自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

195 第151話 17インチ咆哮

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第151話 17インチ咆哮

1484年(1944年)6月26日 午後10時 モンメロ沖南西81マイル地点

第72任務部隊から分派され、臨時に編成された第72任務部隊第4群が敵艦隊をレーダー上に捉えたのは、
午後10時を10分ほど回ってからの事であった。

「司令官、敵艦隊は北東方面、モンメロ沖に向かっているようです。」

TG72.4旗艦である戦艦プリンス・オブ・ウェールズの艦橋内では、司令官のジェイムス・サマービル中将が
参謀長のバイター少将から説明を受けていた。

「敵艦隊と我が艦隊の距離は約20マイルで、速力は約28ノットほどです。」
「マオンド艦隊は、ちょうど、我が艦隊の南側を突き進んでいるという事になるな。」

サマービルは、脳裏に彼我の位置を思い浮かべながら、バイターに向けてそう言った。
現在、TG72.4はやや北西側に向かうように航行している。それに対して、敵艦隊は北東方面に向かいつつある。
要するに、TG72.4は敵艦隊の針路を塞ぐ形となっているのだ。
このままで行くと、TG72.4は近いうちに、敵艦隊との戦闘に突入する。
ちなみに、TG72.4の戦力は戦艦ウィスコンシン、ミズーリ、プリンス・オブ・ウェールズ、巡洋戦艦レナウン、
コンスティチューション、トライデント、重巡洋艦ドーセットシャー、カンバーランド、軽巡洋艦ケニア、ナイジェリア、
ダラス、マイアミ、フレモント、駆逐艦18隻で編成されている。
TG72.4の戦力は、殆どが無傷であったTG72.1から抽出されている。
残りの空母群は、昼間の戦闘で艦艇に喪失艦や損傷艦が出た他、空母群の護衛に従事しなければならないため、今回の
戦闘には少数のみが、TG72.4に加わった。
TG72.4の任務は、戦艦、巡洋戦艦6隻、巡洋艦7隻、駆逐艦18隻でもって、敵機動部隊から分派された打撃部隊を
撃退する事である。

「敵艦隊との距離、更に縮まります。距離は19マイル!」
「19マイルか。昼間の戦闘なら、いつ戦闘が始まってもおかしくないな。」

サマービルは事も無げに呟いた。彼我の距離は、30キロを切ろうとしている。
30キロという距離は、プリンス・オブ・ウェールズの前方を行く2隻のアイオワ級戦艦の射程内であり、
プリンス・オブ・ウェールズ自身も、敵を砲の射程内に捉えている。
しかし、夜間の戦闘では、いくらレーダーを装備しているとはいえ、相手が見えにくいため、遠距離から撃っても外れ弾が
多くなる。
サマービルは、25000メートルを切ってから砲戦を開始しようと考えていた。

「敵艦隊は4つの単縦陣を形成しています。そのうちの1つは戦艦群です。」

CICから報告が伝えられる。

「何隻だ?」

バイター少将が聞き返した。

「4隻です。」
「4隻か・・・・・こちらは6隻。数では勝っているな。」
「敵の戦艦は4隻かね?」

サマービルが冷静な口調でバイター少将に尋ねる。

「はい。敵戦艦は計4隻。恐らく、全てが昨年に就役したばかりの新鋭戦艦でしょう。」
「ふむ、強力な手駒を用意したか。」

サマービルは、どこか納得したような口ぶりで呟いた。
敵艦隊の戦艦は、速力からしてマオンド軍自慢の新鋭戦艦であり、主砲の口径は15インチから16インチの中間辺り
であると伝えられている。
スパイからの情報では、主砲の門数は計8門で、これまでの戦艦と同じように、前部と後部に2基ずつ搭載されているという。
性能的には、ノースカロライナ級やサウスダコタ級といった新鋭戦艦に近いであろう。
マオンド艦隊は、護衛に付いていた全ての新鋭戦艦を投入してきた訳だが、TG72.4もまた、機動部隊の護衛に付いていた
全ての戦艦を戦列に加えている。
TG72.4の戦艦は6隻中、2隻が最新鋭のアイオワ級戦艦である。
アイオワ級戦艦は新式の48口径17インチ砲を搭載し、防御力もこれまでの新鋭戦艦と違って強力である。
それに加え、プリンス・オブ・ウェールズは14インチ砲搭載艦ながらも実戦経験豊富な艦であり、搭載砲も50口径長砲身砲である。
残る3隻の巡洋戦艦も、新式の55口径14インチ砲を搭載した巡洋戦艦であり、砲戦力を見れば、実質的には新鋭戦艦にも劣らぬ
性能を有している。
(敵も手強いかもしれないが、こっちも強力な戦力を引き連れている。油断は出来ないだろが、決して勝てぬ相手ではないぞ。)
サマービルは、胸中でそう呟いた。

「敵艦隊の一部が突出し始めました!突出したと思われるのは、巡洋艦と駆逐艦部隊です!」
「ふむ、まずは巡洋艦部隊と駆逐艦部隊を突出させたか。」

サマービルは腕組みをした状態でその報告を聞き、抑揚の無い口ぶりで言った。

「こちらも巡洋艦群と駆逐艦群を敵に向かわせよう。我々は、敵の新鋭戦艦に向かおう。どちらの新鋭艦が強いか、
ハッキリさせてやろうじゃないか。」

米巡洋艦部隊は、午後10時20分に敵巡洋艦部隊との交戦を開始した。
この時点で、駆逐艦部隊はマオンド側の駆逐艦群との戦闘に突入している。
巡洋艦部隊の旗艦である重巡洋艦のドーセットシャーの艦橋では、司令官であるハーウッド少将が、左舷に並行するように
して航行する敵の巡洋艦群が、発砲を開始する様子を見つめていた。
この時、ハーウッド戦隊と敵巡洋艦部隊との距離は、約16000メートルである。

「敵巡洋艦部隊、発砲を開始!」

CICから緊迫した声音で報告が送られてくる。
米巡洋艦部隊の上空には、赤紫色の照明弾が輝いており、その光がドーセットシャー以下の巡洋艦部隊を照らし出していた。

「撃ち方始め!」

ハーウッド少将が号令を発する。それを機に、ドーセットシャーを始めとする巡洋艦群が一斉に砲撃を行った。
ドーセットシャーは、敵1番艦を目標に定めていた。その1番艦目掛けて8門中、4門の8インチ砲が火を噴く。
第1射を放った直後に、敵弾が落下してくる。
敵弾は、ドーセットシャーの視界を塞ぐかのように、左舷側に連続して着弾した。
弾はいずれも、ドーセットシャーの左舷側から300メートルほど離れた位置に落ちていた。

「ほう・・・・これは珍しい。」

ハーウッドは、立ち上がった水柱を見るなり、神妙な顔つきで呟いた。
ドーセットシャーの左舷側に上がった水柱は、合計で3本である。
いつもなら、最初から斉射で飛ばしてくるマオンド巡洋艦の砲撃にしては、異様に少ないように感じられる。
水柱が晴れるなり、マオンド巡洋艦が新たに砲撃を行う。
敵弾が落下する前に、ドーセットシャーの射弾が敵艦を飛び越え、左舷側に水柱が立ち上がった。
ドーセットシャーが第2射を放った直後に、敵巡洋艦の射弾が降ってくる。

今度は右舷側に水柱が吹き上がる。水柱の数は3本のみだ。

「やはり。敵さんは交互に砲撃を行っているな。」

ハーウッド少将はそう確信した。
通常の射撃の場合、各砲塔1門ずつで砲撃を行う交互撃ち方というやり方で砲を撃つ。
マオンド側は、その手順を踏まえないで、初っ端から斉射で押そうとする傾向が毎回見られた。
しかし、今回に限っては、マオンド側は珍しく交互撃ち方で砲撃を行っている。
最初から斉射で飛ばすとなると、命中弾が出始めれば良い結果が出るが、精度が悪ければ、良くなるまでの間に
無駄弾を大量に消費するだけとなる。
それを防ぐために、マオンド側もまずは交互撃ち方、精度が良くなれば斉射、というやり方を採用したのであろう。
(敵も勉強しとるな)
ハーウッドは、敵に対してそんな感想を抱いた。
ドーセットシャーの射弾が敵巡洋艦の右舷側に落下した。
双方は、そのままの調子でしばし空振りを繰り返した後、ドーセットシャーの第7射が敵巡洋艦に命中した。
その瞬間、敵1番艦のシルエットが一瞬ながら、ハッキリと見えた。
艦橋はこれまでの巡洋艦と違ってやや背が高く、後部にも小さめの艦橋がある。前部には2基、後部には1基の主砲塔がある。
中央部の辺りは煙突がないため、すっきりしているように見えるが、その下の辺りにはごつごつとした突起が見られる。
突起の中には細長い棒のような物が見られる事から、高角砲等の対空火器が配備されているのかもしれない。
ハーウッドは、その艦影がとある巡洋艦に似ている事に気が付いた。

