自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

190 第146話 海中からの一撃

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第146話 海中からの一撃

1484年(1944年)6月24日 午前1時40分 トハスタ沖南西150マイル地点

この日、バラオ級潜水艦タイルフィッシュは、マオンド共和国の本国であるスメルヌの沿岸地区を哨戒していた。
潜水艦タイルフィッシュの艦長ジョン・ブライリー中佐は、艦橋に立ちながら渋い顔を浮かべていた。

「こりゃ、ひどい天気だ。」

ブライリー艦長が忌々しげな口調で言った時にも、艦首に高波がぶつかり、ドーンという音と共に波が砕け散って
白い飛沫に変わる。
その飛沫が、艦橋にも降りかかってきた。
艦橋には、ブライリー艦長の他に、3人の見張り員と哨戒長がいる。
通常なら、哨戒任務は臭い艦内にいるよりは幾分恵まれたものであり、乗員の中には、新鮮な空気をたっぷり吸える
見張り員達を羨ましそうな目付きで見送る者もいる。
だが、この時は立場が逆であった。タイルフィッシュの哨戒海域は、あいにくの悪天候で、周囲の視界は極端に悪くなっている。
艦長と4人の見張りは、軍服の上に防水コートを身につけているのだが、この土砂降りの雨の中ではさほど役に立っていない。

「レーダー手。周囲の状況はどうなっている?」

ブライリー艦長は、伸びた顎の無精髭を撫でながら、艦内電話でレーダー員を呼び出した。

「今の所、レーダーの探知範囲内には、船らしきエコーはありません。」
「OK。引き続き、監視を怠るな。」

ブライリーはそう言って電話を切った後、別の部署を呼び出した。

「こちら艦長。ソナー手、何か異変は無いか?」
「いえ、異変は何らありません。静か過ぎて退屈なぐらいですよ。」

ソナー手の冗談めいた返事に、ブライリーは苦笑した。

「ハハ。まっ、退屈な気分を味わうのも悪くないぞ。とにかく、何かあればすぐに知らせろ。」
「アイアイサー。」

電話の向こうの相手はそう言ってから、電話を切った。
ブライリーも受話器を戻した直後、いきなりザバーンという音と共に波が降りかかってきた。
あまり大きな波ではなかったが、それでも艦橋に立っていた5人の男達は、全員が頭から水を被ってしまった。

「ゲホッ!つっ、畜生め!」

ブライリーは、しょっぱい海水に噎せながら悪態をついた。
タイルフィッシュは、1時間前に浮上航行し、空気の入れ換えとゴミの投棄、バッテリーの充電を行っている。
その間、タイルフィッシュの小さな艦体は、ずっと嵐の波に揉まれ続けている。
タイルフィッシュは、第8艦隊第84任務部隊第1任務群に属している。
TF84は、主に西海岸沿岸から南海岸沿岸を哨戒しており、第8艦隊の中でもう1つの潜水艦部隊である第85任務部隊は、
東海岸沿岸を哨戒している。
TF84は、TG84.1をマオンド本国沿岸北部から中部、TG84.2を中部から南西部、TG84.3を南部に配置している。
タイルフィッシュは、同じ任務群のパンパニートと共に、この海域を哨戒している。
ちなみに、一番沿岸部に近付いているのは、アーチャーフィッシュとタニーであり、この2隻は沿岸から僅か20マイルの沖合で
哨戒任務についている。
アメリカ側は、マオンド艦隊の来寇を警戒していた。
レーフェイル派遣軍は、未だに輸送船から送られてくる補給を頼りに戦っている状況だ。
一応、補給物資を備蓄するための物資集積所は作られているが、規模は小さい。
輸送船団がモンメロ沖から逃げ出してしまえば、上陸部隊は1ヶ月足らずで補給切れに苦しむことになる。
それを防ぐのが、主力機動部隊を有する第7艦隊だが、肝心のマオンド艦隊の動向を知るためにも、まずは潜水艦を配置して敵を
見つける事が先だ。
マオンド艦隊は、6月17日未明にグラーズレット沖を北西に向けて進んでいく所を発見されたが、それを最後に行方が分からなくなっている。
西海岸に配備された30隻以上の潜水艦は、日夜監視を行っているが、北西に進んでいったはずのマオンド艦隊は、未だに散開線に引っかかっていない。

「艦長!こりゃ酷すぎますなぁ!」

哨戒長が、空を指さしながらブライリーに言ってきた。

「こんな悪天候じゃ、マイリーの海蛇にかじりつかれても分かりませんぜ!」
「ああ、同感だよ。」

ブライリーと哨戒長は互いに笑い合った。そんな時にも、海水は容赦なく降りかかってくる。

「ううむ、ますます酷くなってるな。」
「そもそも、艦隊司令部の気象班は、この海域の天候は良好とか抜かし取りましたが、良好なんてもんじゃないですよ。」
「一度、気象班の奴らと、膝を並べ合って話し合ってみるか。許可が下りれば、連中を潜水艦に招待しても良い。」

ブライリーは、妙に爽やかな口調で呟いた。
唐突に、艦内電話が鳴り響いた。

「こちら艦長。」
「艦長。TG84.2所属のボーフィンより、艦隊司令部に送られた電報を傍受しました!」
「敵艦隊発見の報か?」
「はい、内容を見る限りそうだと思います。」
「わかった。今そっちに向かう。」

