ふたば系ゆっくりいじめ 866 あまりにも南の島のまりさ

あまりにも南の島のまりさ 36KB


自滅 飼いゆ 自然界 現代 独自設定 うんしー ぺにまむ 自然界タグなのに基本室内です…

作:神奈子さまの一信徒


どこかで見たことのあるお話のパロディです。




『あまりにも南の島のまりさ』



ここは、とある南の果てにある島。
ここには観測基地が一つあるほかは、建物もなく、観測員以外の人間も住んでいなかった。
そんな環境にゆっくりたちはいた。彼らはこの島の観測員たちに飼われているのである。




北半球なら初春にあたるこの季節、観測基地の外気温は−10℃に近づくことが多くなった。
もうしばらくすれば平均気温ですら−10℃に届かない冬が来る。

南極大陸近傍に位置するとある島、その観測基地の内陸側に位置する建物、それがゆっく
りたちのいる飼育棟だった。飼育棟の広さはそれなりなのだが、雑多な荷物や観測機器が
所狭しと並べられている中で、ゆっくりたちが実際に生活しているスペースは、せいぜい
小さめのコンビニ程度だった。

飼育員は今日も朝の体操と朝礼の後、ゆっくりたちにエサを与えるべく、飼育棟にやって
きた。通路の片側は、一定の規格の木箱が所狭しと重ねられ、木箱は本棚のようにその中
身を通路側へと向けていた。食料品、飲料水、衣料品、生活雑貨、文庫本など雑多な品揃
えの露店が並んでいるみたいだ。観測隊員によってアメ横と呼ばれる光景である。
飼育員はそこから、市販のゆっくりフードをとり、さらに調理場から分けてもらった残飯
を混ぜ、水と一緒に持っていく。

「ゆゆ!?お兄さんが来たよ!」
「「ゆっくりしていってね!!!」」

飼育員が姿を見せると、ゆっくりたちは一斉に挨拶した。

「おう!今日もゆっくりして行けよ!」

そう言って食事と水をプラスチックの容器に空ける。

「ゆゆ~!!れいむはおみずさんじゃなくてじゅーすさんが飲みたいよ!!お兄さん、ゆ
っくりしないでじゅーすさん持って来てよ!」

成体れいむがもみあげをぴこぴこと上下させながら催促する。

「ジュースは昨日ので終わっちまったよ。」
「ゆゆ!?じゃあお兄さんはゆっくりしないでじゅーすさんを買って来てね!!」

このれいむはここがどこだか、まったく分かっていないようだった。おそらく、食べ物が
もらえてゆっくりできれば、もう後はどうでもいいのだろう。

「南極に店はねーよ。ジュースは、いや何もどこにも売っていない。次の観測船が内地か
ら来るまで、ジュースは飲めないよ。我慢するんだな。」

飼育員は嘘をついた。本当は少しだけジュースは残っているのだ。しかし、これはゆっく
りたちの身に何かあったときのための治療用であり、今飲ませるわけには行かなかった。
そもそも、ジュースがなくなった原因は、このゆっくりたちが勝手に飼育スペースから出
てジュースを盗み飲みしたせいだった。その頃はまだ、今の観測隊が基地に到着したばか
りであり、廊下は今以上に雑多な荷物にあふれていたのである。
結局、今目の前にいるれいむたちにオレンジジュース1ダース近くが飲まれてしまい、飼
育員がそのことに気づいたのは、雪上飛行機からの荷物の積み下ろしが終わった後だった。

「ゆ!!おにいさんはびゅーてぃほーなれいむがゆっくりできなくてもいいの!!!」

そう言うとれいむはぷくーっと膨れ上がって飼育員を威嚇した。このれいむは子供たちの
面倒見はいいものの、一番の厄介者でもあった。
飼育員は優しくその頬を潰し、空気を抜いてやる。

「ぶぴっ!ぶぴぴっ!!ぶぼぼぼぼぼっぴ!!!」

ひどい音がした。

「うわっ!唾飛ばすなよきったねええな。」

いつまでもれいむにかまっているわけにはいかないので、他のゆっくりたちにもエサをや
っていく。

「おにいさんありがとう!!!」
「ありがちょー!おにーちゃん!!!」
「おう!ゆっくり食えよ!!」

基本的にここにいるゆっくりたちは、厳選な餡統の審査によって選抜されたゆっくりだっ
た。金バッジ保持個体、または金バッジを両親に持つ子ゆっくりの中から、さらに我慢強
い個体のみが選ばれ、ここに連れてこられたのだ。
ゆっくりの構成は、りーだーのまりさ、そしてさっきのれいむ、二匹のこどもである子ま
りさと子れいむ、そしてありすとちぇんの六匹である。
彼らは、ここ南極でゆっくりが非常食として飼育可能かどうか、その実験生物として持ち
込まれたのだ。
ただし、彼らが直接食べられることはない。あくまで彼らは実験要員であり、そのために
わざわざ優秀な個体を選んで持ってきた。ここで生活し、繁殖していくことができるかど
うか、そのコストはいくらぐらいか、彼らを通じて、この閉鎖的で極限の環境下にある観
測隊員の精神的なケアは期待できるかどうか。
それらの情報を集めるための、実験要員なのだ。もっとも、実験といっても、毎日行うわ
けではなく、定期的に糖度や弾力性、健康状態がチェックされる他は、ほとんど自由に生
活させられていた。時折、暇をもてあました観測隊員が遊びに来るぐらいである。

「おにいさん!今日もごはんさんありがとう!おかげでまりさはゆっくりできるよ!!」

ここのりーだーであるまりさだ。言葉遣いだけでなく、人の言いつけも良く守り、この飼
育スペースの掃除もやってくれる優秀な個体である。帽子はピンと張っており、体も丈夫
だった。もしペットショップで販売すれば万冊が飛んでいくことになるだろう。
この観測基地でもっとも人気者のゆっくりだ。

