ふたば系ゆっくりいじめ 388 まりさがんばった

まりさがんばった 48KB





まりさがんばった






まりさは、すぐに家を出た。
おちびちゃんの容態は良くない。
ぱちゅりーの見立てでは、今日明日中にもおくすりが必要とのことだ。
それ以上時間をかければ、おちびちゃんの体力が保たない。

「ぱちゅりー、おちびちゃんたちをおねがいだよ!
おちびちゃん、ぱちゅりーおねーさんのいうことをきいて、ゆっくりいいこにしてるんだよ!」

「ゆぇーん!おとーしゃん、かえってきてにぇ!
 じぇったいにきゃえってきてにぇ!やくちょくよ!」
まりさがどこへ何をしに行くか聞いた子ありすは、涙をこぼしてすがり付いてくる。

「ゆ!おとうさんはぜったいにかえってくるよ!
 おくすりをてにいれて、おちびちゃんたちのところにかえってくるからね!
 しんぱいしなくていいんだよ!」

まりさも待ち構える危険のことは重々承知の上だ。
離れがたい。
だが、時間がない。
こうしている間にもタイムリミットは近づいている。

「ゆっくりいってきます!!」

「まりさ!きをつけて!」

「おとーしゃーん!やくちょくだからにぇーーーー!!」

ぱちゅりーとおちびちゃんに見送られ、おうちを離れる。
もう振り返りはしない。
次におうちに帰ってくるときは、おくすりを手に入れたときだ。





手がかりらしい手がかりなどない。
せいぜい優しそうなにんげんさんを探すことぐらいだ。
そして、飼いゆっくりといっしょに暮らしているにんげんさんだ。

噂には聞いたことがある。
曰く、飼いゆっくりはきらきらと輝くバッジをつけているという。
曰く、飼いゆっくりは毎日のようにあまあまをたべているという。
曰く、飼いゆっくりはおふろさんというものに入り眩いばかりの美肌であるという。

あらゆる絶望から遠ざかったゆっくり。
それが飼いゆっくりだというのだ。

真偽のほどは定かではないが、他にも様々な噂を聞く。
例えば、飼いゆっくりは滅多におそとにでないらしい。
そして、おそとに出るときには必ず、にんげんさんと一緒にいるそうだ。

心当たりはある。
自分のゆん生の中でも、飼いゆっくりらしきゆっくりを見たことがあるのは一度だけだ。
確かにそのゆっくりはにんげんさんと一緒だった。
物陰に潜んで様子を窺っていると、そのゆっくりはにんげんさんに抱えられてどこかへ行ってしまった。

遠目に見ていただけなので、バッジがあったかまでは判らなかった。
あまあまを食べていたか、美肌かどうかも覚えていない。
ただ、にんげんさんと、抱えられたゆっくりが、とても楽しそうだったことだけは覚えている。

きっとあれが、飼いゆっくりだったのだろう。


にんげんさんと一緒にいるのが、飼いゆっくり。
だとすると自分達が、飼いゆっくりを見かけないのも頷ける。

自分達のおうちの周りは、にんげんさんたちでいっぱいだ。
それでも自分達ゆっくりは極力にんげんさんには近づかない。
にんげんさんには、時々おやさいさんや、あまあまをくれる人がいる。
それは確かだ。
けれど、自分達を意味もなく蹴り飛ばしたり、
酷いときには永遠にゆっくりさせてしまう人もいる。
それも確かだ。

だからこそ、まっとうなゆっくりは、にんげんさんに近づかない。
おやさいさんや、あまあまは欲しいけど、永遠にゆっくりさせられてはたまらない。
自分達で狩りができ、住めるおうちがあるのに、人間さんに近づく理由がない。

自分達は危険なにんげんさんに近づかない。
だから、にんげんさんと一緒にいるという、飼いゆっくりに出会うことがない。


結局のところ、にんげんさんに近づかなければならないのだ。
おくすりを手に入れるため、にんげんさんに近づかなければならない。
おくすりをくれるにんげんさんの目印となる、飼いゆっくりを見つけるため、
にんげんさんに近づかなければならない。



まりさの餡子脳は、全てをここまで明確に思考したわけではない。
けれど、やたらに探し回って、おくすりが手に入るとは思えなかった。
限られた情報から、どうやったらより的確におくすりが手に入るか、ゆんゆん考えた。

にんげんさんに無闇に近づくのは危険だ。
でも、近づかなければおくすりは手に入らない。



ゆ!まずはかくれてにんげんさんをかんさつしようね!


物陰に身を潜めてにんげんさんたちを観察する。
怖そうなにんげんさんなら隠れて、そのままやり過ごす。
優しそうなにんげんさんなら、事情を話しておくすりをもらえばいい。

そして、もし、飼いゆっくりをつれたにんげんさんなら?
そんなチャンスは逃せない!
おちびちゃんのために、ゆっくりいそいでおねがいしよう!


人気のない道の端で、ゆんゆん唸るのを止めると、まりさは勢いよく跳ねていった。






「ゆ!にんげんさんがいっぱいいるね!」

しばらくして、にんげんさんが大勢いるところに出くわした。

「にんげんさんのおちびちゃんたちだね!」

まだまだ朝の早い時間。
ちょうど子供達が、集団で列を作って登校するところだ。

「ゆっくりようすをみるよ!」

まりさは背の高い草むらに身を隠すと、子供達のほうを窺う。

「よっし、今日はおれが先頭な!」

「なんだよー、昨日もお前が先頭だったじゃねぇか!」

「やめなさいよー。先生に見つかっても知らないからね。」





「ゆーん・・・。」

怖そうなにんげんさんではなさそうだが・・・。
でも、にんげんさんはにんげんさんでも、おちびちゃんだからだろうか。
あまり、病気を治してくれるようにも思えない。
おくすりをもらうどころか、下手をすると話もまともに聞いてもらえないかもしれない。
そんな気がする。
それに、まだにんげんさんの観察もはじめたばっかりだよ。
まだ、ゆっくりしても大丈夫だね。
よし。もう少し他のにんげんさんを観察してみよう。




それに実を言うと、まりさは子供達にゆっくりできない何物かを感じてもいた。
まりさには、直感的に感じたそれが何かまでは、はっきりとは分からなかった。
もし、まりさがもう少し賢ければ、それが幼さや無邪気さ故の残酷さだと気づいただろう。
































子供達が学校に向かって歩いていると、一匹の子れいむが道端に出てきた。
まだ小さい。子ゆっくりだ。
子供達がいるのに気づくと、嬉しそうに満面の笑顔。
そして、礼儀正しくご挨拶。

「ゆん!にんげんしゃん、ゆっくちちていっちぇね!」

「あっ!ゆっくりだ!」

「俺知ってるよ!これゆっくりれいむっていうんだぜ。」むんず

「ゆゆーん!たきゃいたきゃいだにぇ!!」

「まだ小さいし子供なんじゃない?」

「持って帰って、飼ってみっかな!」

「こらー!そんなの学校に拾ってったら怒られるに決まってるでしょ!
はやく捨てなさいよ!」

「ちぇっ、ほんとにうるさいやつ・・・!」ぽーい

「ゆゆ!れいみゅ、おそらを」ぶちゅっ

「はやくいこーぜ!」




















まりさは、子供達をやり過ごしてそのまま草むらに留まっていた。
しかし、通るのは集団で歩いてくるにんげんさんのおちびちゃんばかり。
そのおちびちゃんたちも、暫くするとぱったりと通らなくなってしまった。

「むーしゃむーしゃ、それなりー。」

草むらで普段は食べないようなくささんや、ありさんでごはんを済ませながら、そろそろ移動しようかと思案していると、やっと別のにんげんさんが通りがかった。

にんげんさんのおねーさんだね!
こんどはなんだか、やさしそうなにんげんさんだよ!

今度のにんげんさんは、とてもゆっくりした雰囲気のおねーさんだった。
そのにんげんさんのおねーさんは、一人で歩いているのに何かお話ししているようだ。
それに、すぃーのようなものを手で押している。

まりさは不思議に思った。

なんだろう?あのすぃーに向かってお話ししているんだろうか?

