恐怖のヒグマン子爵!!
少女は焦っていた。
目の前に現れた、その強大な存在を目の当たりにしたその瞬間から。
少女の名は巴マミ。見滝原の街を魔女の脅威から守る、最強の魔法少女。
しかし、そんな彼女の現在の姿を見てもそうは思えないかもしれない。
息を切らしながら建物から建物へとリボンを飛ばして移動しつつ、マシンガンのような勢いでマスケット銃を生成、射出し続けるその顔には、大粒の汗が滴っていた。
「君がこんなに苦戦するとはね。敵もかなりの力を持っているようだ。
これまで戦ったどの魔女と比較してもこれほどの相手はいなかっただろう」
「今は返事をしている体力も惜しいわ。そういう話ならここを乗り切ってからにして、キュウべえ」
これだけの銃を撃っているにも関わらず、当たった弾数は僅かなもの。
しかも、それもせいぜい体に少しの傷を付ける程度にしかダメージを与えられていない。一発一発はコンクリートをも撃ち抜く威力だというのに。
それでいて、力もまた恐ろしいものなのだ。きっとその一撃を受ければ人体など容易く砕かれるだろう。
巴マミをしてこれほどに苦戦させる相手、それは当然のことだがヒグマであった。
しかし、ヒグマと呼ぶにはあまりに細身の体をしており、目は爛々と白く光っている。
そのヒグマは、ただのヒグマではなかった。
かつてとある世界にスーパーヒグマ大戦というゲームがあった。
ヒグマを敵に回し、様々な動物を模したキャラクターを操って戦わせるゲーム。
そのゲームの中に、一際強力なヒグマが存在した。
蜃気狼の強固なバリアを破り。
虎ンザムの高速攻撃をも避ける機動力を持ち。
多くのscope犬を沈め屍の山を築いてきた、ヒグマの中のヒグマ。
その名を、ヒグマン子爵と言った。
巴マミには知るよしもないが、どうやって呼び寄せたか、あるいは生み出したか、そこにいるのはそのヒグマン子爵そのものだった。
空を飛ぶ翼など持っていないはずのヒグマンは、その己の脚力をもって空を蹴ることで巴マミの追撃を果たしていたのだ。
狭いビルの隙間に入り込んだ隙に、マミは多数のリボンをつなぎ合わせて、追ってきたヒグマンを拘束しようと仕掛ける。
が、ヒグマンはそんなリボンいかほどの物かと言わんばかりに腕を振るい、その鋭い爪で一瞬の元にリボンを切り裂いた。
「まずいわね…」
こうなれば有効打になりそうなものといえばティロフィナーレクラスの大玉のみ。
しかし、それを撃つにはあまりに速すぎる。
溜める間に距離を詰められては話にならないし、もし撃てたとしても当たる可能性は低い。
見積もっても命中率3%といったところか。賭けるには小さすぎる。
とにかく体勢を立て直すため、一旦地面に着地した。
するとヒグマンも同時に地面に降り立つ。
着地の隙を狙ってマスケット銃を5発打ち込んだが、3発は逸れ、2発はその肉体に弾かれた。
「これは無理だと思うよ。マミ、早く逃げた方が――――」
「うおおおおおおおお!!」
そんな二人(?)の間に突っ込んできたオレンジ色の髪を持つ男。
「えっ?」
「早く逃げて!こいつは俺が引き受けますから!」
ああ、そうか。今の光景、傍から見れば怯える女の子がクマに向かって銃を構えて震えている光景に見えたのかもしれない。
だが、マミからすればむしろそっちに逃げてもらったほうがいい。
「あなたも危ないわ!早く逃げてください!このクマは危険よ!」
「大丈夫!俺は軍人だから!
