鶴の舞 第3幕
「お帰りなさいませ、お嬢様」と玄関に迎えにきた使用人&メイドさんが一斉に頭を下げた。こういうの見ると、本当に戸惑う。家も広いが、使用人も多い。何人いるかざっと見ただけじゃあ、とてもじゃないが数え切れん。しかも自分の名前も言われるとなると、頭がごっちゃになる。ここに来て、事の重大さに気づいた。(これって、かなり一大イベントだとか・・・)なら、これを適当に済ましていたら、迷惑というレヴェルじゃなくね?(真剣にいくか・・・)もちろん、真剣になったところで何も変わることはないんだがな。「こちらです。」と使用人が案内をしてきた。「はい、わかりました」敬語をちゃんと使えるかどうか、怪しくなってきたな。ちゃんと国語の授業を聞いておくべきだったぜ。廊下を歩いていて、あることに気づいた。たいていのお金持ちの家(といってもテレビドラマの話だが)の廊下は、高価そうな絵、また骨董品とかがずらりと並んでいるのを想像する。実際はどうか知らんが。だが、この家は素人目からみても、そういうものではなかった。たしかに高そうなものを飾っているが、その作品一つ一つに「美しさ」が感じられる。つまりこの家は、芸術品を廊下の飾りとしてではなく、芸術品一つ一つを輝かせているのだ。だから無駄がない。ここにおいてある花瓶一つをとってみてもそうだ。ただ無造作に置くのではなく、周りの環境を考え、どこにどういう向きでおけばこの「花瓶」が輝くか。そういった考えが見て取れる。なるほど、道理で見ていて楽しいわけだ。じっくりこのまま見ていたい。そう美術品に対して思ったのは、おそらく人生初ではないだろうか。「お入りください」と使用人の人が目の前にあるドアを開けた。もう終わりか。まだ見ていたかった。が、ドアの向こうも凄かった。ドアの向こうは、自分の家の坪4倍ぐらいはあるのではないかというくらいに広く、上はこれまたでかいシャンデリア、かつ部屋の壁には廊下のよりも美しい芸術品、それになんといっても人の多さ。一体何人この屋敷に住んでいるんだ?その一番奥には鶴屋家当主と思われる人物、テーブル脇には、大勢の人が俺たちを待っていた。テーブルの上には、俺の想像をはるかに超える食事が並べていた。「父上、許婚候補をお連れいたしました」と鶴屋さん。「話は聞いておる。まあ座りなさい」当主が俺たちを席へ誘った。完全に頭が白くなっている。緊張しすぎて、前に進めない。(こけたらどうしよう)とありもしないことを考えては、冷や汗をかいている自分が情けない。素数なんて数えている暇もない!そんなおれを当主は不思議な顔をして、「おや、どうかしたのかな?」と話しかけた。「いっ・・・いいえ!大丈夫です!」今自分が出せる精一杯の声を出すと、その当主の近くにいた、これまたなんとも美しい女性が「ふふ・・・おもしろい人ね」とにこやかに笑っていた。おそらく鶴屋さんのお母さんなのだろう、その顔にはかすかにいつもの鶴屋さんが笑っている顔の面影が見えた。そして食事はというと、なんというか、空腹をみたすことが目的じゃなくて、料理の味を楽しむような食事だった。こんなのいつも食っていたら、さぞかし幸せなことだろう。食事中にも当主に家族構成やら趣味やらを聞かれた。趣味は何と聞かれ、一瞬戸惑ったが「読書をすることです。」と答えた。こんな短いせりふながらも口がうまく回らなかったが。何を読んでいるのかと聞かれて、俺は長門が昨日読んでいた本のことを話した。宇宙のコロニーに取り残された30人の、一ヶ月にわたる脱出へのストーリー。食料なし、電気もない密封された空間のなかでの、人間の本質を描いた大長編。いかにも長門が読みそうな本だ。これには当主も興味を示したようで、会話も弾んだ。俺も楽といえば楽だった。が、次の質問が俺の頭を真っ白にさせる。「部活をしていると聞きまして」と鶴屋さんのお母さんが聞きだした。「娘からも聞いているのですが、どうやらとてもユニークな部活みたいで・・・」鶴屋さんのほうを見た。ちょうど俺の真正面にいた鶴屋さんは俺を見るなり、ニコッと笑った。つまりどうにかして言い逃れろといいたいのですか。ええい、仕方がない。「ええっとですね・・・その・・・」うん、無理。どこをどうやったらあの部活(というかサークル)をプラスの方に向けられるんだ?不可能じゃね?まあ俺もその不可思議なサークルで放課後を過ごしているわけだがな。・・・仕方がない。嘘いってもどうせぼろが出る。・・・いっちまおうか。半分自暴自棄になってきたな・・・俺は涼宮ハルヒという人物が「不思議」を探し求めるために結成されたSOS団と、その今にいたるまでの経緯を話した。土曜日には不思議を発見するために市内を歩き回っていること。自主映画作ったり、野球チームを作って試合に出たり、いつのまにわれらの団長ハルヒが文化祭でバントを組んで、とてつもないほどの盛り上がりをみせたなどなど・・・こうして言ってみると、三人宇宙人、未来人、超能力者が混じっていることを除けば案外まともなサークル・・・でもないか。まあ、そんなことを話した。そして当主はというと、どうやらかなりの興味を持ったらしく、「君は、なかなか普通の人とは違うものをもっているねえ!」と俺のことを褒めてくれた(ということにしよう)。
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