自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

162 第124話 激震のマオンド

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第124話 激震のマオンド

1484年(1944年)4月5日午前7時 マオンド共和国領ユークニア島

その日、ユークニア島上空の天気は、雲量は多いが普通の晴れ模様であった。
ユークニア島は現在、陸軍第72軍団の2個師団と、2個空中騎士団が駐屯している。
本来であれば、ユークニア島には、この2個師団と2個空中騎士団以外にも戦力はあったのだが、第72軍団は、1個師団が
後方の部隊と交代するため、本土に出掛けているため今は2個師団のみである。
2個空中騎士団は、さほど戦力は変わらない。
この島の特徴と言えば、ベグゲギュスの飼育、並びに発着場であるという事だ。
偵察、攻撃に使える万能生物兵器ベグゲギュスを飼育し、実戦投入していた部隊が、元々この島にいた。
だが、ベグゲギュスを運用していた第61特選隊は、2ヶ月前からこの島に居ない。
今はただ、残された洞窟施設を、急造の防御陣地に変えんと、日々作業にいそしむマオンド兵の姿があるだけだ。
第51歩兵師団に所属するとある大隊長は、のん気にだべりながら作業場に向かう兵士をみつけると、

「こら!無駄口たたいてないで早く歩け!」

と言って、その兵の反応を見て楽しんでいた。
どこにでもいる嫌な上司である。
兵隊達をいびり回している大隊長もまた、表面上は厳しくしながらも、内心ではいささかだらけていた。
(ふん、今日もつまらん作業か。全く、いつまでこんな日が続くのやら)
と、不満をつぶやきつつ、ストレス解消のため部下を再びいびろうとした。
この時、馬が猛スピードで作業場に向かう兵達の隊列を突っ切った。
辛くも、数人の兵が咄嗟に避けて、馬との衝突を避けた。

「バカヤロー!!どこ見て走っているんだ!?」

避けた兵数人が、馬上の人物に向かって罵声を放ったが、馬上の人物は振り向きもせず、軍団司令部の天幕まで走って行った。
天幕の側で、馬上の人物は慌しく下りた。そして、これまた慌ただしい動きで司令部天幕の中に入って行った。

「ご苦労なこった。」

大隊長ははき捨てるように言うと、部下達の監視を続けた。
それから2分も経たないうちに、異変は起きた。

「・・・・大隊長。」

いつの間にか、歩み寄って来た副官が、大隊長を呼びかけた。

「ん?どうした?」
「何か、音が聞こえませんか?」
「音?」

大隊長は怪訝な表情で言う。彼の耳には、聞き慣れぬ音が小さく響いていた。

「ふむ、確かに聞こえるな。」

大隊長は、何気ない口調で副官に言ったが、いきなり、隊列の所でガラン!という音が聞こえた。
大隊長は隊列に目を向ける。
そこには、何故か目を見開いて、しきりに体を震わせる兵隊が居た。

「おぃ、どうした?」
「体の具合でも悪いのか?」

前後に居る仲間達が、急に震え始めた兵隊を気遣う。
しかし、兵隊は仲間達の質問に答える事無く、そのまま震え続ける。

「おい!何事か!?」

大隊長は、大声を上げながら近付いた。
ふと、彼はこの兵隊が、以前はゲンタークル駐留の部隊に居たと言うことを思い出した。

「来る・・・・・奴らが・・・・・来る!」

その兵隊は、怯えた目つきで周りの仲間に言い始めた。

「来るぞ!悪魔がやって来るぞ!!」
「おい貴様!何をしている!!」

さかんにわめき立てる兵隊に向かって、大隊長は顔を真っ赤にして怒鳴った。

「体が悪いのか!?それとも仕事をさぼりたいのか!?どっちだ!」
「大隊長!奴らです!奴らが来ます!!」

いきなり、その兵隊は大隊長の両肩を掴んで訴えた。
(もしかして、気が狂ったのか?)
大隊長はそう思いつつも、先ほどの音が、かなり大きくなっている事に気が付いた。

「奴らだと?幽霊か魔物でも見たのか?」
「そいつのほうがよっぽどマシです!」

兵隊は、恐怖に血走った目で大隊長を凝視した。

「アメリカ軍です!アメリカ軍の飛空挺が襲って来ます!」

その兵隊が裏返った声音で叫んだ瞬間、唐突にワイバーン基地から飛び立ったと思われる戦闘ワイバーンが、超低空飛行で上空を通過していった。
1騎や2騎ではない。5騎、6騎、7騎と、意外と大目の数のワイバーンが、いかにもあわてふためいたように飛び立っていく。

「空襲警報!空襲警報!」

司令部天幕から、伝令が馬に跨って、大声で叫びながら駆け抜けていく。

「なんということだ・・・・・」

大隊長は、まさかアメリカ軍の空襲を受けるとは思っていなかった。
いや、空襲のための訓練は何度かやっているから、全く覚悟していない訳では無いのだが、上層部は、アメリカ側がこのユークニア島に来るのは、
早くても6月であると判断し、それを各部隊に通達していたため、末端の兵士までもが、6月まではアメリカ軍は来ないと思い込んでいた。
そこへ、いきなりアメリカ軍機来襲の報が入ったのだから、彼らにとって、この空襲は予想外の出来事であった。

「おい!急いで戦闘配置に付け!」

大隊長は、上ずった声で部下達に命じた。

ユークニア島には、第12空中騎士団と第14空中騎士団が駐屯している。
真っ先に迎撃ワイバーンを飛ばしたのは第12空中騎士団であったが、最初のワイバーンが飛び出した時には、アメリカ軍機はユークニア島の
西10マイル地点にまで迫っていた。
空中戦は、上空に占位した者が優位となる。
アメリカ軍機は、その常識を第12空中騎士団の迎撃ワイバーンに身を持って教えた。
迎撃ワイバーンが高度2000メートルまで上がった時には、制空隊のF6F、F4U多数が急降下で迫っていた。

この時、第12空中騎士団から発進したワイバーンは24騎士。
それに対して、迎撃隊に襲い掛かった米戦闘機隊は、実に60機以上もいた。
勝負は、この時点で決していた。
もし、マオンド側がアメリカ軍機に優位な体制で戦闘を開ため始していたら、いくらかは善戦出来たであろう。
だが、現実は悲惨であった。
F6F、F4Uは12.7ミリ機銃を乱射する。数が多いため、襲って来る機銃弾の数も半端な数ではない。
迎撃ワイバーンが10発撃つ間に、米戦闘機隊はその10倍の機銃弾を撃ち放っていた。
第一撃目で、あっという間に8頭の戦闘ワイバーンが撃墜される。
一方、アメリカ側は10機が被弾したが、いずれも軽傷で済んだ。
少数の迎撃ワイバーン隊が、圧倒的多数のF6F,F4Uに追い回されている間、別の戦闘機隊は、攻撃隊に先駆けてワイバーン基地に襲い掛かった。
ワイバーン基地には、発進を急ぐ迎撃ワイバーンや攻撃ワイバーンがひしめいていた。
どの竜騎士も、整備兵も顔に焦燥を滲ませながら、大慌てで出発を急がせている。
いきなりの空襲にだれもが驚き、普段なら普通にこなせるはずの動作も、この時に限って失敗を連発し、余計に仕事が増えてしまう。
基地内はてんやわんやの大騒ぎだ。
そこに、30機近いヘルキャット、コルセアが突っ込んで来たのだからたまったものではない。
いつの間にか迫っていたアメリカ軍機が、両翼から機銃弾を撃ち出して来る。
機銃弾がミシンがけをするように地面へ降り注ぐ。
被弾したワイバーンが体中から血を噴出し、悲鳴を上げる。
竜騎士の胴体に機銃弾が命中するや、体があっけなく千切れとんだ。
勇敢な兵が、魔道銃に取り付いて応戦するが、その銃座も、横合いから突っ込んできたコルセアの機銃弾をしこたま振るわれ、
応戦開始から1分足らずのうちに沈黙した。
別のヘルキャットは、司令部らしき建物を見つけるや、そこに機首を向けて、機銃弾を叩き込んだ。
今しも、官舎から逃げ出してきた騎士団の司令や幕僚が、真正面から12.7ミリ弾の洗礼を受け、幕僚共々機銃弾に貫かれ、一瞬のうちに戦死した。
別のヘルキャットの小隊は、逃げようとする馬車や、キメラの部隊を見つけるや、これに襲い掛かった。
4機のヘルキャットは、入れ替わり立ち代りこの敵に攻撃を加え、ものの数分でただの動かぬ物体に変えた。
戦闘機隊が派手に暴れ回っている所に、高空から艦爆隊が基地の上空に侵入してきた。

