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169 第130話 第2次スィンク沖海戦(中編)

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第130話 第2次スィンク沖海戦(中編)

1484年(1944年)4月16日午後0時15分 ユークニア島南西150マイル沖

アメリカ海軍第72任務部隊第1任務群は、味方攻撃隊の全機突撃すの報告を受け取った時に、マオンド側攻撃隊の接触を受けていた。
マオンド軍第1機動艦隊から発艦した220騎のワイバーンは、第72任務部隊第1任務群の輪形陣を見つけるや、脇目も振らずに突っ込んで来た。
この敵編隊に向かって、第1、第2任務群でかき集めたF6F100機ほどが差し向けられたが、敵編隊も相当数の護衛を伴っていたらしく、
空中戦は初っ端から激戦となった。
第16巡洋艦戦隊司令官ヘンリー・ハーウッド少将は、旗艦である重巡洋艦ドーセットシャーの艦上から、輪形陣の右側遠くの空で繰り広げられている
空中戦に見入っていた。

「司令、迎撃戦闘は、思っていた通りには行ってないようですなあ。」

重巡ドーセットシャーの艦長であるウィンストン・ペアリー大佐が、やや陰りのある口調でハーウッドに言った。

「敵さんも、攻撃隊の護衛に相当数の戦闘ワイバーンを付けたようだ。あんなんじゃ、ヘルキャットは敵の攻撃ワイバーンに
なかなか張り付けんだろう。」

ハーウッド少将もまた、ペアリー艦長と似たように、やや残念そうな口調で言う。

「敵の攻撃ワイバーンは、かなりの数が戦闘機の迎撃網を突破するだろう。そうとなれば、後は我々が頑張るしかないな。」

ハーウッド少将は、そう言って覚悟を決めた。
第16巡洋艦戦隊は、重巡ドーセットシャー、カンバーランド、軽巡ケニア、ナイジェリア、フレモントで編成されている。
ドーセットシャー、カンバーランドは、改装によって5インチ単装両用砲10門、40ミリ連装機銃10基、20ミリ機銃28丁を積んでいる。
また、ケニア、ナイジェリアも改装によって5インチ両用砲8門、40ミリ連装機銃8基、20ミリ機銃24丁を搭載し、対空火力を強化させている。
最後のフレモントはアトランタ級対空巡洋艦に属する軽巡であり、DC16(巡洋艦戦隊)の中では、対空戦闘の要とも言うべき艦だ。
この5隻は、2隻の戦艦と共に、4隻の空母を取り囲むようにして配備されている。

空母群の左側には、戦艦プリンス・オブ・ウェールズ、重巡カンバーランド、軽巡ケニア、右側には巡洋戦艦レナウン、重巡ドーセットシャー、
軽巡ナイジェリアが占位し、空母群の後方にはフレモントが配備されている。
この7隻の戦艦、巡洋艦が、空母群を守る最後の壁となる。
やがて、ハーウッド少将の予想通り、敵編隊が迎撃網を突破して艦隊に向かって来た。
敵編隊は、最終的には80騎以上が戦闘機の妨害を突破して、輪形陣に迫って来た。
途中、敵編隊は二手に別れて、輪形陣の左右に展開した。

「敵編隊急速接近!高度は3000!左右同時に突っ込んで来ます!」

見張り員が、緊張の余り声を裏返しながらも、艦橋に報告を送って来る。

「来ましたな。例のサンドイッチ戦法です。」

艦長の言葉に、ハーウッドは小さく頷いた。

「シホールアンル軍がよく使う対艦攻撃方法だ。マオンド側も、13日の海戦で輪形陣の外郭を崩そうとしている。敵さんが今日も同様な
手段で攻撃するなら、まずは駆逐艦部隊が敵の攻撃に晒されるな。」

ハーウッドは、重い口調でそう言ったが、口調とは裏腹に、彼の表情はどこか明るい。
やがて、その自信の元となっている物が、左右に別れたワイバーン編隊の前に姿を現した。
突如、それまで整然としていたワイバーンの編隊が、後ろ後方から飛び掛かってきた約10近くの機影に銃撃を受け、その機影が下方に
飛びぬけた時には、編隊は半ば崩れていた。

「おっ、早速遊撃隊が活躍し始めたな。」

ハーウッド少将は、ワイバーン編隊から落ちつつある幾つかの影を見るなり、頬をやや緩ませた。
敵ワイバーン編隊は、突如現れたF6Fによって不意打ちを食らってしまった。

