前夜祭 ◆PatdvIjTFg



"What are little girls made of?"
(女の子って 何でできてるの?)

"What are little girls made of?"
(女の子って 何でできてるの?)

"Sugar and spice"
(砂糖とスパイス)

"And all that's nice,"
(それと 素敵な何か)

"That's what little girls are made of."
(そういうものでできてるよ)


「素敵なものって何かしら?」
「きっと、私も貴方も持っていないものよ」

「……それを、私は欲しいわ」



やけに小学生の死亡記事が多いな――と、リビングルームで新聞を読みながら少女は考える。
それも、いやに猟奇的で、際限ないほどに絶望的だ。
未だ見つからぬ同一犯による連続殺人、小学生による猟奇的殺人、屋上からの落下事故。
なんて――絶望的なんだろうか、そう考えると少女――『江ノ島盾子』の本能が疼く。

「メ、メ、メ、メシウマァ~~~~~~wwwwwwwwwwwwwwなんつて」
「こんなことしてる場合じゃないのに…………早く……犯人に会わなきゃ…………」

ころころと自身のキャラクターを入れ替えながら、江ノ島盾子は記事を読み返す。
この事件群にはあからさまに、絶望的に隠す気が無いんじゃないかってぐらいに、黒幕がいる。
ただし、その黒幕を発見することは――私様以外には相当に難しいだろう、と江ノ島盾子は考える。
少々の差はあるが、この事件は江ノ島盾子が元の世界で起こした事件に似ている。
動機と手段、そして密閉した空間――生徒会連中が死んだ時のように、この小学生たちも、また。

なんて、絶望的なのだろうか。

「私の計算上、犯人は小学校にいることは間違いありません」
「にょわ~☆それも、聖杯戦争のためっていうよりも~~ただの趣味だにぃ☆」
「うぷぷ……それにしても酷いなぁ、そういうことならボクを誘ってくれればいいのに」
「というわけでアタシ、放課後に小学校行くけど、アンタも来るよね、ランサー」


「放課後はごめん!今日は用事あるんだ」
小学校――三年生教室。
それぞれが仲良しのグループ同士で固まりながら、他愛のない会話を行っている普通の教室。
最近の猟奇事件は恐怖の象徴であると同時に絶好の話の種である、誰もが自分は事件に巻き込まれないと信じきっている。
いや、信じなければならないのだ。そうでなければ、この教室は毎日がしめやかな葬式会場へと変貌を遂げる。
明るさを装い、平凡を装い、そして何とかやっている教室である。
だから、日常は続く。
彼女もそんな日常を維持するグループの一人である。
茶色をした明るい髪色、その髪はツインテールにまとめられ、顔には困ったような笑顔を浮かべている。
人目を引く――明るい可愛らしさ、『高町なのは』である。

「それに、犯人がまだ見つかってないでしょ、危ないよ」
「……うん、そうだね」

陰が差す友人の表情に、高町なのはは焦燥感に駆られる。
この事件もまた聖杯戦争によって引き起こされたものならば――早く解決しなければならない。
心臓が早鐘を打つ。

この問題を解決できるのは、自分しかいない。


自分だけであると、互いに思い込んでいる。
四年生教室――『木之本桜』と『大道寺知世』は互いに、自分だけが剣を持っていると思い込んでいる。
いや、正確に言えば違う。
自分だけが聖杯戦争の参加者であると思い込みたい。

一般的な小学生ではない別の顔、カードキャプターとしてのさくらを大道寺知世は知っている。
危険もあるが、それを受け入れて応援してくれている大切な友だちであることを木之本桜は知っている。

けれど、聖杯戦争は人が人を殺す。
易易と秘密を開示出来ない。
聖杯戦争に人を巻き込むということは地獄への道連れを作るということであるから。

それでも。

「知世ちゃん……」
「さくらちゃん……」

ごくりと唾を飲み込む。
チャイムが鳴る。
言おうとした言葉が生まれるまでもなく、チャイムによって掻き殺される。

「ううん、なんでもないよ」
「ええ、私もですわ」

お互いがお互いに、一人でそんな危険なことを行っていると知れば見過ごせないから。
例えNPCであろうとも、大切な親友であることを知っているから。

だから、二人は寄り添って何も言わない。
言えない。

ぎゅうと、さくらが知世の手を握った。
その手を知世は握り返す。
僅かに震えていた。


『輿水幸子』というアイドルが、自分の通う中学校にいることを『山田なぎさ』は初めて知った。
ショートカットで、自分のことをボクだなんて言う奴で、自分のことをカワイイと言い張って憚らない変なアイドルで、でも彼女は『海野藻屑』じゃない。
そんなことは知っていたけれど、それでも廊下で初めて輿水幸子とすれ違った時、もしかしたら彼女は海野藻屑じゃないのかと思った。