ワイバーン基地攻撃を任されたのは、空母イラストリアスとベニントンから発艦した40機のSB2Cヘルダイバーである。
40機のヘルダイバーは、高度4000メートルから小隊ごとに急降下を開始した。
既に、対空砲火はほとんど制空隊が潰してくれたが、それでも、生き残っていた高射砲や魔道銃が射撃を加えて来る。
撃つ側は、それこそ必死の形相で応戦しているのだが、ヘルダイバー隊の搭乗員から見れば、それはささやかな抵抗にしか見えなかった。
ヘルダイバー隊は、そのささやかな弾幕をあっさりと突き抜け、高度700メートルま出降下するや、次々と爆弾を投下した。
執拗な銃撃の中、ようやく発進しようとしていた攻撃ワイバーンの隊列に、容赦なく1000ポンド爆弾が叩き込まれ、一気に6頭のワイバーンが吹き飛ばされた。
爆弾は、ワイバーン発着場、司令部官舎、ワイバーン宿舎と、基地の重要施設に次々と命中して言った。
ワイバーンの宿舎に1発の1000ポンド爆弾は命中するや、縦長の宿舎は、真ん中から紅蓮の炎を吹き上げて、文字通り真っ二つに断ち割られた。
1発で使用不能に陥れられた宿舎に、続けて2発、3発と、容赦なく爆弾が落下した。
至近弾となった爆発は、その炸裂に伴う爆風で建物の側壁をごっそり削り取る。
直撃弾はただでさえ被弾で脆くなった宿舎を、木っ端微塵に吹き飛ばした。
ヘルダイバー隊が爆撃を終えると、今度はアベンジャー24機がやって来て、3発ずつ500ポンド爆弾を投下した。
ワイバーン基地が使用不能に陥るまで費やされた時間は、僅か15分であった。
攻撃を受けているのはワイバーン基地のみではない。
別のコルセアやヘルキャットは、洞窟に向かう隊列を見つけるや否や、すぐに接近して銃撃を浴びせた。
大隊長は、後方から翼の折れ曲がった飛空挺2機が接近して来るのが見えた。
彼はすぐに前を向き、前を走る部下達に向かって伏せろ!と言おうとしたが、その言葉が口から出る直前に、耳の側を何かが通り過ぎた。
何か熱いものが耳のすぐ側を飛び抜けた、と思った時には、目の前で部下達が、降り注いだ機銃弾によってばたばたと打ち倒された。
土煙が上がり、それに赤い血飛沫も混じる。機銃弾に撃たれた兵の悲鳴が木霊する。
吹き上がる土煙が、急速に前へ突き進み、その土煙に捕まった者は、四肢を千切られるか、あるいは体に風穴を開けられ、運悪く死に
損なったものは、今までに感じたことの無い苦痛にもだえ苦しんだ。
上空を、3機のコルセアが轟音を上げて通過していく。
大隊長は、機銃弾が耳の側を掠めた直後、微かに意識が朦朧となった。
彼は知らなかったが、至近を通過した12.7ミリ弾の衝撃波によって、軽い脳震盪を起こしていた。
3機のコルセアは10秒だけ、隊列に機銃掃射を加えた。
たった10秒だけだ。

しかし、3機のコルセアが行った機銃掃射は、大隊長の部隊に夥しい犠牲者と負傷者を出していた。
きがつくと、70人以上の兵が地面に倒れ付している。
事切れている者、苦痛に呻く者があふれ返り、洞窟に続く街道はまさに修羅場と化していた。
その負傷者達に、無傷の兵が介抱しようとしているが、大隊長は上空を乱舞するアメリカ軍機にずっと見入っている。
ワイバーン基地のある方角は、既に黒煙に包まれていた。
ワイバーン基地には、総計で230騎のワイバーンが駐留していた筈だ。
その多数のワイバーンは、まともに上がれないうちに基地ごと叩かれたであろう。
(なんてことだ・・・・・奇襲でワイバーン隊が全滅・・・・そして、地上部隊も散々叩かれている。俺の部隊だけで、一瞬のうちにこれだけの被害が出ちまった。
あんな装備を持つ敵に対して、俺たちの武器は・・・・・・)
大隊長は、早くも戦意を失いかけていた。

午前7時30分 ユークニア島西230マイル地点 第7艦隊旗艦重巡オレゴンシティ

「敵ワイバーン基地攻撃成功、効果甚大。」
「迎撃ワイバーン12騎撃墜、味方の被害はF4U2機、F6F1機喪失。」
「敵地上部隊多数に被害を与えり、戦果は不明ながらも、効果大の模様。」
「沖合を航行中の敵輸送船団を爆撃、敵船1隻を撃沈せり。」

第7艦隊旗艦であるボルチモア級重巡洋艦のオレゴンシティ内部の作戦室では、ユークニア島攻撃に向かった第1次攻撃隊の報告が
次々と入って来た。

「長官、第1次攻撃隊は敵の虚を衝いたようですね。」

第7艦隊参謀長であるフランク・バイター少将は、隣で腕組をしながら戦況報告を聞き入っていた第7艦隊司令長官、オーブリー・フィッチ大将に言った。
フィッチ大将は、その柔和そうな顔をやや硬くしていたが、その表情が僅かばかり緩んだ。

「うむ。迎撃してきたワイバーンの数が少ない事から見て、ほぼ奇襲に近い状態で攻撃をかけられたのかも知れんな。」

「私としては、ここまで上手く言ったのが不思議なぐらいですな。」

横から、情報参謀であるウォルトン・ハンター中佐が怪訝な表情で言ってきた。

「マオンド軍が、ベグゲギュスという生物兵器を使用している事はご存知かと思われますが、我々は、敵の迎撃を受ける事を前提で攻撃隊を飛ばしました。それなのに、敵さんの寝込みを襲うような形で攻撃は成功してしまった。マオンド軍は、常に我々が侵攻して来るのを恐れ、日々警戒していたはず。なのに、こうもあっさり敵の根拠地に近付けてしまうとは・・・・」