すぃーを注意深く見てみる。
そのすぃーに乗っているのは・・・にんげんさんのとっても小さなおちびちゃん!
すぃーには先ほど見たおちびちゃんたちより、ずっと小さなおちびちゃんが乗っているのだ。

あのおねーさんは、おかーさんなんだね。

まりさはそれだけで、そのおねーさんがゆっくりしている理由を看破した。
おちびちゃんがゆっくりしているのは当たり前。
あんなに小さなおちびちゃんが一緒ならば、あのおねーさんはさぞゆっくりしているのだろう。

ゆっ!もしかしたら、あのおねーさんだったらおちびちゃんをたすけてくれるかもしれないよ!

とてもやさしそうなおねーさん。
とてもゆっくりしたおねーさん。
とても小さなおちびちゃんをつれたおかーさん。

あのおねーさんならば、話を聞いてくれるかもしれない。
おちびちゃんのために、おくすりをくれるかもしれない。

だって、あんなにゆっくり優しそうなんだから。
自分は、おちびちゃんのおとーさん。
おねーさんだって、おちびちゃんのおかーさん。
同じおちびちゃんの親同士、ゆっくりとにんげんさんの違いはあれど、きっと思いは通じるはずだ。

そうと決まれば、あのおねーさんを追いかけなければ!
とは言え、いきなり出て行くのは憚られる。
いくら優しそうとはいえ、にんげんさんはにんげんさん。
一歩間違えれば、永遠にゆっくりさせられてしまう。
もう少し様子も見たいし、出て行くタイミングも計りたい。

まりさは、逸る心を抑えつけ、なるべく目立たないようにおねーさんの後を追った。
まりさは、ある程度おねーさんと距離を取り、草むらや側溝といった見つかり難いところを通るようにしたので、あまり速度が出なかった。
それでも何とか後を追えたのは、おねーさんのほうも乳母車を押してゆっくり歩いていたからだ。

しばらく後をつけると開けた場所に出た。
公園だ。
広い敷地に草花が豊かで、なかなかのゆっくりプレイスだ。
奥の方には滑り台やブランコなどの遊具も置いてある。


あの滑り台さんで遊ばせたら、おちびちゃんたちゆっくり喜ぶだろうな・・・。


いけない。少しぼんやりとしてしまった。
慌てておねーさんの姿を探す。
良かった!まだ公園にいる。

まりさは、大きく回りこんでおねーさんの近くの茂みの中に身を隠す。


おねーさんのお友達かな?


少し離れた所に立っているおねーさんは、同じような年代と思しきおねーさんたちと楽しそうにお話ししている。
まりさが後をついてきたおねーさんも入れて、全部で三人だ。
一人はおねーさんと同じすぃーを押している。
きっとあのなかにも、とっても小さなにんげんさんのおちびちゃんが乗っているのだろう。
もう一人のおねーさんはすぃーを押していない。
代わりにすぃーに乗っていないおちびちゃんと手をつないでいる。
おちびちゃんは自分で立っているが少しあぶなっかしい。


ゆふふ!おちびちゃんは、まだゆっくり歩けないんだね。
まりさのおちびちゃんたちが、もっと小さかった頃を思い出すよ。


おねーさんたちの、会話の中身はこれといって取り留めのないものだった。
そのなかでも、家族の話題、とりわけおちびちゃんたちの話題が多いようだった。


まりさたちも、おちびちゃんが生まれた時、みんなでおちびちゃんのことばかり話してたっけ。


まりさは、おねーさん達の話を聞いて、自分もすっかり、ゆっくりした気分になっていた。
やっぱり、このおねーさんたちなら、まりさの話を聞いてくれるかもしれない。
きっと、おちびちゃんを助けてくれる。
だって、おねーさんたちは、こんなにゆっくりしているんだから・・・。




とはいえ、出て行くタイミングもつかめず、まりさは茂みから出て行けないでいた。
すると、おねーさんたちがおしゃべりに夢中になっているうちに、おちびちゃんがふらふらと歩き出してきた。


こっちにくるよ!


おちびちゃんはこちらの茂みの方に向かってくる。
まりさが見つかったわけではない。
何か別のものに気を取られているのだろう。
おねーさんが、おちびちゃんが離れたことに気づいて追いかけてくる。
おねーさんも、おちびちゃんを追って、この茂みに近づいてくる。


ゆっ!おねーさんもこっちにくるよ!


このまま茂みの奥に隠れていれば、見つかることはないだろう。
だが、いつまでもこうしている訳にもいかない。
今しかない。
まりさは、そう判断すると茂みから勢い良く飛び出し、おちびちゃんたちの前に着地した。


「ゆっ!おねーさん!まりさのはなしを・・・」
「きゃーーーーーーーー!!」ばすん
ゆゆっ!



景色が回る。
まりさが回る。
何回転もして茂みの中に戻ってくる。

ゆ・・・。おかおが痛いよ・・・。
何が起きたの?

「******************!!!!!」



茂みの向こうではおねーさんが、おちびちゃんを庇う様に抱きしめ、何事かを叫んでいる。
他のおねーさんたちも、慌てて何か言いながら、おねーさんに駆け寄ってくる。

まりさには、何も聞こえない。ただ、ひとつだけ理解した。


まりさ、おねーさんにけられたんだね・・・。
何故?まりさ何にも悪いことしてないのに?
何故?おねーさん、あんなにやさしそうだったのに?
まりさには、訳が分からなかった。
ただ、訳も分からないなりに悲しくなってきた。


ここにいるのは危険だ。
まりさは涙をこぼしながら、全力で跳ねていった。
























今日の日中、公園で他のお母さん達と話すのに気を取られて、ゆーくんが一人で歩いていってしまった。
幸いすぐに気づいて何事もなかったが、ゆーくんに追いついたと思ったら草むらから急にゆっくりが飛び出してきた。
急だったのと、ちょっと大きめだったことに驚いて、思い切りゆっくりを蹴飛ばしてしまった。
ゆっくりのなかには、先のとがった木の枝を使って人を襲うものもいるらしい。
ただ、落ち着いて考えてみると今日のゆっくりは、そういった雰囲気じゃなかったかもしれない。
とりあえず、飼いゆっくりではなかったはずだから蹴っ飛ばしても問題はないんだけど、
蹴られたゆっくりは、泣きながらどこかに行ってしまった。
他のお母さん達も野良なら気にすることはないと言ってくれたが、それにしてもちょっと悪いことをしてしまった気がする。

























あれから暫くたったが、まりさは公園のなかの茂みで辺りを窺っている。
さっきおねーさんたちから逃げ出して飛び込んだ、別の茂みだ。
飛び込んだそこで、まりさはじっとしていた。
ここは同じ公園のなかでもにんげんさんは、あまりやってこない。
それでも、まりさは移動しようとはしない。
たまに来るにんげんさんを観察してはいる。


しかし、実際のところ、まりさは先ほど受けた暴力と、まりさからすればあまりに理不尽な出来事にショックを受け、ここから出てにんげんさんに近づくことが出来ないでいた。


ゆぅ・・・。おちびちゃんがまってるのに・・・。
おちびちゃんのために、おくすりもらわなくちゃいけないのに・・・。
やっぱりにんげんさんはこわいよ。
まりさ、ここからでられないよ。


にんげんさんへの恐怖とおくすりを手に入れることへの義務感の板ばさみ。
まりさはが葛藤していると、気づかないうちにすぐ傍までにんげんさんの接近を許してしまった。
今度のにんげんさんは、おにーさんだ。
格好から察すると、さらりーまんさんだろう。


どうしよう!?
まりさ、ぼんやりしてて、にんげんさんに気がつかなかったよ!