でも、彼女の両脇には『白坂小梅』と『星輝子』というアイドルがいて、
だから、聞こえる方の耳を私に向けている藻屑は、ここにはいないんだな、と思って。
無性に悲しかった。

「ま、落ち込んでばかりもいられないけどね」
気を張り直す、持たされた実弾はあまりにも現実離れで、まるで夢に撃ちこんでいるかのようにふわふわとしているけれど、それが私の選んだ実弾。

砂糖菓子の弾丸にもう一度会うための弾丸。
山田なぎさにもう一度会うための弾丸。

返り血を浴びたアーチャーの姿を見ながら、『海野藻屑』は考える。
何人殺したんだろうか、どれほどぼくは山田なぎさに近づけているんだろうか。
安楽椅子に身を委ねながら、届きそうな程に近い空に手を伸ばしてみる。
どれだけ伸ばしても空は掴めない。

海野藻屑は、人魚姫の夢を見ていた。

魔女と契約して、山田なぎさに会うための足を手に入れたけれど、
山田なぎさは自分を助けてくれた人魚姫に会うために、魚の尾びれを手に入れる夢。

何時までも何時までも会えないまま、お互いが泡になって消えてしまう夢。

とても悲しくて、でも夢だ。
きっと、夢だ。


夢を見ていました。
とても、とても、楽しい夢を。
賀茂さんが帰ってくる夢。
狐に生まれ変わって北海道から、自分の家まで一生懸命走って帰ってくる夢。
夢の中で私は普通の女の子で、誰も死んでいなくって、何時までも楽しく暮らす夢。

駄目ですよね、私がそんな夢を見たら。

でも、許してください。
夢を見ただけなんです、そんなとても楽しい夢を……

『桂たま』が眠りから目を覚ますと、変わらない現実が広がっていた。
何一つして変わってはいないし、何も終わってもいないし、何も始まってはいない。

桂たまは一人のままだ。


一人は寂しい。
そんな当たり前の事実を、『輿水幸子』も『白坂小梅』も『星輝子』も知っている。
だから、三人で集まって昼食を食べていた。

「フフ……今日もきのこ、明日もきのこ、明後日もきのこ、美味しいぞきのこ」
星輝子はきのこの炊き込みご飯をゆっくりと咀嚼し、輿水幸子は
「見てください、料理も完璧だなんて流石カワイイボクですね、食べてもいいんですよ?」
などと、自分の作ったお弁当を皆に見せびらかし、
二人のそんな様子を見ながら、白坂小梅はホットドッグを食べながら微笑んでいる。

「幸子ちゃん……輝子ちゃん……今度、映画……見に行こうよ……」
「いいね……マタンゴ2015……見に行こう」
「ホ、ホラー映画は駄目ですよ!映画館の人がボ、ボクのカワイさに夢中になって、映画どころじゃなくなっちゃいますから!」
「フフ、きのこは友だち……怖くない」
「うっ、ボクはカワイイ子ですから」

「映画じゃなくても……い、いいけど……でも……私たちで……何かしたいな」
「私たち……」
「ボク達……」
「うん……」
「いいですね!」

思い出が欲しい。
聖杯戦争はきっと辛いけれど、それでもここにいる他の二人は偽物かもしれないけれど、
それでも、友情は本物だから。

だから、辛いだけじゃなくて、楽しい思い出を残したい。


何一つ、残されていない。
だから、取り戻しに来たのだ。

『大井』を大いに驚かせたものは、自身に支給された高校の制服ではなく、自身の学年である。
流石に、高校一年生からやり直すことになるとは予想だにしていなかった。

だが、些細なことである。
大手を振って、高校に通えるというのはありがたい。
攻勢に打って出るにあたって、欲しいものは何よりも情報である。
ならば、それを収集するに相応しいのは人の集まる場所だ。
教育機関はそれに最適だ。

元の世界の艦娘に似た自分の友人を名乗る女子高生達と会話し、つまらない授業を受け、学食で昼食を食べる。
あまりにも平穏な世界。
きっと、北上さんが死なない世界。

聖杯を手に入れた暁には、この世界で北上さんと暮らすのも悪くはないのかもしれない。
そんなことを考えていると、声を掛けられた。

「すいません、隣良いですか?」
「どうぞ」
「どうも~いいってさ絵理ちゃん」
「ありがとうございます」

女子高生の二人組、見覚えはない。
友人なのだろうか、一人はまさしく美少女といった容姿をした少女で、もう一人はボブカットの全体的にふわふわとした少女だ。
しかし、大井にはどうでもよいことである。


