キョンがヤンキー略してヤンキョーン 第三章
キョンがヤンキー略してヤンキョーン 第三章俺は今、一人夜の街をふらついていた。さっきまであんなに熱くなってたっていうのに、夜風に吹かれながら少し歩いただけで俺は冷静さをとりもどし、自責の念に襲われている。俺は一体何をしているんだろうな。こんな夜の街で。今や手放せなくなったタバコと、大量の酒の入ったコンビニのビニール袋を提げながら。洋楽なんて聴いたことも興味も無いのにそれらしいダボダボの格好をして。それ、なんてヤンキー?だ。やれやれ。何してんだろうね、俺は・・・。 俺はあの喧嘩騒動のおかげで10日間の自宅謹慎となっていた。ハルヒは自分のせいだと思い込み落ち込んでいたようだったが、俺にとってはちょっとした休みができたようなもんだったし、全く気にしちゃいなかった。だが、今回ばかりは今まで俺を黙って見守ってきた母さんもご立腹のようだった。そりゃそうだが。俺の見た目や態度が変わっても特に何のコメントもすることがなかった母さんだが、自宅謹慎の話をすると大きなため息をつき、俺に一言、勝手にしなさいと言い放った。 俺はそんないつもと違う母さんを見て、ひどくショックを受けた。母さんのためにも、俺は早く更正しなければいけない。そう焦り始めていた。学校が終わる時間になると、毎日ハルヒ達がやってきた。達、というのはもちろんSOS団の皆様だ。こいつは俺の自宅謹慎が決まった日に、「今日からSOS団はキョンの家で活動します」とか言い出したのだ。やれやれいい迷惑だね。まぁ一人ではどうせ退屈だろうから何も言わないが。 活動といっても特に何をすることもなかった。他愛の無い話をしたり、ゲームをしたり、俺の家の漫画を皆で読んだりと・・・とても部活動とは思えない内容だった。もはや部活だと思ってはいけない。一生懸命部活動に励んでいる奴らが気の毒に思えるからな。何が気の毒なのかは上手く言語化できないが。とまぁ俺の近状はそんな感じだった。事件が起きたの昨日のことだ。まぁ今回も俺が悪いんだがな。
特に意味は無い。ほんとにちょっとした出来心だったんだ。薬局に行った際にふと目に入っただけだった。俺の頭は今、金に近いような茶色をしている。自分で言うのもあれだがそこまで違和感があるわけでもなく、どことなく似合っているような気がした。だが、似合ってはいるがどっからどうみても別人のようだった。髪色一つでこんなに変わるもんなんだな。 案の定仕事から帰ってきた母さんは俺を見て絶句し、緊急家族会議が開かれることとなった。母さんは冷静だったが、どこまでも俺に呆れているようだった。いや、わかってるさ。俺が全部悪いんだ。だがその時の俺には素直さなんてかけらもなく、母さんはどうしてわかってくれないんだ、などという実に身勝手な怒りがこみ上げてくるばかりであった。そしてその挙句、俺は母さんの話を全て聞くことなく、リビングのテーブルをひっくり返して家を出て行ったというわけだ。やれやれ・・・俺って最低だな。家を出た直後の俺は、とても冷静ではなかった。罪の無い電柱にはやつあたりをし、通りかかる面識の無い人たちには舌打ちをしたり睨んだり・・・どう見てもDQNです本当n(ry とりあえず気持ちを落ち着けなくてはいけないと感じた俺の理性は、適当な公園へと足を進ませた。1時間くらいベンチに座ってボーッとし、そろそろ冷静さが戻ってきた頃、どこかから冷たい視線を感じた。ぐるりと辺りを見渡すと、そこにはマンションがあり、その一室からまるで獲物を見つけたかのように宇宙人長門有希がこちらを見ていた。そんなこんなで、その日は長門の家にお世話になることにした。しばらく長門がわんこそば並みのペースで淹れてくれたお茶を飲んでいると、どういうわけかハルヒがやってきた。 ハルヒは髪色を変えた俺に最初は驚きを隠せないという様子だったが、「まぁ似合ってんじゃない」と言ってくれた。団長様にそう言われるとこの頭も捨てたもんじゃないと思えてくるね。 まぁ捨てるべきなんだがな。髪の毛だけではなくこの狂ってしまった思考回路も一緒に捨ててしまいたいさ。ハルヒと長門は何も言わず俺の話を聞いてくれた。まぁ長門はいつも何も言わないのだがな。