H17.10.31 東京地方裁判所 平成9年(ワ)第25507号  損害賠償等請求事件

相続税対策を目的とする融資一体型変額保険の勧誘について説明義務違反があったとして,保険会社5社及び銀行の共同不法行為責任を認めた事例(過失相殺4割)


平成17年10月31日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成9年(ワ)第25507号 損害賠償等請求事件
口頭弁論終結日 平成16年11月1日
              判      決
川崎市
原           告 A
訴訟代理人弁護士  宮川博史
東京都千代田区丸の内2丁目1番1号
被告   明治安田生命保険相互会社
代表者代表取締役   宮 本 三喜彦
訴訟代理人弁護士 田邊雅延
同   市野澤 要 治
同  市野澤 邦 夫
大阪市中央区今橋3丁目5番12号
被告   日本生命保険相互会社
代表者代表取締役   宇野郁夫
東京都中央区築地7丁目18番24号
被告   住友生命保険相互会社
代表者代表取締役   横山進一
上記被告2名訴訟代理人弁護士   篠崎正巳
東京都中央区晴海1丁目8番12号
被告千代田生命保険相互会社訴訟承継人   エイアイジー・スター生命保険株式会社
          (以下「被告エイアイジー・スター生命」という。)
代表者代表取締役   ゴードン・ワトソン
訴訟代理人弁護士   岸上 茂
同              春田 博
東京都渋谷区神南1丁目9番2号
被告   第百生命保険相互会社
代表者清算人   高橋真一
訴訟代理人弁護士 小林和則
東京都千代田区丸の内2丁目7番1号
被告   株式会社東京三菱銀行
代表者代表取締役   畔柳信雄
東京都文京区本郷3丁目18番14号
被告   ダイヤモンド信用保証株式会社
代表者代表取締役   山川征夫
上記被告2名訴訟代理人弁護士   近藤 基
同    小野孝男
訴訟復代理人弁護士   若林 耕
同    小島新吾

      主    文
1 被告明治安田生命保険相互会社,同日本生命保険相互会社,同住友生命保険相互会社,同第百生命保険相互会社及び同株式会社東京三菱銀行は,原告に対し,各自,金2億4850万8041円及び内別紙遅延損害金起算日等の一覧表金額欄記載の金額に対する,同各遅延損害金起算日欄記載の日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告は,被告エイアイジー・スター生命に対し,金2億4850万8041円及び内別紙遅延損害金起算日等の一覧表金額欄記載の金額に対する,同各遅延損害金起算日欄記載の日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を内容とする更生債権を有することを確定する。
3 原告の被告ダイヤモンド信用保証株式会社を除く被告らに対するその余の請求及び同ダイヤモンド信用保証株式会社に対する請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は,原告に生じた分及び被告ダイヤモンド信用保証株式会社を除く被告らに生じた分については,それぞれこれを12分し,その5を原告の,その余を被告ダイヤモンド信用保証株式会社を除く被告らの負担とし,被告ダイヤモンド信用保証株式会社に生じた分については,全部原告の負担とする。
5 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
              事実及び理由
第1 請求
1 被告ダイヤモンド信用保証株式会社(以下「被告保証会社」という。)を除く被告ら(以下,特に断らない限り「被告ら」という場合は,被告保証会社を除くものとする。)に対する請求
(1) 主位的請求
  ア 被告明治安田生命保険相互会社,同日本生命保険相互会社,同住友生命保険相互会社,同第百生命保険相互会社(以下,それぞれ「被告明治安田生命」等のように略称する。)及び同株式会社東京三菱銀行(以下「被告銀行」という。)は,原告に対し,各自,金3億5096万0027円及びこれに対する平成7年4月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
イ 原告は,被告エイアイジー・スター生命に対し,金3億5096万0027円及びこれに対する平成7年4月28日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を内容とする更生債権を有することを確定する。
 (2) 予備的請求
ア 原告に対し,被告明治安田生命は金7229万7787円及びこれに対する平成7年4月1日から,被告日本生命は金4313万4220円及びこれに対する平成6年8月4日から,被告住友生命は金5182万0497円及びこれに対する平成7年4月6日から,被告第百生命は金4511万1434円及びこれに対する平成7年4月1日から,被告銀行は金2億7878万5615円及びこれに対する平成8年7月20日から各支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。
イ 原告は,被告エイアイジー・スター生命に対し,金4946万4158円及びこれに対する平成7年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を内容とする更生債権を有することを確定する。
2 被告保証会社に対する請求
   被告保証会社は,原告に対し,別紙物件目録記載1ないし8の各土地,同10ないし12及び15の各建物についてされた別紙登記目録記載1及び5の各登記,同物件目録記載9の土地についてされた同登記目録記載3及び5の各登記,同物件目録記載13の建物についてされた同登記目録記載2及び5の各登記,同物件目録記載14の建物についてされた同登記目録記載4及び5の各登記の各抹消登記手続をせよ。
第2 事案の概要
