プロローグ  side: The outsider 



 少女は、立ち尽くした。
 まるで、周りの喧騒が耳に入っていないかのように。
 両足が、地に縫いとめられてしまったかのように。

 ただ、そこに立ち尽くしていた。

 2月23日。帝王国立大学附属高等学校の入試の合格発表がなされる日。
 高校の正門前には、どこにでもあるような安っぽい緑の掲示板が出されており、その真ん中に6ケタの数字が羅列された模造紙が貼られている。
 そういった一見なんでもないようなこの場で、毎年天国と地獄が展開される。
 呆然とたたずむ者、泣き崩れる者、喜色満面で躍り笑う者。
 そんなカオスの中、少女は手に一通のハガキを握り、掲示板を見つめていた。

 どれだけ長くそうしていただろう。
 くり返しくり返し、模造紙に印刷された数字の列を追っていたその両目が、みるみる涙に覆われた。同時に、固く閉ざされていた唇がふっと緩んで、もれ出た息が白く散っていった。


「・・・受かってるっ・・・!」


 ただ一言、そうもらして。

 彼女は泣いた。
 両手で握っていたハガキを胸に寄せて、ぎゅっと内側に縮こまるようにして。
 嗚咽がもれないよう、寒さで白く乾いた唇をかみしめて。
 歓喜のあまり、むせび泣いた。

 富士間つばさ、15歳の年が始まろうとしていた。


最終更新:2012年01月28日 02:07