「あっ、ち、千早…」
「っ?!え、えと、な、何か?」
「い、いや、あーっと…」
「ご、ごめんなさい、私、急いでいるので、し、失礼します!」
「あっ…」

…ここ最近、千早に避けられている。

何度も考えてはみたけれど、心当たりがない。
…この前、褒める時に頭を撫でたのは無関係だと信じたい。何より千早も嬉しそうにしていた。
そして、最も気がかりなのは――


なぁ、千早。何故そんなにも怯えた眼で俺を見るんだ?





「やはり本人に直接訊いてみてはどうですか?」
「けどなぁ~…」
千早が事務所を後にしてから、俺は律子と春香に相談していた。
第三者だからこそ気が付ける点があるかもしれない。律子は頭も良いし、春香は事務所内で千早と特に仲が良い。
この2人なら何か良い解決策を思い付いてくれるのでは、と思った…のだが、
「いくらなんでも話が不明瞭過ぎます。今の私達はプロデューサー以上に分からないことだらけです」
「…ですよね~」
結局、2人に余計な心配を掛けるだけになってしまった。情けない…。
「1つハッキリと言えるのは、千早の中で何かしらの変化があったということ。それも、プロデューサーをあまり良くない理由で避けるような」
「…うん」
はぁぁ~、どうしよう。どうしよう。
頭を抱える俺の姿は2人にはどう映っているのだろう。理由は何であれ、千早に避けられている事実は変わらない。幻滅…さてれるよなぁ。
あぁ、一体どうすれば…。
「あ、あのプロデューサーさん」
「…ん?」
「千早ちゃんとプロデューサーさん、すごく仲良しだなって思ってました。それは今も変わりません。プロデューサーさんにしか見せた事のない千早ちゃんがたくさんいるんだと思います。
だから、その、上手く言えないんですけど…」
そこで春香は強く頷き、
「そんな2人にこれ以上辛い思いして欲しくない。だから、私に出来ることがあれば何でも協力します!」
その言葉に、律子もまた、大きく頷いた。

――あぁ、本当に優しい子たちだ。

…そんな2人を前にして、俺は再び頭を垂れる。
けれど、それはさっきとは違い、
「…ありがとう」
溢れる涙を見られないように。





あれから話し合った結果、俺からの連絡事項は春香を介して伝えてもらうことになった。
取り敢えず、落ち着いて様子を見ようというのが律子の意見だった。
―無理矢理に千早を問い質すのは良くない
それは俺も同意だった。
結局、千早から話を訊く以外に手は無いにしても、無理矢理にというのは気が引けた。
千早もまた、苦しんでいるのだから。





あの話し合いから数日が経った。
依然、俺と千早の関係は変わらぬまま…いや、すれ違うことすら無くなり、悪くなったかも知れない。
このままじっとしているだけで本当に良いのか。自分から何らかの行動を起こすべきではないのか。
焦りと不安の入り混じった考えが、ぐるぐると頭の中を廻り続ける。
「…あの、プロデューサーさん」
「え?」
顔を上げると春香が困惑した表情を浮かべていた。
「どうした春香?」
「千早ちゃんのことなんですけど…」
「千早に何かあったのか?」
「その…元気がないというか。大丈夫って言うんですけど、顔色も良くないし…。私、心配で…」
「そうか…」
恐らく俺とのことが関係しているだろう。
…かなり無茶をさせてしまっていたんだ。
「千早に今日はもう帰って休むよう言ってくれるか?」
「は、はい。でも…」
千早のことだ。素直に頷きはしないだろう。
「強がるようなら、このまま体調が悪化して歌が唄えなくなる可能性も捨てきれない、とでも軽く脅かしておけ」
これは本心。メンタルなことが起因しているとはいえ、今後どういった症状が出るか分からない。
…70%はただ純粋に心配だから。
「わ、分かりました」
「…ごめんな、春香。こんなことばかり頼んで」
「いえ!私も千早ちゃんのこと心配ですし、それに…」
今までとは一転、まばゆい程の笑顔を浮かべると、
「仲良しなプロデューサーさんと千早ちゃんが私は大好きですから」