ここまで接近してしまえば、もう逃げることはできない。
できることと言えば、ただ、息を潜めていること。
まりさは、目を閉じておにーさんが通り過ぎてくれることを祈った。

「おっ!ゆっくりか。久しぶりに見たなー。」

おにいさんが足を止める。
みつかっちゃたよ!どうしよう、どうしよう!?
まりさは、おにーさんの方を見ることすら出来ない。

「そうおびえるなよ。こっち来いって。」

おにーさんが近くのベンチに座って手招きしている。
まりさは、ただ恐ろしくて、すぐにでも逃げてしまいたかった。
逃げたところで、逃げ切れるわけがないだろう。
むしろ逃げるそぶりでも見せれば、おにーさんの機嫌を損ねてしまう。
そうなれば、また暴力を振るわれる。
まりさ、そんなのいやだよ!!
まりさは、恐怖に身をすくませながらも、おにーさんの足元までずーりずーりしていった。

「だから、そうおびえるなって。ほら、ゆっくりしていけよ。」

「ゆっ・・・。ゆっくりしていってね・・・。」

ゆっくりしていってね。
ひとまず、危害を加えるてくるつもりはなさそうだ。
とはいえ、先ほどあんなことがあったばかりだ。
とてもじゃないが安心は出来ない。

「お前腹減ってないか?」

おなか?そういえばお昼のむーしゃむーしゃ、まだしてないよ・・・。

「ゆ。まりさは、ゆっくりおなかがすいたよ・・・。」

「ほれ。」

おにーさんはビニール袋から取り出したパンを千切って、まりさの前に置いた。
ゆゆっ!?おにーさん、まりさにごはんさんくれるの!?
まりさは驚いておにーさんの顔を見上げる。
顔に出ていたのだろう。

「そんなに驚いた顔するなよ。それ、食っていいいぞ。」

「ゆっ!おにーさん、ゆっくりありがとう!
・・・むーしゃむーしゃ、し、ししし、しあわせーーー!!」

パンは甘い菓子パンだった。
にんげんさんのごはんさんが、こんなにおいしかったなんて!
まりさだって、街ゆのはしくれだ。
にんげんさんのごはんだって、それなりに食べたことがある。
けど、それは道に落ちているものや、屋外のゴミ置き場で手に入る残飯の類だ。
ふわふわ真っ白で、あまあまーなパンはまりさが今まで経験したことのない甘露だった。

むーしゃむーしゃ、むーしゃむーしゃ・・・。ゆふー。

「お前はちゃんとむーしゃむーしゃしあわせーって言うんだな。」

「ゆっ?」

「いやなんでもない。それより、まだ食うか?」

「・・・いいの、おにいさん?」

「遠慮するなよ。ほら。」ぽい

「ゆゆーん!おにーさん、ゆっくりありがとう!」
むーしゃむーしゃ、むーしゃむーしゃ

「それにしても野良ゆっくりって、よく食べるよな。それともゆっくりって皆こんなもんかね。」

「ゆっ?」

「まあ、そんなこと言われても困るよな。」

おにーさんは穏やかに笑っている。
まりさは、パンを食べながら考える。
やさしそうなおねーさんが、まりさを蹴ったよ。
まりさ、何にも悪いことしてないのに・・・。
そりゃ、おねーさんにまりさのおちびちゃんを助ける義務なんかない。
けれど、いきなり蹴り飛ばすなんて酷い。ゆっくりしていない。
改めてにんげんさんは、怖いと思った。
ゆっくりなんか簡単にどうにでもできるんだと思い知った。
なのに、あれから大して時間もたってないのに、
にんげんさんは、ゆっくりとした笑顔でまりさにごはんをくれている。


まりさは、訳が分からなくなってしまった。
ただ、おにーさんにもらったあまあまパンを食べ、おにーさんのゆっくりした笑顔を見ていると、
さっきまでの悲しい気持ちがだんだん小さくなっていくのが分かる。


・・・・そうだ。駄目でもともとだ。
このおにーさんにおくすりをお願いしてみよう。


まりさが、そう思い立ったとき、電子音が鳴り出す。
おにーさんが、あわてて鞄から何かを取り出し、耳元に持っていく。
「はい、はい・・・・本当ですか!ありがとうございます!
・ ・・・・・・・はい、大丈夫です。
すぐに伺います。」

おにーさんは、突然一人で話を始めた。
知っている。
これはけーたいでんわさんだ。
にんげんさんは、よくけーたいでんわさんで一人で話をしている。
ゆっくりには良く分からないが、にんげんさんには普通のことらしい。
まりさには、よくわからないよ。

「さてと・・・。お前まだ食べたりないだろ。
おれはもういかなきゃならないから残りもやるよ。」

そう言うと、まりさの前におにーさんは食べていたあまあまパンを置いてくれた。

「それじゃ、ゆっくり食べていきな。」

「あ・・・。おにーさ「じゃあな。」」
おにーさんは、慌しく荷物をまとめると小走りに公園を出て行ってしまった。

「ゆぅぅ・・・・。」
せっかく今度こそ、ゆっくりしたにんげんさんだったのに・・・。
おくすりの話をする前にどこかにいっちゃったよ。
まりさ、ちょっとゆっくりしすぎちゃったね・・・。

まりさは、少しだけ落胆していた。
でも、少しだけだ。
むーしゃむーしゃしたことで、体に活力が漲っている。
それもあんなに美味しいあまあまパンを食べきれないくらいもらった。
それに、それだけじゃない。
おにーさんが、優しくしてくれたおかげで、
さっきまでの悲しい気持ちは小さくなるどころか、すっかり消えてしまった。
ひとつの事柄が頭を占めれば、別のことはすぐ忘れる。
それが餡子脳。記憶のトコロテン方式。


























ふと、買ってきたまま開くことのなかった「ゆっくりの育て方」という本を思い出した。






























それから元気を取り戻したまりさは、少しだけ積極的に動いてみた。
さすがに、にんげんさんに手当たり次第声をかけるのは危険すぎる。
だからといって、一箇所にじっとしていていいものか。
時間は有限だ。
まりさのおちびちゃんは、すぐにでもおくすりが必要なんだ。
おちびちゃんたちが、まりさの帰りを待っているんだ。
そう思うとまりさは、じっとしてなどいられなかった。
それはもしかすると焦りかもしれない。
けれど、わざわざ人通りの少ないところに潜んでいることはできない。
まりさは、さっきおねーさんたちのいた所へもどってみることにした。
理不尽な暴力を受けた場所へわざわざもどることに、躊躇がなかったわけではない。
だが、先ほどの場所はおねーさんたちをはじめ、他にも少し離れて何人かのにんげんさんがいた。
もう少し、にんげんさんのいる場所に行くべきだ。



そうして戻ってきた場所は、相変わらず何人かにんげんさんがいた。


やっぱりまりさの考えに間違いはなかったね。


周りにいるにんげんさんたちをよく見てみる。
おねーさんたちはもういなくなっている。
ベンチに座っている人。遊具で遊ぶ子供達。それを見守る親らしき人。
だれもがそれなりにゆっくりしているように見える。



それからしばらく観察を続けているが、出て行くだけの決定打は見つからない。
にんげんさんたちがあまり長居してくれないのだ。
ゆっくりしたにんげんさんだろうかと期待して様子を見守っていると、まりさが出て行く決心を固める前に立ち去って行ってしまう。
もともとまりさには、「飼いゆっくりを連れたにんげんさん」という以外、にんげんさんに声をかける確固とした判断基準がない
なるべく優しそうな、なるべくゆっくりしたにんげんさんを選んで声をかけるしかないのだ。
それに、身の安全にも配慮する必要がある。
そうすると、簡単にはにんげんさんに声をかけることはできなかった。







ただ時間だけが過ぎていく。
もう、気のせいではない。
まりさは、焦っていた。


ゆぅぅ・・・。どのにんげんさんにおねがいすればいいか、ぜんぜんわかんないよ!


ゆっくりしていそうなおねーさんは、ぜんぜんゆっくりしていなかったし、
逆にそのあと出会ったおにーさんは、ゆっくりしていないと思ったら、とてもゆっくり優しいおにーさんだった。
ちょっと見ただけじゃ、ゆっくりしてるかどうか判断がつかない。

残してきたおちびちゃんの容態が気になる。
ぱちゅりーは早ければ今日中にもおくすりが必要だといっていた。
今日中というのは今かもしれないし、まりさがおうちを出た直後だったかもしれない。
考えても仕方のないことが頭をよぎる。

まりさは、覚悟して出てきたはずだった。
おくすりを手に入れるまで、おうちには帰らないつもりで来た。
だが、それにしても一介の野良ゆっくりである自分にはあまりに荷が勝ちすぎている。
一体どうすれば、にんげんさんからおくすりをもらうことが出来るのだろう。
そもそも、本当に自分に可能なことなのか。
考えても仕方のないことが頭にあふれる。

だいたい、おちびちゃんが病気になったのは誰のせいだ。
自分がおうちをきちんと造っておかなかったからだ。
そう、悪いのは何もかも自分じゃないか。
おちびちゃんでなく、自分が病気になればよかったのだ!

