ふたば系ゆっくりいじめ 278 れいむの性格改善教室

れいむの性格改善教室 25KB


【注意】
  • 冗長です
  • ネタ被りはご容赦を





ここは近所の自然公園。
ペットを遊ばせるのに十分すぎる広さのあるここは、飼い主たちの憩いの場でもある。
かつては飼い犬の独壇場だったここも、今ではさまざまなペットをが集っている。

その中に、他のペット連れとは異質の集団がある。
近年急激に数を増やした、飼いゆっくりとその飼い主たちだ。

基本的にゆっくりの多頭飼いをする人は少ない。
多頭飼いをするとゆっくり同士でコミュニケーションを完結させて、飼い主に従わなくなることが多いためだ。
しかし、ゆっくりも社会性の高い生き物なので、1匹だけで飼い続けるとそれがストレスともなる。
その解消として、この公園はゆっくり同士の貴重なコミュニケーションの場となっていた。



さて、俺もこの場に我が家で飼っているれいむを連れてきている。
そして今、非常に困っている。

「ゆ、きにいったよ! このおようふくはれいむがもらってあげるよ!」
「やべでええええええええええええ!!」

我が家のれいむは躾に失敗した、いわゆるでいぶなのだ。





【でいぶの性格改善教室】





「困りますよ、本当に!」
「済みません! 以後気を付けます!」
「気を付ける程度じゃ困るんですよ! 躾が付くまで連れて来ないで下さい!」

飼い主さんにこっぴどく怒られた。

飼い主さんに抱かれたありすは、お洋服がれいむに引っ張られて破れてしまったり、れいむに体当たりされて怪我をしたりで泣き喚いている。
お金で丸く収まるならまだいいが、お洋服は飼い主さんの手作りだし、怪我にしたってトラウマまではどうしようもない。
そもそも公共の場所にペットを連れ出すのなら、躾を済ませておくか、そうでなければリードで繋いでおくべきだ。
そういう趣旨のお説教に全く反論出来ず、ただひたすらに頭の下げ通しだった。

「ほら! れいむも謝れ!」
「しらないよ! よわいくせにれいむのいうことをきかないげすがわるいんだよ!
 ぷくうううううううううううううううううう!」
「ゆびゃあああああああああああああああ!!
 どがいばじゃないいいいいいいいいいいいい!!」
「ありすちゃん!? 本当に、いい加減にしてください!!」
「ああああああ済みません!! おいやめろれいむ!」
「ぶびゅるるるるるるるるるるるる!?」

これ以上喋らせるとますます飼い主さんを怒らせそうだったので、れいむを押さえつけた。
そしてもう一度説教し直され、飼い主さんはありすを抱いて帰っていった。



「はあ……どうしよう…」
「ふごっ!! ふんごぉっ!!」

暴れるれいむを逃がさないようにしながら途方に暮れる。
そもそも今日ここにれいむを連れてきたのも、でいぶ化したこいつを躾けるためのアドバイスを、ほかの飼い主さんからもらおうと思ったからだ。
ところがこいつが初手からやらかしてくれたおかげで、もうとてもあの輪の中に入っていける空気ではない。

流行に乗ってペットを飼ってしまう俺の浅はかさを恥じ入る次第だが、それにしてもゆっくりを飼うことがこんなに難しいとは思わなかった。
言葉が通じるのだから躾は楽なのだろうと思っていたが、とんでもない。
所詮相手はペットにされる程度の生き物、賢さを人間と比べてはいけないのだ。
話せばわかると思い込み、口で教えるだけだったが、そうしている間に完全に舐められてしまった。

今ではれいむは、俺の言うことなど聞きはしない。
俺を見れば餌をよこせだのくそジジイだの、言いたい放題だ。
当然、我が家でもおうち宣言をしてあまりに好き放題にするので、柵を作って閉じ込めた。
それでもその向こうから、俺めがけてうんうんやらしーしーやらを飛ばしてくる。
ゴリラかお前。



「あの、すみません」
「はい?」

落ち込んでいる俺が気付かぬ間に、隣に人が来ていた。
見ると、活動的だがどこか上品なコーディネートをした若い女性だった。

「ずっと前から好きでした。結婚してください」
「え!?」
「いやいやいや済みません。発作みたいなものです。
 何の御用でしょう?」

ドン引きしている女性に精一杯平静を装って話しかける。
当然、当方の印象はリカバリー不能だ。

「いや…あの…そのれいむちゃんのことなんですけど」
「ああはいはい。すっかりでいぶでお恥ずかしい限りですが」
「失礼ですが、躾の仕方はご存知ですか?」
「いえ全く…お蔭様でこの有様に」
「でしょうねえ…」