ブライリーはそう告げてから電話を切ると、慌ただしい動作で艦内に入っていった。
彼は防水コートを脱ぎながら発令所に入った。

「艦長。通信員から受け取った報告電です。」

副長のネリス・ロイド少佐が紙を渡してきた。ブライリーは、タオルで塗れた手を拭ってから紙を受け取った。

「我、敵艦隊を発見。敵は3群に別れている模様。速力は16ないし18ノットで北北西、方位。位置はトハスタ沖
南250マイル・・・・か。」

ブライリー艦長は内容を読みながら、段々と表情を険しくしていく。

「確かに、敵艦隊発見の報告だが、敵の詳細が分からん。一番知りたい内容がない。」
「敵艦隊発見。敵は3群に別れている、だけじゃ、確かに不足していますね。」

ロイド少佐は、ブライリーの内心を理解していた。

「電文の発信時刻は午前1時20分か。受信の時間がちと遅いな。」
「外は嵐ですから、電波の状態がやや悪いのでしょう。それに、ボーフィンは敵の大艦隊をやり過ごした後に無電を打って
いるでしょうから、敵艦隊も、報告文にあった位置から更に進んでいるかも知れません。」

艦長は海図台の前に移動した。

「ボーフィンの情報通りだと、マオンド艦隊はこの位置にいるはずだ。」

ブライリー艦長は、海図上にある海域をなぞった。そこは、TG84.1から100マイル(160キロ)離れている。

「ボーフィンの状況を考えれば、敵をやり過ごしてから電文を打った事はほぼ確実だろう。敵が近くに居るときに浅い
海面に上がれば、マジックソナーに引っ掛かるからな。当然、敵艦隊は情報のあった位置より更に進んだ事になる。」

艦長は、指をやや北側の海域に移動させた。

「とすると、敵艦隊は最低でも15、6マイルは北に移動しているだろう。」
「このままのコースでいけば、我が任務群の散開線に引っ掛かりますな。」

副長の言葉に、ブライリー艦長は頷いた。

「最低でも5時間。長くても7時間後には、俺達の近くを通り過ぎる。」
「もしかすると、敵艦を雷撃する機会があるかもしれませんね。」

副長は、口をやや釣り上げながらブライリーに言った。それにブライリーは苦笑する。

「さあ、それはどうだろうな。敵艦隊の詳細はわからんが、敵にはマジックソナー装備の駆逐艦がうようよ
いるから、ただの監視任務のみになるかもしれん。」
「でも、群司令の判断次第では、敵艦隊に雷撃を行う可能性もあります。こっちには、レーダーを頼りに魚雷攻撃が
できますからね。」

副長は、自信ありげに言う。
アメリカ海軍は、1943年の後半から、SJ-1レーダーの改良型を潜水艦に搭載し始めている。
改良型のSJ-1は、SJ-Aとも呼ばれており、従来型のSJ-1レーダーよりも探知範囲や精度が向上している。
このため、夜間でも敵艦船に対する攻撃がやりやすくなり、潜水艦の生存性も高まってきている。
攻撃精神旺盛な群司令は、過去に幾度か、複数の潜水艦を集めて敵船団を雷撃するという事をやっており、敵艦隊が
やってきた場合も同様の事をやる可能性がある。

「敵艦隊を攻撃するなら、その時は是非、大物を狙いたいものだな。」

ブライリー艦長は、ニヤリとしながら副長に本音を言った後、バッテリーの充電と空気入れ替えの進み具合を確かめに行くため、海図台から離れた。

同日 午前3時20分 モンメロ沖南90マイル地点

この日。第72任務部隊はモンメロ沖南90マイル地点を遊弋していた。
第7艦隊旗艦の重巡洋艦オレゴンシティでは、仮眠中のフィッチ司令長官や数名の幕僚を除いた司令部要員が、作戦室に集まっていた。

「参謀長、コーヒーのおかわりです。」

航空参謀のウェイド・マクラスキー中佐は、眠たそうな顔をしているフランク・バイター少将にコーヒーを渡した。

「おう、すまんね。」

バイター少将は笑みを浮かべながらカップを受け取り、淹れたてのコーヒーを一口すすった。

「さて、ようやく敵の尻尾を掴めたわけだが。残念ながら、先の潜水艦部隊から送られた情報には、我々が知りたい情報が載っていなかった。」

バイター参謀長は、机に敷かれた海図を眺めながら、マクラスキー中佐に言った。

「送られてきた電文には、敵は3群に別れている、しかありませんでしたからな。ボーフィンが見つけた艦隊が、どのような
艦種で構成されているか。この一番重要な事がまったく分からない。」
「敵艦隊発見。敵は3群に別れている模様、じゃ。情報としては、ちと価値が少ないな。正直言って、敵艦隊は3群に別れている、
としか記されていないと知ったとき、私はその敵らしき物が一体何か?敵の竜母は居るのか居ないのか?と、ボーフィンの連中に
直接聞きたいと思ったよ。」
「参謀長のお気持ちは分かりますが、敵の詳細が不明瞭なのは致し方無い事でしょう。」