もう何も考えられない。
ただ、ゆっくりできない思いだけが中枢餡をじくじくと刺激する。







「ゆゆーん!おさんぽは気持ちいいよ!」

とってもゆっくりした声が聞こえる。
ゆっくりだ。
半日ぶりに聞くゆっくりの声に、まりさも我に返る。
目をやると見たこともない程の美れいむが公園を堂々と跳ねている。
頭のお飾りには、きらきら輝く銀色のバッジ。

・・・飼いゆっくりだ。

慌てて辺りを見回すが、飼い主らしいにんげんさんの姿はない。
飼いゆっくりはにんげんさんといつも一緒のはずだ。
それに、にんげんさんがいなければおくすりがもらえない。
いくら飼いゆっくりでも、おくすりまでは持っていないだろう。

・・・待てよ。これはかえって好都合なのではないだろうか。
ゆっくりと一緒に暮らすにんげんさんなら、それは優しく、ゆっくりしたにんげんさんなのだろう。
とは言え、同属であるゆっくりの方が信頼できるし、話も通じやすいだろう。
まずは、あのれいむと話をつけ、その後に飼い主さんにおくすりを要求するのが良いのではないだろうか。
あのれいむも、きっとまりさの話を聞けばおちびちゃんのために力になってくれるはずだ。
計画は完璧だ。あとはれいむとの交渉を間違えないことだ。
それさえクリアすれば、あとは成功したも同然。
おちびちゃんのために、最高の「ゆっくりしていってね」を決めてやる。


まりさは茂みから出ると、れいむに向かって跳ねていった。
れいむの前まで回り込む。

「ゆっくりしていってね!!」

「・・・・・・・・・・・・・。」

決まった。会心の「ゆっくりしていってね」だ。

・・・・・・・・・・・?

れいむからお返しの「ゆっくりしていってね」がない。
おかしい。聞こえなかったのだろうか
怪訝に思いながらももう一度「ゆっくりしていってね」をしてみる。

「・・・・・・・・・・・・。」

今度は聞こえなかったわけがない。
もしかしたら、れいむはとってもてれやなのかな。
だったら、まりさからゆっくり自己紹介しないとね。

「まりさは、まりさだよ。よろしくね!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
れいむは足を止め、じっとこちらを見ている。
さっきまではご機嫌にゆーん、ゆゆーんとしていたのに、今は何だかゆっくりしてないお顔だ。
今にもぷくーしそうな、まるで怒っているような、怯えているような。

「ゆゆっ?れいむ、どうしたの?ぐあいがわるいの?」

れいむは何も応えない。
どうしたのだろう?
あんなに元気だったのに?
れいむは急に具合がわるくなっちゃったのかな?
もしかしたらぽんぽんいたくなったのかもしれないね。
それならすーりすーりがいちばんだよ!

いよいよ心配になったまりさは、れいむに近づきすーりすーりしてあげることにした。


「ゆっ!まりさがすーりすーりしてあげるよ!れいむげんきだし「なにしてんだーーー!!!!」」ずどん



まりさが吹っ飛ぶ。
昼前におねーさんに蹴られたのとは桁違いの衝撃だ。
ころころと回転するのではない。
吹っ飛んで数メートル先に落ちた。

「ゆぐっ!ゆぐっ!ゆげぇぇぇ・・・。」
盛大に餡子を吐くまりさ。

「ゆぅぅぅ!おにーさぁぁぁん!ありがとぉぉぉぉ!れいむこわかったよぉぉぉ!」

「危なかったな、れいむ!大丈夫だったか!?」

「野良の汚いまりさが、れいむにすっきりーしようとしてきたよ!
このゲス野良まりさをせいっさいっしてあげてね!」

れいむを抱き上げ、心配そうだったおにーさんは、まるで別人のような形相でこちらに近づいてくる。
自分は勘違いしていた。
おねーさんに蹴られたとき、命の危険を感じた。
違う。
命の危険っていうのは今みたいなことを言うんだ。


がっ

今度は先ほどのずっしり重い衝撃ではなく、皮を破られるような体の表面への鋭い蹴りだ。
身動きの取れないまりさは、まともに喰らう。

「ゆ゛っゆ゛っゆ゛っゆ゛っゆ゛っゆ゛っ」
目からは涙、口から餡子を撒き散らしながら痙攣するまりさ。

「おい。お前うちのれいむになにしようとしたんだ!?」

何か言わなければ潰される。
そう確信したまりさは必死でここまでの経緯を話そうとする。
「げぇぇぇっ、・・・ばでぃぢゃば、・・・おじびじゃの・・、だべに」ごっ

「何言ってるかわからねーよ。」ごっごっごっ

おにーさんは何発も何発も、まりさの顔面を細かく蹴り上げる。

「ゆげっ!」

「ゆゅびゃ!」

「だじゅ・・だじゅげでぐだざび・・・!」
おにいーさんの蹴りがやむと同時に命乞いを始める。

「までぃさ、ちんじゃ・・ぼでがいでず、までぃざを・・・だずげで、だずげ」
じょぼじょぼじょぼ

命乞いをしながらも餡子を吐き続けるまりさの頭に何かがかけられる。
おにいさんが持っていた何かをかけられる。
かけられたところから痛みが引いてゆく。
痙攣が止まり、餡子ももう吐かない。
「で、どうしたって?」

おにーさんは、とても冷めた目をしている。
先ほどのような恐ろしい形相ではない。
代わりに、自分で質問しながらもひどく如何でもよさそうにまりさを見ている。

「までぃさのおじびぢゃんがびょうぎなんでず!それでにんげんざんのおぐずりがいるんでず!」

「がいゆっぐりといっしょのやざじいにんげんざんにおねがいじようとおぼったんでず!」

「でいぶは、でいぶがかいゆっぐりだとおぼっでがいぬじざんがらおぐずりをもらおうとおもっだだげなんでず!」

「でいぶにずっきりーじようどなんておぼっでばせん!ただおぐずりをもらいたがっただけなんでず!」

「おうぢでおじびぢゃんだちがまっでるんでず!だずけでぐだざい!ばでざをごろざないでぐだざい!」

「おでがいじばず!おでがいじばず!ばでざをゆるじでぐだざい!!」

どれだけ、叫び続けただろう。
短かったのかもしれないし、とても長い時間そうしていたのかもしれない。
まりさは叫び続け、おにーさんは何も言わない。


「れいむー、いくぞー。」


まりさが、叫び続けて、息が続かなくなり激しく咳き込んだ頃。
おにーさんは少し離れた場所にいたれいむにのんびり声をかけ、どこかに行ってしまった。


まりさは呆然とその姿を見送る。
おにーさんとれいむが見えなくなってもそのままだった。
しばらくしてのろのろ動き出す。
自分の吐いた餡子を必死で舐め取る。
また涙があふれてくる。

吐いた餡子をあらかた飲み込むと、まりさはずーりずーりし始めた。
おにーさんたちが去っていったのとは反対の方向に進む。
そのまま、公園を出て人気の無い方へと這ってゆく。























ゆゆーん!今日もお散歩楽しかったね!
今日は公園で汚いゲス野良が、かわいいれいむにおそいかかってきたよ。
だけど、おにーさんがれいむを助けてくれたよ。
ゲス野良はおにーさんにせいっさいっされて、ぶざまに餡子さん吐いて泣きわめいていたよ!
ほんとに野良は生きる価値がないね。
でもやさしいおにーさんは、そんなゲス野良にもオレンジジュースさんかけて、見逃してあげたよ。
おにーさんはほんとにやさしいね!
ゲス野良はおちびちゃんのためにおくすりをもらうって言ってたよ
汚い野良の子はやっぱり汚いんだろうね!
そんな汚まんじゅうに誰がおくすりなんてあげるの?
馬鹿なの?死ぬの?
汚い野良と飼いゆっくりのれいむとじゃ命の価値が違うんだよ。
ゆっくりりかいしてね!



























まりさは工事現場に辿り着いていた。
周りには柵がしてあり、にんげんさんは誰も近づかない。
今は工事もしていないから、ここには誰もいない。
まりさはここまで、どうにか這いずってきたものの、置いてある資材の陰に隠れると
そのまま気を失ってしまった。



気がつくと既に辺りは暗くなり始めていた。

ズゴゴゴゴゴゴゴゴ
ザッザッザッザッ

誰もいなかったはずの工事現場には大勢のにんげんさんがいる。
スコップやハンドブレーカーで地面を掘っている。

いけない!にんげんさんだ!


