ふたば系ゆっくりいじめ 680 われときて

われときて 8KB


虐待-普通 愛護 悲劇 自業自得 駆除 野良ゆ 虐待人間 愛護人間 スパロウ

 山に囲まれたこの平野が開墾されてから、もうどれだけ経ったか。
 当初はところどころに樹木が立ち、背丈ほどの草が密集して生い茂り、とても田畑など
考えられるような場所ではなかった。
 それでも自分も仲間も、あきらめることなく根気強く土地と向かい合った。
 木を切り、草を刈り、石を取り除いて、土を耕した。
 成果は次第に現れていった。わずかずつではあるが、大地は努力に応えてくれた。
 今は水面のように波打つ稲穂が目にまぶしい。実る野菜は収穫の時を待っている。
 素晴らしい光景だ。
 足下に大勢のあふれた汗が染みこんでいる。そのことを知っていればこそ、なおさらそう思う。
 労無く手に入れられるものなど存在しない。長い年月の中で、注ぎ込んできた多くのものがある。
 そして、犠牲にしたものも、また。
 ゆっくりと接触したのは、ここに足を踏み入れてからのことだった。


「ゆっくりしていってね!」
 そう鳴きながら、球形の動物がこちらに近づいてきた。
 枯れ草の向こうから急に飛び出してきたので、少し驚いた。
 仕事が一段落して、地面に腰掛けて握り飯を食べているときだった。
 手まりほどの大きさの身体に、何とも言えない笑顔が全体に広がっている。
「ゆっくりしていってね!」
 もう一度鳴いた。
 この鳴き声から『ゆっくり』という名前が付けられている。ブッポウソウと同じ由来だ。
 いや、実際のブッポウソウの鳴き声は違っているから、カッコウと同じ由来と言った方が適当か。
 そんなことを考えていると、ゆっくりは大きな頭そのものの身体、それに匹敵する大きさの
赤い髪飾りを揺らしてこちらを見上げていた。
「ゆー」
 人間が怖くないのだろうか。
 こちらはもちろんゆっくりを畏れることなどない。この饅頭型小動物は人畜無害だと聞いている。
 握り飯を一口かじった。
「ゆゆっ」
 ゆっくりが目を大きく開けて、身体を伸ばす。
 もう一口かじる。
「ゆっゆっ」
 ゆっくりは上下に跳ねた。
 どうも握り飯に興味があるようだ。
 端をむしって地面に投げてやる。
「ゆっくりしていってね!」
 すぐに飛びついて、こちらをチラチラと見ながら飯粒の塊を口に入れた。
 犬や猫と変わらないな、と思いつつ見ていると、
「ゆゆー!」
 満足したような声を上げた。 
 もう少しやってみようかと握り飯に指を乗せたところで、多くの鳴き声が同じ薄黄色の草むらから
やってきた。十匹ほどのゆっくりだった。
 先ほどの赤い髪飾りをつけたのと同じ種類のものや、黒い帽子を被ったような違う種類のものが
ぞろぞろと近づいてくる。アマガエルのように跳ねたり、ガマガエルのように這ったりして。
 人間を恐れてないのかとさっきは思ったが、きちんと警戒していたようだ。
 最初のゆっくりが危険性を推し量り、安全だと確認してからやってきたわけだ。
 やれやれ。
 思わず眉根を寄せたままの笑み、ゆっくりと同じ表情になってしまったことは仕方のないことだろう。
 この日、握り飯が一つ消えることになった。
 ゆっくりたちは仕事の邪魔になるからと追いはらうまで近くで鳴いていた。
 人間に懐くようになったのは、このことがきっかけだったはずだ。


 開墾が進み、家族がこちらに移り住んでからも、ゆっくりたちは人間に近寄ってきた。
 可愛らしく鳴きながら飛び跳ねる様子は、見る者の心を和ませた。
 特に子どもたちのいい遊び相手になった。
 エサをもらって喜ぶ声や、追いかけっこに興じる声などがあちこちで聞かれるようになった。
 春には子どもたちの作った花輪を頭に被せ、夏にはセミ取りで捕まえたものをパリパリ食べ、
秋にはギンナンの匂いにしかめっ面を向かい合わせ、冬には抱きかかえられてお互いの温もりを感じた。
 雨や雪が降るとき以外、ゆっくりは時を選ばず、ほぼ毎日現れて我々と触れあった。
 間違いなく生活の一部にゆっくりはいた。