情報参謀のウォルトン・ハンター中佐が横から入ってきた。

「むしろ、ここは敵の動向が掴めただけでも良しとするべきです。」
「まぁ、私も君の思うとおりだと思っている。さて、問題は、ボーフィンが見つけた3群の艦隊のうち、どれが竜母を
主力とする機動部隊であるか、だが。」

「私は、3群のマオンド艦隊のうち、2群は竜母部隊であると思います。」

ハンター中佐はそう言いながら、地図上のマオンド本土北西部あたりを指でなぞる。

「マオンド軍は、未だに本土北西部に大規模なワイバーン部隊を駐留させています。恐らく、敵の竜母部隊は基地航空隊と
共同で我が機動部隊を攻撃するでしょう。ですが、我々も攻撃隊を飛ばします。攻撃隊の目標は、敵の竜母ですが、ここで
5隻が固まっていれば、迎撃用のワイバーンを集中配備出来るかわりに、5隻纏めて一網打尽にされる可能性があります。」
「そこで、損害を軽減するために竜母を分けた、という事か。」

マクラスキーが言う。それにハンター中佐は頷いた。

「そうだ。参謀長、敵は残存竜母を、3隻と2隻に分けて、それぞれを中心に1つずつの機動部隊を編成していると考えた方が
よろしいでしょう。」
「もう1つは、戦艦群を中心とする砲戦部隊か。つまり、3つの艦隊のうち、2つはTF72を攻撃するための航空打撃部隊。
最後の1つが、水上艦艇を片付ける役目を担った水上砲戦部隊、という訳だな。そして、最後の水上砲戦部隊が、ある意味では
マオンド側の作戦の主役になるだろうな。」

バイター参謀長は確信したように言う。
マクラスキー中佐がそれに相槌を打とうとしたとき、急にドアの向こうの通路で人通りが多くなった。
いきなり、ドアをノックする音が聞こえた。

「失礼します!」

ドアの向こうの相手はそう言うなり、ドアを開けて作戦室に入ってきた。

「TG72.3より緊急信です!」

「それを渡してくれないか?」

ドアの近くにいたハンター中佐は、その通信士官から電文が書かれた紙を受け取った。
ハンター中佐は紙の内容を一通り読み終えると、表情が険しくなった。


午前3時20分 モンメロ沖南94マイル地点

生まれてきてから、彼の役目は、常に相手を監視することだった。
彼は、部隊が編成されてから、奇跡的にも今まで生き延びることが出来た。
生き延びた後に待っているのは、再び敵本土沿岸監視の任務。
幾度となく繰り返して来た任務は、ある時、終わりを告げた。
その時以来、彼は命じられた任務が今までの任務よりやや楽である事に気が付いた。
敵本土への道のりは、慣れた後も長く、そして退屈に感じたが、任務に選ばれた海域が根拠地から近いため、
体力の消耗は抑えられていた。
この楽な監視任務が3ヶ月近く続いたが、6月の中旬を過ぎて以来、彼は今までとは異なる任務を仰せつけられた。
そんな彼は、今日初めて敵艦を攻撃する。
目を、やや海面から突き出す。人間とはかけ離れた暗視力を持つ双眸は、洋上を航行する艦隊を捉えていた。
彼は、先行している5頭の仲間が攻撃を加えた後に、別の5頭の仲間と共に敵艦隊の陣形に突入する。
彼らの脳裏には、攻撃目標であるアメリカ軍の正規空母の姿が焼き付けられている。
彼らを生み出した主達を苦しめている敵の主力艦の撃沈が、彼らに与えられた任務であった。
5秒ほど、敵艦隊を眺めただけで目を海中に沈める。
しばらくの間、海面から頭を出していると、どういう訳か敵の小型艦が自分達目掛けて殺到してくる。
2000グレルほどの距離が離れているときに敵艦をこっそり見つめても、何故かこっちに舳先を向けて突っ込んでくる。
敵艦には、恐らく精度の良い生命反応探知装置が積まれているのだろう。
唐突に、仲間達から合図が入った。ピリリとした感触が頭に伝わる。
攻撃開始の合図だ。
彼はさほど緊張するまでもなく、気楽な気持ちで仕事に取りかかり始めた。
凶悪そのものの面構えに、獲物を狩る覇者の笑みを浮かべながら。

TG72.3の輪形陣左側外輪部を哨戒していた駆逐艦ボリーが、再び水上レーダーに浮かんだ不審な影を捉えたのは、
僚艦の敵海洋生物探知の報を受けてから5分後の事であった。
そして、それから更に10秒ほどが経ったとき、ボリーの左舷側700メートルの海域で何かが光った。
その光は、ボリー目掛けて急激に距離を詰めてきた。

「左舷方向より魔法魚雷!!距離は700!」

ボリーの左舷側見張り員が、艦橋に向けて報告を送る。
艦長は、言われるがままに、左舷に視線を向ける。そこで、彼は自艦に向かってくる光る魚雷を見て、愕然とした。
光る魚雷の数は総計で5。
そのうちの3つが、ボリーに向かっていた。速度は、40ノット以上はある。