最初の一撃で、右側のワイバーン編隊は2騎を、左側のワイバーン編隊は4騎を撃墜された。
第1機動艦隊から発艦した攻撃隊がTG72.1に攻撃を仕掛ける前。
戦艦プリンス・オブ・ウェールズのSKレーダーは、南南東よりの距離160マイル地点を飛行しているマオンド側の大編隊を探知し、
8隻の空母から使えるだけの戦闘機を飛ばして敵を待ち伏せた。
その際、第72任務部隊第1任務群の司令であるジョン・マッケーン少将は、サマービルに意見具申を行った。
マッケーンの提案はこうだ。
敵編隊の数と、迎撃戦闘機隊の数からして、多数の敵ワイバーンが突破して来るのはほぼ確実である。
突破して来た敵ワイバーンは、その数でもって輪形陣を突破し、必ず空母に損害を与えるに違いない。
そこで、迎撃隊から20機前後のF6Fを引き抜き、敵が輪形陣の突入を仕掛けた所で、その後方からF6Fに襲わせようと言うのだ。
敵がサンドイッチ戦法を取るのなら、F6F隊も敵に気付かれぬように二手に別れる。
逆に、敵が一点集中突破を狙うなら、遊撃隊のF6Fも全て集中して敵編隊に突入し、敵を驚かせる事によって隊形を乱す。
遊撃隊のF6Fが少ない事と、接敵時の艦隊との距離が近い事から、大量に敵ワイバーンを撃墜する事は困難かもしれないが、それでも
少しばかりの戦力は削れ、敵の攻撃隊形を乱す事が出来る。
マッケーンの提案を受け入れたサマービルは、早速迎撃隊の一部を引き抜いて、艦隊の後方にて待機させた。
そして、敵編隊が接近し、左右同時攻撃に移ろうとした時、遊撃役のF6Fは、待ってましたとばかりに襲い掛かった。
空母ベニントンのレーダー員の誘導管制のお陰で、F6F隊は敵編隊の後方上空から敵に近付く事が出来た。
ワイバーン編隊の竜騎士が、その特有の爆音に気付き、各騎に警戒を促すが、時すでに遅し。
10機ずつに別れたF6Fは、次々と翼を翻して、敵の後ろ上方という格好の位置からワイバーン編隊に向かって斬り込んだ。
F6Fが、6丁の12.7ミリ機銃をぶっ放しながら下方に飛び抜ける。
ワイバーンには、当然ながら防御結界が張られており、最初の射撃は難なく受け止められる。
だが、後続機から放たれた射弾は受け止める事が出ず、あっという間にワイバーン1騎が、12.7ミリの槍に全身を串刺しにされて絶命する。
突然の不意打ちに、ワイバーンや竜騎士達に動揺が走る。
隊長機はしきりに怯むな!とか、構うな!などと言って、部下達を叱咤するが、その声ですら、突然の敵戦闘機襲撃のショックに影響されて
パニックに陥っているように聞こえる。
アメリカ軍機は、一度襲撃しただけでは気が収まらぬとばかりに、下方から突き上がっては攻撃し、上方に抜ければ、高度を稼いだ後にまた
斬り込んで来る等、執拗に攻撃を仕掛けて来た。

F6Fの攻撃は執拗だったが、駆逐艦が高射砲を撃ち始める頃には、ワイバーン群の進撃は阻止不可能と判断して、ワイバーン群から離れていった。
F6Fが撃墜したワイバーンは、右側が5騎、左側が7騎と、しきりに攻撃した割には意外と少なかったが、ワイバーン群は、数分前まで見せた
ような整然とした編隊を組んでおらず、多い物では5騎から8騎程度で編隊を形成しているが、大多数のワイバーンは3騎から4騎といった
小隊レベルであり、酷い所では、単騎で輪形陣に突っ込もうとしている。
でんでんばらばらに突撃し始めたワイバーンに対して、TG72.1は激しい対空砲火で応戦した。
重巡洋艦ドーセットシャーの艦上では、輪形陣の進入を始めた敵ワイバーンに対して、外輪部の駆逐艦部隊が高角砲を撃ち始める様子が見て取れた。
ドーセットシャーの右舷800メートル横には、フレッチャー級駆逐艦のハワード・エネミナンとラフォーレイ級駆逐艦セイバーがおり、
ハワード・エネミナンは5門の5インチ砲、セイバーは6門の5インチ砲を上空に向かって撃ち上げている。
最初に進入して来た4騎編隊のワイバーンに猛烈な高射砲弾幕が展開される。
VT信管付きの砲弾が多数混じる中、4騎編隊のワイバーン群は正確なレーダー管制射撃の前に1騎、また1騎と落ちていく。
最後の1騎が、ハワード・エネミナンに向けて急降下を開始するが、高度2000メートルを切る前にVT信管付きの砲弾が目の前で炸裂。
その直後には、ワイバーン、竜騎士共に無数の破片に変えられていた。
最初の4騎編隊が僅か1分足らずで全滅させられた後、新たに8騎編隊のワイバーン群と、3騎編隊のワイバーン群が現れた。
計11騎のワイバーンは、ハワード・エネミナンとセイバー、その後方のフレッチャー級駆逐艦コルホーンに突っ込んで来た。
この3隻の中で、最も多くのワイバーンに襲われたのは、駆逐艦のセイバーであった。
セイバーには5騎のワイバーンが襲い掛かって来た。
セイバーは、6門の5インチ砲と3基の40ミリ連装機銃、10丁の20ミリ機銃を乱射しながら回避運動を始めた。
たちまち、先頭のワイバーンが蜂の巣にされるが、セイバーが撃墜出来たのはこの1騎だけであった。
残った4騎のワイバーンが、高度600にまで降下するなり、次々と爆弾を落とす。
セイバーの周囲に、300リギル爆弾が落下して硝煙混じりの水柱が立ち上がり、林立する水柱が、その小さな艦体を覆い隠す。