そんな感じで会話が始まり、思いもかけずゆっくりのしつけ方を教わることが出来た。
曰く、最初が肝心(手遅れ)、おうち宣言は即座に正す(手遅れ)、でいぶ化しないように罰をためらわない(手遅れ)。
本当に手遅れです、ありがとうございました。

「あ、あの、そんなに落ち込まなくても」
「いえもう結構です駄目な飼い主で済みません帰りに保健所で処理しますお手数取らせて申し訳ありません」
「ちょ、ちょっと待って下さい! れいむちゃんにも良いところがあるはずですよ?」

「例えば」
「え?」
「例えば?」

「た、例えば……押しが強いところとか」
「ふむ」
「……押しが強いところとか……」
「……」
「…お…押しが強いところとか…」

「相撲取りじゃないのが悔やまれますね」
「すみません…」
「こちらこそ」

もう本当に駄目すぎて泣きたくなってくる。
今も腕の中ででいぶがもにゅもにゅ動いているが、こいつとこれからやっていけるビジョンが見えなさすぎる。
お母さん、先立つ不幸をお許しください、でいぶが。



心の中でお別れが済んだので、女性に挨拶して帰ろうと思った。
と、女性の足元をよく見ると、ゆっくりがいる。
まあ、ゆっくりの飼い主が集まるところにいるんだし、躾け方にも詳しいんだから当然自分でも飼っているのだろうな。
なになに、れいむにまりさに…ありす…ちぇん…みょん…?

「多!」
「ひ!?」
「ちょ、ちょっと、5匹も飼ってるんですか?」
「え? あ、いえ、違いますよ」
「ああ、違うんですか…」
「7匹です」
「ぶっ!?」
「家にぱちゅりーとゆうかが……どうかしましたか?」
「好きです!!」
「ひ!!」
「大好きです!!」
「ちょ、ちょっとー!!」

女性に向かって、俺史上最大の土下座をした。
もはや俺の希望は彼女しかいない。
ショップの店員にしつこいほど言われた多頭飼いのタブー、それをこなしている彼女は優れた育成者に違いない。
彼女なら! 彼女ならきっとなんとかしてくれる! でいぶを!










お姉さんは、何でこんな展開になったのだろうと困っていた。

ゆっくりたちをいつもの散歩に連れて行くと、初めて見る人がいた。
挨拶をしようと思って近付くと、常連さんともめている。
ゆっくり同士で何かあったらしく、聞き耳を立てていると、初顔の人のゆっくりの躾に問題があるようだ。
バッジを見ると銅、育ち具合からすると甘やかされているようだ。

常連さんが帰ってから初顔さんと話してみたら、やはりゆっくりの躾について全く知らなかった。
しかも困ったことに、飼うのを諦めて処分すると言い始めた。
いくらなんでも勝手過ぎるので思い留めようとしたら、今度は私にゆっくりの躾をしてほしいと言い始めた。

「あの…私はその、本職なので、お金をいただくことになるんですが、それでも?」
「え、それはおいくら位で?」
「そうですねえ…1週間のお預かりだと、10万円はいただきますけど」

ウソは言っていない。
問題行動をする子を預かると、その子から目を離せないのでかかりきりになってしまう。
その間は他の子を預かれないので、高く感じるが妥当な値段だ。
大抵この値段を出すと、この手合いの人は高いだの何だのと言って、最後には諦める。

「そのくらいでしたらお願いします!」
「えっ!?」

…諦めなかった。

「あ、あの、本当にいいんですか? 10万円ですよ?」
「ええ、大丈夫です。別のゆっくりを買うより安いですし」
「!?
 失礼ですが、その子、銅バッジですよね?
 どちらで買われたんですか?」
「え? ああ、いえ。買ったときは金バッジだったんですよ」
「ええっ!?」
「バッジに更新があるのを知らないで、気付いたときには銅しか取れなかったんです」

