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「ひとりぼっち」(2020/03/15 (日) 19:04:16) の最新版変更点
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<div class="main">
<div>週末になるたび、私はあの場所へ行っていた。<br>
桶に入った水と花。これを持ってあの場所に向かうのもどれだけ続けたことだろうか。<br>
「あら、長門ちゃん。精が出るね」<br>
すれ違うお婆さんに会釈を返す。<br>
彼女は痴呆が進んでいるため気づいていない。私が何十年この行動を繰り返しているのかを。<br>
</div>
<br>
<div>
先週変えたばかりの花をまた変え、桶の水で墓石を洗う。<br>
このあたりでは一番清掃が行き届いていると自負している。<br>
この行動を、何十年となく繰り返してきたから。<br>
横にある墓碑に刻まれた名前。<br>
『涼宮ハルヒ 20××年×月×日』<br>
『涼宮○○ 20□□年□月□日』<br>
涼宮ハルヒと、そしてキョンと呼ばれていた彼が入っている墓。<br>
少し離れた位置には古泉一樹のものもあった。<br>
何度となく私は墓参りを繰り返す。<br>
「久しぶり……元気にしていた?」<br>
すでに生きていないものに元気かと問う私は滑稽。<br>
有機生命体は死んでしまえば、その体に何の情報も残さないというのに。<br>
有機生命体の死の概念を、私は知っているはずなのに。<br></div>
<br>
<div>「私は……寂しかった」<br>
彼女らを失ってから、私はどれだけの時間を過ごしてきたのだろう?<br>
一人取り残された私。<br>
年をとれないの体を、何度憎んだことだろう。<br>
朝比奈みくるの産まれる時間までは、人の身には長すぎる時間。<br>
いつまで私は一人ぼっちなのだろう。<br>
「私は……あなたたちに会いたい」<br>
情報統合思念体からは、私の死を許可されていない。<br>
自殺することすら許されぬこの体。<br>
人の心を持ったことが罪だったのだろうか?<br>
人形でしかない私が、人の心を持ってはいけなかったのだろうか?<br>
私はしゃがみこみ、涙を流す。<br>
もしも一つだけ願いが叶うとしたら、<br>
どうか、どうかこの身を滅ぼしてください。<br>
彼の元へ、帰れるように。<br></div>
<br>
<div>ぼんやりと目を開ける。<br>
夕暮れに包まれた世界。<br>
机の向こうで微笑む彼。<br>
「よう、やっと起きたか」<br>
顔をあげ、辺りを見回す。<br>
時間軸は正常、私はまだ、北高生。<br>
「しかし、宇宙人製有機ヒューマノイドインターフェイスも居眠りするんだな。」<br>
部屋には私と彼だけ。<br>
涼宮ハルヒ、古泉一樹、朝比奈みくるはいない。<br>
「古泉も朝比奈さんも用事でさ、お前も寝てるんで今日は解散だとさ。起こすのもかわいそうなんで見ておけって、ハルヒがさ」<br>
彼女が解散を命じてからどれだけ彼は待っていてくれたのだろう。<br>
私と彼、夕暮れの中二人きりで。<br>
「さて、これでやっと帰れるな。長門、鍵は頼んだぞ」<br>
彼が伸びをして立ち上がる。<br>
彼が行ってしまう。<br>
彼が消えてしまう。<br>
気づいたときには、彼の背中に抱きついていた。<br></div>
<br>
<div>「おわっ、ち、ちょっと、長門?」<br>
彼の大きな背中。暖かい、彼の匂い。<br>
彼の匂いに包まれて、私は平静を取り戻す。<br>
現在の状況を把握し、私は慌てて彼から離れた。<br>
「ど、どうしたんだ長門」<br>
エラー、それも重大な。<br>
私は彼に接近しすぎることを許可されていない。<br>
致命的ともいえるエラー。<br>
「なんでもない。ちょっとしたエラー、迷惑をかけた」<br>