「おうおはようまりさ!!」

そう言ってまりさの頬をすーりすーりしてやる飼育員。

「ゆゆ!すーりすーり…ゆゆ、しあわせ~!!!」

飼育員にはこのまりさたちが可愛くて仕方なかった。時折、わがままを言うれいむを見る
と、なんでこいつが選ばれたんだろうと思うこともあったが、みんなでゆっくりしている
姿を見ると、どいつもこいつも可愛い、そんな気持ちになるのだった。

「むーしゃむーしゃしあわせ~!!!」

ゆっくりたちが食事している間に、うんうんを回収する。うんうんの糖度や水分含有量も
ゆっくりたちの健康状態を知る、貴重なデータだ。
ここにゆっくりたちが来て半月以上が経とうとしていた。



その頃、観測基地への補給物資、観測隊の交代要員などを積んだ観測船は、既に南極大陸
沿岸まで来ていたが、悪天候に阻まれ、連絡用の雪上飛行機を飛ばすことができないでい
た。観測船は海氷に何度も突入を試みたが、例年よりも氷の張り出しが早く、そして厚か
った。なかなか補給が届かない観測基地では、一部の物資に使用制限がついた。



その日、飼育員はゆっくりたちの飾りを洗濯してやった。壊さないよう一つ一つ手もみで
洗い、乾燥させる。さすが選抜されたゆっくりだけあってか、お飾りを洗濯のために外す
ということには抵抗がなかった。きれいになったお帽子をまりさに被せてやる。

「ゆゆ!ありがとうおにいさん!!きれーなおぼうしさんはとってもゆっくりできるよ~
!!!ゆふふ~なんだかいいにおいだよ~!!!」

他のゆっくりやこどもたちにもお飾りをつけてやる。

「ゆふふ!れいむのおりぼんさんはわんだほぉゥ!だよ!」
「ゆゆー!!まりちゃのおぼうちぴかぴかじゃよ!!!」
「ありすのかちゅーしゃさん、ますますとかいはだわ!ありがとうおにいさん!!」

喜ぶゆっくりたちを一匹ずつすーりすーりなーでなーでしてやる。

「おにーちゃん!おにーちゃん!まりちゃにまたおうたさん教えてほしいんだじぇ!!」

子まりさはゆっくりたちの中でも特に飼育員に懐いていた。

「よ~し、じゃあ今日は一緒に『さん・せばすてぃあん』を歌おうな!」
「ゆ~!『さん・せばすてぃあん』はまりちゃたちのあんせむなんだじぇ!!」

飼育員が笑顔で子まりさと一緒に歌おうとしたとき、建物に呼び出しのベルが鳴った。
観測隊員集合の合図である。この時間は南極大学の時間だった。南極大学とは、観測
員が交代で自分の専門分野の話をする勉強会のことである。南極観測隊の伝統行事で
あり、今日のテーマはは南極の湖沼に生息するコケ坊主と呼ばれる植物集合体につい
てであった。

「ごめんなまりさ!お兄さん、集まらなきゃいけないんだ!!」
「ゆ~゛…いっちょにあんせむ…」
「また今度、な。」

飼育員は子まりさの頭を軽く撫でてやった。子まりさが機嫌を直したのを確認すると、
会議室へと急いだ。



観測船の到着予定日から二週間以上が過ぎても、観測船は依然として分厚い海氷に覆
われた沖合いの海にいた。このままでは冬が来て次第に氷が厚くなり、観測船の出力、
氷砕能力では本土へ帰還できなくなる可能性すらある。
だが、いつになっても天候は好転することがなく、観測船は地上の隊員たちを収容す
ることができなかった。船に積んである食糧、水は有限ではない。
船長は決断に迫られていた。

観測隊員の交代、物資の補給を行わずに撤収するか否かを。

その日、観測基地では何時間も会議が続いた。
観測船が基地に接近できない以上、連絡用の雪上飛行機を何回か往復させて、観測員
だけでも収容するか、もしくはそれが悪天候により不可能な場合、観測隊員は次の南
極探検が行われるまで、観測基地に篭城することになる。
重苦しい雰囲気の中、今後の天候の予測、飛行機以外の移動手段、他国の基地への救
援要請、食糧や燃料の備蓄量などについて報告・議論が展開された。
結局、観測船は更に一週間、海氷の突破を試みることになったものの、観測隊員には
いつでも基地を離れられるよう、私物や機材の整理が通達された。



「観測基地を放棄する。雪上飛行機にて地上の隊員たちを回収せよ。」

放棄命令が出たのは、その翌々日のことだった。突破の目途が立たない海氷、久々に
訪れた好天下に、甲板上に露天繋留してあるDHC-2軽輸送機でもって観測隊員だけを
観測船に退避させることにしたのだ。



数時間後、飼育員は観測隊長に呼び出された。

「観測基地を放棄し、DHC-2にて観測船に撤収することが決まった。ゆっくりは連れて
行けない。」

天候の回復は一時的なものであり、DHC-2軽輸送機は観測船−基地間を二往復するのが
精一杯と予想された。そして、小さな雪上飛行機二往復で回収できるのは、観測隊員
だけだった。かさばる私物や、高価だが大きな実験機器でさえも基地に残すよう指示
が出た。飼育員は必死に抗議し、そして絶望した。



飼育員がゆっくりたちのために動くことができる時間は限られていた。彼はゆっくりの
飼育・観察を主な任務としていたが、限られた人数しか滞在することができない南極基
地では、他にも施設の管理や、屋外観測の補助、内地との通信業務など、彼がこなさな
ければならない仕事は多々あったのである。そして、今、雪上飛行機が飛び立つまでに
それらの仕事の後始末をし、自身の荷造りをしなければならなかった。

飼育員は全員にゆっくり用の防寒服を着せた。基地が一時放棄となれば、凍結防止用の
暖房を除けば、ほとんどの電源は切られてしまう。ここにいれば外気温に曝されること
はないだろうが、それでも節約のために暖房は最低限の温度に設定され、今までのよう
に快適な環境でゆっくりするというわけにもいかないだろう。