「・・・!」

ハーウッド少将は、水柱に覆い隠されたセイバーが、一瞬轟沈したかと錯覚した。
だが、セイバーはクリッパー式の艦首で水柱を切り裂きながら、健在な姿を現した。

「セイバー、健在です!」

見張り員の嬉しそうな声音が響いて来る。だが、その直後に爆弾の炸裂音が聞こえた。
セイバーの前方に居たハワード・エネミナンが操艦を誤ったのか、敵弾を回避し切れずに後部第4砲塔の辺りに爆弾を受けていた。
紅蓮の炎がハワード・エネミナンの後部部分を一瞬だけ覆い隠し、その後、濛々たる黒煙に変わった。
ハワード・エネミナンの痛々しい姿が目に飛び込んで来た時、また別の所で爆発音が鳴り響く。
今度被弾したのは、駆逐艦のコルホーンであった。
コルホーンは、3騎中1騎を撃墜し、爆弾2発をかわしたのだが、最後の1騎が、被弾しながらも爆弾を抱えたまま、コルホーンの中央部に激突した。
その際、爆弾が甲板の表面上で炸裂し、1番煙突の根元がざっくりと裂けた。
また、この爆発によって、少なからぬ機銃が破壊され、多数の兵員が死傷した。
被害は甲板の表面だけでなく、缶室にも損害を与えており、コルホーンは徐々に速力を落とし始め、最終的には艦隊から落伍してしまった。
駆逐艦2隻が相次いで被弾した事によって、対空砲火に穴が生じた。
ハーウッド少将は、上空のやや弾幕の薄くなった所から、20機近くのワイバーンが進入して来るのが見えた。
ドーセットシャーも、高角砲の照準を新たに進入して来た敵編隊に定めて撃ち始める。
右舷側に配置された5門の5インチ単装砲が火を噴く。
空母群に殺到しつつある敵編隊の前面に、幾つ物砲弾が炸裂して、小さな黒煙が湧き上がる。
ドーセットシャーのみならず、巡戦レナウンや軽巡ナイジェリア、フレモント、それに空母群からも撃ち上げられる高角砲弾が
炸裂しているため、敵編隊の周囲は、しきりに黒煙が沸き起こっている。
とあるワイバーンのすぐ下方で黒煙が沸いた。その直後、ワイバーンはぐらりと姿勢を崩し、やがて海面に直行していく。
別のワイバーンのすぐ後方で高角砲弾が炸裂する。すると、ワイバーンがいきなり暴れ出した。
そのワイバーンは、しばらくの間支離滅裂な動きをしながら飛んだ後、別の高角砲弾によって頭部を吹き飛ばされ、先に撃墜された僚騎の後を追った。
ワイバーン群は、巡洋艦部隊の上空に到達するまで、実に6騎を叩き落されていた。
そのため、20騎はいたであろう敵ワイバーンが、今では12、3騎ほどしか見当たらない。

「流石はVT信管だな。敵さんはすごい勢いで数を減らしていくぞ。」

ハーウッド少将は、濃密な対空砲火の餌食になっていく敵ワイバーン隊に対して、少しばかり同情した。

ハーウッドは、この敵編隊は、例え空母に爆弾を命中させても1騎残らず叩き落されるだろうと確信するほど、対空砲火は熾烈であった。
更に1騎のワイバーンが、砲弾の破片によって片翼を吹っ飛ばされ、そのまま墜落する。
ここで、ワイバーンが1騎、また1騎と翼を翻して急降下に移った。
ワイバーン群が狙うのは、TG72.1旗艦である空母イラストリアスであった。
ドーセットシャーの左舷から40ミリ、20ミリ機銃が発砲を開始する。
その瞬間、レナウンの左舷側から大量の発砲炎が煌いた。
レナウンのみならず、ナイジェリアや、狙われているイラストリアス、その後方のハーミズも機銃を撃つ。
特に、レナウンから放たれる火箭の数は、他の護衛艦よりも多い。
レナウンは、改装によって5インチ連装両用8基、40ミリ4連装機銃9基、20ミリ機銃46丁を搭載している。
80丁以上ある機銃のうち、実に40丁ほどが、空母を討ち取るべく急降下していくワイバーンに向けて、ホースをぶちまけるかのような勢いで
機銃弾を放っている。
たちまち、2騎が連続して叩き落された。
敵ワイバーン群は、次第に高度を下げていく。
濃密な対空砲火に全く怯まずに、ほぼ直角に近い角度でイラストリアスに突っ込んでいく。
高度1500メートルを切るまでに、更に3騎のワイバーンが叩き落された。
ワイバーンの降下高度が1000メートルを切ろうとした所で、イラストリアスは右に回頭をし始めた。
イラストリアスのスレッド艦長は、敵ワイバーンの狙いを外すために、わざと急な回頭を行ったのであろう。