本件は,原告の養母であるBを相続したと主張する原告が,Bにおいて原告の妻でありBの養子でもある訴外Cを被保険者としていわゆる一時払の変額保険に加入するため,その保険料等について融資を受けた被告銀行(以下,この融資を「本件融資」という。),本件融資を受ける際これを保証した被告保証会社及び同変額保険の保険者であり生命保険会社であるその余の被告ら(ただし,当時の商号は,被告銀行は「株式会社三菱銀行」,被告明治安田生命は「明治生命保険相互会社」であった。なお,当初,千代田生命保険相互会社が被告とされたが,その後の組織変更等により,被告エイアイジー・スター生命がその地位を承継した(以下,両者を区別せず「被告エイアイジー・スター生命」という。)。また,被告銀行及び被告保証会社を除くその余の被告らを「被告生保各社」,被告明治安田生命を除く被告生保各社を「その余の被告生保各社」とそれぞれいい,上記のとおり被告生保各社にBが加入した変額保険を「本件各変額保険」という。)に対し,Bやその代理人である原告及びC(以下「原告ら」という。)は,本件各変額保険加入時に,被告銀行の担当者及び被告明治安田生命の担当者から,変額保険が相続税対策に有効であるとの説明を受けながら,変額保険の解約返戻金の額が一時払の保険料の額を下回る事態が生じる危険性等について十分な説明を受けず,また,その余の被告生保各社からは説明を全く受けなかったため,変額保険の解約返戻金が一時払保険料を下回るような事態等が生じる危険はなく,変額保険に加入すれば確実に相続税対策になると信じて,被告銀行から金員を借り入れた上,これを一時払の保険料等の支払に充てて本件各変額保険に加入したものであって,被告らには,いずれも変額保険を勧誘するに当たってその説明義務を尽くさなかった違法があり,これは被告らが共同して行なったものであるところから,共同不法行為が成立するとともに,本件各変額保険契約及び本件融資契約についての債務不履行に当たり,また,本件融資契約及び本件各変額保険契約における要素の錯誤に当たるところ,これは,被告らの欺罔行為によるものであり詐欺に当たるから,本件融資契約及び本件各変額保険契約は無効か又は取り消されるべきものである上,本件各変額保険についてはその契約締結の際B及びCから提出された本件加入申込書の記載事項を被告生保各社において改ざんしており,本件各変額保険契約はもともと契約として不成立であるなどと主張して,被告らに対し,主位的にその共同不法行為等に基づく損害賠償として,3億5096万0027円及びその遅延損害金の各自支払(ただし,被告エイアイジー・スター生命に対してはその旨の更生債権の確定)を求め,予備的に,不法行為及び債務不履行に基づく損害賠償請求並びに錯誤無効,詐欺取消に基づく不当利得返還請求として,被告銀行に対して2億7878万5615円,被告明治安田生命に対して7229万7787円,被告日本生命に対して4313万4220円,被告住友生命に対して5182万0497円,被告エイアイジー・スター生命に対して4946万4158円,被告第百生命に対して4511万1434円及び各金員に対する遅延損害金の支払(ただし,被告エイアイジー・スター生命に対しては,その旨の更生債権の確定)を求めるとともに,被告保証会社に対し,上記一時払保険料等の融資やその利息の借入れに際し,その信用保証による求償債務の担保のため,B及び原告の所有不動産に設定された根抵当権設定登記及びその変更登記の各抹消登記手続を求める事案である。
1 争いのない事実等(末尾に証拠の記載のない事実は当事者間に争いがない。)
(1) 当事者等
ア 原告等
(ア) 原告は,○○大学経済学部を卒業後,信用金庫に就職し,その後,ゴルフ場に勤務するなどしたが,昭和33年10月1日,Cと婚姻し,両者の間には,2人の男子がいる。なお,Cは,○○県立○○高等学校を卒業後,○○交響楽団事務所に勤務(2年間)していた際,原告と婚姻したもので,他に就職をしたことはなく,婚姻後は,主婦業に専念していた。
  原告とCは,昭和58年12月13日,Bと養子縁組をした。
  Bには,先夫との間に実子であるDがいるが,Bは,昭和25年2月21日,Dとの間でも養子縁組をしたものの,原告及びCと養子縁組をして以降,原告及びCと同居し,平成8年4月7日,死亡した。
(イ) 原告は,昭和63年5月31日,くも膜下出血,脳動脈りゅうの治療のため入院し,同年7月6日,同月21日及び同年8月11日,それぞれ手術を受け,同年12月26日,退院した。
(ウ) 原告は,平成8年11月11日,Bの法定相続人であるC及びDとの間で,本件各変額保険に関するBの契約上の地位を一切承継する趣旨で,Bの被告銀行に対する債務を原告が承継する旨の遺産分割協議書を取り交わした(甲24,証人C,弁論の全趣旨)。
(エ) 原告とCの間には,2人の男子がいるが,平成2年当時,長男はアメリカに居住しており,二男の妻は,被告日本生命に勤務していた。
イ 被告等
(ア) 被告明治安田生命,被告日本生命,被告住友生命,被告エイアイジー・スター生命及び被告第百生命は,いずれも生命保険事業を業とする会社である。
  Eは,平成2年当時,被告明治安田生命の関連会社であった株式会社明治生命保険代理社(以下「明治生命保険代理社」という。)に勤務し,変額保険の販売資格を有していた者であるが,株式会社日本エフピーコンサルティング(以下「エフピーコンサルティング」という。)の経営もしていたところ,エフピーコンサルティングは,平成2年当時,被告エイアイジー・スター生命の特別代理店であった。
Fは,平成2年当時,被告日本生命に勤務し,変額保険の販売資格を有していた者である。
(イ) 被告銀行は,金融業等を業とする株式会社であり,被告保証会社は,信用保証業務を営む株式会社である。
Gは,平成2年当時,被告銀行○○○支店取引先第1課長であった者である。
(2) 本件各変額保険契約
ア Bは,次のとおり,各申込日に被告生保各社に対し,本件各変額保険契約の申込みをした(ただし,各一時払保険料の金額は,最終的にBが支払った金額であり,申込み時に申込書に記載された一時払保険料の金額はこれより少額の場合があった。)。
(ア) 被告明治安田生命
保険契約申込日 平成2年10月11日
保険金額    3億円
被保険者    C
一時払保険料  1億1324万4000円
(イ) 被告日本生命
保険契約申込日 平成2年10月19日
保険金額    2億7900万円
被保険者    C
一時払保険料  1億0531万6920円
(ウ) 被告住友生命
保険契約申込日 平成2年10月22日
保険金額    3億円
被保険者    C
一時払保険料  1億1324万4000円
(エ) 被告エイアイジー・スター生命
保険契約申込日 平成2年10月12日
保険金額    3億円
被保険者    C
一時払保険料  1億1324万4000円
(オ) 被告第百生命
保険契約申込日 平成2年10月ころ
保険金額    1億4039万7000円
被保険者    C
一時払保険料  5300万円
(カ) 被告第百生命