「取り舵一杯!」

艦長は命令を発した。対向面積の小さい艦首を向ければ、被雷する可能性は小さくなる。
だが、光る魚雷は、ボリーが舵を切り始めたときには、すぐ側にまで接近していた。
18ノットという低速で航行していた事と、ベグゲギュスの発射した魔法魚雷の射点が近すぎた事が、ボリーの明暗を分けた。
1本目の魚雷は、ボリーの艦首前方を通り過ぎていったが、2本目が艦首に命中した。
光る魚雷が艦首に突き刺さるや、轟然と水柱が吹き上がる。
その瞬間、ボリーは強い衝撃によって前につんのめったようになり、乗員の大多数が壁に叩き付けられるか、床に転がされた。
1本目の被雷から7秒ほど経ったところに、今度は左舷後部で水柱が吹き上がった。
2本目の被雷は、艦尾の舵機室を破壊し、機械室や機関室にも重大な損傷を及ぼした。
アレン・M・サムナー級駆逐艦は、基準排水量2900トンの大型駆逐艦であり、従来の駆逐艦と比べて幾分打たれ強い作りに
なっているが、艦首と艦尾近くに大穴を開けられた上に、艦の命である機関室にも損傷や浸水が及んではどうしようもなかった。
ボリーが2本の光る魚雷によって満身創痍となったとき、別の2本は僚艦ハンクに向かった。
ハンクは、幸いにも紙一重の差で魔法魚雷をかわすと、すぐさま増速して射点に向かった。
ハンクの動きを見習った他の駆逐艦も、ボリーを痛めつけた小癪なベグゲギュスを叩くべく、射点に向かう。
ハンクが、海中のベグゲギュスめがけてヘッジホックを投射する。

やや間を置いて、ヘッジホッグが連続爆発し、海面に水柱が吹き上がった。
ハンクの見張り員は、水柱の1つに、ベグゲギュスらしき怪物の体の一部が舞い上がったのを見つけた。

「敵海洋生物1の撃沈を確認!」

顔を赤く染めていた見張り員は、ざまあ見ろと内心で思った。しかし、喜びもつかの間であった。
駆逐艦ハンクは、突如、至近距離からベグゲギュスに魔法魚雷を発射された。
攻撃してきたベグゲギュスは2頭で、発射距離は右舷から300メートルも離れていなかった。
ハンクは、急いで取り舵に転舵した。が、それがまずかった。
ハンクが回頭を終えたとき、1本目の魔法魚雷は艦の右側を掠めるようにして進んでいったが、2本目が艦尾に命中した。
この被雷によって、ハンクは瞬間的に速力が上がった。
光る魚雷が炸裂した瞬間、推進器は全て破壊され、舵機室にも大穴が開いて、大量の海水が侵入してきた。
推進器を失ったハンクは、みるみるうちに速力を衰えさせ、被雷から1分後には、艦尾を心持ち下げながら洋上に停止した。
ハンクの被雷によって、米駆逐艦の艦長達は顔を真っ赤に染め上げ、ベグゲギュスに対する攻撃をより苛烈な物にしていく。
だが、駆逐艦を攻撃したベグゲギュス達は、この時点で自分達の役割を果たした事を確信していた。
ベグゲギュスが1頭、また1頭と、ヘッジホッグや爆雷によって討ち取られている時、輪形陣の更に内側で異変が起こった。
重巡洋艦ロサンゼルスの艦長であるシア・ローランド大佐は、見張り員から入ってきた新たな報告に耳を疑った。

「何!?それは本当か!?」
「本当です!本艦の左舷後方に光る魚雷が見えます!」

ローランド艦長は、すぐさま艦橋の張り出し通路に出て確認する。そこには、確かに光る魚雷らしきものがあった。
艦の斜め後ろから、夜目にも鮮やかな色を放つそれは、ぎりぎりでロサンゼルスには向かっていない。
光る魚雷の向こう側には、ロサンゼルスの右舷200メートルを航行する正規空母のレンジャーⅡがいる。
5つの光る魚雷は、全てがレンジャーⅡに向かっていた。
この時、ローランド艦長の中で何かが閃いた。

彼のひらめきは、合理性を重視するアメリカ人にとって、ほぼあり得ぬ物であった。
一瞬、その危ない閃きに、ローランドは実行することを躊躇った。
ボルチモアには、1500人以上の乗員が乗っている。
艦長の一判断で、この大勢の“家族”を不用意な危険に晒す事は、断じて戒めるべき行為である。
だが・・・・・・・・
(空母1隻と重巡1隻・・・・・どちらの価値が大きいかは、一目瞭然!)