あきれた。
金バッジだった子を銅まで叩き落すなんて、どれだけ甘やかしたんだろう?
そういう例を聞いたことがない訳ではないが、自分では方法が思いつかない。

「それでお代はどうすれば?
 れいむは今お願いするわけには行きませんよね。どちらに連れて行けば?
 そうそう、領収書は…」

なんかトントンと話が進んでしまい、

「それじゃ、よろしくお願いします!」

翌日、家にでいぶを連れてこられてしまった。





本当に、しまった。
本職だと言った上にお金の話までしてしまっては、払うと言われた以上断れない。

確かに私はゆっくりのブリーダーをしているけれど、本業は繁殖だ。
問題個体の再教育は、繁殖がひと段落ついた時に依頼があれば受ける程度の片手間なのだ。
しかも、でいぶと呼ばれるほどの問題固体になると、これまで経験がない。

「ゆゆーん、ここがあたらしいおうちだね!
 きにいったよ! ここをれいむのおうちにするよ!」
「こら! ダメでしょ!」

早速おうち宣言をしてくれた。
飼い主さんからこれまでの育て方は聞いているし、罰を与える許可ももらっている。
うちに入って30秒足らずで、でいぶちゃんに罰をすることになった。

パシィッ!!
「ゆびゃああああああああああああああああああ!?」

使ったものは蝿叩き、もちろんお仕置き専用で、本来の用途で使ったことはない。
怪我をさせることがなく、それでいてゆっくりに与える苦痛が強く、かつ躾が進むと見せるだけで効果がある。
しかも躾が終わって飼い主さんの元に戻っても、普通の家なら蝿叩きがあるので、何かと便利なのだ。

「れいむちゃん、どうして叩かれたかわかる?」
「しらないよ! かわいいれいむにいたいことをするばばあはしんでね!」
「そんな悪い言葉を使っちゃダメでしょ!」
ビシイッ!
「ゆっびゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!」

いけない、ちょっと力が入りすぎた。
もちろん後で飴を与えるとして、まずは悪いことをすると罰があることを思い出させないといけない。
どんなペットにも言えることだけど、人間との上下関係を教え込んでおかないと、人間との共同生活はうまくいかない。

それにしても、この子は仮にも金バッジだった子。
すぐに躾を思い出すのか、生まれたての子よりもひどくなっているのか…。





「おなかがへったよ! かわいいれいむにあまあまをちょうだいね!」
「まだご飯の時間じゃないでしょ。我慢しましょうね」
「うるさいよ! れいむはおなかがへったんだよ! いじわるするばばあはしんでね!」
「そんな悪い言葉を使っちゃダメでしょ!」
ビシイッ!
「ゆっびゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!」



「ゆ? おいしそうなくだものさんがあるよ! むーしゃむーしゃするよ!」
「テーブルの上に置いてあるものは勝手に食べちゃダメよ。もうすぐご飯の時間だから、我慢しましょうね」
「うるさいよ! くだものさんはれいむにむーしゃむーしゃされるためにあるんだよ! じゃまするばばあはしんでね!」
「そんな悪い言葉を使っちゃダメでしょ!」
ビシイッ!
「ゆっびゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!」



「こんなおいしくないのはかわいいれいむにふさわしくないよ! あまあまもってきてね!」
「れいむちゃんのご飯はそれだけよ。ちゃんと食べないとダメでしょ」
「うるさいよ! こんなふしあわせーなものをたべたられいむのあんこさんがくさっちゃうよ! つかえないばばあはしんでね!」
「そんな悪い言葉を使っちゃダメでしょ!」
ビシイッ!
「ゆっびゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!」



「ゆん! ふかふかさんがいっぱいあるよ! ここをれいむのすいーとほーむにするよ!」
「そこは人間さんが寝る場所よ。れいむちゃんの場所は別に用意してあるから、そっちにいきましょうね」
「うるさいよ! れいむはここがきにいったんだよ! いじわるいうばばあはしんでね!」
「そんな悪い言葉を使っちゃダメでしょ!」
ビシイッ!
「ゆっびゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!」



「ゆゆ! きれいないしさんがあるよ! れいむのたからものにするよ!」
「ああー!? どこから出してきたの! それは彼からもらった大事な…」
「うるさいよ! れいむがみつけたんだかられいむのものだよ! よこどりしようとするばばあはしんでね!」
「いい加減にしなさい!」
ビシイッ!
「ゆっびゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!」