暴徒鎮圧には慣れている!このクマだって似たような(ゴスッ)うわあああああああああ!!」
と、ヒグマンの腕が掠っただけで吹き飛ぶオレンジ髪の男。
とはいってもあの怪力から振るわれる腕は掠っただけでも吹き飛ぶ衝撃を持っているのだが。
慌ててリボンで体を絡めとり、こちらに引き寄せるマミ。
しかし襲い来るヒグマンは待ってはくれない。
その腕の一撃で吹き飛ばされるも、背後にリボンを生成。そのまま一気に接近してマスケット銃を突きつける。
マスケットにリボンを巻きつけ緩衝材とすることで腕の一撃の衝撃を和らげ、そのまま至近距離から銃口が火を噴く。
銃弾は皮膚に阻まれ、血の一滴すらも流すことはない。
だが至近距離での銃撃に痛覚を刺激されたのか、一瞬動きを止めるヒグマン。
と、マミの元に何かが投げつけられた。
「これを使って!クマ殺しっていうらしい!多分毒だ!」
「分かった!ありがとう!」
渡されたそのクマ殺しなる液体の入ったビンを、ヒグマンに投げつける。
ビンは頭にぶつかって割れ、その体を液体が濡らした。
すると、やはり毒であったのか、唸り声を上げて苦しむヒグマン。
しかし、その動きまでは止められず、暴れるヒグマンは男に向かって突撃をかける。
その間に割り込みリボンを構えるマミ。そこへ、
「うわあああああ!!!」
襲い来るクマへの恐怖ゆえか、男の振るった腕がマミにぶつかる。
それは、マミの肩に乗っていた白い生き物を弾き飛ばした。
そして、飛んだ先にあったのは、クマの巨大な口。
「わけがわからないよ」
ゴクン
「キュウべえ?!キュウべえ!!!」
目の前で無惨に食された友の姿に声を上げるマミ。
そんな小さな体では足りないとでも言わんばかりにヒグマンはこちらに向かって飛び掛る。
友を食われた怒りゆえか、冷めた頭で冷静に軌道を読み、腕を避けるマミ。
そして男の体を掴み上げ、遠くに投げる。当然その先にリボンを配置しておくことも忘れない。
更なる追撃をかけようとしたヒグマンの視界にふと人影のようなものが複数映りこむ。
それを切り裂かんと一斉に爪で切り裂いたその瞬間、その人影のようなものは解けリボンへと変化、ヒグマンの体を何重にも縛り上げた。
しかし、何重にも拘束したとはいえヒグマンの体を縛り続けることはできない。
数秒の後リボンを強引に引きちぎり空を見上げたヒグマンの視界に。
巨大な3つの砲台が映った。
「ティロ・フィナーレ・トライアングル!!!!」
宙に配置された3つの巨銃は、マミの怒りを乗せてヒグマンの肉体に炸裂した。
「いやあ、ヒグマは強敵でしたね…」
「キュウべえ…、キュウべえ……!」
「勝ったんですから、もっと喜びましょうよ!
俺なんて人生2連敗なんですよ?!」
きっと、この青年にはキュウべえのことは見えていなかったのだろう。
だから今自分が悲しんでいる理由も分からないのかもしれない。
でも悲しんでばかりでいても仕方ないのもまた事実。キュウべえの死を受け入れ、強く生きなければいけない。
「…ありがとうございました。私は巴マミ、あなたは?」
「ああ、そういや名前名乗ってなかったな。俺の名前はミス(ガブッ
と、横を向いたマミの目の前で、オレンジ髪の男の頭が消失した。
同時に吹き出る大量の血。
鮮血の噴水の向こうには、その巨大な口を動かすヒグマンの姿があった。
「そんな…、どうして…」
毒を浴びせ、ティロフィナーレの3連射まで浴びせたのに。
そこにはさしてダメージを受けた様子もないヒグマンが立っていた。
日本人ではないオレンジ髪の男には分からなかったが、クマ殺しという液体は実は毒でも何でもなかった。
名前、刺激臭から毒と判断したが、それはただの酒だったのだ。
いくらヒグマンがヒグマの子爵と呼ばれる強熊であったとしても、生き物である以上目や鼻に酒が入れば痛いのは当然。でも別に死ぬこともない。
そして、酔えばクマとて凶暴にもなる。
「い、嫌、こないで…」
もはや完全に腰を抜かして後ずさるマミ。
己の最大の一撃すらも効かなかった相手に、対抗する意思など持てるはずもなかった。
そんなマミの元に、ゆっくりと、のっしりと重量感を感じさせるような動きで近づくヒグマン。
マスケット銃すら構えられない、圧倒的な威圧感。
「嫌、まだ死にたく……嫌…」
後ずさるマミの目の前。
振り上げられた腕に鋭い爪が煌き。
「いやああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」
巴マミの絶叫をかき消す勢いで、振るわれた腕は彼女の体を切り裂いた。
◇
数分後、そこに残っていたのは腹を割かれ、内臓の半分を損失させた、金髪の少女の姿のみ。
ヒグマン子爵は新たな獲物を求めてその場を去っていた。
その輝きを少しずつ濁らせつつも未だ黄色に光る宝石の存在には、一瞥もくれずに。
【G6・街/深夜】
【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ】
状態:意識なし、内臓半分損失(回復中)、全身ダメージ(中)
装備:ソウルジェム(濁り小、回復に魔力消耗中)
道具:基本支給品(食料半分消費)、ランダム支給品1~2
基本思考:??????
1:??????
※支給品の【キュウべえ@魔法少女まどか☆マギカ】はヒグマンに食われました。
【ヒグマン子爵(穴持たず13)】
状態:ダメージ小、酒(クマ殺し)による酩酊状態、それなりに満腹
装備:無し
道具:無し
基本:獲物を探す
※細身で白眼の凶暴なヒグマです
【ミスト・レックス@スーパーロボット大戦K 死亡確認】
ミスト・レックスの支給品は巴マミの近くに放置されています
最終更新:2014年09月18日 08:26