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【ぐんしょうのそらをこえて】
ジャンル | 本格未来架空航空戦記ADV | |
対応機種 | Windows 98~Vista | |
発売・開発元 | light | |
発売日 |
【初回版】2005年9月30日 【通常版】2005年11月11日 【Vista対応版】2007年8月10日 |
|
定価 | 9,240円(税込み) | |
レーティング | アダルトゲーム | |
判定 | 良作 | |
ポイント | 世界観のリアルさはlight作品一 |
『ならば何故我々は戦い続けたのか』
微妙に異なる歴史を歩んできた近未来の架空日本。
主人公の父親、萩野憲二は政治・経済的に閉塞感漂う中、新時代の社会モデルとして、日本を政治的には分割し、経済的には逆に極東アジア全体を統合する『円経済圏構想』を提唱する。 折からの地方分権熱と、変革に伴う経済効果を期待する勢力にも押され、議論のすえこの提案は受け入れられる。ほどなく各地域に広域行政府が発足。 日本は順調に新時代にふさわしい社会システムに移行し得たかに見えた。
だが、新制度発足後間もなく、関東圏行政府は突然、これは旧来と同様の国家単位だとして独立を宣言する(直前に、萩野憲二は暗殺される)。 あくまで、政治システムの分割に過ぎないと考えていた他地域は、激しくこれに反発した。
関東の独立は、経済利益を目的とした一部政財界の私欲に満ちたものだったからである。
利己的な独立を許すくらいなら、旧日本を維持すべきと関西・西日本を中心に指揮された機動隊・一部自衛隊が関東に進出。独立を阻止しようと、強権的な統治を開始する。
これに対し、自由を制約された学生が反発。予備生徒制度を発足させ、レジスタンス運動を開始する。東アジア団結を夢想する活動家の扇動、EU型大規模経済圏の成立を望む欧州の密かな軍事支援などもあり、その組織は急速に拡大した。 主に学校単位で編成された予備生徒はやがて、武装蜂起して第一次独立闘争を開始する。内戦への備えのなかった関西系自衛隊勢力は不意をつかれ敗走。
関東は独立状態を回復する。
同時にアメリカ・ロシアを主とした国連軍が介入。富士川・糸魚川を中心に中立地帯が成立する。
……そのまま、戦況が膠着状態に陥って数年。戦闘は越境しゲリラ活動を行う一部のレンジャーと、停戦監視団の目を盗んで示威行為を行う双方戦闘機の間で交わされるのみになっていた。
(公式サイトから抜粋)
--『群青』の舞台中、関東と関西が争う理由になるのが、この主人公の父親(萩野憲二)が提唱した「円経済圏理論」です。
この理論の基本は、社会には、経済圏、軍事圏、民族圏(言語)、政治圏(司法含む)、の四つが存在し、歴史上ではそれらが一致する時期としない時期が交互に訪れる、というものです。 この四つがほぼ一致した場合、近代史上の国家と呼ばれる存在になり(民族圏が一番微妙)。日本では明治維新以降の歴史を指します。 このズレが生じるのは、技術発展の度合いなどにより、各圏の拡張速度が異なるためであり、また大きいほど効率的(経済・軍事)、技術が許せば多層的で単位が小さいほど効率的(政治)、大きさが人為的には変更不可(民族)と、それぞれの性質が違うからでもあります。 具体例としては、 原始都市国家(一致)→中世(バラバラに発展)→現代(一致)→近未来(情報化等でバラバラ)→惑星国家(一致)→さらに恒星系国家になる手前で不一致(……以下永遠に続く) のようになります。
萩野憲二は、上記の理屈に基づき、日本も再び各階層を切り離すべきだ、と日本政府の諮問委員会で答申しました。 EU・NATOの成立・拡大などは、近未来の各圏の不一致の先駆けと考え、国際競争力を維持する為に極東アジアにも同様のシステムが必要だと憲二は考えたからです。これが、政治単位を小さく分け、逆に経済単位を大きくしようとする円経済圏構想(旧来のブロック化経済とは微妙に異なる)です。 また、この提案では、文化的に異なる東日本と西日本という歴史観が前提にあります。 彼の提案では、日本と同様に分割した中国(六つに分割)、朝鮮半島(新羅・百済・高句麗に分割)、台湾、などで共通通貨をもちヨーロッパや北米(アメリカ)に対抗する予定でした。
――その提案は、日本の発展的な分割案として一度は国会で承認されます。ですが、その後関東の政治的独立は強硬に旧来型国家としての独立にすり替えられ、これに反対した憲二はあっさり暗殺されます。
現実にはアジアの政治事情はとてもそこまで熟成しておらず、彼の提案は理想論すぎました。百年から千年単位で物事を見ている憲二は、数十年の経済格差は数世紀程度で埋められる誤差と考えていましたが、現世利益を第一に考える人々には到底認められないものだったからです。
