SOS団プレゼンツ 第一回 涼宮ハルヒ争奪戦 ―試練その4―
3種類のカレーを満喫した俺は、鬼ごっこによる疲労もあり、睡魔が襲ってきた。できればこのまま昼寝といきたかったが、本日はそんなことを許してくれない人が団長は言うまでもなく、副団長副々団長文芸部長鶴屋家御令嬢以下様々な皆様が多く存在していた。つまり、後片付けしなさい!みんなでするわよ!とのことだ。何で俺が?試練その3は難問だったのだが、それでも36人が無事試練を突破した。実に半数が生き残っている。どうして確率論を上回ったのかは不明だ。ハルヒの能力が暴走していなければ良いんだがな。そういえば、あと試練は幾つあるのだろうか?俺を使った試練とやらも控えていることだし、あまり無茶なことはないよう願いたい。「やっぽー!みんなー!カレーはハイパー美味しかったかなー!?ここで改めてSOS団三人娘に感謝するんだよ!!それではお待たせ!『試練その4 宝探し』を始めるっさ!!今からハルにゃんが欲しいものを言うから、それを持って来た人が次の試練へと進めるよ!それじゃあハルにゃん!ヨロシク!!」「――では発表します。あたしが欲しいもの、それは仏の御石の鉢、蓬莱の玉の枝、火鼠の皮衣、燕の子安貝、龍神の玉です。探して来た人が合格です!」……待て待て待て。お前は竹から生まれた姫君か?確かにお前に迫って来る奴を蹴落とすにはいい題材だが、いくらなんでも無理だろうそれは。俺の内心を指し示すかのように、参加者からはザワツキが発生した。面と向かって言うものはいないが、できねえやら無理だろと言ったニュアンスの言葉が聞こえて来る。「―――冗談よ!」冗談かい!!思わずツッコミを入れてしまった。「手に入らない宝なんていらないわ。では本当に探してもらうものを言います。鶴屋山にあるものを埋めてきました。それをよく見て、あたしが欲しいと思っているものを見つけ出して、あたしに届けること!チャンスは一度きりよ!」また穴堀りかよ。勘弁してくれ。しかも一度きりとはかなり厳しい。「ちょっとルールが厳しいからヒントをあげるわ。あたしの今の会話、冒頭からよく思い出しなさい!」…今の会話にヒントがあると!?毒電波だと思って聞き流していたぞ俺は。あの五つの宝がヒントとでもいうのか?参加者はバスで、ハルヒ以外の団員は車で鶴屋山まで移動することとなった。男共は試練参加者、女性陣は監視官だ。鶴屋さんとハルヒはステージで待機、正解者判定をするために残っている。分かった者から随時、車でハルヒの元に戻る仕組みだ。鶴屋さんは『他の用事で主要な車は出払っちゃって、こんなのしかないんだ。ごめんよ!』と言って、やたら大きい、えーと?『LS600hL』という車を運転手と秘書付きで二台用意してくれた。どこが『こんなの』なのだろうか?リアシートで足を延ばして寝れるし、しかもマッサージ機能やシアター、冷蔵庫まで付いている。極めつけは、この大きさで4人乗りというところだ。後部座席一人分で二人乗れるんじゃないかと思うがどうだろう?…しかし、鶴屋さんのいう『主要な車』とは一体どんなのだろうか?ヘッドライトからミクルビームみたく誘導放出による増幅光が発振されるとか、マフラーから水素と窒素が高音高圧で射出し、合成されたアンモニアを目眩まし兼ブーストガスに使用するとか、ウォッシャーノズルから化学実験で使用した銀鏡反応の廃液を発射させてアジ化銀爆弾にしているのではあるまいな?…いや、変な想像は止めよう。こと鶴屋家に於いては本当にありそうだ。想像するだけで怖い。「キョン君、涼宮さんが何を望んでいるか分かりましたか?」隣りの席に座っている朝比奈さんが小声でささやいた。なお、長門と古泉はもう一台の車に乗っている。全くもって分かりません。何なのですか?知ってたら教えてください。「ごめんなさい、答えは禁則事項です。…それに、涼宮さんはキョン君が自力でこの問題を解いて欲しいと思ってるはずです。あ、でも簡単なヒントなら差し上げられそうです…」是非教えてください。「…分かりました。涼宮さんが最初に言ったあの五つの宝、取って来いと言うのは嘘でしたね。実はあのフリは意味があることだったんですよ。五つの宝がどんな物語に出てきたかはご存じですよね?」ええ、竹取物語ですよね。「そうです。では、五つの宝は簡単に手に入るものでしたか?」いいえ、実在するかどうかも分からないものでしたね。余りにも難しいものなんで、偽者で誤魔化したり、探しに行ったものの怪我をしたり帰らぬ人になったりしてましたね。