ふたば系ゆっくりいじめ 827 南の島のスカーレットクロス

南の島のスカーレットクロス 34KB


観察 自業自得 群れ 希少種 自然界 現代 独自設定 うんしー ぺにまむ 南の島の風葬墓続編です。


例の如く長いです。
いろいろ独自設定が入っています。ご注意ください。


南の島のまりさシリーズ追補編2


『南の島のスカーレットクロス』



崖を貫通する洞窟に住むゆっくりの群れ、彼らの上空には二匹の捕食種が飛んでいた。
れみりゃとふらんである。

この島で捕食種が確認されるのは初めてのことだった。それは冬の嵐の日に風に乗って別の島
から渡ってきたのだ。

れみりゃとふらんに関する分類学的研究は混乱している。この二つは別種なのか、それとも、
同一種が環境に応じて体をマイナーチェンジしているだけなのか、議論に決着はついていなか
った。
コウモリのような翼を持ち、やや青みがかった髪をしている方がれみりゃ、細い翼に一定間隔
で涙滴状の翼片を持ち、黄色っぽい髪をしている方がふらんである。二匹の生態は似ている部
分が多いが、異なる部分も多い。
両種とも、飛行というエネルギー消費の比較的高い移動手段を用いるため、動物の血肉や甘い
果物、蜜などを好む。特に長時間の飛行後は、甘いものを求める傾向が強く、れみりゃに対し
ては、飼育下ではぷっっでぃんぐと呼ばれる甘味を与えることが一般的である。
ただし、炭水化物だけでは飛行はできても、成長・成熟に必要な栄養分を摂取することができ
ないため、時折、小動物などを襲っている姿が確認されている。

れみりゃ種は優れた飛行能力を持つゆっくりであり、はばたきと滑空を巧みに使い分け、長距
離の移動や長時間の滞空が可能である。これはふらん種には見られない特徴であり、一定の巡
航速度で広範囲を索餌するのが得意な種と言えよう。
それに比べて、ふらん種の翼は特徴的な形態をしており、翼には色素胞の収縮による多彩な色
彩パターンを出すことができる涙滴型の翼片がついている。これで被食者や捕食者への威嚇、
牽制、個体間のコミュニケーションを行うとされているが、詳細は不明である。
しかし、この翼片の構造のために、飛行するためのエネルギー効率はれみりゃ種よりも大きく
劣る。瞬間最大速度、攻撃性においてはれみりゃ種を上回るが、燃費の悪い捕食者ということ
ができる。また、この飛行のエネルギー効率の悪さから、主に地上に降り立って餌生物を攻撃
するとも言われている。
ふらん種が適応できるのは、周囲に餌が豊富で、体温調節にエネルギーを奪われない温暖な環
境と予想される。つまり、この島は、ふらんに食物連鎖の主役の座を与える潜在性を持ってい
るのだ。



崖の洞窟の中のゆっくりは皆寝入っていた。ただ、なずーりんを除いて。

「ゆ~…ゆ~…」
「すぴー…すぴぴぴー…」
「ゆごごごごごごごおおおお゛!!!」

穏やかな寝息、小うるさい鼾をたてるゆっくりたちの周囲を音を立てないように歩き、赤ゆや
まだ小さい子供のゆっくりが多い家族から、少しずつそれらのゆっくりを集めていく。
なずーりんは一定の数の赤ゆ、子ゆを口にくわえて運ぶと、それらを洞窟の海側の開口部から
外に投げ捨てた。

「ゆゆ~…ゆ?…おちょらちょんでぶぴっ!!」

投げ捨てられた赤ゆたちは岸壁下の岩場にぶち当たり、四散し、海に消えていった。

「さようならおちびちゃん!きみたちの貴重な自己犠牲はゆっくり忘れないよ!」

なずーりんは時折こうやって余分な赤ゆ、子ゆを処分することで、群れのゆん口を一定に守っ
ていた。安全だが、栄養豊富な餌がある餌場が遠い、そのような環境にあるこの巣を守るため
には必要な行為と、なずーりん自身は認識していた。みんなに好き勝手なすっきりを許可して
いるのだ、これぐらいの処置は長として当然だろう。どうせ彼らは、3つ以上数えることすら
困難な連中がほとんどなのだから。

なずーりんは、自分をしょきちょうに担ぎあげたここのゆっくりたちを心底軽蔑していたのだ。

「ふん、汚いガキだったね…」

なずーりんが自分の寝床に戻ろうとしたその時、悪魔は降って来た。羽音に気づき、巣の奥に
自慢の跳躍力で避難したナズーリンはいつもの張り付いたような笑顔を忘れて叫んだ。

「みんな起きろおおお!!れみりゃだ!!ふらんだああああ!!!」
「「うーうー!!」」

二匹の捕食種は協奏曲の旋律のように巣の中に飛び込むと、手頃な巣を破壊し、中にいた哀れ
なゆっくりたちを貪り食った。

「ゆゆゆ?おうちさんが壊れ…れみりゃだあああああああ゛!!」
「ばでぃざのがわいい゛あがじゃんがあああ゛!!」
「ぎゃああああああ゛だじゅげ!だじゅげでええええ゛!!!」
「でいぶのぎれいなおべべがああああ゛!!!あぎゃああああああああ゛!!!」
「ゆがーん!!!なんじぇぶらんがいるのおおおおおお゛!!!」
「ゆゆ~♪まりちゃ、おちょらとんでぶにゅうう゛!!!」
「なんで、なんでちぇんがこんな目にい…わがらないよおおお゛!!!」