彼は私のことを変な女だと思うだろう。<br>
私はいったい、何をやっていたのだろう。<br></div>
<br>
<div>彼の大きな手が、私の頭にぽんと置かれる。<br>
「長門、怖い夢でも見たのか?」<br>
彼のゆっくりとした、優しい言葉。<br>
その言葉に私はこくんと頷く。<br>
「そんなときは、甘えてもいいんだぞ。誰だって急に不安になるときだってあるしな。<br>
なんつーか、今のお前、元気のないときのうちの妹みたいで見てると落ち着かないんだ」<br>
彼の言葉に頷き、その胸に頭を埋める。<br>
彼の匂い、彼の体温。トクン、トクンとなる鼓動。ただの脈拍の音なのに、どうしてここまで私の心を安らかにしてくれるのだろう。<br>
彼の手が優しく私の頭を撫でる。彼の手が、気持ちいい。<br>
どれだけそうしていたのだろうか。心が静まった私は彼から離れる。<br>
「……ありがとう」<br>
言うべき言葉は他にもあるだろうに、エラーで埋め尽くされた頭はその言葉を紡ぐだけで精一杯だった。<br>
彼は何を言おうか戸惑うようにに視線を迷わせ、私の手を掴んだ。<br>
「鍵返してから、カレーでも食べに行くか」<br>
彼の言葉に、私はまた頷いた。<br></div>
<br>
<div>
上目遣いで、目に涙を溜めて「ありがとう」と言った長門は、そりゃもう反則的なまでにかわいかった。<br>
気の効いた言葉を返すこともできずに、長門をココイチまで引っ張ってくるのが精一杯だった。<br>
その選択を、すぐに俺は後悔する事になる。<br>
「……ポークカレー、五辛」<br>
甘口から一段階づつ辛さを上げて、長門はわんこそばでも食べるかのようにカレーのお代わりを注文する。<br>
もしも一つだけ願いが叶うとしたら、<br>
どうか、どうかこの財布が持つうちに席を立ってください、長門さん。<br>
</div>
</div>
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<div class="main">
<div>週末になるたび、私はあの場所へ行っていた。<br />
桶に入った水と花。これを持ってあの場所に向かうのもどれだけ続けたことだろうか。<br />
「あら、長門ちゃん。精が出るね」<br />
すれ違うお婆さんに会釈を返す。<br />
彼女は痴呆が進んでいるため気づいていない。私が何十年この行動を繰り返しているのかを。</div>
<div>先週変えたばかりの花をまた変え、桶の水で墓石を洗う。<br />
このあたりでは一番清掃が行き届いていると自負している。<br />
この行動を、何十年となく繰り返してきたから。<br />
横にある墓碑に刻まれた名前。<br />
『涼宮ハルヒ 20××年×月×日』<br />
『涼宮○○ 20□□年□月□日』<br />
涼宮ハルヒと、そしてキョンと呼ばれていた彼が入っている墓。<br />
少し離れた位置には古泉一樹のものもあった。<br />
何度となく私は墓参りを繰り返す。<br />
「久しぶり……元気にしていた?」<br />
すでに生きていないものに元気かと問う私は滑稽。<br />
有機生命体は死んでしまえば、その体に何の情報も残さないというのに。<br />
有機生命体の死の概念を、私は知っているはずなのに。</div>
<div>「私は……寂しかった」<br />
彼女らを失ってから、私はどれだけの時間を過ごしてきたのだろう?<br />
一人取り残された私。<br />
年をとれないの体を、何度憎んだことだろう。<br />
朝比奈みくるの産まれる時間までは、人の身には長すぎる時間。<br />
いつまで私は一人ぼっちなのだろう。<br />
「私は……あなたたちに会いたい」<br />
情報統合思念体からは、私の死を許可されていない。<br />
自殺することすら許されぬこの体。<br />
