね!! もうれいむはおかーさんのこじゃないよ!! ゆっくりしんでね!!」
「やめてね!! おさないでね!! おちちゃうよぉぉぉぉ!!」

ぐいぐいと頂上で押し合う親子。地獄絵図だ。
だが所詮は小ゆの抵抗。親ゆの敵ではない。
業を煮やした親れいむは、渾身の跳躍で小れいむに跳びかかる。ストレスで頭に来ていたのだ。

「はやくしないとおかーさんのからだがとけるでしょぉぉぉぉ!? もうおこったよ!! ゆっくりしね!!」


メメタァ!!


「ゆぷしっ!!!」

ビチャッ、ビチャァッ、と飛び散る小れいむ。水で柔らかくなっていた為、綺麗に弾け飛んだ。
不安定な頂上に乗り一安心する親れいむ。


「ゆふぅ~、これであんしんだよ!! にんげんさん! はやくごはんをよういしてね!!」

「なにしてるの? でいぶおなかがすいてるんだよ!! はやくしてねくそばばあ!! ほんとむのうだね!!」

「ゆゆ!? おみずさんあがってこないでね!! ゆっくりできないよ!!」

「くそばばあ!! れいむをたすけてね!! ほんとにおこるよ!!!」

水深60cm。

「ゆっぷ!! だずげで!! だでが! でいぶをだずげで!!」

水深80cm。

「でいぶはじんぐるまざーなんだよ!! がわいぞうなんだよ!! ゆっぶ!!」

水深100cm。

「ゆっぷ!! ゆぶぁっ!! だずげ!! ぶ!!」

水深120cm。

「…!! ……!! ………!!」




最後はまりさと同じ様に、のた打ち回って動かなくなったのを確認する。

うふふ。やはりゲスの死に様は最高ね。
ザバザバ無様に跳び跳ねて、醜いツラを振りまいて、あんなに水中で暴れ回って。
最後は透明な壁に顔を押し付けて私に哀願。生き汚いのを見せてくれるなんてサービスのつもりかしら。
結局生き残ったのは赤まりさだけね。3時だしこの子をおやつにしましょ。






「…と言う訳よ」
「Aとそんな実験してたのか…。 …まぁお前らは…お似合いだと思うよ…うん…」
「え? ほんとに?」
「おお、おにあいおにあい」
「五月蠅い茶化すな」


赤面しながら足でゆっくりあややを蹴ろうとする代行。当然当たるはずが無い。
ふわりと回避され、奥に逃げられる。

「さぁて長話したけど、小休止したらスポンジ作るわよ。 ケーキのスポンジ」
「あぁ、だが少し休ませてくれ。 さっきの実験話は中々濃かった」
「そぉ?」

だらしないわね、という顔で見る代行。
虐待お姉さんは恐ろしい。
少し休憩していると、逃げたあややが奥からこちらを覗いていた。


「ところであのゆっくりって、値段付けるとやっぱり高いの?」
「希少種だけど…それ以前に私の飼いゆだから、値段は付かないわね」

奥から覗くゆっくりあややは、そんなにきもくない顔でこっちを見ていた。








◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



昼下がり。
ケーキ作りも休憩が入り、多目的室で食事を取る事にした。
近くの飲食店から出前を取ったのは、彼女の計らいである。
今日は休日で加工所も閉まっている。
食後に販売室を見たいと店長が言ってきたので、食後の運動も兼ねて閉店中の販売室に案内した。

「いやぁ販売室なんて名前だから何かと思ったら、ただのいつものショップじゃないか」
「そうよ。 ここが販売室よ」


ゆっくりショップ『Yun-Yah』


それがこのショップの名前であり、当加工所の『販売室』である。
ショップにはゆっくりが入っている透明なケースの棚、ゆっくり棚と。
ゆっくり用品を置く商品棚が並んでいる。

ゆっくり用品とは主にゆっくりを飼育する為の商品の事である。
数種類の餌やゆっくりの家、ベッド、遊び道具など様々な物が置いてある。
どれも手製であり、外の世界の様な量産された工業製品は無い。
また、中にはゆっくり避けの商品もある。ゆっくりは一部の人妖には害獣扱いとなっている為である。


ゆっくり棚とはゆっくりの入ったショーケース棚の事である。
各ショーケースには紙のラベルが張ってあり、『虐待用』『生き餌用』『ペット用』などの説明文がある。

虐待用とはその名の通り無残に弄ばれるためのゆっくりであり、躾などは基本的に行われていない。
生き餌用もふらん種やれみりゃ種を飼う飼い主用の商品である。
「ペットのれみりゃが幸せそうに餡子を吸う姿が好き」、という人間も多いらしい。
少し豪華な御飯という位置付けだ。ゲスゆは加工室送りか、この二つのどちらかに入れられる事が多い。
売れ筋としては虐待用では『泣きゆっくり』などが良く売られている。
当ショップでは委託販売を行っており、虐待用ゆっくりの品ぞろえが多いのが特徴だ。代行の意向も大きい。

ペット用は文字通りペットにする為のゆっくりである。
人里ではバッジシステムを採用しており、他→銅→銀→金の順で価値がある。
他バッジとは『飼いゆである』事を証明する最低ランクのバッジである。バッジなら色や形の指定は無い。

他バッジなら躾等は要らないが、逆に言うと無躾・野良ゆ上がりという指標でもある。
これらのゆっくりは商品としての価値は低く、安価となる。

正直な所、これを買うのは森ゆを捕まえて他バッジを付けるのと変わらない。購入費用は取りに行く労力分の値段だ。
虐待用とは少し違った、「バッジで自分を特別と思ってるゆっくり」を所望する鬼井山向けの商品となっている。
銅バッジ以上なら躾がされており、トイレの仕方や人間の生活などを教育されている。
銀や金はこれに更に付加価値が付く。