「やめろこのくじゅ!!!」

一匹の子れいむが勇敢にもれみりゃに体当たりを仕掛ける。

「うー!!!餡子を!!!ぶちまけろ!!!」
「べびゅ!!」

れいむはアッパーカットのようにれみりゃの翼で打ち上げられ、天井に派手に餡子をぶちまき
再び地面に落ちてきた。

「がぴゃっ!!!」

それを踏み潰すふらん。汚いものを踏んでしまったかのように、あんよを地面になすりつけ、
餡子を落とす。

「ゆ、ゆ、ゆぴゃあああああ゛!!!」

ずっと隠れていたものの、恐怖に我慢できなくなったまりさが飛び出す。しかし、すぐにふら
んに追いつかれ、ふらんは無言でまりさに噛み付いた。まりさは泣き叫びながらあんよを動か
す。

「ゆぎゃあああああ゛だじげで!!!だじげでええええ!!!」
「ふん!!!」

あんよが食いちぎられ、その傷跡から餡子が零れ落ちる。

「ゆぎゃああああ゛!まりじゃの゛!!まりじゃの゛じゅでぎなあんよがあああああ゛!!!」
「う゛ーっ!!!」

さらにおさげから、横頬が食いちぎられる。まりさの哀れな姿に他のゆっくりたちは逃げ惑い、
そしてれみりゃに狩られていった。

「ゆぎ…ゆぎっぎ…」

大福の味に飽きたのか、ふらんは残りの部分を捨てると次なる獲物に飛びかかろうとした。

「そこまでよ!!!」

ろりすが飛び出し、隊長まりさが高らかに問いかける。

「最後の大隊心得!!!」

「「えんじょい!!あーんど!!えきさいてぃんぐ!!!」」

四匹のゆっくりが一斉にれみりゃに釘をくわえて飛び掛った。

「うー!!!いね!!!」
「いやあああああ゛」
「ゆぼぼっ!!!」

れみりゃの振り回した翼がろりすを跳ね飛ばし、ふらんの翼は鞭のようにしなってつむりを地
面に叩きつける。

「ゆべっ…ゆあああ゛…までぃじゃの…おべべ…まじざの…」

つむりは貝殻は無事だったものの、叩きつけられた衝撃で体がつぶれ、片目が飛び出してしま
った。つむりはびくんびくんと痙攣するたびに餡子を吐き出していた。

「うう゛ー!!!」

しかし、四匹一度の攻勢を受け止めることはできなかった。ちぇんの釘が頬をかすめ、隊長ま
りさの釘がれみりゃの腹部を切りつけた。

「うぎゃああああああ゛じゃぐやああああああ゛じゃぐやあああああ゛!!!」

れみりゃは傷口から肉汁をふりまくと、そのまま洞窟から出て逃げ去ってしまった。ふらんは
しばらく隊長まりさをにらみつけていたが、もうおなかは一杯だったのだろうれ、れみりゃを
追うように洞窟から飛び去っていった。

「つむり!ろりす!ゆっくり返事をしてね!!!」

隊長まりさは安堵のため息もほどほどに二匹の安否を気遣う。

つむりは既に餡子を大量に吐いて事切れていた。

「つむり…もっとゆっくりしてほしかったよ…」

ろりすは全身を打ち、バニラビーンズ入りのカスタードを少し吐いていたが、命に別状はなか
った。宴会でろりすの笑顔に撃沈されたてんこが必死にぺーろぺーろして治療をしている。

「ろりす!カカッと元気になってね!ろりすをぺーろぺーろ…んほっ!しあわせ~!!!」

隊長まりさはてんこの治療がいろいろ不安だったが、つむりの眼を閉じさせてやると、埋葬の
ために体の汚れを落としてやった。なずーりんがやってきたのはその時だった。

「同志諸君!多くの悲劇が生まれたが、この新しい英雄のおかげで僕たちは生き延びることが
できた!この勇敢にしてゆっくりできる同志まりさに拍手を!!!そしてみんなを守るために
自らを犠牲することを厭わなかった同志つむりがゆっくりできるよう哀悼を!!!」

難を逃れたゆっくりたちが一斉に拍手し、そしてつむりを丁重に埋葬すべく、隊長まりさを手
伝いはじめた。その中で、糸目のるいずは冷ややかになずーりんに問いかけた。

「りーだー!りーだーは一体どこへ行っていたの!?」

るいずは最初の警告を挙げて以降、洞窟内でなずーりんの姿を見ていなかった。

「僕かい?僕は隠れてほしょくしゅを撃退する努力をしていたんだ!さあ!みんなが心配だ!
ゆっくりしないでみんなのところに行かないと!!」

なずーりんはそう言うと群れの中へと戻っていった。

「何の努力をしていたのかしらね?そんなに心配ならみんなと一緒にいればいいのに…」

そうつぶやいたのはるいずだった。



翌日、隊長まりさと「パン屋の二代目」ちぇんは、なずーりんが沈めておいた簡単な漁具―木
の枝を無数に束ねたもの―を小川の深い部分から引き揚げ、一緒についてきたテナガエビを捕
る様子を見せてもらった。この木の枝を束ねた道具は「なずーりんのおるがん」と呼ばれてい
た。

「簡単な道具だから、ぜひ同志まりさも作ってみてほしい。あと、この場所のことはみんなに
は秘密だよ!同志ぱちゅりーによろしく伝えてくれ!!」
「ゆっくり理解したよ!ありがとうなずーりん、ここの群れはとてもゆっくりできたよ!!!」

「最後の大隊」はお土産としてテナガエビを乾燥させた保存食を受け取り、海岸の巣へと戻って
いった。そこになずーりんからの使者として、まりさとちぇんが一匹ずつ同行する。二匹ともな
ずーりんの側近であった。また、ろりすは傷が回復するまで、崖の洞窟でてんこが面倒を見てく
れることになった。ろりすの傷は心配していなかったが、貞操は少し心配だった。

