「……パイ、先輩!!」
自分を呼ぶ声にラングは目を覚ました。
続いて辺りをゆっくりと見回す。
部屋の様子を見て、ここがどこだかはっきりと分かる。
棚には薬ビンが並び、高価そうな機材が並ぶこの部屋は、どこからどう見ても医務室だ。
医務室?
そこまで理解した瞬間一気に頭が覚醒した。同時に跳ね起きようとしたが、身体が動かない。
拘束されているわけではなく、ただ身体に力が入らない。もう一度跳ね起きようと身体に力を込めようとしたがやはり入らない。
だが、その動作は周りから見てもそれと分かるぐらい大きな動きだった。
「先輩!! 目が覚めたんですね!」
すっと、視界に黒い髪とどきりとするほど美しい顔が入ってきた。
「ミリ―……? 何で俺は、こんなところに寝てるんだ……?」
ラングがいるのは医務室の寝台の一つだ。手術台よりはましだが何故ここにいるか理解出来なかった。
「覚えてないんですか? 帰ってくるなり激しい頭痛に襲われて悶えてたんですよ?」
「悶えて……だめだ、思い出せない。その後は?」
「それは私が代わりに話そう」
ラングの問いに答えようとしたミリーの後ろから紳士的な声が聞こえてきた。
ラングは視線だけをそちらに向ける。ミリーも後ろを振り返り、声の主に軽くお辞儀をする。
そこにいたのは背だけではなく鼻まで高い白衣の男。
柔和な笑みを浮かべながら椅子に腰掛ける姿はお手本のように整っていた。
「よう、シャルル先生……」
男に対してラングが言う。
「おはよう、ラング。さっきの話の続きだが、あの時ひどい頭痛に襲われていた君を楽にする為に押さえつけて麻酔薬を打ち込んだのさ。身体はまだ動かせないだろ?」
男がそういうとラングは軽く肩をすくめた。つもりだったがわずかに肩が動いた程度だった。
その動きを見た男はやっぱりと言うように頷いた。
「無理はしないほうがいい。検査の結果、異常は見つからなかったけど、尋常じゃない頭痛があったことは事実なんだから。とりあえず麻酔が切れるまではおとなしくしてくれるかな?」
「言われなくても動けませんよ」
ラングは唇に笑みを浮かべながら言った。
「ところでなんでミリーがここに? まさか俺が心配で……」
「はぁ? どうしてそうなるんですか? みんなで交代で看病していて偶然私の番だっただけです」
ラングが確認を取るようにシャルルに顔を向けると彼は苦笑しながら首を縦に振った。
「確かに、私以外のクルーで順番に看病していましたよ。まぁ、ミリーさんは他の人の倍近い時間ここにいますがね」
「先生、なに言ってるんですか。他の人がみんな忙しいから仕方なくいるだけです。勘違いしないでください」
シャルルの言葉に冷水のように冷たい声が返ってくる。
このときラングからは見えなかったがミリーはシャルルを射殺さんと言うばかりに睨んでいた。
意味を要約するなら、それ以上何か喋ったらただじゃすいませんよ?、と言う無言の脅迫だ。
気の弱い男だったらその場に土下座をして許しを請うような鋭い眼光。それに射抜かれたシャルルはそのまま竦んでしまった。
これを真っ向から受けれるのは若い頃に柄の悪い連中を纏め上げていたノワとカルロ、既に慣れきったラングぐらいだ。
確かにシャルルもいくつかの修羅場を潜り抜けてきた男だが、相手にしてきたのは全員グラサン黒服の男だった為視線に射抜かれたことは今まで無かったのだ。
もっとも、頬が僅かに赤くなっていることに気付けばシャルルも笑って受け流せただろう。
しかしそんな余裕は無い。
冷や汗を流しながら「あはははは」と乾いた笑いを立てるだけで限界だった。
そんな二人の様子を訝しみながらラングは口を開いた。
「で、先生。特に身体に異常は無いんですね?」
その言葉にミリーがラングのほうに振り向き、やっとの事で殺人視線から解放されたシャルルが助かったとばかりに言った。
「あ、ああ。多少髭は伸びてるけどそれ以外は特に無いよ」
「なら麻酔が切れた後、"夢"へ入りたいのですが……」
途端、シャルルとミリーの表情が変わる。
シャルルはピンと張り詰めた表情を、ミリーはひどく心配そうな表情をそれぞれ浮かべた。
「確かに身体に問題はありませんが、だからと言ってすぐにあそこ、君の言う"夢"に行かなくても……」
「いえ、なるべく早く行かないといけないんです」
「でも!! あれは先輩の命を確実に蝕んでます!!」
ミリーが悲痛な声を上げる。その言葉も声も、本当にラングを心配しているが読み取れる。