「ゆゆ!!おにいさんこれ苦しいよ!!!」

れいむが急いで防寒服を着させられ苦情を言う。

「ごめんな…本当にごめんな!絶対にこれを脱ぐなよ!!二度とゆっくりできなくなる
からな!!」
「ゆ?お兄さん?」

ゆっくりたちは飼育員の様子にただならぬものを感じたが、今はただ何も分からず混乱
していた。

次に飼育員は急いで、運べる限りのエサを、ゆっくりの飼育施設の余剰スペースに放り
込んでいった。
ゆっくりのエサは全てパックされており、その大半は密閉性を重視して缶詰が占めてい
た。どうひいきめに見ても、ゆっくりに独力で開けられるものではない。
しかし、基地で飼われているゆっくりの実質的なりーだーであるまりさは、道具の扱い
を小さな頃からしっかりと教育されたエリートだった。

「ゆゆ!?どーしたのお兄さん?ゆわ!お空飛んでるみた~い!!」

飼育員は慌しくまりさを抱きかかえ、ゆっくりのエサが陳列されている通路に連れて行
った。

「ゆ!?ごはんさんがいっぱいだよ!!これだけごはんさんがあればとってもゆっくり
できるよ!!」
「まりさ、よく聞いてくれ。これからお前たちは越冬しなければならないんだ。」
「ゆ!?まだこんなにぽ~かぽ~かだよ?」
「もうすぐ寒くなる。暗い冬が来る。お兄さんはお前たちを助けてやれない…お前がこ
こからエサをとって、みんなにくわせてやるんだ。」
「ゆゆ!?なんだかゆっくりできないじたいの気がするよ!!」

飼育員は泣きそうになるのを必死にこらえ、話し続ける。その心底では、正直に今の状
況を言えない自分の弱さを、そして予測できなかった不運を呪い続けていた。
だが、観測隊はおまえたちを見捨てるんだ、と言って状況が何か良くなるのか?

「まりさ、カッターは使えるか?」

飼育員は「アメ横」の木箱から毛布を手当たり次第に取り出し、ゆっくりの飼育スペー
スに放り込んでいく。

「まりさはかったーさんは使えるよ!」
「さすがだな!栓抜きは?缶切りはどうだ!?」

飼育員は次に木箱を組み替え、ゆっくりのエサが入った木箱を下段に移していく。
自力でエサが取れるようにするためだ。

「せんぬきさんとかんきりさんはむずかしいよ!でもゆっくりすれば使えるよ!!」
「よし!蛇口はひねれるか?」

飼育員はさらに人間用の食料や飲料水を木箱ごと下段へと移し変える。

「ゆゆ~…じゃぐちさんはゆっくりできないよ…」

いくらまりさが優秀でも、手のないゆっくりでは蛇口を自在に使うことは困難だった。

「う~ん、そうだな、蛇口はさすがに難しいな。」

飼育員はまりさをウォータークーラーの前に連れてきた。そして、水が出る部分にゴ
ムホースをつなぎ、ペダルを踏めば、床に置いたプラスチック容器に水が出るように
即席の改造をした。

「まりさ、そこに乗ってみろ。」
「ゆ?」

まりさは言われたとおりにペダルに乗る。

「ゆゆ!!おみずさんが出てきたよ!!」
「越冬中、水はそうやって飲むんだ。もし、この機械が動かなかったら、あそこに水
の入ったペットボトルがあるからカッターで切り裂け。理解したか?」
「ゆゆう~!!おぼえなきゃいけないことがたくさんあるよ!でもゆっくりりかいし
たよ!!」
「お前は本当にいい子だな。とてもゆっくりしてるよ…」
「?おにいさん…?」

まりさは気づいた、飼育員の声が微かに震えていることに。
その時、ベルが鳴り、基地内に放送が入る。

「基地放棄10分前、基地放棄10分前、観測隊員は食堂に集合せよ。観測隊員は荷物を
もって食堂に集合せよ。」

「まりさ!俺はでかける。長い狩りだ!いつ帰ってこれるか分からない。次にここに
人間が帰ってくるまで頑張って越冬しろよ!お前がみんなを守るんだ!」
「ゆゆ!?やだよ!まりさ、おにいさんと一緒にいたいよ!みんなで一緒にゆっくり
したいよ!」

飼育員はもう泣いていることを隠そうとはしなかった。隠せなかった。

「人間の群れのりーだーの命令だ。頑張って…ゆっくりしろ…ごめんよ、絶対生き延
びていくれ!」

飼育員はそう言うとまりさを降ろし、食堂へと向かった。

「おにいさん!!」
「?」
「ゆっくりいってらっしゃい!!」

飼育員はそのときのまりさの顔を一生忘れることはなかった。

観測船に到着後、飼育員は何度も、もう一度だけ軽輸送機を飛ばしてくれるよう船長
に懇願した。数日でいいから、天候の回復を待ってほしい、そしてゆっくりたちを助
けたいと。だが、観測船のまわりは既に氷が厚く張り始めており、観測船は外国の最
新鋭氷砕船に救援を依頼していた。最早、観測船独力で氷の海から脱出できる状況で
はなくなっており、船長や観測隊の判断で予定を変えることはできなかった。
翌日、悪天候の中、外国の氷砕船が観測船の救援活動を開始しても、飼育員はなお、
船長に、観測隊長に食い下がった。しかし、一等航海士に、船長や隊長も氷砕船や政
府に対して、何度も観測隊交代要員を上陸させるために、そして置いてきたゆっくり
を助けるために交渉したがダメだったのだ、と聞かされた。
飼育員は今更ながら、辛いのが自分だけではないことを悟り、もうそれ以上フライト
の強行を意見具申することはなかった。

こうして、人間は観測基地を去り、南極の冬の中にゆっくりたちは取り残されること
となった。



観測隊が基地を去ったその日、ゆっくりたちに危機感はなかった。
何やら慌しいことがあったが、また明日になれば、おにいさんがエサを持ってきてく
れる、たっぷりすーりすーりしてくれる、と。

