少年と狐のポルカ ◆auiI.USnCE




僕は今、独りだった。
いつも傍に居たあいつはもう、いない。
ずっと一緒だった考えも、初めて相反した。
ドリィはこれを戦といい、若様を守る為に皆殺しを選んだ。
僕は若様の理想を信じ、そして護り殉じたかった。
ドリィの考えも理解できる。
だって、僕達は兄弟だから。

けれども、僕はあいつと決別した。
それが、初めての別れだった。
それが、永遠の別れだろう。

でも、僕はそのまま、あいつと別の道を歩いていた。
たった独りで歩く事ができた。

支給された鉤槍を片手に僕は森を進んでいる。
じっくりと見た事が無いから自信は無いが、これは侍大将のものだろう。
本来の獲物ではないが、それはドリィも同じ事だ。
恐らくドリィも、苦戦しているだろう。
少し心配になったが、直ぐに気持ちを切り替える。
何故ならば、もう僕は独りなのだから。
独りで考えて、独りで行動しなければならない。
若様を護る為に。
若様の理想を護る為に。
僕はただ、進んでいく。




だから、僕は今、独りだった。









     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇







困った事になった。
それがちゃると呼ばれる少女、山田ミチルがまず考えた事だった。
狐みたいな少女は特に表情も変えないまま、森の中で困っている。
いつの間にか殺し合いに巻き込まれていた。
それも、彼女の親友達まで巻き込んだ上で。
正直、まだ死にたくはない。
けれど、殺すのも何だかとても嫌だった。
知らない人でも殺す事なんてできないだろうし、友人なら尚更だろう。

支給された拳銃をまじまじ見て、改めて使いたくないなとミチルは思う。
使い方はよく知ってはいるけど。その理由はいろいろだ。
じゃあ、殺さないならどうしようと思った所で困ってしまう。
何もしないという選択はとりたくない気がする。
でも、何をすればいいのかは答えはでない。
とりあえず、死なないようにしようとか思ったが、何かまぬけだ。

そんな事を色々考えながら、とりあえずミチルは歩き出した。
鬱蒼とした森をおっかなびっくりだ。
少し暑いせいか、汗が滲んできた。
ふうと一息をついてミチルは思う。

何となくだが、独りでいるのは好ましくない。
妙に不安になってくるし、自分ひとりだけだと襲われるとひとたまりも無い。
だから、無意識のうちに歩く速度が速まってくる。

そして、速く歩いたせいか、途中で疲れてしまった。
肩で息をしながら、何をやってるんだろうと思ってしまう。
はあと大きな溜息をついたとき、ふと森の先に人影が見えた。

ミチルはその人影に恐怖と期待を持ってしまう。

その人影が殺し合いに乗っている可能性がある。
もし、会ったら殺されるかもしれない恐怖。
でも、殺し合いに乗っていなかったら。
それを考えると期待せずにはいられなかった。

どうしようかと迷ってる最中にも人影は近づいてくる。
その人影は、可愛らしい少女のような面立ちで。
でも、何処か切羽詰った表情でただ、前を向いていた。
また何処か哀しそうで、切なそうで。

そう思った瞬間


「あの……」


ミチルは何故かはしらないけど、声をかけていた。

それが、二人の出会いだった。







     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇








余程、僕は余裕が無かったらしい。
何でもない少女の存在に話しかけられるまで気づく事が出来なかった。
これでは若様やあいつに怒られるかなと思って、つい苦笑いを浮かべてしまう。

「……うん?……どうした……?」

その、僕を見つけた少女ーーミチルが表情を変えずに首だけ傾げて僕の方を向く。
僕は苦笑いのまま何でもないよと首を振りながら答える。
そうと彼女は頷いて、納得したようだ。

何処か狐の印象を持つ少女と少し話した結果、どうやら彼女は友人を探すようだった。
僕も若様を探している旨を彼女に話した。
そして、ミチルは一緒に行動したいみたいだったので、共に探す事に。
一緒に行く事を提案をした時、無表情ながらも何処かほっとした様子だった。
独りが不安だったのだろうか。
確かに独りは色々考えてしまう。
僕にも余裕がなかったのが証拠かもしれない。
それに、僕は二人で居る事が多かったから尚更かもしれない。
彼女も仲の良い友人とよく一緒に居るみたいだから、同じなのだろうか。

「もう大丈夫かな?」

こくと頷くミチル。
少し歩きつかれていたようなので休憩をとる事にしていた。
その間は身の回りの事を少し話したり。
とはいっても、彼女は殆ど喋らなかったし、僕もあまり喋らなかった。
どうも、余り話が噛み合わなかったのが原因かもしれない。
お互い話す世界が違う……そんな感じがしたからだ。
後は僕が男だといったら、無表情を崩したのがちょっとだけ面白かった。

「じゃあ……行こうか?」
「うん……」

あいつの事は……話さなかった。
彼女を警戒している訳じゃない。
悪い子じゃないだろうと僕も思う。
だけど、あいつの事は何故だか話せなかった。
それは僕があいつに何か負い目を感じてるだろうか。
それとも、あいつの事を変に思われたくないからだろうか。
可笑しいなと思う。
もう、あいつとは交わらないのに。
決別したはずなのに。

いや、だからこそ僕が止めないといけないのだろう。
あいつを僕自身の手で。
僕達は兄弟なのだから。
最悪、あいつを……………………



「グラァ……」

その時、僕の冷たい手を掴む温かい手が。
少し驚いて隣を見ると、やっぱり表情を変えない彼女が隣に居た。

「怖い顔をしていた……」
「え?」
「何かあった……?」

また、僕は表情が出ていたのだろうか。
不安そうに見つめる彼女に僕は少し笑って

「いや、大丈夫だよ、大丈夫」

僕自身に言い聞かせるように言葉を発した。
そう、大丈夫だ。
大丈夫なはずだ。
僕は、もう独りなんだから。
自分の事は自分でしなければならない。
自分の事は自分で考えなければならない。

もう、あいつは居ないのだから。

「……………………」

それなのに、彼女は手を離さなかった。
人の温かさが伝わってくる。
それが何処かこそばゆくて。
何か恥ずかしくなって。

「ははっ」

自然と笑みが溢れた。
もしかしたら少しだけ顔が赤くなってかもしれない。
でも、これが人の温かさだった。

「落ち着いた……?」

ミチルは今度は柔らかい笑みを少しだけ浮かべて聞いてくる。
だから、僕は本心から。

「うん、もう大丈夫だよ」

そう、言葉を伝えた。
そして、頷きあって歩き始めた。
暫く、僕の手には温かさが残っていた。


あいつは独りなのだろうか。
ずっとずっと独りで戦い続けるのだろうか。
それはなんて…………事なのだろうか。

そう一瞬だけ、あいつの事を想って。

僕は、いや僕達は再び進み始める。
大切な人たちを護る為に。
大切な人たちを見つける為に。
心に温かさを感じながら。
僕達は進んでいく。



だから、僕達は今、二人だった。





 【時間:1日目午後2時30分ごろ】
 【場所:C-6】

 グラァ
 【持ち物:ベナウィの鉤槍、水・食料一日分】
 【状況:健康。若様をお守りする。ドリィは……】

 山田ミチル
 【持ち物:コルト ガバメント(9+1/9)、.38Super弾×54、水・食料一日分】
 【状況:健康。グラァについていく】



051:ブッこわし賛歌 時系列順 061:がんばれエルルゥさん
058:ハイテンションガール! 投下順 060:アンダードッグ
004:流星の双子 グラァ :115風は秋色
GAME START 山田ミチル


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最終更新:2011年09月03日 11:14