122 名前:ヒクサー・フェルミの冒険 :2010/10/31(日) 00:36:42 ID:???
 駅前の雑居ビルの一室を間借りしたオフィスに、オレ達はいた。
 四角四面なフォントで≪ラジエル探偵事務所≫と書かれたアルミ製の看板が、
その狭っ苦しい弁当箱のようなオフィスにいる二人がどうやら探偵であるらしいと
示している。
 このオレ、ヒクサー・フェルミは、ベージュのソファカバーがかけられた
二人掛けのソファに寝転んで、退屈な午後が行きすぎるのを待っていた。
 広げている文庫本はレイモンド・チャンドラーの「長いお別れ」だ。
 組織の支援の下、手の込んだ探偵ごっこをすることになったオレの相棒が
手慰みに買ってきたものだ。旧世紀の文学は面白い。何度も読んだが飽きることがない。
 20ページほど読んだところで、半身を起して郊外のインテリアショップで買ってきた
安物のコーヒーカップを手に取る。温くなったコーヒーを一口すすって、
いやに強い酸味に顔をしかめた。

「おい、グラーベちゃん。この銘柄の豆はダメだって言ったろ?」
「スーパーにキミのリクエストの銘柄がなかったからな」

 苦情を言ってやると、オレの相棒は面倒くさそうに言った。デスクの前で広げた
新聞から目を離そうともしない。大した記事もないだろうに、ずいぶん御執心だ。
それとも、探偵は社会のニュースに気を配らなければならない、と職業意識に燃えているのか。
 数少ない、いや、ひょっとしたら唯一かもしれない親友に対してもっと愛想よくしても
罰は当たらないと思うのだが、それも彼らしいと言えば彼らしい。オレ達の探偵ごっこの
『切れ者の相棒』役であるグラーベ・ヴィオレントは、サングラス越しの視線を
新聞記事に注ぎ続けている。
 オレは意を決して一息にコーヒーを飲みほした。一気に飲もうがちびちび飲もうが
不味いことに違いはない。コーヒーはすっかり冷めていた。

「そういえばさ、グラーベちゃん。この前、おかしな依頼があってね」
「キミが単独で調べていた案件か」
「そ。この間、スタイル抜群の可愛い女の子が来てさ、
 『好きな男がいるのだけれど、そいつは私に全然振り向いてくれない。
  ひょっとしたら何か妙な性癖を持ってるかも知れない。調べてくれ』
 ……って頼んできて」

123 名前:ヒクサー・フェルミの冒険 :2010/10/31(日) 00:37:53 ID:???
 グラーベちゃんの顔には、そんなこと自分で調べればいいだろうに、と書いてあった。
 実を言うとオレもそう思う。だが探偵に頼むような案件は極めてデリケートだ。
自分で調べるのもはばかられるがどうしても知りたいのでプロに頼む、ということさ。
かといって、アホらしいという素直な感情は覆しようがないが。

「下手をすればストーカーだが、キミはそのストーカー行為の片棒を担いだわけか」
「美人の頼みは断らない主義でね。で、ここからが本番さ。
 その依頼を受けてその子が帰ってからすぐ、また別の子が似たような依頼を持ってきて、
 その日は朝から晩までその繰り返し。気付けば5件も素行調査を頼まれちゃって。
 流石のオレも、何が悲しくって野郎ばかり5人も調査しなくちゃいけないんだか」
「そういう話は私もたまに耳にする。シンクロニシティというものかも知れないな」
「不思議なこともあるもんだよねぇ」

 いつの間にか、グラーベちゃんの視線は新聞記事からオレへと移っていた。
 結局のところ、オレも彼も退屈しているのだ。近頃はヴェーダからのミッションも
少なくなってきて、日がな一日流行らない探偵の真似事をしている日の方が多くなった。
なんだってヴェーダはオレ達に探偵ごっこなんてやらせているんだか。オレに任せて
くれれば、組織のためにムチムチでボインボインな女の子をスカウトしてくるのに。
 探偵ごっこの道具一式は用意するくせに、女の子へのプレゼントの花束代さえ
経費で落としてくれないソレスタルビーイングという組織がどうにもわからなかった。



 そういえば、この間の依頼で調べた5人。
 調査の途中でわかったことだけど、全員ひとつ屋根の下に暮らす兄弟なのだとか。
兄弟揃ってモテモテくんなこともそうだが、女の子に好かれているのにすげなくするような奴の
神経が信じられなかったものだ。
 ……ただ、健気で少々突っ走り気味な女の子達のためにも両想いであって欲しいものだが、
それもまあ、オレ達には関係のないことだった。


124 名前:通常の名無しさんの3倍 :2010/10/31(日) 00:39:37 ID:???
外伝キャラの皆さんはガンダム家からちょっと離れたところで真面目に働いているのです。多分。
グラーベとヒクサーは間違いなくシャクティとミレイナにネタにされていると思って書いた。反省はしていない。

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最終更新:2014年12月06日 23:41