「最後の大隊」の見送りから帰ってきたなずーりんを出迎えたのは、号泣している盟友しょうだ
った。

「大変です!なずーりん!また宝塔を落としてしまいました!どうか探してください!!」

よく見るとしょうが大事にしている二つの宝塔の一つ、「あいぜんがるど」がなくなっていた。

「やれやれだね…」

その日、すかーれっと襲撃時に戦わずに巣から逃げようとした成体ゆっくりがしょきちょうの前
に集められた。その周りを側近たちが囲み、逃げられないようにする。


「親愛なる同志諸君…のはずなんだが、君たちは敵前逃亡したんだよね!群れのみんなを置いて
けぼりにして…ね?」

なずーりんの射るような冷たい視線が一同をなで斬りにする。そこにはげすっぽいまりさから家
族連れのありす、たまにふらりと洞窟に来ては巣に加わる子るいずなどが青い顔を並べていた。

「で、でも!ありすにはおちびちゃんがいたのよ!!!あの時お外に出さないと永遠にゆっくり
してしまったわ!!!せめて!おちびちゃんだけでも!!」

しゅくせーを覚悟したのか、子供たちを守ろうと必死にありすは食い下がった。

「勘違いしないでほしい。」

なずーりんは涼やかな笑顔でありすの抗弁を中断させた。

「みんなには群れの一員としてじゆーがある。しかし、良識ある諸君ならば明らかなはずだ。
真のじゆーとびょーどーとはちっぽけなゆっくりを捨て、群れのために前進することだと。
しかし、悲しいかな、諸君はそれができなかった。なぜか!!!」

なずーりんはまくしたてるように演説を続ける。

「弱かったからだ!!!ゆっくり一人一人の弱さがいけないのだ!!!だから…」

なずーりんは演説の口調からいつもの穏やかな口調に戻した。

「同志諸君に強くなってほしくてね!!素敵な餌場に案内するよ!!」
「同志なずーりん!!それはとてもゆっくりできる提案だぜ!!!」
「るいずは!るいずはまだ食べたことのないものが食べたいわ!!!」

なずーりんがゆっくりたちを連れてきたのは、かつてなずーりんたちが漂着した海岸だった。そ
こにあるはずのむらさの墓は、生い茂った植物によって判別できないものになっていた。
なずーりんは一本の木に投げ縄のようにつるを投げつける。三度目でそれは成功し、なずーりん
は木の枝を思いっきり地面に引き寄せた。その先端には白い花、そして熟して赤みがかかった実
とまだ青い実がついていた。

「さあ!食べなよ同志諸君!!これを食べると強くなれるよ!!!いくら餌を探しても疲れなく
なるんだ!!」
「ゆゆ!それはゆっくりできるんだぜ!!!」
「何度もすっきりできそうね!!!」

ゆっくりたちにとって、低木以外の木の果実を食べるのはなかなかできない経験である。あるも
のは熟した実をまたあるものはまだ未熟な果実にもかじりついた。

「むーしゃむーしゃ…ゆげええ、にがにがさんはゆっくりできないいいいい゛!!!」
「なんだか、むずむずしてゆっくりできないよ…」

あまり美味しい果実ではなかった上、繊維質であるため、歯につまり不快なようだ。

「でも、強くなれるよ!!それを食べ終わったら、ゆっくりありさんでも食べに行こうね!!」

この群れの冬~春の食料では、シロアリの占める割合は決して小さくない。島内に棲息する、タ
イワンシロアリの巣を破壊し、中のシロアリを食べるのである。また、このシロアリは巣の中に
菌園を作り、そこで菌を栽培して食べている。そのため、シロアリと菌類の両方をぺーろぺーろ
できるのである。
たまに兵アリに噛み付かれると痛い思いをするが、それを補って余りあるほど、満腹になる餌場
であり、アリのコロニーを壊滅させなければ何度も利用できる優秀な餌場だった。

「ありさんはゆっくりできるよ!!!」
「きのこ!!ありさんの巣にはきのこさんも生えるんだぜ!!!」
「じゃあ、そろそろ行こうか同志諸君!」

ぽよんぽよんと来た道戻るゆっくりたち、だが、異変はすぐに表れた。

「ゆ゛…ゆゆ゛…なんじゃがぎもじわる…おろろろろろろろ゛!!!」

子るいずはクックベリージャムを盛大に吐いた。同時にあにゃるからも下痢状のクックベリージ
ャムが噴出し、白目を剥いて動かなくなった。

「ゆ゛ゆぐ…もっと…いろんなところ…でゆっぐ…じだがっだ…」

同様の光景は他のゆっくりでもわずかな時間差で再現された。

「出ないでね…餡子さん出ないでね…うぷっ!!!」

ぎりぎりのところで吐くのを我慢したまりさはあにゃるから黒いバーストを噴き出した。

「いやあっ!!いやあっ!!まりざああああああああ!!!」

だが、絶叫したありすにも症状が現れる。

「ゆぎ!!!ゆぎぎ!!!おにゃががいじゃい!いじゃい!ぐるじいい!!ぐるじいい!!」

ありすは目や口から真っ黒な泡を吹きながら、カスタードクリームをぶちまけて転がっている。

「…だじゅげ…て…どうし…だじゅ…」

そして、死んだ。
なずーりんが食べさせたのはミフクラギの実だった。ミフクラギは海岸近くに生える木で、そ
の実や枝葉、樹皮から出る乳液などにアルカロイド系の毒を有する。かつては毒流し漁や殺鼠
剤にも使われたほどである。

「みゃみゃ~!ゆっくりちて~!!みゃみゃ~!!!」

ミフクラギの実を食べなかったのだろう、ありすの連れていた赤ありすが必死になって母親の
遺骸をぺーろぺーろしていた。なずーりんは赤ありすのそっと近づく。

「ゆ?おねがいしょきちょー!!みゃみゃをたちゅけて!!ありちゅいいこにちゅるから!!」

なずーりんは赤ありすにのしかかり、少しずつ体重をかけていった。

「やめちぇ!やめちぇにぇ!!くりーむしゃんがでちゃうぼぼぼぼぼ!!!」

赤ありすはぶちゅりとはじけるように口からカスタードクリームを吐き出した。もう助からな
いだろう。

「…なんじぇ…ありちゅ…いいこ…」
「君はかわいいおちびちゃんだったかもしれないが、君の母上がいけないのだよ。群れを大事
にできないゆっくりはゆっくりできないんだ!」