まりさは、震え上がった。
歯の根も合わない。
慌てて逃げようとしたが、体が動かない。
何とかここまで来ることができたが、ここまでが限界のようだ。
もう、ずーりずーりすることもできない。
思ったよりも重傷だ。
下手をすればこのまま回復するより早く、永遠にゆっくりしてしまう。

それに、このままじっとしていて見つからないだろうか?
いや、駄目だ。
辺りは暗くなってきているというのにここだけは昼間のように明るい。
ライトで照らされている。

にんげんさんがこっちにくればすぐに見つかってしまうだろう。
まりさは、もうどうすることもできなかった。
殺されかけた恐怖と、次こそ殺されるかもしれない恐怖に、目を閉じて震えるばかりだった。












「よし!休憩に入るぞ!」

作業長が土ぼこりにまみれたゴミの塊を発見する。
「なんだ、こりゃ?」

「どうかしたんですか?あ、これゆっくりじゃないですか。」

「ああ、ゆっくりか。そうだな。ゴミかと思ったわ。」

若い作業員が怪我に気づく。
「こいつ怪我してますよ。多分人間に蹴られでもしたんじゃないですかね。こいつらよく蹴られますから。」

「そういうもんなのか。農家の畑なんか荒らして駆除されるって話は聞くけど、この辺農家なんてないだろ。」

「人んちの庭でも荒らしたんじゃないですか?」

「まあ、そうだな。それよりこいつ、死んでるんじゃないか?」

「いや、よく見てくださいよ。小さく震えてるでしょう。死んだふりしてるんですよ。
おい。お前おきてるのか?起きてるんなら返事しろ。」

っとに死んだフリなんかしやがって、分からないとでも思ってんのかよ。

ぺチン

「ゆっ!」ゆ、ゆ、ゆ、ゆ

「やっぱ起きてんじゃねーか。狸寝入りしてんなよ、おい。」

「おいおい、あんまり乱暴にするなよ。」

ゆ、ゆ、ゆ、ゆ
「ゆ、ゆ、ゆ、ゆぎゃぴぃぃぃぃぃっ!!!おおお、おでがいでず!
ばでざにもういだいごどじないでぐだざい!!ごろざないでぐだざいぃぃぃぃぃぃ!!!!」

まりさは、がたがたと目に見えて大きく震えた、といより痙攣しだしたかと思うと、
周りにいた人間達が度肝を抜かれるような大声で泣き喚き始めた。
特に直前に頭を叩いた若い作業員は、大いにうろたえた。
まるで、俺がゆっくりを虐待してるみたいじゃねーか!
周囲の目が痛い。

「ちょちょちょ、ちょっと待てよ!おい!そんなに強くたたいてねーだろ!
作業長、そんなに強くたたいてないっすから!」

「お前ら、どっちも落ち着け。
なあ、ゆっくりちゃんよ。
どうしてそんなに傷だらけでこんなとこにいるか、おじさんたちにちょっと教えてくれないか?
場合によっちゃ助けてやらないこともない。」

作業長と呼ばれた年配の男の周りには他にも数人の作業員が、興味深そうに集まってきている。

ゆっくりが、作業長を縋るような目で見ている。
「ばでさは、おちびちゃんがびょうきになっちゃっだがら・・・、にんげんさんにおくすりをもらいにぎだんだよ・・・。」

「でぼ、ひどいにんげんざんにみつかって、こんなめにあわされちゃったんだよ・・・。」

「ばでざ・・・、なんにもわるいごどなんかしてないのに・・・。
でいぶにずっぎりーじようとなんかじでないのにぃぃぃぃ!」
ゆわーんゆわわーーん

「そのでいぶってのはなんだ?そいつに何かしようとしたのか?」

「でいぶはでいぶだよ!でいぶはがいゆっぐじだがら、かいぬしざんからおぐずりもらおうどおもっだだけだのに・・・。
でいぶど、にんげんざんが、ばでざがずっぎりーしようどぢだっでうぞづいで、ひどいごどじだんだよ!」

「うーん。何のことかさっぱりわからんな・・。お前、どうだ?」

「でいぶってのはれいむのことだと思いますよ。ゆっくりの種類の。
で、そのれいむが飼いゆっくりだってんです。で、すっきりーってのは交尾ですよ、確か。」

「ってことは、何か。こいつ、飼いゆっくりに薬もらおうと思ったら、
自分んとこのゆっくりと交尾しようとしたろうって、その飼い主に痛い目にあわせられたのか。」

「ゆっくりの飼い主って、野良を嫌がる人多いんですよ。自分のゆっくりと勝手に交尾したりするから。
だからペットショップで躾済みのゆっくりとか、野良とは話すな、目も合わすなって教えられてるのも多いらしいですしね。
で、野良嫌いの飼い主は、自分のゆっくりを可愛がる反面、野良に対しては物凄く厳しかったりするんですよ。
多分こいつ、そういう飼い主とゆっくりにあたっちゃたんでしょ。」

「しかし、ひどい話だな。同じゆっくりだろう。
そこまで差別する必要なんてないだろう。そういう連中はどうかしてるんじゃないか。」
作業長は、本気で腹を立てているようだ。


若い作業員は首を傾げている。
「・・・うーん。まあ、ゆっくりってのも人間の言葉を話す割りに頭の悪いやつらですしね。
一概にそうとも言えないんですけど。」
確かに酷いとは思うが、作業長、こいつらがどんな連中かよく知らないんだろうな。

「まあ、いい・・・。おい、ゆっくりちゃんよ。お前さんの言ってた薬ってのはどんなものだ?
動物病院とかで手にはいるのか?」

ゆっくりが答える。
「ゆぅ・・・。おくすりは、おれんじじゅーすと、かぜぐすりっていうんだよ・・・。
にんげんさんのおくすりだよ・・・。」

作業長は顔をしかめる。
「風邪薬とオレンジジュースって何かの冗談か!?」

「作業長、こいつら甘い飲み物で病気とか、怪我が治るんですよ。中身が餡子とかなのかは分からんですが。
風邪薬のほうは知りませんけど、こいつらそういう無茶苦茶なつくりですから。」
作業長の気持ちが良く分かる。
こんなことを説明している自分のほうが間違ってるんじゃないかと思えてくる。

「・・・そういうもんか。まあいいわ、お前ちょっと自販機でオレンジジュースかって来てやれ。
二本な。お前も好きなの買ってきていいぞ。おれはコーヒーな。」
いまいち腑に落ちないという顔つきだが、ゆっくりに同情したのだろう。
作業長がそんなことを言い出す。

「わかりました、いってきます。」
それにしても、ゆっくりのぱしりかよ。まあ、いいけどな。
小走りで少しはなれたところにある自販機に向かった。

作業長は、まりさに向き直って話しかける。
「オレンジジュースはやろう。ただ、風邪薬はここにはないな。
事務所に行けばあるかも知れんが・・・。仕事中だからそういうわけにもいかんしな。」

「ゆぅぅ・・・?にんげんさん、まりさにおれんじゅーすをくれるの?」
ゆっくりが、作業長を見上げている。

若い作業員が戻ってくる。
「買ってきましたよ。」
オレンジジュースを二本とコーヒーを一本差し出す。

「おお。お疲れ。悪いな。
これはお前用だ。おい、怪我も治るんだろう?」
最後は若い作業員に向かって言う。

「そのはずですけどね。かけても、飲ませてもいいらしいですよ。」

「よーし、じゃ、上向いて口開けな。いくぞー。」
なんだかんだで、作業長、結構楽しんでるな・・・。

「ゆっ!・・・ゆあーーん。」
ぼとぼとぼと

「ごーきゅ、ごーきゅ・・・。ししし、しゃわわせぇぇぇーーーー!!!?」

「おー、うまいか。そりゃ良かった。じゃ、こんどは体の傷にかけるからな。」
どぼどぼどぼどぼ

「ゆゆーん!とってもきもちいーよ!もっとかけてね、もっとかけてね!」

なんか、くねくねと身悶えしてやがる。気持ち悪りい。

「ゆふー!!まりさ、げんきになったよ。にんげんさん、どうもありがとう!」

さっきまでの、様子が嘘のように元気になりやがったな。
傷跡すらろくに残っていやがらねえ。
ほんっとに、無茶苦茶だなこいつら。

「ほら、オレンジジュース。もう一本。
これはおちびちゃんの分だ。落とすなよ。」

帽子のなかにオレンジジュースしまいやがった。
手足もないくせに、妙に器用だな。

「ゆっ!ありがとうだよ!
まりさ、おれいをしたいけど、もういかなきゃいけないよ。
ごめんね、ねんげんさん・・・。」

一応感謝はしているみたいだな。

「いいのさ。それよりもう行きな。おちびちゃんが待ってるんだろう?」

「ゆん。まりさ、もういくね・・・。
にんげんさん、ゆっくりしていってね!」





































へへ、普段現場の連中には厳しいし、動物が好きって柄でもねえ。
見ての通りの強面だ。
どいつもこいつも、俺がなんでゆっくりなんかにあんなに優しいんだ、理解できねえって顔だったな。
無理もねえ。
実際、俺だってそうなんだからな。
けどよ、あのぼろぼろの饅頭見てたら、なんとなくほっとけねえって思っちまったのさ。
なんでだろうな・・・。
いや、心当たりならある。
まあ、一緒に働いてる連中とは長い付き合いのやつもそれなりにいる。
俺の身の上を知ってるやつも多いだろう。
そうさ、あんな小汚えゆっくりがよ、家族と重なっちまったんだ。
俺の家族、女房と息子さ。
もう随分と昔の話になっちまうが、交通事故でな・・・。
ああ・・・。そうさ。
ちょうどあんな感じでな。
全身ぼろぼろさ。
あのゆっくりを見てたら、思い出しちまってな。
人間も、ゆっくりもないって思っちまったのさ。
・・・ただ、それだけよ。
































って作業長、奥さんも息子さん夫婦も、お元気ですよね。
お孫さんもいますよね。
つか、俺先週、近所でお会いしましたよね。
作業長と奥さんと、一家総出で仲良くお出かけしてましたよね。
なに訳のわかんねぇこと、一人でぶつぶつ言ってるんですか。
ってどこ行くんですか。
ちょっと!
おいこら、おっさん!!



















まりさは、工事現場を後にして、再び住宅地のなかを跳ねている。
親切なにんげんさんのおかげで、オレンジジュースが手に入った。
一時はもう駄目かと思っただけに、喜びもひとしおだ。
嬉しいのはそればかりではない。
オレンジジュースの効き目だ。
酷い暴行で、全身に瀕死の重傷を負った自分が、こうも元気に回復している。
もうどこにも痛みは残っていない。
疲労もない。
こんなに体が軽いのはいつ以来だろう。
噂に違わず、いや、それ以上ににんげんさんのおくすりは良く効く。
まるで、魔法のようだ。

これさえあれば、おちびちゃんだって、きっとたすかるよ!

まりさは、確信する。
しかし、まだ風邪薬が手に入っていない。
この辺りは住宅地であるため、日が暮れると人通りはあまりない。
これまでのように、通りがかるにんげんさんを待ち構えることは上策ではない。

最後の難関だ。

さあ、どうする。


・・・・・・?
声が聞こえる。
にんげんさんではない。
ゆっくりだ。
なにやら騒がしい。
普段から賑やかなゆっくりの感覚で騒がしいといえば、相当なものだ。

おちびちゃんのため、急がなければならない身ではある。
しかし、どこへと行くあてがある訳でもない。
まりさは、一先ず声の聞こえるほうへと向かうことにした。

ぽよんぽよん、ぴょーんぴょん
やや急ぎ足で跳ねていくと、だんだんと声が近くなってきた。

ゆっくりが三匹。
それににんげんさんの声だ!

傷を治し、オレンジジュースまでくれたのも、にんげんさんだった。
でも、やはり自分に酷いことをしたにんげんを、思い出してしまう。
それも、当然のこと。
まだ、半日もたっていない。
しかし、それだけににんげんさんと一緒にいるゆっくりを放っておくわけにもいかない。
気は進まないが、やはり近くまで行くだけ行ってみよう。

さらに近づくにつれ、会話もところどころ聞こえてくるようになった。

「はなすんだぜ!じじい!」

「まりさをはなしてね!しゃざいとばいしょうをようきゅうするよ!あまあまでいいよ!」

「だからな、ここは俺の家なの。そこの野菜もうちの家庭菜園なんだって。」

・・・・・なんだかゆっくりしてない気がするよ。

辿り着いた先には自分と同じ野良と見える、まりさとれいむ。
にんげんさん。
それににんげんさんのすぐ横にありすがいる。
ありすのカチューシャには、銀のバッジ。
飼いゆっくりだ。

「あなたたち野菜は勝手に生えてくるものじゃないのよ!それに、ここはおにいさんたちと、ありすのおうちよ!」、
ありすがゆっくりたちに、ぷくーしている。

「ほら、ぷくーなんかするなよ。お前はいいからちょっとさがってろよ。」

「でも、おにいさん・・・。・・・・わかったわ。」
ありすが、にんげんさんの後ろに隠れるような位置につく。

ありすがおとなしく後ろに下がったことで、まりさが更に勢いづく。
「ゆっへっへ!よわむしのありすはさがってればいいのぜ!
おとなしくしてればいたいめみなくてすむのぜ!
まりさは、むれでまけなしのゆっくりなのぜ!
にんげんさんじゃ、てもあしもでないのぜ!
いたいめにあいたくなければ、さっさとあやまるんだぜ!」

れいむも、まりさに続いてにんげんさんを威嚇してくる。
「そうだよ!まりさはとってもつよいんだよ!
ひとりじめしてるおやさいさんだけでゆるしてあげるんだよ!
ひとりじめはだめなんだよ!」

どうやら山の群れから下りてきたゆっくりたちらしい。
口が悪く多少性格に難ありだ。
が、特別ゲスというわけでもなさそうだ。
にんげんさんを知らないのだ。
勿論、にんげんさんの姿くらいは見たことがあるかもしれない。
群れに伝わる噂で多少の知識はあるかもしれない。
だが、にんげんさんが本当にどういうものかまだ見たことがないのだろう。
話には聞いていても、その話自体がひどく歪んだ、偏ったものだったのかもしれない。
話が正確でも、思い上がった挙句、都合のいい部分だけ耳に入れてきたのかもしれない。

山のゆっくりたちには良くあることだ。
にんげんさんの怖さを知らないまま、何かの拍子に街まで下りてくる。
街にはれみりゃたちが、ほとんどいない。
ゴミ漁りがうまくいけば、美味しい食べ物が手に入る。
おやさいさんが、たくさん生えている。
もし、ゆっくりに優しいにんげんさんを見つければ、山ではまずありつけないあまあまを貰えるかもしれない。
こんな時、山のゆっくりは、街が素晴らしいゆっくりプレイスだと思い込む。


だが、そんなに都合のいい話はない。
この山まりさたちのように、群れで負け知らずでのゆっくりでも、決してにんげんさんには敵わない。
山のゆっくりには勘違いしている連中も多いが、れみりゃよりにんげんさんのほうがずっと強いのだ。
だから、れみりゃは街におりてこないのに。
そして、この山まりさたちの話から察すると、にんげんさんたちがおやさいさんを独り占めしていることになっているらしい。
大概のおやさいさんは、にんげんさんが育てている。
ゆっくりがむーしゃむーしゃすることがあるのは、捨てられたおやさいさんだけだ。
それとても、必ずむーしゃむーしゃすることが許されるわけではない。

おにーさんは、この山ゆっくりたちの無礼な態度にも、腹を立てているようにも見えない。
どうやら、このおにーさんは優しいにんげんさんのようだ。
そういえば、ぱちゅりーが言っていた、飼いゆっくりと暮らすやさしいにんげんさん。
それはこのおにーさんのことだろう。
あの飼いゆっくりのありすは、とてもゆっくりしている。
そればかりか、いまひとつゆっくりしてない、あの山ゆっくりたちにも酷いことをするつもりがないようだ。

かいゆっくりといっしょの、やさしいにんげんさん?
それってたしか・・・。
ゆっ!そうだよ!おくすりをくれるにんげんさんだよ!