ショップに置けるゆっくりの扱いを可哀想と見るかどうかはその人次第だが。
彼らは商品で有り、価値が無くなれば最後はゴミか飼料にされる。
ただそれだけである。


「おうおうショーケースに居るわ居るわ、ゆっくり共が」
「こらこら勝手に開けないで」

「ゆゆ、にんげんさんがきたよ!」
「まりさをかってね! にんげんさん! まりさをかってください! おねがいします!!!」
「ありすはとかいはなゆっくりよ! おねがいかってね!」
「うるさいよ! みんなだまってね! れいむがかってもらえないでしょ!!」

ショーケースに顔を張り合わせて購入を迫るゆっくり達。予想以上の醜態に店長も冷めた目で見ている。
当然私もだし、ここにAが居ればあのゴミを見る様な、素敵な横顔を見せてくれるはずだ。
何故ならこのショーケースには、"在庫処分 全品9割引セール"と書いた紙が貼ってあるのだから。

「この棚のはゲスばかりなのか?」
「ええそうよ。 ここは売れ残りの隔離コーナー。 やはり人間、ゲスは分かるのよ。 売れ残ったこいつらは皆ゲス」
「一匹出して追い回したいな」
「面白そうね、良いわよ。 好きなので遊んで」

この寒い日に来て貰っているのだ。このぐらいはサービスしよう。
それを聞いた店長が選ぼうとショーケースに振り向くと、ゆっくり同士で醜い争いが始まっていた。

「なによ! とかいはじゃないげすなれいむはだまっててね! おおみにくいみにくい!!」
「うるさいんだぜ!! このかべさんがなければゆっくりだまらしてるところだぜ!!」
「ゆんやっぁぁぁぁぁ! ゆぎゅぅぅぅぅう!!」

くやしーしーをしながら涎を振りまき醜悪なツラで悔しがるれいむ。ぺにぺにを大きくしながら罵るありす。
そして踏ん反り返るまりさ。ゲスばかりだ。

「ようしまりさ、君に決めた!」

「ゆっへん!! とうとうまりささまにもどれいができたんだぜ!
 ゆっへっへ、みんなはここでゆっくりしんでね!!
 まりささまはあまあまとふかふかべっどさんでゆっくりさせてもらうからね!! ゆ~へっへ!!」

勝ち誇った顔でショーケースから出るまりさ。
お前の値札を読んでやろうか。おにぎり一つ買えないぞ。
悔しがって発狂状態の他のゆっくりを尻目に、まりさを地面に置く。
全ショーケースのゆっくりがまりさを凝視する。視線でまりさが殺せたら、まりさは何回死ぬのだろう。

「ゆっへっへ! おいくそどれい! もっとまりささまをたかいたかいするんだぜ!
 ほかのゆっくりたちにまりささまのありがたいおことばをきかせてやるのぜ!!」

まだ罵り足りないのだろうか。糞饅頭が踏ん反り返って唾を店に撒き散らす。
掃除を考えた途端に脳天に怒りが沸いて来る。
カウンターに置いてあるスコップで頭をカチ割ってやろうかと思ったが、その前に店長が動き出した。

「それじゃあゆっくりしていってね!!」
「ゆ? ゆっくりし――――――」

ドカッ!! ベチャァァァッ!!!


サッカーボールキックという言葉があればあれを指すのだろう。
ゆっくりしていってねと言い返す暇も無く、顔面を変形させるまりさ。
全力で蹴り飛ばされたまりさは店のショーケースに激突し、餡子を撒き散らして墜落した。

「ゆべぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"え"ぇ"!!」 (ドチャッ)

「来いよまりさ、餡子なんか捨てて掛かってこい!」

意味の分からない事を言いながらまりさを立たせる店長。ステップをして体を温めている。
一方で激突の衝撃と墜落時の衝撃で体の節々が裂け、餡子が漏れ出ているまりさ。
瀕死のまりさが餡子を吐きながら、ノロノロと店長を仰ぐ。

「ゆびぃー、ゆひぃー、やべでねぇ…ばでぃざをぶだないでねぇ…」

ひどいツラだ。
例えるなら愛読している『文文。新聞 ゆ虐号』の夏号に載っていた、
「までぃざはれっきとしたきんばっじゆっぐり」の様な"ひしゃげ"具合だ。
涙と涎と餡子で汚れた、堕ちるとこまで堕ちた醜さである。


「おお、みにくいみにくい!」
「にんげんさん! そのまりさをゆっくりころしてね!! げすはゆっくりしね!!」
「ゆ~へっへ! いいきみなんだぜ!! まりささまがさきにかわれるんだぜ!」

「「「「「ゆっくりしね!! ゆっくりしね!!」」」」」

何時しか見える位置にあるショーケースのゲスゆ達が、まりさに死ね死ねコールを送っていた。
「ゆおおおおおおおっ!!!」という周囲の盛り上がりは、さながら寺子屋で見たローマのコロッセオの様である。
流石廃棄コーナーのゲス共。隣のコーナーの銀金その他の教育に悪い。早急に処分しよう。


「ごべん"な"ざい"ぃ"い"…おでばいじばずぅ、ばでぃざぼだずげべ…」

歯は殆ど折れ、涙と涎を流しながら息も絶え絶えで哀願するまりさ。醜悪なツラだ。
だが和菓子屋が餡子相手に妥協するはずが無い。

「ほら、まりさ。 これをやるからそれで戦え」

そう言ってまりさにゆっくり用品のビー玉を箱ごと渡す店長。後で買い取って貰おう。
まりさはそれを見て尚助けを求めるが、『戦って勝ったら助けてやる』と言われ涙目でビー玉を口に含む。

「ゆっ…ゆっ…どぼじで…までぃざざまが…ごんなべに…」

「さぁまりさ、早く掛かってこい。 ビー玉を吹き飛ばせば俺を倒せるかもな!!」

そう言ってニヤニヤしながらステップを踏んで体を温める店長。
まりさはと言うとビー玉を口一杯に何個も含んで、店長に吹き飛ばす気だ。

「ゆ! ゆっふふぃふぃんふぇね!!」

思い切り息を吸い込み、全力でビー玉を吹き飛ばすまりさ。
ブッ!!っと言う音と共に複数のビー玉が店長を襲う。猟銃の様だ。ゆっくりなら倒せるだろう。
ビー玉が店長の足にバシバシと当たる。効くはずが無い。
一呼吸置いて待ってましたと言わんばかりに全力で踏みこむ店長。



「散弾ではなぁッ!!!」



ドガッッッ!! ベッッチャァァァッ!!!