「敵1番艦に命中弾!」

見張りの声が聞こえ、艦橋内では微かにやった!という喜びの声が上がる。
それとは裏腹に、ハーウッドは冷静な気持ちで敵1番艦に見入っていた。

「敵の巡洋艦はマオンド側の新鋭艦か。形からしてシュペーに似ているな。」

「シュペーといいますと、ポケット戦艦のグラーフ・シュペーですか?」

ペアリー艦長が怪訝な表情を浮かべてハーウッドに聞いた。

「そうだ。あのグラーフ・シュペーだ。」

ハーウッドは敵1番艦を見据えながら艦長に答えた。
ハーウッドは、第2次大戦が開戦してまだ初期にあたる1939年12月13日に、当時、南大西洋で暴れ回って
いたドイツ海軍のポケット戦艦であるアドミラル・グラーフ・シュペーを捕捉し、戦闘に入った。
この時、ハーウッドは英海軍准将として重巡洋艦エクゼター、軽巡洋艦エイジャックス、アキリーズから成る
G部隊を指揮していた。
この戦闘で、ハーウッドの乗っていたエクザターは、11インチ砲弾を受けて大破してしまい、僚艦エイジャックスも
中破したが、逆にグラーフ・シュペーにも多数の命中弾を与えて大破させた。
満身創痍となったグラーフ・シュペーは、ウルグアイのモンテビデオ港に逃げ込んだが、最後はウルグアイ政府によって
退去を命じられ、大破状態のままで港外に出港した後、自沈した。
グラーフ・シュペーを結果的に自沈の憂き目に陥らせたハーウッドだが、彼は、あの海戦の事を今でもはっきり覚えている。
その因縁深い船と似たような艦影を持つ敵艦が、彼の旗艦ドーセットシャーや僚艦を砲撃している。
(俺は絶対に、僚艦を沈めさせんぞ!)
ハーウッドは内心で決意しながら、暗闇の向こうの敵1番艦を睨み付けた。
ドーセットシャーが、今日初めて斉射を放った。
8門の8インチ砲が一斉に撃ち放たれる時の衝撃は、やはり凄まじい物がある。
それと同時に、敵1番艦が砲を撃つ。
しばらく立つと、敵1番艦の周囲に水柱が吹き上がり、その中に命中弾と思しき閃光が煌めいた。

「よし。いいぞ、その調子だ!」

ピアリー艦長が良好な射撃精度に表情を緩ませる。その直後、敵弾が落下してきた。
唐突にガーン!という何かがぶつかるような音と衝撃がドーセットシャーを揺さぶった。
同時に、ドーセットシャーの右舷側に水柱が吹き上がる。

「左舷第2両用砲座に命中!両用砲は全壊の模様!」

すぐに、ダメコン班から連絡が入る。それを聞いたピアリー艦長は、複雑な表情を浮かべた。

「どうした?」
「司令、敵弾は本艦の左舷側の両用砲を破壊したようです。ちなみに、破壊された両用砲があった場所は、以前、
魚雷発射管が置かれていた場所です。」

ドーセットシャーは、1943年7月から44年1月にかけて改装を施されている。
改装のさい、ドーセットシャーの水雷科は魚雷発射管の撤去に反対の意を示していた。
これはドーセットシャー以外の巡洋艦も同様であり、各巡洋艦の艦長、または水雷長がこぞって魚雷発射官の撤去に反対した。
しかし、これからは機動部隊の一員として活動するため、魚雷発射官を積むよりは対空火器を多く積んだ方が良いとの意見に
押し切られ、ドーセットシャーを始めとする4巡洋艦の魚雷発射管は取り外されることとなった。
この改装によって、ドーセットシャー、カンバーランドは5インチ単装両用砲10門、40ミリ連装機銃10基、20ミリ機銃28丁を、
ケニア、ナイジェリアは5インチ両用砲8門、40ミリ連装機銃8基、20ミリ機銃24丁を搭載した。
また、機関系統や防御面でも改装が行われ、懸念されていた対弾性もいくらかはマシな状態になった。
その後、ドーセットシャー以下の巡洋艦群は、新参のアトランタ級軽巡フレモントと共に味方機動部隊の上空援護を行い、
少なからぬ数のワイバーンを撃墜している。
第2次スィンク沖海戦のあと、ハーウッド少将はドーセットシャーが活躍できたのは改装のお陰だと、艦長に漏らしていた。
そして、今回もまた、それと同じ言葉を艦長に漏らした。

「改装のお陰だな。」

ハーウッドの言葉に、ピアリー艦長は深く頷いた。

ピアリー艦長が良好な射撃精度に表情を緩ませる。その直後、敵弾が落下してきた。
唐突にガーン!という何かがぶつかるような音と衝撃がドーセットシャーを揺さぶった。
同時に、ドーセットシャーの右舷側に水柱が吹き上がる。

「左舷第2両用砲座に命中!両用砲は全壊の模様!」

すぐに、ダメコン班から連絡が入る。それを聞いたピアリー艦長は、複雑な表情を浮かべた。

「どうした?」
「司令、敵弾は本艦の左舷側の両用砲を破壊したようです。ちなみに、破壊された両用砲があった場所は、以前、
魚雷発射管が置かれていた場所です。」

ドーセットシャーは、1943年7月から44年1月にかけて改装を施されている。
改装のさい、ドーセットシャーの水雷科は魚雷発射管の撤去に反対の意を示していた。
これはドーセットシャー以外の巡洋艦も同様であり、各巡洋艦の艦長、または水雷長がこぞって魚雷発射官の撤去に反対した。
しかし、これからは機動部隊の一員として活動するため、魚雷発射官を積むよりは対空火器を多く積んだ方が良いとの意見に
押し切られ、ドーセットシャーを始めとする4巡洋艦の魚雷発射管は取り外されることとなった。
この改装によって、ドーセットシャー、カンバーランドは5インチ単装両用砲10門、40ミリ連装機銃10基、20ミリ機銃28丁を、
ケニア、ナイジェリアは5インチ両用砲8門、40ミリ連装機銃8基、20ミリ機銃24丁を搭載した。
また、機関系統や防御面でも改装が行われ、懸念されていた対弾性もいくらかはマシな状態になった。
その後、ドーセットシャー以下の巡洋艦群は、新参のアトランタ級軽巡フレモントと共に味方機動部隊の上空援護を行い、
少なからぬ数のワイバーンを撃墜している。
第2次スィンク沖海戦のあと、ハーウッド少将はドーセットシャーが活躍できたのは改装のお陰だと、艦長に漏らしていた。
そして、今回もまた、それと同じ言葉を艦長に漏らした。

「改装のお陰だな。」

ハーウッドの言葉に、ピアリー艦長は深く頷いた。

もし、魚雷発射官を装備したままであれば、ドーセットシャーは今の被弾で魚雷発射官の誘爆を引き起こしていたであろう。
米海軍の艦載魚雷は、以前とは違って威力が向上している新式のMk-17魚雷が標準となっており、ドーセットシャーも
それを搭載していたであろう。
そこに敵弾が命中していれば、ドーセットシャーは今頃、ジャックナイフとなって敵艦の乗員達を喜ばせていたに違いない。

「魚雷発射官を下ろしていなければ、今頃は酷い有様になっていただろう。危うく、敵に重巡1隻撃沈の戦果を進呈するところだったな。」
「運と不運は紙一重、という奴ですな。」

ピアリー艦長は苦笑しながら、ハーウッドに言った。
ドーセットシャーは第2斉射を放った。
8門の砲から放たれた8インチ砲弾が上空で弧を描き、そのまま16000メートル離れた先にいる敵1番艦に向かっていく。
敵1番艦が、再び水柱に覆い隠される。
敵巡洋艦の右舷側に4本の水柱が吹き上がり、前部に爆炎が踊るのが見えた。

「敵1番艦に2弾命中!敵艦は火災発生の模様!」

見張りからの報告を聞いたハーウッドは、ドーセットシャーが敵1番艦に対して優位に立っていることを確信した。

「この調子で行けば、早めに敵巡洋艦を沈黙させられるだろうな。」

ハーウッドはやや楽観した口ぶりで呟いた。そうなるかとばかりに、敵巡洋艦も砲撃を放ってきた。
今度の射撃は、先の射撃と比べて光量が大きい。
(敵も斉射に移ったな)
ハーウッドは、敵巡洋艦が次の射撃ステップに進んだ事を確認した。
敵の第1斉射弾が落下してきた。ドーセットシャーの艦体が新たな命中弾によって軋みを上げ、至近弾が艦腹を揺さぶった。

「左舷3番両用砲並びに20ミリ機銃2丁損傷!」
「左舷中央部第2甲板で火災が発生しています!」

被害報告が次々に届けられてくる。ピアリー艦長は、それに対して対処を促す。
ドーセットシャーが第3斉射を放った。やや間を置いて、8発の8インチ砲弾が敵1番艦に降り注ぐ。
今度は3発が敵1番艦に命中した。命中弾のうち1発は前部甲板に突き刺さるのが分かった。

「カンバーランド被弾!火災が発生しています!」

後部の見張りが、僚艦の実情を知らせてくる。カンバーランドも敵2番艦を相手取っているが、こちらはドーセットシャーより
被弾数が多く、前部甲板と後部甲板で火災が発生している。
砲塔を始めとする主要部は無事であり、今も反撃の斉射を敵2番艦に対して放っている。
現在、ハーウッド戦隊は8隻で敵巡洋艦6隻と戦闘を行っている。
旗艦であるドーセットシャーは敵1番艦、カンバーランドは敵2番艦、ケニアは敵3番艦、ナイジェリアは敵4番艦、
ダラスは敵5番艦、マイアミ、フレモントは敵6番艦と戦っている。
数は8隻に対して、敵は6隻であるからアメリカ側が有利に戦闘を進められる筈なのだが、敵巡洋艦部隊にも新鋭艦が中心で
あるせいなのか、なかなか思うように戦闘は進まない。
ドーセットシャーが第4斉射を放つと同時に、敵1番艦も第3斉射を放つ。
しばらく経つと、双方に砲弾が降り注いできた。
ドーセットシャーは3発、敵1番艦は4発が命中した。
砲弾が命中した瞬間、ハーウッドは艦橋の前面がピカッと白く光るのを見た。
その直後、強烈な炸裂音が響き、艦橋が大きく揺れ動いた。
ハーウッドはその強烈な揺れに転倒しそうになったが、寸手の所で耐えた。
(もしや・・・・・)
ハーウッドは、ドーセットシャーが今の被弾で重要な部位を破壊されたのではないかと思った。
彼の懸念は当たっていた。