翌日、静まり返った基地の中で、誰もエサを持ってきてくれなかった。誰もうんうん
を掃除してくれなかった。誰もすーりすーりしてくれなかった。

「ゆゆ…おにいさんとすーりすーりしたいよぉ…」
「ゆえええん…きょうこそおにいちゃんとまりちゃのあんせむうたいたいんだじぇ
~…」
「どぼじでれいむにごばんざんもっでぎでぐれないのおおおおおおお゛!!」
「おなかすいたよ~分かるね~?」
「うんうんをおそうじしてくれないなんて、とかいはじゃないわああああ゛!!!」

そしてなんだか寒い。

「ぶるぶる…ぶるぶる…なんだかさむいのじぇ…」
「れいみゅはさむくちぇゆっくちできにゃいよ~!!!」
「ゆゆ~!!寒いよ!ふゆさんが来たんだよ!!ままとすーりすーりしてあったま
るよ!!」

暖房のレベルがいつもの18℃前後から、10℃ぐらいにまで落とされたのだ。
基地に来て以来、室内ではぬくぬくとした環境で育ってきた彼らはゆっくりできな
かった。

「こんなところにたくさんもーふさんがあるよ~!分かるよ~!!」

ちぇんが見つけたのは、昨日、飼育員が必死に持ち出した毛布だった。
ゆっくりたちはそれを寝床に持ち込んで、保温を図る。

「もうふさんぬーくぬーくでとかいはだわ~!!!」
「ゆゆ~れいむはきゅーとににどねするよ…すーやすーや…」

ここで、まりさは昨日のお兄さんの言葉をゆっくり思い出した。
越冬は本当なんだと。

「みんなきいてね!!まりさたちはこれからえっとうするんだよ!!」

まりさはみんなに説明した。人間さんは群れ全員で長い長い狩りに出かけてしまった
こと、まりさたちはその間えっとうしなければならないこと、食糧と水はお兄さんが
たくさん用意してくれたこと。

「ゆっくりりかいしたよ!!」
「「りかいちたよ!!」」
「れいむはこどもたちのために早速狩りに行くよ!!!」

そう言うとれいむは飼育員が飼育スペースにおいていってくれた箱から、スナック菓
子やら缶詰やらを持ってきた。

「ゆふう…かりはいのちがけだったよ!!だいしぜんのめぐみにかんしゃしてゆっく
りむーしゃむーしゃしてね!!!」
「みゃみゃすごーい!!」
「さすがまりちゃのみゃみゃなのじぇ!!」

子まりさと子れいむは大喜びでお菓子や缶詰にかじりつく。

「ゆぎぎ?これあじしゃんしないよ!!ゆっくりできないよ!!」
「いじゃい!!いじゃいんだじぇえええ!!!」

いつも飼育員がパッケージや缶から取り出してから与えていたので、食べ物が中にそ
の入っているということが理解できないようだ。子まりさの方は歯が何本か欠けてし
まっていた。

「ゆゆ!?おちびちゃん泣かないで!!!」

事態に気づいたまりさが慌てて子まりさのもとへ跳ねていく。

「ごはんさんはふくろさんや、かんさんに入ってるんだよ!!ふくろさんやかんさん
に入っているからいつでもむーしゃむーしゃしあわせーができるんだよ!!!」

まりさは子まりさをなだめると、舌を器用に使って、帽子の中に入っていたカッター
でスナック菓子の袋を切り開いた。しかし、缶きりで缶を開けるのには苦戦した。
まりさはいくら道具を使う訓練を受けているとはいえ、そもそも人間の缶詰はゆっく
りには開けにくい構造なのである。

「ゆふ~……かんきりさんはゆっくりできないよ…」

結局、まりさが缶詰を開けたのは、一時間後のことだった。

「ゆゆ!やっと開いたよ!!みんなでゆっくり食べようね!!」
「むーしゃむーしゃ、しあわせ~!!」
「うっめ!これめっちゃうっめ!!!」
「ゆゆ!ふたさんにもごはんさんついてるよ!もっちゃいないからぺーろぺーろする
よ!!」

子まりさがふたについた残りをぺーろぺーろする。

「ゆぴぴっ!?」

そして、フタの端で舌を切ってしまった。

「ゆんやああああああ゛!!!いじゃいよおおお゛!!!」
「ゆゆ!?おちびちゃんだいじょうぶ!?ゆっくりしてね!!」

そこへれいむがお菓子の袋をくわえて現れる。

「ずーりずーり…まりさ、このふくろさんも開けて欲しいよ!ゆっくりしないで開けて
ね!あいするあいするれいむがおなかすかしてるんだよ!!!」
「ゆゆ!?ちょ、ちょっとまってね!ゆっくりまってね!!」

その後、まりさは怪我した子まりさの面倒を見、れいむの食べたがるお菓子の袋を開け、
部屋の掃除を指揮しなければならなかった。飼育員がいなくなったことで、ゆっくりの
中では飛びぬけて優秀なまりさに一度に負担が集中したのである。

食事の後、部屋を掃除したものの、うんうんはなくならなかった。

うんうん用の容器の中には、こどもたちの豆粒のようなうんうんが、まりさたちの一口
饅頭のようなうんうんが、そしてれいむの大魔神のようなうんうんが中央に覇王の如く
君臨していた。

「どぼじでうんうんざんいなぐならないのおおおおお゛!?」

今まで巣の外にうんうんを運んでいたのは飼育員である。その飼育員がいなくなった以
上、うんうんを指定の場所に集めてもなくならないのは当たり前である。そして、しー
しーをするしーしー砂を取り替える者も誰もいなかった。

「ゆええええんん!!ぐじゃいよおおおお゛!!!」
「うんうんばっがりじゃゆっぐりでぎないんだじぇええええ!!!」

こどもたちはぴーぴー泣いてしまった。その横でれいむはどうしていいか分からずおろ
おろしている。

「もう自分たちでうんうんとしーしーを捨てるしかないよ~!分かるね~?」

まりさたちは協議の結果、飼育スペースから少し歩いたところにある、ごはんさんなど
が置いていない場所−それは観測隊の資料室だった−をうんうん置き場にし、毎日、う
んうんやしーしーが染みこんだ砂をそこへ捨てに行くことにした。

