とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

3-2

最終更新:

index-ss

- view
だれでも歓迎! 編集
7時00分。


上条当麻は強い日差しに目が覚めた。すっかり秋の季節になって少し肌寒い早朝。
「…ん、んーっ」
体を動かし、目をこすりながら起き上ろうとした。薄目で時計を確認する。
(…まだ七時じゃねーか。あと十五分くらいはいいだろー)
昨日のうちにインデックスの朝食のためのご飯の仕込みは終わっている。おかずも昨日の残りがある。冷凍食品の在庫も問題ない。
(むにゃむにゃ、あと十五分は寝かせてくださいましー)

ん?

上条当麻は、ふと気がついた。
なにやら美味しそうなにおいが漂っている。コトコトと鍋の音が聞こえてくる。
(俺、タイマーをセットしておいたっけ?)
そんなはずは無い。上条当麻は炊飯ジャーのタイマーしかセットしない。そう疑問に思い、布団を跳ね除けて起き上がろうとして―――
「へっ?」
上条はベッドから転げ落ちた。
「い、ぎゃあ!?」
盛大に頭から転げ落ちる上条。不器用な前転によって頭に激痛が走った。
「いってー…って、ベッド?俺…へ?インデックスは?」
自分はいつも風呂場で寝ている。ベッドはインデックスが使っていて…
まだ頭が覚醒しない上条当麻は、ドタドタとフローリングの床を走る音の方向を見た。
「とうま、おはようっ!」
瞳をキラキラと輝かせた銀髪碧眼シスター、インデックスが近づく。
部屋中に漂う匂いを嗅いで、上条は
「……朝からカレー?」
「とうまが好きだって言ってたから、私早起きして作ったんだよ!」
「……え?」
と、茫然。
そして、

「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!!」

少年の絶叫が、とある男子寮に響き渡った。
上条の声に驚いているインデックスの肩をガシィ!と掴んだ。
(え?カレー?作った?何を言っているんですかこの暴食シスター様は!)
「どういう心境の変化ですかインデックスさん!…はっ!?まさかおねだりですか?わたくし上条当麻はこのとーり、貧乏学生でありますよ!高価なものを買うことは…」
「…なに言ってるの?とーま。私は…その……昨日の…いや、日頃の…お礼として、カレーをつくってみただけだよ?料理するのは初めてだったけど、レシピ通りに一所懸命に作ったんだ。
……食べる?」
昨日?はて、俺はいったい何をした?と考えを巡らせながら、視線を落としたところで、上条当麻は硬直する。
なせなら、
頬を赤らめて、もじもじとするインデックスが、とても可愛かったからだ。



同時刻。
ここはある高級住宅街にあるアパートの一室。元来は一人の独身女性が住まう一室だったが、今では色々な事情があり、四人で生活している。
カーテンから差し込む陽射しに目が眩んだ。
無造作に布団をはねのけ、白髪の少年は、うっすらと目を開ける。
二つの大きな人影が視界を覆う。
黄泉川瑞穂と芳川桔梗が、神妙な顔つきで白髪の少年を見ていた。