「なかなかいい判断だ。既に投弾直前の敵騎にとって、目標に進路を変更されるのは、あまりやられたくない手だからな。だが・・・・
その判断が吉と出るか、凶と出るか。」

ハーウッドは、小さな口調でそう独語する。やがて、敵騎が爆弾を投下した。
その瞬間、イラストリアスから40ミリ機銃の連射がワイバーンの体に突き刺さり、真っ二つに引き裂いた。
最初の爆弾が、イラストリアスの左舷側海面に突き刺さって水柱を吹き上げる。
続いて2番騎の爆弾は、イラストリアスの後部側海面に落下して、空しく大量の海水を跳ね上げるだけに終わった。
3番騎がイラストリアスの右舷側に抜けた瞬間、その飛行甲板中央部のやや後ろ側で、派手な爆炎が躍り上がった。

爆炎が黒煙に変わる瞬間、別の命中弾がイラストリアスの中央部に命中し、これまた盛大な炎が沸き起こった。
水柱が右舷側に上がり、それが崩れ落ちようとする寸前、新たな命中弾がイラストリアスのやや前よりの飛行甲板に突き刺さった。

「イラストリアス被弾!!」

見張りの興奮で浮ついた声が、艦橋に流れて来る。ハーウッドは、見張りの声を聞くまでも無く、イラストリアスに起こった出来事を把握していた。

「7、8騎が投弾して命中数3発か。マイリーもやるじゃないか。」

ハーウッドは、やや震えた口調でそう呟いた。
敵が実戦も経験していない新兵だけならば、7、8騎で敵艦を攻撃しても、全て外れるか、いいとこ、1発が命中するぐらいであろう。
だが、先のワイバーン編隊は、隊形こそバラけていたものの、動きは悪くなく、数を大幅に減らされながらも、少ない数で攻撃して
イラストリアスに3発の爆弾を命中させた。
あのワイバーン隊は、恐らく実戦経験のある物ばかりで占められた部隊であったのだろう。
イラストリアスは、黒煙を引きながらも29ノットの高速で航行している。
ハーウッドは、そのイラストリアスを見つめながら、更に呟いた。

「だが、その優秀さゆえの結果も、時として実らない場合もある。まさに、今がそうだな。」

彼が見つめているイラストリアスは、引いている黒煙の量が加速度的に少なくなりつつあった。
そして、被弾から僅か40秒ほどで、イラストリアスから引いていた黒煙は、綺麗さっぱり吹き散らされていた。

「流石は、重装甲空母イラストリアス。マイリーの爆弾なぞ屁でもないな。」

ハーウッドは、損傷らしい損傷を全く受けていないイラストリアスを見て、誇らしげな気持ちになった。
だが、イラストリアスの左舷側遠くから上がった黒煙が目に入ると、その誇らしげな気持ちもやや萎えてしまった。

TG72.1旗艦の空母イラストリアスの艦橋上で、司令官のジョン・マッケーン少将は、艦橋の窓際に立って、左舷側を航行する
僚艦のベニントンを見つめていた。
ベニントンは、飛行甲板の前部と中央部から、濛々たる黒煙を吹き上げている。
特に前部部分からは盛大に黒煙を吹き上げており、盛り上がった爆弾穴の端が、遠目からもはっきりと見える。
それに加え、ベニントンは至近弾によって右舷側の推進器に異常をきたしているため、今は24ノットの速度でしか航行していない。
損害はベニントンだけではない。
輪形陣左側の外輪部いた駆逐艦のうち、モホークが敵の爆弾2発を食らって大破炎上。
2分前に届けられたモホーク艦長の報告によると、最悪の場合は艦を放棄せざるを得ないと言うほど、モホークの損害状況は危機的であった。
モホークの他に、軽巡ケニアが爆弾2発を食らって、5インチ砲2門と40ミリ機銃4丁を失ったが、こちらは戦闘航行に支障なしとの報告が
艦長から届けられている。

「ベニントンに命中した爆弾の中には、焼夷弾も含まれていたようでして、これが命中したために、格納庫で起こった火災は一時期、酷い
有様になっていたようです。」

航空参謀が、いささか沈んだ声音でマッケーンに言う。

「その爆弾は、イラストリアスにも命中したな。」

マッケーンは、視線をイラストリアスの前部飛行甲板に移しながら航空参謀に返事した。
イラストリアスの飛行甲板は、前部部分が黒く煤けている。
先の被弾時、前部甲板に命中した爆弾は広範囲にわたって火炎を広げ、一時は、前部飛行甲板の大部分が火炎に包まれたが、それもすぐに消え去った。
イラストリアスの飛行甲板は鋼鉄製の装甲板で覆われており、可燃物は無いに等しい状態であった。
そのため、敵の焼夷弾は飛行甲板表面を炙っただけですぐに消えたのである。
対して、ベニントンの飛行甲板は、イラストリアスのように重装甲が張られておらず、おまけに表面が木甲板のため、焼夷弾は格納甲板で炸裂後、
その赤い指先を甲板表面にまで及ばせて大火災を引き起こした。
いくら難燃剤の塗料を塗った甲板といえど、完全に燃えないと言う事は無く、被弾箇所の周囲はしばらくの間、炎で覆われていた。

