ふたば系ゆっくりいじめ 1030 ティータイム

ティータイム 18KB


理不尽 短いお話を一つ…


『ティータイム』






 山奥にひっそりとたたずむ豪邸。見渡す限りの森の中、およそ不釣り合いなその巨大な館には初老の男がたった一人で住んで
いた。彼は、とある業界では知る人ぞ知る有名な資産家である。その懐に抱える巨額の富は、一般人が指折り数えるにはあまり
にも大きすぎる金額だった。もちろん、その富を築き上げるために何度も危ない橋を渡ってきたし、修羅場をくぐり抜けた数に
しても、やはり一般人が指折り数えるにはあまりにも多すぎるものであった。
 初老の男は、疲れ切っていた。別に最後の最後で転落人生を演じたというわけではない。むしろ、駆け抜けたと言ってもよい
ぐらいであろう。若い頃は、それで良かった。休むことなく走り続けて、振り返ることもせず、我が道を信じてひたすら足を前
へ進めていた。
 しかし、老いというものには敵わない。今は現役を退き、この山奥の豪邸にて、変わりゆく空の色を見上げながらのんびりと
その余生を過ごしている。
 芝が綺麗に刈り込まれた中庭の中央付近。そこには真っ白なテーブルが配置されている。お気に入りのティーカップとポット
が置いてあり、初老の男が上質な味わいの紅茶を口に運んでは、激動の日々の反動か深い溜め息を吐く。
「ゆっくりしていってね!!!」
 来訪者、というものは突然やってくるものだ。初老の男が声のする方に顔を向けると、そこにはバスケットボール程のサイズ
の成体ゆっくりがいた。その外見的特徴から、“れいむ”と呼ばれる種であると特定することができる。
「ゆゆっ! にんげんさんは、ゆっくりできるひと?」
 人の家の庭に侵入しておいて、れいむは呑気な表情で初老の男にそんな質問を投げかけてきた。
「見ての通りさ。ゆっくりできていないように見えるかい?」
 低く、しかし落ち着いた声と口調で、初老の男がれいむの質問に答えを返す。その答えに安心したのか、れいむはぴょんぴょ
んと椅子を経由してテーブルの上に飛び乗った。
「ゆっくりしていってね!!!」
 再び、同じ言葉を繰り返す。初老の男はれいむに微笑みかけると、「ゆっくりしていってね」と挨拶を返した。別に、ゆっく
りなど珍しいものではない。まして、ここは山奥だ。ゆっくりの一匹や二匹……下手すれば、一つ二つの群れが存在していたと
しても不思議ではなかった。
 れいむは、テーブルの上に置いてあるお茶菓子を物欲しそうに眺めていた。時折、チラチラと初老の男に目配せする。
「……食べたいのかい?」
「ゆゆっ!? かわいいれいむに、あまあまさんくれるのっ?!」
「欲しいんだろう?」
「ゆ……ゆっくり~~~~~~!!!! ゆっくりありがとうだよ! にんげんさんっ!!!」
 初老の男が、真っ白な皿に盛られた茶菓子の袋を丁寧に破り中身を取り出すと、それをれいむの前に置いた。れいむは口元か
ら少しだけ涎を垂らしながら、そのお菓子を凝視している。
「食べなさい」
「ゆっくりりかいしたよ!!!」
 れいむは舌を使って器用にお菓子を口の中に入れた。もごもごと口を動かす。そして、お菓子のクズをテーブルに撒き散らし
ながら、
「むーしゃ、むーしゃ、……しあわせぇぇぇぇぇぇっ!!!」
 と、お決まりの言葉を叫んだ。初老の男は、ゆっくりについてある程度の知識を持っていたので、この行動も予想の範囲内で
ある。ゆっくりの事を知らない人間であれば、この行儀の悪い行動に眉を潜めてすぐに追い出したり、泣き出すまで叩いたりし
てお仕置きをしたりするだろうが、このれいむは運が良かったと言える。