もちろん、ミリーだけではない。シャルルも同様だ。
「ミリーの言うとおりです。あそこで何が起きているかは知りません。ですがあそこに言った後の君の状態は目を覆いたくなるほどだ。医者としても、仲間としても、君に"夢"に行って欲しくない」
「そうです!!何もあんなことしなくても」「やらなければいけない」
一瞬、ラングの声が覇気を込められたように強く硬くなった。
それだけでシャルルとミリーは喋れなくなる。
「なぜなら俺がそうしようと、自分で決めたからな。それを曲げるのは俺自身が許さない。許したくない。だからやらなければならない。悪いけど、こればっかりは曲げられない。俺の我が儘だってのは分かってはいるがな……」
シャルルもミリーも何も言わなかった。何も、言えなかった。
彼の、ラングの気持ちが分かってしまう、その言葉の決意を感じ取ってしまった、仲間ゆえの沈黙。
ラングは黙ってしまった二人に対し心の中で感謝と謝罪をした。
ラング自身も、"夢"にはいることの危険性は良く知っている。その危険を冒させまいとする仲間の気持ちは素直に嬉しいと思う。
だがそれをやめる訳にはいけない。自分の誇りと、使命の為にも。
だからラングは感謝と謝罪をした。自分の身を心配してくれた感謝とそれを踏みにじることへの謝罪。
そしてそれを、二人はラングの目を見て悟ってしまった。
だから、もう止めることは無かった。
「無理は、しないと約束してください。先輩」
ミリーが絞り出す様に言った。
それにラングは小さく頷いた。
「分かった。約束する……さてと、じゃあ麻酔が切れるまで一眠りしますか」
そういってラングはさっさと目を閉じて眠ってしまった。
ミリーはラングが眠ったのを確認すると、シャルルに一礼して医務室を出て行った。
残されたシャルルも、暗くなった気分を紛らわす為に薬ビンを一つ一つ磨き始めた。
自分を呼ぶ声にラングは目を覚ました。
続いて辺りをゆっくりと見回す。
部屋の様子を見て、ここがどこだかはっきりと分かる。
棚には薬ビンが並び、高価そうな機材が並ぶこの部屋は、どこからどう見ても医務室だ。
医務室?
そこまで理解した瞬間一気に頭が覚醒した。同時に跳ね起きようとしたが、身体が動かない。
拘束されているわけではなく、ただ身体に力が入らない。もう一度跳ね起きようと身体に力を込めようとしたがやはり入らない。
だが、その動作は周りから見てもそれと分かるぐらい大きな動きだった。
「先輩!! 目が覚めたんですね!」
すっと、視界に黒い髪とどきりとするほど美しい顔が入ってきた。
「ミリ―……? 何で俺は、こんなところに寝てるんだ……?」
ラングがいるのは医務室の寝台の一つだ。手術台よりはましだが何故ここにいるか理解出来なかった。
「覚えてないんですか? 帰ってくるなり激しい頭痛に襲われて悶えてたんですよ?」
「悶えて……だめだ、思い出せない。その後は?」
「それは私が代わりに話そう」
ラングの問いに答えようとしたミリーの後ろから紳士的な声が聞こえてきた。
ラングは視線だけをそちらに向ける。ミリーも後ろを振り返り、声の主に軽くお辞儀をする。
そこにいたのは背だけではなく鼻まで高い白衣の男。
柔和な笑みを浮かべながら椅子に腰掛ける姿はお手本のように整っていた。
「よう、シャルル先生……」
男に対してラングが言う。
「おはよう、ラング。さっきの話の続きだが、あの時ひどい頭痛に襲われていた君を楽にする為に押さえつけて麻酔薬を打ち込んだのさ。身体はまだ動かせないだろ?」
男がそういうとラングは軽く肩をすくめた。つもりだったがわずかに肩が動いた程度だった。
その動きを見た男はやっぱりと言うように頷いた。
「無理はしないほうがいい。検査の結果、異常は見つからなかったけど、尋常じゃない頭痛があったことは事実なんだから。とりあえず麻酔が切れるまではおとなしくしてくれるかな?」
「言われなくても動けませんよ」
ラングは唇に笑みを浮かべながら言った。
「ところでなんでミリーがここに? まさか俺が心配で……」
「はぁ? どうしてそうなるんですか? みんなで交代で看病していて偶然私の番だっただけです」
ラングが確認を取るようにシャルルに顔を向けると彼は苦笑しながら首を縦に振った。
「確かに、私以外のクルーで順番に看病していましたよ。まぁ、ミリーさんは他の人の倍近い時間ここにいますがね」
「先生、なに言ってるんですか。他の人がみんな忙しいから仕方なくいるだけです。勘違いしないでください」