「第2砲塔に命中弾!砲塔損傷!」
「後部甲板に火災が発生!応援を寄越して下さい!」

その報告を聞いたハーウッドは、一瞬ながら顔色が変わった。

「畜生、上手い具合に砲塔を潰しやがったな。」

ハーウッドは、後ろでピアリー艦長が悔しげに呟くのを聞いた。ハーウッドは何も言わぬまま、敵1番艦に視線を移す。
敵1番艦は、これまでの命中弾によって中央部と前部に火災を発生していた。
ハーウッドは、その前部部分の火災が先と比べて大きくなっている事に気が付いた。

「前部の火災がやけに大きいぞ。こりゃ、敵の砲塔のうち、1基ほどは潰したかもしれんな。」

ハーウッドは、敵も何らかの深傷を負っているだろうと思った。
ドーセットシャーが第5斉射を放った。それから1秒ほど遅れて、敵1番艦も斉射を放った。
しかし、敵1番艦の発する発砲炎が、先の物と比べて明らかに小さかった。

「敵さんは、前部の使える砲塔を失ったようだな。」

ピアリー艦長が、微妙に声を弾ませながら言った。
ドーセットシャーの第5斉射弾が、1発が第1砲塔に、もう1発が第1砲塔と第2砲塔の中間付近に命中した。
この命中弾によって砲塔の側面はズタズタに引き裂かれた他、砲の旋回盤が歪んで旋回不能となってしまった。
それに加え、第1砲塔に命中した8インチ砲弾は砲塔自体も破壊して大火災を発生させた。
これによって、敵1番艦は砲戦力の6割を失う事となった。
敵1番艦に新たな斉射弾が落下してきた。これまでの被弾で散々痛め付けられた艦体に、新たな命中弾が突き刺さる。
その一方で、敵1番艦の放った斉射弾もドーセットシャーを捕らえていた。
いきなり強い衝撃が艦に伝わる。

「CICより報告!水上レーダーがブラックアウト!」

「な、何!?」

ピアリー艦長はその報告に初めて、驚いた表情を浮かべた。

「それは本当か!?」
「はい。恐らく、先の被弾でレーダーが損傷したかと思われます。」

敵1番艦の射弾は、1発が艦橋からやや左斜め後ろの左舷側甲板に命中した。この命中弾は1番両用砲を粉砕したあと、
断片が周囲に撒き散らされ、その一部がSGレーダーに突き刺さった。
これによってドーセットシャーはレーダー射撃が不可能となってしまった。

「光学照準射撃に切り替える。」

ピアリー艦長は躊躇うことなく、別の方法で敵艦を砲撃する事に決めた。光学照準射撃とも成れば、射撃精度は一旦落ちてしまう。
しかし、敵1番艦は既に20発近い砲弾を浴びて火災を起こしており、その姿は肉眼でも捉えることができる。
ドーセットシャーが測的を行っている間、敵1番艦が砲弾を放ってきた。
敵1番艦は2度斉射を行った。ドーセットシャーは新たに2発の命中弾を受けた。
1発は前部甲板に突き刺さった。
敵の砲弾は最上甲板を突き破って第2甲板の錨鎖庫で炸裂し、錨と細切れにされた鎖を海中に叩き込んだ。
2発目は後部艦橋の左横に命中して新たな火災を引き起こした。

「測的完了です!」

ドーセットシャーの砲術長がピアリー艦長に報告した。

「よし、砲撃を再開しろ!斉射で構わん!」

ピアリー艦長は、砲術長に命じた。

普通なら交互撃ち方で弾道を調整してから斉射に移るのだが、敵が反撃を行っている今、そのような余裕はない。
残り6門の8インチ砲が一斉に撃ち放たれた。敵1番艦が斉射を放った直後に、6発の8インチ砲弾が降り注ぐ。
6発中、2発が敵1番艦を捉えた。

「いいぞ砲術!初弾命中とは、幸先が良い!」

ピアリー艦長は、この好成績に表情を緩ませた。
(まだ喜ぶのは早いぞ)
ハーウッドは、艦長とは対照的な気持ちでそう思った。敵1番艦の砲弾が降ってきた。
敵艦の砲弾は、2発がドーセットシャーに命中した。
いきなりグァーン!という聞き慣れない轟音が鳴り、艦橋のスリットガラスがバリバリと、音立てて砕け散った。
ハーウッドは飛び散った破片から顔を守るべく、顔を右腕で覆った。
敵弾は、ドーセットシャーの艦橋の左脇と、左舷側中央部に命中していた。
艦橋の左脇に命中した砲弾は、炸裂によって甲板表面の板材を吹き飛ばし、破片と爆風が艦橋のスリットガラスを叩き割った。
中央部に命中した砲弾は4番両用砲と40ミリ機銃座を破壊し、そこにも新たな火災を発生させる。
ドーセットシャーが怒ったかのように新たな斉射弾を叩き付ける。やや間を置いて、敵1番艦の艦上で閃光が煌めいた。
その後、右舷側に立ち上がった水柱によって敵1番艦の姿が覆い隠された。
水柱が晴れた後、敵1番艦の姿に変化が生じていた。

「砲弾は、艦橋にも突き刺さったようだな。」

よく見ると、先ほどまであったその高い艦橋の上部が傾いており、一部が欠損している。
傾いた艦橋からはちろちろとオレンジ色の炎が這い出し、それは徐々に拡大しつつある。
グラーフ・シュペーに似た敵艦の艦橋は、今では傷だらけの醜いオブジェに変化していた。
既に満身創痍となった感のある敵1番艦だが、それでも残った後部主砲塔から砲撃を放ってきた。

「艦長、とどめを刺せ。」

ハーウッドは、冷徹な声音でピアリー艦長に命じた。
その直後、敵弾が落下してきたが、敵の主砲弾はドーセットシャーを飛び越え、右舷側800メートルの海面で
無為に水柱を上げるのみに終わった。
ドーセットシャーが更に2斉射ほど叩き込むと、敵1番艦は完全に沈黙した。
8インチ砲弾は敵の機関部にも損傷を与えたのであろう、敵1番艦は艦体のあちこちに火災炎を吹き上げながら、
急激に速度を落としていった。

「ふぅ、敵1番艦は意外としぶとい」

ハーウッドは最後まで言葉を発せ無かった。

「カンバーランド、ケニア、大火災!」

見張りが報告してきた唐突の凶報に誰もがハッとなった。
この時、カンバーランドとケニアは危機的な状況に陥っていた。
まず、カンバーランドは敵2番艦と最初は互角の撃ち合いを演じていた物の、敵2番艦の砲塔1基を破壊したところで
艦橋トップに命中弾を受けた。
前部の射撃指揮所が破壊されたカンバーランドは、やむを得ず後部の射撃指揮所で統一射撃を続行したが、これで勢いに
乗った敵2番艦は、カンバーランドに対して次々と命中弾を叩き付けた。
イギリスの巡洋艦は、前の世界では各地の植民地に派遣される事を前提に設計されていたことから居住性と武装を重視し、
防御が軽視される傾向にあった。
そのため、“重”巡洋艦と名付けられながらも防御力は決して満足行く物ではなく、欧州戦線においては対弾性の弱さが
問題に挙がっていた。
カンバーランドは、ドーセットシャーと同様に、改装を行って防御力の強化も行っているが、それでも防御力の問題は
解決されてはいなかった。
この結果、カンバーランドは艦体を敵弾によって貫通され、各所で火災が発生していた。
最終的に、カンバーランドは敵2番艦に24発の命中弾を与えられ、4基あった8インチ砲は全てが粉砕され、艦の中央部と
後部からは一際大きな火災炎が吹き上がっていた。

魚雷発射管が残されていれば、カンバーランドはここまで敵弾を耐える事は無かったであろう。
ケニアは、最初からツキに恵まれていなかった。
敵3番艦は僅か2射でケニアを挟叉したあと、斉射弾を撃ち込んできた。対するケニアはいっこうに挟叉弾が得られず、艦長は
溜まりかねて無理矢理斉射を放った。
しかし、ケニアは敵艦に1発命中させる間に3発、4発と命中弾が重なり、最終的には28発の命中弾を受けていた。
この度重なる被弾によって、4基あった6インチ3連装砲のうち、3基までもがことごとく破壊され、しまいには艦尾の命中弾に
よってケニアが操舵不能に陥る事態にまで至った。

「敵巡洋艦1隻を戦闘不能にした代わりに、こっちは2隻がやられたか・・・・!」

ハーウッドは悔しさで胸が一杯になった。しかし、アメリカ側も負けては居なかった。
敵4番艦、5番艦と相対しているナイジェリア、ダラスは逆に敵を押していた。
敵6番艦と戦っていたマイアミとフレモントは、持ち前の速射性能を生かして敵6番艦を圧倒していた。
敵巡洋艦は、マオンド側が最近開発したばかりの対空巡洋艦であり、速射性能には定評があったが、それ以上の速射性能を持つ
クリーブランド級軽巡とアトランタ級軽巡が相手では運が悪すぎた。
敵6番艦は、次々と飛来する6インチ砲弾、5インチ砲弾の雨嵐に圧倒された。
6インチ砲弾、5インチ砲弾には、巡洋艦クラスの艦を一撃で撃沈する威力はないが、その代わり、じわじわと敵の戦闘力を奪っていく。
敵6番艦は、6秒おきに12発の6インチ砲弾、5~4秒おきに14発の5インチ砲弾を受けてなぶり殺しの状態に陥っていた。
それでも敵6番艦は奮闘し、マイアミに12発を命中させて左舷側の両用砲、対空火器を全滅させたが、カンバーランドとケニアが
戦闘不能に陥った時には、自身も78発の6インチ並びに5インチ砲弾をぶちこまれて完全にたたきのめされた。
特に、マイアミの放った54口径6インチ砲は、その高初速でもって敵艦の装甲を紙の如く突き破り、敵6番艦が沈黙したときには、
機関部は全滅状態となり、左舷側に大傾斜していた。