店の柱にぶつかり、今度こそまりさは四散した。
観客のゲスゆっくり達は喜んでいたが、代行の言葉にすぐに恐怖する。

「和菓子屋を馬鹿にするとああなるわよ」
「ゆんやぁぁぁぁぁぁ!! "わがしや"さんはゆっくりできないぃぃぃぃぃぃ!!」
「あとあんた達、来週売れなかったら処分だから」
「ゆ"ん"や"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!! だれがだずげでぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"!!」

あのゲス共は、年始のお汁粉用に処分だな。
この職業は餡子を使った行事には事欠かないのが救いだ。

勿論壁や床にへばりついた餡子は、店長に掃除させた。








◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



多目的室に戻る為、店長と共に販売室を出る。
だが『生産室』の前を通りかかると、今度はそこを見たいと店長が言って来た。
そういえばさっきは赤ぱちゅりーを取る為だけに行ったから、店長も余り中は見ていない。
見学ツアーでは無いのだが…まぁ良いだろう。
ちょうどチョコクリームも必要なので、再び生産室に足を運んだ。

「おぉ~これが生産室か…。 やはりケースだらけだな」
「まぁ生産目的の部屋だからね。 大層な物は無いわよ」

部屋には大量のゆっくり棚と、ゆっくり用品が置いてある棚があった。
あとは机や椅子など、作業場所が一角にある程度。

「どうやって生産してるんだ?」
「うちは特には何もしてないわね。
 森でゆっくりを捕まえて来て、どさどさと向こうの柵の中に入れるだけ」

そう言って部屋の奥の方を指で指す。確かに向こうだけゆっくり棚が無い。
案内すると、そこには森を再現した様な『小さな人工の森』が存在していた。
木板の囲いで囲まれたその空間は、土が盛られ人工の木も有り、まさにゆっくりぷれいすと言える空間だった。


「ここに成体のゆっくりを20匹ぐらい入れるでしょ?
 そしたら勝手に番になりだすのよ。 あとは番を向こうの生産ケースにそれぞれ入れるだけ」
「なるほど…でも良くそんないい加減で生産出来るな……」
「好き者同士の方が勝手に子供を作るから良いのよ。 一応餌には"その気"になるのを入れてるわよ」
「ああ、餌に入れてるのか…何を入れてるんだ?」
「れいぱーの餡子」

つまりこういう訳だ。
ゆっくりの餡子にはそのゆっくりの記憶情報が残るらしい。
それを食べると情報を引き継げると言うのだが、それは『塊』を食べた場合の話だ。
同じゆっくりの餡子を一定量食べないと、大部分の情報は引き継がれない。強い情報の一部だけが引き継がれる。
その強い情報と言われる物の大半が『感情』で有り、死んだゆっくりでは死に際の感情となる。

この加工所ではこれを利用して効率良く、低コストで生産を行っている。
れいぱーを発情させた状態で殺し、その餡子を小麦粉などに混ぜ粒上にすると、餡子の情報は分断される。
だがその一粒一粒には、生前の感情である『発情』が強く残っているという訳だ。
後は食べたゆっくりが"その気"になり、すっきりーして子供を馬鹿みたいに増やしていく算段だ。


「なるほど…。 だからこの生産ケースは大きめなのか」

通常、ゆっくりは赤ゆがピンボール(直径3cm)程の大きさだ。
それが子ゆでソフトボール(直径10cm)程になり、成体でバスケットボール大(直径25cm)程になる。
当加工所の生産ケースは縦70横60高さ60と、かなり大きなサイズとなっていた。
親2匹と赤ゆ10匹ほどは確実に入る大きさだ。小ゆになっても有る程度まではスペースを確保出来る。

「生産ケースが大きいのは加工所が少ない理由にも直結するんだけどね」
「ああ…やっぱりか」

店長が何とも言えない顔をする。


「閻魔の姿を目の当たりにして、地獄を否定する人間は居ないでしょう?」


そうだ。
これこそが幻想郷で加工所が流行らない理由なのだ。
誰かの命を奪う行為は、罪深いとされる。
だからこそ日本人は"貴方の命を頂きます"という、「いただきます」という食事の言葉があるのだ。
それは他者への感謝の気持ちを表す言葉。誰かの命で今日生きれる事への感謝と償いの言葉だ。
普通に食べたり害獣として殺すぐらいならまだしも、誕生から死ぬ瞬間までを商売の為に運営・管理する『加工所』。
死後の世界が不安になるのも当然である。故に加工所の成り手は少ない。

だからこそ。
ゆっくりの命で生計を立てているこの加工所は。
せめてもの感謝として「良い生活空間」を提供しているのだ。

ゆっくりを殺すのがどの程度の罪になるのかは知らないが。
ただの保身であろうと、偽善の上でしか善は成り立たない。
聞こえの良い"無償の善行"すらも、実態は自己愛を得ているのだから。


「でもそれだと虐待はどうかと思うけどなぁ…」
「ゆっくりも暴言吐いて人間様の心を傷付けるでしょう? そこは差し引き0よ」

そう言いながらチョコクリームの元を探す代行。元とはちぇん種だ。



生産室のゆっくり棚には、番になったゆっくりをそのまま各ケースに入れて行く。
その為何処にどの種の生産ケースが在るかはコロコロ変わり、ケースを一つ一つ見て行くしかない。
地図を作れば良いのだが、面倒で行っていない。