「うんうんはきたないけど、おちびちゃんのためならしかたないよ!」
「よごれしごとを積極的にやるのもとかいはね!!」

れいむがうんうんを、ありすがしーしーの入ったプラスチックケースを口にくわえて運
び、うんうん置き場の奥に中身を捨ててくる。そして、そこへまりさがしーしー用の砂
を補充した。野生や野良の個体ならば、巣の外で済ますか、巣の中に乾燥するまで放置
することで排泄物に対応しているのだが、優秀なゆっくりであるばかりに、まりさたち
にはうんうん、しーしーが巣の中にあることが許せなかったのである。

「ゆっくりぷれいすがきれーになったんだよ!分かるよ~!!!」
「ゆゆ!この調子ならえっとうもきっと大丈夫だよ!!」

自分の世話をお兄さんに頼らずに完遂しただけで士気が上がる。いくら優秀でも所詮は
飼いゆっくりということなのだろう。

「ゆ~…おにいちゃんにすーりすーりちてほしいんだじぇ…」
「おにゃかいっぱいになったらすーりすーりしちゃいよおおお!!」

毎日、お兄さんにたっぷりすーりすーりしてもらっていたゆっくりたちには耐えられ
なかったのだろう。子まりさと子れいむは寂しさのあまり泣き出してしまった。

「おちびちゃん!大丈夫だよ!!ぱぱとすーりすーりしようね!!」
「ままもおちびちゃんとすーりすーりするよ!!」
「ありすともすーりすーりしましょうね!!」
「みんないっしょならさびしくないね!!分かるよ~!!」

みんなですーりすーりをする。ゆっくりたちが心からゆっくりできる瞬間だ。
このとき、このゆっくりたちは自分たちならこの「えっとう」を乗り切ることができる
という自信にあふれていた。

「ゆゆゆ!みんなですーりすーりすればあったきゃいんだじぇ!!」
「ゆゆ~!れいみゅはぜんぜんさびしくないよ~!!」

人間さんがいなくなってからなんだか寒い。

その思いもあって、ことあるごとにすーりすーりして互いの体を温め合った。
それから新しい赤ゆが生まれるまで、大して時間はかからなかった。




南極の冬は暗い。
太陽の光が建物の中まで差し込んでくる時間はほとんどなくなった。
証明のほとんどない観測基地の中で、ゆっくりたちは陰鬱な気分に悩まされながらも、
まだゆっくりしていた。

観測基地から人間がいなくなって約一ヶ月、まりさは焦っていた。
あれだけたくさんあった食糧が随分減っているように思えたからだ。
実際のところ、減っているのは巣の近くの木箱だけで、通路に出ればまだまだ餌は豊富
にあった。しかし、優秀と入っても、野性を経験したことのない飼育用ゆっくりである。
初めての越冬、それも終わりの見えない状況で、不安に駆られたとしても、無理なから
ぬことである。

「ゆゆ!!みんな食べすぎだよ!!!今はえっとうしてるんだよ!おなか一杯食べてた
ら春になる前にごはんさんがなくなって、みんな永遠にゆっくりしちゃうんだよ!!
これからは一日三食にして、ごはんさんをせーぶするよ!!」

ある日、まりさは皆にそう呼びかけた。
飼育員がいなくなったことで、自分たちの面倒を自分で見なければならなくなった代わ
りに、自分たちの好きなときに好きなだけ食べられるようになった。ゆっくりすること
が何よりも大切なゆっくりたちにとって、その喜びは大きく、今まで一日三食だったと
ころを、四食、五食と食べたこともあった。特にれいむの暴飲暴食ぶりは凄まじく、赤
ちゃんを身ごもっているからと、主にお菓子を食い散らかしていた。

こんなにたくさん食べなくてもゆっくりできる。
それよりも、えっとうのためにまだまだ「しっそけんやく」するべきだ。
そうまりさは主張した。

「ゆゆ!!れいみゅはごはんしゃんいっぱいたべちゃいよ!!」
「ありすはおちびちゃんたちにおなかいっぱい食べさせたいわ!」

ありすとちぇんの間には、二匹の赤ちぇんが産まれていた。

「でもえっとうに失敗するとえいえんにゆっくりしちゃうよ!分かるよ~!!」

異論を持つゆっくりもいたが、最後には皆納得した。
そもそも食糧減少に対して彼らの責任が占める割合は比較的低い。

「なにい゛っでる゛の゛お゛おおおおお!?にんぷはたくさんたべなきゃいけないん
だよおおおおお゛!!!たりないこがうまれてぎぢゃっだらどうずるのおおお゛!?」

おなかを大きくしたれいむを除いては…
れいむはこの頃、観測基地のゆっくりの中でもっとも大きく成長していた。成体サイ
ズの比喩として、よくサッカーボールぐらいと言われるが、れいむは最早、ビーチバ
レーのビニールボールぐらいの大きさだった。
ハロウィン用のお化けかぼちゃにでもなりたいのだろうか?

「げんぎなあがちゃんがうまれないどゆっぐりでぎないでじょおおおおおおおお!?
れいむはだぐざんだべなぎゃいげないんだよ!!!にんぷさんはずどれずたまるんだ
よ!!ぢゃんどまわりをきづがっゆっぐりかんがえでね!!!ゆぶぶぶ、ぎゃわいぐ
でごめんでぇ!!!」

このれいむ、飼育員がいた頃は、わがままを言うことはあったものの、まりさや飼育員
の言うことはちゃんと聞くゆっくりだった。しかし、自分を止められるものがいなくな
り、餌の心配をする必要がない(れいむはそう認識している)環境下で、次第にげずとみ
なされても仕方のないような言動が増えてきてしまったのだ。
おそらく、にんっしんっしたことにより、餡子内のほるもんバランスが変化し、群れよ
りも自身とその子供を優先するようになったのだろうか?