「マイアミ、フレモントより入電!我、敵6番艦を撃破、敵艦は沈没しつつあり!」

カンバーランド、ケニアの脱落でやや気を落としていたハーウッドは、引きつっていた表情を緩ませた。

「そうか、敵6番艦を大破させたか。流石は強力な速射性を誇る軽巡だ。勝ち方がいかにもアメリカ人らしいわい。」

ハーウッドはそう呟きながらも、脳裏で彼我の戦力差を考えた。
ハーウッドが使える巡洋艦は、カンバーランドとケニアが脱落したことで6隻に減ったが、敵側も同様に2隻が脱落している。
敵巡洋艦群は、先と同様、劣勢な状態で戦わねばならない。
(こちらが有利なのは変わらないな。あと1隻か2隻撃破すれば、残りの巡洋艦は逃げ出すだろう)
ハーウッドはそう確信した後、ドーセットシャーの砲撃目標を敵2番艦に変更させた。
米巡洋艦群は猛砲撃を浴びせ、1隻、また1隻と、マオンド巡洋艦を叩き潰していった。
だが、ハーウッドの予想とは裏腹に、敵巡洋艦はいくら数が減ろうが決して退こうとはしなかった。
その後も、戦闘が長引くにつれて、双方の巡洋艦群には、多数の被弾によって脱落する艦が相次いでいった。


マオンド軍第1機動艦隊から分派された新鋭戦艦群は、午後10時10分頃にアメリカ側の戦艦群に対して、9ゼルド
の位置まで迫った。
打撃艦隊の指揮官であるキクグ・クガウログ少将は、旗艦リグランバグルの艦橋に設けられた司令官席に満足そうな
笑みを浮かべて座っていた。

「司令官、魔導士の報告に寄りますと、アメリカ側の戦艦部隊は我が部隊の前方9ゼルドにまで迫っているようです。」
「うむ。」

クガウログ少将は、痩せた体を揺らしながら頷く。

「敵戦艦の数は何隻だ?」
「ハッ、生命反応からして5隻ないし、6隻かと思われます。」
「恐らく、敵は機動部隊に随伴している戦艦を全て引っ提げてきたのだろうな。敵戦艦の中には、最新鋭のアイオワ級と
やらも含まれているだろう。だが、敵が新鋭ならこっちも新鋭艦だ。このリグランバグルは、これまでの戦艦と違って、
16ネルリ相当の砲弾にも耐えられるように作られた重装甲艦だ。敵の数が多かろうと、決して負けはせんぞ。」

クガウログ少将は不敵に微笑むと、司令官席の左肘掛けに付けられている箱から、小さな水筒を取り出す。
彼は、その水筒の蓋を開けてから一口だけ飲んだ。水筒の中身は、クガウログが愛飲するリシャルグナ(レーフェイル産の黄色の果実。
外見はブドウに似ている)の実から作られた高級酒である。
(普通は禁酒だが、クガウログ等の一部の将官は、何故か許されている)

「さて、邪教徒共の処分を行うか。私が信奉する偉大なナルファトスに仇なしたアメリカ人は、全て皆殺しにしてくれる。
戦艦部隊は南東の方角に向けて順次回頭せよ!」

クガウログの指示通りに、マオンド側の4戦艦は戦闘に向けて動き始めた。
旗艦であるリグランバグルが先頭に回頭を始め、次にケリムガルダ、イルマリンラ、コルトムと続く。

「敵戦艦部隊も回頭中の模様!」

伝声管から艦橋に向けて、魔導士の報告が飛び込んでいる。

「ほほう、誘いに乗ってきたか。来ると思っていたよ。」

クガウログは不敵な笑みを浮かべた。
「主砲、右砲戦!7.5ゼルド(21000メートル)で射撃を開始する。それまで、各艦は砲身を敵戦艦に向けたまま待機せよ。」

クガウログは、魔導士に後続の戦艦群に対して命令を伝えさせた。
リグランバグル級戦艦は、52口径14.8ネルリ(38センチ)連装砲を4基装備している。
この主砲の射程距離は12ゼルド(36000メートル)もあり、従来の戦艦よりも遙かに長い射程を持つ。
また、竣工以来の猛訓練の結果、この4戦艦は、夜間戦闘では最大7ゼルドまでの長射程で相手の艦を攻撃出来るまでになった。
今の所、敵の戦艦部隊との距離は8.3ゼルドと、想定していた砲戦距離よりもやや離れている。
通常ならとっくに射程内であるため、いつでも発砲できる。
しかし、この距離では弾着観測がやりづらいため、クガウログは想定距離内である7.5ゼルドまで近付いてから、砲撃を開始しようと決めていた。

(7.5ゼルドといえば、アメリカ戦艦の夜間砲戦での想定距離外だ。敵は前回の海戦で7.2ゼルドから離れた位置から発砲を開始した。
それで、我々は先手を打たれてしまったが、今回は違う。今度は、こっちが敵を先制する番だ。)
クガウログは、内心でそう呟いていた。
リグランバグルの砲身が右舷に向けられ、8門ある主砲のうち、4門には照明弾が積み込まれる。
最初に撃ち出されるのは、この4発の照明弾だ。

「敵艦隊との距離、縮まります。距離は約8.1ゼルド。」

魔導士が刻々と、彼我の距離を伝えてくる。双方の戦艦群は、同航しながら徐々に近付きつつある。

「現在、距離8ゼルド。砲戦開始距離まで0.5ゼルドです。」
「もう少しだな。」

クガウログは、相変わらず口元を歪ませている。既に主砲弾は装填されている。
7.5ゼルドに達すれば、照明弾を撃ち上げて敵艦隊の姿を確認し、その後は新式の14.8ネルリ砲弾を撃ち込むだけだ。
(アメリカ人共は、こちらが先に主砲を撃つのを見てどんな顔をするかな)
クガウログは、先制砲撃を浴びたアメリカ戦艦の乗員達が狼狽する様を想像し、口元の歪みを、よりハッキリ分かる形にまで表した。
ナルファトス教の信者でもある彼は、ナルファトス教の聖堂教会を無慈悲にも爆破したアメリカ軍との対決を誰よりも待ち望んでいた。
その対決の時が、もう少しで始まろうとしている。

「見ろ、司令官が獰猛な笑いを浮かべておられる。」

誰かの囁きが聞こえたが、クガウログは気にしなかった。

「もう少しで始まるぞ。」

別の誰かが、その囁きを戒めるように、冷たい声音で言う。

クガウログはその時、顔に浮かべていた微笑みを凍り付かせた。彼の双眸には、不意に起こった発砲炎が映っていた。
(・・・・・・ん?)
クガウログは、それが何であるか理解が出来なかった。
いや、理解は出来てはいるが、彼の脳は、それをする事を遮った。
その発砲炎は、クガウログのみならず、幕僚や艦橋要員の目にも、はっきりと映っていた。
約7秒間。艦橋に重苦しい沈黙が流れた後、

「て、敵戦艦発砲!」

見張りの緊迫した声音が艦橋に流れた。その一言で、彼らは我に返った。

「な、な、な、何・・・だと?」

クガウログは、微笑みを徐々に崩しながら、おぼつかぬ口ぶりで幕僚に聞いた。

「司令!敵戦艦は発砲を開始しました!」
「発砲だと?まだ8ゼルドだぞ!」

クガウログは、目を丸くしながら叫んだ。その時、何かの飛翔音が聞こえてきた。
それに誰もが聞き耳を立てたとき、リグランバグルの右舷側に水柱が立ち上がった。
ドォーン!という轟音を上げて、夜目にも鮮やかな、長く、太々しい水柱が3本ほど立ち上がった。
いきなり、リグランバグルの艦体が揺れ始めた。

「な、何だあの水柱は!?」

クガウログは、リグランバグルから右舷100グレルの位置に立ち上がった水柱を見ながら叫んだ。

「16ネルリ相当の砲弾が上げる水柱は、あんなに大きくはないぞ!」

マオンド海軍の調べでは、アメリカ海軍の戦艦は14ネルリか、16ネルリ相当の砲を搭載している事が判明している。
マオンド側の将校は、去年までシホールアンル海軍に派遣将校としてシホールアンルに送られた者が少なからずおり、
帰還した将校からシホールアンル海軍の新鋭艦の情報などを手に入れている。
マオンド海軍は、シホールアンル海軍の情報を元に、最近出てきた、アイオワ級と呼ばれるアメリカの新鋭戦艦は、
これまでの新鋭戦艦と同様に16ネルリ相当の主砲を搭載していると判断されていた。
だが、目の前の水柱の太さは、明らかに16ネルリ以上の砲から放たれた物である。
その大きさは、夜間にも関わらずハッキリと見て取れるほどだ。