保険契約申込日 平成2年10月ころ
保険金額    1億5894万円
被保険者    C
一時払保険料  6000万円
一時払保険料 合計5億5804万8920円
イ Bは,平成2年11月22日,被告生保各社に対し,上記一時払保険料を支払い,本件各変額保険契約は同年12月1日付けで成立したこととされた。
(3) 融資契約
ア Bは,平成2年11月16日,本件各変額保険の一時払保険料を調達するために,被告銀行から,利息年8.5パーセント(ただし,変動金利方式),返済日を元本につき平成22年11月6日,利息につき平成2年12月から平成22年11月まで毎月6日限り,借入金使途を保険料支払資金との約定により,6億円を借り入れた(以下「本件融資契約1」という。)。
イ Bは,同日,被告銀行との間で借入極度額6億円,利率年9.4パーセント,期間1年(自動更新),返済日毎月5日,返済方法元金据置の約定による当座貸越契約である「三菱マイカード<ビッグ>」契約を締結し,同契約に基づき,被告銀行から,別紙借入金目録2ないし12のとおり,平成3年4月8日から平成6年11月10日までの間に,合計1億5600万円を借り入れた(以下「本件融資契約2」という。本件融資契約1と本件融資契約2を併せて「本件融資契約」という。)。
(4) 連帯保証及び根抵当権の設定
ア 保証委託契約
Bは,平成2年11月16日,被告保証会社との間で,本件融資契約1に基づく貸金債務につき,被告保証会社が6億円を限度として保証する旨の保証委託契約を締結した。
また,上記同日,Bは,被告保証会社との間で,本件融資契約2に基づく各貸金債務につき,被告保証会社がこれを保証する旨の保証委託契約を締結した(以下,上記の保証委託契約と併せて「本件保証委託契約」という。)。
なお,Bは,本件保証委託契約の締結に当たり,被告保証会社に対し,保証委託料等として1201万7418円を支払った。
イ 連帯保証契約
被告保証会社は,被告銀行との間において,本件保証委託契約に基づき,Bが被告銀行から前記各借入れをするに際し,それぞれ連帯して保証する旨の契約を締結した。
ウ 根抵当権設定契約
(ア) Bは,上記同日,被告保証会社との間で,別紙物件目録記載1,2の土地及び同15の建物(以下「本件不動産1」等のようにいう。)について,根抵当権設定契約を締結し,別紙登記目録1記載のとおり根抵当権設定登記手続をした(以下,これによってなされた根抵当権設定登記を「1の根抵当権登記」等のようにいう。)。
原告は,被告保証会社との間で,本件保証委託契約に基づくBの債務を担保するため,本件不動産3ないし14について根抵当権設定契約を締結し(以下,上記の根抵当権設定契約と併せて「本件根抵当権設定契約」という。),本件不動産3ないし8及び10ないし12につき1の根抵当権登記,本件不動産13につき2の根抵当権登記,本件不動産9につき3の根抵当権登記,本件不動産14につき4の根抵当権登記の各登記手続をした。
なお,Bは,上記各根抵当権設定登記の登記料として542万9910円を負担した。
(イ) 原告は,平成8年4月7日,本件不動産1,2及び15について,Bの相続を原因として所有権を取得した。
(ウ) 原告は,平成9年5月9日,同月2日になされたC及びDの債務引受を原因として,別紙登記目録5記載のとおり根抵当権変更登記手続をした。
(エ) 原告は,本件不動産1ないし3,5,6,8ないし15を所有し,本件不動産4,7についてH及びIとともに共有持分を有している。
(5) 本件各変額保険契約の解約
 Bは,次のとおり,本件各変額保険契約を解約し,被告生保各社から解約返戻金を受領した。
ア 被告明治安田生命
解約日   平成7年3月28日
解約返戻金 7216万6174円
イ 被告日本生命
解約日   平成6年8月4日
解約返戻金 8560万5394円
ウ 被告住友生命
解約日   平成7年3月29日
解約返戻金 9087万6541円
エ 被告エイアイジー・スター生命
解約日   平成7年3月30日
解約返戻金 9291万9803円
オ 被告第百生命
解約日   平成7年3月28日
解約返戻金 9658万5414円
(6) 本件融資契約に基づく債務の返済
  B及び原告は,平成2年12月6日から同16年11月1日(口頭弁論終結日)に至るまで,被告銀行に対し,本件融資契約1の元本のうち2億円及び本件融資契約2の元本を返済するほか,別紙利息返済一覧表のとおり,本件融資契約1の利息を返済し,そのほかに本件融資契約2の利息として,平成3年11月7日に102万4231円,同4年7月7日に398万3483円,同5年12月9日に564万6174円,同6年6月7日に665万3217円の合計1730万7105円を,それぞれ支払った。
(7) 千代田生命保険相互会社の更生手続
平成12年10月9日,被告エイアイジー・スター生命の前身である千代田生命保険相互会社について,会社更生手続開始の申立てがされ,同月13日,更生手続開始の決定がされ,平成13年3月31日,更生計画が認可され,同年4月17日付けで確定した(以下,この確定した更生計画を「本件更生計画」という。)。そして,本件更生計画に基づき,同月19日,被告エイアイジー・スター生命への商号及び組織の変更とその旨の登記がなされ,同月25日,更生手続の終結決定を得たが,本件更生計画によれば,一般更生債権については,全額について免除を受ける,ただし,更生会社の不法行為責任を原因とする確定一般更生債権については,その利息及び遅延損害金については全額免除を受けた上,確定一般更生債権元本額の50パーセントを更生計画認可決定日又は一般更生債権確定日のいずれか遅い日から3か月以内に支払うこととされている。
2 当事者の主張
(1) 契約に至る経緯及び勧誘・説明の態様
(原告の主張)
ア Gによる勧誘 
(ア) B及び原告は,従前より被告銀行と取引をしており,被告銀行から融資を受ける際に,B及び原告の資産の一覧表が添付された申告書を提出していた。そのため,被告銀行は,B及び原告の資産内容を把握していた。
Gは,平成元年ころ,原告宅を訪問し,原告及びCに対し,Bが死亡した際,相続税がかなりかかりそうなので計算をしてみましょうなどと言い,Bが死亡した際の相続税の計算をして原告及びCに示した。Cは,そのころより,相続税に対し不安を持つようになった。
(イ) Gは,平成2年夏の終わりころ,原告宅を訪問し,原告及びCに対し,Bの相続財産については相続税対策が是非必要である,これには変額保険という保険が大変良い,その資金は被告銀行が提供するので何の心配もなく,他に資金を用意する必要もないなどと述べた。