「ゆゆ!!怒らないでね!れいむ!ゆっくりできないよ!!やせいのゆっくりはまりさ
たちみたいにいいもの食べてないってお兄さんが言ってたよ!!だかられいむもそんな
に食べなくてもきっと元気なおちびちゃんを産めるよ!!ゆっくりりかい…」
「どぼじでぞんなごどいうのおおおおお゛!!!れいむはにんげんさんにえらばれだゆ
っくりなんだよおおおおお!!!やせいのゆっぐりなんがどいっじょにじないでね!!」

れいむは顔を膨らませてぷくーっをする。だが、それは怖いというより不気味だった。

「ゆえええええん!!みゃみゃのぷくーっはゆっぐりでぎないいいいいい゛!!!」

思わず子まりさが泣き出す。

「どぼじでぞんなごどゆうのおおおお゛!!!ままはびーなずなんだよおおお゛!!!」

話が変な方向に逸れそうなので、思わずまりさが咳払いをする。

「ゆっふん!!とにかく!!だめなものはだめだよ!!無事えっとうするためだよ!!
ゆっくりりかいしてね!!」

懲りずに喚きたてるれいむをまりさはそれ以上相手にしなかった。そして、まりさの管理
によってそれ以降、ゆっくりたちの食事は三食に制限された。それでも、普段、飼育員が
与えていた食事に比べて量は大して変わらなかったのだが。

「ゆぶぶぶ…これじゃあしあわせーってできないよ…」

あっという間に自分の分を平らげて、寂しそうに餌を入れるプラスチック容器を見つめる
れいむ。しかし、食事制限に不満を持っていたのは、この太ったれいむだけではなかった。

「ゆゆ…おなかいっぱいになれないんだじぇ…」
「これじゃあゆっくちできないよ…」

子れいむと子まりさはずっと母親のれいむと一緒に食事していたため、一日に何回もごは
んさんを食べることに慣れっこになってしまっていたのだ。


夜中、子れいむは空腹によって目が覚めてしまった。

「ゆゆ…おなかすいたよ…」

なんとか我慢して眠ってしまおうとするが、空腹を意識すればするほど眠れなくなる。

「ゆゆ…もうがまんできにゃいよ…」

子れいむはこっそりと起き上がり、毛布から抜け出した。途端にあったまっていた体が
冷たくしっとりした夜の空気によって冷やされる。

「しゃむいけどがまんするよ…そろ~りそろ~り…」

子れいむは餌が蓄えてある通路に向かった。しかし、

「ゆゆ!!なんじぇぱぱがごはんさんのところでねてるおおおお!!」

まりさは誰かが空腹に耐え切れず、ごはんさんをこっそり食べてしまうのを防ぐために、
通路で眠っていたのである。

「むーにゃ…むーにゃ…すーや…すーや…」

鼻ちょうちんを膨らませながら眠るまりさ。
子れいむは何とか、その防御壁をすり抜けて、餌にたどり着こうとした。だが、まりさ
が通路の中央付近で眠っているために、それは難しかった。おそらく、どこを通っても
まりさに触れるか、毛布を踏んでしまうため、起きてしまうだろう。

「そろーりそろーり…」

それでも餌への接近を試みる子れいむ。

「…んん!…」
「!!!」

まりさは寝返りをうっただけだったが、子れいむは思わず飛び退き、通路の入り口まで
全速で撤退してしまった。

「ゆゆ…おなかすいててゆっくりできないのに…」

子れいむのおなかは容赦なく空腹の悲鳴をあげ続けている。

子れいむは決心した。
よし、お外にごはんさんを取りに行こうと!

観測基地は厳重にロックされていたが、ゆっくりのために、飼育棟から外へ出られる小さ
な出入り口があった。これは、夏に外で飼育員と遊んだときに、ゆっくりの要望で飼育員
が作ってあげたものだった。猫用の出入り口のようなもので、ドアを何重にも取り付ける
ことで外気の侵入を阻んでいる。

この出口は建物の影、南極の冷たい風を完全に遮断できる位置にある。さらに、そのすぐ
近くに発電機があるため、そこから発せられる熱によって、この出口が完全に雪に塞がれ
てしまうことはなかった。

子れいむは真っ暗な通路を、触覚のみを頼りに進んでいた。

「ゆぎゃあ!!…ゆゆ~ん…まっくらでどあさんみえないよ…」

子れいむがなんとか出口から外に飛び出したとき、子れいむを迎えたのは−20℃近い寒
気だった。

「にゃにきょれえええええええええええええええええええ!!ざむびいいいいい!!!
ゆっぐちでぎなびいいいいいい!!!」

子れいむは歯をがちがちと鳴らし、縮こまって寒さに対抗しようとした。しかし、無駄
なあがきだった。空から降っているのか、地面から巻き上げられているのかも分からない
雪の欠片が途切れることなく子れいむの防寒服を打つ。

「じゃむび…がちがち…じゃ…がちがち…」

南極は寒いというイメージがあるが、それと同時に極めて乾燥した場所である。
気象庁のホームページに記載されている基地の湿度を見ると、60~80%といった数字が
並んでおり、湿度が高いように感じられる。しかし、湿度には相対湿度と絶対湿度があ
り、我々が普段目にするのは相対湿度である。
「相対湿度」はある気温(温度)の空気の飽和水蒸気量を100%としたとき、何%の水蒸気が
含まれているかを示したものであり、「絶対湿度」は空気1kg中に含まれている水蒸気の量
のことで「g/kg」という単位で表される。
南極は地球上でも最も絶対湿度の低い地域の一つなのだ。

子れいむは防寒服によって守られているものの、その寒さが体温を、その乾燥した空気
が水分を容赦なく奪っていく。子れいむ自慢のおはだは既にがさがさになり始めていた。

子れいむが外出したことがあるのは、まだ生まれたばかりの頃だ。そのときは季節は夏
であり、南極の周縁部にあたるこの観測基地では、気温が氷点下を上回ることも珍しく
はなかった。そんな日は、飼育員はゆっくりたちを散歩に連れて行ってくれたり、観測
隊員お手製の即席露天風呂に入れてくれたりしたものだった。
子れいむの記憶にある「お外」とはその頃のものだったのである。
今は冬、日照時間はほんの数時間しかなく、日によっては秒速20メートル以上のブリザ
ードが吹き荒れることもあった。