シャルルの言葉に冷水のように冷たい声が返ってくる。
このときラングからは見えなかったがミリーはシャルルを射殺さんと言うばかりに睨んでいた。
意味を要約するなら、それ以上何か喋ったらただじゃすいませんよ?、と言う無言の脅迫だ。
気の弱い男だったらその場に土下座をして許しを請うような鋭い眼光。それに射抜かれたシャルルはそのまま竦んでしまった。
これを真っ向から受けれるのは若い頃に柄の悪い連中を纏め上げていたノワとカルロ、既に慣れきったラングぐらいだ。
確かにシャルルもいくつかの修羅場を潜り抜けてきた男だが、相手にしてきたのは全員グラサン黒服の男だった為視線に射抜かれたことは今まで無かったのだ。
もっとも、頬が僅かに赤くなっていることに気付けばシャルルも笑って受け流せただろう。
しかしそんな余裕は無い。
冷や汗を流しながら「あはははは」と乾いた笑いを立てるだけで限界だった。
そんな二人の様子を訝しみながらラングは口を開いた。
「で、先生。特に身体に異常は無いんですね?」
その言葉にミリーがラングのほうに振り向き、やっとの事で殺人視線から解放されたシャルルが助かったとばかりに言った。
「あ、ああ。多少髭は伸びてるけどそれ以外は特に無いよ」
「なら麻酔が切れた後、"夢"へ入りたいのですが……」
途端、シャルルとミリーの表情が変わる。
シャルルはピンと張り詰めた表情を、ミリーはひどく心配そうな表情をそれぞれ浮かべた。
「確かに身体に問題はありませんが、だからと言ってすぐにあそこ、君の言う"夢"に行かなくても……」
「いえ、なるべく早く行かないといけないんです」
「でも!! あれは先輩の命を確実に蝕んでます!!」
ミリーが悲痛な声を上げる。その言葉も声も、本当にラングを心配しているが読み取れる。
もちろん、ミリーだけではない。シャルルも同様だ。
「ミリーの言うとおりです。あそこで何が起きているかは知りません。ですがあそこに言った後の君の状態は目を覆いたくなるほどだ。医者としても、仲間としても、君に"夢"に行って欲しくない」
「そうです!!何もあんなことしなくても」「やらなければいけない」
一瞬、ラングの声が覇気を込められたように強く硬くなった。
それだけでシャルルとミリーは喋れなくなる。
「なぜなら俺がそうしようと、自分で決めたからな。それを曲げるのは俺自身が許さない。許したくない。だからやらなければならない。悪いけど、こればっかりは曲げられない。俺の我が儘だってのは分かってはいるがな……」
シャルルもミリーも何も言わなかった。何も、言えなかった。
彼の、ラングの気持ちが分かってしまう、その言葉の決意を感じ取ってしまった、仲間ゆえの沈黙。
ラングは黙ってしまった二人に対し心の中で感謝と謝罪をした。
ラング自身も、"夢"にはいることの危険性は良く知っている。その危険を冒させまいとする仲間の気持ちは素直に嬉しいと思う。
だがそれをやめる訳にはいけない。自分の誇りと、使命の為にも。
だからラングは感謝と謝罪をした。自分の身を心配してくれた感謝とそれを踏みにじることへの謝罪。
そしてそれを、二人はラングの目を見て悟ってしまった。
だから、もう止めることは無かった。
「無理は、しないと約束してください。先輩」
ミリーが絞り出す様に言った。
それにラングは小さく頷いた。
「分かった。約束する……さてと、じゃあ麻酔が切れるまで一眠りしますか」
そういってラングはさっさと目を閉じて眠ってしまった。
ミリーはラングが眠ったのを確認すると、シャルルに一礼して医務室を出て行った。
残されたシャルルも、暗くなった気分を紛らわす為に薬ビンを一つ一つ磨き始めた。
ちなみにこの二人はクルーの中でも心配性で、ミリーがラングのことをカルロとノワに話すと、
「ん、いいんじゃない別に」
「あいつがそうしたいならそうすればいいさ。それがあいつにとってのベター何だろうし」
という、特に心配も何もしないコメントが帰ってきた。
「二人は先輩のことが心配じゃないんですか!?」
と、ミリーが問えば、
「ん~、あいつだし、大丈夫だろ。何気に悪運強いし、限度も知ってるしな」
「確かにね。無理や無茶は平気でやっても無謀は決してやらないのがラングだからねぇ」
といった返答が帰ってくる。
この二人はクルーの中でも2番目にラングとの付き合いが長い為、多少のことでは心配したりしない。
逆にクルーの中でも最もラングとの付き合いの浅い(と言っても4年近くになるが)シャルルとミリーはちょっとの事でもかなり気にかける。
