とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

2-9

最終更新:

index-ss

- view
だれでも歓迎! 編集
(二日目)12時00分
第一二学区。
学園都市で最も神学系の学校が集まっている学区。その修学内容は、実際にあるオカルト的なものではなく、科学的な面からアプローチしたもの。一つの通りに各種宗教施設が並び、非常に他国籍な雰囲気の街並みが並ぶ学区である。
正午を回ったというのに通りに人は誰もいなかった。
音もなく、声もなく、ただ風の音だけが空しく響いている。
車が通らない道路の中心を、一人の少年が歩いていた。
逆立った髪を風に靡かせ、右手をズボンのポケットに入れている。
制服の黒ズボン。黒の皮靴。白のワイシャツの胸元から見える赤のシャツとピンクゴールドアクアマリンのネックレス。
彼の背中に見えるのは、荒野と化した第二三学区の惨状だった。
彼はふと、足を止めた。
そこは交差点のど真ん中だった。近くには歩道橋があり、周囲には高層ビルが立ち並んでいる。歩道に植林された木々がは風で揺れていた。
『魔神』は薄く口を開いた。
「出てこい。余には隠し通せぬぞ。いくら小賢しい『魔術(ゆうぎ)』をしたところで何も変わらぬ」

ヒュン!
風の刃が『魔神』を目掛けて襲いかかった。弾丸に匹敵する、音速を超えた速度。
人であろうが鉄であろうが触れたもの全てを切り裂いてしまう刃であり、人間の反射速度を超えた不可避の斬撃。
しかし。
『魔神』に直撃する前に、それは『消滅』した。
コンクリートの道に一つの線を描き、その線の先が『魔神』の足元で止まった。
一瞬遅れて風が吹き、『魔神』の黒髪を靡かせる。『魔神』は指一本たりとも動かしていなかった。動かしたのは視線だけだった。 
漆黒の眼に人影をとらえた。風の刃の先から、二人の人間が歩いてくる。
 一人は長い黒髪を揺らし、左右非対称の衣装を身に纏った、刀を梓える長身の女性。
 もう一人は、白と黒のコントラストの服を着た、『海軍用船上槍(フリウリスピア)』を持つ、二重瞼でショートカットの女性。
二人は歩調を緩めることなく『魔神』に近付いてきた。その二人に倣うように、周囲から統一性の無い服装をした老若男女が現れ始めた。手にはその格好に相応しくない武器を所持していた。剣や斧、槍といった武装で、その派生も古今東西多種多様である。
 彼らに共通することは一つ。眼前にいる『魔神』に矛先が向けられているということである。
「此処から先は行かせませんよ。上条当麻。いや、ドラゴン」
言葉と同時に鞘から澄み切った刃が引き抜かれる。ブーツが地面を強く踏み締める音がした。同じくして、隣に連れ添っていた女もその場で足を止めた。貴金属が揺れ、小さく音が響く。
「…聖人か」
「神裂火織。若輩ながら天草式の長を務めています」
『魔神』と視線が交差した。神裂の表情に怒りは無いが、強い敵意が込められていることは感じられた。刀身が日差しを反射し、煌びやかに輝く。
「それとお前は…たいそう上条に惚れ込んでいる女だな」
「貴方に覚えてもらえるなんて光栄ですね。改めてはじめまして。建宮亡き後、天草式の副官は私です」
笑顔で『魔神』に返事をした少女だったが、その表情の下に隠れている殺気は隠せていない。
「お主は余の力が分らぬ愚か者ではなかろう。なぜそのような愚行を冒す?」
「人には、死ぬとわかっていても譲れぬ道があります」
「『今』が、その刻(とき)であると抜かすか。聖人」
返事は無い。
これ以上の会話は不要だと感じたのだろう。神裂の目が鋭くなり、腰を低くして構えたと同時に周囲の空気が張り詰めた。『魔神』が周囲を見渡すが、五〇人程度の人間が一斉に牙をむいた。いつ、彼らが動き出してもおかしくは無い。
『魔神』の顔が不敵に歪む。
「余は少々気分が良い。好きなだけかかってくるがよい。まあ、飽きれば殺すがな」
「そんな挑発には乗りませんよ。ドラゴンさん。さっさと当麻さんを返してもらいますから」
冷めた瞳で『海軍用船上槍(フリウリスピア)』を左手に持ち替える五和。
『魔神』はその行動の意図するところに思考を巡らせようとしたが、あえて無視した。それくらいの無対策でなければ彼にカタルシスは味わえない。
天草式が『魔神』を取り囲むように陣形を立てた。