しかし、ダメージコントロール班の適切な処置のお陰でそれ以上の延焼はせず、ベニントンの火災は鎮圧に向かいつつあった。
ベニントンの被った被害は小さくなく、焼夷弾の他にも中央部付近や後部に命中した3発の爆弾によって飛行甲板は破壊され、実質的に
空母としては使い物にならなくなった。

「片や、軽防御の甲板装甲で、実質的に戦闘不能となったベニントン。片や、装甲板によって空母としての機能を保てたイラストリアス・・・・か。」

マッケーンは、スレッド艦長に顔を向けた。

「こうまでも、ハッキリと性能の違いが現れるとはね。旗艦をこのイラストリアスに置いて正解だったな。」
「はぁ・・・・しかし、私としましては、なんとも。」

スレッド艦長は、複雑な表情を浮かべながら言った。
(艦長は、完全に爆弾を避け切れなかった事を悔やんでいるのだな)
マッケーンは、スレッド艦長の表情を見るなり、そう思った。
スレッド艦長は、敵の爆弾を全てかわしてやるぞという気概の下で操艦を行っていた。
ところが、敵弾はこのイラストリアスの艦体を叩いてしまった。
飛行甲板が分厚い装甲板で覆われていたため、大事には至らなかったが、これが通常の米空母ならば、発着不能間違い無しの損害を被っていたに違いない。

「まあそう言うな。今頃、敵さんはこの無傷のイラストリアスを見て、君以上に落ち込んでいるだろう。何せ、有効弾を与えた筈の空母が、
何事も無かったかのようにぴんぴんしとるんだ。敵に与えた心理的な動揺は、決して小さくはないだろう。」

落ち込んでいるスレッド艦長を、マッケーンはフォローした。

「司令!攻撃隊より入電です!」

通信参謀が、血相を変えて艦橋に飛び込んで来た。

その顔には、微かながら喜色が滲んでいた。

「第一波攻撃隊は20分前に敵機動部隊と交戦、敵の迎撃は熾烈なるも、竜母1隻に爆弾5ないし6発、魚雷3ないし4本を命中させ、
撃沈確実の損害を与えたようです。」


4月16日 午後1時20分 ユークニア島南東沖560マイル地点

第3波攻撃隊は、第2波攻撃隊が敵艦隊に対する攻撃を終了させてから、30分後に目標海域に到達した。
マオンド側は、第3波の到達も予想していたのであろう、艦隊に接近する前に40騎以上の戦闘ワイバーンを押し立ててきた。
これに、護衛についていた45機のF6Fが当たり、戦闘ワイバーンを攻撃隊に接近させなかった。
軽空母ハーミズから発艦したアベンジャー6機は、シアトル艦攻隊とロング・アイランド艦攻隊と共に、敵機動部隊の輪形陣に迫りつつあった。
ハーミズ隊を率いるグラド・ホーキンス大尉は、見えてきた敵艦隊に対して、

「第1波と第2波の連中は、ちゃんと成果を残しているな。」

と、淡々とした口調で呟いた。
敵機動部隊は、輪形陣を維持しながら北西に向けて航行しているが、そのやや後方に2隻ほど落伍している艦が見える。
うち1隻は、平甲板型の軍艦であり、一目で竜母だと分かった。
その竜母は魚雷を食らったのか、左舷に傾斜している。飛行甲板からは濛々たる黒煙を吹き上げ、明らかに満身創痍の様相を呈している。
その右舷側には、巡洋艦と思しき艦がおり、後部から黒煙を吐きながら航行しているが、側の大破した竜母と比べて速力は速く、まだ戦闘力は残しているようだ。

「第2波の連中は、小型竜母1隻爆弾、魚雷を2発ずつ叩き込み、巡洋艦1隻と戦艦1隻にも損傷を与えたようだが、これで、残る敵竜母は、あれだけか。」

ホーキンス大尉は、輪形陣に視線を移しながら、唸るように呟いた。
攻撃隊指揮官機から、全機突撃せよとの命令が下った。

「ようし、ハーミズ隊は輪形陣の左側から突入する。着いて来い!」

ホーキンス大尉は吼える様に命じると、愛機の高度を急激に下げ始めた。
高度100メートルの低空まで下げると、6機のアベンジャーはくるりと向きを変えた。
正面に、洋上を疾駆する敵機動部隊が見える。
アベンジャーと敵の輪形陣外輪部までの距離は約3000メートル。
300キロ以上のスピードで飛行しているから、その差はみるみるうちに縮まってくる。
唐突に、アベンジャー隊よりも遥か上空で敵の高角砲弾が炸裂し始めた。