「ケースが大きいのは放置出来るのも含めて、か…」
「御名答」

商売でやっている以上、善意だけでケースを大きくはしない。偽善の土台には打算がある。
大きいケースならば多少の間を放置していても、増えすぎて場所が足りず生産が停止したりはしないのが利点だ。
取りあえずゆっくり棚を一つ一つ見て行く2人。
普段はゆっくりあややに手伝わせているが、作り掛けのケーキの前で見張らせているので今は居ない。

「そんなにきもくない丸を連れて来たら良かったな」
「ほんとそうね…あ、居た居た」

ようやくちぇん種の居るケースに辿り着いた。








◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「ゆゆ、おそらをとんでるみたいだよー!」
「わきゃるよー、おしょらなんだよー」
「「「「おしょらをとんでるみたいだよー!わきゃるよー!」」」」

「らんしゃまぁぁぁぁぁぁぁ!!! わからないよぉぉぉぉぉ!!!」(ポヨンポヨン)
「ちぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!! にんげんざんやべでぐだざいぃぃぃぃぃぃ!!!
 あがじゃんをがえじでぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"!!!」(ポヨンポヨン)

「らんは生まれて無いか…まぁいいわ。 子供は貰って行くわよ。 ゆっくり産んでね!」



ぽいぽいとちぇんをボウルの中に入れていく。赤ゆ子ゆが10匹20匹とボウルの中へ。
目の前に居るのはちぇんとらんの番のケースだ。らん種が生まれないかとずっと生産しているが、やはり駄目な様だ。
子供はちぇん種ばかりなので、今のところ全員チョコにしている。
やはりケースの高さを高くした甲斐があった。ぽよんぽよんと泣きながら跳ねてくれて眼を楽しませる。
ケースを大きくすると生産数は落ちるのだ。このぐらいは見返りだろう。

「らん種って貴重なんだろ? 生産出来ないのか?」
「らん種はどうもゆかりん種としか生産が確認出来ていないのよ。
 希少種には組み合わせがあるみたい」

そう言ってちぇんをかじる代行。一口饅頭の赤ゆであるちぇんは、悲鳴を上げながら痙攣する。

「わ"ぎゃ"ら"な"!!!・・・ゆっぎっ、ゆぴっゆぴっ…」

「おちびちゃぁぁぁぁぁぁぁん!!! ゆんやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ちぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!! ちぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!!」

ケースに顔面を擦り付けながら叫び、飛び跳ねながら泣き喚きまくる親らん。その様は背筋がゾクゾクする。
親ちぇんもその後ろで泣きながらぽよんぽよんと飛び跳ねまくり、悲しみを全身で表現する。
今この瞬間だけは、ゆ虐こそが全てだ。
口の中に広がる甘いチョコクリームを舌で味わいながら、絶望のオーケストラに酔い痴れる。

「どのゆっくりが貴重なのか分からん…」

隣で店長が神妙な顔で呟く。
危うく独りの世界に行きそうだった。

「貴重で思い出したけど、ゆっくりが魔法を使えるって知ってる?」

一般の人間には余り知られていない事を聞いてみる。
これを知っているか居ないかで、貴重の尺度が変わるのだ。



「ゆっくりが魔法を?」
「ええそうよ。 というよりゆっくりは普段から魔法を使ってるのよ」

ゆっくりが使う魔法。
正確にはゆっくりは魔法を使っていない行動の方が少ないと言える。
ゆっくりは日常的にあらゆる行為に魔法を使っている。活動の補助としてだ。

代表的な物はまりさの水上移動能力だ。
まりさの帽子を奪いゆっくりと同じ重さ・大きさの餡子玉を浮かべて見たが、すぐに沈んだ。
餡子というのはとても重い。あの帽子では沈むのは当然だ。
だが奪った元のまりさを乗せると、浮かんでいたのだ。


「魔法なのか?」
「ドススパークが一番分かりやすいけど、あれは誰が見ても分かる魔法でしょ」
「あれは魔法だな」
「どのゆっくりも魔法が使えるのよ。 全種族共通のもあれば、種族毎の魔法もあるの。
 帽子の実験で分かったのは、赤まりさなら帽子の中に同じ餡子玉を載せても、沈まずに浮いてた事ね」
「浮いてたのか…というと?」
「赤ゆは魔法が使えないか、弱すぎるのよ。 成長するにつれて魔法の効果も大きくなるの」

ゆっくりの赤ゆはぜい弱な生物だ。
一部の赤ゆは飛び跳ねる事すら出来ず、這いずり回るだけの者も居る。
これは発育が悪かった時に起きるが、正確には魔法の出力不足で「飛び跳ねれ」ないのだ。
まりさの帽子も同じであり、赤ゆ時代は帽子単体、自然の浮力のみで浮かべる様になっているのだ。


「ドスまりさが飛び跳ねるのなんて、完全に眼に見えない何かの力が働いてるでしょ。 あれ」
「まぁ確かになぁ。 あの巨体で跳ぶのなら、皮がどうみても薄いしなぁ。 跳んだら破けるのが自然だ」
「ゆっくりの行動の殆どは魔法の補助が入ってるのよ。 巣とかも枝だけじゃあんなに綺麗に掘れないわ」

氷の妖精とかが居るのだから、ゆっくりはさしずめ"饅頭の妖精"って所だろう。というのが代行の結論である。
妖精とは精霊で有り、存在自体が魔法そのものである。ならばゆっくりも魔法が使えて当然であろう。