萩野憲二が唱えた日本六分割の方法論は以下のようなものでした。
琉球(沖縄)は琉球王朝(南方渡来文化) 九州&四国はクマソ(および卑弥呼系純弥生民族) 関西圏は弥生民族(大陸渡来文化) 関東・東日本は縄文系民族(東夷)(憲二がこれを二つに分けたのは政治的理由) 蝦夷(北海道)はウタリ民族(北方渡来文化)
ただし、群青の現実世界では、琉球王国、蝦夷共和国、東日本、西日本の四分割になっています。
関東政府(関東自治共和政府)を支持する学生が志願して戦闘参加するシステムが予備生徒制度です。その上部組織にあたる関東軍(正式名称は関東自治共和政府治安維持軍)は主に元自衛隊員と元予備生徒で構成されています。統合軍を指向しているので、陸海空の区分はありません。 予備生徒は実戦参加する一種予備生徒と、その前段階の二種予備生徒、主に中学生からなる三種予備生徒があります。ヒトラー・ユーゲントなどの初期と同じく、基本的に志願制です。階級分けがあまり細かくないのは、学生運動組織の名残として完全なピラミッド型をした階級組織・指揮命令系統を否定している側面があるからです。その組織の最小単位を細胞(セル)と呼び、実質的には分隊に相当します。この中では合議制で物事が決定されます(現実には実力のあるものが命令します) また、一部の専門性の高い任務ではその名前が前につく場合もあります。具体的には、萩野社一種飛行予備生徒、水木若菜二種管制予備生徒、などになります。 予備生徒の総数は関東全域では十数万人と言われていますがたぶんに流動的であり詳細は不明です。 また、航空関係など特殊な所属を除くと、予備生徒の組織は二つに大別されます。 一つは、学区編成部隊と呼ばれるもので、学校・学区単位で組織されており、関東全域に存在します。常備部隊ではなく、戦時に招集をかけ部隊として編制され前線に投入されます。予備兵のような存在です。基本的に予備生徒のみで構成され、職業軍人はごく一部です。大半の予備生徒はこちらに分類されます。 もう一つは管区編成部隊と呼ばれ、前線に近い地域を幾つかの管区に分けそこを防衛している常備軍です。大半の管区では、法令上・予算措置上の制約を避け弾力的な部隊運用を行うために、作戦群と呼ばれる任意部隊を複数編成しています。 ここに所属する予備生徒は特に志願した生徒です。出身校は不問です。また指揮官・教官として元自衛隊関係者が配属されています。 予備生徒は卒業後、そのまま関東軍に加わった場合は自衛隊出身者と同様に階級を名乗ることになります。 (ただし、現実の管区部隊では関東軍所属の元予備生徒・自衛官と現役の予備生徒が一体となって活動しており、その二つは不可分といってもいい状況です)
また、話は少し逸れますが百里義勇航空団などの義勇兵は、スペイン戦争のような本格的な国際義勇兵ではなく、蝦夷共和国に所属する元自衛隊員がほとんどです(百里には元第2航空団のF-15が一部参加しています)。蝦夷政権は元自衛隊員を多くを抱えており、また関東政府が消滅すると自分たちの独立も維持できなくなるだろうと、彼らを義勇兵として派遣して関東政府を支援しています。
独立を鎮圧され、それに対抗して行動を起こした予備生徒たちは、建前としてはあくまで憲二の理論を本来の意味で達成しようとしました(実際には、旧関東の抱えていた権益を守ろうとする守旧派勢力に操られていた側面もあるのですが)。 それは、経済的に追いつめられていたEUの資本家に、好ましいものとして映ります。彼らは、ユーロ単独ではもはや米ドルと国際基準通貨の地位を争うのは難しいと考えていました。円経済圏という第三の極がアジアに成立するのは対北米政策上都合がよいと考えたのです。三つ巴の構図になれば、EUにもまだ世界制覇の可能性を夢見ることが出来ました。 これにより、抵抗・独立運動をおこなう生徒のもとにはこれを支援するヨーロッパ系資本が流れ込みます(グリペンの供出もその一環です)。 一方、アメリカにとってはあくまで日本が再統一され変わらず子分になるのが望ましい未来であり、国連軍の名のもとに、米国は関西政権寄りで武力介入することになります(名目は停戦監視軍)。
ただこの時代、予備生徒にとってもっとも不幸だったのは、米国・ヨーロッパ共、関東・関西のどちらが勝つにしても日本の国力が適度に疲弊するのはより望ましいという共通認識でした。彼らは、日本での平和より戦いを望みました。 予備生徒たちは否応なしに、米欧の代理戦争という側面も背負って、血を流さなければならなかったのです。 (公式サイトから抜粋)
本格的な架空戦記モノとしての出来が全体的に良い。専門用語が多く、万人受けする作品ではないものの、読み応えのある作品である。