自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

202 外伝33

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725 :外伝:2009/02/25(水) 21:31:42 ID:xBb3.8PA0
昨夜から降り続いた雨が一段落したうす曇りの空の下
ジープと装甲車と自走砲からなる護衛を従えたトラックの車列が
道路とは名ばかりの泥濘の中をもがくように前進していた
「なんかものものしいですねえ」
補給物資を満載したGM製軍用トラックのハンドルを握る運転手のシェリー
(頭頂部にピンと立った二等辺三角形の耳とズボン飛び出した思わずモフりたくなる
ようなフサフサの尾がチャーミング)が言った
「最近何かと物騒だからな」
助手席に座るコンボイの指揮官
ラルストン少佐は右隣でパタパタと動く赤茶色の毛皮の塊りに手を伸ばそうとする
誘惑と戦いながら出来るだけ渋い口調を心がけて答えた
北大陸上陸以来快進撃を続けるアメリカ軍ではあったが
最前線の機械化部隊は往々にして兵站を無視して突っ走る傾向があり
伸びきった補給線をどう維持するかという問題が浮上していた
それまでの輸送手段といえば運河を利用した艀か荷馬車くらいしかなかった
ファンタジー世界である
いきおい陸上輸送はアメリカ軍が持ち込んだフォード、GM、ダッジ等のトラック群が
一手に引き受けることになる
チート国家の底力を見せ付けるアメリカは必要な数のトラックを供給することはできたが
運転手ばかりは工場で量産するというわけにはいかない
そこでアメリカ軍では現地採用の獣人を速成教育で運転手に仕立てた
臨時のトラック輸送隊をこの任務に当てることにした
レッドフォックス・エキスプレスと呼ばれたこの部隊は
妙齢の女性ドライバーが多かったため前線の兵士達に絶大な人気があったのだが
急進撃を続ける最前線部隊に補給を行うためには
残敵の掃討が済んでいない地域を走破せざるを得ない場合もあり
輸送隊と戦線後方に取り残されたシホールアンル軍との間で遭遇戦が行われるという
事態も発生していた
そこで今回のコンボイには護衛として第501対空大隊から分派された
M16自走砲―四連装の50口径機関銃は地上目標に対しても破壊的な威力を発揮する
ことからミートチョッパーと呼ばれている-二両と第25騎兵偵察中隊のM8装甲車二両
そして第714戦車駆逐大隊から抽出されたM18戦車駆逐車四両が加わっていた
今回初参加のM18はトーションンバーサスペンションを採用したスマートな外観で
一見戦車のようだが砲塔はオープントップで装甲も機関銃弾に耐えられる程度のもの
でしかない

726 :外伝:2009/02/25(水) 21:32:27 ID:xBb3.8PA0
そのかわり機動力は装軌式戦闘車輌としてはトップクラスで道路状態が良ければ
時速50マイルオーバーの最高速度を発揮できる
武装はM4中戦車の後期型と同じ52口径76ミリ砲を装備しており
主力戦車と同等の火力と快速を生かしたヒットエンドラン戦法で
戦車狩りに活躍することが期待されていたのだが転移後の戦場では
狩るべき敵戦車はおらず通常の自走砲のように火力支援を行うか
軽快なフットワークを活用した威力偵察などに用いられていた
今回はトラックに追走できる足の速さを買われての起用である
こうして三十台を越すトラックと二両の装甲車
四両の戦車駆逐車と二両のMGMC(多連装銃搭載車)からなるコンボイは
無数の無限軌道に掘り返された未舗装道路をガタピシと揺れながら最前線の
補給ポイントであるティレルの街に向って行進していたのだが
「あれ?」
先頭のトラックを運転していたシェリーがブレーキを踏んだ
「いきなりどうした?」
突然の急ブレーキにつんのめったラルストンが問い掛ける
「いやなんかおかしいような…」
シェリーは交差点に立つ道路標識をじっと凝視している
そこにやって来たのはM3短機関銃を小脇に抱えMPの腕章を付けた中尉だった
「どうかしましたか?」
「あの~私のカン違いかもしれないんですけど、こっちはティレルへ行く道じゃ
ないと思うんです」
標識が示す方向を指差してシェリーが言う
「成程、それは貴女のカン違いですね。私は二時間前にこの道を通って
ティレルから来たばかりですから」
どこか俳優のタイ・ハーディンに似た二枚目のMPが微笑むと墓石のように白い歯が
陽の光を反射してキラリと輝く
「もう一つ考えられることがあるぞ」
ラルストンが口を挟んだ
「君が嘘をついているとしたらどうだ?」
何気ない口調だが言葉の裏にピンと張り詰めた何かがあった
「何をおっしゃりたいんです?」
「情報によると敵は後方撹乱のためアメリカ兵に成り済ます訓練をした兵士を
用意しているらしい」
いつのまにかラルストンの手は腰のホルスターに収まったGIコルトに置かれている

727 :外伝:2009/02/25(水) 21:33:13 ID:xBb3.8PA0
「君の郷里(クニ)はどこだ?」
「アイダホですよ、州都はボイシで特産品はポテト。私が生まれたのは
ロッキー山脈の麓のケチャムというド田舎です。これでいいですか?」
「その程度の情報は捕虜から入手できるからな」
ラルストンは警戒を解かない
あるいは色男に対する本能的な反感かもしれない
(ラルストンはカール・マルデンに似ていた)
「あの、本当に私のカン違いかもしれないですから…」
可哀想なくらいに狼狽するシェリー
「それではとって置きの小噺を披露しましょう、シホットが逆立ちしても思いつかない
アメリカンジョークの真髄を!」
「面白い、やってみろ」
いいのかそれで?
「シャーロック・ホームズとワトソンがキャンプに出かけた。ある晩、ワトソンを
叩き起こしたホームズは満天の星空を指差して何か気付いたことはあるかと聞いた。
ワトソンは大宇宙の神秘とロマンについて滔々と語ったあと君は何に気付いた?と
尋ねかえした。ホームズは言った『誰かにテントを盗まれたんだよ!』HA!HA!
HA!」
ペシペシと膝を叩いて大笑いするMPに生暖かい視線を注ぐラルストン
「オーケー、そんなくそつまらないジョークで大笑いできる奴は間違いなく
アイダホ出身だ」
本当にいいのかそれで?
「バカタレが」
道路標識に従い行軍を再開したコンボイを見送ったMP-シホールアンル軍第303特殊
作戦部隊のカストリ・ブチョン中尉-は唇を歪めると獲物が罠に掛かったことを知らせる
魔法通信を送った

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