しかし、千早が事務所で倒れたのはそれから2日もしない内だった。





そして、今。俺は千早の家の前まで来ていた。
「…よし」
覚悟と決意と…ちょっとだけの怯えを胸に。
インターホンを鳴らすと、千早のお父さんが俺を出迎えてくれた。
今回のことを、担当プロデューサーであり、責任者として俺は頭を下げた。
そんな俺に千早のお父さんは、お気になさらないで下さいと言った。
――あの娘自身が招いただけです。
付け加えられたその言葉はどこか冷たく、まるで自分の娘を蔑むようでもあった。

その後、所用があるといってお父さんは家を出て行ってしまった。

・・・

千早の部屋の前で、ただ立ち尽くす。
千早がこんな状態になってしまった原因が俺にあるかも知れない。そんな俺が千早を見舞うのか?余計なことではないのか?
そんな考えが頭を過ぎる。

…だけど
…だからこそ

俺はこれ以上逃げてはいけない。向き合って、話をして、千早の心を知ろう。
「(…よし)」
心の中で再度気合を入れ、俺は扉をノックした。





「…千早、俺だ」
「…」
「入っても、いいか?」
「…だめ、です」
暗く沈んだその声は、しかし以外にもすぐ近くから聞こえた。
「今、ドアの前にいるのか?」
「…はい」
「…そうか」
千早の声は今までの輝きを失い、少し緊張しているものの落ち着いてはいた。
お互いの顔が見えないからだろうか。俺もまた落ち着きを取り戻せていた。
ドアに背をつく形でその場に座る。
「体調はどうだ?」
「もう…大丈夫です」
今、俺たちを隔てているのはたった1枚のドア。それが俺達の距離。
「…」
「…」
それぎり互いに黙り込む。
そして、その沈黙を先に破ったのは、
「…プロデューサー」
千早からだった。
「なんで…ここまでいらしたんですか?私は…私の勝手でプロデューサーのこと避けて迷惑かけていたのに…」
「それは…」
今日、ここに来た理由。
目を閉じる。脳裏に浮かぶのは、春香の笑顔。

―がんばってください

…あぁ、がんばるよ。俺は、向き合うって決めたからな。
「俺はお前の担当プロデューサーだから。責任を以ってお前を預かっている身だから」
「…」
俺の言葉に千早は、小さく笑ったような、そしてどこか寂しさを含んだ声で、
「そう、ですよね…。プロデューサーにとって、私は…大勢の1人でしか―」
「けどな」
「…え?」
「今のは確かに本心だ。だけど、そんなのがなくたって俺はここに来た。…ただお前が心配だから」
「…それは、プロデューサーとしてですか?」
「言っただろ、そんなのがなくたって、ってさ」
「それなら、どうしてですか…?」
「…」
その『どうして』が何を指すのか。千早の求める答えが何なのか。
深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。
「なぁ、千早。俺さ、765プロを辞めることも考えたんだ」
「…えっ?」
「こんな所でお前の才能を潰したくないからな」
「…そ、そんな」
「でも、それはお前のためを想ってという理由で偽った逃げだと思うから。俺はもう逃げない」
互いが楽になるだけなんて間違っている。
「俺はお前やみんなとの約束を守りたい」
「やく…そく…?」
「あぁ。まだ駆け出しの頃の、みんながようやくスタートラインに立った時の、そしてみんなが目指す場所」
「…あ」