「ゆっ! ゆっ! れいむ、もっとたくさんむーしゃ、むーしゃしたいよっ!!!」
 れいむがその場で小さくぽよんぽよんと跳ねる。よほど今のお菓子をもう一度食べたいのか、舌先を少しだけ出して困ったよ
うな表情で訴えかけてくる。初老の男は、お菓子の袋をいくつか破りれいむの前に置いた。れいむは、夢中でそのお菓子を食べ
ている。
「ゆっくり~~~!!! にんげんさん、あまあまさん、すごくおいしかったよっ!!!」
「喜んでもらえて何よりだ」
「にんげんさん、すっごくゆっくりしてるよっ!!! れいむ、にんげんさんのこと、だいすきだよっ!!!」
「ははは。そうか、そうか。ありがとう」
「れいむも、ちょっとだけ、ここでいっしょにゆっくりしてもいい?」
「構わないとも」
「ゆゆーんっ!!!」
 初老の男は、ころころと表情を変えるれいむの顔を眺めては穏やかな笑みを浮かべていた。
 れいむは、初老の男に自慢の“お歌”を披露したり、テーブルの上に置いた男の手に頬をすり寄せたりしていた。時折、
「ゆっ、ゆっ」
 指を甘噛みしては、幸せそうに声を上げる。
 れいむは、ずっと初老の男に話しかけてきた。ゆっくりという生き物は、基本的にお喋りするのが好きである。ゆっくり同士
ではもちろんのこと、“同じ言葉”を話す人間との会話もまた例外ではない。ただ、言葉足らずなところが多々あり、会話の途
中で相手を不快にさせてしまって、やはり泣き出すまで叩かれたりすることも少なくはなかった。
「ゆっ! ゆっ! それでね、それでねっ! まりさが、びゅーんびゅびゅーんっ! って、すごいんだよっ!!!」
 語彙が少ないこともあって、れいむの話している内容は八割理解することができなかったが、嬉しそうな顔で矢継ぎ早に話す
姿は微笑ましいものがあった。
 初老の男も、こんな感覚は久しぶりであった。半ば引きこもるようにこの豪邸に隠居してからというもの、ゆっくりが相手と
は言え、長い間“誰か”と会話をしたことはない。
 やがて、西の空が茜色に染まり始め、差し込む夕日が一人と一匹を照らす。れいむは、一瞬だけ名残惜しそうな表情をしてテ
ーブルの上からぴょんぴょんと地面に飛び降りた。そのまま、初老の男の方に振り返ると、
「にんげんさんっ! きょうは、ゆっくりありがとうっ!! れいむ、すっごくたのしかったよ!!!」
「私も、楽しい時間を過ごさせてもらったよ。こちらこそ、ありがとう」
「ゆっ! にんげんさん、それじゃあれいむはもういくねっ!!!」
 れいむが跳ね出す。初老の男はそれを制した。
「れいむ」
「ゆゆっ?」
 立ち止まったれいむが、ぴょんぴょん跳ねて戻ってくる。
「明日もここに来るといい。今日、お話していたお前の友達も連れて」
「ゆ? ゆゆっ?」
 れいむが、目を丸くする。戸惑っているのだろう。野生のゆっくりにとって、人間というものは決して心を許せる相手ではな
いはずだ。れいむがこの広い屋敷に入り込んできたのも、敵になりえそうな人間が初老の男一人しかいなかったからであろう。
あるいは、単純に迷い込んでしまっただけかも知れないが。
「で……、でも……」
「心配しないでくれ。どうせ一緒にゆっくりするなら、数は多いほうがいいだろう?」
「にんげんさん……」
「今日、お前が食べたお菓子だってまだたくさんある。正直、私だけでは食べきれない。誰かが手伝ってくれればいいのだが」
「ゆ……、そ、それじゃあっ!! れいむたちがおてつだいするよっ!!」
「ありがとう。助かるよ」
「にんげんさんっ! それじゃあ、またあした……いっしょにゆっくりしようねっ!!!」
「待っているよ、れいむ」