「先に、ヘルダイバー隊が攻撃を開始したか。」

ホーキンス大尉はそう言いながら、高空を行くヘルダイバー隊に頑張れと声援を送った。
高角砲の弾幕は、開始から僅か10秒ほどで熾烈さを増した。
これまで、僚艦がやられて来た怒りを晴らすかのように、マオンド艦艇は対空砲火を撃ちまくる。
ヘルダイバー隊は、攻撃時の速度がアベンジャー隊よりも早いため、アベンジャー隊が敵の輪形陣まであと2000メートルまで迫った頃には、
ヘルダイバー隊の先頭は輪形陣外輪部の上空を飛び越えていた。
唐突に、ヘルダイバー隊の中から1機が、炎の尾を曳きながら墜落していく。
更に1機がやられたのか、敵艦隊の上空で、一際大きな爆発が起こった。

「1000ポンド爆弾が誘爆したな。」

ホーキンス大尉は、味方機の散華に一瞬、胸を痛めたが、そんな思いも一瞬で消えてしまう。
敵駆逐艦が、アベンジャー隊に向けて砲門を開いた。
それと同時に、ホーキンス大尉は指示を飛ばす。

「高度を30まで下げるぞ!」

彼はそう命じた直後、操縦桿をやや押して、機体の高度を下げようとする。

海面がじりじりと迫って来るのが分かる。高度計が80メートル、70メートル、60メートルと下がる。
10メートル下がるたびに、ホーキンス大尉は胸の鼓動が早くなるのを感じた。
(畜生、低高度雷撃は、いつやっても緊張するぜ。)
彼は、内心でぼやきながら、慎重に機体の高度を下げる。
高度30メートルまで下がった時、外輪部の駆逐艦はすぐ目の前に迫っていた。
駆逐艦が光弾を打ち上げてくる。
七色の光弾が、アベンジャーの横や上を飛び抜けていくか、命中する弾は無い。
あっという間に、敵駆逐艦の上空を飛び抜ける。
後部座席からダダダダ!という機銃の射撃音が聞こえた。
機銃員のクラウトン兵曹が、胴体下部の7.62ミリ機銃を敵駆逐艦目掛けて撃っているのだろう。
アベンジャー隊が敵駆逐艦の上空を飛びぬけようとしている間、ヘルダイバー隊の攻撃は既に始まっていた。
ヘルダイバー隊が2手に別れて、前方と後方から挟み撃ちにするように急降下していく。
猛烈な銃砲弾幕が展開されているのだが、ヘルダイバーはなかなか落ちる様子を見せない。
先に投弾をしたのは、前方から襲いかかった8機のヘルダイバーであった。
ヘルダイバーは、高度600から500で次々と爆弾を投下した。
敵竜母の周囲に、次々と爆弾が落下して水柱が吹き上がり、しばし敵竜母の姿が隠れる。
8機のヘルダイバーが投下した1000ポンド爆弾は、悔しい事に1発も命中しなかった。
あれほどの爆弾を投下したのにもかかわらず、1発も命中せずという事態に、投弾したヘルダイバー隊の搭乗員達は悔しさに顔を歪めた。
8機のヘルダイバーが投弾を終えた直後、今度は後方から迫って来たヘルダイバーが、回頭を繰り返す敵竜母に猛然と突っ込む。
70度から80度ほどの急角度で突っ込むヘルダイバーは、まさに勇壮その物である。
先頭機が高度400まで降下してから爆弾を落とす。その爆弾は、見事敵竜母のど真ん中に突き刺さった。
最初の命中弾によって黒煙を吹き上げる小型竜母目掛けて、後続機は次々と接近しては、爆弾を叩きつけていく。
至近弾落下の衝撃によって、敵竜母は左右両側から小突き回される。いきなり、5番機が爆弾を投下した直後に、高角砲弾の破片をモロに受けて、右主翼から炎を噴き出す。
パイロットは、死ならばもろともと考えたのであろう、そのまま機体を小型竜母に向けて突進させた。
だが、最後の足掻きも、光弾の集中射撃によって潰えた。ヘルダイバーは燃料タンクに新たな命中弾を受けて、空中で爆発した。
無残な最期を遂げた5番機であるが、撃墜前に投下した爆弾は、敵竜母の前部甲板に命中して、大穴を開けさせた。

更に1発の爆弾が中央部に命中して、敵竜母の飛行甲板はより一層酷い状況になった。
ホーキンス大尉は、回頭する敵竜母が彼らのアベンジャー隊に艦尾を向けた時、ハーミズ隊は射点から外れた事を確信した。