なずーりんは群れを、と言ったが、それは「群れ」だったのか、それとも「自分」だったのか、
あるいは両者が区別できなくなっていたのか…
なずーりんは辺りの惨状を一瞥すると、何も言わずに巣に戻っていった。



「まりさが!最後の大隊が帰ってきたぞおおお!!!」

海岸の巣では、見張りのまりさつむりの声を聞き、りーだーの若ぱちゅりーがまだ太陽が出て
いるにも関わらず、巣の外へ飛び出してきた。

「むきゅ!!!おかえり…たいよう…さんは…ゆっくり…できな…」

ぶっ倒れた若ぱちゅりーはそのまま医者たちのところに運び込まれ、アコウの実からとった果
汁に漬け込まれた。若ぱちゅりーはその状態のまま、「最後の大隊」の面々に会った。そして、
成果を聞きたい気持ちを抑えて、まずは隊長まりさの両親と妹が永遠にゆっくりしてしまった
ことを告げた。さらにキングベヒんもスの襲撃によって老ありすや大切な仲間たちが死んでし
まったことも。

「ゆわああああああああん!!!おどーざーん!!!おがーざーん!!!」

隊長まりさはひたすら泣き続けた。愛想が尽きていたのだろうか?妹のれいむの名前は出てこ
なかった。若ぱちゅりーはろりすが帰ってきていないことを知って少しだけ安堵した。

「あのときのおちびちゃんたちは、今、貯蔵庫の手前に住んでるれいむが育てているわ。後で、
会いに行きなさい。海の食べ物も久しぶりでしょう。まりさのことは話してあるから、ゆっく
りしていってね。」

その言葉を聞き、やっと泣き止んだ隊長まりさは崖の群れに関する報告を少しずつぼそぼそと
話し始めた。


その後、海岸の群れと崖の群れは数回の使節のやりとりを行い、若ぱちゅりーが相手にふぁら
んくすの技術と海岸での採餌技術を、なずーりんが相手に「なずーりんのおるがん」の技術と
移住者の受け入れを交換することで協定が結ばれた。4月のことである。そして、技術を提供
する使者として選ばれたのは、「最後の大隊」の生き残りの二匹であった。



隊長まりさが再び、崖の巣を訪れたとき、一行を出迎えたのは、

「このきたないめすぶたさん!!」
「んほほほほほほおおおお!!!いいわあ!!その調子よろりすちゃん!もっともっとののし
ってええええ!!!」

ろりすが満面の笑顔で罵倒しながら赤い本をてんこの尻に叩きつけている。

「こんなのがいいなんててんこはどーしよーもないへんたいさんね!!うまれてきたことをあ
やまりなさい!このめすぶた!!!おまえが呼吸するから空気が汚れるんだよ!!!」
「んほおおおお!!!んほっ!!!いきしててごめんなさ~い!!!」

てんこは叩かれ、ののしられるたびにぺにぺにをいきり立たせては喜んでいる。

「ろりすちゃん!!ここよ!このぺにぺにをおもいっきりその本の角で!!!」

それはてんこの教育?によってダークサイドに落ちかかったろりすの姿だった。

「へ・ん・た・い・だあああああああああああ゛!!!」
「分からないよおおおおおおおおおお゛!!!」

隊長まりさと「パン屋の二代目」は驚愕し、絶叫した。

「まりさ!ちぇん!!ひさしぶり!ゆっくりしていってね!!」

ろりすはあくまで天真爛漫な瞳で挨拶する。

「ろりすなにやってるのおおおお゛!!どう見てもへんたいさんでしょおおお゛!」
「てんこさんとてもゆっくりしてて面白いのぉ!!!」
「ダメよ!!ろりすちゃん!!ほめちゃだめ!!ののしって!そして叩いてぇ!!!」
「ごーるでんはんまー!!」

ろりすの赤い本がてんこのぺにぺにに思いっきり振り下ろされた。

「くぁwせdrftgyふじこlp!!!」

てんこは小麦粉でらりってるゆっくりよりもだらしない顔で逝った。草むらには飛び出した桃餡
だけが残っていた。

ろりすの運命はてんことの出会いによって大きく変わった。
主に悪い方向に。

「ああ゛~ろりてんはおれたちのじゃすてぃす…」

隊長まりさたちは天に召されたてんこを放っておいて、さっさと崖の洞窟に入っていった。



「よく来てくれた!!!同志まりさ!!同志ちぇん!!真の友よ!!ゆっくりしていってね!」

なずーりんはいつもの爽やかな笑顔で挨拶した。
なずーりんはこの使節の来訪を待ちわびていた。ここのところ、うまく食料が集まらず、ゆっく
りできないゆっくりが増えてしまい、どこからかしょきちょうへの不満が漏れてくる有様だった。
その度に、

「ただゆっくりすることばかり考えているりこてきな連中に僕の苦労の何が分かる!!!」

と激昂し、みなの前で公開処刑を繰り返した。ゆっくりたちのしょきちょうを見る目は少しずつ
変わりつつあったのだ。なずーりんはいらだっていた。求心力の低下を防ぐためには、強力な力
と派手なパフォーマンスが必要だとなずーりんは考えていた。

なずーりんは側近たちを、そして海岸の群れから受け入れた移住者を中心にふぁらんくすを編成
し、ただ、しょきちょうの命令にのみ忠実なゆっくりした親衛隊を作り上げた。
ふぁらんくすに、側近以外、自分の群れからゆっくりを入れなかったあたりが、今のしょきちょ
うの立場を暗に示していた。だが、外部者を中心に親衛隊を編成するのは、フビライ・ハーンの
西方遊牧民騎馬隊、イェニチェリ、ヴァリャーグ親衛隊など、歴史上珍しいことではなかった。
そしてそれらの共通点は、外部の敵と同時に内部の敵にも刃をふるったということであろうか。

そしてなずーりんは毎晩のように宴会を開かせた。食料の備蓄が少なくなっても宴会を続けさせ
た。その目的は自分に恥をかかせた、一番最初に逃亡するという屈辱を味あわせたすかーれっと
をおびき寄せ、汚名を返上するためである。
秘策を用意して、すかーれっとの襲来を待ちわびるなずーりん、その願いが叶ったのは、一週間
後のことである。



その日も水平線から顔を出した三日月は赤かった。崖の洞窟の中では今日も宴が続けられる。連
続して宴を楽しませてくれるなずーりんに対して、群れのゆっくりたちの不満はどこかに行って
しまっていた。

「ゆゆ~、やっぱりここのエビさんはとてもゆっくりしているよ~!!!」
「この葉っぱさんもおいしいですよ!いかがです?」

そう言ってしょうが隊長まりさに手渡したのはオオタニワタリというシダ植物の新芽だった。

「なずーりん!なずーりんともこっちで一緒にゆっくりしたいよ!!!」

宴に興ずる隊長まりさたちの後ろには、料理に一切手をつけず、洞窟の隅に何かを待つようにた
たずんでいるなずーりんとふぁらんくすの姿があった。

「僕たちは昼間ゆっくり食べたからいらないんだ!ありがとう同志まりさ!!」

心ここにあらずといった様子のなずーりんに対して、隊長まりさはそれ以上何も言わなかった。
ここのところずっとこうなのだ。

「ゆ~!おつきさまがまっかだよ!!」
「とてもゆっくりしていてきれいですね!!」
「るいずはゆっくりできないわ!なんだかぶきみよ!!!」

洞窟から見える赤い三日月、その姿に二つの黒点が生じたのはそのときだった。
黒点は次第に大きくなっていく。

「あ…あれは…?」

しょうは次の瞬間顔に恐怖を張り付かせた。そしてなずーりんは、色めきたった。

「れみりゃだあああああ゛!!!またふらんと一緒だぞおおおお!!!」

そして惨劇は繰り返された。たっぷりのご馳走で動きの鈍いゆっくりたちは逃げ切れなかった。

逃げ遅れたちぇんは尻尾をれみりゃに食いちぎられ、

「ゆわああああああああ゛じぇんのじっぼ!!じっぼがああああああ゛わがらなゆびゅ!!!」

そしてのしかかられて、つぶれてしまった。

「れ!れいぶをだべないでね!!!れいぶはおぶだがじょうずなんじゃよ!!!ゆ゛~♪」
「ゆっくり死ね!!!」

何を思ったのか、自分の価値を証明しようと歌い出したれいむはふらんの翼に打たれ、

「ゆべぼば!!!」

岩に叩きつけられて、目が飛び出し、餡子を撒き散らして事切れた。

阿鼻叫喚のワルプルギスの夜は再現されようとしていた。「最後の大隊」は抵抗を試みようとし
たが、逃げるゆっくりたちに押され、身動きをとれずにいた。

ふらんとれみりゃが逃げるゆっくりを追い、巣の奥深くまで入り込んだとき、隠れていたゆっく
りたちが一斉にれみりゃとふらんを囲んだ。それを見下ろす大石(それは風葬で使った棺の一部で
あった)の上に、なずーりんはいた。そして眼下の逃げ惑うゆっくりたちと捕食種に対して高らか
に宣言する。

「これよりゆっくり裁判を開廷する!被告れみりゃ!被告ふらん!判決は死刑!!死刑だ!!
死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑!!!」

ふらんが気づいたとき、回りにはふぁらんくすが形成されていた。
自信にあふれ、自己陶酔に浸かったなずーりんが命令を下す。

「殺れ!!!」
「「うっらーっ!!!」」

掛け声とともに一斉に槍が突き出され、槍がふらんの目を、翼を、腹部を、口を、あんよを貫く。
ふらんの翼についている涙滴型の翼片は痛みに反応してか、禍々しい黒と赤の光を放っていた。
ふらんの後方にいたれみりゃは致命傷は免れたものの、左目と翼を三本の槍が貫いていた。

「う゛ああああああああああああああああああああ゛!!!」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

悪魔たちの絶叫が洞窟内に響く。れみりゃもふらんも槍から逃れようともがいていたが、もがけ
ばもがくほど、みちみちと餡が、肉が傷口から漏れていった。

「あはははははあははははあっはははは!!!お前たちは哀れだ!だが許せぬ!!黒ずんだ赤ゆ
のように死ね!蝶のように舞い、蜂のように死ね!!!」

なずーりんの狂ったような笑い声が巣内に響き渡る。その隣でしょうは顔を真っ青にしてがたが
た震えていた。
ふぁらんくすがさらに槍を押し出すと、ふらんの餡は傷口からあふれ出し、眼窩からはつぶれた
目から出た透明な汁が流れ出た。

「あああ!!!じぐじょおおおおお゛!!!じぐじょおおおおおお゛あぎゃばあっ!!!」

ふぁらんくすがさらにもう一押ししたことで、ふらんの中枢餡は破壊され、地獄の業火に悶える
悪鬼のような表情で絶命した。死後しばらくはその翼片がランダムに変色していたが、すぐに灰
色になり、それ以上変色することはなかった。最強の捕食種ふらん、だが、油断とゆっくりたち
の戦術の前にその命は散った。弱肉強食の世界において、絶対強者は存在しなかった。

「次はれみりゃだ!!!唯一つのいいれみりゃは死んだれみりゃだああああ!!!」

一度ふぁらんくすが槍を引き、そして、再びれみりゃに照準を合わせようとする。しかし、れみ
りゃは片目を失った今も予想以上に体力を残していた。

「ふらんんんんんんんんんっ!!!」

狂ったような咆哮とともに繰り出した決死の体当たり、

「ゆびゃああああ゛!!!」

ふぁらんくすを構成していた二匹のゆっくりが岩に体を叩きつけられ、盛大に破裂して永遠に
ゆっくりした。
だが、れみりゃの反撃はそこまでだった。態勢を立て直したふぁらんくすが再び槍の照準をれ
みりゃに合わせる。

「ふらんんんんんんっ!!!あ゛あ゛あ゛あ゛!!じゃぐやあああああああああ゛!!!」

しかし、先程のように縦深陣に誘い込んで不意をついたわけではない。れみりゃは落ちていたふ
らんの帽子をくわえるとそのまま外へ飛び去ってしまった。
画竜点睛は欠いたものの、捕食種の撃退に巣の中は歓声に包まれた。

「同志諸君!!いまや我々の強大な武器は!!全ゆっくりの統一された意志である!!!」

得意の絶頂にあるなずーりんの演説とそれに答える歓声が、その日、洞窟の中に響き渡った。

「「同志なずーりん!!!うっらー!!!同志なずーりん!!!うっらー!!!」」

一方、島の反対側、小高い丘の上には、夜が明けてもふらんのぼろぼろの帽子を前に、赤子のよ
うに泣きじゃくる捕食種の姿があった。

ふらんが討たれて以降、れみりゃは天候が悪い日を除いて毎晩のように、あの巣の上空を飛んだ。
左目は完全に視力を喪失し、翼にも何箇所か傷が残った。泣きはらしたせいでのどは枯れ、ほと
んど話せなくなっていたが、毎晩夜空に舞い上がった。
はじめのうちは、再襲撃かと警戒していたゆっくりたちだったが、何もしてこないことを知ると
すっかり慣れっこになってしまった。

「また、あのれみりゃが飛んでるんだぜ!」
「ゆっくり仇を討ちたいのかな?」
「仇を討ちたいならとっくにここに来ているはずだぜ!負けたのが悔しくて悔しくて遠くから見
てるだけしかできないいくじなしさんなんだぜ!」
「かりすま☆とか、ぷー!くすくすくす」

その日もれみりゃはただ巣の上空を飛ぶだけで帰っていった。



捕食種に勝利した崖の群れであったが、問題もあった。実質的に囮に使ったゆっくりたちの被害
が大きく、餌の収集効率が悪化したのだ。その上、すかーれっとをおびき寄せるために連日催し
た宴のせいで食料や水の備蓄はほとんど底を尽き、再収集しなければならなかった。
群れは、文字通り戦いによって疲弊したのである。
しかし、なずーりんは大して心配していなかった。人口過剰気味の海岸の群れから移住者を受け
入れることで、ゆん口の穴埋めをする。そして、彼らの海岸などでの餌収集技術によって、利用
できる餌場は大きく増えるはずだった。
しかし、それは即効性のある解決策ではなかった。なずーりんは一時的に食料を完全な配給制に
切り替え、消費量をコントロールすることで、解決策の効果が出るまで待つことにした。
これは、現状から考えると、それほど悪い策ではなかった。群れの個体の餌収集能力に寄らず、
生き延びさせるためにはこれしかなかったであろう。
だが、自分の地位を守るために、ふぁらんくすなど親衛隊を優遇している以上、食料配給の優先
権は彼らに与えられた。そして、食料や水の収集が軌道に乗った後も、わざわざ自分たちに有利
なシステムを元に戻そうとする者はいなかった。



5月

てんことろりすが番になった。
それはてんこが狩りから帰ってきたときのことだった。たくさんとれた虫をろりすと食べようと、
てんこは懸命に巣に向かって跳ねていた。

「ろりすかわいいよおおおお゛!!!ちゅっちゅしたいよおおおお゛!!!」

てんこはろりすに夢中だった。一目会った時から、ろりすのことが頭から離れなかった。

「ろりすとすっきりすっきりすっきりしたいよお゛!!…結婚してください!!!(キリッ!!)
…なんちゃって!」
「はい!」

ろりすはてんこが跳ねている横の草むらでうんうんしていたのだった。
あまりにあっさりしたプロポーズの受諾に思わずてんこは叫んだ。

「おいィ?お前それで良いのか?」


「ゆがーん!!!…でも、ゆっくりおめでとう!!」
「ゆっくり…おめでとう!!」

話を聞いた当初、あまりに突然なことに仰天した隊長まりさと「パン屋の二代目」だったが、と
りあえず祝福した。その後、ろりすはなずーりんをはじめ、崖の洞窟の群れの祝福を受け、正式
にその一員となった。
隊長まりさは「パン屋の二代目」とともに海岸の巣に戻っていき、若ぱちゅりーに報告した。崖
の洞窟の群れは、ふぁらんくすや移住組は優遇されているため、肥えているが、他の一般ゆっく
りは限られた配給でゆっくりできないでいると…

その日、なずーりんはふぁらんくすや側近たちを連れて、かつて自分たちが漂着した海岸に向か
った。この時期、この海岸にはウミガメが産卵しにやって来る。
そのことを知ったなずーりんは、その卵を奪おうと計画したのだった。
何もふぁらんくすを連れて行かなくても、という意見もあったが、上層部のみが肥える社会構造
になっていたこの群れでは、十分に栄養を摂取できているふぁらんくすや側近以外に遠出に耐え
られるゆっくりはいなかったのだ。
結果的にすかーれっととの戦いは、この群れの社会構造に深い爪痕を残したのである。