「司令!敵の1番艦と2番艦が発砲を開始しました!どうやら、噂の最新鋭戦艦のようです!」
「アイオワ級か・・・・・アイオワ級は、対空防御と船体防御、それに速力を強化しただけの戦艦だけではなかったのか?」
「あの様子から見ると、強化されたのは防御力と速力だけではなさそうです。」

リグランバグルの艦長が、比較的冷静な口ぶりでクガウログに言った。
敵戦艦がまたもや発砲炎を煌めかせる。それからやや間を置いて、今度はリグランバグルの左舷に敵戦艦の砲弾が落下した。
またもやもの凄い水柱が、天を突かんばかりに立ち上がる。水中爆発の衝撃波がリグランバグルの艦体を再び揺さぶった。

「なんて揺れだ・・・・敵は、明らかに16ネルリ以上の砲を装備している。」

クガウログは自らそう言った後、背筋に冷たい物が走った。
(もしや・・・・俺達は、とんでもない相手と戦っているのか?)
彼の内心に、そんな疑念が沸き起こった。
疑念は、やがて確信にへと変わった。
敵戦艦が第3射、第4射と次々と主砲弾を放つ。
飛来してくる砲弾は、なかなかリグランバグルを捉えようとしないが、それでも凄まじい衝撃が24500ラッグ(36750トン)
の巨体を頼りなく思わせるほど揺らした。

敵戦艦が第8射まで放った時、

「司令!あと10秒で7.5ゼルドです!」

待望の砲戦距離まであと一歩という所に近付いた。

「見てろ、アメリカ人!もう少しでお返しをしてやるからな!!」

クガウログは、恐怖と興奮で引きつった顔を歪めながら、一方的に砲撃を繰り返す2隻のアイオワ級戦艦を睨み付けた。
その瞬間、アイオワ級戦艦からまたもや発砲炎が煌めいた。

「7.5ゼルドです!」

その言葉に、クガウログは大音声で命令を発した。

「撃ち方始めぇ!!」

号令が下るや、待ってましたとばかりにリグランバグルの主砲が火を噴いた。
耳を劈くような轟音が発せられた後、4門の砲身に込められていた照明弾がアメリカ艦隊の上空目掛けて夜空に飛び上がった。
照明弾が炸裂する直前、リグランバグルにアイオワ級戦艦の主砲弾が落下してきた。
唐突に何かがぶつかったと思うと、その瞬間、クガウログの体は、司令官席から浮き上がりかけていた。
主砲斉射時の物と比べものと同じか、それ以上の射撃がリグランバグルに伝わった。
余りの衝撃に、艦橋要員の中には耐えきれず、転倒する者まで現れた。

「な、何だこの衝撃は!?」

クガウログは再び喚いた。

「敵弾1、右舷中央部に命中!第3甲板で被害が発生した模様!」
「第3甲板だとぉ!?」

今度は、艦長が叫ぶ番であった。

「中央部には分厚い装甲を施してるのだぞ!そこを抜かれているのか!?」
「はい!敵弾は装甲板を貫通して、もう少しで前部機関室を吹き飛ばす所でした!火災が発生しているため、直ちに消火にあたります!」

伝声管の向こう側の人物は、慌ただしい口ぶりでそう言ってから会話を終えた。
リグランバグル級戦艦は、舷側に315ミリの装甲板を取り付けてある。
この装甲板は、マオンド共和国南部の田舎町であるリズスリーグの魔法石鉱山の近くにある鉄鉱石鉱山から作られた物で、元々、魔法石鉱山が
近くにあるせいか、リズスリーグの鉄鉱石鉱山から採れる鉄鉱石は若干の魔力付加(エンチャント)が備わっていた。
このエンチャントされた鉄鉱石は、昔から主に戦艦等の主力艦に採用され、打撃を受けた際には普通の鉄よりも頑丈であった。
今、同時に行われているTG73.5とマオンド旧式戦艦との戦闘で、マオンド側の戦艦が予想外の健闘を見せているのはこのためである。
しかし、アイオワ級戦艦の主砲弾は、この硬い装甲板をあっさりと突き破った。
艦長は、この強化された装甲板も、長く撃たれ続ければいずれは抜かれるとは思っていたが、まさかただの一撃で貫通されるとは、
全く予想していなかった。
敵艦隊の上空に照明弾が灯った。その光によって、敵戦艦の姿が露わになった。

「あれが、アイオワ級戦艦か。」

クガウログは、望遠鏡越しに敵戦艦の姿を見つめた。
細長い艦体に、丈高い尖塔のような艦橋。その後ろに設置されている2本の煙突と、後ろにあるやや小振りの艦橋。
その艦上構造物の前後に設置された計3基の主砲は、これまでに見た戦艦の搭載砲より明らかに巨大である。
リグランバグルが第1射を放った。ドドォーン!という轟音を上げながら、4門の主砲が火を噴いた。
5秒ほど経って、アイオワ級戦艦も砲撃を行う。
いや、アイオワ級のみではない。その後方に居た他の戦艦も砲撃を開始した。

クガウログは、次々と発砲してくる敵の戦艦群を眺めながら、胸中で呟く。
彼は、戦闘前に各艦に対して1番艦リグランバグルは敵の1番艦を、2番艦ケリムガルダは敵の2番艦を、という具合で
個別に目標を割り当てている。
リグランバグルが射撃を開始した今、各艦は敵の2、3、4番艦を相手取っている。
だが、ここに来て、クガウログはそれが間違いであったかと思った。
アイオワ級戦艦が明らかに16ネルリ以上の砲を搭載している以上、各艦の砲力をこの2隻の新鋭艦に向け、早めに始末する必要があった。
(だが、もはや戦闘は始まってしまった。もう命令の変更は出来ない。いや、出来はするのだが、やったらやったで混乱が生じる。
そんな事になれば、我々は一方的に撃たれっぱなしのまま、敵にたたきのめされるだけだ。今は、このままで活路を開くしかない!)
クガウログは、命令を変更しない事を決心した。
リグランバグルの第1射が着弾した。4発の砲弾は、全てが敵1番艦を飛び越えて、反対側に着弾した。
敵1番艦が更に交互撃ち方で砲撃を続ける。この砲弾は、リグランバグルの右舷側に着弾した。
舷側から50メートル足らずの位置で爆発したため、リグランバグルは魚雷を受けたかのように艦を反対側にやや仰け反らせた。

「命中弾はなしか・・・・だが、至近弾だけでこれほどの揺れ。」

クガウログは、敵戦艦の主砲の凄まじさに圧倒されかけていた。
砲撃開始前まで浮かべていた余裕の笑みは、もはや綺麗さっぱり吹き飛んでしまった。
リグランバグルが第2射を放つ。それから少し時間が経ち、敵戦艦も砲撃を行ったが、その直後にリグランバグルの砲弾が落下した。
敵戦艦の左舷に4本の水柱が立ち上がる。水柱が崩れ落ちる前に、敵戦艦の主砲弾がリグランバグルの周囲に落下する。
三度、リグランバグルの巨体が水中爆発の振動で強く揺さぶられる。
今度は挟叉弾であるため、クガウログは、このリグランバグルが見えない手によってあちこちを小突き回されるような振動に揺さぶられた。

「相変わらず揺れが強い。このままでは、リグランバグルは至近弾のみでも戦闘不能に陥るのではないか?」

彼がそう思うほど、衝撃は強烈であった。
リグランバグルは第3射を放った。4発の主砲弾が赤熱しながら、敵1番艦目掛けて突っ込んでいく。

敵戦艦が新たな射撃を行う前に、リグランバグルの主砲弾が落下する。

「砲術!しっかり狙え!訓練通りにやれば良いのだ!」

たまりかねた艦長が、伝声管越しに砲術科を叱咤した。
敵戦艦がまた射撃を行う。その姿は、まるで、リグランバグルの上手くない砲撃精度をあざ笑っているかのようだ。
敵弾が落下してきた。先ほども感じた砲弾が艦体に命中する轟音と凄まじい振動がリグランバグルの巨体を大きく揺らした。

「こ、後部甲板に命中弾!火災発生!」

見張りが、あまり整っていない口調で艦橋に報告を送ってくる。敵弾は3発中、1発が後部甲板に命中した。
敵戦艦の砲弾は最上甲板をあっさりと突き破って、第3甲板の用具室で炸裂した。その時は、人が居なかったから死傷者で出ずに済んだが、炸裂の瞬間、用具室は中に詰められていた応急班用の修理用具諸共吹き飛んだ。
爆発の余波は用具室を吹き飛ばしただけでは飽きたらず、左右3つの部屋をも破壊した。
リグランバグルの主砲が火を噴いた。
クガウログは、今度こそ命中してくれと祈った。
それからやや間が開き、第4射の砲弾が敵戦艦に落下した。敵戦艦の右舷側に3本の水柱が立ち上がり、その前部部分に発砲炎とは異なる物が光った。
その光は、やがて爆炎に変わった。

「敵戦艦に命中弾!」

その報告に、艦橋が沸き立った。

「よし、まずは敵を傷つけたぞ。あの位置なら、砲塔の1基ぐらいは潰れているだろうな。」

クガウログは、先とは違って、微笑みを交えた表情を浮かべた。
彼は、先ほどの爆炎が砲塔のあたりに沸き起こったのをこの目で確認している。

マオンド戦艦の主砲弾は、装甲板と同じように、リズスリーグ鉱山の鉄鉱石から作っており、砲弾の貫徹性能はエンチャントによって、
通常の鉄製の砲弾よりも上である。
だが、その確信は、敵戦艦から発せられた発砲炎によって吹き飛ばされた。
発砲炎は、先の物とは比べものにならぬほど大きかった。