「疲れた……」

あまりのでいぶの傍若無人ぶりに、初日から心が折れそうだった。
と同時に、飼い主さんに頭が下がる思いだった。

こんなでいぶになるまで放っておいたのは飼い主失格だけど、こんなになるまで大事に飼っていたなんて本当に驚く。
こんなでいぶを再教育してまで飼い続けようだなんて、愛護家の鑑だ。
処分しようとしたのを勝手だとか思ってごめんなさい。
私ならここまでひどくなる前に処分してる、間違いなく。
そんな飼い方、絶対しないけど。

あまりに暴れるので、でいぶは今、透明な箱に閉じ込めて隣の部屋に置いてある。
壁越しに聞こえてくる声が呪いのようだ、夢に出そう。
けれど、飼い主さんのためにも頑張って、あの子を矯正してみせよう。

「くそばばあはかわいいれいむをここからだしてねえええええええええ!!」
「そんな悪い言葉を使っちゃダメでしょおおおおおおおお!!」

壁に枕を投げつけたら、棚の上に並べてあったぬいぐるみがたくさん落ちた。
いいもん、明日片付けるから。
くまさんを枕代わりにして、頭から布団を被ってその日は無理矢理寝た。





「はい、れいむちゃん。今日の朝ごはんよ」
「……むーしゃ、むーしゃ」

6日後、お姉さんの目の下の壮絶なくまと引き換えに、でいぶの暴言は鳴りを潜めていた。
いまだに態度は反抗的で、ご挨拶などは全くしない。
人間に逆らうと罰を受けることを学習しただけなので、最終目標の「可愛い飼いゆっくり」には程遠い。
が、それでも最初に比べれば相当な進歩だ。

さて、今日ででいぶを預かるのも最終日。
今日に至ってまで罰を与え続けるのはよろしくない。
躾けの基本は飴と鞭なのだが、これまでは飴を与えた途端に元に戻って躾けのやり直しだった。
ご褒美も罰も与えずに今日をどうやって過ごそうか、頭を悩ませる。

「んー……試験も兼ねて、あの子たちと一緒の部屋にしてみようかしら」

あの子たちというのはお姉さんが飼っているゆっくりたちだ。
全てゴールド認定取得済みで、お姉さんの自慢の子たちだ。

7匹もの多頭飼いが上手くいっているのは、数世代にわたるお姉さんの教育の賜物だ。
ゆっくりはもともと社会性が高い生き物なので、群れに育てば自然と群れのルールを学習する。
お姉さんは人間に飼われるためのルールを、そのままゆっくりたちの群れのルールとして教え込んだのだ。
こうして、協調性に富み、人間にも懐きやすくペットに最適な子が生まれてくるようになった。
今の子たちもそうして生まれ育った、実にゆっくりした子たちだ。

この子たちの中に、でいぶを入れてみようというのだ。

もちろん心配がないわけではない。
でいぶは飼い主の下で一頭飼いで育てられており、協調性は期待できないだろう。
だが、他のゆっくりを見て徐々に心構えが変わることも期待してしまう。
人間の言うことは聞かなくても、ゆっくり同士なら言うことを聞くのを何度も見ている。

あの子たちの良ゆっくりぶりはお姉さんが太鼓判を押す。
あの子たちとなら、でいぶもコミュニケーションを取れるんじゃないだろうか。
ある程度自分勝手な行動が落ち着いた今なら、大丈夫なんじゃないだろうか。



「…という子なんだけど、いいかな、ゆうか?」
「わかったわ。おねえさんのおねがいだし、そのれいむといっしょにゆっくりしてあげるわ」

自分の飼いゆっくりなので、都合を無視することも出来るのだけど、それではゆっくりしたゆっくりに育たない。
7匹のリーダー格のゆうかに話を通し、快諾を得られた。
まあ、いい子なので私のお願いを断ったことなどないのだけど。

「じゃあ……よいしょっ、と……この子なの。お願いね?」
「ゆっ!?」

あ、ゆうかが引いてる。
無理もないか、ゆうかも十分大きい子なんだけど、でいぶはもう二周りくらい大きい。
他の子と比べるとさらに大きさが際立つので、何かあったら捕食種のゆうかでないと手に負えない。

「…わがままするようだったら、ちょっと無茶してもいいから止めてね?」
「……むちゃしたくらいでとまるのかしら……」





お姉さんのお願いで大きいれいむ──でいぶと一緒に過ごすことになった。

「という事で、今日からしばらくでいぶが仲間になるわ。みんな、仲良くしていってね」
「「わかったよ!」」
「わかったわ!」
「わかるよー!」
「わかったみょん!」
「…わかったわ」