まりさは気づいた。
飼いゆっくりと暮らすやさしいにんげんさん!
再び心の中で繰り返す。
それは、ぱちゅりーの言っていたおくすりをくれるにんげんさんだ。
少し前に、飼いゆっくりを連れたにんげんさんに酷い目にあわされた気がするが、それは置いておこう。


そうこうしているうちに、あの山まりさは、おにーさんに放してもらったようだ。
逃げもせずに、おにーさんの足にぽよんぽよんと体当たりをしている。
おにーさんは困った顔だ。
あんな体当たりではにんげんさんは倒せない。
とは言え、にんげんさんだって、子ゆならともかく成ゆの体当たりは痛いだろう。
それに、あのおにーさんは、優しいからゆっくりに手が出せないのだ。
このままではいけない。

「ゆゆん!まりさ、やめてね!」
まりさは飛び出す。

「なんなんだぜ!どこのまりさかしらないけど、まりささまにさしずするとは、なまいきなんだぜ!!」
山まりさは、おにーさんへの体当たりをやめると、まりさへと向き直った。

「まりさ、ここはまりさのいた、やまのむれじゃないんだよ!
まちにはまちの、きまりがあるんだよ!
にんげんさんに、いたいいたいするなんてゆっくりしてないよ!」

「まりさは、にんげんさんにるーるとまなーをおしえてやってるだけだぜ!
おやさいさんをひとりじめなんてだめなんだぜ!!
しんぱいしなくても、まりさもおにじゃないんだぜ!
はんせいして、ゆっくりしゃざいすれば、いのちまではとらないんだぜ!」
やっぱり山まりさは、にんげんさんに、まりさの群れのルールを守らせるつもりのようだ。

「まりさ、にんげんさんがかわいそうだから、おおけがさせちゃだめだよ
まりさがほんきになったら、にんげんさんがばらばらになっちゃうよ!」

まりさは思った。
山れいむも、大きな勘違いをしている。
いくら山まりさが強くても、多少の怪我を負わせることは出来ても決して勝てはしないというのに。
自分がうまく仲裁しなければ、お互いが不幸になるだけだ。
やるしかない。


おにーさんはまりさの顔を見て考えを察して思った。
こんな風船があたってるみたいので、怪我なんかしないやい、と。

「ごちゃごちゃと、うるさいのぜ!
じゃまをするなら、そこのまりさも、ただじゃおかないんだぜ!!」ぷくーー
山まりさは大きく膨れて見せた。
すごいぷくーだ!
山で負け知らずというのはあながち嘘ではないようだ。
しかし、負けてはいられない。

「まだまだだよ・・・!」ぷくーーー
負けじとまりさも、大きく膨れる。



そのまま睨み合うことしばし。
双方退かない。


「・・・まりさのぷくーでにげださないなんて、つよがりにしてもたいしたものなのぜ!」
歴戦の猛者らしいふてぶてしい態度で、まりさをねめつけてくる。

「ゆっ!まりさはこのていどなんともないよ!
それより、まりさがかったら、まりさたちはやまにかえってね!」
それがこの山まりさたちのためでもある。

「ゆぷぷっ!!このまりささまにかてるきでいるのかだぜ!
いいのぜ!やくそくしてやるのぜ!!」びょーん
言い終わるかどうかの際どいタイミングで、山まりさが突っ込んでくる。

「ゆっ!?」ぽゆーん
咄嗟のことに反応がワンテンポ遅れる。迎撃はムリだ。
紙一重で回避する。

「れんぞくこうげきなのぜ!!」
振り向きざまの体当たり。

「まけないよ!!」
今度はまりさも、カウンターで体当たりを合わせる。互いをはじきあう。
周りでは二匹のゆっくりとおにーさんが見守っている。



山れいむ視点:壮絶な死闘だよ!でも(山)まりさは絶対に負けないよ!
       まりさはれいむと約束したからね!あれはまりさと初めて・・・以下略

飼いありす視点:ゆゆっっ!!あのまりさ何者なの!?まあ野良にしてはとかいはね!
        ワイルドな魅力がびんびんくるわ!!

おにーさん視点:やっぱりゆっくりの体当たりって風船みたいだよね。




二匹は何度も体をぶつけ合った。
ゆっくりからすると、長く壮絶な死闘の末、二匹の体力は尽き果てようとしていた。

「ゆふぅ・・。ここまでやるとはよそうがいなのぜ。
・・・・つぎのいちげきでおわりなのぜ!!」

「のぞむところだよ!!ゆっくりかかってきてね!!」

びょーん
びょーん
二匹が同時に跳ねる。

ぐしゃ
ぐしゃ
同時に地面に崩れ落ちる。


「ゆぐっ。もうからだがうごかないのぜ。このしょうぶ、まりさのかちなのぜ・・・。」
山まりさは、ダメージが大きく既に戦闘続行は不能だ。

「まりさも・・・・、まりさも、もううごけないよ。」
一方のまりさも、体力を使い果たしていた。

「・・・・。ゆっふっふっふ。じゃあ、このしょうぶひきわけなのぜ。
ひきわけのときは、やまにかえれなんてきめてないのぜ。」

「ゆゆーん・・・。」
確かにそうだ。まりさが勝ったら山に帰れといっただけだ。

「いいのぜ!ゆうしゃはゆうしゃをしるのぜ!まりさのいうとおりにするのぜ!」

「ゆゆっ!いいの、まりさ!?」

「ゆっくりににごんはないのぜ!にんげんさん、いのちびろいしたのぜ!
そこのまりさにかんしゃするのぜ!
それとまりさがかえったからって、おやさいのひとりじめはほどほどにするのぜ!」
そう言うと、山まりさはむっくりと起き上がる。

「れいむ、かえるのぜ!」

「ゆゆぅ・・・。でも、れいむ、まだおやさいさんむーしゃむしゃしてないよ。」
れいむは帰るのを少し渋っている。

「やまにかえってなにかたべるのぜ!まりさのいうとおりいするのぜ!」
まりさは、あくまで山に帰るつもりだ。

「・・・わかったよ。それじゃ、ゆっくりやまにかえろうね・・・。」
目の前のおやさいさんが惜しいのだろう。畑のおやさいさんに名残惜しげに視線をやる。

「いくのぜ!」

「まってよー!」
こうして、二匹は山へと帰っていった。














残ったまりさは、またまたオレンジジュースをかけてもらっていた。
「おれんじじゅーすさんだね!とってもきもちいいよ!」

ありすとおにーさんに、山ゆっくりを見事追い払ったお礼をしてもらえることになったのだ。
「まりさは、なかなか都会派ね!しかたないから一緒にゆっくりしていってもいいのよ!ね、おにいさん!」
ありすは、まりさを随分と気に入ったようだ。

「ああ、まりさのおかげで助かったよ。」
別に助かってないけど。
でも、一応助けてくれたのだろう。

「ゆっへん。それほどでもないよ!」
顎だか腹だかを突き出すまりさ。
さすがゆっくり。
どこがどこだか、さっぱりわからん。

「でも、本当に何かお礼でもしないとな。あまあまでも持って帰るか。」
ありすのおやつ用に色々あるし、少し分けてやれば喜ぶだろう。

「ゆっ!おにーさん、それだったらおくすりがほしいよ!おちびちゃんがびょうきなんだよ!
あとは、かぜぐすりがあればおちびちゃんがたすかるんだよ!」

「風邪薬?ちょっと訳をはなしてみな。」
まあ、だいだい察しがつくけど。


で、話を聞いてみると案の定。
子ゆが病気になって、医者の真似事をしているぱちゅりーに見せたら、例の「おくすり」が必要ということになったそうな。
賢いぱちゅりーは、自生している薬草の類を扱うのがいる。
稀にだけどな。多分、物好きな人間が暇つぶしにでも教えたのだろう。
二三種類の薬草とその効能ぐらいならぱちゅりー種なら覚えられないこともない。
ただ、さすが餡子脳。
よくあるのが、ぱちゅりーが雑草を採ってきて「これは薬草よ」とかいっても、
本当に効いてしまうらしいからどっちでもいいんだよな、こいつら。
オレンジジュースはともかく、風邪薬はその類じゃなかろうか。
本当に効果があるかどうか怪しいが、ぱちゅりーが「さすがにんげんさんのおくすりね!」とかいえば、イチコロだろう。
まあ、本当に効くのかもしれないけど。