「詳しいんですね。その通りです。普通に探していては見つからないんです。ではなぜ姫はそんな難問を出したのかしら?」求愛者を退けるものですよね?「ええ。自分の望まない求婚を諦めさせるために求愛者に無理難題を言ったのです。…では、今回の場合はどうなんでしょう?それがヒントです。竹取物語と今回の試練をよく比較して、涼宮さんが何を望んでいるのか、その意図を掴んでください」ううむ、といわれてもな…「…実は、この案を考えたのは私なんです。いろんな案を考えてきたけど、涼宮さんに却下されちゃって…。少し落ち込んじゃった」朝比奈さんを落胆させるとは。ハルヒよ、また俺を怒らせたいのか?「最後の勉強会の後、『明日までに考えてきなさい』、っていわれて、どうしようか、どうすればいいのか、考え事しながら下校してたの。…結構ぼーっとしてたらしく、帰り道を大分間違えて歩いてたわ。急いで戻ろうと思って、ふと見上げたら、鶴屋山が見えたの。―そういえば、冬にキョン君と一緒に石を動かしたり、涼宮さんや長門さんと一緒にチョコケーキを隠してみたり、あそこにはいろんな思い出があるな―って考えてたの。そこで思いついたの。宝探しをしたら面白そうかな、って。涼宮さんも両手を上げて賛成してくれたわ。それに、自分の好きな人が、自分のために宝物を探して来てくれるなんて、とってもロマンチックです…」朝比奈さん両手を合わせ、遠い目をしながら俺に語ってくれた。朝比奈さんのためなら仏の御石の鉢をとりに天竺までだろうがインカ帝国までだろうが馳せ参じますよ。ハルヒに対してはイマイチやる気は沸きませんけどね…「うふっ、ありがとう。でも涼宮さんだって、本当に自分の欲しいものに気付いて、それを探し出し、届けてくれる人に憧れていますよ。キョン君、頑張って探し出してくださいね」―車が鶴屋山に到着したのは、このタイミングだった。ハルヒは鶴屋山に埋めたと言っていたが、またシャベルを使って掘り起こすのか?もう肉体労働は勘弁だ。それにやたらめったら掘り返していいのか?また変なOパーツが見つかってしまうぜ?そんな俺の気持ちを代用するかの如く、以前俺と朝比奈さん(みちる)が動かした岩の廻りにはキープアウトのテープが張り巡らされていた。流石にあの辺一体は歴史的に重要だと気付いたんだろうな。俺たちが案内されたのは少し開けた一角で、シャベルではなく、園芸用のスコップが渡された。しかも、よく見るとあちこちに掘り返された跡がある。これでは探すも何もあったものではない。土が乾いてない部分を掘ればいいのだからな。そして出てきたものをハルヒに届ければいいだけだ。えらく簡単な課題だな。しかし、俺のこの考えがモンブランに蜂蜜とアンコをかけて、ホイップクリームと一緒にクレープで巻いて食べるくらい甘かったことに気付いたのはそれから数分後だった。掘り返した辺りを掘って見ると、スーパー等に置いてある、フィギュアや玩具の入ったガチャガチャのケースが出てきた。中を開けると、『宇宙人』と書かれた紙が一枚入っていた。念の為、他の場所を掘って確認したところ『未来人』、『異世界人』、『超能力者』、『凡人』と書いた紙が入ったケースが見つかった。この5種類以外に違う事が書いてあるケースは見つからない。どうやらこの5種類のうち、正解をハルヒに持って行かなければならないらしい。…さあどれだ。この中で毛色が違うのは『凡人』である。だがあいつは『凡人』には興味が無い。そうするとそれ以外の四つが正解になる。実際、あいつは正解が一つとは言ってないしな。だが、四つ持って行って、これがお前の望むものだ、というのはすっきりしない。どこかに何かしらヒントがあるはずだ。だが、紙にもケースにもそれらしいヒントはない。いや、実は『凡人』が正解か?…そんな訳ないか。…ハルヒの欲しいのはどれだ?どれを連れてくれはいいんだ?『凡人』以外は普通に探しても見つからないしな。ん?『普通に探しても見つからない』?朝比奈さんがさっきそんなことを言ってたような……これが朝比奈さんのヒントと関係あるのか?よーく思い出せ、ハルヒの言葉もだ!―あたしが欲しいもの、それは仏の御石の鉢、蓬莱の玉の枝、火鼠の皮衣、燕の子安貝、龍神の玉です――なぜ姫はそんな難問を出したのかしら?――鶴屋山にあるものを埋めてきました。それをよく見て、あたしが欲しいと思っているものを見つけ出して、あたしに届けること!