お姉さんのお願いなので、みんなとっても聞き分けがいい。
けれど、ぱちゅりーだけは心配そうな顔をしている。
多分、ゆうかと同じ気分なんだと思う。

お姉さんがこうして連れてくる子は、みんな最初は言うことを聞かずに好き勝手する。
それをゆうかが、時々みょんも、力ずくで大人しくさせている。
けれど、今回のでいぶはちょっと大きすぎる。
ゆうかとみょんの2ゆっくり掛かりでも抑えきれるかどうか。
それが心配でたまらない。

「………」
「「「「「ゆ?」」」」」
「…むきゅ」

ご挨拶を返さないでいぶに、みんなが不思議そうな顔をしている。
みんながいい子すぎるから、ゆうかとぱちゅりーは気苦労が絶えないのよ。

でいぶは不機嫌そうな顔でゆうかたちのゆっくりぷれいすを眺めている。
時々、ちらちらと後ろも見ている。
ゆっくりぷれいすの入り口の方だ。

お姉さんとは廊下で別れて、その入り口からゆうかはでいぶと入ってきた。
中に入ってこないのは、お姉さんの考えがあるのだと思う。
とは言え、最初はお姉さんにもいてほしかった。
ゆうかが言うのも何なのだけど、お姉さんはちょっと甘い。



そうして少し経ち、お姉さんが入ってこないことがわかると、でいぶがニヤリと悪い笑顔を浮かべた。

「きにいったよ! ここをれいむのゆっくりぷれいすにするよ!」
「「「「「ゆゆゆ!?」」」」」

思った通りと言うか、でいぶはおうち宣言をした。

こうなると、荒事を覚悟しないといけない。
目配せすると、ぱちゅりーは急いで物陰に隠れた。
他の子が大丈夫というわけじゃないけど、ぱちゅりーが狙われるのが一番危ないからだ。

「まちなさい!」
「ゆん?」

でいぶとみんなの間に割って入る。
ゆうかが守らないと、この体格差だとみんなはひとたまりもない。

「ここはおねえさんのおうちで、このおへやはみんなのゆっくりぷれいすよ!
 れいむだけのものじゃないでしょ! とりけしなさい!」
「うるさいよ! れいむはここがきにいったんだよ!
 じゃまするゆうかはゆっくりしね!」

言うが早いか飛び掛ってきた!
話が通じないにも程があるんじゃないかしら?
お姉さん、後であまあまさんを弾んでもらうわよ!

ぼすん!と重い音を立ててでいぶが床を打つ。
当然、ゆうかは避けている。
来るのがわかっているのに、当たってやるものですか。

「ゆぅーん?」

空振りしたのがよほど気に入らないのか、眉根を厳しく寄せてでいぶが振り返る。
そんなゆっくりした動きに付き合ってあげる義理は無いわね。

「みんなかくれて!」
「ゆべっ!!」
「ゆんっ!?」

そう叫びながらでいぶに体当たりをするが、やっぱり体格差はどうにもならない。
でいぶも痛そうにしているが、ゆうかが跳ね返された距離の半分も動いていない。

「ゆがあああああああああああああ!!
 がわいいでいぶになにをずるうううううううう!!
 げずのゆうがはじねえええええええええええええええええ!!!」

でいぶがありえないような形相で雄叫びを上げた。
その音量に、思わずゆうかも怯んでしまう。

「ゆっぐりじねえええええええええええ!!!」
「ゆうぅっ!?」

その隙のせいで、でいぶの体当たりをわずかに避け損ねた。
痛みをこらえて転がりながら体勢を整えるけど、その目の前にでいぶが飛び降りてきた。

「じねええええええええええええええ!!!」
「ゆきゃあああっ!!」

今度こそ、全く避けられずにまともに体当たりを受けてしまう。
上から踏み潰されるのではなかったのが幸いだけど、それでも壁際まで吹き飛ばされてしまった。

「ゆふー、ゆふー…」

荒い息をつきながらでいぶが近付いてくる。
いけない、逃げないと…。

「ゆわあああぁぁぁぁぁぁ…」
「ゆ!?」

横でした声に振り返ると、まりさがおそろしーしーを漏らしていた。
しまった、ここで逃げたらまりさが…。
覚悟を決めてでいぶに向き直る。

「ああああああああああ!!」
「ゆぎっ!!」

突然横から突き飛ばされた。
痛みをこらえて、そちらを向く。

「ま、まりさはれいむのなかまだよ! だからまりさはころさないでええええええ!!」

…信じられない。
まりさがでいぶに寝返っていた。
でいぶとまりさの両方から距離をとろうとして気付いた。
ここはお部屋の隅で、もう逃げ場所が無い。

「ゆーん、れいむのかちだね! せいぎはかならずかつんだよ!!」

どの口で正義なんて言うの。
悔しいけれど、息が上がって言い返せない。
でいぶの後ろからみょんが駆け寄ってくれているけれど、遠すぎる。

「まつみょーーーーん!!」
「またないよ! ゆうかははんせいしてしね!!」

でいぶが床に潰れたように見え、次の瞬間大きく跳んだ。

ああ、ゆうかの上に降ってくる。
あれじゃ助からないだろうなあ。
お姉さん、ごめんなさい。





べしゃっ!!
「ゆぶうううううううううううううううううううううううう!!!」

「……ゆ?」

諦めて目を閉じていたゆうかの前で変な音がした。
そろりそろりと目を開けると、でいぶが平たくなっていた。

「はぁー…はぁー……」

でいぶの上には人間さんの手がある。
その後ろのほうにはぱちゅりーが見える。
気がつくと、なんだかゆっくり出来ない音が鳴っている。
大変なことが起きたときに押してねと教えられていたすいっちさんを、ぱちゅりーが押したのだろう。

でいぶを押さえ付けている手をたどると、お姉さんの顔が見えた。
お姉さんはすごく怒った顔で泣いていた。

「…ごめんなさい、ゆうか。ひどいことお願いしちゃって…」
「…ううん、たすけてくれてありがとう、おねえさん」

ゆうかの言葉を聞いて、お姉さんの涙腺が決壊する。
が、そんなハートフルな雰囲気をダミ声が台無しにした。

「ひゅばああああああああああああああ!! びぼいぼぼずぶばばあばじべええええええええ!!」



その瞬間、部屋の空気が凍った。

「…ひっ…」

お姉さんが笑顔になった。
が、ゆうかにはどうしても、お姉さんが笑っているようには見えなかった。

「…ごめんね、みんな。お姉さん、れいむちゃんのこと躾けるのに失敗しちゃった。
 これからお仕置きしてくるから、みんなはゆっくりしててね?」

でいぶに襲われた時だってこんなに怖くなかった。
のどがからからになって声が出ず、ゆうかは顔を縦に振るのが精一杯だった。

「あ、そうだ。まりさにはあとでお話があるからね?」
「ゆひぃっ!?」

そう言ってお姉さんはでいぶを片手でつかんで出て行った。
ゆうかより大きいでいぶを、片手で。





そして、みんなのゆっくりぷれいすから見て、家の反対側にある部屋の中。
日当たりが悪いので物置代わりにされているこの部屋の真ん中で、でいぶは透明な箱に閉じ込められていた。

「ゆがあああああああああああああああああ!!
 でいぶをごごがらだぜえええええええええええええ!!
 ごのぐぞばばああああああああああああああああ!!」

窮屈な箱の中ででいぶはわめき散らしながら暴れている。
でいぶよりわずかに大きいだけの箱は、その場でガタガタ鳴っているだけだが。
その箱を、お姉さんが蝿叩きで叩く。

ピシャアッ!
「ゆ!?」

音に驚きでいぶが一瞬怯むが、すぐにいつもの痛みが無いことに気付く。

「ゆふん、ぜんぜんいたくないよ! なにしてるの? ばかなの?」
「お姉さんね、れいむちゃんに、可愛いゆっくりになってほしかったんだ」
「なにいってるの? れいむはかわいいよ? そんなこともわからないの?」
ピシイィッ!
「ゆひっ!?」

「痛いことたくさんしたけど、れいむちゃんのために仕方ないと思ってたんだ。
 だってれいむちゃん、悪いことしかしないんだもの」
「ゆ! れいむはわるくないよ! わるいのはれいむにひどいことをしたくそばばあだよ!」
バシイィッ!
「ゆぎっ!?」

「お姉さんがいろいろ教えてあげたのに、れいむちゃん、ぜんぜん覚えてくれなかったよね?」
「どうしてかしこいれいむがくそばばあのいうこときかないといけないの!?」
ビシャァッ!
「ゆうぅぅ!!」

「どうして」
パァァン!
「お姉さんの」
ピシィィッ!
「言うことが」
ベシャァッ!
「聞けないの」
ピシャァッ!
「かしら?」
バキィッ!!

