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180 第139話 ヘルベスタン王家の末裔

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第139話 ヘルベスタン王家の末裔

1484年(1944年)6月7日 午前8時 スィンク諸島ユークニア島

第72任務部隊第2任務群の司令官を務めるジョン・マッケーン少将は、2週間ぶりに空母イラストリアスの艦橋に
上がることが出来た。

「お久しぶりです、司令官。」

艦橋にマッケーンが姿を現すや、すっかり顔馴染みとなったファルク・スレッド艦長が穏やかな口調で挨拶してきた。

「やあ艦長。」

マッケーンもまた、笑顔を浮かべてスレッド艦長に答えた。

「どうだね?艦の調子は?」
「艦も乗員もすこぶる快調ですよ。ユークニア島にバーや行楽施設が無かったら、今頃乗員達の士気はガタ落ちでしたな。」

空母イラストリアスは、第2次スィンク沖海戦で受けた傷を癒すために、2週間ほどABSD(浮きドック)に乗せられて
修理を行っていた。
イラストリアスが浮きドックに乗せられたのは5月24日で、乗員達は一部を除いて、ユークニア島の割り当てられた宿舎で
休暇を取ることになった。
イラストリアスがドックで修理を受けている間、増援部隊である第3任務群は遙か遠くのグラーズレットを大空襲し、
敵に計り知れない損害を与えた。
この報告を聞いた乗員達は、TG72.3の活躍を素直に喜ぶと同時に、先鞭を付けたのは俺達だと、遙か遠くの洋上を航行する
TG72.3に向けて自慢していた。
5月26日には、空母ゲティスバーグ、軽空母ロング・アイランドⅡ、ノーフォークを主軸とする第72.1任務群が出港していった。

この時、マッケーンはドック入りしたイラストリアスから、健在であるゲティスバーグに旗艦を移して航空戦の指揮を取っていた。
本来ならば、TG72.2も出撃しているはずなのだが、空母を全てTG72.1に取られていたため、実際は快速水上打撃部隊として
編成され、いつ襲い来るかもしれぬマオンド艦隊に備えていた。
マッケーンの率いるTG72.1が、TG72.3と共にユークニアへ戻ってきたのは6日の正午頃である。
その日の夕方には、イラストリアスは修理を終え、浮きドックから出されていた。

「しかし、太平洋艦隊から増援がやってきたのは嬉しいことです。TF72も、これで堂々と動けますな。」
「ああ、そうだな。」

マッケーンとスレッド艦長は言葉を交わしながら、泊地に浮かぶ味方の艨艟を見渡した。
艦隊はユークニア島の西側に停泊している。
数日前までは、哨戒艇や魚雷挺を除いて、目立った大型艦は数えるほどしか居なかったが、今日となっては港の様子は
大きく様変わりしている。
泊地のやや外側には、大西洋艦隊司令長官のニュートン大将がキング作戦部長と直談判して、太平洋艦隊からもぎ取った
空母が停泊している。
その2隻の正規空母のうち、1隻は第72任務部隊でもよく見かけるエセックス級空母であるが、もう1隻は、第7艦隊が
発足してからは初めて見る。
エセックス級より若干小振りながらも、その精悍な艦影は紛れも無くヨークタウン級空母の物である。
名前はエンタープライズ。
通称ビッグEで呼ばれるその正規空母は、つい最近まで太平洋戦線におり、同じ形であるヨークタウン、ホーネットと共に
第58任務部隊第1任務群、別名ヨークタウン3姉妹を形成していた。
キング作戦部長の英断で大西洋艦隊に貸し出されたこの精鋭空母は、ボクサーと、軽空母ロング・アイランドⅡ、それに、
母艦を取られて砲戦部隊と化していたアラスカ級巡戦を主力とする打撃部隊と共に第72任務部隊第2任務群を形成し、
群司令は以前と同じくジョン・リーブス少将が務めている。
第2任務群が停泊している所から、東に800メートル離れた場所には第3任務群の艨艟群が錨を降ろしている。
第3任務群は正規空母レンジャーⅡ、ハンコック、軽空母ライトを主力に据えており、空母を護衛するのは、アイオワ級戦艦の
4番艦であるミズーリと、重巡2隻、軽巡2隻、駆逐艦16隻である。