――自分の望まない求婚を諦めさせるために求愛者に無理難題を言ったのです――ヒントをあげるわ。あたしの今の会話、冒頭からよく思い出しなさい!――今回の場合はどうなんでしょう?それがヒントです。竹取物語と今回の試練をよく比較して、涼宮さんが何を望んでいるのか、その意図を掴んでください―…五つの宝、望まない求婚、無理難題、あいつが欲しいもの、物語と試練の比較…もう少しでつながりそうだが、何か引っ掛かる。かぐや姫は手に入りそうもない宝を要求し、求婚者を退けた。ハルヒも同じなのだろうか?それとも無理難題の宝が欲しいのだろうか?『―冗談よ!』―冗談!?『手に入らない宝なんていらないわ!』―唐突に、ハルヒの言葉を思い出した。…そうか、そう言う事だったのか。…俺は一つのケースを取り、車の運転手に伝えた。「答えが分かりました。ハルヒの元までお願いします」ハルヒは例の日傘の下で、鶴屋さんと何やら会話をしていた。やることが無くて退屈しているみたいだ。「やぁーやぁー、キョン君!早いじゃないか!君は7番目だよ!」「…あんたにしては早いじゃない。でも前の6人は間違いで失格よ。あんたも同じ失敗をするのか楽しみね?」俺は最後までやらなきゃいけないんだろ?「そうだけど、今後一つでも失敗したら即強制送還よ!」おいおい、そんな話は聞いてないぞ?いつ決めたんだ?「今あたしが団長権限を行使して決めたの。さ、早く答えを見せなさい!」ああ、わかったよ。俺は持ってきたケースをハルヒに差し出した。途端、ハルヒが不機嫌な顔になった。―予想通りだ―「―あんた、これ何よ?」ケースだ。お前か、お前の指図で埋めたんだろ?「そうよ。でもそんなことは聞いてないわ。なんでこんな物持ってきたのよ?この宝探しの意味、わかってなかったみたいね。失格よ。失格。帰っていいわ」ハルヒは中身を見ずに俺を失格にした。―これも予想通りだ―…中身を見ろ。「…中身を見たら、あんたが失格って納得するわけね。いいわ。見てあげる。どの紙が入っているか、興味あるわね………え!?…」ハルヒは、ケースをあけ、中身を取り出そうとして、固まった。惚けた顔がマヌケ面を助長させていた。「……………」どうしたハルヒ、狐に摘まれた様な顔しやがって。「…あんた、これどうゆう意味よ。何も入ってないじゃない!」ああ、そうだな。「そうだな、じゃないわよ。ちゃんと説明しなさい!」「…俺はちゃんと持ってきたぜ。お前の望む物を。それは紙に書かれた物でも、勿論そのケースでもない。『俺』なんだよ」―竹取物語では、かぐや姫は求婚者を望んでいなかった。だから手に入りそうもない宝を要求した。対して今(あくまで今現在、試練中の間だ)、ハルヒは、宝 ―ここで言う、紙に記載されていた不思議で発見不可能な者達― を望んでいるんではない。自分に彼氏ができることを望んでいるんだ。彼氏が無事に帰ってくるのを願っているはずだ。彼氏が欲しいのに、無理難題を押しつけて、彼氏が怪我をしたり、死んでしまっては元も子もない――竹取物語と全く逆だ―「お前が今、望んでいるのは宇宙人でも異世界人でもない。俺、つまり自分の彼氏となり得る彼氏候補、『参加者』自身なんだよ。そして、その自覚を持っているかを試す試練だったんだな。…本当は何も持ってこないのが正解だろうが、このままじゃ悔しかったからな。空ケースはちょっとした俺からのサプライズさ」「………」ハルヒは目をつり上げ、口を曲げたまま俺の話を聞いていたが、ふっと口元が緩んだ。「…あんた、あたしの意図が分かってたみたいね。その通りよ。合格よ!…ようやくSOS団として、あたしを盛り上げようとする自覚ができたみたいね」「そんな自覚はない。それよりな、お前との推理対決、夏冬の合宿と併せて、二勝一敗、俺のリードだな」「ふん!なによ偉そうに!!」ハルヒは顔を反らし、不機嫌そうに言い放った。…目は前髪で隠れていたものの、口元は始終緩んでいたのを俺は見逃さなかった。―ああそうだハルヒ。お前に言わないといけないことがある。「何よ」お前が言った竹取物語の五つの宝、最後は『龍の頸の玉』が正解だ。『龍神の玉』では某少年探偵の作者の漫画になってしまうぞ?「…っ、何よ!悪かったわね!!あたしは刃くんのファンなのよ!!」俺は思わず笑い声をあげてしまった。それが癪に触ったのか、ハルヒは本気で怒り出した…※試練その5に続く
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