全て話し終えると、ハルヒは迷うことなく「お母さんに謝りなさい」と言った。そりゃそーだな。 「あたしたちは事情知ってるからまだいいわ。でもお母さんは何も知らないじゃない。突然息子がヤンキー化して今、だいぶ参ってるはずよ。そんなお母さんにこれ以上迷惑かけてどーすんのよ?お母さんの言うことは何も間違ってないわ。だから謝りなさい。」いやそうだがなハルヒ。「言い訳するの?・・・まぁ、今日は顔合わせづらいことだろうから有希の世話になるといいわよ。あたしも今夜は泊めてもらうし」なんだって?なんでお前がここに?「うるさいわね。とにかく明日になったら謝るのよ!!」ハルヒはお茶をぐいっと一気飲みした。ハルヒの言うことは何一つ間違っちゃいなかったし、その時の俺はもう既に冷静だったのだが、どうも謝る気にはなれなかった。俺が悪いということももよくわかっている。でも一つだけ引っかかっているのだ。どうして理由を聞いてくれないんだ?俺がこうなっちまった理由も聞いちゃくれないし、喧嘩の理由も聞かれていない。俺の言い分なんて聞かずに俺を全否定だ。さすがに腹が立っちまう。だから、口では謝ると言っていた俺だが、明日からどうしようかなぁ・・・なんてことを考えていたりした。その日は三人で遅くまでわいわい語り明かした。まぁ長門はわいわいしていないし、俺もそんなに語っちゃいない。ハルヒが勝手に宇宙のロマンについて喋り続けるだけだった。 宇宙人はもうすぐ地球にやってくるはずよ!なんて言われても、お前のすぐ隣に居るんだからなんとも突っ込みづらい。まさに突っ込んだら負けだ。二人は明日も学校だったため喋り続けるハルヒをなんとか寝るように説得し、俺達は眠りについた。
朝起きたらなぜか違う部屋で寝ていたハルヒが俺に抱きついていた、なんて忘れたい事件もおきつつ、俺は二人が登校するのと一緒に長門の家を後にした。さて、ここからが問題だ。特に宛ても無い俺はタバコを片手にふらついた。だが、まだ朝が早いということもあってどこもまだ開店しておらず、仕方なく俺は漫画喫茶に行くことにした。最初は漫画を読んだりネットサーフィンしたりVIPに「家出したんだけど何か質問ある?」とスレを立てたりしていたが、段々飽きてきたので俺は一眠りすることにした。昨日あまり寝れていないしな。 1時間くらいの居眠りのつもりだった。が、目が覚めるともう既に夕方だった。最悪だ。ただでさえこれからお金どーすっかなって考えてたっていうのに。財布が軽くなっちまった。想定外の出費だ。とりあえず漫画喫茶を出て、また宛ても無くふらふらしていた俺の携帯が突然鳴り出した。嫌な予感がした。予感的中、団長様からのcallingだ。『ちょっとキョン!なんで家に居ないのよ!アンタまだ謝ってないわけ!?早く帰りなさいよ!』「すまんがハルヒ・・・俺は今日も帰るつもりはない」『はぁ!?なんでなのよ!?アンタ自分に甘えんのもいい加減にしなさいよね!!大体アンタはねぇ・・・』ハルヒの説教が始まった。耳がキンキンする。そしてうんざりだ。聞きたくない。こいつも俺の言い分なんか聞いちゃくれないんだ。ついイライラしちまった俺は「お前にはわからねぇよ!!」と言って電話を切ってしまった。そしてその直後母さんから電話が来る。もちろんイライラしていた俺は周りの目も気にせず街中で怒鳴り散らし、最後には携帯を逆パカし地面に叩きつけた。そして、今に至る。俺はあの後むしゃくしゃしてとりあえず酒を大量に買った。そしてまた適当に公園を見つけ、一人で酒を飲む。缶チューハイを一気飲みだ。3缶目を飲み干したところでくらっとする。ハルヒにも母さんにも、あんなことを言うつもりはなかったのに。今頃どうしているんだろうか。ハルヒはカンカンだろうな。母さんは・・・いやもう考えるのはよそう。それに携帯も感情のままに折っちまって、誰とも連絡がつかねぇ。畜生。今日は野宿か。あー、頭がぽーっとしてきた。いよいよ酒が回ってきたのかな。なんでかしらないが懐かしい奴の幻覚が見えるぜ・・・。ん・・・?「キョン・・・?キョンじゃないか。こんなところで何しているんだ?それにその格好・・・何があったんだよ、キョン」それは幻覚ではなく、確かに制服を着た佐々木が俺の前に立っていた。