ハンター中佐は、どこか拍子抜けしたような口ぶりである。

「策敵機からは、まだ何も言って来ないかね?」

フィッチは、航空参謀のウェイド・マクラスキー中佐に尋ねた。

「いえ、今の所報告はありません。静かな物ですよ。」

マクラスキー中佐は苦笑しながら答えた。

「罠・・・・という手は考えられませんか?」

バイター少将が、幾分躊躇いがちな口調で、フィッチに言う。

「罠だと?」
「はっ。もしかしたら、マオンド軍は我々がユークニア島攻略に集中している間に何かを仕掛けてくるかもしれません。
考えられる手は幾つかあります。1つは、例のベグゲギュスという生物兵器を大量に押し立てて、輸送船団を攻撃するか、
2つは、ベグゲギュスと主力艦隊でもって、機動部隊及び、輸送船団を攻撃するか。一番厄介なのは、2つ目です。」
「ベグゲギュスのみならば、高速駆逐艦や哨戒機の大量投入で何とかできるが、2つ目ならこっちも主力を率いて
対抗しなければならないからな。そうなると、隙が生じて輸送船団に被害が続出してしまう。」

第15軍を護衛している第73任務部隊は、旧式戦艦3隻、護衛空母12隻、駆逐艦32隻、護衛駆逐艦32隻で編成されている。
この艦隊で、第15軍5個師団が乗る輸送船480隻を援護しなければならない。
ベグゲギュスのみであれば、TF73のみでもなんとか対抗できるであろうが、これに敵艦隊が加わればかなり危険な状況に陥る。
下手すれば、第2次バゼット海海戦の夜戦時に起きた悲劇を、アメリカ軍自らが所を変えて体験することになる。
そうなれば、アメリカのレーフェイル侵攻は序盤で頓挫してしまう。
フィッチとしては、そのような事も考慮して、機動部隊と護送船団との距離はなるべく開けないようにしている。
現在、機動部隊と護送船団との距離は、僅か100マイルであり、夜間には70マイル程度にまで縮まる。
これは、一見危険なことではあるが、緊急時には機動部隊からも高速艦艇が派遣出来るため、合理的な方法でもある。
とはいえ、現在の状況で敵に出て来られたら厄介な事に変わりは無い。

「事前攻撃は、ひとまず3日間と決めていたのだが・・・・・」

フィッチはそこまで言ってから、しばし黙った。

「長官。戦場と言う場所では、事前の取り決めも覆さねばならない、という事もあります。」

バイター少将が意見具申をして来る。

「輸送船には、まだ第15軍の将兵がおりますが、敵はこの輸送船団を最優先目標として狙ってくるかもしれません。
そうであれば、3日間の事前攻撃という取り決めは、今では逆に作戦に支障を来たしかねない要因になりつつあります。
上陸部隊がユークニア島に乗り上げる前に、船ごと叩き沈められるよりは、陸に上げて戦わせた方が良いでしょう。」
「参謀長、つまり、君は陸軍部隊の上陸を早めろ、と言いたいのだな?」

フィッチの問いに、バイター少将は頷く。迷いは全く見られなかった。

「しかし参謀長、第15軍を陸に下ろした後、予想される敵艦隊との決戦で・・・・あまり言いたくはありませんが、もし、
第7艦隊が敗退すれば。陸に貼り付けられているだけの第15軍はどうなります?艦隊が撤退する時、船の上に居ない陸軍部隊は
置き去りにされてしまいますぞ。」

バイター少将の意見に対して、マクラスキー中佐が噛み付いて来た。

「ならば、君は陸軍の将兵に輸送船ごと沈めと言うのかね?彼らは陸兵だぞ?本来、死に場所ではない海の上で、無様に死なせては
申し訳がたたんだろうが。そのような恥ずかしいことは出来ん。」
「その陸兵達を見殺しにして撤退する事は、もっと恥ずかしい事です!」

2人の議論は、しまいには怒鳴り合いと化した。
バイター少将とマクラスキー中佐は、共に優秀な士官である。
バイター少将は開戦前までは基地航空隊の司令を勤め、開戦から3ヶ月が経った後は、ニュートン少将(現大西洋艦隊司令長官)の
機動部隊で航空参謀として配属され、ニュートン少将を補佐している。
その後は本土に戻り、海軍教育飛行隊の副司令を勤め、44年1月に、新編成の第7艦隊参謀長に任命されている。
一方、マクラスキー中佐は、開戦前から空母エンタープライズの艦爆隊長として数々の海戦を経験し、43年5月からは、本土の
練習航空隊で教官として活動し、44年1月に第7艦隊航空参謀として抜擢された。
2人とも、前線の修羅場を潜り抜けた優秀な海軍士官なのだが、考え方に違いがあるためか、会議の際は、こうしてよく議論を戦わせている。
フィッチは、見かねて2人の議論を止めにはいった。

「おいおいおい。2人とも、そこで一旦話しをやめてくれんかね?」
「すいません。」
「申し訳ありません。つい熱くなってしまって。」

それまで、熱論を繰り広げていた2人は、フィッチの言葉を聞くなり、あっさりと引き下がった。

「実は、私はある作戦を考えている。とは言っても、サマービル提督からの受け売りなんだが。」

フィッチはそう言ってから、自らの考えた案を、幕僚達に説明した。

午後4時30分 マオンド共和国首都クリンジェ

アメリカ第7艦隊司令部は、マオンド艦隊がどこかで備えているであろうと思い込み、盛んに議論を重ねていた。
第7艦隊司令部が恐れているのは、マオンド艦隊の計略によって輸送船団が壊滅させられ、上陸作戦が頓挫すること。
あるいは、艦隊決戦に敗北する事である。
アメリカ海軍のとある士官は、マオンド艦隊には新鋭艦が多数配備され、よく訓練されている。
そのため、グラーズレット沖海戦の雪辱を果たさんと向かって来る彼らの実力は、侮れないであろう、と。
それほどまでに、アメリカ側はマオンド艦隊を強く警戒していた。
確かに、マオンド海軍はアメリカ海軍を強く意識し、いずれはその仇を討ってやると決め、訓練もとりわけ厳しく行われた。
そのため、錬度も申し分無いほどまで上がり、最近編成されたばかりの竜母部隊も、腕利きばかりを集めた事もあってか、訓練は順調に進んだ。
上層部は、今年2月に行われた大演習で、各艦隊の錬度のよさに満足し、

「これなら、アメリカ海軍相手でもいい勝負が出来る」

と自信満々に言った。
だが、そんなマオンド海軍上層部ですら、ユークニア島守備隊の将兵が言ったように、突然のアメリカ機動部隊襲来に仰天していた。
そんな中、全閣僚の緊急招集がかけられた。
首相のジュー・カングは、全閣僚が集まったの確認するや、玉座に座るブイーレ・インリク国王に頷いた。

「諸君!忙しい中、急に呼び付けて申し訳ないが、今日は緊急の事態が発生したため、君達に召集をかけた。ジュー。」

インリク国王は、カング首相に目配せする。カング首相は、突き出た腹を重そう揺らせながら立ち上がった。

「本日早朝、わが国の領土であるユークニア島にアメリカ軍が侵攻いたしました。」

その言葉がカング首相の口から出るや、閣僚の大半が驚いたような表情を浮かべた。

閣僚の中には、顔を真っ青に染める者もいたが、そんな中、陸軍総司令官と海軍総司令官は冷静であった。
彼らは、この会議に出向く前に司令部で状況報告を受けていたため、特に驚く事もなかった。

「首相閣下。どうして、アメリカ軍の侵攻を許したのでありますか!?」

財務大臣が、顔を引きつらせながらカング首相に言った。
その口調振りからして、まるで罪人を咎めるような口ぶりである。

「潜水艦ならばまだしも、上陸船団をも含む大艦隊が、わが国の領土に押し入ってくる事など、あってはならぬ事ですぞ!」
「詳しい話は、海軍総司令官と陸軍総司令官が行う。」

カング首相は、財務大臣の矛先を2人の軍人に向けさせた。

「トレスバグト閣下、どうしてこのような事が起こったのですか?」
「・・・・・誠に申し上げにくい事ですが、考えられる事はあります。それは、ベグゲギュスの哨戒網に触れぬ海域を航行した事です。
敵艦隊発見の報告が入ったのは、今朝の7時を過ぎてからでした。」
「それ以前に、敵艦隊が出港した、という報告があったはずですが、そこの所はどうなのですか?」
「・・・・・・・・・・」

なぜか、トレスバグト元帥は押し黙った。

「どうなのです?」
「ハッ、海軍が、敵艦隊が出港したと言う事が初めて知りえたのは・・・・・」

トレスバグト元帥は、歯切れの悪い口調でいうが、その後が続かない。だが、財務大臣はその続きが分かってしまった。

「まさか、今朝の報告を受けてから知った・・・・と言うのですか!?」
「はい。」

その瞬間、会議室の空気は凍り付いた。
海軍は、上陸部隊も含む大艦隊の出港を、ユークニア島空襲さるの報告を受けてから初めて知ったのである。

あってはならない事が起きてしまった・・・・・!

首相、国王をも含む全員が、そう言いたげな表情を浮かべていた。

20年後、とあるベグゲギュスの死体がアメリカのトロール船によって引き上げられた。
後の調査によると、このベグゲギュスは原因不明の病気で急死したということが判明している。
この急死したベグゲギュスは、ノーフォーク軍港の見張りを任されていた第61特選隊のベグゲギュスであり、
別のベグゲギュスの交代に向かう途中であった。
ノーフォークから800マイル沖合で発見されたベグゲギュスは、この海域で死亡したと思われている。
ベグゲギュスの死亡を知らなかった海軍は、哨戒網に穴が開いている事を知らず、そのままの状態でアメリカ第7艦隊が出港して行った。
マオンド海軍の哨戒網は、意外なほどに簡素であり、アメリカ東海岸沖に10頭のベグゲギュスを配置した後は、スィンク諸島やリック諸島沖に
数頭ずつ、大陸沿岸部の警戒用に80頭ほどを配備していたのみであり、それ以外は海軍の哨戒部隊に任せているのみであった。
こんな簡素な哨戒網でも、アメリカ東海岸沖の情報収集は充分に出来、敵輸送船の航路の変移具合や、敵新鋭艦の調査等は満足に行えた。
攻撃に移ると、いささか弱いベグゲギュスであるが、情報収集能力に関しては潜水艦に勝るとも劣らず、マオンド海軍の艦影表は、後年、
それを拝見したアメリカ海軍関係者が見てもため息をついたほど充実していたと言う。
だが、数の少ない上での優秀さが、今回は仇となった。
それも、致命的といって良いほどの。

トレスバグト元帥は、自らに冷たい視線を浴びせられているのが痛いほど分かっていた。
当然であろう。

上陸部隊を含む大艦隊の出港を、何日もの間全く察知できないというあってはならない事が起きたのだ。
艦隊の出港だけでも掴んでいれば、少しはマシであったろうが、それすらも分からなかったのだ。
今回は、敵艦隊がユークニア島に来たから良い物の、もし、本国に攻め込まれていたら・・・・
(そうなったら、目も当てられない惨事となる。)
トレスバグト元帥は、好き放題に蹂躙される本国の沿岸都市を想像し、それをすぐに振り払った。

「まぁ・・・過ぎた事を責めても仕方があるまい。」

インリク国王の、しわがれた口調が会議室に響いた。その独特な口調が、トレスバグトにとっては棍棒で殴られるかのように頭に響く。

「トレスバグト元帥。今回は非常時だ。このような事でいちいち議論する暇は無い。であるから、今回の不祥事に関しては何ら問わない。ただし」

インリク国王は、そこで口調を重くした。

「以降、このような事が起きぬよう、努力したまえ。」

威圧感の滲んだ言葉に、トレスバグトは身を奮わせた。要するに、次失敗すれば、軍からたたき出してやると言うことだ。

「はっ!」

トレスバグト元帥は、ただそれだけを言って、深く頭を下げた。

「責任問題はこれで良しとして、問題はユークニア島をどうするか、です。」

陸軍総司令官が口を開いた。

「それは勿論決まっております。アメリカ軍に決戦を挑み、徹底的に討ち滅ぼすべきです!」

内務大臣がそう言うと、他の閣僚もそうだ!そうだ!と賛同する。

「ここでアメリカ軍を撃退すれば、各国で調子に乗っている反乱分子達の士気も粉砕できます。それに、国民の士気向上も見込まれます。
ここでアメリカ軍を討ち果たし、同盟国シホールアンルにも、スラクトン大陸の国家群にもわが国がこれだけの力を有していると喧伝するチャンスです。」

内務大臣は、自信ありげにそう言っているが、この時、トレスバグト元帥は、その内務大臣が口調とは裏腹に、目を異様に血走らせている事に気が付いた。
(興奮しているのか?)
彼は、珍しいと思った。
内務大臣は、普段は冷静沈着な男として知られているのだが、今日のように、熱心に語る事などまったく見覚えが無い。
どうしたものか、と思いつつ、彼は他の閣僚の顔をちらりと眺め回した。
そこで、トレスバグトは、他の閣僚達が、どれも共通した顔を浮かべている事に気が付いた。
(みんな動揺しているな)
彼が、心中で呟いた通り、閣僚達の顔つきは、どれもこれも動揺しており、いつも見せる余裕めいた表情は消えていた。
彼らが動揺している理由は、やはりユークニア島を猛攻撃しているアメリカ軍にあるかもしれない。
寝耳の水の出来事に、彼らは必死に事態を打開しようと考えているのであろう。

「海軍としてはどうなのですか?すぐにでも艦隊を派遣できますか?」

内務大臣が、彼に質問して来た。

「海軍としましては、ゴホル・ドナにいる第1機動艦隊と、グラーズレットにいる第1、第2艦隊を主力にし、フォルサの
第3艦隊を、主力部隊が来るまで敵艦隊来襲時の迎撃部隊、もしくは遊撃部隊として使う予定です。」

そこに、思いがけぬ言葉が割り込んだ。

「ユークニアは、この際見捨てる。」
「・・・・!」

トレスバグトのみならず、会議の参加者全員が、その声がした方向に目を剥いた。

「たかだかちっぽけな諸島ごときに、あたら戦力を投入し、消耗を招く事になってはまずい。」
「陛下!」

カング首相が、血を吐くような声音でインリク国王に言った。

「島には数万の同胞がいるのですぞ!それなのに、見捨てるというのは余りにも酷ではありませんか?!」
「ジュー、君の言う事は最もだが・・・・今は軽い皮膚の病気より、重い内蔵の病気を治したほうが良い。そう思わんか?」
「アメリカ軍来寇は、決して軽い皮膚の病気等ではありません!むしろ、重い内蔵の病気すらも上回るものです!」

陸軍総司令官が声高に言い放つ。

「ここでユークニア島が早々に落ちれば、アメリカ軍は勢いに乗って、このレーフェイル大陸にまで兵を進めてきます!
それも、遠からぬうちに!ですから、ここはアメリカ軍と決戦をするべきです!」
「その決戦に勝利できる保障はあるのかね?」
「それは・・・・・・」

インリク国王の問いに、陸軍総司令官は自信ありげに答えようとした。だが・・・・・出来なかった。

「海軍はどうかね?」

インリク国王は、トレスバグトに話を振る。

「はっ・・・・」

彼もまた、答えに窮した。現在、海軍には6隻の竜母と7隻の戦艦、45隻の巡洋艦と84隻の駆逐艦がいる。
それらは、各艦隊に分配されている。
マオンド海軍の主力を成すのは、なんといっても第1機動艦隊である。
第1機動艦隊は、6隻の竜母を2群に分け、1群につき戦艦2隻、巡洋艦3隻、駆逐艦10隻ずつが配備されている。
この第1機動艦隊を構成する艦艇群は、いずれも新鋭艦ばかりであり、艦の性能も他の艦隊の艦艇と比べて格段に向上している。
それに、シホールアンル海軍から訓練将校として派遣されたルエカ・ヘルクレンス少将の協力もあって、竜騎士達も今では
一人前の海軍ワイバーン乗りに成長している。
それに次ぐのが第1、第2艦隊である。
第1、第2艦隊は打撃部隊として編成され、第1艦隊はジャンガルーダ級戦艦2隻に巡洋艦5隻、駆逐艦12隻、第2艦隊は
マウニソラ級戦艦2隻に巡洋艦6隻、駆逐艦14隻で編成されている。
これらの艦隊は、幾分旧式艦艇が混じっている物の、錬度は充分である。
特に、旧式戦艦のマウニソラ級2隻は、古いだけあってよく使い込まれており、射撃精度に関しては、新鋭戦艦のリグランバグル級ですら
かなわないと言われるほどだ。
最後の第3艦隊は、巡洋艦6隻、駆逐艦16隻で編成されているが、この艦隊には快速艦艇が主に配備されている事から
高速打撃部隊の意味合いが強い。
以上が、現在のマオンド海軍の主力部隊である。
これらが全力を持って当たれば、アメリカ艦隊相手に打ち勝てると、トレスバグトは思っていた。
いや、思いたかった、と言ったほうが正しいであろう。
しかし、相手とて、片割れとはいえ大国シホールアンルに苦戦を強いて来たアメリカ海軍である。
そのアメリカ海軍に決戦を挑んで、果たして勝利できるかどうか・・・・・
(わからない)
彼の脳裏には、目に見える勝利が思い浮かばなかった。

「勝てない可能性が大きい・・・・そう思っているのだろう?」

「・・・・い、いえ。そのような事は!」
「まあよい。」

インリクは、そう言って会話を打ち切った。

「私が言いたいのは、何も敵に対して、対等に戦おうとしないでも良いと言うことだ。ユークニア島には無いが、本国の近くに
決戦場を定めれば、我々はユークニア島では用意できぬ物を使える。」

インリク国王は、意味ありげに言った。

「アメリカ海軍は空母機動部隊というものを、思う存分使っているようだ。今回の戦争で、私は飛行兵器が主役であると分かった。
敵が飛行兵器を多用するのならば、こちらもそれを利用しよう。竜母部隊だけで足りなければ、陸上のワイバーン基地も使えばよいのだ。」

インリク国王の言葉に、閣僚達は納得した表情を浮かべた。

「本国には、3000騎ものワイバーンがおるのだ。アメリカ軍が攻めてくるのならば、それで良し。このワイバーンの大編隊でもてなしてくれようぞ。」

インリクは、そう言ってから高々と笑った。
彼の威勢の良さは、他の閣僚にも伝わって行ったが、トレスバグトと陸軍総司令官は、それでも不安であった。
先の動揺した空気は、完全には払拭されていない。それでも、閣僚達は、幾ばくか緊張が解けた。

「君は、アメリカ軍がこのまま前進を続けると思うか?」

おもむろに、陸軍総司令官がトレスバグトに聞いた。

「分からんな。だが、余勢を駆ってレーフェイルに攻め込む可能性は、無いとは言えないな。むしろ、ユークニアを占領したでけで
前進を止めてくれればいいと思っている。」

「前進を止める・・・・か。」

トレスバグトの答えに、陸軍総司令官は苦笑した。

「何がおかしい?」

トレスバグトは、急に腹立たしくなった。彼はとげのある口調で陸軍総司令官に聞いた。

「アメリカ軍の爆撃機の足が短ければ、それでも良かったんだがな。」


午後6時20分 第72任務部隊第2任務群

TG72.2の輪形陣内にいる巡洋戦艦コンスティチューションの艦内で、アンドリュー・ホッパー大尉は、椅子に座っていた
尖った耳の男性士官・・・・エルフの特務士官から紙を渡された。

「ユークニア島の第72軍団司令部の魔法通信です。連中、艦砲射撃に大分驚いているようです。」

カーキ色の軍服に身を包んだエルフの少尉は、毒気のある笑みを浮かべながらホッパー大尉に言った。

「我、敵艦隊からの猛烈な砲撃を浮く、被害甚大、将兵の動揺は計り知れず、救援部隊の到着はいつ頃になりや?か。
連中、あまりの猛砲撃に泡食ってるぞ。」

ホッパー大尉は、憐憫の表情を浮かべてそう呟いた。
ユークニア島は、第72任務部隊から計4波、540機の航空攻撃を受けた後、午後5時から第73任務部隊から派遣された、戦艦ニューメキシコ、
ミシシッピー、アイダホ以下の砲撃部隊によって、島中に砲弾の雨を降らされている。

太平洋戦線で、第5艦隊がファスコド島に行ったほどの派手さは無いが、それでも戦艦3隻を始めとする砲撃部隊の猛射の前に、ユークニア島の
マオンド軍はかなり動揺していた。

「ニューメキシコ級3姉妹に重巡3隻、軽巡2隻に駆逐艦12隻が、1時間前からぶっ通しで撃ちまくっていますからね。消費弾数は軽く数千発を
越しているかも知れませんよ。」

エルフの少尉、フェルスト・スラウスが言うが、ホッパー大尉は首を振った。

「いや、もっといくかも知れんぞ。何しろ、第5艦隊は初日で5万発以上の砲弾をぶち込んだって話しだ。TF73は、ナリこそは小さいが、
それでも1万発程度は、あの島にぶち込むだろう。」

ホッパー大尉はそう言ってから、渡された紙を従兵にCICに持っていくように命じた。
彼は従兵に紙を渡した後、コーラを飲みながら、神に鉛筆で何かを書いた。

「しかし、今日1日だけで、100もの魔法通信を傍受できるとはな。」
「ちょうど、レーフェイル大陸とユークニア島の間に割って入る形で航行していますからね。どんな通信でも一発で傍受できますよ。」

スラウス少尉は、魔法通信傍受機を眺めながら、自慢気に言った。
コンスティチューションは、CICの隣に魔法通信傍受室という部屋を設けており、そこに専用の機械を置いて、艦橋の特殊アンテナを伝って
相手側の魔法通信を傍受している。
魔法通信傍受機は、機械その物が魔法絡みの物体であり、扱いには魔道士の協力が必要であった。
アメリカ海軍は、この事を予見して42年始め頃から南大陸各国に、魔道士の志願者を募った。
厳正な審査の結果、ミスリアル人28名、カレアント人、バルランド人14名ずつ、グレンキア人8名とレイキ人7名が、海軍特務士官として
アメリカ本土で訓練を受け、43年7月から太平洋、大西洋両戦線で活動した。
配備当初は、普通の通信員としての技量も必要なため、大は戦艦や正規空母から、小は魚雷艇や潜水艦、はては飛行船まで、さまざまな艦種に乗せられた。

このうち、カレアント人1士官人が1943年10月に起きたマルヒナス沖海戦時に軽巡ボイス艦上で。
ミスリアル人仕官1人が1944年1月に起きたトアレ岬沖海戦時に、軽巡オークランド艦上で戦死している。
このように戦死者が出るほど、前線勤務は厳しかったが、残りの特務士官は、魔法通信傍受機の装備された艦に専門要員として、順次配備されている。
大西洋艦隊では、艦橋の高い戦艦に優先して魔法通信傍受機が配備され、巡洋戦艦コンスティチューションと、出撃2日前にTG72.2に加わった
アラスカ級の姉妹艦である巡洋戦艦トライデントに装備されている。
その魔法通信傍受機は、早速役に立っている。

「おっ、また反応が」

カップの中のオレンジジュースを飲もうとしたスラウス少尉は、名残惜しげにカップを置いてから、魔法通信傍受機のタイプライター部分に紙をセットした。
受信機の役割を果たす魔法石が妖しい光を放つ。その光が弱くなるに比例して、解読機が音を立てて唸る。
その次には、タイプライターが紙に文字を打ち始めた。
10分ほどで、一連の解読作業は終わった。スラウス少尉は、銀色の長髪をぼりぼり掻きながら、紙を千切り取った。
彼は一読した後、意味深な表情を浮かべた。

「どれ、見せてくれ。」

ホッパー大尉は、スラウス少尉から紙を受け取るや、その文に目を通した。

「発、マオンド軍総司令部、宛、ユークニア島駐留隊。

目下、攻撃艦隊の派遣を検討中なり。ユークニア島駐留部隊は、軽挙妄動を控えつつ、可能な限り戦力の温存に勤められたし。」
一文に目を通したホッパー大尉は、スラウス少尉と目を合わせた。

「どうやら、マイリー共はユークニア島に艦隊を派遣するようだ。派遣する規模が不明なのが、少し不満だが。」
「派遣・・・・か。わざわざ1200キロ以上も離れている場所からやって来るのか。敵さん、相当に追い込まれていますね。」
「ひとまず、これはすぐに艦隊司令部に報告したほうがいいだろう。」

ホッパー大尉はそう判断すると、別の従兵に、この紙を持って通信室に行き、すぐに艦隊司令部に連絡させるように命じた。
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