「そこで魔法を使うゆっくりを調査し始めたら、ちょうど価値の基準が大きく変わる様な物に出会ったの」
「なんだなんだ? はやくはやく」
「ゆっくりゆかりんよ」


ゆっくりゆかりん。
希少種の中の希少種。
僅かな隙間があれば体を滑り込ませる事が出来、自然環境ならほぼ何処にでも侵入出来る特徴を持つ。
また知能が高いという特徴も有り、人間並の知能の個体も存在する。
ただし戦闘能力は通常種並みで、体は柔らかいが皮は普通に傷付く。滑り込む時だけ皮が強化される。

「そのゆかりんが何かあったのか?」
「ゆかりんには2種類のタイプが居るのが分かったのよ。
 一つは普通のゆかりんと、もう一つの『スキマ』を生み出すゆかりんが居るの」
「スキマって何だ?」
「スキマって言うのは例えにくいんだけど、空間に穴を空けてホースみたいに二つの所を繋げる魔法なのよ」




代行が調査して確認したのは、森に居たゆかりんの魔法である。
そのゆかりんはらん種と番になって暮らしていた。
ゆかりんをなんとか捕獲しようとした代行は、Aに頼んで番のらんを捕まえて来て貰ったのだ。

完全密閉した透明な生産用ケースの中にらんを閉じ込め、多目的室の中に置いておく。
部屋の窓をほんの少しだけ空け、ケースの隣で布団を敷いてゆかりんが来るのを待つ。
来たら適当にはぐらかして窓を閉め、後は捕まえる算段だった。

ゆっくりあややも動員して、夜間の監視も問題無い。
そして布団の温かさに襲われ眠りこけていた深夜に、あややに叩き起こされたのだ。

「おおごしゅじん、すきますきま!!」
「んん? え? "すきま"?」

急いで眼を空けらんを見る代行。ゆかりんが来たのだろうと思い、窓の方を見るが誰も居ない。
らんが逃げていないかを確認する為、ケースを見る。蝋燭の光で照らされているケース。
だがそのケースの中には、両端にリボンが付いた怪しい『穴』が空中に現れており、
その中からゆかりんが体を乗り出して来ていた。

「んんん? ・・・なにこれ!??」

完全密閉したのが仇になりケースの中には手出しが出来ず、その周りに張り付く始末。
深夜に蝋燭で照らされ、透明な板越しに見える光景。それはスキマに入っていくゆかりんとらんの姿であった。




「それがスキマか…」
「ええ…、そのあとすぐにあややに周りを探させたら、付近の森に2匹が居たのよ」
「箱から森に移動したのか」
「その後またすぐにスキマで移動して、あややが見失ったんだけどね。
 まぁそういう訳で魔法が使えるゆっくりと使えないゆっくりがいるのよ。
 それも種族毎に魔法が違うみたい」
「ほぉ~、つまりその『種族毎の魔法が使えるゆっくり』が貴重な訳か・・・。
 …もしかしてゆっくりふらんの4匹に分身する奴もか?」
「アレもそうね。
 ただふらんは何十匹かに1匹はそれが使えるみたいだけどね…。
 どうもその"魔法が使える比率"も種族毎で違うみたい」

俺も捕まえてこようかなぁ~と言いだす店長。
まぁ持ってきたら買い取るだろう。
それなら大物を頼んでおこう。

「それなられいむ種が良いわよ」
「れいむにもあるのか?」
「ええ、なんでも"結界"を操作出来るらしいわ。 寺子屋の先生の又聞きだけどね。
 誰も見た事が無いから比率は分からないけど、多分相当低いわよ」
「れいむとか掃いて捨てるほど居るぞ…ほんとに居るのか?」
「見つけれたら奇跡のれいむね。 幻想郷に1匹居るか居ないかよきっと」


そう言いながらちぇんを噛む続ける代行。もちもちとした食感はチョコまんというべきか。甘くて美味しい。
店長も何個か食いながら雑談をしている。赤ゆは間食に最適である。
そして姉妹が次々と食べられていく様を見たボウルの中のちぇん達は、地獄の様な恐怖に襲われていた。

姉妹を押しのけ自分だけが助かろうする生存競争。食われる姉妹を見て餡子を吐き出す赤ゆも居る。
妹を心配する殊勝な姉も中には居たが、ちぇん種特有の自分可愛さ、薄情さがボウルの中を支配していた。
だが逃げれる筈が無い。阿鼻叫喚の喧噪の中、ボウルの中はさながら地獄の鎌の底であった。
そのBGMをバックに、更にちぇんを追加して多目的室へ帰路に付く2人。



ワキャラニャイヨォォォォォ!! ランシャマァァァァァァァァ!!
ヤメチェニェ!! チェンノ イモウチョヲ ムーシャムーシャ シニャイデニェ!! イチャガッチェルヨ-!!
ユンヤァァァァァァァァ!! イチャィィィィィ!!
ユプッ ユゲェェェェェ モッチョ ユックチ
オトーシャン! オキャーシャン! ユンヤァァァァァァァァ!!

オネェチャンヲ タスケナイナンテ トンダ ゲスイモウトダヨー!! ミンナハ オネチャンヲ タスケテネー!!!
プリンプリン ガタガタ
オネェチャン ヤメチェニェ!! ブチュゥゥゥゥ
ユピィィィィィィィィ!!
ヤメチェネ!! イチャイコチョシニャイデニェ!! オモィヨォォォー!!
オネェチャン フマニャイデニェ!! チュブリェリュゥゥゥゥゥゥゥ!! ブチュゥゥゥゥ
ユンヤァァァァァァァァ!! ユピィィィィィィィィ!!