『雪崎絵理』が『玲』に声を掛けられた理由は非常に些細なことであるため、どうでもよいことである。
重要なのは、そこから何となく一緒に昼食を食べようという話になったことだろう。
たまたま二人分席が空いていたテーブルに座り、絵理はラーメンを玲はドーナッツを、これが昼食なのかと疑われるほどの量を注文していた。

「そういえば絵理ちゃん?」
「なに?」
「『火吹き男』って知ってる?」

食事も一段落して、絵理はオレンジジュースを、玲は更に注文したホットスナックをぱくつきながら、昼休みが終わるまでとりとめのない雑談へと移行する。

「初めて聞いたかな」
「そーなんだ、もっと有名だと思ってたよ。
それで、火吹き男って言うのは街中をぴょんぴょん跳ねて、火を吹くおばけなんだってさ~」
「チェーンソーを持って?」
「いや、チェーンソーは持ってないけど」
「ごめん、何でもない」

どうやらチェーンソー男とはまた別に怪人が出る街らしい、あるいはその男こそが聖杯戦争に挑むサーヴァントなのだろうか。

「でもさ、スゴイことだよね。殺人が起こって、バネ足はぴょんぴょん跳ねて、それでもわたしたちはこの街で平穏無事に生きてる」
「きっと」
絵理は一気にオレンジジュースを飲み干して、言った。

「玲ちゃんが襲われると悲しい人が怪人と戦ってるんだよ」
「結構素敵な考え方だね」


「結構、素敵なシステムだね」
江ノ島盾子は外で遊ぶ小学生から、小学校の噂話を不審者として通報されないように聞き取った。
その結果、掴んだものはあまりにも陳腐な、嫌いな人間を呪い殺す儀式――『死神様』である。
猟奇殺人が起こってこの儀式が生まれたのか、この噂が先にあって猟奇殺人が起こったのかはわからないが良い手段である。
殺されたのは死神様で呪われたからだ、それが真実であろうと嘘であろうと、人の死というセンセーショナルな事実は噂を真実として拡散させる。
そして、一度成功したと扱われた儀式は、きっと二度目、三度目を誰かが行い――そして、誰かが言えばいい、アイツが死神様を行った。
それが真実であれ、嘘であれ、発生するのは正義の私刑、他愛のない勧善懲悪。
きっと、見えないところでこの小学校は絶望的に病んでいるだろう。

「じゃあ、アタシもちょっとやってみようかな。死神様」
『江ノ島盾子』の手にかかれば、小学校への侵入など容易い。
と言っても、こっそり忍び込んだだけのことであるが。校舎の裏、動物の墓は簡単に見つかった。
しかし、教師が見張っている。

「…………やはり、上手く行きませんね。人生は何時だって絶望的です。
面白く無いです、これじゃあ小学生も呪い殺したいときに呪い殺せないじゃないですか、悲しいですね……」
身体からイメージとしてのきのこを生やしながら、小学校への侵入が無駄に終わったことを知る。
「てことはぁ~小学生は深夜に学校に侵入してまで呪ってるのかな?うわぁ、絶望的に陰鬱!」
「教師が見張りを行うことで、その噂の真実性を補強し、教師のいない深夜にしか儀式を行わせないことで、より『死神様』は神秘性を帯びる、中々やりますね」
「……アタシ、かなり犯人に興味湧いてきた」


「やはり、あの娘に興味があって?」
「あっえっ……と……はい」
ある歌姫が切っ掛けとなって賑わっている西洋風の市民劇場。
もうとっくに時計の針は夜を指している。
チケット売り場で突然に係員に話しかけられた『中原岬』はどもりながらも何とか答えることが出来た。
別に歌に興味があったわけではない、しかし己のサーヴァントが引きこもってばかりいないで外出した方が良いと言うので、
なるべく同年代の人間が来なさそうな場所を選んだに過ぎない。
もっとも、その判断は誤りであった。
会場へと進む客の流れには少なくない数の少女の顔がある。
だが、今更引き返すこともできない。
覚悟を決めて、中原岬は観客席へと進む。

ステージ上の少女が、優雅に一礼。

そして、歌唱(クライ)歌唱(クライ)歌唱(クライ)

歌詞の意味など、一単語も理解できない。
それでも、中原岬は気がつくと涙を流していた。

自分が人生の中で取り零してきたものの一つは、この歌なのだと思った。


市民劇場の控室。
少女のための歌姫――『ララ』は鏡を覗きこむ。
そこに映るものは己の躰ではない、自分と同じく人形でありながら祖を違える者。肉体を持たぬ人形。究極の少女の器。
ルーラー『雪華綺晶』が映っている。