「あらあら…」

蝿叩きが柄から折れ、先があらぬ方向に飛んでいった。
一息ついたでいぶだが、近くの棚から新しい蝿叩きを取り出したお姉さんを見て、表情を凍らせる。



ゆっくりは社会性の高い生き物だ。
野生のゆっくりが群れを作り、集団で行動するのがその証だ。
そして、群れを作る生き物には、ある特徴が共通する。
同じ生物種同士で敵と味方が存在することだ。

群れというのは個体の生存可能性を高めるためのものであり、群れ同士の利害が排他することで衝突することがしばしばある。
そうした中で、社会性の高い生物は自ずと、敵と味方を見分ける本能が養われる。

思えばでいぶは生まれてからずっと、無条件の好意に包まれて育ってきた。
周囲は全て味方で、敵を見分ける必要など無かった。
敵を認識する必要が無いことで、他者に自身を好意的に見せ、庇護を受けようとする行動は薄れていった。

それが、今、生まれて初めての敵意が目の前にある。

頑丈極まる透明な箱の中、蝿叩きの一撃が次々に自分に向けられる。
それが自分に傷を与えないことがわかっているからこそ、よく観察できてしまう。
これまでお仕置きと称して受けた一撃とは比べ物にならない、殺意さえ孕んだものであることが。

「ゆひっ…ゆひいいぃぃぃぃぃ…」

初めて経験する敵意が、今まで眠っていた敵意を見分ける本能を、過剰なまでに呼び覚ましていく。
そこに、かつて金バッジにまで届いた知能が、知りたくないことまででいぶに気付かせる。



あの人間は自分を殺したいと思っている。
殺そうと思えばいつでも出来る。
この箱から出されたら自分の命は無い。
あの人間はいつでも自分を箱から出して殺すことが出来る。
殺せないのではない、殺さないだけだ。



「ゆああああああああああああああああああああああ!!
 ごべんだざいごべんだざいごべんだざい!!
 ゆるじで!! だずげで!!」
「あらあら…」

でいぶの心はあっさりと折れた。
これまでは増長していただけであり、別にでいぶが強かったわけでも何でもなかったのだ。

ピシャアッ!
「ゆびいいいいいいいいいいいい!!」
「何を謝っているのかしら、れいむちゃん。お姉さんに教えてくれる?」
「ごべんだざいごべんだ」
バシイィッ!
「ゆびゃあああああああああああああ!!」
「ほら、どうしたの? れいむちゃんは賢いんでしょ? お姉さんに教えて頂戴」
「だずげで!! だずげでえええええええ!!」
ビシイィッ!
「ゆっぎゃあああああああああああああああああああああ!!」





1人と1匹の密室の中に乾いた音が響いていき、

ベキィッ!!
「ゆぶるぁああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

蝿叩きがまた1本、壊れた。



「あらあら、また壊れちゃったわね。
 でもね、れいむちゃん、安心してね」

そう言ってお姉さんは棚から段ボール箱を、無造作に床に引き落とした。

「ゆぴっ…」

箱の中からこぼれたのは、れいむには数え切れないほどの蝿叩き。



「お姉さんがじっくりと教えて

 あ・げ・る」










翌日、約束の時間。
れいむを引き取りに来た俺は、戸惑っていた。

「オニイサン! レイム、イイコニシテタヨ! ユックリシテイッテネ!」

「あ、あの…」
「どうかしましたか?」

お姉さんが満面の笑みで問い返してきた。
が、何故だろう、今日は発作を出してはいけない予感がビンビンとする。

「これ……うちのれいむですよね?」
「ええ。とってもいい子になったでしょう?」
「いい子…ですねえ、まるで別ゆっくりのような…ははは」
「ユックリシテイッテネ! ユックリシテイッテネ!」

いろんな焦点が合っていないようなれいむをケージに入れる。
と、なんだかものすごく震えているのが手に伝わってきた。

「あの、これホントに…」
「お兄さんのれいむちゃんですよ?」
「…はい」

確かにバッジはれいむのものだった。
何より、こんな普通じゃない大きさのれいむは、我が家のれいむなのだろう。

「そうそう、れいむちゃんが言うことを聞かない時はですね、蝿叩きを見せてあげて下さい」
「蝿叩きですか?」
「ええ、こんな風に」
「!!?」

お姉さんがケージの前に蝿叩きを差し出した途端、ケージの震えが止まった。
代わりに、ケージから水がぼたぼたと垂れてきた。
なんだか甘い匂いもする。



「あの…一体どんな躾を…」
「企業秘密です」
「そうですか…」

いろいろ腑に落ちないが、ここで引き下がったほうがいい気がする。
お姉さんはさっきからずっと笑顔なのだが、ものすごくゆっくり出来ないのだ。





「ところで、あれは何を?」
「反省です」

お姉さんの家の窓際で、まりさが帽子にプラカードを挿して、大声で繰り返していた。





「まりさははいぼくしゅぎしゃです!!
 まりさははいぼくしゅぎしゃです!!」










(完)





作者:大事なことなので(ry
   メカあき氏のがんがんリスペクト。早く続きを読みたいです。

挿絵 byめーりんあき

トップページに戻る
このSSへの感想 ※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね!
感想

すべてのコメントを見る
  • 霊夢は箱に入れられ蝿叩きで叩かれ、どこかの魔理沙は敗北主義だと言わされ…w -- 2024-02-06 07:20:31
  • まりさには無様な姿が似合う -- 2017-05-25 15:56:24
  • 笑まりさwwwGUESSなんやないか?笑 -- 2016-08-28 22:22:48
  • 挿絵何気にπ乙あるのよねー
    -- 2016-04-10 16:52:32
  • まりさww -- 2016-01-16 11:24:09
  • いいなあでいぶ。お姉さんにいじめてもらって -- 2016-01-04 00:18:51
  • 精神崩壊させただけで10万円とか詐欺だろ。 -- 2014-08-14 09:17:22
  • あ”-俺も躾られてぇえ・・でいぶ!!そこをかわれ!! -- 2013-01-28 01:45:59
  • 笑顔で殺気立ってる時ってこえーよな、このお姉さんなんか好きだわ -- 2013-01-16 11:56:07
  • ゆっくりなんて育ててるから飼い主もお姉さんもこんなんなんだよ。そこを察してやれ -- 2013-01-02 16:24:33
  • お姉さん最高w -- 2012-09-20 15:53:15
  • それにしてもこのお姉さん、ノリノリである。 -- 2012-03-13 20:54:30
  • お姉さん・・・・・・恐ろしい子! -- 2011-11-23 20:25:36
  • 挿www絵www -- 2011-10-18 17:21:24
  • でいぶといい飼い主といいお姉さんといい登場人物がクズ揃いだな -- 2011-10-18 06:28:06
  • 絵www -- 2011-10-17 19:34:52
  • 挿絵wwwwwwwww -- 2011-07-13 11:58:20
  • なにこのカオスな感想欄 -- 2011-06-30 17:01:23
  • ↓俺もこの無法地帯ぶり結構好きだよ。気が合いそうだね。
    現実と違っていい子ぶる必要も独自思想隠す必要もないからな。悪意のぶつけ合いもガス抜きになるなら大いにやれば良い。 -- 2011-02-08 21:50:23
  • 嗚呼、やはりこちらの保管庫は素晴らしい!
    気に入らない感想に、感想への感想という名の挑発をし、書かれた者はそれに対し殺意を籠めた罵倒をぶつけ、そしてまた報復として批判と嘲笑を叩きつけられ相手を憎悪する!それは永遠に終わる事の無いメビウスの輪の完成を意味するっ!
    なんと素敵な悪意の連鎖っ!!!これ以上無い最低の煉獄っ!!!そしてそれを咎めようとする管理者を騙った愚か者ももう存在しないっ!!!時代遅れは来れないのだっ!!!
    これこそ私の望んだアルカディアっ!
    これでふたばゆ虐は変わるっ!全ての鬼意参が、全ての汚姐惨が!人間同士の殺し合いへと進むのだ、新たなるステージに進むのだっ!
    これぞステアウェイトゥゆっげえ、完全なるゆ虐世界への階段だっ! -- 2011-02-08 11:03:34
最終更新:2009年10月23日 23:47
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。
添付ファイル