人の心を持ったことが罪だったのだろうか?<br />
人形でしかない私が、人の心を持ってはいけなかったのだろうか?<br />
私はしゃがみこみ、涙を流す。<br />
もしも一つだけ願いが叶うとしたら、<br />
どうか、どうかこの身を滅ぼしてください。<br />
彼の元へ、帰れるように。</div>
<div>ぼんやりと目を開ける。<br />
夕暮れに包まれた世界。<br />
机の向こうで微笑む彼。<br />
「よう、やっと起きたか」<br />
顔をあげ、辺りを見回す。<br />
時間軸は正常、私はまだ、北高生。<br />
「しかし、宇宙人製有機ヒューマノイドインターフェイスも居眠りするんだな。」<br />
部屋には私と彼だけ。<br />
涼宮ハルヒ、古泉一樹、朝比奈みくるはいない。<br />
「古泉も朝比奈さんも用事でさ、お前も寝てるんで今日は解散だとさ。起こすのもかわいそうなんで見ておけって、ハルヒがさ」<br />
彼女が解散を命じてからどれだけ彼は待っていてくれたのだろう。<br />
私と彼、夕暮れの中二人きりで。<br />
「さて、これでやっと帰れるな。長門、鍵は頼んだぞ」<br />
彼が伸びをして立ち上がる。<br />
彼が行ってしまう。<br />
彼が消えてしまう。<br />
気づいたときには、彼の背中に抱きついていた。</div>
<div>「おわっ、ち、ちょっと、長門?」<br />
彼の大きな背中。暖かい、彼の匂い。<br />
彼の匂いに包まれて、私は平静を取り戻す。<br />
現在の状況を把握し、私は慌てて彼から離れた。<br />
「ど、どうしたんだ長門」<br />
エラー、それも重大な。<br />
私は彼に接近しすぎることを許可されていない。<br />
致命的ともいえるエラー。<br />
「なんでもない。ちょっとしたエラー、迷惑をかけた」<br />
彼は私のことを変な女だと思うだろう。<br />
私はいったい、何をやっていたのだろう。</div>
<div>彼の大きな手が、私の頭にぽんと置かれる。<br />
「長門、怖い夢でも見たのか?」<br />
彼のゆっくりとした、優しい言葉。<br />
その言葉に私はこくんと頷く。<br />
「そんなときは、甘えてもいいんだぞ。誰だって急に不安になるときだってあるしな。<br />
なんつーか、今のお前、元気のないときのうちの妹みたいで見てると落ち着かないんだ」<br />
彼の言葉に頷き、その胸に頭を埋める。<br />
彼の匂い、彼の体温。トクン、トクンとなる鼓動。ただの脈拍の音なのに、どうしてここまで私の心を安らかにしてくれるのだろう。<br />
彼の手が優しく私の頭を撫でる。彼の手が、気持ちいい。<br />
どれだけそうしていたのだろうか。心が静まった私は彼から離れる。<br />
「……ありがとう」<br />
言うべき言葉は他にもあるだろうに、エラーで埋め尽くされた頭はその言葉を紡ぐだけで精一杯だった。<br />
彼は何を言おうか戸惑うようにに視線を迷わせ、私の手を掴んだ。<br />
「鍵返してから、カレーでも食べに行くか」<br />
彼の言葉に、私はまた頷いた。</div>
<div>上目遣いで、目に涙を溜めて「ありがとう」と言った長門は、そりゃもう反則的なまでにかわいかった。<br />
気の効いた言葉を返すこともできずに、長門をココイチまで引っ張ってくるのが精一杯だった。<br />
その選択を、すぐに俺は後悔する事になる。<br />
「……ポークカレー、五辛」<br />
甘口から一段階づつ辛さを上げて、長門はわんこそばでも食べるかのようにカレーのお代わりを注文する。<br />
もしも一つだけ願いが叶うとしたら、<br />
どうか、どうかこの財布が持つうちに席を立ってください、長門さん。</div>
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