とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

2-12

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(二日目)12時13分


第一二学区にある、イギリス清教が所有する教会にインデックスたちはいた。
この学区は、学園都市で最も神学系の学校が集まっている学区であり、その修学内容は、実際にあるオカルト的なものではなく、科学的な面からアプローチしたものが多い。だが、先の『戦争』後、学園都市復興に伴い、魔術側の勢力の一部が介入した施設が存在するようになった。
その一つがこの教会であり、その教会内にある礼拝堂で、彼らの話は続いていた。
シンラは祭壇の上に腰を置いたままで、
「『神上派閥』ってのは一体…」
赤毛のシスター、アニェーゼ=サンクティスはシンラに一目向ける。
「カミジョーさんを筆頭とする組織です。今や科学と魔術に匹敵する第三勢力ですよ。表向きは『神上派閥』で通ってます。
昔は『上条勢力』っていう通り名があったんですけど、いつの間にか変わっちまったんですよねー」
「そうかな?学園都市の上層部では、未だに『上条勢力』で通ってるけど?認知度は低いし、人数も少ないけど、『実質的な』組織としての影響力はかなりすごいかも」
「…人数は少なくても、メンツが一癖も二癖もやる奴ばかりですからねえ」
苦笑いをアニェーゼは零す。
その表情から察するに、よほど強烈な個性を持ったメンツが集まっていると見えた。
「でも、今では魔術側と科学側が手を取り合える懸け橋になってるんだよ?」
「…一年前では夢にも思えなかった状況ですね。そして、私たちが魔術と科学の未来を背負う立場だと思うと……うわぁ、考えるたびに恥ずかしくなっちまいますよぉ……
それに、今回の『並行世界(リアルワールド)』作戦は、我々の組織が世界にどれほどの影響力を持っているか、それをアピールするものでもありましたからね」
「『並行世界(リアルワールド)』?」
そうだよ、とインデックスは説明を続ける。
「『並行世界(リアルワールド)』作戦は、『神上派閥』の作戦部門『ジョーカー』が主導で立案された作戦なの。勿論、私も作戦会議に加わったんだよ……と言っても、それを知ったのはつい数時間前なんだけどね」
「は?」
矛盾している発言に、シンラは首を傾けた。
その説明をアニェーゼ=サンクティスが補足する。
「『禁書目録(インデックス)』さんは、昨日の零時から今日の九時〇〇分にかけて、この作戦内容を忘れるように、自分自身に忘却魔術をかけちまってたんです。
我々が半年前から用意していたこの計画(プラン)を、『ドラゴン』に悟られないためにね」
フム、とシンラは納得した。インデックスは瀕死の状態だった自分の肉体を再生できるほどの魔術が行える魔術師だ。
自分が知っている魔術師に、超能力でも不可能なことを出来る人間を彼はしらない。
シンラは今までの内容を頭に叩き込んで、言葉を切り出した。
「…俺が聞きてェのは、お前がなンで『魔神』なのかってことなンだが……」
「『魔神』は、魔術界の定義では、魔術を極めて神の領域に踏み込んだ者に与えられる称号なんだよ。神の領域っていうのは死者の蘇生とか、時間の逆流を成しえることを指すのかな?
私も一〇万三〇〇〇冊の魔道書を応用すれば出来るけど、それはあくまで理論上の話。
そんな禁忌魔術を使ったら、世界が歪んじゃうから絶対にしないよ」
「魔術を極めた者ねェ…ようするに『魔神』ってのは核兵器みたいな代物を抱えてる強ェ奴ってことか?」 
「うん。大体そんな感じ。それにね、『魔神』になるプロセスは二通りあるの。一つは魔術を極めて到達すること、そしてもう一つは…」