「あのままじゃ、魚雷を発射しても当たらん。もう一度やり直すぞ!」

彼は、有無を言わせぬ口調でそう命じると、愛機を敵竜母の左舷に回りこませるべく、左旋回を行わせた。
敵の輪形陣内に居るため、護衛艦からひっきりなしに銃撃や砲撃を浴びせられる。
しかし、距離が離れているためか、砲弾や光弾はハーミズ隊のアベンジャーに当たらない。
ハーミズ隊がやり直しのため、左旋回に入った時、ロング・アイランド隊とシアトル隊は、まさに魚雷攻撃を仕掛けようとしていた。
最初に射点に達したのはシアトル隊であった。シアトル隊は、ハーミズ隊がやり直しのため、旋回に移っている時に、敵竜母の左舷側から
2000メートルの距離に迫っていた。
本来ならば、もう少し距離を詰めてから魚雷を発射したい所であったが、シアトル艦攻隊は、隊長機も含めて全員が、今日が実戦初参加と言う事もあって、
皆が頭に血を上らせていた。
そのため、彼らは距離1700という遠距離で魚雷を投下した。
この時、シアトル隊の生き残りは5機であったため、5本の魚雷が扇状に投下された。
しかし、及び腰の雷撃であったため、敵竜母は辛うじて、5本の魚雷全てを回避した。
続いて、ロング・アイランド艦攻隊が右舷側から迫って来たが、魚雷を投下する時になって、小型竜母はシアトル隊の雷撃を回避しようとしていた。
そのため、ロング・アイランド隊は、対向面積の小さい艦尾側を雷撃するという事態に陥った。
指揮官機が気付いた時には既に遅く、魚雷は各機の胴体から離れていた。
それでも、シアトル隊よりはまだ度胸があり、ロング・アイランド隊は敵竜母から1000メートルの距離で魚雷を投下した。
6本の魚雷のうち、1本がスレスレの所で艦尾に命中しそうになったが、惜しい所で外れてしまった。
ハーミズ隊は、再び敵竜母の左舷側に回り込んでから突進を再開した。
この時、敵竜母との距離は3000メートル。投下までの時間は、余り無い。

「さあ、最後のチャンスだ!」

ホーキンス大尉は、自分に言い聞かせるように言った。

敵竜母は、ハーミズ隊の接近を知っているであろうから、当然回避するはずである。
ならば、1000メートル以内に接近し、魚雷を扇状に投下するしか、敵竜母を仕留める方法は無い。
それに加え、敵竜母の至近には、敵戦艦や巡洋艦が激しい回避運動にも拘らず、一糸乱れぬ動きで追随している。
そのため、ハーミズ隊に注がれる弾幕は半端な数ではない。
(こりゃ、相当しんどくなりそうだ。)
ホーキンス大尉は、光弾の弾着や、高射砲弾の破片によって泡立つ海面を見ながら、やや弱気になった。

「これで、敵の竜母がただ真っ直ぐ走るだけだったら、ここから魚雷を放っても当たるんだが。」

彼は、自嘲気味に呟いた後、この期に及んでも軽口を叩く自分に対して苦笑してしまった。

「全く・・・・俺とした事が。」

ホーキンス大尉は、いかんいかんと呟きながら、目の前の竜母を睨みつける。
数秒ほど、弾幕の向こう側に見えるのっぺりとした姿を見続けた後、

「・・・・・おかしいな。」

ふと、彼は異変に気が付いた。
現在、敵竜母との距離は、早くも2000を切った。
もうそろそろ、魚雷の投下地点に近付く頃である。
敵竜母の艦長は、自艦の土手っ腹にアベンジャーの魚雷を食らいたくないから、すぐに艦の進路を変更しようとするであろう。
だが、アベンジャーとの距離が1500を切っても、敵竜母は一向に進路を変えない。

「・・・・もしかして・・・・!」

ホーキンス大尉は、どうして敵が直進し続けるのかが分かった。

彼のアベンジャーからは見えなかったが、この時、敵竜母の両側には、ロング・アイランド隊から放たれた魚雷が1本ずつ並走していたのである。
どちらに舵を切っても、柔らかい下腹に魚雷が突っ込んでくるため、迂闊に回頭出来ない。
早く、魚雷の燃料が切れないかと、艦長以下の乗員達が願っていた。
そこに、ハーミズ隊のアベンジャー6機が突っ込んで来たのである。

「あっ!5番機被弾!」

敵竜母との距離が1000メートルを切ろうとした時、一番右側を飛んでいた5番機が叩き落された。
機体にガン!と、光弾が命中する音が聞こえたが、致命的な箇所には当たらなかったため、アベンジャーはそれまでと変わらぬ調子で飛行を続ける。
距離700にまで迫った時、

「魚雷投下ぁ!」

溜まりに溜まった物を吐き出すかのように、ホーキンス大尉は吼えた。
開かれた爆弾倉から、細長い魚雷が落ちていく。
やがて、海面に突き刺さった魚雷は、しばらくの間惰性で海中を進んだが、すぐに動力が働き出して、スクリューが勢いよく回り始める。
投雷から僅か2秒ほどで、魚雷は白い航跡を吐きながら、まっすぐ敵竜母に向かって行った。