「敵戦艦発砲!斉射です!!」

見張りの声が聞こえたが、クガウログにその声は聞こえていなかった。
(なんということだ・・・・・14.8ネルリ弾を確かに、砲塔の辺りに食らわせたはず。なのに・・・・どうして
砲塔は使えるのだ!?)
敵戦艦は斉射・・・・それも、3基の主砲塔全てを使ってその最大火力を発揮した。
となると、リグランバグルには、先ほどの恐ろしい威力を有する主砲弾が、9発まとめて叩き付けられる事になる。

「9発・・・・・・」

クガウログの顔が完全に色を失ったとき、敵戦艦の第1斉射弾が着弾した。

米戦艦部隊の1番艦を務める戦艦ミズーリの艦橋上からは、敵1番艦の周囲に水柱が立ち上がるのが見えていた。

「新たに2弾命中!敵戦艦の火災、更に拡大した模様!」

戦艦ミズーリ艦長ウィリアム・キャラガン大佐は、まずまずの成果に小さく頷いた。
敵の戦艦部隊は、アメリカ側戦艦群の左舷を並行する形で砲撃を行っている。
敵戦艦は、ニューメキシコ級戦艦と似たような低い艦橋が特徴で、前部甲板と後部甲板に2基ずつ主砲を設置している。
敵1番艦は中央部と後部から火災を発生しており、特に中央部の火災が大きい。

新たに命中した17インチ砲弾が、中央部の火災をより拡大させたのであろう。
傍目から見れば、中破程度の損害を負っている敵1番艦であるが、それでも射撃を行ってきた。


キャラガン艦長は、最初は4、5発も食らわせばマオンド戦艦は戦闘不能に陥れられるであろうと思っていたが、予想に反して
敵戦艦は意外と粘っている。
(17インチ砲弾の当たり所が良かったせいかも知れん)
キャラガン艦長は、心中でそう確信した。
敵戦艦の主砲弾が落下する前に、ミズーリが第2斉射を放った。
17インチの豪砲が斉射を放つ瞬間、雷もかくやと思うほどの轟音が鳴り響き、ミズーリの巨体が微かに、反対舷へと押される。
(17インチ砲の斉射は、いつ聞いても凄まじい)
キャラガン艦長がそう思うほど、17インチ砲の斉射は強烈であった。
唐突に、何かの飛翔音が聞こえてきた。それは一瞬で極大に達した。
ミズーリの周囲にドカドカと敵戦艦の主砲弾が落下する。
ミズーリよりは主砲の口径は小さい物の、それでも大口径砲弾が複数、至近で落下するや、ミズーリの艦体は揺れる。
しかし、その揺れは57000トンの巨体にとってあまり大きな物ではなかった。
敵弾落下と同時に、ガン!ガン!という何かがぶつかる音が聞こえる。
キャラガン艦長は、敵戦艦の砲弾がミズーリに命中したなと思った。
この時、ミズーリはリグランバグルの砲弾を中央部と後部第3砲塔に受けていた。
しかし、リグランバグルの主砲弾は中央部と天蓋の装甲を貫く事は出来ず、砲弾はあらぬ方向に弾き飛ばされるか、その場で炸裂した。

「中央部と後部第3砲塔に被弾!機銃座2基破損するも、他に損害無し!」

CICからの被害報告を聞いたキャラガン艦長は、ミズーリの強靱さに舌を巻く思いであった。
(流石はアイオワ級戦艦。防御力がケタ外れだ)
第2斉射弾が敵戦艦の周囲に落下した。敵戦艦の艦体は林立する水柱に覆われ、完全に見えなくなる。
すわ轟沈か?と、キャラガン艦長は期待して敵戦艦を凝視するが、敵戦艦は鋭い艦首で水柱を崩しながら姿を現した。

敵戦艦が第2斉射を放ち、発砲炎が、マオンド戦艦の精悍な艦影をはっきりと照らし出す。
敵戦艦は、新たに前部から火災を起こしていた。火災はあまり大きくはないが、命中箇所は艦首部に近い。
通常の戦艦ならば、そこは非装甲部に当たる所である。
命中箇所に当たる区画が17インチ砲弾の炸裂によって酷い有様と化している事は、ほぼ確実であろう。
敵戦艦の砲弾が落下し、水中で荒れ狂った衝撃波は、ミズーリの分厚い装甲を小突き回す。
艦上には命中弾が炸裂し、強固な装甲に守られていない機銃座や両用砲が真っ先に犠牲となった。

「左舷4番両用砲並びに40ミリ機銃座損傷!火災発生!」
「後部甲板に命中弾!小火災が発生するも損害軽微!」

各所から次々に損害報告が上がってくる。

「ふむ、やるじゃないか。」

キャラガン大佐は、敵戦艦の健闘ぶりを評価した。ミズーリもその礼を返すべく、第3斉射を放つ。
敵戦艦が再び、林立する水柱に覆われようとする。敵戦艦の後部部分にピカッと何かが光った。
その光は水柱に覆い隠される。敵戦艦が水柱から抜け出すと、後部部分で新たに火災が発生していた。
ミズーリの第3斉射弾は、1発だけがリグランバグルに命中した。17インチ砲弾は、敵戦艦の第4砲塔の天蓋に命中した。
43センチSHSは、エンチャントで強化された天蓋を物の見事に貫通して砲塔内で炸裂し、砲塔を真っ二つに引き裂いた。
裂け目からは紅蓮の炎が吹き出し、2本の砲身は爆発の圧力によって、付け根から吹き飛んでいった。

「ようし、砲塔1つを吹き飛ばしたぞ!」

キャラガン艦長は上機嫌な口調で言う。
敵戦艦は、これで砲戦力の25%を失った。一方のミズーリは未だに9門の主砲が使える。
これで、ミズーリは優勢となった。

敵戦艦が第3斉射を放った。その5秒後にミズーリが第4斉射を撃つ。
着弾は、敵の第3斉射弾のほうが早かった。
いきなりグァガアン!というけたたましい轟音と衝撃がミズーリの艦体を強く揺さぶった。

「うぉ!?」
初めて体験する強い衝撃に、キャラガン艦長は驚きの声を漏らす。

「今の衝撃は大きかったな。」

そこにCICから連絡が飛び込んできた。

「敵弾3発が命中!命中箇所は後部並びに中央部!」

この時、敵1番艦の斉射弾は3発がミズーリを捉えていた。3発中2発は中央部に命中した。
1発は左舷2番両用砲に直撃して炸裂し、すぐ側にあった3番両用砲と、後ろにあったMk4射撃レーダーにも被害が及んだ。
もう1発は甲板に直撃して炸裂したが、20ミリ機銃2丁を破壊しただけで済んだ。
後部甲板の非装甲部に着弾した砲弾は最上甲板を貫いて第2甲板の便所で炸裂した。
ダメコン班のメンバーであるレリック・バートン2等水兵は、トイレから出た後、待機所に繋がる通路に入り、階段を下りた瞬間、
いきなりドーン!というもの凄い爆発音と衝撃音を聞いた。

「!?」

突然の衝撃に仰天したバートン2等水兵だが、振り返る前に衝撃に足を取られて転倒した。
衝撃に揺られながら、上の通路でゴーッ!という音が聞こえる。
突然の事態に、バートン2等水兵はただ恐怖に怯えたまま、その場にじっと伏せ続けた。
しばらく経つと、衝撃も音も感じなくなった。バートンは恐る恐る立ち上がりながら、階段の入り口に歩み寄った。

階段からは何かが焦げるような音と匂い、熱が伝わってきた。階段の上からは何かが燃える音が聞こえてくる。

「さっきの敵弾は、俺が座っていたトイレの近くに命中した。俺の下痢が治まっていなければ、今頃は・・・・・・・」

バートン2等水兵は、タイミングが遅れていれば木っ端微塵に吹き飛ぶ自分の姿を想像して身を震わせた。
彼は、1分後にやってきた同僚と共に、自分の死に場所となる筈であったトイレの消火活動に携わる事になる。
キャラガン艦長は、敵1番艦の後部艦橋と思しき物が、一瞬にして上半分を吹き飛ばされる様子を目にしていた。
敵戦艦は、後部艦橋以外にも、前部に1発の17インチ砲弾を食らった。これによって、前部甲板にも新たな火災が発生した。

「敵1番艦に更なる火災が発生した模様!」

見張りが、敵艦の被害状況を知らせてくる。敵1番艦がまたもや斉射を放った。
敵戦艦の斉射弾が落下する前に、ミズーリも9門の17インチ砲を唸らせる。
ミズーリの左舷側が17インチ砲弾の発砲炎で真っ赤に染まり、その後は黒煙に覆われる。
敵弾は、その黒煙に突っ込んでいった。ドドーン!という轟音が鳴り、ミズーリの艦体に敵弾が炸裂する。

「敵弾2、中央部に着弾!1番両用砲全壊!」

敵戦艦の砲弾のうち、1発は未だに健在であった1番両用砲を吹き飛ばした。
これで、ミズーリは左舷側に指向できる高角砲の全てを失った。
(こんなに高角砲がやられてしまうとは。ミズーリは対空艦としては役立たずになっちまったな。)
キャラガン艦長は内心でそう呟きながらも、顔には冷静な表情を張り付かせたままダメコン班に向けて指示を飛ばし続ける。
ミズーリの主砲弾が敵1番艦に落下した。9発中、3発が敵1番艦に突き刺さった。
1発は敵戦艦の第1砲塔と第2砲塔の間に命中すると、甲板を突き破って第3甲板で炸裂した。
17インチ砲弾は敵艦の弾薬庫を誘爆させることは出来なかったが、敵1番艦の第1、第2砲塔は旋回盤や砲塔内部に損傷を被り、射撃不可能となった。