ここは信頼の差と言うよりも慣れの差だ。
何はともあれラングが"夢"に入ることはクルー全体(ラングを入れて7人)に伝わった。
「ん、いいんじゃない別に」
「あいつがそうしたいならそうすればいいさ。それがあいつにとってのベター何だろうし」
という、特に心配も何もしないコメントが帰ってきた。
「二人は先輩のことが心配じゃないんですか!?」
と、ミリーが問えば、
「ん~、あいつだし、大丈夫だろ。何気に悪運強いし、限度も知ってるしな」
「確かにね。無理や無茶は平気でやっても無謀は決してやらないのがラングだからねぇ」
といった返答が帰ってくる。
この二人はクルーの中でも2番目にラングとの付き合いが長い為、多少のことでは心配したりしない。
逆にクルーの中でも最もラングとの付き合いの浅い(と言っても4年近くになるが)シャルルとミリーはちょっとの事でもかなり気にかける。
ここは信頼の差と言うよりも慣れの差だ。
何はともあれラングが"夢"に入ることはクルー全体(ラングを入れて7人)に伝わった。
"夢"と言っても人々が眠っている間に見る夢ではない。
では何かと聞かれてもラング以外のクルーはさっぱり答えられないだろう。
"夢"に入る際はアスルファイサの中心部にある部屋に入る。
そこに入るのはラングだけで、彼は決して他人を入れようとしない。
というのも他人がいると"夢"には入れないからだ。
これはラングの"夢"の秘密を解こうとカルロが部屋の天井に張り付いていた際にラングが"夢"に入れなかったことから証明されている。
ちなみにその際ラングがカルロに厳しく説教をしたことは有名だ。
時間にして約15時間ずっと正座。最後のほうは酔っ払いの話の様にループしていた。
この説教がよほどこたえたらしく以後誰も"夢"の部屋に関わろうとはしなくなった。
そんな事もあり、"夢"が何かは誰も知らない。
そのためこの"夢"と中心部の部屋はアスルファイサ七不思議に入っているのだ。ちなみにアスルファイサには七つも不思議は無い。
では何かと聞かれてもラング以外のクルーはさっぱり答えられないだろう。
"夢"に入る際はアスルファイサの中心部にある部屋に入る。
そこに入るのはラングだけで、彼は決して他人を入れようとしない。
というのも他人がいると"夢"には入れないからだ。
これはラングの"夢"の秘密を解こうとカルロが部屋の天井に張り付いていた際にラングが"夢"に入れなかったことから証明されている。
ちなみにその際ラングがカルロに厳しく説教をしたことは有名だ。
時間にして約15時間ずっと正座。最後のほうは酔っ払いの話の様にループしていた。
この説教がよほどこたえたらしく以後誰も"夢"の部屋に関わろうとはしなくなった。
そんな事もあり、"夢"が何かは誰も知らない。
そのためこの"夢"と中心部の部屋はアスルファイサ七不思議に入っているのだ。ちなみにアスルファイサには七つも不思議は無い。
「さ、て、と。じゃあ行ってくるから。エンジンのほうよろしく」
そういうとラングは中心部の部屋に入っていった。
それと同時にドアが閉まる。ここのドアはほかと違い非常に手間のかかるしまり方をする。
まず左右にドアが閉まり、次に上下からシャッターのような扉が降りて来て、扉に数重にロックをかけ、更にその外側にドアが閉まる。
この物々しい扉はラングいわく部屋の内側で起きている現象を外に出させない為のものらしい。
この扉の存在がこの部屋を更に神秘的にしている物の一つである。
そういうとラングは中心部の部屋に入っていった。
それと同時にドアが閉まる。ここのドアはほかと違い非常に手間のかかるしまり方をする。
まず左右にドアが閉まり、次に上下からシャッターのような扉が降りて来て、扉に数重にロックをかけ、更にその外側にドアが閉まる。
この物々しい扉はラングいわく部屋の内側で起きている現象を外に出させない為のものらしい。
この扉の存在がこの部屋を更に神秘的にしている物の一つである。
「よし、ラングが部屋に入った。アル、頼んだ」
ラングを見送ったノワからの報告を受け、カルロが右斜め前に座る烏色の髪の少年に言った。
「はい、エンジンと部屋のエネルギーラインを接合、5カウント後にラインを開くよ。5、4、3、2、1、開!!」
ラングを見送ったノワからの報告を受け、カルロが右斜め前に座る烏色の髪の少年に言った。