当然、何匹か食べながら帰っていった。








◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



多目的室に戻り、ケーキ作りを再開する。

「おおごしゅじん、おそいおそい」

ゆっくりあややがお出迎えする。口の周りにクリームが付いている。

「食べるなって言ったでしょ? 餡子脳なの~?」

そう言ってあややを両手で捕まえて左右から押し潰そうとする。
金バッジの教育も出来るのだが、あれはもはや"ゆっくりでは無い何か"になるので、あややにはしていない。
この少し足りない方がゆっくりらしい。

「ゆぶぅぅぅぅ!! おおごべんばざいごべんばざい…」

顔をひしゃげながら必死に謝り、なんとか許して貰ったあやや。ささっと逃げる。


「でも、お高いんでしょう?」
「売らないわよ」


ケーキ作りを再開した。




ケーキと言ってもそれほど難しい食べ物では無い。
単にスポンジ部分の用意が面倒なだけで、そこが出来れば後は生クリームを塗ったり
果物を挟んだりスポンジを2段3段と重ねたりして、味や食感を変えるだけだ。
「ケーキを作る」「ゆっくりも嬲る」
両方やらなきゃいけないのが結婚適齢期の辛い所だが、なんて事は無かったわ。

午前中にスポンジは用意したので、後はクリームや果物を乗せて行くだけだ。
チョコベースのケーキと生クリームベースのケーキを用意し、準備は万全。
大きさも共に2~3人用だ。多くも少なくも無い。

概ね出来あがり、もはやケーキ作りも終わり掛けていた。
店長がボソリと呟く。


「しかし、Aのどこが気に入ってるんだ?」
「え!?」

突然顔を赤らめる代行。
さっきらんの泣きっぷりを恍惚とした顔で見ていた人間と、同一人物なのかを疑いたくなる。

「い、いいでしょそんなこと! はいはい早く仕上げして!」
「はいはい ゆんやぁぁぁぁぁぁぁぁ」

そういって生クリームを乗せて行く店長。
悪いがその思い出は大事にしておきたいので、言えないのだ。





時刻は夕暮れ。
ケーキも作り終わり、ひとまず店長が必要な準備は終わった。

「有難う、助かったわ」
「それじゃ、そんなにきもくない丸は貰って行くぜ」
「黙れ」
「ゆんやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

そう言って加工所を後にする店長。
いやいや助かった。
後で餡子5kgを送っておこう。
外は雪が降っている。
私も今日は家に帰ってもう寝よう。
そのまま帰り支度をし、加工所近くにある家への帰路に付く。


そしてその晩、ある夢を見た。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



夢の中は秋の季節であった。
時刻は夕暮れ。
10歳の私は、独りで山に入っていた。
何をしに行ったのかは覚えていない。
ただその時、森で大きなゆっくりに出会ったのだ。


「ゆあああ!! にんげんさんだぁぁぁぁ!!」
「ゆびぃぃぃぃぃぃぃぃ!!! こわいよぉーーーー!!」
「くるんじゃないぜぇぇぇぇぇ!! おちびちゃんはにげてね!! ゆっくりしないでにげてね!!!」


目の前に居るのはゆっくりの群れ。
そうだ。何故か私はこの群れと出くわしたのだ。
枝を咥えて震えながら私を睨む親ゆっくり達。小ゆ達は泣き叫んでいる。
そして森の奥から、あの大きなゆっくりが出て来たのだ。


「どすぅぅぅ!!! みんなをたすけてね!!!」
「どすぅ!! このにんげんさんをゆっくりたおしてね!!」
「にんげんさん!! もりのおやさいさんはみんなのものだよ!! ひとりじめはゆるさないよ!!」


秋のゆっくりは越冬の準備をしている。
この群れにはドスが存在し、そのドスは群れの為なら人間相手でも争いを辞さないタイプだった。
ドスは180cmほどもある巨体。
そのドスが私に対して、体当たりをしてきたのだ。


ボスン!!


「きゃあっ!!!」(ドサァッ)
「どすはひとりじめをゆるさないよ!」

「ゆゆ!! このにんげんさんよわいよ!!」
「おおよわいよわい!! このにんげんさんつよくないよ!! かてるよ!!!」
「ゆゆ!! よわいならこわくないよ!! ゆっくりしんでね!!」

「どすぅぅぅ!! はやくそのにんげんさんをころすんだぜぇぇぇぇ!!!」
「ゆっくりしね!! ゆっくりしね!!」


「「「「「「「 ゆっくりしね!! ゆっくりしね!! 」」」」」」」



余りの体格差に、ボールの様に吹き飛ばされる私。
顔を地面ですりむき、全身は地面に強く打っている。受け身なんて知る訳が無い。


体長180cmもある巨体が、私に体当たりをしてくる。そして睨み付けてくる。
周りの小さな奴らも、ゆっくり死ねと言ってくる。
怖くて足が動かなかった。痛くて悲鳴も出せなかった。





でもそこに、『その人』が来たのだ。






「ゆゆ!! またちいさいにんげんがきたよ!!」
「どす!! はやくこいつもせいっさいっしてね!!!」
「どすぅぅ!!! ふみつぶすんだぜぇぇぇぇ!!!」

「にんげんさん!! みんなをおこらせるなんてもうゆるさないよ!!
 どすすぱーくでせいっさいっだよ!!!」
「…」


「「ゆっくりしね!! ゆっくりしね!!」」
「「ゆっくりしね!! ゆっくりしね!!」」
「「どすぅぅぅぅ!! ゆっくりころしてね!!」」



一人の少年が、私の方に歩いてくる。

その人は私と同じ罵声を浴びせられている。なのに顔色一つ変えずに歩いてくる。

そして私の前に来て、ドスまりさと対峙する。

少年の背中が見える。背中越しに少年より大きなドスまりさが見える。

きっと私と同じ様に、吹き飛ばされると。そう思って見ていた。



「にんげんさんをどすすぱーくでせいっさいっするよ!! みんなはなれてね!!」

「ドス」

「なににんげんさん!! いまさらいのちごいなんておそいよ!!!」

「ドス、先に言っておく。俺に攻撃しようとする度に片目を貰う」




その人が何を言っているのか、分からなかった。




でも次の瞬間、その意味が分かった。





「ゆ!? ばかなの? あんこのうなの?
 そこのおちびちゃんみたいに、どすがせいっさいっしてあげるよ!!! ゆっくりしんでね!!!」

そう言って体当たりをしようとするドスまりさ。
飛び跳ねようと縮んだのだろう。ドスの頭が低くなっていく。
だがその瞬間、少年は手に持っていた有る道具を。
眼にも止まらぬ速さで振り下ろしていた。





バズゥッ!!!!






「ゆぎびぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"!!!!
 あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!!」


悲鳴を上げ、のたうち回るドス。見れば餡子を撒き散らしている。
後ろからでも分かった。
少年が、ドスを「斬」ったのだ。


「ゆぎびぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"
 い"だい"い"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"!!!」

「…」

「ぎぎぎっ、ど、どすすぱーくでころしてあげるよ!!!! どすをおこらせたね!!!」


そうやって大声で叫ぶドス。声の張りで分かる。確実に怒っている。
だが少年は身じろぎ一つせず、ドスと対峙している。
空は曇り空で太陽は傾き、陽はドスの後ろに落ちていた。
私の眼には、後光がその人を包み込んでいる様に見えた。

そしてドスの言う通り、ドススパークが少年に放たれる。



眩い白い閃光が辺りを包み、思わず目を細める。



ボッ、と言う音と共に、燃え出す少年。
ドススパークとは熱線を放ち対象を燃やす、ドスまりさの魔法だ。
引火と言うゆっくりにとっての致死のダメージを与える為、ドスはゆっくりの世界では王者なのだ。
だがそれは人間に対しても有効だ。受ければ衣服などは燃え出し、露出部は大やけどをする。


全身が炎に包まれる少年。


だがそれと同時に、ドスまりさが大きな悲鳴を上げ転げ回る。




「ゆ"ぎゃぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁぁ"ぁ"ぁ"ぁ!!!!
 い"だい"い"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"!!!
 な"に"も"み"え"な"い"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"!!!
 だずげでぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"!!!!」




そうだ。
少年は宣言通り、ドスまりさの両目を「斬り」潰していたのだ。
ドススパークを避け無かったのは、きっと。

後ろに、私が居たから。

仁王立ちで、私を庇ったのだ。




全身が炎に包まれる少年。


だがあろう事か、その少年は炎に包まれてなお。


「もう眼が無いな。 次はどこが良い?」



炎を纏った少年の向こうで、のた打ち回るドスまりさが見える。

振り上げられる道具。
その先端に付いた刃が次々とドスまりさに突き刺さり、切り裂いていく。


「い"だい"い"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"!!!
 やべで"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"!!!
 だずげべぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"!!!!」



曇り空はにわか雨となり、いつしかさぁさぁと降り出していた。



「どすぅぅぅぅ!! なにしてるのぉぉぉぉぉ!!?」

「や、やべでね!! ごっぢごないでね!!」

ヒュン

「ゆぶぅう!!!」(ドチャッ!)

「ゆべぇ!!!」(ヒュパッ!)


振り上げられる道具。
その先端に付いた刃が次々とゆっくり達に突き刺さり、餡片を撒き散らせていく。


曇り空は通り雨となり、いつしか轟々と降り出していた。












少年が持つ武器は、スコップと呼ばれる道具であった。
金属製の刃は、人の首すら刎ね跳ばせる。それはそれは鋭利な「凶器」。


少年の身の丈を超えるスコップ。
それは余りに重厚だった。
それは余りに禍々しかった。

重く、厚く、そして何より禍々しい。


それは、まさに「鉄塊」だった。



振り上げられる道具。
その先端に付いた刃が次々とゆっくり達に突き刺さり、餡辺を撒き散らせていく。




私はただ、その光景を。呆然と見ているしか無かった。






雨が通り過ぎた後。
太陽はまだ少年を後ろから照らしていた。引火した火はとっくの昔に消えている。

雨に濡れ下ろされた髪。
綺麗な瞳がこちらを見ている。
後光が差しているその人を見て私は。

私は、恋に落ちたのだ。









◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



今日は12月24日。どこぞの宗教では由緒ある日らしい。
加工所の代行に夜から呼ばれているが、その日の昼も呼ばれている。
と言う訳で加工所隣の甘味処に着いた。


「とんでもない寒さだ」
「なぁに、きっと今日から独り身の恋しさを羨むよ」
「?」


呼び出し相手はこの甘味処の店長だ。古い付き合いで、色々と「持ちつ持たれつ」な関係だ。
理由は分からんが今日は飯を奢ってくれるらしい。

「しかし何でまた鰻なんだ? 旬は夏だろう」
「いやいや、精が付くんでな」
「体力でも落ちてるのか?」
「いやいや、お前だお前」

まぁ確かに農家の俺は、冬はそんなに動かない。
衰えてると言う気は無いが、有りがたく食べさせて貰おう。

「ほいこれ錠剤」
「?」
「竹藪の医者製だ。 取りあえず、元気になるから今日は飲んどけ」
「まだ25だぞ」
「30超えたら元気も無くなるんだよ。 俺みたいに」

あと5年ある気がするが、まぁ良い。有りがたく貰っておこう。


「ところで今日はどんな日か知ってるか?」
「余り良くは知らんが、ケーキを食ったりする日だろう?」
「今日は恋仲の男女が仲良くする日だ」
「そうなのか」
「ああ。 まぁ俺には縁が無いがな」

俺にも無いと思うが。
農家童貞25歳。
和菓子屋童貞32歳の彼は良き友である。
世代を超えた友情と言う奴だ。


「まぁそんじゃ食べたし、暇ならその辺でくつろいでてくれ」
「助かる。 時間まで外に出る気も無い。 炬燵の中で暖まる」
「ちなみに睡眠何時間取った?」
「良く寝て来た」
「何も言う事は無い」