2発目と3発目は中央部に命中した。特に3発目の命中弾は敵1番艦にとって致命的な損害をもたらした。
17インチ砲弾は、これまでに散々痛め付けられた中央部の装甲板を貫通した後、前部魔動機関室にまで達してから爆発した。
これによって、リグランバグルは動力の半数を失い、速力が急激に落ち始めた。

「敵1番艦、速力低下!」

スピーカー越しにCICから連絡が入る。だが、それでも敵1番艦は諦めなかった。

「止めを刺すんだ!」

キャラガン艦長は、砲術科に向けて命令を下した。敵がまだ戦闘力を残している以上、放ってはおけない。
ミズーリが第7斉射を撃つ前に、敵1番艦の砲弾が落下する。
敵弾はミズーリを飛び越え、右舷側300メートルの海面に落下した。その直後、ミズーリは第7斉射を放つ。
やや間を置いて、敵1番艦の周囲に水柱が吹き上がる。水柱が晴れた後、敵1番艦の艦容は一変していた。
この時、ミズーリの第7斉射弾は、1発だけが敵1番艦に命中していた。命中箇所は、敵艦の艦首であった。
17インチ砲弾は、艦首最前部から10メートルほど後ろに着弾して艦内で炸裂した。
炸裂の直後、砲弾の爆発エネルギーは薄い艦首を見事に吹き飛ばし、切断面からは大量の海水が流れ込んできた。
この最後の一撃が、敵1番艦にとって命取りとなった。

「敵1番艦停止!」

CICから弾んだ声が聞こえてきた。キャラガン艦長はその声を聞きながら、炎上する敵1番艦を凝視していた。
敵1番艦は、艦内各所から発生している火災炎によってその姿が露わになっている。
敵戦艦は、無くなった艦首部分から既に傾斜が始まっており、このまま行けば艦首側から沈没する事はほぼ確実と言えた。
全ての主砲は沈黙しており、唯一健在である第3砲塔だけが、その砲身をミズーリに向けている。
まるで、俺達はまだ戦えると、ミズーリに向けて訴え掛けているかのようだ。

「後続のウィスコンシンより通信。敵2番艦に直撃弾多数。沈黙は時間の問題なり。」

ミズーリの姉妹艦であるウィスコンシンもまた、敵の2番艦を相手取っている。
ウィスコンシンはミズーリと同様の損害を受けているが、それでも、3基の17インチ3連装砲は健在で、敵2番艦に対して
11発の命中弾を与え、敵艦の後部砲塔を破壊していた。

「旗艦はどうなっている?」

キャラガン艦長はきっと、上手くやっているであろうと思っていたが、帰ってきた返事は意外な物であった。

「艦長!プリンス・オブ・ウェールズが苦戦しています!」


戦艦部隊の旗艦であるプリンス・オブ・ウェールズは、敵3番艦と渡り合っていた。
敵の3番艦はプリンス・オブ・ウェールズと巡洋戦艦のトライデントの砲撃を浴びていたが、敵戦艦は思ったよりも頑強であり、
逆にプリンス・オブ・ウェールズに12発の直撃弾を与えていた。
敵3番艦の第7斉射弾が降り注いできた。艦体に敵弾命中の衝撃が伝わり、プリンス・オブ・ウェールズの巨体が揺らいだ。

「中央部に命中弾!火災、更に拡大します!」

サマービル中将は、苦虫を噛み潰した表情でその報告を聞いていた。

「もう少しの筈なのだが・・・・・」

サマービルは、敵3番艦を見つめた。
敵3番艦は、プリンス・オブ・ウェールズとトライデントから計19発を浴びせており、艦内の各所から火災を起こしている
のだが、敵3番艦は依然として4基の連装砲塔の全てが健在で、良好な射撃精度を保ち続けている。

プリンス・オブ・ウェールズが第6斉射を撃つ。14インチ4連装砲塔2基、連装砲塔2基、計10門の主砲が放つ砲声は、
アイオワ級の物と比べて劣るが、それでも雷が間近で炸裂したかと錯覚させる。
敵3番艦に10発の14インチ砲弾が降り注ぐ。10発中、4発が敵3番艦に突き刺さり、艦上に命中弾炸裂の閃光が灯る。
その直後にトライデントの14インチ砲弾が落下し、新たな命中弾を敵3番艦に浴びせる。
水柱が晴れた直後、敵3番艦が斉射を放った。砲弾の飛翔音がプリンス・オブ・ウェールズに近付いてくる。

「来るぞ!」

艦長のリーチ大佐が鋭い声音で叫んだ。直後、プリンス・オブ・ウェールズの周囲にドカドカと巨弾が落下した。
けたたましい金属音が艦橋に響いたかと思うと、強烈な爆発音が木霊した。

「!!」

サマービルは、艦橋の前面で沸き上がった爆炎を見て仰天してしまった。
彼は、主砲と思しき物がくるくると回転しながら右舷側に吹き飛んでいく様子をハッキリ見ていた。。

「第1砲塔に直撃弾!砲塔損傷!」

CICから切迫した声音で報告が送られてきた。

「な、本当か!?」
「はい。その証拠に、第1砲塔から連絡が途絶えたままです。」

リーチは一瞬瞑目した。第1砲塔には、ビスマルク追撃戦以来のベテラン砲員達が居た。
彼らは、出撃前にリーチ艦長と共に軍港の近くにあるバーへ飲みに行った。その際、

「見ててください。今度の砲撃戦では、マイリーの戦艦なぞ一撃で叩き沈めてやりますよ。」

と、誰もが自信満々に言っていた物であった。

そんな愉快な戦友達は、無残にも破壊された第1砲塔の中で永遠の眠りにつくこととなった。

「レナウン脱落します!」

追い撃ちをかけるかのように、新たな悲報が飛び込んでくる。
レナウンは、コンスティチューションと共に敵4番艦を相手取っていたが、レナウンは9発の命中弾を受けた末に、最後の着弾した
敵弾が機関室で炸裂した。
そのため、レナウンは速力が出せなくなり、戦艦列から脱落していった。
プリンス・オブ・ウェールズが残った6門の主砲で第7斉射を撃った。この斉射弾は、2発が敵3番艦に命中した。
更に、トライデントの14インチ砲弾が落下してきた。3発が敵3番艦に命中する。
うち1発は敵3番艦の後部に突き刺さった後、艦内で炸裂した。
命中箇所は、分厚い装甲に覆われていたが、トライデントの14インチ砲弾は難なく装甲に穴を穿った。
アラスカ級巡洋戦艦の55口径14インチ砲は、距離17000メートル以内であれば390ミリの装甲板を貫く事が出来る。
現在、米戦艦部隊はマオンド側の戦艦部隊から距離16800メートルまで接近していた。
距離が縮まったことで、14インチ砲弾は見事に敵戦艦の装甲を突き破り、内部にも被害を与えることが出来た。
敵戦艦が斉射を放つが、先の被弾で砲塔が損傷したのか、斉射時の光量はさほど大きくはなかった。
プリンス・オブ・ウェールズに敵の斉射弾が降ってきた。
ドドーン!という轟音が鳴り響き、プリンス・オブ・ウェールズの巨体が震える。
お返しだ!とばかりに、プリンス・オブ・ウェールズも6門の14インチ砲弾を放つ。また、トライデントも旗艦を援護すべく、
9門の14インチ砲を咆哮させた。
敵3番艦にまず、プリンス・オブ・ウェールズの主砲弾が降り注ぐ。周囲に巨大な水柱が吹き上がる。
その中に、命中弾と思しき閃光が二つ煌めいた。
2発の命中弾のうち、1発は中央部に当たった物の、分厚い装甲を突き破れずにその場で炸裂した。
2発目は後部艦橋の基部に命中し、後部艦橋の下部が、巨大な獣にごっそりと食いちぎられたかのような惨状を呈した。
続いて、トライデントの14インチ砲弾が落下する。命中弾は3発。
1発は燃えさかる後部甲板に命中して、火災をより拡大させた。
もう1発は中央部に命中、最上甲板を貫通して第3甲板の食料貯蔵庫で炸裂した。
炸裂の瞬間、大量の肉や生野菜が高温で“炊かれ”、その1秒後には大半が黒焦げの炭状の物に料理された。

最後の1発は第3砲塔に着弾した。砲弾は天蓋に命中したが、装甲を突き破る事は出来なかった。
だが、炸裂の影響で天蓋はひしゃげ、砲塔内部には夥しい破片が飛び散って、砲員を殺傷した。
プリンス・オブ・ウェールズ目掛けて、敵3番艦が斉射を放つが、破壊された第4砲塔や、人事不省に陥った第3砲塔は火を噴くことが無く、
前部にある1番、2番砲塔のみが砲撃を行った。

「ううむ、なかなかに頑丈だ。」

サマービルは、敵戦艦の頑強さに感嘆の念すら抱いていた。敵弾が再び落下した。
4発中1発が、プリンス・オブ・ウェールズの前部甲板に命中し、夥しい破片が第2砲塔や周囲の甲板にばらまかれる。
プリンス・オブ・ウェールズが第8斉射を撃つ。
それにやや遅れて、トライデントも斉射を放つが、そのトライデントに敵4番艦の射弾が降ってきた。
敵は初っ端から斉射を放ってきた。6門の14.8ネルリ砲が一斉に火を噴き、巨弾がトライデント目掛けて殺到する。
トライデントの左舷側に敵戦艦の斉射弾が落下し、6本の水柱が立ち上がった。
敵3番艦に15発の14インチ砲弾が落下する。最初に落下したプリンス・オブ・ウェールズの射弾は、3発が敵戦艦に命中した。
3発中1発は弾かれたが、残る2発が敵戦艦の後部と艦尾水面下に命中した。
次にトライデントの斉射弾が敵3番艦に降り注ぐ。2発が命中弾となり、敵3番艦の中央部と後部で発生していた火災が一段と激しくなった。
唐突に、敵3番艦の前方が明るくなった。サマービルはその光の方向に視線を向けた。

「すごい・・・・敵2番艦が・・・・」

サマービルは、思わずその光景に見とれてしまった。
僚艦であるウィスコンシンと渡り合っていた敵2番艦が、後部部分から猛烈な火炎を吹き上げていた。
まるで火山噴火の如き様相を呈した敵2番艦は、爆発が収まった後、後ろ半分が綺麗さっぱり吹き飛んでいた。
サマービルは、プリンス・オブ・ウェールズの発砲音で我に返った。

「敵2番艦を派手に吹き飛ばすとは・・・・流石は17インチ砲だ。」

彼が小さい声で呟いた後、やや意外な報告が飛び込んできた。

「斉射弾、全弾外れました!」
「なに?」

リーチ艦長が急に表情を曇らせる。

「この期に及んで外したのか。」

リーチ艦長は、やや呆れた口調で呟きながら、砲術科に電話をつなごうとした。しかし、その必要はなかった。

「艦長!敵戦艦が遠ざかります!」
「遠ざかる、だと?」

リーチ艦長は怪訝な表情を浮かべつつ、双眼鏡で敵戦艦を見つめた。
敵戦艦の右舷側にトライデントから放たれた14インチ砲弾が落下した。
やはり、トライデントの斉射弾も全て外れ、近弾となっている。敵3番艦は確かに遠ざかりつつあった。

「どうした?」
「敵3番艦が遠ざかろうとしています。もしかすると、敵は撤退を始めたかも知れません。」
「・・・・いや、違うな。」

サマービルは、敵3番艦を見つめたから、リーチ艦長の言葉を否定した。

「撤退中ならば、敵は急回頭を行うはず。だが、敵3番艦は遠ざかりつつはあるが、回頭を行おうとしていない。よく見てみろ。」

リーチ艦長は、サマービルの言われた通りに、敵3番艦を凝視する。

「確かに。敵3番艦は回頭を行おうとしていません。」
「敵さんは、舵をやられているな。恐らく、ウェールズかトライデント、どちらかの艦が放った砲弾が艦尾の舵を傷つけたのだろう。
舵が使えないとなると、敵3番艦はもはや死んだも同然だな。」

彼がそう確信した瞬間、唐突に後方から爆発音が響いた。

「トライデントに敵弾命中!砲塔損傷の模様!」

トライデントは、敵の第3斉射弾を受けていた。命中弾は1発のみであったが、この1発は後部の第3砲塔に命中した。
砲弾は天蓋をあっさりと突き破り、砲塔内で炸裂。中で任務に当たっていた砲員を皆殺しにし、砲塔自体も粉砕された。

「まずいぞ。アラスカ級巡戦の装甲では、敵戦艦の主砲弾を食い止められん。艦長!急いで砲撃目標を敵4番艦に変更しろ!
トライデントが危ない!」

サマービルはすぐさま、プリンス・オブ・ウェールズの主砲を敵4番艦に向けさせた。
敵4番艦に対しては、コンスティチューションが射弾を浴びせていた。
敵4番艦には既に17発の命中弾を浴びせており、大火災を発生させている。
しかし、火炎地獄と化した敵4番艦はそれでも機関部と主砲が健在であり、乗員達は猛火に耐えながらトライデントを砲撃していた。
トライデントも、敵4番艦に砲撃目標を変更する。トライデントが第1射を放った直後、敵4番艦の斉射弾が降り注いだ。
6発中、1発がトライデントの左舷中央部に命中する。砲弾はトライデントの装甲を突き破り、機械室で炸裂した。
前部機械室はこの被弾で完全に破壊された他、前部機関室にも損傷が及び、トライデントはにわかに速力を落とし始める。

「これはまずいぞ。」

サマービルは内心で焦り始めていた。いくらアラスカ級巡戦が旧式戦艦に勝る性能を有するとはいえ、新鋭戦艦の砲弾を受け続ければ
大破は確実であり、最悪の場合は撃沈されてしまう。

「ミズーリとウィスコンシンはどうなっている!?」
「あと30秒で援護射撃を開始するようです!」
「30秒だと?その間にトライデントは敵4番艦に叩きのめされるぞ!」

サマービルは苛立った口調でそう言いはなった。彼は内心で、敵4番艦の射撃が外れてくれるように祈った。
それからすぐに、CICから別の報告が飛び込んできた。

午後10時45分

リグランバグルの傾斜は、収まる様子を見せなかった。
クガウログ少将は、立つことさえ難しくなり始めた艦橋上で、じっと窓の外を見つめ続けていた。

「コルトムが・・・・・・」

彼は、震えた口調で僚艦の名前を呼んだ。4番艦コルトムは、急行してきた敵の駆逐艦群に襲われ、左舷に魚雷4本を叩き込まれた。
水線防御は未だに満足ではないマオンド戦艦にとって、魚雷を4本も受ける事は死を意味していた。
コルトムは、文字通り火達磨と化しながら沈没しようとしている。
敵駆逐艦の魔の手は、コルトムのみならず、舵故障を起こしていた3番艦イルマリンラにも及んだ。
イルマリンラは必死に防戦を行い、駆逐艦1隻を撃沈したが、残った駆逐艦4隻が距離2000グレル(4000メートル)で
魚雷を放ち、5本を右舷に命中させた。
イルマリンラも艦腹に大穴を開けられ、機関系統が全滅したため、洋上に停止して海中に没しようとしている。

「ナルファトス教に仇なす邪教徒共を、ここで皆殺しに出来ると思ったのに・・・・・・」

クガウログは、脳裏に忌々しい戦艦の名前を思い出す。

「アイオワ級戦艦さえいなければ・・・・・・貴様さえいなければ!!」

彼は、力の限り絶叫した。艦橋にいた艦長や司令部幕僚、兵員が仰天した表情を浮かべる。
あの2隻の巨大戦艦さえいなければ、4隻のリグランバグル級戦艦は思う存分に戦えたであろう。
だが、あの2隻の戦艦が有するとんでもない主砲のせいで、リグランバグルは大破し、ケリムガルダは轟沈の憂き目を見た。
2隻のアイオワ級戦艦が戦列に加わったお陰で、マオンド軍期待の新鋭戦艦部隊は、文字通り全滅したのである。

「し、司令官。」

幕僚が、恐る恐る話しかけてきた。

「心配するな。」

クガウログは、意外にも明瞭な口調で幕僚に答えた。

「ただ叫びたかっただけだ。発狂はしておらんよ。」

彼は、戦闘前と変わらぬ(若干陰りがあるが)不敵な笑みを浮かべた。

「ひとまず、俺達は任を果たした。残った残存艦は撤退させよう。旧式戦艦部隊も敵の有力な艦隊を釣り上げたようだからな。
これで、舞台は整った。」
(後の仕事は、あいつらに任せよう)
クガウログは最後まで言わなかった。彼は、心中で悔しさと満足感がない交ぜになりながらも、残存部隊に撤退命令を下した。


午後11時10分 第7艦隊旗艦オレゴンシティ
重巡洋艦オレゴンシティの作戦室は、暗然たる空気に包まれていた。

「・・・・・なんたることだ。」

第7艦隊司令長官であるオーブリー・フィッチ大将は、人生の中でこれほど暗澹たる気分を感じた事は無かった。

「長官!事は一刻を争います!」

バイター少将が珍しく、声をわななかせながらフィッチに言った。

「ここはひとまず、TG72.4をモンメロ沖に向かわせるべきです!」
「参謀長、TG72.4はモンメロ沖80マイル地点にいます。ここから全速で突っ走っても、2時間以上はかかります。」
「艦隊を派遣しても遅すぎます!ここは、夜間作戦が可能な空母から攻撃隊を飛ばすべきです!」

作戦参謀が言うが、航空参謀のマクラスキー中佐が首を横に振った。

「味方も混乱している状態で攻撃隊を飛ばすのは余りにも危険過ぎる。攻撃機が誤爆を起こしかねんし、味方撃ちに合う危険もある。」
「航空機もだめ、艦隊もだめとなると・・・・現地の護衛艦艇の奮戦に期待するしか。」
「護衛駆逐艦ぐらいしかないぞ!こんな状況で有力な敵艦隊と渡り合えるのか!?」

幕僚達の議論を聞きながらも、フィッチは、テーブルに置かれている紙にチラッと視線を移す。

「緊急 敵艦隊が輸送船団に接近中。敵の推定戦力は、戦艦1、巡洋艦2、駆逐艦6。」
「敵戦艦、巡洋艦の砲撃により護衛駆逐艦1沈没、同2大破。」
「避退中の輸送船1隻に敵弾命中。敵艦隊は尚も砲撃を続行中。」

モンメロ沖近海の味方艦隊から刻々と状況が伝えられている。
電文自体は淡々とした内容ではあるが、輸送船団が苦境に陥っている事は容易に想像が出来た。
(いや、まだ諦める訳にはいかない。輸送船団を護衛する駆逐艦は魚雷を積んでいるし、必要ならば攻撃機を飛ばしても構わないだろう。
まだ打てる手はある。)
フィッチは胸中で自分にそう言い聞かせた。

ここにして、モンメロ沖海戦の最終戦は、味方輸送船団の至近という予想外の場所で幕を開けることになった。
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