「はい、エンジンと部屋のエネルギーラインを接合、5カウント後にラインを開くよ。5、4、3、2、1、開!!」
「ん、開いたな」
部屋の中央に立っていたラングが短い機械音を耳にした。この部屋とエンジンのエネルギーラインが接合され、開かれたのだ。
今のラングはパイロットスーツ姿になっている。ヘルメットも着用し、気密までやっている。このまま宇宙に放り出されても死なないだろう。
ラングはヘルメットの気密をもう一度確認し、他の部分の気密もチェックする。
「さて、そろそろ来るかな」
そう言った途端、四方の壁にあいた穴から淡い青の光が吹き出してきた。光は吹き出す同時にバラバラになり、細かい粒のようになり、空間を浮遊する。どんどんと光の粒はその密度を増していき、淡い青が徐々に深くなっていく。
やがて部屋が青い光、細かな粒子に埋め尽くされ、辺りは透き通った海に様変わりした。
そんな中で、ラングはヘルメットの気密を解いた。だが青い粒子はヘルメットの中には入ってこない。
ラングはヘルメットに手を掛けると、ぐっと歯を食いしばり一気に脱ぎ捨てた。
部屋の中央に立っていたラングが短い機械音を耳にした。この部屋とエンジンのエネルギーラインが接合され、開かれたのだ。
今のラングはパイロットスーツ姿になっている。ヘルメットも着用し、気密までやっている。このまま宇宙に放り出されても死なないだろう。
ラングはヘルメットの気密をもう一度確認し、他の部分の気密もチェックする。
「さて、そろそろ来るかな」
そう言った途端、四方の壁にあいた穴から淡い青の光が吹き出してきた。光は吹き出す同時にバラバラになり、細かい粒のようになり、空間を浮遊する。どんどんと光の粒はその密度を増していき、淡い青が徐々に深くなっていく。
やがて部屋が青い光、細かな粒子に埋め尽くされ、辺りは透き通った海に様変わりした。
そんな中で、ラングはヘルメットの気密を解いた。だが青い粒子はヘルメットの中には入ってこない。
ラングはヘルメットに手を掛けると、ぐっと歯を食いしばり一気に脱ぎ捨てた。
青い粒子に包まれた瞬間、ラングの身体は激しい痛みに襲われた。
身を切り裂くような冷たさ、焼き焦がすような熱さ、神経を引き千切るように流れる電流、殴られたような鈍い痛み、貫かれたような鋭い痛み、様々な痛みがラングを襲う。
あまりの痛みに声も出ない中、ラングは飛ばされそうな意識を必死に繋ぎ止める。
同時に、一つの単語を頭に思い浮かべ続ける。
"ガンダム"
やがて痛みは引き始めたが、今度はいくつもの光景が頭の中へと流れ込んできた。
身を切り裂くような冷たさ、焼き焦がすような熱さ、神経を引き千切るように流れる電流、殴られたような鈍い痛み、貫かれたような鋭い痛み、様々な痛みがラングを襲う。
あまりの痛みに声も出ない中、ラングは飛ばされそうな意識を必死に繋ぎ止める。
同時に、一つの単語を頭に思い浮かべ続ける。
"ガンダム"
やがて痛みは引き始めたが、今度はいくつもの光景が頭の中へと流れ込んできた。
それは、夢を見ているような感覚だった。
(いよいよ見つかったようで)
控え室のような部屋で、火星コロニー軍の軍服を来た男と神官のようないでたちの男が何か話している。
(うむ。この世界を裁く時が来たのだ、福音とでも言うべきか)
その光景はまるで水彩画のように輪郭がぼやけていた。
(では、使うのですね? マルスを…)
(マルスの力は我々の為に使用されるべきだ。来るべき新世界に向けて、な)
そこで光景は一瞬のうちに滲むように消え、また別の光景が映し出される。
(いよいよ見つかったようで)
控え室のような部屋で、火星コロニー軍の軍服を来た男と神官のようないでたちの男が何か話している。
(うむ。この世界を裁く時が来たのだ、福音とでも言うべきか)
その光景はまるで水彩画のように輪郭がぼやけていた。
(では、使うのですね? マルスを…)
(マルスの力は我々の為に使用されるべきだ。来るべき新世界に向けて、な)
そこで光景は一瞬のうちに滲むように消え、また別の光景が映し出される。
今度は廃工場のようだ。その中で二人の男女……いや、男だ。
女と見間違えるような男性がもう一人の男を説得しようとしている。
(君は、今のままの境遇で本当にいいの!軍を抜けて、こんな辺境で夢も希望もない人生を続けるの! ここは空気も悪いし、人間だってみんな性根が薄汚い。こんな、食べるために生きるのか生きるために食べるのか定まらないところにいれば、いつかきっと、デイヴは駄目になる!)