この第3任務群は、主力である空母よりも、護衛艦のリーダー的な存在であるミズーリのほうが目立っている。
基準排水量57000トンの艦体に、新式の17インチ砲9門を備えた新鋭戦艦は、主役の座を空母に譲ったとは言え、
その圧倒的な存在感を周りに見せ付けていた。
今はまだ見えないが、6月10日にはウィスコンシンがTG72.3に加わる予定であり、守りは一層固くなるであろう。
最後に残った第1任務群は、従来通り正規空母イラストリアスが旗艦となり、足りぬ空母数は損傷のため後方に下がった
ベニントンの代わりに、ゲティスバーグを貰うことで解決している。
護衛艦の陣容は、戦艦プリンス・オブ・ウェールズとレナウンを始めとするいつも通りの顔ぶれだ。
前回の海戦で損傷した護衛艦は、海戦終了後、いち早くノーフォーク工廠で修理を受けたため、6月までには全てが原隊に復帰できた。

「正規空母6隻、軽空母3隻。搭載機数は早計で700機以上。これだけあれば、マオンドの拠点の1つや2つは、軽く潰せてしまうな。」

マッケーンは、感無量といった口調で言った。

「これで、上陸部隊の航空支援はなんとか出来そうです。」
「うむ。キング作戦部長や、ニュートン長官に感謝せんとな。」

2人はしばしの間、とりとめの無い会話を交わした。

5分ほど会話を交わしていると、ユークニア島の方角から聞き慣れた轟音が響いてきた。
やがて、島から巨大な爆撃機が飛び立っていくのが見えた。

「今日はB-29も参加するようだな。」

マッケーンは、遠くを飛んでいくB-29の機体を眺めながら呟いた。

「B-29が爆撃に向かうのは、これで3度目ですな。今度はどこに爆弾を落していくのかな?」
「この間は、マオンド本国のトハスタというところを爆撃したらしい。トハスタには重要な戦略拠点がいくつもあって、
1度の爆撃では破壊しきれないようだな。」

「では、今度もトハスタに行くんですね。」
「さぁ、それは分らんね。」

マッケーンは苦笑しながら言った。

「トハスタに行くかも知れんし、トハスタとは別の所を爆撃するかも知れん。いずれにしろ、B-29は航続距離の範囲内であれば
どこでも爆撃できる。大は軍事施設から、果てはろくでなしの暴君の居るきらびやかな屋敷まで。選り取り見取りさ。」
「そして、マオンドはそれに対抗する手段が無い。」
「そうだ。B-29のパイロットがよほどヘマをしない限り、マオンド側は1万メートルの高度から爆弾の雨を浴びせ続けられるだろう。」

マッケーンの言葉が終わったとき、腹に応えるような爆音が響いてくる。
音が聞こえてきた方角からは、新たなB-29が1機、飛行場から離陸し、大空へ舞い上がろうとしていた。

ユークニア島にあるレーフェイル派遣軍総司令部で、総司令官であるダグラス・マッカーサー大将は、とある人物と会話していた。

「音がうるさいですな。」

マッカーサーは、くわえていたコーンパイプを取ってから、しかめっ面で飛行場から離陸していくB-29を見つめた。

「いや、私としてはあまり気にはなりませんよ。」

マッカーサーの隣で、椅子に座るカーキ色の服を付けた若い男が微笑みながら言う。

「むしろ、私にとっては心地よい音です。」

銀髪の若い男は、軽やかな口調で言った。

「まあそうでしょうな。あなた方を苦しめているマオンド軍を、あのB-29が叩きのめしに行くのですからな。」

マッカーサーは、傍目から見れば尊大な姿勢で目の前の男、アルトルート・ソルトに向けて言う。

「B-29が向かう先は、殿下のおられたヘルベスタンではなく、マオンド本国です。ヘルベスタン方面への爆撃は、
B-24とB-17、軽爆隊が主に行っています。つい昨日も、エルケンラードやスタンレミ、フォルサといった要所に
空襲を行っています。上陸日前日までは、このように空襲を反復していきます。」
「空襲によって、マオンドの抵抗力を減殺していくのですね?」
「はい。」