―みんなでトップアイドルになろう

「その約束を守りたい。そこに俺がいないのも、お前がいないのもダメだ」
そう、誰一人欠けてはいけない約束。
「千早、俺はもう逃げないと決めた」
「…」
「だから――」
「…います」
「え?」
「違いますよ、プロデューサー。逃げているのは私です。…ずっと逃げてばかり」
「…」
「…」
「あぁ…そうだな」
「…」
「確かに千早は俺を避けて、逃げていた。でも、それは俺も同じだ。無理矢理話をさせたくない、千早に負担を掛けたくない。そんな言葉で自分を偽って、まるでそれが正しいと思い込むようにして。…それが俺が千早から逃げていることに気付かないように。
「…でも」
「だけど、俺はもう逃げないと決めた。何度でもお前と向き合うと決めた」
「…私は」
「千早…。俺は…」
「…?」
波打つ鼓動を押さえ込む。
千早に、俺の言葉を、俺の想いを伝えるために。
「…俺は、お前に好かれる俺でいたい。お前が好きな俺でいたい」
「…っ!」
「それを伝えるためにここに来た」
俺は千早に手を差し伸べた。
その手を千早は、
「…なんで…なんで」
「…千早?」
「プロデューサーはいつもそうです…。しっかりしているようで、どこか抜けていて。それでも私たちのこと最優先に考えて力になってくれて」
その文句のような褒めているような曖昧な言葉が、
「そんなプロデューサーだから、つい甘えて、頼ってしまって。」
何故だか嬉しくて。
「…そして、私が伝えたいことを、先に言ってしまう」
「え?」
それは…
「プロデューサー、私の弟のことを以前お話しましたよね?」
「あ、あぁ…」
あれは確か、千早と一緒に彼の墓参りをした時だったか。
「私と弟は仲が良くて。弟はよく歌を唄ってとねだりました。歌を聴いてくれてる時の弟はいつも笑顔で…唄い終わると拍手しながら、ありがとうって。お姉ちゃんの歌、大好きだよって。
私も、喜んでくれるのがすごく嬉しくて。…だから」
「…千早」
「…だから、弟が事故に遭って、いなくなってしまって…」
「…」
「とても大切な人…。あの時、凄く辛かった。弟のことを思い出すたびに泣き出して。それでも両親は私のことも少しずつ見てくれなくなっていって…。でも、だからこそ、私は弟が喜んでくれた、大好きって言ってくれた歌を大事にしたくて」
「…」
「それからの私は歌のことばかり考えて、他人ともうまく付き合おうとしないで…。プロデューサーとお会いしたばかりの頃の私ですね」
そう言うと千早は自嘲するかのように小さく笑った。
「学校のクラスメイト達もそんな私に無関心になっていって…。でも、それで良かった。良かったんです。自分の殻に塞ぎ込んで。周囲の音を聞かないようにして。
だけど…だけど…そんな私に手を差し伸べてくれる人たちがいたんです」
「あ…」
「それが、私が765プロに入った頃。みんなで頑張ろう、一緒にトップアイドル目指そうねって言ってくれたんです」
千早も、あの子の笑顔に救われていたんだな。
彼女の太陽のように眩しい笑顔が思い返される。
…ホント、凄い奴だよお前は。
「けれど私はそれまで人と関わらないようにしてきたから。差し出された手を掴むことが出来なかった。手を伸ばそうとして、引っ込めて。躊躇、してしまって。
…でも私の手を強引に掴んだ人がいたんです。その人は、これから一緒に頑張っていこうなって笑顔で言いました」
「あー…」
なにやら聞き覚えのある台詞が。
「気付いたら私は殻の外にいて。少しずつみんなと話すようになって。
…まるで違う世界に迷い込んだような気分、でした。それくらい私の目には今までと違う色々なものが映っていました」
その頃…だろうか。彼女と墓参りをしたのは。
「私は、私の手を引いてくれた人の温かさが、優しさが嬉しかった。嬉しくて、舞い上がってしまった……殻に閉じこもった理由を忘れるくらいに」
「…理由」
「その人に優しく頭を撫でてもらった時、プレゼントに指輪を頂いた時。私は嬉しさと…焦りを感じていました。その人のことを考えると鼓動が早くなって、声が震えてしまって。でも何故だか嬉しさと焦りが混ざっていて。その頃です、私がプロデューサーを避けるようになったのは」
「…」
「部屋に篭ってずっと考えていました。この気持ちはなんだろうって。ずっとずっと。
そして…気付きました。あの指輪を、指に、はめた時。
私は…プロデューサーのことが好きなんだ。だからこんなにも切ないんだって」
「…っ」
「プロデューサー?」
「いや、なんでもない…続けて」
「は、はい…?」
千早はさらっと言ったけど、聞く方と言うか、こ、告白された側としてはさすがにドキっとしてしまうわけで。
…自分のことは棚に上げてる気がしなくもない。
「そのことに気付けたのは良いことでした。…ただそれだけなら。同時に気付いた、気付いてしまったんです。

