とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

2-11

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(二日目)12時12分


第三学区。
学園都市が誇る高級ホテルの一つであり、七七階建ての『セブンズタワーホテル』の屋上に、プリズムルームと呼ばれるスウィートルームがあった。
二階続きの部屋であり、七七階へ上る階段から、中央一面がガラス張りの大きなウィンドウで第三学区を見渡せる。
高級ホテルの最高級の部屋らしく、煌びやかな装飾品で彩られていた。
高級な部屋には似つかわしくない黒の延長コードが、周囲に何本もあり、それは二階のベッドルームの机にある、五台のノートパソコンに繋がっていた。パソコンの前に人はいないが、膨大なデータが自動的に処理されていた。
一階には黒色のスーツケースが一〇個ほど置いてあった。中身は複雑な機械が入っており、コードが何本の接続されている。
快晴な空と第三学区の街並みが見渡せるプリズムルームに、黒スーツを着込んだ三人の男女がいた。
一階の中央には大きなガラスのテーブルがあり、その上には三つのグラスと、トランプ、そしてカジノチップが置かれていた。
スーツを着込んだ三人はテーブルを囲んでいる。第一二学区では『ドラゴン』と天草式が死闘を繰り広げている最中だというのに、彼らは平然と金銭を賭けたポーカーを興じていた。
「今頃、『一方通行(アクセラレータ)』はドラゴンにやられて、インデックスに治療魔術を施されてる頃かにゃー」
普段のB系スタイルとは打って変わって、真新しい黒スーツを着た土御門元春は、スペードのⅧ、一枚をテーブルに置いた。彼はネクタイを外し、シャツを第二ボタンまで外し、金色のネックレスが見えている。
透明のガラステーブルの上にある、トランプの山札から一枚のカードを引く。
「結局のところ、『ドラゴン』って一体何なのよ?」
ハートのⅡとダイヤのⅤを捨てた結標淡希は、土御門と同じく、トランプの山札から二枚のカードを引いた。彼女は上着を脱ぎ、シャツに赤いネクタイをしていた。長い赤毛を後ろで二つに結んでいる髪型は今も変わっていない。
「まあ、一言でいえば『神』だにゃー。それも神を罰し、神を殺す役割を持った例外中の例外の『神(カイブツ)』。
司馬遷の史記に記されているように、その存在は二〇〇〇年以上前から確認されている」
「で、アレイスターはドラゴンを手に入れて、世界の掌握を目論んでいたと…」
土御門と結標の会話中に、海原光貴の姿をした魔術師、エツァリは手札から四枚のカードを捨て、同数のカードを山札から引いた。
彼は土御門とは違い、ネクタイも上着も脱がず、スーツ姿のまま、背もたれの高い白の椅子に座っていた。
「…ドラゴンの前では天使も悪魔も歯が立ちません。なんせドラゴンの能力は神を殺すことに特化してますからね。
それに、上条さんに備わっている能力はさらに性質が悪い。ドラゴンを抑える鞘として能力とはいえ、その能力は最上級でしょう。『現実守護(リアルディフェンダー)』を解除して、その効果範囲を広げると手の付けようがありません」
エツァリの言葉に、結標淡希は続いた。
ダイヤのジャックと、クローバーのⅡを捨て、二枚のカードを引いた。
「…確か、全身の『現実守護(リアルディフェンダー)』を解除すると、超能力や魔術だけではなく、現実の物体まで打ち消すから、小さなブラックホールみたいに周囲の物質全てを消滅させていくんでしょ?流石はドラゴンを内包する器ね。
何が『無能力者(レベル0)』よ。
ドラゴンの能力を使わずとも、『一方通行(アクセラレータ)』と対等に渡り合えるっていうのに…」
土御門は手元にある五枚のカードを全て捨て、山札から五枚のカードを引いた。
オレンジサワーが入ったグラスを手に取り、口に含んだ。
「『吸血殺し(ディープブラッド)』が吸血鬼の存在を証明するように、『幻想殺し(イマジンブレイカー)』は幻想の証明していた。では、幻想とは一体何を指しているのか?」
エツァリは一枚カードをきって、土御門に返答した。
「魔術と超能力を発現する『神の物質(ゴッドマター)』の存在の証明じゃありませんでした?私たち魔術側、いや、今や我々は『神上派閥』ですが、魔術側ではゴッドマターは『エーテル』、あるいは『賢者の石』とも言われてますね」
くくくっ、と笑って土御門は言葉を放った。
彼の向かい側に座っている結標淡希は、また二枚のカードを捨てた。
「『妹達(シスターズ)』の超能力発現の結果によって、魂の存在がなされ、カウンタースキルの存在が、対象物の存在を証明した。これは因果関係を証明する科学的理論には十分通用する。まあ、それを受け入れられるほど、世間は賢くないがな。
だが、これほど大規模な戦闘が展開されれば、ドラゴンの存在は認められるかも知れない」
三人はお互いの手札をテーブルに置いた。