マッカーサーは頷いた。

「少しでも犠牲を減らすためには、これしか方法がありませんからな。例え装備が劣っていようと、相手が訓練を施した
軍隊であることには、そして、我々に抗する敵には変わりありません。ならば、私達は出来るだけのことをやるのみです。」
「なるほど。贅沢だが、実にいい案です。」

ソルトは柔和な笑みを浮かべながらマッカーサーにそう返した。
轟音を上げながら飛び立っていくB-29を見ながら、アルトルートは脳裏に、昔の記憶を呼び起こしていた。


「そんな・・・・自分だけ逃げるなんて出来ない!」

アルトルートは、目の前に座っている白髪の初老の男に食って掛かるが、男は動じた様子も見せない。

「僕がだって?」

アルトルートは顔を歪ませながら言う。

「僕よりも、マオンド軍に殺された父上や母上・・・・それに、兄上や姉上達のほうがよっぽど優れていた。そんな中で、
僕は大して目立たない末っ子だ。政治のイロハもあまり分らない僕がソルト家の希望だなんて・・・・・」

彼は、嗚咽を漏らしながら、自分の思いを打ち明ける。

「親友同然として接してきた友人すら救えない僕に、ここから脱出するだけの価値があるのか?」


アルトルートは、ヘルベスタン王国を統べるソルト家の末っ子として生まれた。
父フォストルートは聡明な王であり、母ゼシリスは若いながらも温厚な性格で、民にも愛されていた。
また、アルトルートの上にいる兄2人と姉2人は才色兼備な人物で、成長していくに従って各地で名声を得ていった。
アルトルートもまた、努力を重ねてあらゆる勉学や武芸に励んだが、とでもではないが姉や兄達にかなわなかった。
いくら頑張っても追い付けない程の優秀さを身に付けた兄や姉達に、一時期アルトルートは嫉妬の念を抱いた者だが、
憎むことは無かった。
彼は末っ子という事もあってか、兄や姉達に良く可愛がられ、時には顔も真っ赤になるほどのイタズラをされたことも
あったが、それでも彼は楽しかった。
しかし、その幸せは長くは続かなかった。
彼が16歳になり、隠れながらも恋する人を見つけた時に、マオンド軍はヘルベスタン王国に攻め入った。
突然の奇襲にヘルベスタン王国の軍は、当初こそ対処が出来なかったが、体勢を立て直して徹底抗戦を行った。
しかし、半年に及ぶ勇戦にも関わらず、ヘルベスタン王国は首都を占領された。
この時点で、王であるフォストルートは長男を戦場で失っていた。
アルトルートはこの時、エルケンラードに居たが、首都に敵が迫っている事を知って急遽戻ろうとした。
だが、父フォストルートは、アルトルートが戻るのを許さなかった。
アルトルートは、付き人であった初老の男・・・・もとい、王族侍従武官のゴルス・トンバル少将に急いで首都に戻ろうと言ったが、
トンバルは許さなかった。
頭に血が上ったアルトルートは、最初はトンバルの反対を無視しようとしたが、最終的にはトンバルに気絶させられた。
それから5日後。マオンド軍は、首都レネスコの広場で民衆が集まる中、国王一家を見せしめとして公開処刑した。