 さらに開墾が進み、一帯が裕福になり、人口が増えたとき……状況が変わった。
 ダンッ!
 床を激しく叩き、男は怒鳴った。
「だから何度も言ってんだろ! 俺んとこの作物がやられてんだよっ! 俺だけじゃねえ、
どこの家でもやられまくってる。悠長なこと言ってる場合じゃねえんだ!」
 怒声は狭い部屋いっぱいに響いた。その底で車座にひしめきあう頭は、重たい空気に沈んでいた。
 確かに男の言う通りだった。
 端をかじられて売り物にならなくなったり、実る前に食べられてしまったりと
いろいろな場合があったが、とにかく大きな被害があるのは否定できない事実なのだ。
「さっさと駆除しろよ、ゆっくりをよ!」
 ゆっくりが原因だった。その被害のほとんどが、ゆっくりによるもの。
「しかし……」
 古参を代表するつもりはなかったが、誰かが言わなければならないだろう。後々の禍根ともなりかねない。
「ゆっくりは人間に懐いている。殺すほどでもないだろう」
 何人かがうなずく。ゆっくりを憎む者ばかりがここにいるわけではない。むしろ昔からここにいた
者にとっては好ましい生き物だ。
「被害があるのはわかるが、それなら追いはらうなどしてだな」
「甘いんだよっ!」
 だが、一言で叩き返された。
「とっくにやってんだ、そんなことは。けどあいつら、何べん追っぱらってもやってきやがる。
カカシ立てても遊び道具にしか感じてやがらねえ。それとも何か、俺の畑、全部鉄板で覆えってのか?」
 譲歩の言葉もなかった。
 確かにゆっくりは人間に懐き過ぎた。軽い警告などはじゃれ合いの一環としか思わない。
 野菜をかじっているのを見つけ、大声を上げて追いかけても、追いかけっことしか思わない。
 そして、翌日も野菜をかじられる。
 特に彼の畑はイチゴなどの果物を作っている。甘いものを好むゆっくりだ。被害も相当のものだろう。
 いや、人ごとでなく、自分の家の作物もやられている。集落全体に被害があった。
 収穫量は増えた。たくさんの作物が取れるようになった。だが、同時に人口も増えた。
 つまり、家族を養えるだけの作物は常にいっぱいいっぱい。ゆっくりに与える余裕はないのだ。
「決まりだな」
 沈黙を是ととらえ、男が言う。
 こうしてゆっくりの駆除はあっけなく決まってしまった。もう誰の反論もあがらなかった。


 決行は昼だった。
 子どもがいる家は、連れ合いが昼寝させることで一致していた。心に傷を負わせたくない。子どもは
ゆっくりが好きだ。ゆっくりが子ども好きであるのと同様に。
 駆除。くじょ。クジョ。
 何度繰り返しても現実感の伴わない単語だった。だが間違いなく実行される。
 駆除。実行。駆除。
 ……しなければならない。しなければ。
 目の前の広場にはたくさんのゆっくりたちがいた。いつもの丸く、何とも言えない笑顔が群れていた。
 事前にまいておいた米粒を探しては、口に含んでいる。
「ゆー」
「ゆゆっ」
「ゆっくりしていってね」
「いってね!」
 口々に鳴き声を発してエサを食べていた。
 警戒心がないからではない。敵が近づいたときは鳴くのをやめる。二、三匹がやめると全体もやめる。
緊張感が満ちたところで、一斉に逃げる。騒がしい食事風景はゆっくりなりの防衛手段なのだ。
 ゆっくりたちは人間の姿が見えても鳴くのをやめなかった。むしろ声を大きくしてこちらに向かってきた。
 光を発するような笑みだった。遊んでくれると信じて疑わない顔。みんながみんなそうだった。
 哀れだった。何も知らないゆっくりが。これからどうされるか、手に持ったものが何であるか、まるで
認識できないゆっくりが。
 一人のクワが振り上げられる。
「ゆー?」
 対象のゆっくりは、足下でただ興味深そうに首を傾げていた。今日はどんなことをして遊んでくれるの
だろう。そんな期待に満ちた目で。
 ゆっくりの中身が飛び散った。自分が何をされたか最後まで理解しなかったに違いない。
 他のゆっくりたちが硬直する。鳴き声が止まった。一瞬の静けさ。何かが壊れた瞬間だった。
 二匹目がスキで突き殺されたとき、辺りは混乱の渦と化した。
 球体が叫びながらあちこちに飛び跳ね、逃げようとする。そして、あちこちで殺された。
 ゆっくりたちはまともに逃げることができなかった。ふらついて、視点すら定まらない。
 激しく運動したため、酔いが回ったのだ。米に染みこませておいた酒の効果だった。
 断末魔が起こる。あちこちで起こる。命の消える音だった。ゆっくりが惨殺される音だった。今も耳から
離れない。
 その場にいた全てのゆっくりは死んだ。造作もなく殺された。
 遠くで音が沸き立っている。興奮と絶望、それぞれが入り交じった声。同様のことが他のいくつもの
場所で行われているのだ。
 ゆっくりの駆除は予定通りに終わった。いや、予想以上の「成果」だった。それだけのゆっくりが死んだ。