「あー、わかったよキョン、とりあえず落ち着こう。今の君は酔っ払っているんだ。落ち着くまで僕が傍に居るから、ね?」呂律も回らない俺の背中を佐々木が優しくポンポンと叩いてくれていた。心地いい。思わず眠っちまいそうなくらいだ。しばらくそうされていた俺も、ようやく普通に話ができる程度に落ち着いた。深呼吸をして、今までのことを全部佐々木に話した。佐々木は黙って、時々相槌を入れながら俺の話を聞いてくれた。こうやって俺の言い分を聞いてもらったのは久しぶりかもしれない。俺はそれだけで嬉しかった。「そうか・・・結構な珍しい体験をしてきたんだな、キョンは。そうやって疲れてしまうのもわけないさ。だからキョン。とりあえず今日は僕の家に泊まれ」・・・何言ってんだ佐々木。「迷惑だと思うのかい?そんなわけないじゃないか。こんな状態の君を放っておくなんて僕にはできないよ。ね、続きは僕の家で話そうじゃないか」そう言って俺は佐々木に引っ張られ、世話になることになった。玄関で佐々木のお母さんが俺を出迎えてくれた。最初は何事かと言う目で俺を見ていたが、佐々木が今の状況を説明すると佐々木母はすぐに「キョン君なら別にいいか」と言って俺を家へと招き入れてくれた。いやあ感謝します。しかし、佐々木は「生憎客室が無いので、僕の部屋で一緒に寝てくれ」なんてとんでもないことを言うのだ。俺はとてつもなく焦った。今の俺は酒が入っている上に、ヤンキーと化して気が大きくなっているんだ。いつも以上に危険な状態であることは言うまでも無い。しかし、いくら俺が説得しても佐々木は笑って流すだけだった。何を考えているんだこいつは。簡単な夜ご飯をご馳走になり、風呂と親父さんのスエットを貸してもらい、もう寝る準備は万端だ。ベッドまで俺に使わせようとした佐々木だが、それだけは全力で断らせてもらい俺はベッドの横に布団を敷いて寝ることになった。だいぶ冷静ではあったが未だに頭がぽわーんとしていた。まずいな。今夜は眠れるわけが無いね。やれやれってレベルじゃねーぞ。とりあえず俺が布団にもぐりこむと、佐々木はすぐに電気を消した。佐々木に背を向けながら俺は戦いのゴングを鳴らした。朝よ、早くきてくれ。
10分くらい経っただろうか。そんな時、突然佐々木が「まだ起きているかい?」と俺に声をかけた。あぁ、起きてるさ。悲しいことに今日は眠れなさそうだ。俺は首を少し動かして佐々木のほうに目をやると、佐々木はベッドに腰掛けて俺を見ていた。俺も体を起こす。「今日、公園で君を見つけたときは本当にびっくりしたよ。最初は誰だかわからなかった。そして、キョンだと頭が理解しても僕の心は変わってしまった君を受け入れようとはしなかった。」 俺は黙って佐々木の話を聞く。「でも、口を開いてみれば君は何一つ変わっていなかった。すごく安心した。そして、すごく嬉しく思ったんだ」佐々木は俯く。「・・・君は変わってしまったよ、確かに。でも・・・」沈黙が流れる。佐々木は顔を上げない。何だこの状況は?俺は思わずトイレとでも言って逃げ出そうかと思ったが、どこからともなくハルヒの「逃げんじゃないわよ!」という声が聞こえたような気がしたので俺はその場に留まった。 結構な時間が流れたので、俺から口を開いてみることにした。言うことも決めずに「あー、佐々木?」などと言ってしまうから気まずさが×2になった。へたれだな俺。 すると佐々木は顔をあげ、決心したかのように、こう言った。「・・・とてもかっこよくなったな、キョン」・・・俺の中で、確かに何かが音を立てて崩れた。俺はむくっと立ち上がる。佐々木は動かない。「もうどうなったって知らないぞ、佐々木。わかってんだろうな?」「・・・ああ。僕はいいんだ。君がいいのなら・・・」ダメなわけがあるか。少なくとも、今は。俺はベッドに腰掛ける佐々木を壁まで追いやると、優しく手を取る。佐々木は顔を赤くしていた。ここまで近くにくればよくわかる。「・・・そんなに見ないでくれよ、恥ずかしい」「じゃあ目、閉じてろよ」佐々木の長い睫がゆっくりと降りていく。完全に降りたのを確認すると、俺はゆっくりと顔を近づけた。
続く
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