(もう充分駄目人間さ)
ラングは男達に見覚えがあったがここも先ほどのように輪郭がぼやけていてはっきりとは分からなかった。
(だったら、これから立ち直ろうよ!飲酒と放蕩と伊達気取りなんてすっぱり止めて、
もっと、地に足付けて将来を考えることにしよう!)
(今の時代、地球は立ち入り禁止だぜ)
(だから、火星に行こうと言ってるんだよ! 火星には大地があるし、安定した職だってある! 調査団が解散した後のポストは僕が用意するし、君の借金だって、僕が立て替えるから、昔みたいに、僕と一緒にがんばろうよ!)
そこで再び違う場面に切り替わった。
女と見間違えるような男性がもう一人の男を説得しようとしている。
(君は、今のままの境遇で本当にいいの!軍を抜けて、こんな辺境で夢も希望もない人生を続けるの! ここは空気も悪いし、人間だってみんな性根が薄汚い。こんな、食べるために生きるのか生きるために食べるのか定まらないところにいれば、いつかきっと、デイヴは駄目になる!)
(もう充分駄目人間さ)
ラングは男達に見覚えがあったがここも先ほどのように輪郭がぼやけていてはっきりとは分からなかった。
(だったら、これから立ち直ろうよ!飲酒と放蕩と伊達気取りなんてすっぱり止めて、
もっと、地に足付けて将来を考えることにしよう!)
(今の時代、地球は立ち入り禁止だぜ)
(だから、火星に行こうと言ってるんだよ! 火星には大地があるし、安定した職だってある! 調査団が解散した後のポストは僕が用意するし、君の借金だって、僕が立て替えるから、昔みたいに、僕と一緒にがんばろうよ!)
そこで再び違う場面に切り替わった。
浮かび上がった風景はラングの良く知るもの、火星の表面だった。
そこに、調査用の小型宇宙艇から降り立った調査隊の隊員たちがいた。
(…………これが、火星の空気)
長い赤髪を束ねた女性がヘルメットを外し、火星の大気に触れる。
(第一号は取られてしまったな)
(すみませんマグドガル隊長)
後ろから声をかけられ、女性は振り返る。
(いや、第一号は動物実験で放たれたマウス達か。私はコロニー育ちだが、やはり星は違うな)
そういって声をかけた男はヘルメットを脱ぐ。ぼやけてよく見えないがシャルルと同じ程度の年に見える。
(火星の大気も人工的に創られたものだというのにな)
(そうですね。やはりそれは、火星も生きているということなんじゃないでしょうか)
その言葉に思わずラングは微笑んでしまった。同時に、三度光景が変わる。
そこに、調査用の小型宇宙艇から降り立った調査隊の隊員たちがいた。
(…………これが、火星の空気)
長い赤髪を束ねた女性がヘルメットを外し、火星の大気に触れる。
(第一号は取られてしまったな)
(すみませんマグドガル隊長)
後ろから声をかけられ、女性は振り返る。
(いや、第一号は動物実験で放たれたマウス達か。私はコロニー育ちだが、やはり星は違うな)
そういって声をかけた男はヘルメットを脱ぐ。ぼやけてよく見えないがシャルルと同じ程度の年に見える。
(火星の大気も人工的に創られたものだというのにな)
(そうですね。やはりそれは、火星も生きているということなんじゃないでしょうか)
その言葉に思わずラングは微笑んでしまった。同時に、三度光景が変わる。
映し出されたのはまたあの女性だ。しかしそこは……。
「第四小格納庫、確かここには……!!」
映し出された光景に思わずラングは声を出す。そこは見られるはずの無い光景だったからだ。
(これは……!!)
女性が何かを見つける。ラングにはそれが何か分かっていた。
片膝を付き、主の前で一礼する騎士。巨大な人型の機械、MS……。
(貴方は誰? どこから来たの?)