 そして。
 集落に現れるゆっくりは激減した。その結果、翌年の作物は例年とはうってかわって、不作だった。絶望的な
までの。
 これまでで最悪の収穫量だった。
 ゆっくりは野菜を食べる。果実を食べる。だが、昆虫も食べる。
 当然その中には害虫が含まれる。作物を食い荒らし、病気を媒介する虫たちが。
 ゆっくりによる食害よりも、食べられず生き長らえた害虫による被害の方が、はるかに甚大だった。
 餓死者はさすがにいなかったが、栄養失調による病気から死んだ者が幾人も出た。これまでになかったことだった。
 ゆっくりの駆除を決めたときと同様の会合が持たれた。害虫に怒りをぶつける者も、駆除を叫ぶ者もいなかった。


 反省は今に活かされている。
 ゆっくりをむやみに殺すことはしなくなった。普段は見かけても放っておき、収穫直前のときだけ防衛策を
取ることにした。
 カカシは有効に働くようになった。一度追いはらえば、再び戻ってくることもなくなった。
 ゆっくりを茂みの間に見かけることはままある。見慣れた丸い顔。しかし、笑顔ではない。怯えと警戒の
色を帯びた視線を向けてくる。一歩でも近づくと、バッと逃げ去って、現れない。
 集落の収穫量は元に戻った。わずかにではあるが、徐々に増えつつもある。この集落は順調に発展している。
 だが、ゆっくりが人間に近づくことは二度となかった。
 もう二度と。






~ Sparrowtail Butterfly ~  


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このSSへの感想 ※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね!
感想

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  • ちなみに駆除を訴えた男の名は毛沢うわなにをするやめ(ry -- 2011-11-26 11:54:06
  • ふてぶてしいゆっくりもいいけど、無垢?な原初ゆっくりの虐待もいいね!
    -- 2011-06-13 05:46:13
  • 原初のゆっくりっぽいし、言葉が通じないんだな…。通じれば説得という手段もあったんだが…。
    しかし迷惑を迷惑と理解せず追っ払われても遊びと勘違いして面白がるだけで野菜泥棒を続けるって…かなりたちわるいな。ゲスとはまた違ったイライラがつのる。
    こっちが真剣に追っ払ってるのに、逃げ回ってる時も楽しげにニヤついてるゆっくり共を想像すると、やっぱり殺したくなる。 -- 2011-03-07 12:44:51
  • ゆっくりに頼って害虫対策してこなかった結果がこれだよ! -- 2010-10-24 21:55:07
  • 希少種が関係ないことは確定的に明らか。何故そうまで希少種を良いものにしたがる? -- 2010-09-12 02:18:20
  • まあゆっくりにわざわざ頼らなくても農薬まいとけばほぼ解決するかもしれんけどね -- 2010-09-05 10:43:24
  • ゆっくり如きに生態系の一端を担うことが出来るとは…
    無造作且つ無制限に喰い散らかすのでなければ、人間にとっても有益なナマモノなのかもな -- 2010-09-01 11:21:59
  • こういう話すごく好きだ。 -- 2010-08-23 17:10:55
  • 潰したまんじゅうの中に希少種でもいたのかな? -- 2010-08-12 19:50:26
最終更新:2010年01月08日 19:16
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