海岸に到着したとき、辺りはまだ完全に闇に覆われてはいなかったが、気の早い親ガメは産卵を
始めていた。海から砂浜まで懸命に這い、そして涙を流しながら、一つ、また一つとピンポン玉
を一回り小さくしたくらいのサイズの卵を産んでいく。

「同志諸君!!行くぞ!!」

なずーりんの号令とともに、ゆっくりたちが親ガメから産み落とされる卵を一つ、また一つと砂
の穴の中から運び出していく。それを知ってか知らずか、親ガメはただひたすら卵を産み続けた。

「かめさんゆっくりたまごを産んでね!かわいいれいむのためにたくさん産んでね!!」
「ゆゆ~♪もうお帽子さんに入らないよ!!」

回収された卵はまりさ種をメインとして、るいず種やちぇん種の帽子内に蓄えられ、巣に持ち帰
られる。産んだ卵のほとんどを持ち去られた親ガメは力なく、海に戻っていった。

「同志諸君!!この卵の半分はこの偉業を達成した諸君で食べてくれ!そして残りを巣で待つ同
志たちに配給しよう!!」

それはゆん口比からすればとんでもない配分だったが、保身のために育て上げ、特権階級の甘い
汁を吸わせ続けた側近たちの忠誠を維持するには、ほかに方法がなかった。そして、最早なずー
りんはそれに疑問を持つことすら止めていた。
食料も、水も、美ゆっくりも、ゆっくりぷれいすも、じゆーとびょーどーを第一に掲げたこの群
れでは、しょきちょうのために動ける人物にのみ優先的に与えられた。ただ、それを拒み続ける
しょうのみを除いて。

ゆっくりたちが海岸から去ろうとしたとき、不意に後列にいたゆっくりが吹っ飛んでいった。

「ゆぎゃああああ゛だじゅげでええ゛!!!」

それは吹っ飛んだのではなく、アカマタにくわえられていたのだった。
この時期、卵を狙って海岸に来るのはゆっくりたちだけではない。いや、ゆっくりたちこそが海
岸の新参者なのだ。

「ゆああああ゛!?」

また別のゆっくりが別のアカマタに襲われる。アカマタはゆっくりを噛み殺すと、もう目を向け
ることなく、ただウミガメの卵を飲み込んでいった。

「しょきちょう!!!たじゅげでぐだざいいいいっ!!!」

その時、一匹のアカマタがなずーりんに狙いを定めた。本能的にそれを察知したなずーりんは、
別のゆっくりの後方に飛び退く。

「いやああああああああ゛!!!ありじゅのどがいはなびばだがああああ゛!!!」
「たじゅげで!!しょぎじょおおおお゛!!!」
「ひっ…!!!」

なずーりんは恐怖した。久しぶりに自分が狙われる感触に。長らく、側近やふぁらんくすに守ら
れていたなずーりんが忘れていた感覚だった。そして、頼みの綱のふぁらんくすは卵を抱えての
鈍重な動き、そして、陣形を形成できていないため、複数のアカマタの前では無力だった。

「ひゃあああああああああああ!!!」

なずーりんは逃げ出した。今まで自分に忠実につき従ってきた側近もふぁらんくすも見捨てて。

「しょぎじょおおおおおお゛!!!」
「ゆんやあああああああああ゛!!!」



どれくらい時間が経っただろうか、なずーりんが巣にたどり着いたとき、既に赤い満月が空に上
っていた。

「ゆぎゃあああああああああ゛」

なずーりんが巣に戻ったとき、しょきちょう閣下を出迎えたのはれみりゃだった。
潰れてよく分からない汚れがこびりついた左目、
赤い満月をバックに広げられた黒い翼、
そして真っ赤に燃える瞳、

それは復讐心だけによって動いている真紅の悪魔だった。

れみりゃはずっとこの機会をうかがっていた。巣の守りが手薄になる瞬間を。
れみりゃは前回の敗北から、真正面からふぁらんくすと戦うのを回避したのだった。そして、
その瞬間を手に入れるために、毎夜毎夜、夜空を舞い、狩りもそこそこに、この巣を監視してい
たのだ。

既に巣の中は餡子やクリームがあちこちにこびりついていた。るいずは手傷を負い、岩陰に倒れ
ていた。しょうは片目を潰されていたが、るいずを庇うように槍を構えていた。しかし、れみり
ゃがしょうの子供を人質としてくわえているため、手出しできずにいた。

「だじゅげでえええええ゛だじゅげでぱぱ!!みゃみゃああああ゛!!!」
「はなぜ!!!おじびじゃんをはなぜええええええ゛!!!」

その反対側では、ろりすが五寸釘をくわえてれみりゃを牽制しようとし、てんこは生きてはいた
が、背中をずたずたにされていた。

「う゛うっう゛うううう゛!!!」

潰れたのどから搾り出すように咆哮を挙げるれみりゃ、見つけたのだ、ふらんの仇を。
なずーりんは自分が狙われていることを知り、逃げ場を探した。しかし、今、後ろを見せれば最
期になる。なずーりんの直感がそう告げていた。

「ひっ!!ふぁ、ふぁらんくす!!!ふぁらんくす!!!」

なずーりんは自分が見捨ててきた側近たちの名を呼ぶ。しかし、もう誰もいなかった。

「なにじでるうううう゛はやぐごいくずどもおおおお゛!!!」

泣き喚くなずーりんに、いつもの自信にあふれ、笑みを絶やさない強力な指導者という面影はな
かった。

「うううううう゛!!!」

なずーりんに狙いを絞ったれみりゃはしょうの子供をくわえたまま体当たりを繰り出す。
なずーりんは自慢の跳躍力で逃げようとしたが、無駄だった。

「ゆぎゃあああああ゛!!!」

したたかに地面に叩きつけられ、前歯がへし折れる。

「ぐ!ぐるなあああ゛じにだぐないいいいいい゛!!!」

二撃目の翼はかろうじて避けた。

「なずーりん!!!」

盟友を助けようとしたしょうは翼で打ち付けられ、地面を勢い良く転がり、口から栗きんとん
を吐き出す。しょうが持っていた槍はなずーりんのところへ転がってきた。
なずーりんはこの隙を見逃さなかった。槍を舌で拾い、

「うああああああああああ!!!」

一気に突き出す。だが、その穂先にあるのは、

「だめええええええ゛!!!なずーりんやめでええええ゛!!!」
「ゆぴゃあああ!!!」

なずーりんの突き出した槍は、れみりゃがくわえていたしょうの子供を貫いた。

「ゆぎぇええええええ゛!!!」
「おじびじゃああああああ゛!!!」
「もっと…ゆっぐ!?」

なずーりんは槍を持つ舌に力を込めた。

「死ね!死ね!死ねえええええええ!!!」
「うううううううう゛っ!!!!」

槍はれみりゃの腹部に深々と突き刺さった。しょうの子供を貫いて。

「うあああ゛!!!」

たまらずれみりゃは槍ごとなずーりんを翼で引っぱたく。槍はへし折れ、子しょうは地面に叩き
つけられた。既に子しょうは原型を留めておらず、事切れていた。

「ぎゃばあああ゛!!!」

なずーりんは壁に叩きつけられ、チーズをあにゃるから漏らした。
その時だった。ろりすが横から飛び出し、れみりゃの腹部に五寸釘を差し込んだのだ。

「残酷に!この大地から去ねええええええええ゛!!!」
「うううう゛っ!!!」

れみりゃは翼を全力でろりすに叩き付けた。

「ゆびゃあああ゛!!!」

ろりすは派手に潰れ、バニラビーンズつきのカスタードを大量に吐き出した。もう助からない。

「…ゆぐ…ごめん…てん…こ…」
「ろ゛り゛ずうううううううううう゛!!!」

てんこは持てる気力全てを振り絞って跳ねた。そして、へし折れた槍の穂先をれみりゃの右目
に刺し込んだ。

「うあっうあ゛う゛あ゛っ!!!!」

れみりゃはてんこに噛み付いた。それでもてんこは槍の穂先を手放さなかった。

「ううううう゛!!!」

れみりゃは最後の力を振り絞って、夜空へと舞い上がった。
そして高く高く夜空を登りつめると、真っ逆さまに自分の体ごとてんこを地面に叩き付けた。



「はあ…はあ…はあ…」

なずーりんが恐怖から我を取り戻したとき、そこにあったのは、
派手に潰れた子しょうの死体
虚ろな目で夜空を見上げるろりすの死体
唖然とした目で変わり果てたわが子を見つめるるいず

そして、憤怒にかられた悪魔のような瞳でなずーりんをにらみつけるしょうだった…



れみりゃは穏やかな月光が照らす夜空をふらふらと飛んでいた。
もう目はほとんど見えない。
翼の動きは危なっかしく、いつ墜落してもおかしくなかった。
れみりゃは今自分が何をしているのか、どこにいるのかまったく分からなかった。
ただ、どこかへ帰らなければいけない気がしていた。
それがなんなのか、はっきりとは分からなかった。

ああ、そうだ

ふと、自分が何をしなければならないのか思い出した。

狩りを失敗したから、怒られちゃうんだ

れみりゃは考えた。怒られないためにはどうすればいいだろう?
二人でいっぱいお話したいのに、怒られたらゆっくりできない。

あまあまさんだ、あまあまさんを持っていけば喜んでくれるかな?

れみりゃはあのこが喜んでくれる姿を想像して少しほほを緩ませた。

あのこ、あのこって誰だっけ…

ああ…たしか…

ふらん


れみりゃは森の奥へと落ちていった。



私はその日、捕食種が棲みついたという丘に向かった。

私はやっと小高い丘を登りきり、その頂上についた。そこは常に西からの海風が吹き付ける
草原だった。おそらく、この風のために森の木々がなかなか進出できないのであろう。
れみりゃとふらんがねぐらにしている台座はその中央にあった。それは、かつて、古代の海
人族がこの島に住んでいた頃に使っていた狼煙台の一部だった。

私はその石の台座の中をのぞく。そこには幾つかの虫の外骨格や小動物の骨、ゆっくりの帽
子やリボンの端切れ以外、何もなかった。

ふと、草原の一部、数少ない木の木陰が白くなっているのが見えた。

それは平たく積まれたサンゴ砂だった。そしてその中央には真紅の十字架…?

私は近づいてよく見た。

それは真紅の十字型をしたサンゴ片だった。

そしてその先端には二つの赤みがかった帽子が引っかかっていた。

れみりゃがふらんの墓を作ったのだろうか?私がもっと良く確かめようと近づいたその時、
一陣の突風が吹いた。

二つの帽子は寄り添うように青空へ舞い上がり、海の彼方へと飛んでいった。



つづく


神奈子さまの一信徒です。

前作にて感想や問題点を指摘してくださった皆様ありがとうございました。
皆様のコメントに喜び、落ち込み、今これができあがりました。
いろいろ悩みましたが、結局、当初の予定通りに書きました。
シンプルに面白いお話を書ける方々は本当にすごいと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。
南の島シリーズは次で最終回です。


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感想

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  • 次で終わりか
    ようやく隊長まりさが潰れるところを見れるな -- 2011-10-02 22:35:52
  • このれみりゃ・・・壮絶なるカリスマの持ち主だな。 -- 2011-08-18 04:04:33
  • 手に汗握る展開だったな。
    これからどうなるか期待 -- 2010-11-11 18:14:47
  • とても…トリューニヒト議長です… -- 2010-10-06 14:00:47
最終更新:2010年02月06日 16:23
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