なお,Bは,当時85歳であり,相続税対策自体やそれにどのような対策が有効であるかどうかなどについて検討する意思も能力もなく,GやEとは一切面談しなかった。
また,原告は,以前からBの資産について,その管理やその運用を行い,GやEから変額保険加入の勧誘を受けた際にも,同席していたものの,くも膜下出血の後遺症で複雑なことを考えることができない状態であった。
そのため,実際に説明を聞いたのはCであったが,Cは,専業主婦であり,相続税対策,資産運用については素養がなかった。
イ Eによる勧誘
(ア) その後,Gは,Eと共に原告宅を訪問した。Eは,原告宅を4,5回訪問したが,常にGと一緒であった。
Eは,Cに対し,シミュレーションを示し,「今のままでは多額の相続税がかかる。しかし,変額保険は,相続税対策に極めて有効である,銀行から一括して金員を借り受け,支払利子も順次借り増すことにより債務を増やし,変額保険を運用することにより,相続税の節税対策になる。利回りについては,高利回りで銀行利息よりも高く回るので,いずれ解約してもかえって利益が出るので相続税対策として大変よい。」などと説明をした。この際,Eは,Cに対し,変額保険のパンフレットを交付したり,それに基づき,変額保険の仕組みやリスクについて説明したりはしていない。
(イ) Eは,2度目に原告宅を訪問した際,変額保険に加入した場合のシミュレーションを何通りか持参し,それに基づき,Cに変額保険の説明を行った。Eは,保険の中身についてはほとんど説明をせず,変額保険に加入した場合はこのように相続税が減るということを述べたのみで,変額保険のパンフレットも交付せず,変額保険に配当がない場合があるとか,変額保険が元本割れをする危険性がある商品であるなどという従前の保険と大きく異なる点については全く説明しなかった。また,Eは,当時,変額保険の運用自体がマイナスであることについても一切説明をしなかった。さらに,Eは,Cに対し,借金の返済方法について,Bが死亡した際に,原告が債務を相続し,原告が死亡した際にCが債務を相続し,Cが死亡した際に保険金が支払われるので,その際に返済すればよい旨説明した。
(ウ) Gは,EがCに説明する際,常に同席していたが,Eの説明に対して異論を唱えるようなことはなく,むしろ,Cから「本当によいものですか。」などと尋ねられた際,「本当によいものです,大丈夫です。」などと答えたりもした。
(エ) Eは,Cに対し,少しの金額では相続税対策にならないので,大きな金額に加入する必要があり,そのためには多くの保険会社の変額保険に加入しなければならないなどと申し向け,Gと相談した上,融資額,保険金額,保険会社などを決めた。
(オ) Cは,Eらの説明を受け,Bを保険契約者,Cを被保険者とする本件各変額保険契約を締結することを決めた。
ウ 本件各変額保険契約への加入 
(ア) 平成2年10月12日,Cの健康診断のために保険会社の医師が原告宅を訪問し,Cを診察した。その際,原告宅を訪問したのは,医師1名とEの他2名だけであった。Cは,健康診断を受けた日には,Eと変額保険の話はせず,結局,その余の被告生保各社からは,変額保険に対する説明を一切受けなかった。
(イ) Cは,本件各変額保険契約の申込書の契約者欄にBの名を代筆し,同申込書の被保険者欄にCの名を記載し,それをEに交付し,平成2年11月22日,本件各変額保険契約の一時払保険料を支払い,同年12月1日付けで本件各変額保険契約が成立したこととされた。
(被告らの主張(以下,被告らの主張という場合には被告ら共通の主張を意味する。個別の主張がある場合にはその旨明示する。))
原告の主張は争う。
ア Eによる勧誘
(ア) Eは,平成2年9月ころ,Gより,変額保険加入の見込み客として,Bを紹介された。
Eは,同月ころ,Gに同行して,原告宅を訪問し,原告及びCに対し,変額保険のパンフレットを交付した。Eは,パンフレットの「変額保険とは」の箇所を読み上げながら,変額保険は従来の保険と違って,特別勘定を設けて主に株式,公社債等の有価証券に投資して運用し,運用は保険会社に一任されること,運用実績に応じて保険金及び解約返戻金が変動すること並びに運用実績が悪くても死亡時の基本保険金が保証されていることを説明した。Eは,さらに,具体的に,パンフレットに図示されている波図を示して,運用実績に応じて,保険金及び解約返戻金が変動すること並びに運用実績が悪くても死亡時の基本保険金が保証されていることを説明した。そして,運用実績例表を示して運用実績が9パーセントの場合は保険金は表のように増えていき,解約返戻金も増えていくこと,4.5パーセントの場合は保険金はほぼ同じ金額で解約返戻金は表のように増えていくこと,0パーセントの場合は,保険金は基本保険金のままで解約返戻金は減少していくことになることを説明した。
(イ) Eは,同月ないし同年10月ころ,原告宅を数回訪問し,原告及びCに対し,シミュレーションを交付した上,相続税法によると一時払保険契約の場合,払込済保険料が相続財産として評価されること,その一時払保険料を銀行からの借入金で賄うと相続時の相続財産の課税価格を算出する際銀行からの借入金が差し引かれるので相続税額が減少すること,変額保険の運用実績と借入金利の変動により資金収支は変動することを説明した。
なお,Eは,1人で原告宅に本件各変額保険契約の勧誘に行ったこともあり,Gと常に一緒だったわけではない。また,Eは,Bには変額保険の説明を行っていないが,説明の場に同席していた原告に対しては本件各変額保険の説明を行った。原告は,順調に回復して元気な様子であり,Eによる変額保険契約や相続税対策及びスキームの説明の際,保険料の運用面や相続税の節税効果等についてよく質問をしていた。
また,Cは,現金,預金,貸家及び貸駐車場の資産管理並びにアパート建替え計画等に関与しており,素養がないわけではなかった。
原告は,説明を受けた後,Eに対し,当時,東芝に勤務し,アメリカに在住していた長男に相談してみる旨述べた。
(ウ) その後,Eは,原告又はCから加入の連絡を受けたので,同年10月11日,原告宅を訪問し,署名,捺印がなされた生命保険契約申込書を受領した。なお,Eは,その際又はそれ以前に,被告明治安田生命の「契約のしおり 定款・約款」を原告らに交付した。
イ 本件各変額保険契約の成立
Cは,同月12日,健康診断を受診した。同年11月22日,Bより保険料全額の払込みがあり,平成2年12月1日付けで,本件各変額保険契約が成立した。