…私がプロデューサーを恐れていることに」

「え?」
「あなたのことを考えれば考えるほど、想えば想うほど、私は恐れを感じるようになった。
恐かったんです…あなたが、弟のようにいなくなってしまうことが。また大切な人がいなくなってしまうことが」
「千早…」
彼女の心の奥底に根付いてしまった寂しさ。それが俺を恐れる理由だった。
「あなたの笑顔を…あなたの強さを思い出すたびにどんどん惹かれて、恐れて。私は弱いから、どうしても逃げてしまう…」
―あぁ、そうか。そうだったのか。
彼女はただ繋いた手が離れてしまうのが、再び殻の中の世界を見るのが、恐かったんだ。
俺が差し伸べた手。
千早が掴んだ手。
繋がれた左手と右手を離さないように。
「…言葉だけじゃ、不安か?」
「え?」
「俺はお前の側にいる。ずっと、いつまでも。お前が望む限り、俺はお前の手を取り続ける。
こんな言葉だけじゃ不安か?」
「…」
その無言は肯定。そうでなくとも俺が…認めない。
「千早…、言葉だけじゃ足りないなら、お前が望む、お前だけの形で俺を繋ぎとめろ」
「え…」
「お前が離さない限り、俺はお前の隣にいる。なんでもいいよ、言ってごらん」
「そう言われても…」
千早はしばしの逡巡の後、
「それじゃ…結婚してください」
「…」
「なんて、そんなの無理――」
「いいよ」
「………え?」
「もし、お前がそうしたいなら俺は良いよ。むしろ嬉しいくらいだ。俺だって千早のこと好きだ…ってこれはさっきも言ったけど」
「…プロデューサー、本気ですか?」
「ここまできてお前の方がそんな気は無いって言うなよ?!」
「そ、そんなこと言いません!…私なりにちゃんと考えた上での意見です」
「そ、そうか…。でもまぁ、すぐには無理だけどな」
「そうですね…私もまだ15ですし」
「…先にトップアイドルになること考えろよ」
「…トップアイドルになった時にはもう大丈夫ですね、ふふ」
「…」
「プロデューサー?」
「あ、いや」
自分では気付いていないか。今、初めて明るく笑ったことに。
「…ねぇ、プロデューサー」
「ん?」
「私は…あなたのように強くなりたい。私を支えてくれたあなたのように。そして、今度は私があなたを支えられるように。それには時間が掛かるかも知れません。また恐がるかもしれない。今回より酷くなるかもしれない」
2人で手を繋いで歩く。
「それでも…待ってくれますか?」
その時に千早がふいに立ち止まってしまったら。
「当たり前だ。俺がお前の手を離さない限り、俺はずっとお前の隣にいる」
先を急ぐつもりは無い、自分のペースを崩す必要も無い。そして何よりも――
「俺はお前を離すつもりがないからな」
千早が立ち止まるなら俺も止まる。
俺が立ち止まるなら千早も止まる。