ぱち。 ぱち。 ぱち。 ぱち。

「素晴らしい歌でしたわ、ララ様」
「ありがとう……ルーラー」
「まぁ、ルーラーだなんて他人行儀な言い方はおよしになって。
私も貴方もお人形、結局は歌い、踊る快楽人形。生まれも育ちも違っても、お人形仲間ではありませんか。
ねぇ、ララ様。私、貴方と一緒に歌いたいわ、いいでしょう?」
「ええ、いいわ……お人形さん、何を歌いましょう?」

「女の子のための歌がいいわ」


「『フェイト・テスタロッサ』様……貴方が欲しいものは?」
「欲しいものは……母さんの、幸せ」
己のサーヴァントにも問われたものを、フェイト・テスタロッサは再び答える。
そう答えるたびに、胸をじくりと蝕むようなものがある。
それでも、構わない。
それこそが真実の望み。
フェイト・テスタロッサの祈り。
月明かりの下、窓ガラスに移ったルーラーはフェイトに上記の問いを投げかけた。
何故と問いかければ「マスターのメンタルチェック」と嘲笑を浮かべながら答える。
無意味と避けようとすれば、この質問に答えてくれれば、フェイト・テスタロッサにとって重要な情報を与える、と。
故に、フェイト・テスタロッサは答えた。
何故か湧いてくる悲しみに堪えながら、答えた。


「では、フェイト・テスタロッサ様……貴方に重要な報告がありますわ。
日が変わると同時に、貴方はルーラーの権限を用いて、マスター全員に狙われるように仕向けられます」
「…………え」

どういうこと、と聞き返す間もなく、ルーラは消えていた。
夜闇が、フェイトの体を侵食するかのように取り巻いていた。


夜はニートの味方だ。
太陽は有職者を照らすためにあるが、夜の闇は無職を包むためにある。
そんな、どうでもいいことを考えながら、自室にて『双葉杏』はPCを起動する。
聖杯戦争は最悪だが、この状況自体は悪いものではない。
働けば働くほどに死に近づくのだ、むしろ働かない方が正しいと、世界がニートを肯定している。
だから、何時か来る戦いのことをなるべく考えないように器用にやるしかないのだ。

そんなことを考えていながらネット対戦ゲームを行っていたら、自キャラが完全敗北したのでふて寝を決め込むことにした。
眠れない。

『諸星きらり』は今日も眠れなかった。

早々に結果が出るだなんてことは、全く思っていなかった。
それでも、月に手を伸ばしているかのようにまるで手がかりが掴めない。
あの学校で諸星きらりに刻み込まれた呪縛は、諸星きらりの劣等感を煽り立てる。
バーサーカーのために、何も出来ていない自分が嫌になる。
それでも、自分を奮い立たせる呪文のように心のなかで唱える。

「ハピハピ……するにぃ……」

アイドルであることすらも忘れてしまえば、自分の心は死んでしまうだろう。


初めての戦いは、もう自分の心のようなものは死んでしまったのだなぁ、と思う結果にしかならなかった。
相手は同じランサーのサーヴァントで、マスターはか弱い少女で、
マスターの方を狙わせたら、敵のランサーは防戦一方になって、あっさりと死んだ。
逃げる少女を見ても、特に何も思わなかった。

初めての戦いは、『シルクちゃん』にとって、そのような思い出す価値もないものだった。


結局、死神様が心に引っかかったままであったので、『江ノ島盾子』は小学校に忍びこむことにした。
時計は11時を指している、守衛はいるだろうが、少なくとも死神様とやらを試すのに邪魔は入らないだろう。

校舎を囲う壁を助走をつけて跳び越え、小学校内に侵入する。
校舎の裏、動物の墓を阻むものは何も無い。

死体を13個揃えて、死神様とやらを3回ぐらい呼んで願えばいいとのことなので、虫の死体を用意する。
本当は、大切に飼っていた猫をハンマーで潰した死体を捧げるのが一番良いのかもしれないが、それは面倒臭い。
現段階ではある手札で勝負するしかないのだ。