(被告日本生命の補足主張)
ア 被告日本生命は,平成2年10月上旬,Eから,変額保険加入の見込み客として,Bを紹介された。Fは,保険金を3億円とする設計書を作成し,Eに交付した。Fは,Eから,Bが被告明治安田生命等の他社の変額保険にも加入する話も進行しており,他社の診査日が同年10月12日となっているので,同日に被告日本生命も一緒に診査できないかと打診された。
イ Fは,それを受けて,同日,被告明治安田生命の保険医と共に原告宅を訪問し,被告明治安田生命,被告エイアイジー・スター生命,被告日本生命の医師が分担して,Cを診断した。Fは,健康診断の後,Cに対し,保険金額を2億7900万円とする設計書及び「ご契約のしおり」を交付し,設計書を中心に変額保険は特別勘定により運用し,投資対象は株・有価証券等で,その運用結果により保険金額や解約返戻金が変動するが,保険金には最低保証があることなど,変額保険の仕組みを説明した。その際,Eは,Fの説明を遮ることはなかった。
ウ Fは,同月19日,原告宅を訪問し,設計書及び保険金を2億7900万円とする変額保険の申込書を交付した。そして,B及びCは,申込書の契約者欄,被保険者欄にそれぞれ署名した。
(被告住友生命の補足主張)
被告住友生命は,平成2年10月ころ,Eから,変額保険の加入を考えている人がいるので設計書を作成して欲しい旨依頼された。
被告住友生命は,保険金額3億円の設計書を作成し,Eに交付した。変額保険の説明については既にEが行っており,契約者は理解しているという話であったため,その後は,Eが被告住友生命とBとの間の変額保険契約の成立まで担当した。
(被告エイアイジー・スター生命の補足主張)
被告エイアイジー・スター生命東京中央支社虎ノ門営業所のJは,Eから,変額保険の加入見込み客がいるので設計書を作成してもらいたいと依頼された。Jは,従前,生命保険業界内の集まりを通じてEと知り合い,本件以前にも,Eから数件の変額保険への加入希望者の紹介を受けており,その際も,本件と同様,変額保険契約に関する説明はEによりなされていた。Jは,Eの依頼に応じ,保険金額を3億円とする設計書を作成して,Eに交付した。
Jは,平成2年10月12日,被告エイアイジー・スター生命の医師とともに,診査のため,原告宅を訪れた。Jは,本件各変額保険契約の申込書,「ご契約のしおり-定款・約款」を原告らに交付し,B及びCに署名,捺印してもらった。なお,被告エイアイジー・スター生命の医師は被告明治安田生命の医師と共にCの診査をした。
(被告第百生命の補足主張)
被告第百生命は,平成2年10月ころ,E及びエフピーコンサルティングのKから,変額保険の加入見込み客がいるので設計書を作成して欲しいとの依頼を受け,E及びKから,Cの性別,生年月日等を聞いて,保険金3億円の変額保険の設計書を作成した。
被告第百生命の担当者は,平成2年10月ころ,エフピーコンサルティングの事務所を訪問し,E及びKに対し,変額保険のパンフレットと設計書を交付し,原告らに渡すよう依頼した。パンフレット及び設計書には,運用によって保険金や解約返戻金が変動すること,基本保険金は最低保証されること等,変額保険の仕組みの要点が図や一覧表を用いて説明されている。
変額保険の説明については,既にEが行っており,原告らはこれを理解した上で数社の変額保険に加入する予定であり,また,健康診断については,数社が重複して行っても無駄であるので,被告明治安田生命の審査結果を被保険者の承諾を得た上,被告第百生命でも使用することとなった。
同年11月6日,Cの診査の結果,変額保険の加入に問題がないとの結果が出たので,被告第百生命は,E及びKの事務所を訪れ,「ご契約のしおり-定款・約款」及び変額保険契約申込書を交付し,原告らに渡すよう依頼した。
その後,被告第百生命は,E及びKを通じて,署名,捺印された申込書を受領し,同年11月22日,本件各変額保険契約の一時払保険料1億1300万円が被告第百生命の口座に振り込まれ,同年12月1日付けで本件各変額保険契約が成立した。
(被告銀行及び被告保証会社の補足主張)
Gは,Bが資産家であることは認識していたが,当時,詳細な資産の内容は把握しておらず,Cからの情報提供により認識するに至ったものである。
Gは,Bの死亡の場合相続税が大変になるという話から,変額保険を用いた相続税対策があることは話したが「相続税対策が是非必要である。」とか「変額保険が大変良い。」などとは言っていない。
GがEを原告宅に同行したことは認めるが,Eを同行したのは初回の1回のみである。
(2) 損害賠償請求
ア 虚偽の説明に基づく不法行為ないし債務不履行責任
(原告の主張)
(ア) 虚偽の説明に基づく勧誘の違法性
融資一体型変額保険は,特別勘定の利回りが9パーセントを超える場合であっても相続税対策とならないものであり,仮に相続税対策になるとしても長期間にわたり9パーセントを超える運用を続けなければ相続税の減税効果を得ることはできず,特に被保険者が相続人であるタイプの変額保険の場合は,それが一層顕著であったにもかかわらず,E及びGは,Cに対して,本件各変額保険が相続税対策に有効であると説明して勧誘したものであり,このような勧誘は,不実のことを告げて勧誘したものであり違法である。
すなわち,本件各変額保険契約に加入した当時,Bは85歳,被保険者であるCは55歳であったが,一般的な平均余命からすれば,Cは本件各変額保険契約後相当期間生存する可能性が高く,Bが死亡した際の相続税の支払資金として,保険金を充てることができないことから,本件各変額保険の解約返戻金をもって充てざるを得ないものであったところ,Bが死亡した時点において,本件各変額保険契約を解約した場合,どの程度の解約返戻金を得られるかどうかは未知数であり,解約返戻金が保険金よりも低額であることを考慮すると,運用利回りが相当高くなければ相続税対策にならなかったものといえる。そして,平成元年12月をピークとして日経平均株価は下落を続けており,Cが勧誘を受けた平成2年夏ころは,運用が9パーセントを超えるどころか,マイナスとなっていたのであるから,長期間にわたって9パーセントを超える運用を期待することはできなかったのであって,到底,相続税の節税効果は期待できず,本件各変額保険は,相続税対策商品としての適格性を欠くものであった。Eは,変額保険の勧誘資格を有する者であり,Gは銀行員であって,平成2年夏ころは変額保険の運用実績が悪化しており,高利回りが期待できず,相続税対策とならないものであることを知り又は知り得べきであった。それにもかかわらず,E及びGは,変額保険の有利性のみをCに強調して本件各変額保険への加入を勧誘したものであり,違法性を有することは明らかである。