土御門がAのスリーカードで、エツァリ吐血標段望はツーペアで会った。二人の手元にあった赤いカジノチップが土御門の手元に動いた。結標は『座標移動(ムーブポイント)』で、土御門のチップの上に移動させた。
彼女はストローで、グラスに入ったカシスソーダを飲んだ。
「上条当麻の『竜王の顎(ドラゴンストライク)』。
『一方通行(アクセラレータ)』の『竜王の翼(ドラゴンウィング)』。
フィアンマの『竜王の鉤爪(ドラゴンクロー)』。
オッレルスの『竜王の鱗(ドラゴンアーマー)』。
ドラゴンの元リーダーは『竜王の脚(ドラゴンソニック)』を持っていたわね。
それと…『ドラゴンテイル(竜王の剣尾)』でしたっけ?」
「やつらはドラゴンの能力以外に強大な能力を兼ね備えていた。
例えるなら「核兵器」だけを所持していても、使えなければ意味は無いことと同じぜよ。だからこそ、「核兵器」を使わせないほどの軍事力が必要なんだ。
カミやんの『幻想殺し(イマジンブレイカー)』やアクセラ…いや、シンラの『ベクトル操作』やら、『北欧王座(フリズスキャルヴ)』やらをな…だが、フィアンマは別だ。あいつは自分自身のドラゴンの能力に気づき、自ら開発していた」
エツァリは、散らばったトランプを集めて、ディーラーと同じようにリッフルシャッフルを二回、ミックスを一回行い、三人に五枚のカードを配った。
彼はグラスに入ったミネラルウォーターを飲み干す。そして、土御門に対して口を開いた。
「五〇〇年以上も生きていれば嫌でも気づくんじゃないですか?でも、上条さんに、あっさりドラゴンの能力を奪われちゃいましたけどね」
「それが引き金だったな。カミやんの中にいるドラゴンが覚醒を始めた。本来、起こりうるはずのなかった現象が起こり始めた」
「だから、『幻想殺し(イマジンブレイカー)』が『パンドラの箱』っていう表現は的を得てたワケね。納得」
結標淡希は手元のカードを見て、口を緩めた。
「でも、ドラゴンの頭部を持っていた上条さんに、いずれ散らばったドラゴンの肉体が集積されるのは運命だったのでしょう?ドラゴンは、上条さんとは異なる、明確な意思を持っている」
「いや、ドラゴンが覚醒すること自体、不測の事態だったのさ」
「「?」」
土御門の言葉に二人は首をかしげた。
その様子を見た土御門は、三枚のカードを捨てて、山札から三枚のカードを引きながら言葉を紡いだ。
「前にも言っただろう?ドラゴンの能力は核兵器のような代物だと。彼らが持つ強大な能力は、ドラゴンを覚醒させない為に与えられた能力なのさ。
カミやんはともかく、シンラやオッレウスを窮地に追い詰めることなど、国家規模で挑まなければ出来はしない。
放っておけば、彼らはドラゴンの力を引き出さず、一生を終えるはずだった」
エツァリは、五枚のカードを全て捨て去り、静かな声で言った。
「…ドラゴンを覚醒させるために、アレイスターは彼らを危機的状況に陥らせた訳ですか。そんな馬鹿げたことに、私たちは翻弄され、仲間たちは死んでいった……」
彼の独白が、重い空気を生み出した。
結標淡希は無言を通し、土御門元春は言葉を続ける。
「カミやんに秘められている『ドラゴン』の存在を知った魔術側は『禁書目録』を作り、時期を見計らって、偶然を装いながら、日本に送り込んだ。禁書目録が女であることもそういう意図があったからだ。
カミやんも男だ。二人に恋愛感情でも芽生えれば、上条当麻の手綱につなぐことができる。牽いては、魔術側が『ドラゴン』を所有することになる。まあ、そもそもローラ=スチュアートにとっても万一の保険であって、『ドラゴン』が覚醒するとは夢にも思わなかっただろうよ。
それに、実際は違う結果になったがにゃー。まさか、あの『超電磁砲(レールガン)』を選ぶとは…意外だったにゃー」
意味ありげな視線を土御門はエツァリに送った。
ニヤついた二人の視線に気づいたエツァリは、表情に何の起伏も無く、返答した。
「そうですか?私には当然の結果と思いましたが」
「エツァリ…あんた、随分とあっさりしてるのね。意外だわ」
「美琴さんが幸せならそれでいいんです。私では、今のような彼女の笑顔を作りだすことはできないでしょう。一生ね」
「…日本人の感覚がかなり板についてきたわね。一言忠告しておくけど、あんたって、絶対女を幸せにできないタイプよ。私が言うのもなんだけど、彼氏に独占されてるっていう感覚を与えるのが大事なのよ。
プラトニックな関係が築けるのは、文字の上だけよ。肉体的なスキンシップは過度なくらいが丁度いいの」
「カミやんも確かそうだったにゃー。『超電磁砲(レールガン)』と深い関係を持ち始めた頃から、イキイキしてるっつーか、男のフェロモンが出てきたっつーか…というかあいつ等はもう少し、自分の立場と節度を考えた方がいいな。会ったら人目憚らず…」
顎に手を添えて土御門はブツブツとつぶやき始めた。
結標淡希は嘆息しながら、手札を置いた。
ダイヤのフラッシュ。土御門はノーペア。エツァリは前回と同じ、ツーペアだ。
カジノチップが結標淡希の『座標移動(ムーブポイント)』によって、瞬時に手元に来た。
散らばったトランプは、一つの束になって、瞬時に土御門の眼前に移動した。