「前進微速!」

ローランド艦長は、迷いを打ち払って命令を発した。彼の命令に仰天した乗員達は、目を丸くして彼を見つめた。

「何をしているか!前進微速だ!!急げ!!!」

ローランドの大喝は、乗員の戸惑いを一瞬にして吹き飛ばしてしまった。
やや間を置いて、ロサンゼルスの機関音が小さくなり始めた。
18ノットのまま、定位置で航行を続けていれば、ロサンゼルスはぎりぎりで被雷を避けられた。
だが、ローランドが意図的に速度を落とさせた事で、ロサンゼルスは確実に被雷コースに乗ってしまった。
(本当に、これで良かったのだろうか?)
命令を発したローランド艦長は、内心で後悔し始めていた。自らの命令によって、彼は最新鋭のボルチモア級重巡1隻を、沈没の憂き目に遭わそうとしている。
だが、彼はこうも思っていた。
(こ れから始まる海戦では、空母は絶対に欠かせない兵器だ。マオンド軍との決戦が始まる今、我々は1隻でも多くの空母を必要としている。空母が1隻減れば、 TF72は100機の航空機を戦列から失うことになる。そうなれば・・・・航空部隊の優勢は敵に傾く事になり、万が一の事態が起こる可能性がある。そうな るよりは・・・・ここで重巡1隻を供しても、悔いはない。もし艦が沈むのならば、俺は運命を共にするだろう)
ローランド艦長は、そう思うことで後悔の念を和らげた。
5本の光る魚雷のうち、2本がロサンゼルスの艦尾を通り過ぎていった。

「魚雷2!艦尾を通過!残る3本、急速に接近しまぁーす!!」

見張り員が、緊張で声を上ずらせながら艦橋に報告してくる。
ローランドは、艦橋内部に戻らぬまま、張り出し通路で敵の魚雷が接近するのを見守っていた。
傍目には神々しく。そして、毒々しい色付きの光る魚雷が、ロサンゼルスの至近に迫っていた。

最初の1本は、ロサンゼルスの第3砲塔側のやや前の位置に突き刺さろうとしていた。
敵の魚雷が舷側の影に見えなくなる直前、別の見張り員から

「ウィスコンシンが減速しています!」

という知らせが入ってくるが、ローランド艦長の耳にははっきり聞こえなかった。

「何?」

彼は、もう1度聞き返そうとした時。ドーン!という轟音と共に、ロサンゼルスの艦体が激しく揺れ動いた。
基準排水量が14000トン以上はある大型艦が、後部に命中した魚雷に身悶えしている中、新たな一撃が中央部に加わった。
ズドォーン!という一際大きな爆発音が鳴り、ローランド艦長は衝撃に耐えきれず、仰向けに転倒してしまった。
軍艦としてはやや大振りな部類にはいるロサンゼルスは、2本の魚雷によって、初めて受ける痛みに号泣する赤子のように揺れ動き、
艦のあちこちでガラスの割れる音や何かが倒れて中身がぶちまけられる音、艦自体の軋み音が響き渡る。
ローランド艦長は、すぐに3度目の衝撃が来ると思い、打ち身に痛む体を丸くして衝撃に備えた。
衝撃はやってきた。だが、その感触はあまりにも小さく、意外にも、耳を聾するような轟音も聞こえなかった。

「?」

艦橋内の乗員達は、ローランド艦長も含めて、一様に狐に包まれたような表情を浮かべた。
彼らの疑問は、すぐ後に聞こえてきた見張りの報告によって、瞬時に氷解した。

「敵魚雷1!本艦に命中するも不発!」

その言葉を聞いた彼らは、一瞬、安堵した。ローランド艦長だけは安堵する暇もなく、すぐに艦内電話に飛び付いた。

「ウィスコンシンに魚雷命中!」

ローランド艦長は、続け様に知らされたその報告にハッとなった。

「ウィスコンシンが被雷?何故だ?」

彼は慌てて、右舷側に顔を向けた。
そこには、ウィスコンシンの巨体が、ロサンゼルスをレンジャーの間に挟まるようにしてあった。
その巨体の中央部に、2本の水柱が吹き上がっている。
水柱は、ウィスコンシンの艦橋の中ぐらい程まで立ち上がった後、ゆっくりと崩れ落ちた。

「・・・・ウィスコンシンの艦長も俺と同じ行動を起こしたのか。」

ローランド艦長は、眼前のウィスコンシンを見つめながらそう呟いた。
急に、艦内電話の呼び出しベルが鳴った。

「こちら艦長。」
「艦長、こちら左舷後部第4甲板です。敵の魚雷命中によって火災と浸水が発生しています。現在ダメコンチームが
対応を行っていますが、浸水が多いようです。」
「わかった。一刻も早く火災と浸水を止めてくれ。」

それから次々に、別の部署から被害報告が入った。被害報告を知らせる者には、艦長に対して憤りを含ませる言動をする者も居た。
被雷から10分後には、ロサンゼルスは速力を6ノットに落としていた。
「艦長、被害報告の集計が出ました。本艦は、被雷によって左舷後部と中央部に浸水と火災が発生しました。火災はすぐに鎮火
できましたが、浸水は尚も続いています。ですが、浸水もようやく収まる見込みです。被害は、後部機械室と後部両用砲弾庫、
並びに後部機関室に及んでいます。このうち、後部両用砲弾庫は誘爆防止のため注水しましたので、弾薬類は使えません。
後部機械室のほうは電気系統の損害が大きく、工廠に持って行って本格的な修理を受けさせねばならないでしょう。機関室の
ほうでも、缶室2基に損傷が及んでおり、本艦は24ノット以上の速力は出せない状態です。」
「それは、浸水も加えた状態かな?」