(イ) 被告明治安田生命の不法行為ないし債務不履行責任
旧保険募集の取締に関する法律(以下「旧募取法」という。)11条1項は,生命保険募集人が募集につき保険契約者に加えた損害を賠償する責めに任ずるとされており,被告明治安田生命は,Eの上記違法行為により,原告に対し,その損害賠償責任を負う。
また,Eの上記違法行為は,職務を行うについてなされたものであるから,被告明治安田生命は民法715条の不法行為責任(使用者責任)を負う。
さらに,被告明治安田生命は,保険契約上の付随義務に違反して,Bを勧誘したものであるから,債務不履行責任を負う。
(ウ) その余の被告生保各社の不法行為ないし債務不履行責任
その余の被告生保各社は,直接,変額保険の相続税の節減効果の有利性を原告らに説明したわけではないが,その余の被告生保各社においても,当時,運用実績が低下しており,変額保険が相続税対策とならない欠陥商品であったことを認識できたのであるから,そのことを原告らに告知する義務があったにもかかわらず,これを怠った。
したがって,その余の被告生保各社は,その担当者の不作為による違法行為により,旧募取法11条1項ないし民法715条に基づき不法行為責任を負う。
また,その余の被告生保各社は,本件各変額保険契約締結に当たり,担当者に説明させることをしていないから,会社自体の不法行為でもあり,709条に基づき不法行為責任を負う。
さらに,その余の被告生保各社は,保険契約上の付随義務に違反して,Bを勧誘したものであるから,債務不履行責任を負う。
(エ) 被告銀行の不法行為ないし債務不履行責任
被告銀行のGの勧誘は,上記のとおり,違法なものであり,また,Gは,貸付額が当初の予想よりもはるかに高額となり,返済が困難となることを知りながら,本件各変額保険の有利性を強調し,原告及びCを勧誘し,その結果,過剰に融資を実行したものであるから,その違法性は強い。そして,Gの違法行為は,職務を行うについてなされたものであるから,被告銀行は民法715条に基づき,不法行為責任を負う。
また,被告銀行は,消費貸借契約上の付随義務に違反して,Bを勧誘したものであるから,債務不履行責任を負う。
(オ) 共同不法行為
 被告生保各社は,前記のとおり,それぞれ不法行為責任を負うが,これらは,共同してなされたものであるので,共同不法行為責任を負う。
また,本件各変額保険契約は,相続税対策として締結されたものであり,被告銀行の融資があって初めて実現可能となるものであるから,本件各変額保険契約と本件融資契約は互いに密接な牽連関係を有しているところ,GとEは,互いに共謀して一緒に原告宅を訪れ,Cに対し,両契約をセットで行うことを勧誘した。その結果,Cは,本件各変額保険が安全でよい商品であると信じ,本件両契約を締結してしまったのである。さらに,被告銀行と被告生保各社との間には,被告銀行が被告生保各社から紹介料として多額の預金をしてもらっているという密接な関係があり,以上のことからすれば,被告銀行は,被告生保各社と共同不法行為責任を負う。
(被告らの主張)
 原告の主張は争う。
(ア) 原告は,平成2年10月ころは株価が下落しており,かつ,契約者と被保険者とを異にする場合には相続税節減の効果がないのであり,それにもかかわらず,E及びGが,相続税対策になると説明し勧誘したことが不法行為ないし債務不履行を構成すると主張する。
 しかしながら,前記のとおり,Eは,パンフレットや設計書を示し,運用が9パーセントを下回り,4.5パーセント,0パーセントになる可能性があること等,変額保険のリスクについても十分に説明しており,確実に相続税対策になるとは説明していない。
(イ) また,本件各変額保険の勧誘は,平成2年10月ころであるところ,経済統計によるとバブル経済のピークは平成3年4月とされ,平成2年7月から12月ころは,株価の再反騰の期待も根強いものがあり,現に平成3年にはミニバブルと評せられたごとく,株価が上昇に転じた時期があったのであり,平成2年10月当時の株価の下落をもって相続税対策にならないとはいえない。変額保険にはその運用対象に上場株式が含まれているが,株式は,株価が下がったときに購入して,値上がりしたときに売却する方が投資行動として合理的であり,変額保険も,株価が下がったときに加入するのが高い運用益を期待できることからすれば,相続税対策にならないものとはいえない。
(ウ) さらに,契約者と被保険者が異なる場合であっても,借入金債務の控除による相続財産評価額の圧縮効果があること,契約者死亡による相続開始後に保険事故が発生すれば契約者と被保険者が同一の場合と同様にその保険金支払による資産増加効果が生まれるからそれなりの相続税対策の効果を期待することができることからすれば,本件各変額保険契約が相続税対策にならないものであるとはいえない。また,運用次第では,解約返戻金も増額し,相続税対策となる可能性も十分にあり,相続税対策としての適格性を欠く欠陥商品とはいえない。
(エ) したがって,被告らは,不法行為責任ないし債務不履行責任を負わない。
(被告銀行の補足主張)
被告銀行は,被告生保各社から,変額保険の加入者を紹介する代わりに,多額の預金をしてもらったりはしていない。また,GとEは,共謀などしておらず共同不法行為は成立しない。
イ 説明義務違反に基づく不法行為ないし債務不履行責任 
(原告の主張)
(ア) 被告明治安田生命の不法行為ないし債務不履行責任
a 変額保険は,従来の生命保険と異なり,特別勘定によってそれを運用することにより,保険金及び解約返戻金が増減し,運用が悪いときは,払込保険料よりも解約返戻金が少なくなるいわゆる元本割れの危険があるものであるから,変額保険を勧誘する者は,変額保険の有するリスクについて契約者に説明する義務があり,これを怠った場合は,不法行為ないし債務不履行を構成する。
Eは,保険契約者であるBには面談もしておらず,また,原告及びCに対しても,変額保険が元本割れすることなどのリスクについての説明を何ら行わなかった。
b また,変額保険は,前記のとおり,その運用により,保険金及び解約返戻金が増減するのであるから,変額保険に加入しようとする者にとっては,その運用実績が加入するか否かの重要な判断資料となるものであり,変額保険への加入を勧誘する者は,当時の変額保険の運用実績について契約者に説明すべき義務があるというべきであり,これを怠った場合には,不法行為ないし債務不履行を構成する。