2日後、アルトルートはこの報告を聞かされた後、しばらく個室に引き籠もった。
国はマオンドによって蹂躙され、家族はアルトルートのみを残して斬首に処せられた。
いや、それだけならまだ良かったが、マオンド軍はその遺体にすら、好き放題に振る舞ったという。
死して尚、愛する家族を辱めたマオンドに、アルトルートは激しい敵愾心を抱いた。
今すぐにでも飛び出して、目に入るマオンド兵達を片っ端から殺してやりたかったが、そうするにも力が足りない。
絶望的な想いに囚われたアルトルートは、それから1ヶ月は食べ物が喉を通らなかった。
ようやく落ち着いたのは、家族の死に際を聞いてから2ヶ月以上が経ってからだ。
マオンド軍は、アルトルートが首都に居なかったことに気付いており、ヘルベスタン領全土で捜索を行っていたが、
一向に見つからなかった。
マオンドは、ヘルベスタン領を完全制圧した後、他の国々にも圧倒的な軍事力でもって次々と侵攻していった。
アルトルートが、一部の連れの者と共に地下に潜って3年が過ぎた時には、マオンドは北の国、レンベルリカに攻め入っていた。
アルトルートはこの間、各地を転々としつつも無事に生き続けていた。
厳しい逃亡生活の中でも、彼は常に明るかった。特に心の支えとなったのは、親友であり、彼の影武者でもあるルクト・トランスムの存在だった。
ルクトは、剣術指南役のトランスム中佐の息子で、城にも良く出入りしていた。
そのアルトルートは6歳の頃にルクトと知り合って以来、気心の知れた仲となっている。
そんな彼は、アルトルートと顔がそっくりで、違いは髪が長いか短いかだけである。
ルクトが影武者に任命されたのは、マオンドとの戦争が始まる1年ほど前だった。
アルトルートは、ルクトが影武者にされたのが我慢ならず、命じたと思われる父に抗議に行こうとしたが、

「陛下に文句を言う必要はないぜ。アル。」

ルクトはアルトルートを引き留めた。

「俺が提案したんだよ。お前と似た顔を持つ俺を影武者にして下さいってな。」
「なっ・・・・馬鹿かお前!」
「いや、馬鹿じゃないぜ。俺は正気だ。」

ルクトは自信ありげにそう言ったが、アルトルートの憤りは収まらなかった。

その後は2人して殴り合いの大喧嘩となったが、その翌日にはまた、2人とも笑顔を見せ合っていた。
その親友でもあり、兄弟でもあったアルトルートとルクトは、逃亡中も互いに励まし合った。
だが・・・・・

1482年5月。雨が降りしきるその日。一行はエルケンラードのとある寂れた小屋で寝泊まりしていた。
アルトルートは、3日前から戻ってこないルクト達を心配していた。
ルクトは、3人の従者と共に山に入っていったのだが、彼らは一向に戻ってこなかった。

「ルクト達に、何か起きていなければいいんだが・・・・」

アルトルートが心配そうな口調でそう呟いたとき、トンバルが小屋の中に入ってきた。

「殿下。」

ドンバルは、いつもよりやや重苦しそうな声音で言った。

「ルクトがお役に立ちました。」
「・・・・・・・・・・」

アルトルートは、トンバルが言った言葉が理解できなかった。
いや、理解したくなかった、と言った方が正しいであろうか。

「・・・・・そう・・・・・か」

アルトルートは、掠れた声で呟き、床にくずおれた。
彼は再び、大事な人を失ったのであった。

それから1ヶ月後。アルトルートは信じられない物を目の当たりにした。
6月も終わりに近付いたその日、突然爆発音が響いた。
それから間もなくして、何かの飛行物体が飛び去っていく音が町中に響いた。

「何だ!?」

アルトルートは突然の出来事に跳ね起き、外に飛び出した。
そこには、意外な光景が広がっていた。
普段、港を我が物顔に占拠し、近付く現地民の漁船に嫌がらせさえしていたマオンド軍の艦船が、上空を飛び回る
飛行物体に洋上で追い回されている。
やがて、舷側から水柱を屹立させて停止し、みるみるうちに沈み始める。
港では、同じく見たこともない飛行物体が甲高い轟音を上げながら、倉庫や桟橋に横付けしている艦船目掛けて急降下していく。
あっという間に倉庫の群れが吹き飛び、輸送船が燃え上がった。
視線を市街地に向ければ、たまたま処刑場にいたマオンド兵達が、樽に太い両手剣を突き刺したかのようなごつい飛行物体に
追い回され、蹴散らされている。
唐突に、1機が前方からやって来て、彼のすぐ上を飛び抜けていく。
その飛行物体は、胴体は太く、後部部分はややほっそりとしていた。
そして、開け放たれた座席に座っている飛行眼鏡を掛けた人と目が合った。
その次に、彼は胴体に描かれた青地の白い星のマークが見えた。
未知の飛空挺部隊による空襲は、さほど長くは続かなかったが、エルケンラードに駐留していたマオンド軍部隊は、少なからぬ
損害を与えられていた。