彼は、副長に質問する。

「いえ、浸水がなければ、です。今の状態ならば、18ノット出すのも厳しいでしょう。」

ローランド艦長はそう言ってから、とある事を思いだした。

「ウィスコンシンはどうなった?」
「はっ。ウィスコンシンは、本艦と同様、敵の魔法魚雷を2本受けていますが、若干の浸水はあるものの、速力、戦闘力に
支障なしとの事です。」

ローランド艦長は思わず苦笑した。

「流石は17インチ砲搭載の巨大戦艦だ。防御力が違う。」
「しかし・・・・・・」

副長が、何かを言おうとして口ごもる。

「どうした?続きを言えよ。」

ローランドは、さばさばとした口調で副長を促した。

「俺は何を言われても大丈夫だよ。」
「では・・・・艦長は、あえて危険を冒してまで、この艦をレンジャーの盾にしましたね?」
「ああ。そうだ。」

ローランドは即答した。

「乗員を危険に晒した俺は、艦長として失格だな。」
「まぁ、通常時であれば。ですが、艦長の判断は、このロサンゼルスにとっては最悪でしたが、戦略的には良い物と思います。
空母、特に正規空母は、これから起きるであろうマオンド機動部隊や基地航空隊の決戦にとって、貴重な船です。もし、レンジャーが
被雷し、沈没するか、脱落するかでもすれば、TF72は大幅に航空戦力を減らします。正規空母1隻と重巡1隻。価値は明らかに、
正規空母のほうが高いです。その事からして、私は艦長の判断が理解出来ると思います。」
「・・・・・そう言ってくれると、俺も助かるよ。」


「いずれにしろ、俺はロサンゼルスを取り上げられるかもしれんな。戦艦ならまだしも、水雷防御が、お世辞にも充分とはいえない
重巡で無謀な事をしでかしたんだからな。」

ローランド艦長はそう言いながら、視線を正面に移した。
ロサンゼルスの周囲には、4隻の駆逐艦が取り囲んでいる。そのやや前方には、先行したはずの機動部隊が速度を緩めて、
ロサンゼルスの5000メートル前方を航行している。
まるで、深傷を負った戦友が心配で、前に進めないと言っているかのようだ。
ベグゲギュスとの戦闘は終わったのだろう。海は、再び静かさを取り戻している。
ローランド艦長は、双眼鏡で1隻のエセックス級空母影を見つけた。
それがハンコックなのか、レンジャーなのかは判然としなかったが、彼はそれがレンジャーであると、不思議にも確信していた。

「このロサンゼルスとウィスコンシンが、身を挺してお前を守ったんだ。俺達は戦線を離脱するが、お前は傷付いた俺達の分まで、
思う存分に戦ってくれ。」

ローランド艦長は、遠く向こうの戦友に対してそう語りかけていた。


同日 午前6時40分 トハスタ沖南西150マイル地点

マオンド海軍第2艦隊は、鮮やかな朝日を浴びながらトハスタ沖を9リンルの速力で航行していた。
駆逐艦ドスノンク艦長であるラナウグ・ルロンギ中佐は、朝日に彩られた艦隊に見入っていた。

「なかなかに壮観な物だな。」

視線の向こうには、7隻の巡洋艦に護衛された2隻の戦艦がいる。
戦艦2隻は、旧式のマウニソラ級であるが、昨年の10月から今年の3月末に駆けて行われた改装によって、機関と対空兵装を大幅に強化している。
機関の改装によって、マウニソラ級はジャンガルーダ級とほぼ同じ速度を出せるようになった。

砲戦力が弱いのがネックだが、乗員の練度が高いため、頼りになるはずだ。
「艦長、そろそろ待機地点に近付きますな。」

ルロンギ艦長は、副長に声を掛けられた。

「そうだな。あと3時間ほど航行したら、我々は待機しなければならん。」

第2艦隊は、艦の数こそ多い物の、竜母は伴っていないため、機動部隊を追い抜いて進撃することはできない。
機動部隊と基地航空隊のワイバーンが、敵の高速機動部隊を撃破したあとに、第2艦隊は全艦をあげて、機動部隊から派遣される
増援を含めてからモンメロ泊地に突入する。
しかし、泊地に突入するまでは、トハスタ沖とスメルヌ沖の中間地点で待機しなければならない。
作戦が成功するか否かは、機動部隊と基地航空隊の活躍に掛かっていた。

「出番は、まだまだ後だ。今のうちにゆっくり骨休めをするといいさ。」

ルロンギの気の利いた冗談に、副長は微笑んだ。副長は、昨晩から当直に付いており、あまり眠っていなかった。
ルロンギは疲労を滲ませる副長に対して、暗に休んで良いぞと言ったのである。

「そうですな。では艦長、自分はしばらく休憩にはいるとします。」
「ああ。自艦はたっぷりある。ゆっくりしてくれ。」

ルロンギがそう言った、まさにその時。輪形陣の反対側から思いがけぬ物音が聞こえた。
ドーンという何かが爆発したような音が響く。
ハッとなったルロンギ艦長は、咄嗟に反対側・・・・・輪形陣の左側に顔を向けた。
輪形陣の向こう側は、戦艦や巡洋艦群に視界が阻まれているが、彼は微かに、その向こう側で立ち上る真っ白な物を見つけた。

10秒ほど間を置いてから、魔導士が伝声管で知らせてきた。

「何、敵の潜水艦だと?」
「はい!輪形陣右側の駆逐艦が2隻被雷しました!うち1隻は停止して今にも沈みつつあるようです!」

ルロンギ艦長は、その報告を聞いてしばし思考を巡らせる。
(いつもは、慎重に行動するはずのアメリカ潜水艦が、こんな大艦隊に対して大胆な行動を起こしてくるとは・・・・・敵艦の艦長は功に焦ったか?)
彼はそう結論づけようとしたが、どうも腑に落ちなかった。

「敵潜水艦の数はどれぐらいだ?」

ルロンギは、伝声管の向こうの魔導士に問いかけた。

「はっ。正確な数は分かりませんが、4、5隻ほどの駆逐艦が一斉に回頭しましたから、恐らく3、4隻ほどの潜水艦が居るはずです。」
「3、4隻か。偉く強気に出てきた物だな。」

彼はそう言いつつも、内心では何故か胸騒ぎがしていた。
新たに、味方艦1隻が魚雷を受けたという報告が入り、味方の駆逐隊が予想外に手こずっている事が分かった。

「駆逐隊司令より通信。ドスノンクは、僚艦2隻を率いて輪形陣左側の駆逐隊を支援せよ。です。」
「支援せよか・・・・分かった。了解と返信せよ。」

ルロンギは、魔導士にそう命じた直後、脳裏で何かが繋がったような気がした。
(・・・・まさか・・・・)
顔色を変えたルロンギは、すぐに伝声管に飛び付いて、先ほどの魔導士を呼び出した。

「はっ、何でしょうか艦長?」
「司令に駆逐艦を向かわせてはならんと伝えるのだ!」
「か・・・艦長、それは坑命では?」

彼が、自分の考えを言う前に、僚艦2隻は早速、輪形陣左側の駆逐隊の支援に向かい始める。
ルロンギの駆逐隊のみならず、別の駆逐隊でも駆逐艦が応援に向かい始めていた。
(やばいぞ!ここに敵潜水艦が居たら、防備の薄くなった右側は)
ルロンギは焦る気持ちを抑えながら、自らの考えを言おうとしたとき、

「右舷500グレルに潜望鏡!」
「生命反応探知装置に反応!」

いきなり報告が舞い込んできた。その瞬間、ルロンギはしまったと思った。
駆逐艦群の左側500グレルには、巡洋艦が航行している。その更に400グレル内側には、戦艦群がいる。
ここで魚雷を撃ち込まれれば、駆逐艦や巡洋艦のみならず、戦艦にも魚雷が及ぶ可能性がある。
そうなると、アメリカ潜水艦は、戦艦撃沈という大戦果を挙げることになる。
そして、それは、護衛の駆逐艦が薄くなったこの海域で、実現可能な状態になっていた。

「あっ!魚雷らしき物が発射されました!」
「数は!?」
「4・・・いや、8。いや・・・・・・30以上!」

ルロンギ艦長は、目を見開いて、右舷から輪形陣にしたい寄る多数の航跡を凝視した。
敵の魚雷は20リンル以上の高速で、ドスノンクの前方を通り過ぎようとする。
輪形陣内部では、警報が発せられ、各艦が一斉に回頭しようとしている。
ドスノンクから前方400グレルの位置を航行していた駆逐隊旗艦がすぐに回頭をし始めたが、艦首を右に向けるまでに、
まず艦尾に魚雷を受ける。

一瞬、旗艦の艦尾が海面から持ち上げられた。
その次の瞬間には、新たな魚雷が右舷中央部に命中していた。2本目の水柱が吹き上がった直後、旗艦は大爆発を起こした。
真っ赤な炎が艦の中央部から吹き上がり、夥しい破片が空高く舞い上がった。


見張りが、興奮と緊張で上ずった叫び声を上げる。
それからしばらくすると、今度は輪形陣の内部で水柱が上がった。被雷したのは、対空巡洋艦のベアトであった。
ベアトは、元々は偽竜母であったが、緊急の改装を受けて、両用砲10門、魔導銃52丁を搭載した対空巡洋艦に生まれ変わった。
だが、防御は通常の巡洋艦と比べても薄い方であり、魚雷1発が命中しても大破は確実と言われたほどである。
そのあたってはまずい魚雷が、ベアトの薄い艦腹に3本も突き込まれた。
Mk-14魚雷は、ベアトの艦内奥深くに突き刺さって炸裂し、彼女の脆弱な内部を散々に食い荒らした。
被雷から2分後には、ベアトは右舷側に大傾斜しながら這うようなスピードで航行していた。
被害は、それだけに収まらなかった。

「あっ!マウニソラがっ!」

ルロンギは、見張りの報告を聞かずとも分かっていた。
彼は、望遠鏡の視界の端で、マウニソラの舷側に2本の水柱が立ち上がったのを見ていた。

「くそ・・・・戦艦までもが・・・・・!」

ルロンギは、怒りに震えた口調で小さく呟いた。眼前のマウニソラは、次第に速度を落とし始めている。
流石は戦艦だけあって、駆逐艦や巡洋艦のようにすぐに傾斜するというわけでもないが、2つの被雷箇所のうち、
1箇所から黒煙を噴き上げている。
火災が発生したのであろう。
(いかに戦艦といえど、マウニソラは旧式だ。魚雷を2本も食らっては、航行は出来るとしても、速力は大幅に
落ちるだろう。戦線離脱は確実だろうな)
彼は内心でそう思った。これで、第2艦隊が使える戦艦は3隻に減った事になる。

「敵潜水艦を追い詰めるぞ!」

ルロンギ艦長は、気持ちを切り替えて潜水艦狩りを行うことにした。敵潜水艦が近くにいることは、生命反応探知装置の反応を見れば分かる。
ルロンギの新しい乗艦ドスノンクは、敵潜水艦を攻撃するべく、行動を起こし始めた。


午前8時20分 第7艦隊旗艦オレゴンシティ

「期せずして、互いの水中部隊が戦果を競い合う結果となったか。」

第7艦隊司令長官であるオーブリー・フィッチ大将は、今しがた送られてきた電文を見るなり、そう言い放った。
第8艦隊司令部は、TG84.1が敵の戦艦部隊を雷撃し、損害を与えたことを伝えてきた。
第7艦隊は、今日の未明にTG72.3がベグゲギュスの攻撃を受け、駆逐艦ボリー沈没、駆逐艦ハンクとゲイナードが大破、
重巡ロサンゼルスが中破、戦艦ウィスコンシンが小破するという被害を受けた。
大中破したハンク、ゲイナード、ロサンゼルスは後退が決まり、撃沈されたボリーの乗員を救助した駆逐艦ロックスとアーベンは、
補給船団に混じっている病院船に救助した乗組員を移すため、しばらくは艦隊から離れることになる。
TG72.3は、思いがけぬ攻撃によって護衛艦に無視できぬ損害を被ったが、不幸中の幸いで、正規空母や軽空母に損害は無かった。
それから数時間後、TG72.3が受けた屈辱を晴らすような戦果が艦隊司令部に舞い込んできた。
トハスタ沖南西150マイル地点を哨戒していたTG84.1が、周囲の潜水艦を掻き集めて、前進してくる戦艦部隊に待ち伏せ攻撃を仕掛けた。
TG84.1は、敵の反撃で1隻を撃沈されたが、戦果は敵駆逐艦2隻、巡洋艦1隻撃沈確実。敵駆逐艦3隻、戦艦1隻を大破させ、きっちりとお返しをした。
特に、敵の貴重な戦力である戦艦を1隻脱落させた事は大きく、敵戦艦部隊は砲戦力を低下させたことになった。

「最初の前哨戦は、我々が多くポイントを取った事で勝てましたな。」

バイター少将がフィッチに言う。だが、フィッチは、バイターほど楽観した気分を抱いていない。

「確かに勝ったが・・・・護衛戦力の少なくなったTG72.3は、航空攻撃を受けたらちときついぞ。」
「特に、ピケット艦として使える艦が少なくなったのが痛いですな。」

作戦参謀のコナン・ウェリントン中佐が顔を曇らせながら言う。

「各TGの駆逐艦の定数は、16隻から24隻に変更しているので、対応は可能であると思いますが・・・・それでも、
使える艦が減少した事で、遠距離哨戒能力や対空戦闘能力の低下は避けられません。」
「ふむ、作戦参謀の言うとおりだな。今では、猫の手でも借りたい状況なのだが・・・・しかし、主力である空母は、
1隻も欠けなかったのだから、まぁ良しとするしかないだろう。あれこれ贅沢言っては罰が当たるぞ。」

フィッチの最後の言葉に、司令部要員達は失笑した。

「ロサンゼルスやウィスコンシンの献身的行動がなければ、TG72.3は空母を1隻欠いた状態で戦わねばならなかったでしょう。」
「うむ、あれには私も驚いたな。」

フィッチは、報告でTG72.3の重巡ロサンゼルスと戦艦ウィスコンシンが取った行動を知らされている。
この2艦は、レンジャーに向かっていた魚雷を、身を挺して受け止めてくれた。
大型戦艦であるウィスコンシンは軽微な損害で済んだが、ロサンゼルスは中破の損害を受けて後退を余儀なくされている。

「合衆国海軍にも、変わった奴はいるのだなと、私は思ったな。何はともあれ、我々は、決戦の開始までに9隻の空母を揃えることが出来た。
敵マオンド艦隊も、トハスタの北西まで北上してきている。戦機は熟した。諸君、あとは、力の限り戦うまでだ。」

フィッチの力強い言葉を聞いた司令部要員達は、皆が一様に頷いた。

後に、歴史に名高い海戦の1つとなるモンメロ沖海戦は、こうして幕を開けることとなった。

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393 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2008/12/05(金) 12:35:25 ID:5x/ol6rU0
SS投下終了です。

投下中に1つだけ抜けが生じてしまいました。
>>384と>>385の会話がまったく合っていませんが、間にはこれが入る予定でした。

副長の答えに、ローランド艦長は顔をしかめた。

「戦線離脱は確実だな。」


この場をお借りして訂正いたします。申し訳ございませんでしたm( __ __ )m
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