Eは,原告及びCに対して,変額保険の運用実績について何ら告知せず,実際は9パーセントを大きく下回る状況にあり,マイナスも生じていたことを殊更に隠していたものであり,かかる説明義務に違反するというべきである。
c 本件各変額保険は,相続税対策目的の商品であるから,変額保険の勧誘を行う者は,相続税対策に用いた場合の構造及び利益得失について説明義務を負う。
本件において,Eは,9パーセントで運用した場合のシミュレーションを基に,Cに対し,相続税対策効果について説明をしたが,相続財産である不動産価格の計算方法,解約返戻金に税金が加算されることについては説明をせず,また,相続税対策に用いる場合,銀行からの借入れが巨額になるリスクなどについて説明をしなかった。
d 被告明治安田生命は,Eの上記違法行為により,旧募取法11条1項に基づき,原告に対し,その損害賠償責任を負うものというべきである。
また,被告明治安田生命は民法715条の不法行為責任(使用者責任)を負うものというべきである。
さらに,被告明治安田生命は,保険契約上の付随義務に違反して,Bを勧誘したものであるから,債務不履行責任を負う。
(イ) その余の被告生保各社の不法行為ないし債務不履行責任
a その余の被告生保各社は,Cに対し,本件各変額保険の内容を説明しておらず,したがって,リスクの説明もしていない。前記のとおり,変額保険は,株で運用することにより,保険金及び解約返戻金が増減するのであり,そのリスクの説明が不可欠であり,各保険会社はその説明義務を負っていたにもかかわらずそれを怠ったのであるから,違法であることは明らかである。
b この点,被告日本生命は,被告日本生命社員のFにより本件各変額保険の説明を行った旨主張するが,CはFには会ったことがなく,本件各変額保険の説明は一切受けていない。
c また,その余の被告生保各社は,Eによる説明をもって説明義務を尽くした旨主張するようであるが,他社の説明を流用することは旧募取法上も民法上も許されておらず,Eの説明をもって説明義務を尽くしたものとはいえない。さらに,前記のとおり,E自身も説明義務を果たしておらず,結局,その余の被告生保各社が説明義務を尽くしていないことは明らかである。
d したがって,その余の被告生保各社は,民法715条ないし旧募取法に基づき不法行為責任を負う。また,その余の被告生保各社は,保険契約上の付随義務に違反しており,債務不履行責任を負う。
(ウ) 被告銀行の不法行為ないし債務不履行責任
 被告銀行は,高度の信用性のあるべき金融機関であり,金融商品を顧客に紹介する際にはその内容を説明する民法上,条理上の説明義務がある。
それにもかかわらず,前記のとおり,Gは,原告らに対し,変額保険の仕組みやリスクについて一切説明せず,また,Eが変額保険のメリットのみを説明している際にも何ら異議を述べることはなかったのであるから,Gには説明義務違反があり,被告銀行は民法715条に基づく不法行為責任ないし債務不履行責任を負う。
(エ) 共同不法行為
  被告生保各社は,前記のとおり,それぞれ不法行為責任を負うが,これらは,共同してなされたものであるので,共同不法行為責任を負う。また,本件各変額保険契約は,相続税対策として締結されたものであり,被告銀行の融資があって初めて実現可能となるものであるから,本件各変額保険契約と本件融資契約は互いに密接な牽連関係を有しているところ,GとEは,互いに共謀して一緒に原告宅を訪れ,Cに対し,両契約をセットで行うことを勧誘し,その結果密接な牽連関係を有する両契約が締結されたのであるから,被告銀行は,被告生保各社と共同不法行為責任を負う。
仮に,Gの行為が,単独では不法行為とならなくても,被告生保各社との関係では,不法行為の幇助に当たり,被告銀行は,被告生保各社と共同不法行為責任を負う。
(被告らの主張)
 原告の主張は争う。
(ア) 説明義務
a 変額保険を勧誘する者は,契約者に対し,信義則上,変額保険固有の仕組み,すなわち,保険料の大部分が特別勘定で株式等に運用され,運用の結果次第で保険金や解約返戻金が変動し,死亡保険金については最低額が保証されるが解約返戻金にはその保証がないことを説明する義務はあるものの,さらに,上記変額保険の仕組みの説明とは別に,過去の運用実績及びこれを相続税対策に用いた場合の構造及び利益得失についてまで説明義務を負うものではない。
b 運用実績についての説明義務について
変額保険の勧誘を受ける者は,変額保険固有の仕組みについての説明を受ければ,一般勘定とは別に特別勘定を設けて投入された保険料を株式や公社債を中心に運用し,その運用実績によって保険金や解約返戻金が変動すること,すなわち,投資リスクを負うことを理解できるのであり,変額保険の契約者は,運用実績についての説明を受けなくても,上記投資リスクを負うことを前提に加入の有無を適正に判断することが可能である。また,運用実績は,例えば1年前に変額保険に加入した者がどの程度利益若しくは損失を計上しているかについての数字であり,新たに保険に加入した契約者にとっては,直近1年間の運用実績が低下していたとしても,かかる運用実績の低下の不利益を被ることはなく,むしろ,株価が低いときに加入したほうが,その後株価が上昇した際,その収益が契約者に還元されるのであるから,加入の好機であるとも言い得るのである。したがって,過去の運用実績を説明する義務はない。
c 相続税対策としての説明義務について
 被相続人を保険契約者とし相続人を被保険者とするタイプの変額保険による相続税対策とは,手持ちの流動資産が少ない場合でも,多額の借入れを起こして保険料一時払の変額保険に加入することで,特別勘定の運用が有利に進んだ場合に,相続時において,遺産である保険契約上の権利が解約返戻金相当額ではなく一時払保険料の額で相続税法上評価されることや,相続人が保険契約者の地位を継承した後において被保険者が死亡した場合死亡保険金を納税資金に用いることができるといった経済的な効果が生じることに着目して変額保険に加入することである。
変額保険を相続税対策に用いることのリスクとは,上記から明らかなように,節税効果や納税資金の準備という経済的効果の発生が特別勘定の運用成績に左右されるということであり,これは,結局,変額保険固有のリスクと同様である。
そうすると,変額保険固有のリスクについての説明があれば,説明を受けた者は,変額保険が特別勘定の運用成績いかんによっては元本割れの可能性もあるというリスクのある商品であることを理解し,したがって,運用利回りいかんによっては,期待した相続税対策の効果が生じない場合があり得ることも通常は理解し得る。