 初老の男が座るテーブルの周りには、れいむも合わせて四匹ものゆっくりたちがゆっくりしていた。群れ単位でれいむの友達
がやってきたらどうしたものか、と考えていたがそれは杞憂であった。れいむの元に集まった三匹。すなわち、まりさとありす、
そして、ちぇん。昨日、れいむが初老の男との会話で出てきた名前と一致する。
「とかいはなあじだわっ!! とかいはなにんげんさんっ!! ほんとうにどうもありがとう!!!」
「わかるよー!! にんげんさんは、やさしいにんげんさんなんだねー」
「ありがとうなのぜっ!!! まりさたち、すっごくゆっくりできているのぜっ!!!」
 それぞの言葉で、初老の男に感謝の意を述べるゆっくりたち。綺麗に整えられた芝生の上でころころと転がったりするのが、
気持ちいいのだろう。出されたお菓子を一通り食べたあとは、中庭で思い思いにゆっくりしていた。
 初老の男が、そんなれいむ以下三匹のゆっくりを見ては微笑んでいた。
 この広い屋敷の中で、こんなにも楽しそうにお喋りをする声がするのは初めての事だ。もちろん、屋敷の中には使用人やコッ
クが数人いるが、初老の男と彼らの間に会話をする機会は皆無である。彼らにとって、初老の男に話しかけることは神に語りか
ける事と同義だ。下手なことを言って、仕事をクビにでもされたら堪らない。彼らがそんな風に思っているのが、初老の男にも
よくわかる。
 一人ではないのだが、独りではあった。そんな初老の男にとって、気がねなく話しかけてくるゆっくりの存在は、ありがたい
ものであった。いくら、単身人生の荒波を越えてきたとはいえ、人は独りで生きることはできない。ゆっくりが群れを作って動
くように、人間もまた社会という群れで行動する。
(悪い癖だ。せっかくお客人が遊びに来ているというのに、考えることは取るに足らないくだらぬ事ばかり……)
 自分の眉間にしわが寄っているのに気付いたのか、初老の男はくくっ、と小さく笑った。
「どうしたのぜ~?」
 まりさが、それに気付いたのか足下に跳ねてくる。初老の男はまりさの柔らかい両の頬に手を当て、そっと抱き上げるとテー
ブルの上に乗せた。
「ゆゆっ! おそらをとんでるみたいだったのぜっ!!」
 歓声を上げるまりさに気付いたのか、れいむ、ありす、ちぇんの三匹も足下に集まってきて、
「ゆー! れいむも、やってほしいよっ!!!」
「ありすも、おそらさんをとんでみたいわっ!!!」
「わかるよー!! ちぇんもやってほしいんだねー!!!」
「ははは。わかったわかった」
 三匹の頼みを聞き入れ、一匹ずつ持ち上げてテーブルの上に乗せる。最初、あんよが地面から離れるのが不安なのか表情が固
くなるが、視点が少しずつ高くなっていくにつれて楽しくなってくるのか、テーブルの上に乗った頃には嬉しそうにはしゃいで
いた。
 最初、れいむが一匹でやってきたときと同じように、夕焼けが屋敷を染め始めるとゆっくりたちは「おうちにかえる」と言っ
て、初老の男に何度も「ありがとう」を繰り返した。
「ゆゆっ……、にんげんさん、あしたもゆっくりしにきてもいい……?」
 そう言ったのはれいむだった。ありすがれいむの前に出てきて、
「れいむ……そんなにいつもにんげんさんのところにあそびにきてばかりいたら、めいわくだわ……」
「ゆぅ……」
 力なくうなだれるれいむ。まりさもちぇんも、それ以上何も言おうとはしなかった。
 初老の男は、にっこりと微笑んで、
「明日もくるといい」