「…人の幸せは十人十色ですから。それに、私には守る人が、もう一人いますからね」

土御門のリッフルシャッフルの手が、一瞬だけ止まった。
結標淡希はエツァリに言葉を濁す。
「…彼女、生きてるの?」
「意識はありますが、肉体はありません。ですが、魔道書の中で生き続けています。私と共にね」
「…そう」
「そんな顔をしないでください。結標さん。話を持ちだしたのは私ですから…それに、私はまだいいほうです…貴女は…」
「……私は大丈夫よ。守るべき人たちを失って、一時期は自暴自棄になってたけど、生きる理由はちゃんとあるから」
土御門がトランプをパラパラとめくる音だけが、広い部屋に木霊していた。
日の光が内部を照らしているとは言え、彼らの心を照らしだす訳ではない。白い大きなカーテンに遮られている太陽は、まだ明るい。
スーツ姿の土御門元春はニヤッと笑うと、その空気を打ち砕くように、
「この暗ーい雰囲気はダメダメぜぃ。何事もポジティブにやることが成功するコツだにゃー。
それに結標。
本作戦の要は「お前」なんだぜぃ?頼むぜ。
『超能力者(レベル5)』第五位の『座標移動(ムーブポイント)』、結標淡希さんよ」

浮ついた土御門のセリフに、結標は冷ややかな目を向けた。
「…学園都市の内部抗争やら、先の『戦争』やらで『超能力者(レベル5)』を失って、現在は五人しかいないからね。単に押し上げられてなっただけよ。それに、言い方が嫌味にしか聞こえないんだけど」
エツァリは苦笑しながら、結標淡希に言った。
「まあまあ、二人とも。それぐらいにして、続きをしませんか?私もやっとポーカーの要領が分かってきたので、金銭の損得はともかく、少しでも腕を磨きたいんですよ。最も、作戦が失敗すれば、これが最期になりますし…」
「…アンタねぇ。喧嘩売ってんの?」
「あっはははは!エツァリ!お前、結構天然だな」
土御門は大きく笑いだすと、トランプのカードを配り始めた。
その時、
「待って」
結標淡希の一言が土御門の手をとめた。
彼女は上着の胸ポケットから、バイブレーションが作動しているピンク色の携帯を取り出すと、開いてモニターを確認した。
ピンポーン…というインターホンが鳴り、三人の目つきが変わる。三人は即座に席を立った。
そして、コンコンと重厚なドアをノックする音が聞こえた。
現在、学園都市には人はいない。
統括理事会合意の元、迅速な強制避難命令によって、核シェルターに二〇〇万人以上の人間が避難している。
このホテルはいる人間も『グループ』の三人のメンバーを除けば、無人であるはずだ。
エツァリは魔道書の原典の能力を発動させ、顔の右半身に紫のタトゥーのような紋章が浮かび上がった。
三人の間に、一種の緊張感が漂った時、