「…………………………………………………………………………………………………ア?」

彼女たちの顔をアップで見た『一方通行(アクセラレータ)』は、
「…何してンだお前ラ」
とりあえず万一に備え、チョーカーのスイッチに手をかける。
ジャージ姿の黄泉川は言葉を選ぶように、
「…アクセラレータ、大丈夫じゃんよ?」
「心配だったのよ?昨日と一昨日の様子が変だったから…」
そう言われて、白髪の少年は四八時間前の記憶を掘り起こす。
裏稼業の仕事はしていない。
特にやる事も無かったので、カエル顔の医者に紹介された技士を訪れ、杖の細工を依頼しただけだ。腑に落ちない点は無い。だが、二人の反応を見るに、何かがあったらしい。
上半身を起こそうとして、左腕に不自然な重みを感じる。
「?」
布団をめくると、アホ毛をピョコンと立てた『打ち止め(ラストオーダー)』の寝顔をあった。
『一方通行(アクセラレータ)』のこめかみにビシィ!と青筋が走る。
「おいコラ……なンでコイツがここで寝てンだよ」
その言葉に、黄泉川の顔がますます険しくなっていく。
「……アクセラレータが一緒に寝ようって言ったじゃんか…私たちの忠告も無視して、ラストオーダーのはしゃぎっぷりは尋常じゃなかったし」
「ンだとォ!?」
驚愕する『一方通行(アクセラレータ)』を真剣な目つきで見ながら、黒スーツ姿の芳川桔梗が、
「…やっぱり覚えてないのね」
と告げた。
彼女の意味深なセリフに『一方通行(アクセラレータ)』は反応する。
有無を言わせない目つきで彼女を睨みつけた。
「…一昨日と昨日の二日間をフルに使って、第六学区の遊園地を回ったのよ…私たちの仕事を裏から手をまわして、休暇にしてまで…ね」
「……遊園地ィ?いつ行ったンだよ?」
『一方通行(アクセラレータ)』は周囲を見回すと、見覚えの無いモノがある。
等身大のクマのぬいぐるみや、いかにも『打ち止め(ラストオーダー)』が好みそうな品物が、部屋の至る所に多く置かれていた。
「…………どういうことだ?」
一種の恐怖を覚えた『一方通行(アクセラレータ)』が、底冷えした声を出すと、
「ぷ」
黄泉川瑞穂が、
「あっははははははははっ!そこまで覚えていたくないほど、恥ずかしかったじゃん!?ぷ、ぷくくくくくっ…アクセラレータ、結構可愛いところあるじゃん」
突然笑い出す。
「…ふふふふ、確かに「アレ」は可愛かったわね。貴方に対する印象が変わったのは、確かね…ぷっ」
彼女につられ、芳川桔梗も笑みをこぼしていた。艶の無いショートヘアの黒髪がゆれる。
心底面白かったのか、普段はクールな彼女にしてはめずらしく腹をかかえていた。
対して、白髪の少年はまったく面白くない。
「…オイ。テメェら。何が可笑しいのか、今すぐ説明しろコラ。十秒以内だ」
その態度が彼女たちの琴線に触れたのか、黄泉川瑞穂の表情はさらに緩んだ。
「あっはっはっはっは!凄んでも何も怖くないじゃん!…は、腹が痛い!ふ、ふひひひひ!桔梗、水ちょうだい!笑いが、ぷははは!と、止まんない!」
テーブルをバシバシと叩く彼女を見て、「朝っぱらから喧嘩を売るとは上等だコラァ!」と『一方通行(アクセラレータ)』はブチ切れる。
彼らのやりとりを余所に、彼の隣で寝ていた『打ち止め(ラストオーダー)』は、
(貴方と一緒にたべたハンバーグ、美味しかったってミサカはミサカは…)
むにゃむにゃ…と、幸せそうな笑顔で寝言を口にしていた。

窓のそばに、一つの写真立てがある。
写真の日付は昨日の昼時で、一枚の新しい写真が入っている。
そこには第六学区のアミューズメントパークで取られたものであり、四人の姿が写っていた。全員、何らかの着ぐるみを着ていて、芳川桔梗、黄泉川瑞穂はトラ、打ち止めはヒヨコの格好をしていた。
そして、
写真の中心には、
白髪の少年の不器用な笑顔が、そこにあった。


眩い朝日が学園都市を照らす。
ツンツンとした黒髪に、一六八センチほどの背丈。高校一年の上条当麻は、学校へと続く道のりをトボトボと歩く。
朝からインデックス作のカレーを食べ、初めて作ったとは思えないほどの出来だった。そのおかげか、上条は良い気分に浸っていた。
しかし、腑に落ちない点もある。
(…インデックスの態度が何か妙なんだよなー。やけに優しいし、目を合わせると、顔を真っ赤にするし…それに)
上条は携帯を確認する。
(日付が二日違うんだよなぁ…俺の思い違いかなぁ?
やけにリアルな夢を見ていた気もするし…あれー?なのに、夢の内容をまったく覚えてねぇ…)
首をかしげながら、インデックスの態度の原因を考えるが、思い当たる節も無い。ポケットに携帯を入れようとした時、
ヴヴヴヴ…とバイブレーションが作動する。
相手を見た。
画面には『土御門元春』と表示されていた。
上条当麻の背中にいやな汗が流れる。
彼は学校のクラスメイトでありながら、実は魔術側とも繋がりのある多重スパイであり、先週も彼の連絡を発端に、魔術がらみの一悶着があったばかりだ。
インデックスの事が頭をよぎり、戦々恐々たる思いで上条当麻は通話ボタンを押した。
「もしもし、土御門か?」
『カミやん…今日は学校に来ない方がいいぜい』
「何でだよ?また魔術関連の事件が…」
『青ピが上やん討伐作戦を実行中だにゃー』
「……は?」
予想外の返答に、上条は肩透かしを食らった。
しかし、聞き流せない言葉もある。
「なんの不幸イベントだよそれ。青ピを怒らせる事…何かしたか?俺」
電話の向こうで、土御門が言葉を詰まらせたのが分かった。
『…何をしたか?だと?』
「…え?」
『カミやん。今の一言で、俺も青髪の計画に参加させてもらうにゃー』
「おいっ!土みか…」
唐突に電話を切られた。ツーツー…と音が鳴る。
今回は魔術がらみの事件では無いが、何らかのヤバい事に巻き込まれるのは理解した。
冗談ではない。
土御門の声色に明らかな殺意が混じっていた。
「…どうすっかな?学校行った方がいいのかな?」