 少しだけ表情を曇らせつつある四匹のゆっくりに向かってそう言った。一番初めに顔を輝かせたのはれいむだ。
「ゆゆっ! にんげんさん……いいの? れいむ、あしたもきていいのっ?」
「ああ。いつでもおいで。私のティータイムに付き合ってくれるなら、大歓迎だ」
 四匹のゆっくりがお互いの顔を見合わせる。ありすも言葉とは裏腹に、本当は明日もこの中庭に遊びに来たかったのだろう。
「「「「ゆっくりりかいしたよっ!!!」」」」
 四匹が声を揃えて、元気よく初老の男に答えた。
 ぴょんぴょん飛び跳ねて去って行く四匹のシルエットが、中庭を出て行くまで初老の男はずっと見送っていた。
 それから、れいむたちはほとんど毎日と言っていいぐらいに、中庭に遊びに来た。
「ゆっくりあそびにきたよ!!!」
「にんげんさん! きょうもとかいはな“てぃーたいむ”をしましょうねっ……!」
 ゆっくりも、人間と長く付き合えば人間の言葉を覚えるものだ。言葉の意味までは理解できていないのかも知れないが、覚え
た言葉を使うのは楽しいのだろう。時に、それが人間とゆっくりの間に悲しいすれ違いを生んでしまうこともあるが、この中庭
ではそんなことは起こり得ない。
 ここは、れいむたちにとって、紛れもない“ゆっくりぷれいす”だった。
 優しい人間さんと広いお庭。自分たちを脅かす野生動物もいなければ、捕食種もやすやすとは侵入して来れない。
 初老の男にとっても、絶え間なく喋り続けるゆっくりたちの会話を聞いているのは楽しくて仕方がなかった。初老の男にとっ
て会話というものは、いつからか互いの思惑を読み合うための媒体でしかなくなっていた。何度も繰り返されるギリギリの局面
を乗り切るための心理戦。それを制するための道具に過ぎなかったのだ。
 何も考えずに、れいむたちのお喋りを聞いて、相槌を打つ。ゆっくりは話し上手の聞き下手だ。しかし、自分のことを語らな
い初老の男にとっては、最高の“話し相手”だった。
「ゆゆっ!! れいむたち、あしたもあそびにくるよっ!!!」
「まりさもいくのぜっ!!!」
「ありすも……きてもいいかしら……?」
「わかるよー! またあした、あそぶんだねー」
 四匹が帰ってしまった後に訪れる中庭の静寂は、途端に初老の男を寂しくもさせたが、翌朝になるとまた元気よくぴょんぴょ
ん飛び跳ねて中庭にやってくるれいむたちを想像すると、口元が緩む。
 そっと立ちあがり、屋敷へと足を向ける初老の男。その足取りは、決して軽くはない。
「旦那様。あまり無理をなさらないでください」
 屋敷の中に入ると、使用人が初老の男に肩を貸して声をかけた。初老の男は、首を横に振る。
「はは……勘弁してくれ。ようやく、私にも“友人”ができたんだ……」
「あの、野生のゆっくりたちの事ですか?」
「君は変に思うだろうか。私にとって、今、一番心を許せるのはあのゆっくりたちなんだ。頼むから、私の唯一の楽しみを奪う
ような真似だけは、しないでくれ……」
「しかし、あなたは……」
「頼む。私は、今……あのゆっくりたちのお喋りを聞いているのが楽しくて仕方がない。話を聞くのが楽しいと思えたのは、も
う随分と久しぶりのことなのだ。だから、止めないでほしい……」
「……わかりました……」
「迷惑をかけるな……」
 使用人の肩を借り、初老の男がベッドに横たわる。窓からはれいむたちと楽しいひと時を過ごす真っ白なテーブルが見える。
(ふふ……明日は、どんな楽しい話を聞かせてくれるだろうか)
 そんなことを思いながら、深い眠りについた。