女性は恐る恐るそれに近づいていく。
ラングはぐっと意識を光景に集中させた。ぼやけていた輪郭が徐々にハッキリしてくる。
(これは、地球の、ものなの?)
MSの胸部に刻まれたアルファベットの羅列、それを見て女性が言った。
ところどころ掠れているが、ラングには正確に読むことができた。
「DOLLDA、ドルダ……じゃあ、この女性が……」
そこまで言ったところで更に光景が入れ替わる。
「第四小格納庫、確かここには……!!」
映し出された光景に思わずラングは声を出す。そこは見られるはずの無い光景だったからだ。
(これは……!!)
女性が何かを見つける。ラングにはそれが何か分かっていた。
片膝を付き、主の前で一礼する騎士。巨大な人型の機械、MS……。
(貴方は誰? どこから来たの?)
女性は恐る恐るそれに近づいていく。
ラングはぐっと意識を光景に集中させた。ぼやけていた輪郭が徐々にハッキリしてくる。
(これは、地球の、ものなの?)
MSの胸部に刻まれたアルファベットの羅列、それを見て女性が言った。
ところどころ掠れているが、ラングには正確に読むことができた。
「DOLLDA、ドルダ……じゃあ、この女性が……」
そこまで言ったところで更に光景が入れ替わる。
今度は赤い機体が映し出された。まるで憤怒の化身のような赤い装甲。
そしてその形状は……
「ガンダム? いや、しかしこんな機体は火星に……ティモール氏か……)
ラングが思い当たったのは以前共に仕事をしたことがある変わり者の科学者。
彼は火星に関する文献、特に伝説の機体ガンダムに心奪われていた。
あの彼なら作りかねない。ティモール博士の才能を知っているラングはそう思った。
もう一人造りそうな人物がいるがこちらが作るなら必ずラングに連絡が来るので、候補から外している。
そうこう考えているうちにいつの間にか場面が変わり、何かのコックピットが映し出されていた。
(ガンダムマルス…アレス・ルナーク、出る!!)
声が聞こえた。少年の声だ。しかし当の本人の姿が見えない。
だが冷たいまでに狂おしい感情が伝わってきた。
”救う”
あの時助けれなかったものを、最も大切なものを、必ず救い出す。
自分が必ず、彼女を助け出す!!
その思いが伝わってくると同時に赤い閃光が宇宙を駆けるのを見た。
そしてその形状は……
「ガンダム? いや、しかしこんな機体は火星に……ティモール氏か……)
ラングが思い当たったのは以前共に仕事をしたことがある変わり者の科学者。
彼は火星に関する文献、特に伝説の機体ガンダムに心奪われていた。
あの彼なら作りかねない。ティモール博士の才能を知っているラングはそう思った。
もう一人造りそうな人物がいるがこちらが作るなら必ずラングに連絡が来るので、候補から外している。
そうこう考えているうちにいつの間にか場面が変わり、何かのコックピットが映し出されていた。
(ガンダムマルス…アレス・ルナーク、出る!!)
声が聞こえた。少年の声だ。しかし当の本人の姿が見えない。
だが冷たいまでに狂おしい感情が伝わってきた。
”救う”
あの時助けれなかったものを、最も大切なものを、必ず救い出す。
自分が必ず、彼女を助け出す!!
その思いが伝わってくると同時に赤い閃光が宇宙を駆けるのを見た。
再び違う光景が映し出される。
また先ほどの格納庫だ。だが天井が崩れたのか、瓦礫があたりに散乱していた。
先ほどの女性は床とMSとの間にて無事だった。
起き上がった女性は横に倒れた機体の胸部が開かれていることに気付いた。
女性はゆっくりと機体に近づいていき、開かれたコックピットを覗き見た。
(えっ……!?)
コックピットの中には少女がいた。
年は15か16歳ほどの女の子だ。気絶しているのか、身動きをとらない。
女性は女の子が生きているのを確認すると近寄って揺すった。
すると少女は、ゆっくりと瞼を開いた。
(…………あなた、だれ?)
虚ろな表情でそう問われた女性は、柔らかい口調で言った。
(私はクラン。クラン・リザレクター・ナギサカ)
そこで再び、光景が途切れる。
また先ほどの格納庫だ。だが天井が崩れたのか、瓦礫があたりに散乱していた。
先ほどの女性は床とMSとの間にて無事だった。
起き上がった女性は横に倒れた機体の胸部が開かれていることに気付いた。
女性はゆっくりと機体に近づいていき、開かれたコックピットを覗き見た。
(えっ……!?)
