とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

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『魔神』はふいに手を向けた。
ただそれだけの動作に、
『魔王』は戦慄した。
「ッ!!!」
ベクトル操作で壁から思い切り体を上空に飛ばした。
体中には大きな風圧がかかった。
一瞬で上空200メートルまで舞い上がった。
そして、その判断は正しかった。

忽然と、街並みが消えた。

何の音も無く、ただ消えた。
魔神が手をかざした方向にあったものが全て、消え去った。
上空から見えるその方向にあったもの全てが、何か抉り取られたように無くなった。

バオォ!!と爆風が吹き荒れた。

突如現れた風に白髪の少年の体が揺さぶられる。
弾き飛ばすような爆風では無く、吸い込まれるような爆風。
ベクトル操作をうまくコントロールできず、地面に叩きつけられることを回避した彼は、なんとか上空に留まった。
(何あれ!?一体どうなってるの?ってミサカはミサカは彼の能力は説明がつかないってアドバイスしてみる!)
忠告になってねえよ、突っこむ余裕は『一方通行(アクセラレータ)』には無かった。
(桁違いの『空気圧縮(エアロプレス)』か?いや、それじゃあ爆風の風向きが説明つかねェ。だがヤツの能力は『魔術や超能力など』を打ち消してしまう力だ。…まさか『多重能力者(デュアルスキル)』か?)

「そこから高みの見物か?随分と余裕だな。『魔王』よ」

空中に浮いている『一方通行(アクセラレータ)』の一〇〇メートル下。長点上機学園の制服を着た『魔神』が悠然と立っていた。
彼が起こしたであろう惨状には目もくれず、白髪の少年をただ見上げていた。

「3キロ先のビルまで吹っ飛ばしておいて、よく平然としてられるなァ。『ドラゴン』」
「…ふむ、その言葉の趣旨は理解できぬが、余は手加減をしているのだぞ?」

「なら好都合だ」
白髪の少年は両手を大きく広げた。
突如、暴風が吹き荒れた。少年の真下に、『風』が一点に集中する。轟音とともに眩い光が誕生した。
高電離気体(プラズマ)
一点のみの光点は周囲の空気を飲み込み、一瞬で直径三〇メートルに膨れ上がる。摂氏一万度を超える高熱の余波が白髪の少年を襲った。
しかし、『反射』の前には何の意味も無い。
稲妻のような音が周囲に鳴り響いていた。『原子』を『陽イオン』と『電子』に分離し、莫大な電気量が渦巻いている。人がまとも当たれば、瞬時に体は蒸発し、骨すら残さない。
『打ち止め(ラストオーダー)』の代理演算のおかげで、原子単位で計算の狂いは無い。発生速度、圧縮密度、体積、威力ともに申し分は無かった。
その一撃を『魔神』に容赦なく振り下ろした。

「余裕ブッこいてンのはテメェのほうだろうがァ!!」

辺り一面がすさまじい光に包まれた。
その先に、白髪の少年は眼の端に捉えた。

『魔神』がこちらに左手をかざす瞬間を。

(!!危ないってミサ―――――――――――――――――)
刹那――――――――――――

フッ、と高電離気体(プラズマ)が消えた。

その一瞬を捉えることなく、白髪の少年は自分の意思とは関係なく体が『勝手に』脇にそれた。
遅れて、ドワァッ!!という爆風が吹き荒れた。
煙や埃は舞い、町中のガラスは割れ、看板や車などもが風に飲み込まれた。
『一方通行(アクセラレータ)』の元いた場所には巨大な旋風が生まれている。
あるもの全てを薙ぎ払い、全てを飲み込む。

西方一〇〇〇メートル先のビルの壁に白髪の少年は着地した。
「ラストオーダー!テメェ何勝手に操作してやがるッ!」
(あそこにいたら死んでたよ!ってミサカはミサカは貴方に力いっぱい叫んでみる!!)
「んだとォ!?あんなもんは全て『反射』してしまえばいいだろオ!」
(―――――――――――ッ!!?そ、空を見て!!)
「ああァ?」
空を見上げ、
白髪の少年は凍り付いた。


そこには、大きな穴が開いた雲があった。

その下では、巨大な竜巻のような光景が広がっていた。
まるで太陽に吸い寄せられるかの如く、あらゆる物体は舞い上がり、螺旋を形成していた。
轟音が鳴り響く中、砂利や土砂、根ごと引っこ抜かれた木々や機械の破片が吹き荒れ、白髪の少年にも降りかかってくる。
「チッ!」
呆けている暇も無く、『反射』で周囲のものを吹き飛ばす。周囲の大気を利用して、さらに一〇〇メートル上空に舞い上がった。
眼前には悲劇。
瞬く間に周辺の景色は荒廃した。
道路はひび割れ、建物は崩壊し、長点上機学園の正門は見る影も無くしている。車も周辺機械も粉々に砕け散り、炎上しているものもある。舞い上がった物体は、時を経て地面に落下している。
「畜生が…」
そんな光景の中、『魔神』は立っていた。
無傷。
それだけでは無い。
『一方通行(アクセラレータ)』が驚愕している点はそれだけでは無かった。
「…一歩も動いてねェ」
何事も無かったように『魔神』はその場にじっと立佇んでいたのだ。
真っ黒な瞳でこちらを見つめている。