 れいむ、まりさ、ありす、ちぇんの仲良し四匹組が、森を抜けてぴょんぴょんと屋敷へとあんよを跳ねさせる。四匹は、いつ
も裏口から屋敷の中へと入っていた。正門は固く閉ざされているからだ。
「ゆゆっ?」
 その正門が、今日は大きな口を開くかのように開放されている。
 四匹が、一度止まって正門と互いの顔を交互に見ながら顔をかしげる。特に何も言わずに、再び飛び跳ねる。いつもと違う光
景が少し気になったが、れいむたちはいつものように裏口から中庭へと入って行った。
「ゆぅ……?」
 れいむ以下、三匹のゆっくりが困ったような表情を浮かべる。いつもは、真っ白な椅子に座り優雅に紅茶を口に運んでいるは
ずの初老の男が今日はいない。
「ゆ……きょうもいっしょにあそぼう、っていってたのに……」
 れいむの言葉を皮きりに、まりさやありすもきょろきょろと辺りを見回す。ちぇんも二本のしっぽをゆらゆら揺らして、
「わからないよー……」
 力なく言葉を発する。
 結局、その日、初老の男は中庭に現れなかった。
 れいむたちは、とぼとぼと山の奥へと帰っていった。
 次の日も、その次の日も。中庭に初老の男は現れなかった。
「にんげんさん……まりさたちのこと、きらいになっちゃったのぜ……?」
 まりさの言葉にありすも俯きながら、
「ほんとうは……めいわくだったのかもしれないわね……」
 相槌を打つ。先頭を跳ねるれいむが立ち止まり、振り返る。三匹があんよを止めた。
「ゆっ! にんげんさんが、れいむたちのことをきらいになるわけがないよ!」
 れいむが、少しだけ涙目で努めて明るく三匹に声をかけた。
「あしたもいってみようよっ! あしたは、にんげんさん……れいむたちとあそんでくれるかもしれないよっ!!!」
 半ば、自分に言い聞かせるようにれいむが言葉を紡ぐ。その気持ちは、ゆっくりである三匹にでも十分伝わってくるものだっ
た。まりさは、帽子のつばで表情を隠すと、
「わかったのぜ……っ! あしたもあそびにいくのぜっ!!」
「「「ゆっくりりかいしたよっ!!!」」」
 れいむだけではなかった。まりさも、ありすも、ちぇんも。初老の男と遊ぶのが楽しくて仕方がなかった。会えなくて寂しか
った。会いたくて会いたくてたまらなかったのだ。
 翌朝。
 れいむたち四匹のゆっくりは、表情から不安を隠しきれないまま、裏口をくぐった。中庭へとあんよを向ける。もう少し、進
めば真っ白なテーブルが見える。果たしてそこで、初老の男は待ってくれているのだろうか。
「……っ?」
 初老の男の姿はなかった。それどころか、真っ白なテーブルさえ、見当たらなかった。
 四匹は、全力疾走してかつてテーブルがあった場所に集まる。
「ど……どういうことなのぜ……っ?」
 困惑する四匹の後ろから、足音が近づいてくる。
「にんげんさ……」
 期待に満ちた表情で振り返った四匹の視界に入ってきたのは、初老の男ではなかった。
 初めて見る男たち。その数、三人。
「何だこいつら……」
「ああ、使用人が言ってたゆっくりってこいつらのことじゃないのか?」
「……じじいの道楽か」
 男たちは、四匹のゆっくりに冷ややかな視線を浴びせながら、歩み寄ってくる。
 その前に、ありすとちぇんが立ちはだかった。男たちが歩みを止める。
「まちなさいっ!! あのやさしいにんげんさんを“じじい”よばわりするなんて、とかいはじゃないわっ!!!」
「そうだよー!! あやまってねー!!」
 頬に空気を溜めて威嚇する、ありすとちぇんの顔面に男たちの皮靴がめり込む。
「ゆ゛ぶる゛っ!!!!」
「ゆ゛ぼぉ゛っ??!!!」
 宙に投げ出されたありすとちぇんが、れいむとまりさの目の前に叩きつけられた。
「い…いたいよぉぉぉぉぉぉ!!!」
「わからない…わがらないよぉぉぉぉぉぉ!!!!」
 大泣きするありすとちぇん。大切な友達を傷つけられたれいむとまりさは、ゆっくりと理解した。目の前にいる人間たちが、
自分たちにとっての敵であるということを。れいむとまりさが、ありすとちぇんを庇うように二匹の前に移動して頬に空気を溜
める。
「ここは、れいむたちとにんげんさんのゆっくりぷれいすだよっ!!!」
「ゆっくりできないにんげんさんは、ゆっくりしないでどこかにいくのぜっ!!!」
 男の一人がまりさのお下げを掴んでぶら下げる。宙釣りになったお下げが皮から離れようとして、まりさに激痛を与えた。
「ゆぎゃああああああ!!! ゆっくりできないぃぃぃぃぃ!!! やめてぇぇぇぇ!!!!」
 ぶら下がり、四方八方に涙を散らすまりさの姿を見て、れいむがあんよを一歩後ろへ下げる。唇を震わせながら、瞳に涙を湛
え、訴える。
「や……やめてねっ!! まりさにひどいことしないでねっ!!!」
「ゆっくり如きが人の家に入って来てんじゃねぇよ」
 まりさをぶら下げた男は一言だけ言うと、そのまりさを地面に激しく叩きつけた。
「びゅべっ!!!!!」
 顔面から激突したまりさは、満足な悲鳴さえ上げることができずに顔の皮が破裂し、中身の餡子が辺りに飛び散ってずっとゆ
っくりしてしまった。
「ま……まりさぁぁぁあぁああぁぁ!!!!」
 男の右手には叩きつけた時に引きちぎれたのであろう、まりさのお下げが残っていた。それを投げ捨てる。
「ゆ……ゆあ……ゆあぁぁぁ……」
 目の前で大切な友達が、弾け飛ぶ様を見せつけられたれいむは、恐怖のあまり一歩もその場を動けずにいた。
「わ゛がら゛な゛い゛……っ!!! わ゛がら゛な゛い゛よ゛ぉぉぉぉぉ!!!!」
「やべでぇぇぇぇっ!!! どがいはじゃ……な゛い゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
 これまで聞いたことのないような、友達の絶叫にれいむが視線を向ける。
 ちぇんは二本の尻尾を掴まれて、右に左に振り回され何度も地面に叩きつけられていた。
 ありすは、初手で動けなくなっており、執拗に顔を踏みつけられている。
 二匹とも、面影が少しずつなくなっていく。
「やめてねっ!!! やめてねっ!!! しんじゃう……ありすとちぇんが……しんじゃうよぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「馬鹿。お前も死ぬんだよ」
 まりさをずっとゆっくりさせた男が、れいむの右の揉み上げを踏みつけて固定した。動きを封じられたれいむの心を恐怖が支
配していく。
「や……やめて……やめてねっ……!!! やめてねっ……!!!」
 揉み上げを固定したまま、余った左足を振り抜いてれいむの顔を蹴りつける。固定された揉み上げが引きちぎれて、れいむが
回転しながら地を這うように飛ばされる。
 千切れた揉み上げのあった場所が痛くてたまらないのだろう。
「ゆ゛、ゆ゛、ゆ゛、ゆ゛……っ!!!」
 大粒の涙を流しながら、れいむが切れ切れに何か言おうとしている。
「に……げ……ざん……だず……げ……」
 れいむの視界に、顔をぐちゃぐちゃに壊されたありすとちぇんの姿が映った。
「ゆぁ……ぅあ……どぉ……じでぇ……?」
「暇つぶしだよ。じじいはもういないしな」
「ゆぅぅぅぅぅぅぅ……っ?」
 男たちが何を言っているのか、れいむにはさっぱり理解することができなかった。
 れいむの顔の右半分が踏み潰されて形を失う。
「がひっ……!! こひゅっ……!!!!」
「しぶとい奴だなぁ。まるで、うちのじじいみたいだぜ」
「……ゆ゛……?」
 れいむが抱きかけた疑問は、もう半分の顔を潰されることで完全に掻き消されてしまった。