『魔神』は、右手をかざした。




同時刻。
第七学区のとある場所に御坂美琴と白井黒子は訪れていた。
建設途中の大型ショッピングモールの私有地である。一般人には分厚い壁で覆われていて中を見ることはできないが、二人は『空間移動(テレポート)』で何なく侵入した。クレーンや大型車。木材や鉄筋が彼方此方に並べてあり、足元も土や泥で汚れている。鉄筋骨格の隙間から差し込んでくる日光が弱く、日中だというのに周囲は夕方のような明るさであった。
御坂美琴は首をかしげながら携帯電話を見つめていた。白井黒子も自分の携帯電話を見つめながら御坂美琴に話しかけていた。
「あれー?おっかしいなー。指定された合流ポイントはここで間違いないんだけど…」
「…確かに、ここですわね。わたくしたちのいる場所と一致してますし、座標も狂いは無いですわ」
「何の応答も無いってどういうことよ」
「やはり間違っているのではありませんか?お姉様。あの当麻さんの計画なんですし、お得意の『不幸』で今回も…」
「それは無いわ。だってこの計画の準備は『ジョーカー』のブレインが担当してるんだもの。万が一よりも間違いは無いわ」
「そうだったのですか。ならばここで間違いはありませんわよね」
その話を聞いた白井黒子は携帯を閉じて、近くにあった鉄筋に腰を下ろした。ツインテールを結わえているリボンを整え始めた。白井黒子の冷静ぶりが癇に障ったのか、時間が惜しいと痺れを切らし、御坂美琴は大声を上げた。彼女のマントが大きく靡く。


「隠れてるんなら出てこーい!!こっちは時間が無いんだからー!!」


近くで、ドサッ、と何かが倒れる音がした。その方向に目を向けると、白井黒子が鉄筋に寄りかかって倒れていた。
その近くには右手にハンカチを持ったミサカがいた。常盤台の制服は着ておらず、ジーンズにブラックとイエローのバスケットシューズ。男が舌を出している絵の入ったプリントシャツ。半袖の紺のジャケットに三日月型のシルバーネックレス。一年前の御坂美琴のショートカットの髪型をしており、可愛いガラのドクロマークのヘアピンで前髪を留めている。笑顔満点の顔で、御坂美琴と同じ声で喋った。
「んーひっひっひっー♪成功成功♪意外に簡単だったわね!実はミサカ、スパイの才能があったりしてー♪」
その姿を見た御坂美琴は、ブチッと何かがキレた。
「ゼロォォォオオオ!アンタ何してんのよおおおおおおおお!!」
彼女に青白い電撃の槍が飛んだ。