千早が好きな俺でいたい。千早に好かれる俺でいたい。
俺が好きな自分でいたい。俺に好かれる自分でいたい。

俺達はそれを願い続けていた。
扉1枚、それがずっと前からの俺達の距離だったんだ。
「…」
「千早?」
俺の言葉に千早は何も言わないままで。やがて、扉が少しだけ開かれると、
「プロデューサー…」
そこから千早が半分だけ顔を見せてくれた。そして、
「今度、プロデューサーのも買いに行きましょうね…」
「へ?なに――」
言い終える前に気付く。赤ばむ顔と一緒に見える、彼女の左手。
「…あぁ、そうだな。そうしよう」
俺の言葉に千早は、
バンッ
「って、おい!なんでドアを閉める!?」
「ダメです!ダメです!入ってきちゃ!」
「ダメって…」
そりゃ、すぐに恐くなくなるとは思ってないけどさ。もうちょっと顔見せてくれたって、
「…だって今の私の顔、ものすごく…みっともないです」
「…ニヤついてるお前の顔も見てみたいぞ俺は」
「絶対にダメです!」
「ははは」
自然に笑みがこぼれる。ちょっとの疲労と再び早く鳴り出した鼓動が…どこか気持ち良かった。
キィ
「お?」
再び扉が少しだけ開かれた。
「千早?」
「あの…しばらくの間、手を握ってもらってても…」
扉から出される千早の左手。
その手を無言で握り返す。
強く、優しく。彼女の薬指にはめられた証と共に――。





「おはようございまーす!」
「おはようございます」
「ん?…おぉ、春香、律子、おはよう」
朝、まだスタッフもまばらな時間に2人は事務所へ来た。
「プロデューサーさん、また徹夜ですか?」
「あぁ…どうにも上手く進まなくて」
書類自体はそんなに難航するようなものではない。はっきり言えば、残業しても2時間で終わる程度だった…のだが。
「プロデューサー、着替え持って…は、春香!律子!」
そこに入ってくる千早。俺のロッカーから持ってきてもらった着替えを片手に。
「はは~ん」
律子の眼鏡が怪しく光る。
「そういうことですか、プロデューサー」
「な、なにが?」
「いえ、特に気になさらなくて構いません。ちゃんとお仕事してるなら問題無いですし」
「いやだから…」
えらく気にさせる言い方をしてくれる。
「私は小鳥さんに用事があるので行って来ます。春香、行きましょ」
「え?あ、はい」
春香は先を行く律子の後を追って…その前に何故か俺のもとまできて、小声で、
「あまり千早ちゃんばかり甘やかしちゃダメですよ?」
「なっ――!」
それじゃ、と笑顔のまま春香は律子と共に行ってしまった。
「…やれやれ」
仲直りしたことを告げたときに泣いて喜んでくれたのは誰だったかね。
おっと、そうだ。
「千早、ごめんな。わざわざ――」
と、千早の方へ振り向くと、
「……」
ツーンとそっぽを向いていた。
「ち、千早?」
「怒ってません」
「何も言ってねぇよ!?」
「ツーン」
「いや、そんな…わざわざ言葉にされても」
何かがお気に召さないご様子。たまにこういうことがある。
そういう時は毎回、
「あっ、そうだ」
まるで今思い出したのかのように手を叩く。
「千早、こっちおいで」
手招き。
「そんなこといって…頭撫でて誤魔化すだけなんですから!もう騙されません!」
そう。そういう時は限って俺は千早の頭を撫でていた。
「今回は違うって。ほら、こっちおいで」
「…」
無言で少しずつ近寄る千早。
こっちおいで、騙されません、今度は違うよ
このパターンも今回で7度目くらいか。
「うん、いい子いい子」
そして千早の頭を右手で優しく撫でる。
「もぅ…やっぱりじゃないですかぁ」
そんな文句もこれで7度目。
お互い、既に分かっているからこその掛け合い。
「大体ですよ…徹夜は体に良くないって何度も言ってるじゃないですか」
「お前が言うなって何度も言ってるだろぉ」
俺がデスクで仕事をすれば、後ろでまるでメイドのように仕えたり。
千早も座れるようにソファーに移動すれば、俺のひざで眠ってしまったり。
「はい、おしまい…今度は俺が寝る番」
あくびをしながらソファーに移動する。
「どうぞ、プロデューサー」
そして当然のように俺の枕元に座る千早。
「ん…」
そして当然のようにその膝に頭を置く俺。
「それじゃ、おやすみ千早…」
最後に彼女の頬を左手で撫でる。
「はい、おやすみなさいプロデューサー…」
千早もまた俺の頬を左手で撫でる。
その暖かさと、優しさと、たまに感じる冷たさに身を預け…俺は眠りについた。

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最終更新:2007年11月28日 12:56