 じじい。
 すなわち、初老の男はれいむたちをずっとゆっくりさせた男たちの父にあたる人物だった。
 重い病を患っており、その静養のために大自然に囲まれたこの屋敷で明日をも知れぬ日々を過ごしていたのだ。
 ある日、ついに初老の男が天に召される。
 まるでハイエナのようにそれを嗅ぎつけて現れたのが、三人の男たち。すなわち、初老の男の息子たちである。彼らは、遺産
相続を巡って何度もトラブルを起こしてきた。何しろ、初老の男は凄まじい富を築き上げている。相続された金だけで、人生の
半分は遊んで暮らせるほどの金額であった。
 ろくに葬式にも顔を出さなかった三人の息子たちは、初老の男が書いた遺書を求めてこの屋敷へとやってきた。
 遺書には、こう書かれてあった。

“れいむ、まりさ、ありす、ちぇん。我が最愛の友に遺産の全てを相続する”

 初老の男にとって、信頼できる者は四匹のゆっくりしかいなかったのだろう。
 長い人生の中で出会った者たちと過ごした時間よりも、初老の男にとってゆっくりたちと過ごしたティータイムは、人生の中
で一番輝いていた時間だったのだ。



おわり

日常起こりうるゆっくりたちの悲劇をこよなく愛する余白あきでした。



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感想

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  • いつじじいが一転虐待お爺さんになるかと思ってわくわくしてたら……
    しかしこのじじい完全に鷲巣様の容姿で再生される -- 2014-02-03 10:24:16
  • こんな遺書書けはこうなると予想できるでしょうに・・・
    やるなら山ごと買い取って愛護団体に財産寄付して管理頼むべきでしょ -- 2012-01-24 19:52:51
  • 余白あき話はおもしろいけどモヤモヤがよく残るよ・・・ -- 2011-10-01 19:32:47
  • うーん…皆遺産は寄付すべきだったと言ってるけど、おじいさん別に全てのゆっくりを愛してるわけじゃなくあの善良4匹が好きだっただけだから、寄付なんて結論に達することは無理だったとも思うんだ。先の展開を見切れなくてああいう結果になっちゃったけど、じいさんは「すべき」ことではなく「したい」ことをしたかった、ということじゃないかな。
    …まあ、わざわざゆっくりんぴーすの私腹を肥やしてやるなんて愚の骨頂だしね。 -- 2011-01-09 18:31:00
  • 遺産はゆっくり愛護団体や孤児院にでも寄付すればいい。 莫大な富なんだからそれくらいできるはず。
    これで、無駄に死ぬゆっくりや孤児たちも、少しはマシに生活できるはず。
    はい、めでたしめでたし。 ただし屑息子×3と下衆ゆっくり共、テメーらはダメだ。 -- 2010-09-26 16:43:29
  • ま、ゆっくりが人間に関われば碌な目にあわないって事だな -- 2010-09-21 04:33:47
  • ティータイムで放課後ティータイムを思い出した俺って....てか、このじじいも馬鹿だよな。俺なら、善良ゆっくりを保護する施設・団体に寄付する。ゲスゆっくりは、もちろん虐待死の道しかありませんw -- 2010-09-14 01:35:10
  • ひげきてきですっきりできないけつまつさんでもさわがずうけいれるのがしんのとかいはよ! -- 2010-09-02 18:30:28
  • ゲス人間でなくとも遺書にこれかかれてたらゆっくり殺すね! -- 2010-07-25 22:33:51
  • じゃあ、日本ユニセフで。……………冗談だよ。 -- 2010-07-15 08:12:42
  • それこそ後味悪いわw
    環境団体なんぞは全て例外無く現実、非現実問わずクズの集まりだから
    それぐらいだったら孤児院にでも寄付すべきだわw -- 2010-07-14 00:19:30
  • ゆっくりんぴーすに全部寄付すれば良かったんだよ。 -- 2010-07-13 23:33:25
  • 遺留分とかな。あと通常権利ってのは人間(自然人)と法人にしか認められないから、
    例えば「ペットに遺産を相続させる」って書いてもまず無理だから、ゆっくりとかもそうなるんじゃないかな。
    とはいえこれはSSだし、そんな無駄にリアルな点を突くのは無粋よね。
    やっぱゆっくりだろうと人間だろうとゲスはゲスだな。 -- 2010-06-29 05:59:56
  • こういうオチか・・・まあそういうもんだろうなあ -- 2010-06-16 23:53:32
  • そもそもゆっくりが生物と定義されているのかがわからないよー -- 2010-06-14 18:58:36
  • こういう場合確か勘当とかされていなかった場合一部を請求することは可能だったはず
    んでこういう時は相続者に後ろ盾や「死亡した場合は相続権をなくす」等できたはず
    こういう老人ならそれぐらいできたと思われるので、後味を悪くさせてまでの設定矛盾はやめてほしかった
    老人とゆっくりとの柔らかな日常はとてもゆっくりできた
    でもせめてこのゲス人間達に「相続ゆっくりを殺したために相続できなくなった」とか一言でもいいから書いてほしかった
    さすがにゲス人間が善良ゆっくりを殺すSSはゆっくりできない -- 2010-04-19 14:55:38
  • 遺書が残ってた場合はどうなるんだっけ? 裁判次第で一部はもらえるんだっけ? ってか、遺書は管財人や弁護士等に複写して別々に預けないとダメだろうw -- 2010-04-12 01:38:47
  • 信頼した結果が、ゲス人間と不幸を呼ぶ結果に…。なんとなく後味悪いかな。
    でも、初老の男性(じじいとは書きたくない)とゆっくりたちのほほえましい描写は
    結構好きです。
    腹の探り合いを繰り返した男なら、遺言が招く結果くらい簡単に想像はついたはず
    だけども・・・、老いてやっと手に入れた平穏で鈍ったんでしょうか。 -- 2010-03-27 20:19:54
最終更新:2010年03月27日 08:02
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