「私にも参加させてくれないか?」


という、呑気な言葉が、張り詰めた空気をブチ壊した。
プリズムルームの中央にあるガラス張りの風景を背に、一人の少女が立っていた。
『グループ』のメンバーと同じく、黒のスーツを身に纏っている。両手には黒革のグローブをつけ、背中にはハーフマントを備えていた。
ロングの黒髪をかき上げ、三人の表情を見る。彼女は歪んだ笑みを浮かべながら口を開いた。
「流石は『超能力者(レベル5)』第五位の『座標移動(ムーブポイント)』。私が指定した座標に寸分の狂いもない。まあ、これくらい出来なければ、貴女を使いはしなかったけど」
少女の姿を確認するや否や、『グループ』のメンバーは警戒を解いた。
エツァリの顔に浮かび上がっていた紋章は消え、スーツの袖を整えた。土御門はやれやれ、といった感じで手を振っていた。
「…そろそろ来る頃と思ってたよ。雲川芹亜。俺とエツァリは、とっくに仕事を終えてるぜよ。…しっかし、結標、サプライズにしては少々きついぜ」
「…全くです」
結標淡希と、彼女の能力によってこの部屋に招かれた少女、雲川芹亜はこの状況をニヤニヤしながら楽しんでいた。
雲川はその状況を見て、プッと声をもらすと、腹をかかえながら微笑した。
「土御門…お前のその格好、全く似合ってないぞ」
サングラスをかけ、スーツ姿の土御門は口を締めて、雲川を軽く睨んだ。
「俺は反対意見を述べるにゃー。『神上派閥』の制服にするんだろ?スーツなんて大人になりゃ何時でも着れるぜよ。短い青春時代にしか着れない服を着るべきだ。それにこれはお前が発案者だと聞いたが?」
「作戦部門『ジョーカー』のリーダーの私に対して、その発言は却下させてもらう。それに『神上派閥』の総帥様は随分と気に入ってくれたが?」
「カミやんが?」
土御門の呆けたリアクションに、雲川芹亜は腕を組み、フッ、と笑った。
「学園都市では『上条勢力』という通り名が有名だぞ。まあ、私は『神上派閥』の方が気に入ってるけど。
…今はまだ公には目立っていないが、我々は既に世界勢力の仲間入りだ。その総帥として、彼には相応の帝王学と上級社会のルールを身に付けねばならん。無論、今まで日の当らなかったお前たちも例外ではないけど…」
「…わかってるわよ」
結標淡希は皆に聞こえるほどの大きい溜息をついた。
「それと、『神上派閥』のトレードマークのアイディアを随時募集中だ」
雲川はそう言うと、ガラステーブルにある、土御門の隣の椅子に腰かけた。
「…考えておきます……はぁ、世界の終焉に直面しているとは、とても思えないですね」
雲川芹亜の視線を受けたエツァリは、さらに苦笑した。三人とも彼女に続いて席に座り、ポーカーを再開した。
土御門がトランプを手に、リッフルシャッフルを再開した。
「ルールは?」
「レットイットランドだ。時代遅れのラスベガスでやるホールデムやセブンスタッドじゃない。分かるか?」
「ああ。知識としては知っている。なんせ、私も初めてだからな」
「はぁ?」
雲川の意外な言葉に、土御門だけは無く、ほかの二人も首をかしげた。
「これは確率論の問題だ。土御門、リッフルシャッフルを八回繰り返すと元に戻るということは、ド素人の私でも知っているぞ?」
「…流石だな」
そう言われた土御門元春はリッフルシャッフルをやめ、ミックスを三回行った。そして、五枚のカードが四人の手元に配られた。
雲川芹亜に、合計一〇〇万円の金を換金したカジノチップが置かれた。
配られたカードを三人が手に取ろうとした時、彼女は唐突に言った。