「よし。分かった。これが風邪薬だ。落とすなよ。」
風邪薬を三錠渡してやった。
カプセルタイプのやつ。
ご丁寧にちゃんとパッケージからだして、まりさの帽子のなかに入れてやった。
そうしたら、大喜びで、何度もお礼を言いながら帰って行ったよ。
まあ、ちょっと鬱陶しいこともあるけど、ゆっくりもそれなりに可愛いと思うよ。
俺はね。
「とかいはーー!」
ああ、鬱陶しい。









まりさは、帰り路を急ぐ。
一時は無理かと思ったおくすりを、二つともそろえることが出来た。

おちびちゃん、いま帰るよ。

おちびちゃんは、きっとまだ大丈夫。
まだ、まっててくれるはず。
まりさと、ありすのおちびちゃんだもん。
つよいこだもん。




見えてきた。
月明かりの下、おちびちゃんたちが待っているおうちが。

最後の力を振り絞り、おうちの中へ飛び込む。

「ゆっ!いまかえったよ!おくすりをもってきたからね!」

「おとーしゃん、ゆっくちぃぃぃぃ!!」
子ありすが、まりさの体に向かって飛び込んでくる。
「だいじょうぶだよ!おとーさんはぶじだよ!おちびちゃんもゆっくりしてね!」

「むきゅ!まりさ、ぶじだったのね!よかったわ・・・。」
ぱちゅりーも、心底安堵した、という顔だ。

「おちびちゃんは!?まだだいじょうぶ?」

「ええ、あいかわらずきけんなじょうたいだけど、まだだいじょうぶよ!
でも、のんびりしているひまはないわ!すぐにおくすりをあげましょう!」

まりさは、おぼうしから風邪薬と、オレンジジュースを取り出す。
オレンジジュースのキャップをぱちゅりーと二匹ではずす。
先に風邪薬を子まりさの口に放り込む。
オレンジジュースを続けて注ぎ込む。
子まりさが、オレンジジュースとともに風邪薬を飲み下す。
















子まりさの様子をじっと見守る。
永遠とも思える静寂。
そして・・・。

「ゆゅーーん・・・。ゆふぅ、まりしゃどうしてたんだじぇ。」

「おちびちゃん!!」

「おにぇーちゃん!!」

二人が同時に声を上げる。

「ゆゆー・・・。よかった、ほんとーによかったよー・・・。」

「おにぇーちゃん、おにぇーちゃん、ゆっくち、ゆっくち・・・。」

「ゆゆー?ふたりとみょどうしたのじぇ?にゃんでないてるのじぇ?」
子まりさは良く事態が理解できていないようだ。
無理もない。
意識も朦朧とした状態で臥せっていたのだから。
まりさが、おちびちゃんおために、どんなに頑張ったか、命懸けの冒険をしてきたかは、後で私が教えてあげることにしましょう。
それより、いつまでも泣いてばかりじゃゆっくりしてないわね。

「むきゅ!ほら、まりさもおちびちゃんたちも!せっかくおちびちゃんのびょうきがなおったんですもの。
みんなでおうたをうたいましょうね!」

「ゆっ!そうだよ!こんなときは、みんなでおうたをうたってゆっくりするんだよ!」

「おうた!みんにゃでおうたをうたうのはとっちぇもときゃいはにぇ!」

「そうだじぇ!おうたはとっちぇもゆっくちできるのじぇ!」
みんな、お歌を歌うのに大賛成のようだ。

「むきゅん!それじゃ、じゅんびはいいかしら?せーのっ!」


ゆっゆっゆっゆっゆ
ゆっくりーのひー(むっきゅん)
まったりーのひー(むっきゅん)
すっきりーのひー(むきゅきゅん)

Ob's sturmt oder schneit,  (訳)嵐の日も雪の日も、
Ob die Sonne uns lacht,       太陽 我らを照らす日も、
Der Tag gluhend heiss       炎熱の真昼も
Oder eiskalt die Nacht.       極寒の夜半も
Bestaubt sind die Gesichter,    顔が埃に塗れようと、
Doch froh ist unser Sinn,       我らが心は快活ぞ。
Ist unser Sinn;           我らが心は快活ぞ。
Es braust unser Panzer     戦車は轟然と
Im Sturmwind dahin    暴風の中へ驀進す。






どこからか、ゆっくりの歌声が聞こえてくる。
いつまでも、ゆっくりの歌声が響いている。












最後まで読んでくれたひと
ありがとう

挿絵 by儚いあき


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感想

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  • 何で小まりさも親まりさも死んでないの? -- 2021-05-08 22:07:31
  • れいむとこのマリサとの思考の差がすごい・・・通常種でもこんな事あるんだなぁ。 -- 2018-07-28 13:21:25
  • 文章書くの上手いっすね!他者視点の文章のはさみ方が上手い!
    (作業長がいいキャラww)

    飼れいむは「命の価値が違う」とのたまっていたが、通常種に差はほとんど無いよww
    それを理解してないれいむはゲス因子が強いってことだな。飼い主ガンバww

    ゆっくりが風邪を引くかどうかは別にして、風邪薬に関しては恐らく思い込みだろうね。
    人間でいう「プラシーボ効果」。(例:乗り物の酔い止め薬)
    実際の風邪薬は使用目的に注意しないとね。(※風邪薬=熱は治まりにくいが風邪は治る。解熱剤=熱は下がるが風邪は治らない。) -- 2018-02-04 22:21:11
  • そして虫さんや草さんがげろまずーで食べられなくて衰弱するんですねわかります
    -- 2016-08-28 23:48:48
  • あとこの人、本当に文章がうまいね。構成も。
    よくある言葉の使い間違いやら、視点の矛盾が
    ほとんどないし、シリアスとギャグの使い分けや
    使いどころも心得てる。才能ある人だなあ
    -- 2016-01-16 16:58:35
  • ふおおおお感動した!w
    まさかゆっくりSSでこんな感動を味わうとはww

    飼いれいむはそういうふうに教育されてるからね。仕方ないね。
    オレンジジュースは、都合と言えばそれまでだが、例えば
    ○一匹が頑丈な石の間に横にしたボトルのキャップを挟んで
    体重をかけ、動かないよう押さえる
    ○もう一匹がボトルの上に乗って回す
    とかすれば開けられなくもないかなと考えてみた
    これならゆっくりでも、人間が開けるところ見てれば
    思いつきそうだし。
    -- 2016-01-16 16:53:35
  • 作業長とまりさかっこいい!ただし飼いれいむ てめえはだめだ -- 2014-09-28 10:13:53
  • 飼いれいむ虐待してえ・・・ -- 2014-06-22 00:35:53
  • なんで潰れてないんですかねえ… -- 2014-03-13 21:33:02
  • 飼いれいむは
    死ね!! -- 2013-06-28 19:44:16
  • パンツァーリートやめれwwwwww -- 2013-06-18 17:20:22
  • たまにはこんな話もいい、ていうか虐待厨の言う通りにするとワンパターンにしかならんからな -- 2013-05-16 03:19:40
  • ここにもネタバレ強要してる奴が沸いてたのか
    まさかのハッピーエンドでびっくりしたが、いい話じゃないか -- 2013-01-23 08:18:16
  • すごくいい話!GJ! -- 2012-10-06 01:05:07
  • ハッピーエンドでほっとした。子まりさが死んでるんじゃないかと最後までハラハラしたよ。
    ネタバレが無くて良かった。
    あと山まりさがなんか好きだ。人間さんのルールと強さを知らなかったのは無知なだけで、相手を讃えて引くあたり漢じゃないか。 -- 2012-09-20 07:54:49
  • 工事のおっさんwwwwwwwwwwww
    いい魔理沙だなあ -- 2012-07-10 12:47:51
  • 飼いれいむは嫌いだな。野良と飼われてるゆっくりなんて同じようなもんだろ。 -- 2012-03-11 03:14:39
  • 作業長・・いろんな意味でイケメンすぎる/// -- 2011-10-05 23:40:16
  • ↓↓もやしが知識を生かしたことを希望 -- 2011-10-05 23:37:16
  • 飼いれいむの虐待やってくれないと足りないよ -- 2011-07-11 19:54:34
最終更新:2009年10月26日 17:52
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