結局夜まで甘味処で寛ぐ事にした。
そのまま彼女の家へ向かう事にした。


「それじゃ行ってくる」
「ちなみに身は清めてるよな?」
「俺は綺麗好きだ」
「何も言う事は無い」

「また来年な」
「ああまた来年」

ガラガラ・・・ぴしゃり


「やれやれ、まぁ俺に出来るのはこの程度だな」

「さぁて文ちゃんの新聞でも読むか」

「ロンリークリスマスだな。 32回目の」







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



甘味処を出て代行の家へと向かう。
歩いて10分程の距離だが、雪が降る夜に移動するのは堪える。
などと考えている内に到着だ。近くて助かる。

「良く来たわねA、上がって上がって」
「ああ。 寒くてかなわん」

そうやって家に上がらせてもらう。
中は温かく、薄着でも大丈夫な気温になっていた。
部屋に入るとゆっくりあややがお出迎えをする。

「おおだんなさま、ごゆっくりごゆっくり」
「ああごゆっくりごゆっくり」
「ちょっとあやや、向こう行ってなさい」


居間に上がり炬燵に入る。そのすぐ横は寝室の様だ。
代行は鍋の用意をするらしく、台所を行ったり来たりしている。
酒もあるし言う事無しだ。今日は呑もう。

だがあややがにやにやしながらこっちを見ている。意味が分からん。
目を合わせていると、あややが寝室のふすまをスススッ、っと薄く開けた。
丁度代行も台所に居る。
何があるのか覗いてみよう。





鍋も始まり酒も進んで来た。既に半分は食べ終わっただろう。
2人ともゆ虐話に花を咲かせたり、他の話をしたり。

「ち、ちなみに話が変わるんだけど」
「ん?」

悪いが両方酔っている。

「今日、この雪の中、家に帰る?」
「…」
「…」
「…寒いので帰りたくはない」

嘘は言っていない。外は寒い。

「そ、そう! 丁度そんなところだろうと思ってた所よ!
 布団もあるし今日は泊まりなさい!! いいわね!!」
「おお、ひわいひわい」
「あややこっちにきなさい。 あんこのうなの~?」
「お、おおお、お、こわいこわい」

酔ってるせいで両方顔が赤いが、別に良いだろう。部屋が熱いのだ。
だがお節介も多い様だ。感謝しておこう。



その日は、いつもより長く起きていた。










◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇








「ふああ、今年もロンリークリスマスか」

一人酒を飲みながらごちる。
深夜も深夜、酒とつまみが進む進む。


「に、にんげんざん! ばでぃざをぼうゆるびで・・・」


炬燵の上に乗っているのはまりさだ。
酒が入り興が進み、店長はこのまりさを叩いたり殴ったり引っ叩いたり叩いたりしていた。
まりさは顔がはれ上がり、死なないのだが酷い痛みに襲われていた。

「お前『ゆ~へっへ! いいきみなんだぜ!! まりささまがさきにかわれるんだぜ!』って
 俺に言ってたよな? 飼ってやったのに何だその言い草は」

「ふ、ふつうにがっでぐだざい・・・」

今日は俺も酔っている。

「なぁまりさ、お前『根掘り葉掘り』って知ってるか?」

「ゆ・・・?」

「なぁまりさ、お前『根掘り葉掘り』って知ってるか…?」

「じ、じらない・・・」


今日は俺も酔っている。


「………『根堀り葉掘り聞き回る』の…『根掘り葉掘り』…ってよォ~~。
 『根を掘る』ってのはわかる…。
 スゲーよくわかる。 根っこは土の中に埋まっとるからな…。

 だが『葉堀り』って部分はどういう事だああ~~っ!?
 葉っぱが掘れるかっつーのよーーーッ! ナメやがってこの言葉ァ超イラつくぜぇ~~ッ!!
 葉っぱ掘ったら裏側へ破れちまうじゃあねーか! 掘れるもんなら掘ってみやがれってんだ!
 チクショーッ。 どういう事だ! どういう事だよッ! クソッ! 葉掘りってどういう事だッ!
 ナメやがって、クソッ!クソッ!」

バシッ! ガスガスガスッ!! ドラドラドラッ!! メメタァ!!

「やべで!! ゆびぃ!! ぶべっ!! びぃ!! ぶっ!! べっ!!」







ゲスゆコーナーで他バッジが付けられていたまりさに平穏は無い。
今日も明日も店長の「可愛がり」を受ける。
飽きたら餡子になる。
ただそれだけである。

きっとドスが助けに来てくれる。
でもドスを見た事が無い。
生まれも育ちも加工所だから。
いつ来てくれるのかなぁ。
はやく来て欲しいなぁ。

そうして、まりさは考えるのを止めた。








HAPPY END!!










おしまい









◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






■作品時系列

25歳 春
25歳 夏
25歳 秋  町人Aの憂鬱 ~森の中の切れ込みまりさ~
25歳 冬  町人Aの逢引 ~所長代行とゆっくりあやや~
26歳 春
26歳 夏  町人Aの憂鬱 ~森の中の切れ込みまりさ~(Epilogue)



【後書き】
「実はゆうかの話を書いてたら冬になったんで、お蔵入りにしてこっちを先にアップした」
「どぼじでそっちもあげないのぉぉぉぉぉ!」

今回は幻想郷の加工所(とクリスマス)というテーマで書いたので、こんな話になっています。
どちらかと言うとゆっくり中心というより人物中心のSSになってるのが特徴ですが、
もうあと数作品ほど書きかけがあるので、出来たらアップしたいなぁと思います。

強引にアップしたにも関わらず投下がイブには少し遅れましたが、
それでは皆さん良いクリスマス&お年を。


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このSSへの感想 ※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね!
感想

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  • 良い話だなー!

    閻魔の存在のため、配慮するのと、ゆっくりたちの魔法の話が良かったです。

    最初のげすでいぶは死ね! -- 2010-10-24 09:58:43
最終更新:2010年01月08日 09:24
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