「結標。この回のゲームで私に勝ったら、報酬を二倍にしよう」

「ぶフっ!?」
彼女の言葉に、結標淡希は口にしていたカシスソーダを吹きだした。急いで、上着のポケットからハンカチを取り出すと、強引に口元を拭いた。
白いハンカチに口紅がべっとりと付着していた。
「ちょっと待って!?振り込まれた金額を確認した時、私、一瞬意識が跳びそうになったくらいなのに…!でも、私が負けた時はどんな罰ゲームがあるわけ?」
「フフフ…別に、金銭的な取引ではない。それにお前が受け取った報酬は当然の金額だ。本作戦において、お前の立ち位置がそれほど重要だということだ。理解しろ。
貴様が失敗すれば世界は終わる。だからこそ、それ相応の報酬も用意した。ただそれだけだ。
……それとな、罰ゲームは無い。ただ、ある『計画』に加勢してくれるだけでいいのだ。我らの総帥様が絡む、ある『計画』にね…」
彼女の不敵な笑顔を見た三人は、ゾクッ!と凍りついた。
「我らの総帥様が関係する」というだけで、土御門は大体の事態が理解できた。雲川芹亜も、実は『とある男を巡るラブレース』に参加していることは知っていた。
彼は心の中で、その元凶たる人物に冥福を祈った。
(…モテモテだな。頑張れ、カミやん。でも、全然羨ましくないぜよ)
結標淡希は雲川の賭けを断ろうと思ったが、彼女の性格を知っている為、断れば何をされるのか分かったのではないことは明白だったので、
「…いいわ。乗ってあげる。でも一つだけ条件。犯罪行為はダメだからね」
「当たり前だ」
彼女たちの取引が成立したところで、四人は手元にあるカードを見た。
クスリ、と結標は不敵に笑った。
「ねえ、私、勝っちゃうけど…本当にいいのよね」
その言葉を、雲川は不敵な笑みと共に答えた。
彼女たちの悪魔じみた笑顔に怖気づいた男たちは、ブルブルと震えるだけだった。土御門元春とエツァリはソロリソロリと、手札のカードを交換し、結標淡希と雲川芹亜は一枚もカードを捨てなかった。

数秒で男二人のカードターンは終了し、ショーダウンは行われた。
土御門元春はスペードのⅦとハートのⅦのワンペア。
エツァリはⅨとⅩのツーペア。
そして結標淡希は、
「Ⅴのフォーカード!」
ザッ、とガラステーブルに置かれた五枚のカードの内、間違いなく四枚のⅤが並んでいた。
二人の男と、うおおおっ!と声を上げる。
フォーカードの配当は五〇倍。彼女が賭けたチップはブルーチップ一枚。ブルーチップは一枚当たり五万円。これで彼女が勝てば、二五〇万円の利益となる。
結標淡希は赤毛の二つの髪を揺らせて、腕を組んだ。嬉々とした声が彼女の口から出る。
「さぁ?貴女はどうなの?フォーカードは役としては二番目に強い!私に勝つにはストレートフラッシュしか無い!貴女の手札は一体どうなっているのかしら?」
盛り上がる三人を見て、彼女はじっと手札を握ったままだった。
そして、雲川芹亜は突然、大きな高笑いを上げた。
「……ふっ、ふははははははは!」
その大声に怯んだ三人は、彼女の不敵な笑顔に気圧されていた。
「私は昔から賭けごとは嫌いでな…勝率が低く、不安定な勝負はしない主義なんだ。しかし、私が信じる確率論や数学的理論とはとても奇妙なものなんだよ。なぜなら、それを理論的に証明できたとしても、現実には中々当てはまらないからだ…」
「……何が、言いたいのよ?」


「つまりな。私が賭け事に強いという事実は、数学的には証明できないと言いたいのだ」


雲川は手札をガラステーブルに置いた。
三人の表情は凍りついた。
「ハートのロイヤルストレートフラッシュ」
彼らは絶句した。
一発で最強の役を出した雲川芹亜の強運も驚愕に値するが、彼らが凍りついた理由はそれだけはなかった。
レットイットランドのルール。
このゲームはホールデムとカリビアンスタッドを合わせて簡単にしたようなものであり、このルールを適応した場合、ロイヤルストレートフラッシュの賭け金に対する配当は一〇〇〇倍。
雲川芹亜が提示したチップは、レッドチップ一枚。すなわち、一〇万円に相当する。
つまり…

「「「い、いいい、いち、一億円―――――――――――――――――――――――?!!」」」

男女の絶叫がこのプリズムルームに木霊した。
慌てふためく彼らを余所に、ギャンブルに驚異の才能を発揮した雲川芹亜はクスリと笑うと、唖然としている結標淡希に告げた。
「…ふむ。このまま、お前の報酬をごっそり頂くのも悪くないな。さて、延長戦と行くか?『グループ』の諸君」
「や、やめてー!このままだと、俺は一生、雲川に借金を返済する人生を辿ることになるにゃー!」
「私は、一年ほどで返済できると思いますが…」
「……………あ………あ…」
統括理事会の一人である貝瀬木次聡のブレインであり、「神上派閥」の作戦部門「ジョーカー」のリーダーを担い、また、その総帥である上条当麻に恋する乙女でもある少女、雲川芹亜。
は意地悪い笑顔を共に、言葉を放つ。
「私たちが動き出すにはまだ時間はある。それまでこのハイレートゲームを続行しようではないか。
なぁに…いくら損をしたところで意味は無い。
なぜなら、今日、この世界が終わるかもしれないのだからな」


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