白髪の少年は拳を強く握りしめた。
得体のしれない能力。得体のしれない恐怖。戦慄などでは無い。ただ不気味だった。『上条当麻』という存在が。
かつて右手だけで自分を殴り倒した存在が。手をかざしただけで『何か』をする存在が。

「『幻想殺し(イマジンブレイカー)』の本質はあらゆる魔術を打ち消すことではない」

唐突に『魔神』は口を開いた。

「上条当麻の本来の力は『消滅』だ。そこに例外は無い。魔術だろうが物体だろうが地脈だろうが触れたもの全てを消し去ってしまう」

「…ハッ、随分と御大層な能力だな」
『魔神』は人差し指を口にあて、また一言紡いだ。
「それともう一つ」

「貴様は絶対に余には勝てない」

「誰に向かって口をきいてやがる。『魔王』サマがテメェに勝てねえだと?空想の生物風情が人間サマに粋がってんじゃねェよ」




「勘違いするな、『魔王』。『宣言』では無い。これは『結果』だ。いいか、貴様は勝てない。そして死ねない。『絶対』にな」







(二日目)午前10時01分

「何よこれ…」

御坂美琴は呟いた。
ここは『学舎の園』の地下七キロ下にある核シェルター。
小型飛行機を運搬するような地下エレベーターが下った先には、約一〇〇〇〇人を収容できる大型施設があり、食堂や個室や大浴場、トイレや多目的室など様々な生活空間が設置されている。避難してきた生徒たちは巨大なホールに集められていた。続々と『学舎の園』の生徒や関係者が避難してくる。その団体の中で、常盤台の制服を着た二〇〇人程度の常盤台中学の生徒たちが避難者の最前列にいた。
ホールには四〇〇〇人を超える人々が集まっているというのに、小さな物音すら周囲に響くほどの静けさが漂っていた。

皆、ホールにある大スクリーンに映し出されている映像に固唾を飲んでいた。

「第一八学区」と表示されている倒れた看板が映っていなければ、そこが「第一八学区」だとは誰も気付かなかっただろう。
崩壊した多くの高層ビル。爆弾で吹き飛ばされたかのような巨大な大穴。炎上する車や施設。
地獄のような光景の中心に、一人の少年が立っていた。
背丈は一七〇センチ後半。ツンツンとした黒髪で長点上機学園の制服を身に纏った生徒。
御坂美琴にとっては見慣れた後ろ姿だった。
時には絶体絶命の危機を救ってくれた勇敢な少年の背中。
時には後輩を救うために何の迷いも無く協力してくれた少年の背中。
時には涙で濡れた顔を隠すために覆ってくれた優しい少年の背中。
時には彼を求め、温もりを感じさせてくれた愛しい少年の背中。

その背中が今、この大騒乱の『黒幕』として映し出されていた。


スクリーンの中で大きな竜巻が吹き荒れると、雑音と共に画像が歪み、映像が途切れた。
その直後から周囲が騒然となる。
その場に蹲って泣き叫ぶ人々もいれば、『警備員(アンチスキル)』や『風紀委員(ジャッジメント)』に「何が起こってるんだ!」と食って掛かる人々もいた。
大スクリーンの最前列にいる常盤台中学の生徒はクラスごとに集合しろと言われていたが、気の合う友達や派閥といった各々のグループに分かれて話し込んでいた。引率の先生も小型通信機やパソコンからの連絡や情報のやり取りに忙しく、あまり注意していない。

呆然と立ち尽くしていた御坂美琴の背中から声がかかった。
「大丈夫ですかお姉様?お顔が優れませんわよ!」
「え…ええ、だ、大丈夫よ。…それより黒子も大丈夫?『風紀委員(ジャッジメント)』の仕事はもういいの?」
「…はい。今回は事が事ですので、中学生以下の『風紀委員(ジャッジメント)』は在籍の学校の避難警備だけで終わりですの……お姉様、あの方は」

「…そうよ。間違いない」

「……ッ!!」
白井黒子は言葉を詰まらせた。
『報告通り』だったからだ。
御坂に送られてきた一通のメール。その通りに事は起こった。
「パスワードが何重にもかかってて、開くのに随分時間かかっちゃって、……これも当麻の予想通りかしら」
「…私にも当麻さんからメールが来ましたの。内容は…」
「『美琴を頼む』、でしょ?」
「…そう、ですわ」
「あーあー、もう、いやになっちゃうなー。当麻、いっつも大事なことは誰にも言わないで、一人で背負い込んで、解決して…」
「…それが当麻さんと長所でもあるんですけど」
「恋人の私にも黙ってるなんて、サイテーよね」
「でも、今回の事は無理も無いですわ。第十八学区を中心に第五、六、七、十、一一、二二、二三学区に『第一級警報(コードレッド)』と共に完全閉鎖。ウイルステロでもここまで大規模な指令はありませんわよ。それに…」
「それに?」
「上層部が事前に準備していたようにも思えますの。第十八学区の避難が一時間以内に終了するなんて対応があまりにも迅速すぎて不気味なくらいですわ」
「…つまり」


「ええ、当麻さんは事前に話を通していたようですの。この騒動が起こることを知っていたんですわ」


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