冬の南極といっても生命の影が皆無なわけではない。分厚い氷の下には不凍液を体内に
持った魚が海を泳いでおり、湖の底には藻類が、零下数十度の氷原にはコウテイペンギ
ンが次の世代を育んでいた。
しかし、いずれもゆっくりが自力で獲得できる餌とは到底思えないものばかりであった。

「ゆぎぎぎぎぎぎ!!!かじぇしゃんはゆっぎぎでぎないいいいい゛!!!」

子れいむは知らなかったが、北東風が吹き始めていた。
この観測基地では、ブリザードは必ず北東風と共にやってくる。危険な兆候であった。

「ゆぎぃいいいいい!!!れいむは…ごはんさん…ひゃぶうううう!!!」

このときの子れいむの執念はゆっくりにしてみれば恐るべきものであった。這い回る
ように移動し、なんとか建物の影に置かれている、雪上すぃーを見つけ出す。

「ど、ど、ど、どぼじっでででですぃーーーーーがゆぎさんのながにうばでででるのお
おおお゛!!!」

ゆっくり得意の叫び声も寒さでうまく言うことができなかった。防寒服から微かに露出
している目や口の周辺はかさかさに乾燥し、氷が張り付き始めていた。

雪上すぃーは飼育員が南極の雪上移動用に作ってくれた特別仕様のすぃーである。まり
さ、れいむ、ちぇん、ありすの4台が用意されており、それらは重心の移動によって操
作するタイプと、あにゃるにハンドルを差し込んで尻の動きで操作するタイプの2つに
分かれていた。飼育員お気に入りのまりさ専用機「ふぉるねうす」はもちろん、あにゃ
るハンドル型である。

子れいむは一生懸命、積雪の中から雪上すぃーを掘り起こそうとした。

「すぃーざんゆっぐちじないででてきでね!!ゆんしょ!ゆんしょ!ひゃぶぶぶぶいい
い!!!」

心なしか辺りが暗くなり、風が強くなってきたような気がする。子れいむは作業を急い
だ。

「ゆう~…なんとかゆぎさんをどかじだよ!!ゆゆん!!ゆぎ!?」

子れいむはすぃーハンドルを口で持ち上げようとしてバランスを崩し、歯を何本か折っ
てしまった。

「ゆぴいいいいいい!!!」

思わずしーしーをもらし、痛みに辺りをのたうち回る。しかし、南極の冷気はれいむの
漏らしたしーしーを凍らせてしまい、れいむは刺すような冷たさに、さらにのた打ち回
った。

「ゆぎいい!れいむの!れいむのべにべにがじべだいよおおおおおおお!!!」

だが、のた打ち回ったところで氷が解けるわけではない。

「じべだいいいい゛!!!べにべにがじべだぐでゆっぐじでぎないいいいいい゛!!!」

結局、子れいむはしばらくして泣き止んだが、それは刺すような冷たさが消えたからでは
なく、子れいむのぺにぺにの感覚がなくなったからであった。

「ゆぎいいい…おなか…じゅいだよ…じゃぶいよ…」

ここに来て空腹を思い出し、なんとか雪上すぃーに乗る子れいむ。子れいむが掘り出した
のは、ありす専用機「あらけす」だった。
ハンドルを防寒服の上からあにゃるに軽く差し込み、ゆんっと踏ん張ってグリップを固定
する。
子れいむに行くあてはなかった。ただ、お外に出れば何かしら食べ物にありつける。その
程度の考えしかなかったのである。

子れいむは盗んだすぃーで走り出した。

「ゆぎぎぎぎ!!ざぶびいいいいいい゛!!!」

雪の中を疾走するすぃー。
風を切って走ることで体感気温は更に下がり、子れいむの皮の弾力性は次第に失われてき
た。そしてあにゃるに差し込んだハンドルから伝わる振動、

「んほほお!!!んほほほおおおおおおいいい゛!!!」

子れいむは寒さに震えながら、ぺにぺにをいきり立たせ、ノリノリで氷原を疾走していっ
た。しかし、次第に視界は真っ白になっていき、横殴りの氷雪が強くなっていく。

「んほほほほ!んほ!やっほぅぅいいいいいい!!!」

何も考えずにすぃーを走らせる子れいむ、しかし次の瞬間、子れいむは宙に浮いていた。

「!?」

すぃーが新雪の下に隠れていたヒドゥンクレバス、氷の割れ目に引っかかったのである。

べし

「ゆべしっ!!!」

子れいむは顔面から雪に叩きつけられ、前歯は全てへしおれ、四散した。そして、いき
り立ったままだったぺにぺには半分に叩き折られた。

「ゆい゛はrんぎあgはwばんフォアpjs8hgpわえぱのwじgないうんpgwな!!!!」

擦りむけた防寒服から、きれいに半分におれたぺにぺにの残りが顔を出していた。感覚
がなくなっていたぺにぺにに痛みだけが戻ってきた。

「ゆぴいいいいいいいいいい!!!れいぶのないすぺにがああああああああ゛!!!」

防寒服が破れたことで急激に体温が奪われる。辺りは地吹雪が吹き荒れ、もう一キロ先
は真っ白で何も見えない状況だった。

「ゆぎ…ゆぎいいい…しーしー…したくなってきたよ…」

一気に体温を奪われたせいか、子れいむは尿意を催した。

「しーしーするよ…」

へし折れたぺにぺにからあらぬ方向へしーしーが飛んでいく。しかし、しーしーは空中
に飛び出た瞬間凍っていき、最後にはぺにぺにから横に伸びるしーしーステッキが出来
上がった。