「ドラゴンの肉体を宿した人間が、ドラゴンの能力を覚醒することか…」

「うん!シンラはとうまと違って、頭の回転が速いから助かるよ!」
インデックスの言葉を無視して、シンラは思考を巡らせた。
彼女の話と、昨日の『打ち止め(ラストオーダー)』の話を総合すると、『魔神』とは魔術を極めた者、あるいは、ドラゴンの能力を持ち、それを行使する者を指すらしい。
そして、『絶対能力者(レベル6)』とは、『神の物質(ゴッドマター)』を無色に近い性質で現世に持ち運ぶ事が出来る能力者を指し、上条当麻も『絶対能力者(レベル6)』に分類されている。
すなわち、シンラが自ら引き出した『竜王の翼(ドラゴンウィング)』がその能力を持っているということであり、上条当麻の『ドラゴン』も、『現実を理想に沿うように動かす』能力に匹敵するチカラを持っていることになる。
それもシンラを圧倒するほどのチカラ。
それに加えて、『幻想殺し(イマジンブレイカー)』の真の能力。
打ち消すのは魔術や超能力だけは無く、『幻想殺し(イマジンブレイカー)』のリミッターを外せば、現実(リアル)の物体まで打ち消してしまう。
また、シンラが『ベクトル操作』で、ドラゴンの頭上に飛行機を落とそうとして、機体が空中で止まったことや、『竜王の翼(ドラゴンウィング)』の能力が無効化されたことも、上条当麻が所有するドラゴンの能力によるものだとしたら、全て説明がつく。
そして、ドラゴンはまだ全力ではない。
そこまで考えて、シンラは思考を停止した。彼はポツリと小言を漏らした。
「……勝てる気がしねェ」
彼の言葉を聞いたアニェーゼは苦笑し、
「カミジョーさんは、他の人間からドラゴンの能力を全て奪っちまって、今やぶっちぎりで世界最強ナンバーワンですからね。
先の『戦争』で、ドラゴンが暴走した時の凄まじさといったらもう…」
「……アニェーゼ。いやなことを思い出させないでほしいかも。
ドラゴンがまだ未成熟だったから、私たちは助かったけど…あの光景がトラウマになって、立ち直れずに廃人になった人間も多いんだよ…」
何かを思い出したように、インデックスとアニェーゼは体をブルブルと震わせていた。
二人の様子を見ていたシンラは、呆れた口調で、
「…それを繰り返すことがこの計画か?」
「逆だよ。二度と繰り返さないために、この計画は実行されたんだよ。それにね――」
インデックスは、いったん言葉を区切って、言った。


「この計画の発案者は、とうまだよ」


「なッ?!」
シンラは驚愕する。
「とうまとシンラの魂をこの時代に跳ばしたのも実はとうまなんだ。理由もちゃんとあるんだよ♪それにね、この時代の二人はシンラたちと同じで、一年前の貴方たちと入れ替わってるんだ♪
今頃二人はタイムスリップ気分を楽しんでるかも」
予想外の事実に、シンラはすかさず突っ込まずにはいられなかった。
「おいおいオイ!世界が滅亡するかもしれねェ計画を実行しておいて、計画を立てた張本人は蚊帳の外かよ!」
「…うーん。それを言われると元も子も無くなっちまうんですが…この計画は、カミジョーさんの意識を、『ドラゴン』が乗っ取ってしまうことが前提だったんです」
「…ハァ?」
シンラはさらに困惑した。
その心情を知ってか知らずか、彼女たちの説明は続いた。
「今のとうまは完全とは言えないけど、ドラゴンを制御できるからね。でも、ドラゴンはプライドが天より高くて、とうまの意識を乗っ取るのを淡々と狙ってたから、あえてそうしてもらったの」
「一年前のカミジョーさんなら、コントロールどころか、自分にドラゴンが宿っていることも知りませんからね。
それに、『竜王の顎(ドラゴンストライク)』だけではドラゴンの思念体も存在しませんし…」
「…つまり、ドラゴンを覚醒させて、油断した隙をつこうってことか……」
フゥ、と溜息をついてシンラは思っていた疑問を口にする。
「なァ、インデックス。上条当麻と同じ『魔神』なら、オマ…いや、インデックス一人でも何とかなるンじゃないのか?」
オマエと言いかけて、インデックスの目と歯がギラリと光ったので、シンラは口を押さえた。
シンラの当然の疑問だった。彼女は自分自身を『魔神』だと言った。ならば、それ相応の能力を持っているはずだ。
しかし、インデックスの返答は、
「それは無理」
一言で断言する。
「対抗できる知識はあるけど、それを成しえるだけの魔力が無いの。
『自動書記(ヨハネのペン)』っていう、私の魔力を抑えるリミッターがあったんだけど、それを解除しても、平均的な術者の魔力しか持たない私では、ドラゴンに勝つことは無理。でもね――」
インデックスの眼光は彼の眼を捉えて、
告げた。


「シンラには勝てるよ」


静かな口調だった。
シンラは学園都市『絶対能力者(レベル6)』第二位であり、人工的な能力とはいえ、『竜王の翼(ドラゴンウィング)』を所有している。
神の領域に踏み込んだ彼に勝てると宣言したのだ。そして、彼女の目が、その言葉が嘘ではないことを物語っていた。
彼の唇が歪む。
「……へェ」
インデックスはさらに言葉をつづける。


「貴方が科学側の『最強』だとしたら、私は魔術側の『最強』だから」


不敵な微笑に浮かぶのは、絶対的な自信。それを感じ取ったシンラは、インデックスに対する認識を改めた。
不穏な空気が漂う中、アニェーゼ=サンクティスは冷や汗をかきながら、二人の仲裁に入った。
「…あー、はいはい。そこまでですよ。お二人さん。貴方がたが戦いを始めたら、カミジョーさんくらいしか止められる人はいません」
アニェーゼ=サンクティスは、二人の間に立ちながらも、シンラに強い目つきで睨んだ。彼女は魔術側の人間であり、インデックスの言葉に乗ってきたのはシンラの方である。仲裁に入るものの、当然、アニェーゼはインデックスの味方をしていた。
「…シンラさん。私も一言いっておきますが、『禁書目録(インデックス)』様は強いですよ?なんせ、先の『戦争』でドラゴンの暴走を止めたのは、他ならぬ彼女なんですから」
その言葉を聞いて、シンラは黙り込む。
彼も無駄な争いはしたくはない。だが、一年前の記憶を持っている彼としては、自分自身が最強だという自負がある。
インデックスの言葉は、彼の『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』に、不快感を催した。
挑発的な態度を取った自分が悪いことは分かっていても、謝ることをプライドが許さなかった。『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』のゆらぎは超能力の成長に影響する。彼の心の中で葛藤が続いていると、インデックスはパンッ!と両手を叩き、話の流れを即座に切り変えた。

「さてっ!時間も時間だし、ご飯にしようか!今日は私の自慢のカレーだよ。ちなみにカツも鹿児島産の黒豚Xにこだわりました!」
彼女の言葉に、シンラは呆気を取られた。
インデックスの得意げな顔とガッツポーズを見て、アニェーゼ=サンクティスは年相応の笑顔を見せ、声を上げる。よほど期待していたらしい。
「うおおおっ♪」
「正午を回ったところでしょ?私とシンラが動くには、まだ時間があるから、栄養補給しようよ。日本に『腹が減っては戦が出来ぬ』という諺があるでしょ?」
「………オイ」
「『打ち止め(ラストオーダー)』。能力の制御はお願いね♪」
次の瞬間、シンラの体は自由を奪われた。彼は祭壇から下りると、軍人の行進のような歩行を始めた。キビキビとした歩きで、インデックスとアニェーゼと共に歩きだした。
無論、シンラの意思で動いているわけではない。突然の身体の反応に、シンラは軽いパニックに陥った。
『アイアイサーッ!って、ミサカはミサカはインデックスが作ったカツカレーが食べたいって、本音を包み隠さず主張してみる!』
「ラストオーダーッ?!テメェ!」
インデックスはクスッと微笑み、アニェーゼは、ビクッ!とラストオーダーの声に体を震わせた。ラストオーダーの声はシンラの脳内に直接伝わる電気信号であり、他人には聞こえない。インデックスはテレパシーを応用した魔術を、アニェーゼと自分自身にリンクさせていた。
アニェーゼは『打ち止め(ラストオーダー)』の存在を知らないために、シンラが少女の声を発していると勘違いしていた。
『それに、シンラの体を治してくれてありがとうって彼の代わりにお礼をするから大盛りでお願いって、ミサカはミサカはっー!』
「お前は黙ってろッ!」
第三者から見れば、一人芝居をしているようにしか見えなくもない光景を見て、アニェーゼはますます奇異な目をシンラに向けた。
無邪気な笑みを零したインデックスは、シンラの手を取った。彼はインデックスの整った容姿の笑顔を見て、言葉を噤んだ。
アニェーゼは先回りして、礼拝堂の扉を大きく開けた。扉のむこうから、ステンドグラスで彩られた光が差し込んでくる。
太陽の光に照らされたインデックスの笑顔は、まさに修道女の鏡たる天使の微笑みだった。
「食べ終わったら…」
彼女の微笑みに、シンラは一瞬と言え、心奪われてしまった。
普通の男が見れば、一目で虜になるほどの可愛らしい笑顔で、彼女は力強く告げる。


「ドラゴンを斃しに行こう♪」


バタン、と扉は閉まり、礼拝堂に人はいなくなった。
祭壇を中心として描かれていた魔法陣は、光の粒となってキラキラと霧散していく。
その光景を、十字架に吊るされたジーザス・クライストの像だけが、静かに見守っていた。


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