コックピットの中には少女がいた。
年は15か16歳ほどの女の子だ。気絶しているのか、身動きをとらない。
女性は女の子が生きているのを確認すると近寄って揺すった。
すると少女は、ゆっくりと瞼を開いた。
(…………あなた、だれ?)
虚ろな表情でそう問われた女性は、柔らかい口調で言った。
(私はクラン。クラン・リザレクター・ナギサカ)
そこで再び、光景が途切れる。
青い粒子で埋め尽くされた部屋でラングは立ったまま目を閉じていた。
さほど長くない真紅の髪が、風でもあるかのようにふわふわと揺れていた。
さほど長くない真紅の髪が、風でもあるかのようにふわふわと揺れていた。
映し出された光景は戦闘風景だった。
先ほど自分達を襲った赤いMSとグワッジ、ムウシコスが戦っている。
なかなかいい連携を見せるグワッジとムウシコス。
一機の赤いMSを撃破した後、退却するもう一機を追おうとしたが、そうは行かなかった。
ムウシコスのビームキャノンがビームに貫かれる。
その発射元には、先ほどのガンダム、マルスの姿があった。
マルスの前に圧倒される2機、必殺の一撃を辛うじてよけるが、二機とももう戦えるような状態ではなかった。
止めを刺そうと、ビームサーベルとビームガンブレードを構えたまま、マルスは動きを止めた。
辺りは静寂に満ちていた。もともと真空の宇宙では音は伝わらないのだが。
その静寂を切り裂くように、一閃のビームキャノンがマルスを狙って撃たれる。
間一髪でそれを避けたマルスがキャノンが撃たれた方向に振り返ると、そこには目覚めてしまった鬼神、ガンダムドルダがいた。
先ほど自分達を襲った赤いMSとグワッジ、ムウシコスが戦っている。
なかなかいい連携を見せるグワッジとムウシコス。
一機の赤いMSを撃破した後、退却するもう一機を追おうとしたが、そうは行かなかった。
ムウシコスのビームキャノンがビームに貫かれる。
その発射元には、先ほどのガンダム、マルスの姿があった。
マルスの前に圧倒される2機、必殺の一撃を辛うじてよけるが、二機とももう戦えるような状態ではなかった。
止めを刺そうと、ビームサーベルとビームガンブレードを構えたまま、マルスは動きを止めた。
辺りは静寂に満ちていた。もともと真空の宇宙では音は伝わらないのだが。
その静寂を切り裂くように、一閃のビームキャノンがマルスを狙って撃たれる。
間一髪でそれを避けたマルスがキャノンが撃たれた方向に振り返ると、そこには目覚めてしまった鬼神、ガンダムドルダがいた。
ドルダに向かって他の四機のローズがビームライフルを放つ。
同時にビームサーベルを抜き、ドルダに接近する。
だが、ドルダはそのミノムシの様な装甲をパージし、ビームジェネレーターからビームシールドを展開しそれを防ぎ、同時に手にした二丁のバスターライフルで向かってきたローズをすべて消失させた。
「Doll-daシステム……ドルダの本当の力か……」
まるでその宙域だけ時間が停止したような静寂に包まれる。
そんな中、マルスだけが止まった時間の中で動き続けていた。
二刀流の構えを取り、ドルダと対峙する。
そして、一瞬の間を持って、マルスはドルダに斬りかかった。
同時にビームサーベルを抜き、ドルダに接近する。
だが、ドルダはそのミノムシの様な装甲をパージし、ビームジェネレーターからビームシールドを展開しそれを防ぎ、同時に手にした二丁のバスターライフルで向かってきたローズをすべて消失させた。
「Doll-daシステム……ドルダの本当の力か……」
まるでその宙域だけ時間が停止したような静寂に包まれる。
そんな中、マルスだけが止まった時間の中で動き続けていた。
二刀流の構えを取り、ドルダと対峙する。
そして、一瞬の間を持って、マルスはドルダに斬りかかった。
再び光景が切り替わる。どうやら全部は見せてもらえないようだ。
(慣れていてもこうコロコロ光景が変わると疲れ……)
そこで、突然ラングは口を閉じる。目をゆっくりと細め、強く鋭く目の前の光景を睨む。
いや、睨んだのは光景ではなくそれに移る機体だった。
(慣れていてもこうコロコロ光景が変わると疲れ……)
そこで、突然ラングは口を閉じる。目をゆっくりと細め、強く鋭く目の前の光景を睨む。
いや、睨んだのは光景ではなくそれに移る機体だった。
映し出されたのは、白き舞姫だった。
to be continue