「どぼじでじーじーざんくっづいでるのおおお゛!!ゆっぐりでぎないよおおお゛!!」

凍ったしーしーを伝って、ぺにぺにから体の方へと冷たい痛みが浸透してくる。れいむ
は溜まらずぺにぺにや尻をぶりぶりと振り回し、しーしーステッキを離そうとする。

「ゆぴぴぴ!!!しーしーさんはなれてね!!!れいむのぺにぺにがちべたいよ!!!」

次第にぺにぺにから感覚のなくなった部分が広がっていくように感じ、子れいむは恐怖
した。

「もうやじゃああああ゛!!!おぶじがえるうううう゛!!!」

しーしーステッキに邪魔されながらなんとか、すぃーに向けて跳ねる子れいむ。
しかし、着地の瞬間、しーしーステッキがへし折れ、ぺにぺにも一緒に付け根からなくな
ってしまった。

「ゆぎゃああああああ゛!!!もうあがじゃんのおがおがみれないいいいい゛!!!」

もっとも痛みはなかった。もう子れいむの凍傷は下腹部へと少しずつ広がっていた。あ
んよが動かなくなるのも時間の問題だろう。
だが、子れいむは最後の力を振り絞ってすぃーに飛び乗ろうとした。しかし、すぃーに
乗った瞬間、地面が消えた。

すぃーは辛うじてヒドゥンクレバスに引っかかっていたのだが、子れいむが乗ったことで
ついに落下してしまったのである。

「ゆぴいいい!!!れいぶおじょらどんでべっ!!!」

子れいむは何度も氷の壁に叩きつけられ、最後には数十メートル下の冷たい氷塊の床に
叩きつけられた。

「ゆびゃ!!!」

吹雪で凍っていたもみあげは割れて四散し、両目は飛び出して破裂した。顔の半分は落
ちた衝撃で飛び散り、真っ青な雪の床に黒いペンキを一滴垂らしたかのようだった。

「ゆ゛…ゆ゛…ゆ゛…」

ほんの数分だけ痙攣が続き、そして止んだ。
餡子の中まで氷が発達し、子れいむは悲惨な死に顔のまま、腐ることも、吹き飛ばされ
ることもなく、雪の下に保存された。



「おじびじゃああああああん!!!がえっでぎでえええええ!!!」

その頃、観測基地ではまりさや子まりさが泣き叫んでいた。
起きたら子れいむがおらず、れいむに、空腹に耐えかねてごはんさんを取りに行ったか
らではないかと告げられたからだ。しかし、翌日になっても子れいむが帰ってくること
はなかった。
外ではブリザードが吹き荒れ、ゆっくりできない風の音や、建物の軋む音が室内に響い
てくる。

「まりさがごはんさんをせつやくするなんていうからだよ!!!このゆっくり殺し!」

れいむは怒りに任せてまりさに体当たりをした。

「ゆびゃああああ゛!!!」

まりさは壁にしたたかに壁に叩きつけられた。

実はれいむは子れいむが寝床を抜け出したとき、起きていたのである。そして、その様
子から食べるものを探しに行くのだと見て取った。れいむが寝たふりをしていたのは、
自分では盗み食いをしに行くつもりがなく、うまくまりさの監視をくぐって子れいむが
餌をとってきた場合、一緒に食べるためである。
そして、子れいむは帰ってこなかった。

「このゆっくり殺し!!!食べ物とおじびちゃんとどっちがだいじなの!!!くず!!」

れいむはまりさの上に乗り、何度も飛び跳ねる。

「ゆべ!ごべんなざ!ゆがああ!!!やべで!!じんっじゃう!!やべで!!!」

れいむの肥満体を何度も叩きつけられ、自慢のお帽子はぐちょぐちょに潰され、まりさ餡
子をかなり吐いてしまった。

「ゆふ~、れいむはえんじぇるだから、これぐらいでかんべんしてあげるよ!わかっだら
さっさとごはんさんもっできでね!!せつやくなんてしないよ!!!いっぱいたべでゆっ
ぐりずるよ!!!」
「ゆ…ゆっぐりりがいじだよ…」

なまじ頭がいいばかりに、子れいむを失った責任感に打ちのめされたまりさは、もう二度
とれいむに逆らうことができなくなった。
毎日、れいむは餌を好き放題に食い散らかし、食事の用意・後片付け・うんうんしーしー
の掃除はまりさの仕事として固定された。
ちぇんとありすは、れいむの様子に嫌気が差し、今は使われていない観測隊員の部屋の一
つに引っ越した。

「ぢょどおおおおお゛!!!まだう゛ん゛う゛ん゛がそうじされていないよおおお゛!!
はやぐそうじしなよ!!!おぢびちゃんがまたえいえんにゆっぐりじちゃうでしょおおお
おおおおおお゛!?」

れいむがまりさを怒鳴り散らさないのはすっきりの時だけだった。
まりさは醜く太ったれいむとすっきりなどしたくなかったが、れいむは赤ちゃんを増やす
ためにすっきりを強要し、もうまりさはれいむに何一つ逆らう気力はなくなっていた。

「ぱぱ~!元気出して!ゆっくりして!!」

子まりさだけがまりさを慰めたが、何もしてあげることができなかった。

「おとうさんは…ゆっくり…してるよ…」

ガラスのような無機質な瞳は何も見ていなかった。



つづけーね



神奈子さまの一信徒です。

次はどんな生態系を書こうかなと考えながら、昨夜の雪を見てむしゃくしゃして書きました。
短編SSにしようと思ったら二話完結となりそうです。

勢いで書いた結果がこれだよ。

お暇つぶしとなれば幸いです。


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このSSへの感想 ※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね!
感想

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  • まさに、れいむ種は不幸の現況になるのは
    ほぼ確定なんだなぁ -- 2012-08-27 00:12:05
  • おお!めっちゃおもしれえ!!続きが楽しみ♪ -- 2011-11-14 07:56:53
  • でいぶは本当に最悪だな…
    まりさが可哀想だ -- 2010-11-15 18:23:33
最終更新:2010年02月16日 18:48
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