一方で,相続税対策として用いる場合の構造等を説明するにはプライバシーに属する相続財産の情報を把握しなければならず,保険会社の担当者が正確にこれを把握することは一般的にはできない。
よって,具体的に相続税対策の経済効果を計算していかなる相続税対策を企画実行するかは,保険契約者の側で判断すべき事項であり,勧誘者の側で説明義務を負担すべき事項ではない。
(イ) 説明義務違反のないこと
  前記のとおり,変額保険の勧誘をする者に課される説明義務は,変額保険固有の仕組み,すなわち,保険料の大部分が特別勘定で株式等に運用され,運用の結果次第で保険金や解約返戻金が変動し,死亡保険金については最低額が保証されるが解約返戻金にはその保証がないことを説明する義務に限られるものであり,本件においては,前記のとおり,Eは,Cに対し,パンフレット等を示して,変額保険の仕組み及びリスク等について説明をしており,説明義務違反はない。
(その余の被告生保各社の補足主張)
原告は,その余の被告生保各社は原告らに対して全く説明をしていないから,説明義務違反は明らかである旨主張する。
しかし,不法行為ないし債務不履行の要件である違法性の判断は,個別具体的に為されるべきであり,契約形態及び内容,これに伴う利・不利等についての契約者の既得の認識・知識の程度等をも勘案して判断されるものである。
本件においては,Eが変額保険の仕組み及びそのリスクについて説明をしており,原告らは,既に変額保険の仕組みやリスクについて理解した上で,自らの判断により本件各変額保険に加入しており,たとえ,被告その余の被告生保各社の有資格者による変額保険の仕組みやリスクに関する説明が独自になされていなくても,違法性はなく,不法行為ないし債務不履行は成立しない。
(被告日本生命の補足主張)
原告は,その余の被告生保各社は原告らに対して全く説明をしていないから,説明義務違反は明らかである旨主張する。
しかし,前記のとおり,被告日本生命のFは,Cに対し,変額保険の仕組みやそのリスクを説明していたものであり,原告の主張には理由がない。
(被告銀行の補足主張)
原告は,被告銀行は変額保険について民法上・条理上の説明義務があると主張するが,被告銀行には変額保険についての説明義務はなく,原告の主張には理由がない。
原告は,本件融資を受けない限り本件各変額保険契約を締結できなかったのであるから,被告銀行は変額保険の内容やリスクについて説明する義務を負うべきと主張するが,失当である。すなわち,銀行から融資を受けなければ購入できない商品は多数存在し,その場合にまで商品についての説明義務を負うとすると,例えば,住宅ローンや自動車ローンのような場合にまでそれらの商品の説明義務を負うことになるが,このような結論が取引社会の実態を無視した不当なものであることは明らかである。したがって,本件融資がない限り本件各変額保険契約を締結できないとしても,それをもって,被告銀行の説明義務の根拠とはならない。
また,仮に,本件融資の主たる返済原資として本件各変額保険の保険金若しくは解約返戻金が予定されており,そのことを被告銀行も了解していたとしても,何ら変額保険についての被告銀行の説明義務の根拠とはならない。返済原資として予定されている収入の内容を把握することは,融資判断上及び債権管理上,銀行として当然の責務であり,このことは返済原資たる収入の内容及びリスクについての銀行の説明義務を肯定する根拠とはならない。
ウ 損害の有無及びその額
(原告の主張)
(ア) 主位的請求について
a 算定方法1
(a) Bは,被告銀行から6億円を借り入れた上,被告生保各社に対する変額保険保険料として合計5億5804万8920円,保証料1201万7418円,登記料542万9910円,合計5億7549万6248円を支出した。
Bは,被告生保各社から本件各変額保険の解約返戻金として,合計4億3815万3326円の支払を受けた。
したがって,上記支出合計金額から支払を受けた合計金額を差し引いた1億3734万2922円が被告らの不法行為による損害となる。
(b) B及び原告は,被告銀行に対し,本件融資契約1の利息として,合計2億2286万3376円を,本件融資契約2の利息として1730万7105円をそれぞれ支払ったが,これは被告らの不法行為がなければ本来支払う必要のなかったものである。
したがって,かかる利息の支払も,被告らの不法行為に基づく損害である。
(c) 原告は,原告訴訟代理人に対し,本件訴訟の提起及びその追行を依頼したが,その弁護士費用は,上記(a),(b)の合計額の1割が相当である。
(d) したがって,上記の合計が被告らの不法行為と相当因果関係を有する損害となる。
b 算定方法2
(a) Bは,平成7年4月28日,本件各変額保険契約を解約し,解約返戻金をすべて本件融資契約に基づく債務の返済に充てたが,なお4億円の債務が残った。
したがって,原告が,被告らの不法行為により被った損害は4億円である。
(b) さらに,原告は,被告らに上記損害金の賠償の請求をするため,原告訴訟代理人に対し,本件訴訟の提起及びその追行を依頼したものであり弁護士費用4000万円が損害となる。
(c) したがって,上記の合計4億4000万円が被告らの不法行為と因果関係を有する損害となる。
c よって,いずれにしても,被告らの不法行為による原告の損害は3億5095万0427円(当初の主張金額)を下らない。
(イ) 予備的請求について 
a 被告生保各社の不法行為ないし債務不履行に基づく損害
(a) Bは,上記被告らの不法行為によって,平成2年11月22日,本件各変額保険の一時払保険料をそれぞれ被告生保各社に支払った。かかる一時払保険料に,その支払日から解約日まで年5分の遅延損害金を加え,解約返戻金を差し引いたものが,被告らの不法行為に基づく損害となる(被告生保各社の差引損害額は以下のとおりとなる。)。
① 被告明治安田生命       6572万7787円
② 被告日本生命         3921万4220円
③ 被告住友生命         4711万0497円
④ 被告エイアイジー・スター生命 4497万4158円
⑤ 被

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最終更新:2005年11月11日 16:45
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