「魚雷走ってます!」

クラウトン兵曹が、大声で報告して来た。
ホーキンス機は、両翼の機銃を小型竜母に向けて撃ちながら、そのすぐ上空を飛び抜けた。
敵竜母の飛行甲板を飛び抜けた、と思った直後、バリバリ!という何かが当たって弾ける音と振動が伝わった。

「ぐ・・・!やられたか!」

ホーキンス大尉は、しまったと思いながら、ガクガクと揺れる機体のバランスを必死に保とうとする。

敵巡洋艦の艦尾側を通り抜けた時に、更なる命中弾がアベンジャーを襲った。
次の瞬間、右主翼の付け根にある被弾箇所から黒煙が噴き出した。

「くそ、ついに火災が発生したか!」

ホーキンス大尉はコクピットから、被弾箇所から伸びる黒煙と火炎を見つめた。
火災はや小規模であるが、その代わり、曳いている黒煙の量は多い。彼は、もはやこの機は母艦まで持たないなと確信した。

「敵竜母の舷側に水柱1本!あ、また1本上がりました!おおっ!?さ、3本目が命中!!!!」

後部座席のクラウトン兵曹が、子供のようにはしゃぎ立てた。電信員席にいるバイアン2等兵曹も、喜びの余り万歳と叫んだ。

「ほう、小型竜母に魚雷3本命中か。こんなに食らったんじゃ、敵竜母はもう助からないだろうな。」

ホーキンス大尉は、先ほどとは打って変わった嬉しげな表情を浮かべた。

「とはいえ、俺達の状況は予断を許さんな。」

彼は、重い口調で呟いてから、ボロボロになった愛機を慎重に飛行させ続けた。
幸いにも、彼の機はなんとか離脱に成功した。
しかし、火災が発生している上に、燃料が足りなくなった彼の機は、敵機動部隊から約13マイル離れた北の海域で不時着水した。

午後2時30分 ユークニア島西南沖230マイル地点

アメリカ、マオンド双方の機動部隊が、互いにしのぎを削りあっている中、潜水艦バンパーは意外な物を見つけていた。
艦長のレオン・コードマン中佐は、潜望鏡越しに見えるそれが何であるかを完全に理解できた。

「潜望鏡下げ。」

コードマン中佐は潜望鏡から目を離した後、海面下に下ろさせた。
潜水艦バンパーは、大陸西部沿岸の哨戒活動を行っていたが、マオンド軍駆逐艦部隊の猛烈な爆雷攻撃を受けて艦が損傷した。
特に、無線機が損傷時の影響で使い物にならなくなり、バンパーは哨戒艦としては役立たずとなってしまった。
コードマン中佐は、現状では哨戒活動は全くできぬと判断し、艦の修理を行うため、一旦本国に戻る事を決めた。
その帰還の途上、偶然にも、マオンド艦隊を見つけたのである。

「ふむ。確かに護衛艦の数が少なめだ。あれは、噂の偽竜母部隊だな。しかし、どうしてこんな所に?」

コッドマン中佐は、航海長に顔を向けてから言った。

「私にも分かりません。しかし、考えられる理由はあります。」

航海長は、人差し指をピンと伸ばしながら説明した。

「13日に起こった海戦の時に、奴らはTF72の視点を逸らす為に出張って来たが、今回も同じ目的でユークニア島の近くまでやって来たのでしょう。」
「ふむ、つまり、味方主力艦隊の支援・・・か。TF72はどうなったかな?14日からずっと、敵機動部隊を探していたようだが。」
「さぁ。情報が全く入らないので分かりませんな。」

航海長が自嘲気味に言う。
無線機がオシャカになった今、バンパーは連絡が取れなければ、外部からの連絡も全く入らない状況である。
ただでさえ、艦体は敵の爆雷攻撃のせいでボロボロであるのに、無線機が使えないとなっては、もはやお手上げ状態である。

「畜生、せめて無線機が使えれば、ここに囮艦隊がいるぞって伝えられるのに。」

艦長は、歯噛みしながらそう言ったが、いくら悔やんでも出来ない物は仕方が無い。

「ここは、TF72がこの囮艦隊に引っ掛からぬ事を祈るのみだな。本命は、別の海域をうろついているだろう敵機動部隊だ。1騎のワイバーンすら
いない囮艦隊を無視して、マイリー共を完膚なきまでに叩き潰してもらいたいね。」

コードマン中佐は、苦笑しながら言った。

その後、バンパーは囮艦隊に見つかる事無く、そのまま本国に向かって航行を続けた。
後の話によれば、バンパーの向こう見ずな水雷長は、偽竜母を魚雷で沈めましょうと艦長に進言したが、

「客寄せ目的で作られたブリキ艦に使うなんてもったいない。それに、敵艦隊は、囮とはいえ8隻の駆逐艦がいる。そんな所に突っ込んでいったら、
敵の爆雷攻撃を一身に受けて無駄死にするだろうよ。」

艦長はそう言ってその乗員の意見を一蹴している。
TF72が新たな敵の攻撃を受けるまで、あと2時間前の出来事である。
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