「死神様、死神様、死神様」
「誰も殺さなくていいから、アタシとお話しない?」

夜の静寂に包まれたまま、校舎の裏には何の変化も訪れない。
ただ、無関心そうに月光が動物の墓に降り注ぐのみ。
他愛もない陳腐な終わり、ありきたりなガセ。

「こんばんは」
「絶望的に……時間の無駄…………じゃない……みたいですね」

ではなかった。
江ノ島盾子の背後から、少女が現れる。
闇の中でもはっきりとわかる、白。
まるで、天使のような少女。

「死神様にごようですか?」
「うぷぷ……違うよ、僕が話したいのは君だよ」
「あ、自己紹介してないね。アタシ、江ノ島盾子。趣味と特技は絶望。最近は生徒会を殺しあわせて、愛する人間ぶっ殺しました。よろしくね」
「ご丁寧にどうも、『蜂屋あい』です」
「この時間帯だと誰かに補導されるし、明日の放課後にでもお話でもしましょうよ。てかLINEやってるw?」
「LINEはないですけど、ケータイはもってますよ」
「じゃあ、メアド交換しよっか」
「QRよみこみますね」
「はいはい、ところで……アンタ何人殺した?」
「……わたしはだれもころしてないですよ」
「ふーん……じゃあ、アンタのお友達の死神様は何人殺したの?」
「……死神様にねがっても、人がしなない…………だから、まちきれなくなって、あせって、ころしちゃう、こまった子って、けっこう多いんですよ」
「へー、もう手を下す必要すら無くなったんだ。スゴイね」


校舎の裏、天使のような笑みを浮かべて、絶望と悪魔が言葉で踊って、前夜祭の話は終わり。








私は運命(Fate)を否定する――と、彼女は言った。




――愛するものが死んだ時には、自殺しなけあなりません。

あの詩人の言葉が蘇る。
愛する娘が死んで、彼女は何度命を絶とうとしたことだろう。
それでも、保存液の中の死体はまるで眠っているかのようで、今にも目覚めそうで、だから、彼女は死ぬことが出来なかった。
娘が起きた時に、誰も待っていなければ――きっと、彼女は寂しがるだろうから。
蘇生のための研究に没頭する狂気の魔導士は、そうやって保存液の中の娘を見る時だけは母親の顔をしていた。

――愛するものが死んだ時には、それより他に、方法がない。

あるいは、自分の行為の果てに奇跡は訪れないのかもしれない。
如何に手を尽くそうとも、結局のところ娘は蘇らないのかもしれない。
それでも、どれほどの犠牲を払っても、例え世界を滅ぼしても、一つの世界で足りないのならば、平行世界の何千何百の可能性を積もうとも、
蘇生の可能性を施行し続けなければならない、娘の母親であろうとするのならば。

――けれどもそれでも、業〈ごう〉(?)が深くて、なほもながらふことともなつたら――

生者を救うための方便として、娘は天国に行ったのだという優しい嘘はある。
だとすれば、死んだ私は地獄に堕ちるのだろう。
太陽に手を伸ばすかのように、地に堕ちた私は娘のいる天に向けて手を伸ばすのだろう。
だから、絶対に死ねない。
私の死によって娘の蘇生の可能性が潰えることは許せない。
だというのに、この身は病に蝕まれ、もう先は長くない。

――奉仕の気持に、なることなんです。

本来ならば、生命蘇生の技術を研究するつもりだった。
だが、足りない。時間が圧倒的に足りていない。
だから、残された時間で、私は無垢なるものを蹂躙し、聖なるものを陵辱し、尊き物を破壊する。
聖杯とは――誰もが信じぬ幻想、だがしかし、その技術体系そのものは本物である。
だから、私はこの聖杯戦争を通し、少女聖杯と聖杯を完成させ――娘を。

『アリシア・テスタロッサ』を蘇生させる――と、『プレシア・テスタロッサ』は言った。


少女を殺すのは、常に大人だ。


「くすくすくすくす、ところでマスター?」

「平行世界の貴方の娘がこの会場にいると言ったらどうします?」


  • ルーラーからの伝達(この伝達は基本的には携帯かPCメール、両方を所持していない人間には、雪華綺晶の手によって文書の形で直接配達された。
              なお、以下の文章は実際に配達された文書の大意である)

  • 予選通過おめでとうございます、殺し合い頑張ってください。
  • 諸事情につき、マスターの一人であるフェイト・テスタロッサを捕獲することになりました。
別紙にて情報(姓名、顔写真)を提供いたしますので、協力していただける方は、フェイト・テスタロッサを生かして図書館まで連れてきて下さい。
  • フェイト・テスタロッサを引き渡していただいたマスターには令呪一画が報酬として与えられます。
(フェイト・テスタロッサを殺害してもルーラーからペナルティを与えることはしません)
  • 聖杯戦争用に掲示板を用意しました、ご自由にどうぞ【URL】
  • 予選通過の報酬として、五千円分の電子マネーを用意しました(直接配達されたものに関しては、QUOカードが同封されていた)

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最終更新:2015年05月07日 19:25