それから2ヶ月後。トンバルは何を思ったのか、アルトルートにこのレーフェイルから出る気は無いか?と言ってきたのである。
アルトルートは、トンバルの提案に納得出来なかった。
トンバルは、ヘルベスタンのためだと言うのだが・・・・・

「僕は、親友であったルクトさえも死なせてしまった。それに、マオンドの奴らは、今も民を虐げている。こうなった以上、
僕は、このヘルベスタンから離れたくない。皆が苦しんでいるのに、自分一人だけ逃げ延びる事はできない!。」
「・・・・殿下。話を最後まで聞いて下さい。」
「何?」

トンバルは、呆れたような口ぶりで言った。

「まだ、私は一言しか申し上げておりません。何度も申しますように、人の話は最後まで聞いてから、自分の考えを言うのですぞ。」
「話を最後まで聞け・・・・か。いったいどんな話なんだ?」

アルトルートは首を捻りながらも、熱くなった頭を冷やし、トンバルの話を聞くことにした。

「はい。殿下は、6月に起きた、あの事件を覚えていますな?」
「勿論覚えている。」

アルトルートは顔に笑みを浮かべた。

「あの未知の飛空挺部隊によって、憎らしいマオンド軍が蹴散らされたんだからな。」
「実を言いますと、あの未知の飛空挺は、アメリカという国の兵器のようです。」
「何?アメリカ?」

アルトルートはこの時、初めてアメリカという言葉を聞いた。

「はい。殿下、ここは一度、アメリカに赴き、再起を図ってはどうでしょうか?」

それからという物の、アルトルートはトンバルの手引きでアメリカ側のスパイと会うことが出来た。
彼は、スパイの話を聞く内にアメリカに渡ってみたいと思うようになった。

8月末。アルトルートはトンバルの提案に従うことにし、10月25日には、マオンド側の監視が薄いルークアンド領西岸から、
潜水艦に乗ってレーフェイルから脱出した。
その日は奇しくも、第2次バゼット海海戦が勃発し、アメリカ側が勝利を収めて戦争の流れを変えた日でもあった。

それから1年8ヶ月が経った。
アメリカ軍はマオンド側の領土であったスィンク諸島を制圧し、レーフェイル大陸をも射程に収めた。
上陸作戦の開始は、既に迫りつつある。

「早く戻りたいですか?」

マッカーサーは、アルトルートに語りかけた。

「はい。出来れば、今すぐにでも行きたいぐらいです。」

アルトルートは素直に言い放った。
彼としては、一刻も早く祖国へ戻りたいと思っている。
なにしろ、ヘルベスタンで起きた反乱の指導者は、彼の付き人であったトンバルなのだから。

「大事な仲間が待っているんです。私はその仲間達が健在なうちにまた会いたい。」
「その気持ち、よく分りますよ。」

マッカーサーは相槌を打った。

「ただ、今はもう少し我慢しましょう。上陸日までは、あと少しばかりの時間が残っています。ですが、出来うる限りの事はやります。」

窓の向こうの空に再び、大型機の姿が見える。その大型機は、先ほどの機体より幾ばくか小さいが、どこかごつい。

「見て下さい。今日も、B-24が飛び立っていきます。このユークニア島基地以外にも、ヘルベスタンに向かう爆撃隊はおります。
効果の詳細は、まだはっきりとはしませんが、反乱部隊に対する大規模な攻撃は確認されていないことから、マオンド軍は防戦に
手一杯の筈です。」

マッカーサーはアルトルートに向き直ると、コーンパイプを外して笑みを浮かべた。

「上陸日は近い。殿下の悲願も、間もなく達成されますよ。」
「ええ。」

アルトルートは、その一言だけ返したが脳裏には早くも、故郷に立つ自分の姿が思い浮かべられていた。
(父上、母上、兄上、姉上・・・・それにソルト。遅くなってしまったけど、もうすぐで僕は帰る。皆の無念を・・・・・僕は果たす)
彼は万感の思いを込めて、心中でそう決意した。
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