時間に余裕を持って登校している途中、
目の先に見慣れた少女が樹木の裏側に立っていることに気付いた。
肩の高さまである茶髪に、上条よりも七センチほど低い背丈。ベージュ色のブレザーに紺色のプリーツスカートを穿いている。
(あれは…ビリビリだよなー
…今学校に行ったらヤバい気がするし…適当に御坂をあしらって、時間潰すか)
と、上条は生まれて初めて彼女の出会いに感謝した。
相手は俯いていて、上条には気づいていない。今日は自分から声をかけようと思い、手を振った。
「おーい。御坂ー」
ビクン!と反応し、全身がプルプルと震えだした。変なのいつも通りか、と上条は思って、彼女が振り向いた直後、


ズドドンゥ!!


一〇億ボルトの電撃が、少年の真横を突きぬけた。
即座に反応できず、腰を抜かした上条は右手を突きだしながら叫ぶ。
「み、みみみみ御坂さん!朝から致死レベルの電撃を浴びせるとは、一体何事ですかっ!」
周囲にいた学生たちが悲鳴を上げながら、散らばっていく。
前髪をバチバチと鳴らせながら、
「昨日、自分が何をしたか…覚えてる?」
常盤台中学二年、学園都市『超能力者(レベル5)』の第三位、御坂美琴は上条当麻に近づいた。
聞くまでも無い。
少年が煽るまでもなく、彼女は戦る気満々だった。
「…その、上条さんは…常盤台のお嬢様の気に触れる事を何かなさったのでしょうか?」
怯えた声を上げながら、上条は御坂美琴の表情を見る。
はて?
気のせいだろうか?
美琴の顔が真っ赤になっている。
「…まさか、覚えてないの?」
声が怖い。
「はいぃぃ…インデックスに噛みつかれたせいか、昨日と一昨日の記憶が丸っきり無いのでして…」
「じゃあ、思い出せやコラ♪」
ビリビリバチィ!!
と、上条の顔面目掛けて雷撃の槍が放たれた。
反射的に右手で打ち消す。
それだけでは気が済まないようで、少女の全身から不穏な雷鳴が聞こえてきた。
「それなら…私が…思い出させてやるわ…
アンタはね…常盤台中学の、正門の前で……私を呼びとめて、私に……き……き、キキキキキ…」
「き?」
上条当麻の間抜けな反応に、御坂美琴はついにキレた。


「KILL YOU!(殺す!)」


ズドン!
音速の三倍以上のスピードで撃ち出された『超電磁砲(レールガン)』が、上条当麻の髪をかすめた。
「レールガン!?お前!本気で殺す気だな!?」
ジジジ…何かが焼け焦げた匂いがする。
本能的にヤバいと上条は感じ、学校のカバンを投げ出して逃走した。
「待てやコラァ!」
一〇億ボルトの雷撃が足元に直撃し、アスファルトの地面が抉れる。
「御坂さーんっ!!口調がどこぞの不良ッぽくなってますよー!?」
御坂美琴は次々に雷撃を繰り出し、上条当麻を追いかけ始めた。
「アンタが、あんな事を…したせいでっ!先生に、問い詰められるわっ!黒子は、鳴き喚くわっ!大変、だったん…だからねっ!
アンタのせいで、全然眠れなかったんだからっ!責任取れええええええええー!」
自分の立場を忘れ、大声を張り上げながら少女は走りだす。
彼らにとってはいつもの光景であり、
理不尽な攻撃を受けて、少年はいつもの口癖を叫ぶ。
「不幸だー!」
少年の声は、快晴の空に響いた。




こうして、
上条当麻の不幸は、続いていく。







fin.


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー