自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

164 第126話 広がる動揺

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第126話 広がる動揺

1484年(1944年)4月9日 午後1時 マオンド共和国サフクナ

マオンド海軍第1機動艦隊は、この日の午後1時、ようやくサフクナ軍港に到着した。

「これは、壮観だなぁ。」

第1機動艦隊の司令官であるホウル・トルーフラ中将は、集結している第1、第2艦隊の艨艟群を見るなり、感嘆していた。
第1艦隊、第2艦隊は、共に戦艦を中心に編成された艦隊である。
艦隊の中には、旧式艦も混じっているが、それでも大小30隻以上の艦艇が集結している様は、誰が見ても胸を躍らせる。
トルーフラ中将は、第1機動艦隊の旗艦を竜母ヴェルンシアに置いている。
竜母ヴェルンシアは、マオンド共和国がシホールアンルの支援を受けつつ、初めて建造した大型竜母である。
竜母の建造は、実はこれが初めてではなく、5年前に実験艦として2隻を建造し、完成させたのだが、80年春頃に致命的な
衝突事故を起こして2隻とも失われている。
マオンド共和国は、その経験を生かして大型竜母を建造し、82年10月には待望の1番艦ヴェルンシアが竣工した。
それから2番艦ミリニシア、3番艦イリョンス、更には小型竜母イルカンル級が相次いで竣工し、現在までに正規竜母、
小型竜母各3隻が艦隊に編入されている。
残る正規竜母ニグニンシも、5月始めの艦隊編入を目指して、東海岸沖で猛訓練を行っているのだが・・・・

「しかし、ニグニンシはとうとう、決戦に間に合いませんでしたな。」

トルーフラ中将は、隣に立っていた士官に話しかけられた。
身長は180センチほどで、痩せ型だが、顔つきは精悍そのものである。

「マオンドにある竜母全てが、あと少しで揃うかと思ったのですがねぇ。相手があのアメリカ機動部隊なら、訓練未了と言っても
尚更ニグニンシを加えたほうが。」
「シークル参謀長、今更無いものねだりしても始まらんさ。」

トルーフラ中将は、自慢のカイゼル髭を撫でながら、参謀長のドルガ・シークル少将に言った。

「相手があのアメリカ機動部隊だからこそ、ニグニンシは連れて行けんのだ。ニグニンシが足を引っ張れば、アメリカ軍はそこに
付け込んで猛然と攻撃を仕掛けてくる。そうならんために、ニグニンシは置いてきたんだ。まぁ、艦長は参加したがっていたようだが。」

ニグニンシは、今年の1月始めに竣工したばかりの新鋭艦であり、艦の乗員達は、未だに満足できる錬度に達していない。
艦長からの報告では、5月までには満足できる錬度に達する見込みとなっている。
となると、今のニグニンシは、まだ乗員の錬度が不十分という事になる。
しかし、ニグニンシの艦長はそれを承知しての上で、トルーフラ中将に直談判した。

「艦の乗員は、確かに所定の錬度には達していません。しかし、しかし!航空隊はベテラン揃いです!この航空隊を前線に出せば、
ただでさえ足りぬ戦力をある程度補うことが出来ます。どうか、私のニグニンシも出撃させてください!!」

と、興奮しながらトルーフラ中将に申し込んだが、トルーフラは頑として譲らなかった。
逆に、トルーフラは自らの考えを言いながらニグニンシの艦長を説得した。
2時間ほどの話し合いで、艦長はようやく納得し、渋々ながらも予定通り、5月まで訓練を続けることになった。
とは言え、シークル参謀長としては未だに、ニグニンシを連れて来なかった事に不安を抱いているようだ。

「まっ、君の不安も分からんではないがな。」

トルーフラ中将は苦笑しながらシークル参謀長に言った。

「何しろ、相手は空母を8隻も持っているからな。8対6という状況では、私としても、もう少し戦力が欲しいとは思うよ。」

彼自身、現状の戦力で満足している訳ではない。
第1機動艦隊は、第1群に正規竜母2隻、小型竜母1隻、第2群に正規竜母1隻、小型流母2隻を主力として置いている。

機動部隊の主力は、やはりヴェルンシア級正規竜母だ。
ヴェルンシア級竜母は、外見はすらりと伸びた全通甲板の中央に、やや大きめな艦橋を持っており、飛行甲板は艦体と一体となっている。
外見的には、艦橋の後ろに煙突を載せれば、アメリカ海軍のワスプ級とほぼ似ている。
ワイバーンの搭載数は74であり、その全てが82年式汎用ワイバーン「ナンヘグト」である。
自衛武器は、4.8ネルリ単装両用砲8門に魔道銃62丁である。
本来は、魔道銃は48丁しか積まれていなかったが、予想されるアメリカ機動部隊との決戦に備えて、装備数が増やされ、
ハリネズミさながらの状態となっている。
(だが、米海軍のエセックス級空母に比べると、対空火力はやや弱体である)
それに加え、ヴェルンシア級には、未だにシホールアンルの竜母ですら採用したことの無い舷側昇降機が採用され、これは中央部の第2昇降機に設置されている。
もう一種類の竜母であるイルカンル級は、ヴェルンシア級の補助役として建造された小型竜母である。
外見は、ヴェルンシア級同様、竜母特有ののっぺりとした全通甲板に、右舷側やや前よりに配置された島型艦橋という風体だが、一見精悍な感が伝わるヴェルンシア級と
比べ、どこか安っぽい印象が強い。
全長は100グレルにも満たない中型艦であるが、搭載ワイバーンは34騎で、速力は15リンルが出せ、快速空母部隊に必要な要素を揃えている。
対空火力も意外と充実しており、4.8ネルリ両用砲5門、魔道銃34丁(ヴェルンシア級同様、以前の定数より増やされている)と、
対空戦闘では旧式巡洋艦よりも頼りになりそうな程、対空兵器が詰め込まれている。
この6隻の竜母は、総計で324騎のワイバーンを搭載でき、洋上航空打撃力としては強力な部類に入るだろう。
だが、第1機動艦隊がこれから相手にするであろうアメリカ機動部隊は、もっと強力な戦力を有している。
アメリカ機動部隊は、正規空母4隻、軽空母4隻を有しており、搭載機数は多くて500機、少なめに見積もっても400機は下らない。
つまり、第1機動艦隊は敵機動部隊よりも航空戦力が少ないのである。
戦力比は3分の2。最悪の場合は敵の半分近くしかないということも考えられる。
参謀長が、話が決まった後も、しきりにニグニンシの事を呟くのは、この航空戦力の差を考えての事である。

「しかし、ユークニアの戦友の救援には、到底間に合いそうにも無いな。」
「確かに。アメリカ軍は昨日から上陸部隊を送り込んできましたからな。」
「ユークニア駐留軍は、装備優秀な敵軍に押されまくっているらしい。この様子じゃ、2日も持たんと言われているようだ。」

トルーフラ中将は、ため息を吐きながら言った。
ユークニア島にアメリカ軍が上陸を開始したのは、4月8日の早朝の時である。
アメリカ軍は、洋上の艦隊から航空機の猛爆撃と、艦砲の支援を受けながらユークニア島の海岸に上陸してきた。
マオンド側は知らなかったが、この時上陸を開始したのは、第15軍指揮下にある第14軍団の2個師団である。
この2個師団は、上陸から僅か30分後で、マオンド軍部隊の反撃を受けた。
だが、マオンド軍の反撃は、騎兵を先頭に押し立てた昔ながらの肉弾攻撃であった。
そのため、マオンド軍部隊は、橋頭堡のアメリカ軍陣地から猛烈な反撃を受け、2000人以上の戦死者を出してしまった。
アメリカ軍部隊は、敵の反撃を撃退してから1時間後に内陸部に向けて前進を開始。
一部を除いて、ほとんどの兵が剣や弓、槍といった武器しか持たず、アメリカ兵に遭遇すれば、彼らは殺されるか、降伏するしか道が無かった。
とある部隊は、ワイバーン基地に放置されていた魔道銃を盗み出し、急造の魔道銃陣地を作ってアメリカ軍を足止めしたが、その奮戦も長くは続かず、
猛烈な艦砲射撃と、その支援を受けたアメリカ軍部隊によって次々と潰されていった。
別の大隊は長く続いた戦闘の疲れを癒すため、森の中の開けた場所で休息を取っていたところ、突然現れたシャーマン戦車によって蹂躙されてしまった。
その大隊は、無慈悲にも味方を殺しまくる数台のシャーマン戦車に恐れを成し、交戦開始から僅か5分で降伏すると叫び出す始末であった。
このように、ユークニア島守備隊は圧倒的な火力を誇るアメリカ軍の前に次々と蹴散らされ、8日の夕方には、ユークニア島の東部一帯・・・・
島全体のうち、約3分の1を占領されていた。
このため、マオンド軍上層部は、早くもユークニア島の陥落はもはや時間の問題であると判断していた。

「友軍の救援には間に合わない・・・・・ですか。」

シークル参謀長が、暗い口調でそう言った。

「ああ・・・・・恐らくな。」

トルーフラ中将はそう言ったが、彼としては、艦隊が駆けつける前にユークニア島が陥落するのは確実と思っている。
(ただでさえ、この間のフォルサ軍港で起こった敵の空襲で動揺が広まっているのに、ユークニア島が落ちたという報が国民に伝われば、軍のみならず、
国民にも動揺が広がるだろうな)

ユークニア島は、昔はヘルベスタンという国の統治下にあったが、マオンドがレーフェイルを統一した今は、純然たるマオンドの領土である。
それだけに、ユークニア陥落の報が国民に伝われば、今までとは比べ物にならないほどの騒ぎが起こるであろう。
特に、属国で暴れ回っている反乱軍に聞き渡れば、より一層士気を高めるに違いない。
吹けば飛ぶようなちっぽけな島1つを失うだけで、マオンドという国は大きく動揺するのだ。
(大陸1つを統一した強国が、小島ごときを失う事で、これほどまでに動揺するとは、誰が思ったろうか・・・・・)
トルーフラ中将はそう思った時、一瞬憂鬱な表情を浮かべた。

「・・・・司令官?」

シークル参謀長が、怪訝な表情になりながらトルーフラに声をかけた。

「具合でも悪いのですか?」
「いや、何でも無い。」

トルーフラは、微笑みながらシークル参謀長にそう言った。

「・・・・・参謀長、各戦隊の指揮官を集めてくれ。これから始まる作戦について話し合いたい。」


4月10日 午前11時30分 ユークニア島南10マイル沖

アメリカ陸軍第15軍司令官であるヴァルター・モーデル中将は、第7艦隊旗艦である重巡洋艦オレゴンシティを訪れていた。
モーデルが参謀長を伴って会議室に入ると、第7艦隊司令官のオーブリー・フィッチ大将を始めとする第7艦隊司令部の幕僚や、各任務部隊の司令官が座っていた。
まだ参加者が全員来ていないのだろう、会議は始まっておらず、幕僚や司令官達は好き勝手に雑談を交わしていた。
モーデルは、席に座る途中、反対側の席に座っている海軍士官・・・・第72任務部隊司令官のジェイムス・サマービル中将と目が合った。

「おはよう将軍。」
「これはサマービル提督。おはようございます。先日は派手にやりましたな。」

モーデルは、サマービルに親しげな口調で言った。

「いやいや、あれはフィッチ長官の提案通りに動いたまでさ。私はそれに従って命令を出したに過ぎないよ。モーデル将軍こそ、敵の守備隊を
2日程度で降伏させるとは、なかなかに大したものだ。」
「はぁ、しかし、今回は奇襲であった事と、敵さんの未経験さや準備不足に助けられただけです。敵が太平洋戦線にいるシホールアンル軍であったら、
こうも簡単にいきませんでしたよ。」

モーデルは謙遜しながら言った。

転移後のアメリカ軍は、諸外国の駐在武官に合衆国軍の参加を呼び掛ける事によって、駐在武官達に働き所を与えてきた。
だが、アメリカ以外の主要国・・・・日本、イギリス、ソ連、ドイツ、フランス等は、それぞれが欧州や満州で、血で血を争う戦いを繰り広げていた。
各国の軍人達は、敵対国の軍人を嫌っていた。それは、転移後のアメリカ国内でも同じであった。
それが特に顕著であったのは、ドイツとイギリス、フランスの軍人達であった。
ドイツは、イギリスとフランス相手に泥沼の戦争を行っていた。
イギリス、フランス軍はドイツ軍の後背を付いて、一時はドイツ本国の一部を占領し、ドイツ国内に空襲を仕掛けたりしていた。
一方のドイツも、イギリス、フランス軍相手に容赦の無い攻撃を仕掛け、40年7月にはイギリスの注意を引き付ける策として、ドイツ空軍が連日、
イギリス本土沿岸やロンドン等を爆撃した事もあった。
このように、3国は互いに激しく憎み合っていた。
それは、各国の駐在武官達も動揺であり、互いに憎み合っていた彼らが気になっていた事は、アメリカが参戦するか、否かであった。
ドイツは、アメリカが参戦するなら、その前に出来る限りの情報を集めようと努力した。
イギリス、フランスは、アメリカを参戦させようと、あれこれ手を使ってアメリカを戦争に引きずり込もうとした。
その矢先に、転移が発生したのである。
それから数ヵ月後、駐在武官達は、アメリカ政府の申し出によって再び働き場所を手に入れた。

が、新たな仕事場には、敵国の軍人達も混じっていた。
一時は、互いに妬みあっていた彼らだが、その妬みや憎しみも、次第に消えていった。
国が無くなった事と、もはや元の世界には戻れないという諦めが大きな原因であったが、それ以外の理由もあった。

「国が無くなった以上、今更ドイツだの、イギリスだのと叫ぶ必要は無い。頼れる国が、このアメリカしかない以上、
我々は“アメリカ人”として、同じ同胞としてこれから生きるべきだ。」

42年のある夏の日、モーデルは、とある酒場でドイツ系軍人とイギリス系軍人の殴り合いに居合わせた。
止めに入った彼は、先のセリフを声高に叫んだ。
彼のその一言は大きかった。
それから、アメリカ軍内で何かが変わり始めた。
今までは、互いにそっぽを向いていた彼らは、いつの間にか気心の知れる仲間になっていた。
つい数ヶ月前までは、目を合わせただけで喧嘩していた日本人とロシア人が、“モーデル発言”が広まった2ヶ月後には、浴びるほど
酒を飲み交わしていたという話もあるほど、各国駐在武官達に巣食っていた弊害は無くなって来た。
モーデルは、前の世界では敵対関係にあった駐在武官達に盛んに面会を申し入れ、国が無くなり、一介のアメリカ人となった今、互いに
同胞としての意識を持ち、これからは様々なしがらみを捨てて生きていくべきだと語った。
42年10月には、第26任務部隊の旗艦、プリンス・オブ・ウェールズを訪れ、そこでサマービル中将と2時間話し合った。
モーデルは、必死の努力の末、各国駐在武官達の“火消し役”を見事に成し得たのである。
それから月日が流れ、各国の駐在武官達は、ある者は陸軍航空隊のパイロットとして、海兵隊の大隊長として、陸軍の参謀、あるいは指揮官として
前線で活躍し、ある者は自分が担ってきた専門分野を生かし、物事の進捗に貢献している。

「とにもかくも、これでユークニア島の制圧は完了したわけだが、我々海軍としてはこれからが本番だと思っている。」
「敵の艦隊がここに来るのですね?」

モーデルの質問に、サマービルは人の悪い笑みを浮かべた。

「さぁ。そこの所は判断しかねるが。詳しい事は今回の会議で明らかになるだろう。」

サマービルが意味ありげな言葉を言い放った時、作戦室内に第8航空軍司令官であるクレア・シェンノート少将と、第10航空軍司令官であるジミー・ドーリットル少将が入ってきた。
フィッチ大将は、この2人が座るのを確認してから口を開いた。

「おはよう、諸君。」

まず、フィッチは先に、召集に応じた各部隊の指揮官達に挨拶を行った。

「君達の中には知っている者も多いだろうが、本日早朝、ユークニア島駐留のマオンド軍が降伏を申し込み、つい1時間前に
降伏文書の調印が終わった。これによって、ユークニア島攻略作戦は成功裏に終了したと判断する。」

フィッチの言葉に、誰も驚かない。
ユークニア島のマオンド軍降伏は、全部隊に知られており、シホールアンル軍並みの猛烈な抵抗を予想していたアメリカ軍部隊・・・
特に第15軍の将兵は、敵のあっけない降伏に喜ぶどころか、むしろ拍子抜けしていた。

「このユークニア島の戦闘については、第15軍司令官のモーデル将軍に話してもらう。」

フィッチから話を振られた事を確認したモーデルは、今回の戦闘の詳細を説明し始めた。

「今回の戦闘では、我が第15軍は有利に戦いを進めることが出来、戦死傷者も500名足らずを出したのみで済みました。
ユークニア島の早期攻略が成った原因としては、第一に彼我の装備の優劣、第二に敵軍の経験不足、第三に敵部隊の士気低下が挙げられます。」

モーデルの淡々とした説明が続けられていく。
会議室の指揮官達は、その単調な説明を少しでも聞き漏らさぬとなばかりに、真剣な表情で聞き入っている。

「第一の部分ですが、マオンド軍は、大多数の将兵が旧態依然たる装備のまま我々との戦闘を余儀なくされました。
太平洋戦線のシホールアンル軍は、対空用の魔道銃を過剰に配備する事で急造の機銃陣地を構築し、海兵隊に対抗
しましたが、ユークニアの敵部隊はそのような試みは全くせず、しまいには騎兵や歩兵が剣を振りかざして突撃する
という無謀な攻撃に打って出ています。このため、第14軍団指揮下の部隊は容易に敵を食い止めることが出来、
前進に移っても、敵の抵抗をたやすく跳ね除けることが出来ました。第二の点ですが、マオンド軍部隊の大半は、
前進してきた我々と少しばかりの戦闘を交えただけであえなく全滅するケースが多発しました。これは、ひとえに
マオンド側の経験不足にあります。マオンド軍は、今回初めて、我が軍の地上部隊と戦いましたが、彼らの戦い方は、
中世ヨーロッパで見らるたような古い物であり、彼らは我々が上陸してからも、その古い戦い方が通用する物と勘違い
していたようです。そのせいで、敵は各地で無謀な突撃を行い、戦車部隊や歩兵部隊の集中射撃を受けてあえなく壊滅
しています。第14軍団がこうも早くユークニア島を制圧できたのは、彼らの経験不足に負う所が大きいかと思われます。
最後の第三の部分ですが、実は、敵部隊の大半は、マオンド共和国の正規軍とはいえ辺境や、被占領地から徴収した者ばかり
でした。そのため、士気が高いのはいずれも若い兵、そして、本国の主要都市出身の兵ばかりで、残りは30~40歳代の老兵
ばかりでした。彼らは、全員がマオンドに忠誠を誓っていましたが、現役兵とは違って士気はさほど高くなく・・・・士気が低いのは、
事前の準備攻撃のせいかもしれませんが・・・・後半戦では、不利と悟った敵軍は、我が軍の兵を見るなり、あっさりと投降してきています。」

モーデルは、そこで一旦言葉を区切った。
会議の参加者の中には、どこか嘲るような表情を浮かべる者がいる。
モーデルの説明を聞いて、マオンド軍は意外とたいした事はないと思っているのだろう。

「このように、我々はユークニア島を攻略できたわけです。が、ここでマオンド軍に対して評価を決めるのは、自分としてはまだ
早計であると考えます。」
「と、言うと。本国に居る敵部隊は、ユークニアの敵部隊より強いと言われるのですか?」

第10航空軍司令であるドーリットル少将が質問した。

「そう考えたほうが良いだろう。ここで、マオンド軍なぞ大した事無いと高をくくると、後で痛い目に会う。そうならぬためにも、
マオンド軍に対してはこれまで通り・・・・いや、これまで以上に警戒する必要がある。私としては、そういう考えを、改めて全軍に
知らせたほうが良いと考えます。」

「うむ、私も同意見だ。」

フィッチ少将が深く頷いた。

「ここで敵を侮っては、後のレーフェイル侵攻の際にボロを出してしまうからな。日本のことわざに、勝って兜の緒を締めよという言葉がある。
その意味は、一方的な大勝利を得ても、その次には更なる困難が待ち受けていると思い、油断せずに構えろ、という事だ。今の我々がそうだ。
だから、我々は以前よりも気を引き締めつつ、次のステップに進むべきだと、私は思う。」

フィッチの言葉に、参加者たちは納得したように頭を頷かせた。

「今後の予定としては、3万のマオンド側捕虜を一旦はユークニア島北西の平野地帯に建設中の仮収容所に収容し、北のタドナ島に建設中の
捕虜収容所が完成すれば、タナド島に移送し、そこで終戦まで捕虜を収容する予定です。」

第7艦隊参謀長、フランク・バイター少将が話し始めた。

「明日からは、島の東部地区に飛行場を建設する予定で、4日後に到着する建築資材を交えて建設すれば、1週間後には戦闘機隊が収容可能な
範囲まで工事は進むでしょう。2週間後には、重爆隊2個航空群が収容可能となります。」
「南スィンク島やチョルンス島、北スィンク島での飛行場、ならびに各種施設の建設は、いつから始まりますか?」

第8航空軍司令であるシェンノート少将が質問する。
それに、兵站参謀のフレクス・マクガイア中佐が答えた。

「残りの島につきましては、海軍工兵隊や陸軍工兵隊の指揮官と協議している途中なのですが、おおよその予定では、4月の中旬までには、各島の
建設は始まる予定です。」
「敵がユークニア島にのみ兵力を配置していたお陰で、他の島の制圧は容易に済んだからな。来るべきレーフェイル侵攻の前準備は、今の所順調に
進んでいる。問題は、今後の敵の出方だが・・・・」

フィッチはそう言いながら、第72任務部隊司令官であるサマービル中将に視線を向けた。

「もし、マオンド側が反撃を仕掛けてきた場合、敵の竜母は出て来るかな?」
「間違いなく出てくるでしょうな。」

サマービルは即答した。

「ユークニア島の占領こそは果たしましたが、占領というものは、やって、その後が続かないと意味がありません。占領地の部隊に、
一定の補給物資を送り続けねばなりませんからな。マオンド側は必ず、我が艦隊と、上陸部隊を切り離す策を行うと思われます。
そのやり方として、まずは竜母部隊の攻撃による制海権の確保、次に、砲戦部隊の突入による輸送船団の撃滅、最後に、補給路寸断による
地上部隊の弱体化でしょう。」
「真っ先に狙われるのは、やはりTF72だろうな。」

フィッチは言った。

「TF72は、この侵攻部隊の中では最も有力な戦闘部隊だ。当然、敵はTF72を狙ってくるに違いない。サマービル提督、あなた方の
奮戦如何によって、レーフェイル作戦の今後は大きく左右される。」
「つまり、今回の戦いは、負けられない戦いとなるのですな?」
「そうだ。」

フィッチは即答する。

「レーフェイルで、苦しい戦いを強いられている被占領国の有志達のためにも、我々は後戻り出来ない。レーフェイル侵攻が頓挫すれば、
有志達の試みも、無に返すだろう。そうならないためにも、TF72に敵の反攻を食い止めてもらいたい。」
「・・・分かりました。」

サマービルは、ただ一言、そう返したのみに終わったが、彼自身、フィッチの言わんとしている事はよく理解できた。
紙を携えた通信兵が、慌てた様子で会議室に入って来たのはその時であった。
通信参謀が、通信兵から紙を受け取る。通信参謀は、一瞬顔が強張った。

「長官!潜水艦部隊より入電です。」
「読め。」

フィッチは、通信参謀に紙に書かれている内容を読ませた。

「サフクナ軍港に集結せる敵艦隊は、本日11時より出港を開始せり。」
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