しかし、彼女は超人的な身体能力で3メートルほど飛びあがって、御坂美琴の電撃を回避した。


「うわっ!?姉貴、ビリビリやめてよおお!ミサカ、『無能力者(レベル0)』なんだから!」
「フンッ!本当に面倒ね!アンタの『体内電気(インサイドエレクトロ)』は!でも覚悟しなさい!!いくら当麻に対して無敗でも私には勝てないでしょ!!」
御坂美琴は右手に最大電圧である17億ボルトの電気を込めると、標的を彼女に向けた。
それを見たミサカは笑顔をから一転、涙目になって弁明を始めた。
「ちょ、ちょっと待ってよ姉貴!イタズラじゃないんだって!これ…」
「問答無用!」
ズドン!!
一瞬、周囲が光に包まれた。
鉄筋に当たった電撃が四方八方に流れていき、青白い光があちこちに飛び交っていく。一帯に埃が舞い上がった。御坂美琴はマントで白井黒子と一緒に煙を回避すると、眠っている白井黒子を壁に寄りかからせて、バランスを崩して地面に尻もちをついているミサカに迫った。黒のマントが揺れる。髪を逆立てたミサカは体中を震わせながら、御坂美琴を見上げていた。頭をバチバチと帯電させながら極上の笑顔で御坂美琴は言った。
「…遺言は?」
「殺す気!?殺す気ですか姉貴!?ミサカがちゃっかり当麻さんのベッドに潜り込んでた鬱憤をここで晴らす気ですか!?それならミサカ一〇〇三二号のほうがミサカより圧倒的に…」
「そう、それが遺言ね♪」
絶句するミサカ。
しかし、彼女たちの会話は唐突に後ろからかけられた声により中断させられた。
 常盤台の制服を着た、今の御坂美琴と瓜二つのミサカによって。
「白井黒子への対処は私の指示です、とミサカ一〇〇三二号はミサカ『00000号(フルチューニング)』に対する処罰は私にあると事後報告してみます」
「遅っ!それに腹黒っ!」
ミサカ『00000号(フルチューニング)』がもう一人のミサカに即座に突っ込んだ後、ギロリと御坂はミサカ一〇〇三二号を睨みつけた。頭のバチバチはまだ収まっていない。口元を引きつらせながら、ミサカ一〇〇三二号に言葉を返す。
「どおういうことか、キッチリ説明してもらいましょうかぁ?」
その表情を見たミサカは大きなため息をつきながら『お姉様(オリジナル)』に返事をした。一年の月日を得て、間近で見ても区別がつかないほどまでに彼女の表情は豊かなになっている。彼女はゴーグルを外す。
「今から目の当たりにする光景に彼女は発狂する恐れがあるため、不測の事態に備えて眠ってもらっただけです、とミサカは嘘偽りなくお姉様に素直に白状します」
カッとなった御坂美琴はミサカ一〇〇三二号に掴みかかろうとしたが、周囲から聞こえる足音にその衝動を抑えた。

それも一つや二つではない。何十、何百の足音が鳴り響く。今まで気づかなかったことに恐怖を覚えるほどに。
周囲の柱や、四方八方から同じ顔をした少女が現われた。常盤台の制服を着た少女たち。顔立ちは同じだが、よくよく見ると一人一人異なる特徴がある。ショートヘアーであったり、ロングヘアーだったり、ポニーテールであったり、ツインテールであったり、前髪を留めているヘアピンのデザインが異なっていたり。
しかし、それ以外はゴーグルとアサルトライフルを装備した女子生徒に変わりは無い。
後ろから声が聞こえた。

「先ほどの電撃はいただけませんね、とミサカ一〇〇三三号は逆立った髪をなでながらお姉様に小言をいいます」

「白井黒子も連れてきたのですか、とミサカ一六七三二号は少し冷ややかな態度を隠して迎えます」

「その意見には賛同しますが全く隠せていません、とミサカ一九九九九号は更に冷ややかな態度で突っ込みます」

「銃の手入れは大丈夫ですか、とミサカ一一一九四号は予備マガジンを確認しながら皆に確認を取りたいと思います」

「レーザーサイトの標準誤差が無視できないレベルとミサカ一八九七〇号は現在調整中だと報告します」

「いつでも出撃可能だ、とミサカ一四七一一号は自信満々で初弾を装填後、マガジンを取り付けます」

「むっ。このチーズケーキは中々美味だとミサカ一一五六二号は隠れフェイバリットを発見したと主張します」

「いえ、こちらのチョコケーキも侮れないとミサカ一二三七七号は対抗心丸出しで主張します」

「こんな時にケーキを食べているのですか、とミサカ一五〇〇〇号は即席ラーメンを食べながら小言を吐きます」

「飲食をやめなさい、とミサカ一七七七五号は肥満を懸念しつつも呆れながら忠告します」

「今、避けられない睡魔が襲ってきました、とミサカ一〇六二八号は欠伸をしつつ声を震わせながら呟きます」

「そういう時はこのチューイングガムがお勧めです、とミサカ一三五八五号はさりげなく言ってみます」

「予想より30分ほど遅いのでは、とミサカ一五〇八七号は予想が外れたことに少し残念がってみます」

「長時間座りすぎてお尻が痛くなった、とミサカ一九〇九〇は若干の不満を隠さずにグチります」

そして、御坂美琴の視界が自分と同じ顔をした少女たちに埋め尽くされた頃、
一人のミサカが『お姉様(オリジナル)』に一歩前に出て、膝をついた。
右手を左肩に添えて、頭を垂れる。
その瞬間、彼女たちに物音ひとつ聞こえない静寂が訪れた。
それはまるで、王に仕える騎士たちの円卓。


「お待ちしておりました。お姉様。とミサカ一〇〇三二号は『妹達(シスターズ)』五九四七名を代表してここに宣言します」


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー