自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

211 第163話 D-day (中編)

最終更新:

tapper

- view
だれでも歓迎! 編集
第163話 D-day (中編)

1484年(1944年)7月26日 午前9時 ジャスオ領フィグミムント

エルネイル海岸より50ゼルド(150キロ)離れたフィグムミントにある中部方面軍総司令部では、
総司令官であるウリンド・テイマート大将を始めとする司令部要員が、早朝から作戦室に詰めていた。

「海岸地区の守備隊は、依然として健在ではありますが・・・・既に第105軍団の戦区ではいくつかの防御線が
突破され、敵部隊の一部は内陸に進出しつつあります。」

参謀長がやや口調を震わせながら報告しつつ、机に置かれている作戦地図をなぞる。

「それに加え、先ほど、第101軍団の陣地でも連合軍部隊が突破したとの情報が入ってきました。報告によりますと、
この方面の敵部隊はバルランド軍であるとの事です。」
「バルランド軍だと?」

テイマートは怪訝な表情を浮かべた。

「アメリカ軍なら・・・・まぁ話は付くが、武器の装備は我々と対して変わらん筈のバルランド軍が、あの防御戦を
こうも短い時間で突破できたのか?」
「は・・・・誠に申し上げにくいのですが・・・・・」

参謀長はハンカチで首や額を吹きながら説明を続ける。

「情報では、バルランド軍は、アメリカ軍が使用していた武器を手に、我が軍の部隊を攻撃した、と言われています。」
「何?」

テイマートの表情が凍り付く。

「おいおい、それは嘘だろう?」
「いえ。本当の事です。同じような報告は、このように多数上がっています。」

参謀長はおぼつかない動作で、クリップに止められた10枚以上の紙を取り出す。

「恐らく、アメリカ軍はバルランド軍に対して、大規模な武器援助を送ったのでしょう。」

作戦参謀が冷静な声音で発言する。

「でなければ、あのバルランド軍が強固な防御線を抜けるはずがありません。それに、ミスリアル軍と
思しき部隊も、同様にアメリカ製の兵器を使用しているとの情報も入ってきています。もしかしたら、
アメリカ軍はバルランドのみならず、南大陸諸国の武器を送っているかも知れません。」
「・・・・・なんたることだ。」

テイマートは苦々しげに呟く。

「自国軍のみならず、他国にまで充分な武器を送る事が出来るとは・・・・アメリカ人め!!」

彼は腹立ち紛れに喚いた。

「閣下、本国の総司令部より魔法通信であります。」

唐突に、司令部付きの魔導士が作戦室に入るなり、テイマートに走り寄って来た。
その魔導士は紙を渡すと、足早に作戦室から出て行った。
司令部付きの魔導士達は、前線部隊から送られてくる魔法通信の対応に追われているためかなり忙しく、
しまいには高級将校である魔導参謀までもが、その仕事に駆り出される程である。

「本国の総司令部が第9軍の投入を急げと言っておる。それに加え、第20軍を明日中までに、この戦線に
注ぎ込めとまで言っている。」

テイマートは目線を紙から、机の上に置かれている地図に移す。
第9軍は、本来なら街道を通過して海岸陣地へ赴く筈であったが、交通の要衝である拠点の全てを米第10空挺軍団によって
抑えられているため、街道は塞がれてしまった。
地図上には、第9軍の各隊がそれぞれの拠点の近くまで迫っているのが、駒で表されているが、その駒は1時間前から全く動いていない。
一番、敵と近い位置にいる部隊でも、距離は3ゼルド近くも離れている。

「第9軍はまだ突入を開始せんのか?」
「は・・・・・早朝の空襲で、先頭部隊は大損害を受けておりますので、戦力の再編には思いのほか時間が掛かっているようです。」
「あとどれぐらい掛かる?」
「せめて、あと2時間ほどかと。」

参謀長は単調な口ぶりで言うが、その次の瞬間、テイマートの怒声が室内に響いた。

「遅い!遅すぎる!」

彼は怒鳴りながら、左手で思い切り机を叩いた。

「敵の大軍が既に上陸しておるのだ!敵の進撃を抑えるには、第9軍の現地到着がどうしても必要だ!参謀長、第9軍に命じよ。」

テイマートは、有無を言わさぬような口ぶりで参謀長に言った。

「第9軍は1時間以内に準備を完了し、各拠点の攻撃を敢行せよ。損害にかまわず進ませるのだ。それと、ワイバーン隊にも
護衛の強化を依頼しろ。」
「はっ、分かりました。」

参謀長は、テイマートの強引な命令を受け取るしかなかった。

「夕方までに、第9軍が海岸に取り付くか否か・・・・この結果如何で、戦争の行方は変わるぞ。それも、計り知れぬほどにな。」

午前9時10分 エルネイル海岸

上陸作戦が開始されてから、早1時間半が経った。
第3海兵師団は、第1海兵師団と共に海岸要塞の防御戦を突破しつつあったが、敵部隊の大半は要塞内部に立て籠もり、
海兵隊と激しい戦闘を繰り広げていた。
第3海兵師団に所属しているルエスト・ステビンス中尉は、自らの小隊を率いて、海岸に居る部隊を攻撃しているトーチカに
攻撃を仕掛けようとしていた。
トーチカの銃眼からは盛んに光弾が放たれている。
魔導銃は銃眼にある物だけではなく、その側の塹壕にも、左右に1丁ずつ設けられている。

「あの2丁は、慌てて取り付けたようですね。」

スタンパート曹長が鏡で敵陣の様子を見ながら、ステビンスに言った。

「第3小隊の連中は配置に付いてるか?」
「ええ。準備完了のようです。」
「よし、やろう。迫撃砲をぶち込めと伝えろ。」

ステビンスは、通信兵に向けてそう指示を下す。10秒ほど経ってから、橋頭堡から撃ち上げられた60ミリ迫撃砲弾が降り注いだ。
敵陣の辺りで迫撃砲弾が落下し、猛烈な爆発音が響き渡る。
迫撃砲弾は、待ち構えていた魔導銃の射手を吹き飛ばし、塹壕に命中した砲弾は交代要員として待機していたシホールアンル兵を爆殺する。
とある1弾はトーチカの天蓋に命中した。砲弾が命中した瞬間、魔導銃を撃っていた射手が突然の衝撃に驚いて射撃を止めた。
砲弾の炸裂によって、敵陣の周辺は爆煙に覆われてしばし視界が隠れてしまった。

「今だ、突っ込め!」

ステビンスが命じるや、小隊の将兵達は隠れていた砲弾穴から一斉に飛び出した。
煙の向こうから、構えられていた魔導銃が唸った。
射手は吹き飛ばされていたが、脇で待機していた別の兵員が戦死した戦友の代わりに務めを果たそうとしたのであろう。

「うっ!」
「ぐは!」

後ろで悲鳴が上がったが、ステビンスはそれに構うこと無く突っ込んだ。
煙を抜けると、目の前には魔導銃を撃ちまくる軽鎧姿のシホールアンル兵が居た。
そのシホールアンル兵は、ステビンスの姿に驚いて、銃身を向けた。
ステビンスはシホールアンル兵が魔導銃を放つよりも早く、ガーランドライフルを連射した。
パンパンパン!と、7.62ミリ弾が銃口から放たれる。3発全てがシホールアンル兵の胸や肩に命中した。
銃撃を受けて仰け反るシホールアンル兵を飛び越えて、彼は塹壕内に飛び込む。
右側面の攻撃を担当した第3小隊も敵陣を突破したのだろう、幾人かの兵が塹壕に飛び込むのが見えた。
20メートルほど離れた正面にはトーチカがあった。そこから4人のシホールアンル兵が飛び出してきた。
その4人はいずれもクロスボウを持っていた。ステビンスはその4人に銃弾を叩き込んだ。
5連射した後にカラン!という音が鳴って、ライフルからクリップが吐き出される。
2人が腹、あるいは足を押さえて倒れ込む。残る2人がステビンスにクロスボウを放ってきた。

「おわ!?」

ステビンスは咄嗟に寝転んで、クロスボウの矢をかわす。矢が頭上を通り過ぎたとき、一瞬、肩に鋭い痛みが走った。
ステビンスを追ってきた部下達がこの2人のシホールアンル兵に向けて銃を撃ちまくった。
ガーランド、トミーガン、BARといった様々な銃が弾丸を吐き出す。
2人のシホールアンル兵は逃げる間も無かった。彼らは腹や胸に銃弾を受け、血を吹き出して仰向けに倒れた。

「小隊長、無事ですか!?」

スタンパート曹長が慌てた様子でステビンスに聞いてくる。

「ああ、大丈夫だ。矢がかすっただけさ。」

ステビンスは右肩の傷を見ながら、気丈な口ぶりで答えた。

「さて、敵の本丸を潰すぞ。」

彼は銃に弾丸を込めつつ、トーチカの入り口に向けて顎をしゃくった。
ステビンスを先頭に、小隊の部下達がトーチカの入り口の側面から近付く。
反対側からは、第3小隊の兵もやって来た。

「第3小隊か!?」
「はい。そうであります。」
「小隊長はどうした?」
「小隊長はシホットの魔導銃にやられました。今は衛生兵が手当をしています。」
「そうか・・・・畜生。」

ステビンスは憎らしげな口ぶりで呟いた。

「おい、その火炎放射器の燃料は残っているか?」

彼は第3小隊のとある兵に聞いた。

「はい。今日は1度も使っていないのでたっぷりとあります。」

その歩兵が答えた瞬間、内部から魔導銃の発射音が響いた。
七色の光弾が入り口から吐き出され、正面にあった塹壕の板材や壁の破片が飛び散る。

「今から手榴弾を中に放り込む。敵の銃撃が止んだ隙に、中の奴らをそれで掃討しろ。分かったな!?」
「はい、分かりました!」

歩兵が答えた時に、またもや内部から銃撃が加えられる。石の破片が飛び散り、白煙が周囲を覆う。
ステビンスは銃撃を恐れることなく、残っていた最後の手榴弾を投げ込んだ。

「伏せろ!」

彼がそう叫ぶと、入り口に近寄っていた兵達は、慌てて体を側に遠ざけた。
バーン!という爆発音がなった。その直後に中から悲鳴が聞こえる。

「今だ、やれ!」

ステビンスは歩兵に対して命じる。歩兵はすかさず、入り口の前に立つと、火炎を盛大に吹き掛けた。
4秒間ほど火炎を放射してから、歩兵は脇に退いた。
唐突に、入り口から火の塊が飛び出してきた。火の塊は、火炎放射器によって全身火達磨となったシホールアンル兵であった。
断末魔の悲鳴を上げながら飛び出した敵兵は、ステビンスと目が合うや、すぐに抱きつこうとした。
ステビンスはガーランドを向けて引き金を引く・・・・だが。

「弾が出ない!?」

ステビンスのライフルはウンともスンとも言わない。目の前の火達磨は急速に近寄っていた。
もはや駄目かと思ったその刹那、スタンパートがコルトガバメントを抜き、弾倉に入っていた弾丸を全て撃ち込む。
体の全身に銃弾を浴びた火の塊はビクンと体を震わせた後、仰向けに倒れた。

「ふぅ・・・危なかったですな。」

スタンパートは安堵したような口ぶりでステビンスに言う。

「あ、ああ。」

ステビンスはなんとか言葉を返したが、彼の内心は、これまでにない恐怖感に覆われていた。

「ライフルが撃てなかったようですが。」

「ああ。どうしてか分からんが、引き金を引いても弾が出ない。すぐに原因を調べないとな。それよりも、
なんでそいつを使わなかった?」

ステビンスは、スタンパートが肩に提げているトミーガンを指さした。

「運悪く、弾が切れちまったんですよ。それで、こいつを使ったんです。」

スタンパートは苦笑しながらも、トミーガンから空になった弾倉を抜き、代わりに弾の込められた弾倉を装填する。

「とにかく、これで敵のトーチカは潰せましたな。」

スタンパートは落ち着いた声音で言った。

「さて、次はどこを潰せと言われるかな。この半減した戦力で。」

ステビンスは皮肉めいた言葉を言いながら、トーチカの入り口前に集まった部下達を見つめる。
既に、小隊の戦力は上陸前の半数以上しか残っていない。おまけに、弾薬の残りも少なくなっている。
この状態で新たな敵陣を潰せと命じられるのは、出来れば避けたかった。

「小隊長、中隊長より命令です。今より第3小隊を第2小隊の指揮下に組み込み、20分後に内陸へ前進しろとの事です。」
「第3小隊を指揮下に組み込めだって?」

ステビンスは驚きの余り声が上ずった。

「うちの小隊も、戦力は半数程度しか残っていません。」

第3小隊を率いていたひげ面の曹長がステビンスに言う。

「5人は死んで、残りは病院船送りです。小隊長も、じきに後送されるでしょう。」

「こりゃ参ったね。」

ステビンスは苦笑しながら肩をすくめる。

「中隊長の命令とあらば仕方ない。これから、君達は第2小隊の指揮下に入る。よろしく頼むぜ。」
「ええ。こちらこそ。」

その曹長は、汚れた顔(皆も同様であるが)に自信のある笑みを浮かべながら、第2小隊の指揮下に入る事を受け入れた。

第2進発部隊として洋上に待機していた、カレアント陸軍第1機械化騎兵旅団は、午前9時50分にリストヴァ・ビーチへ到達した。
第2機械化騎兵連隊第2大隊に所属しているエリラ・ファルマント曹長は、アメリカ海軍から貸し出されたLSTの艦上から、
盛んに黒煙を噴き上げている敵陣に見入っていた。
リストヴァ・ビーチには、バルランド軍の1個師団が上陸していた。
バルランド軍の上陸部隊は、シホールアンル側の猛反撃に遭いながらも敵陣に突入し、遂には敵の防御戦を突破するまでになった。

「ひぇ~、すげえなぁ。」

エリラは、隣から聞こえた声に眉をひそめた。

「見ろよ姉貴。丘にあるあの大砲!あれが生きていたら、今頃、俺達は船ごとばらばらになってたかも知れないぜ!」

隣で子供のようにはしゃぐ男の頭を、エリラはむっつりとした顔を浮かべながら、拳骨を撃ち込む。
ゴン!と、心地の良い打撃音が響いた。

「い・・・・てぇ。」
「グルアロス!少しは大人しくしな!」

エリラは腕を組みながら、頭を抑えている男に厳しい口調で言う。
その男は、今年1月始めに第1機械化騎兵旅団に配属されたグルアロス・ファルマント伍長であった。

ちなみに、エリラとグルアロスは姉弟である。

「全く、あんたは昔から変わらないんだから。」
「え~。この性格が好きだよ~、ていう人はかなり居るんだけど。」
「そりゃ、そいつらの目が腐ってるからよ。」
「ファメル旅団長も言ってたぜ。」
「あ・・・・・」

エリラは一瞬凍り付く。
目の前の弟・・・・憎らしいほどに美形であるこの男は、部隊内ではモテる男として知られてる。
そんな所がエリラは気に入らないのだが・・・・

「ま、まぁ。さっきの言葉はなしとして。とにかく、あんたの女遊びは余りにも酷すぎるわ。それに、
明るすぎるその性格はもうちょっと何とかならないの?」
「いや、これでも努力はしてるんだけどさぁ。任務中はしっかりやってるんだから、別にいいんじゃないかな?」

グルアロスはけろっとした口調でエリラに言う。

「そんなにツンツンしてっと、お空にいる彼氏に嫌われるぜ。」
「なっ!?」

エリラはその一言だけで顔が赤くなった。

「余計なお世話よ!」
「その通り、余計なお世話だな。」

エリラは後ろから掛けられた声を聞いて、ハッとなった。
振り返ると、そこには右目を眼帯で覆った美女が立っていた。

「旅団長閣下!」

エリラとグルアロスはすぐに直立不動の態勢を取る。

「実戦を前にして、早くも意気が上がってるね。姉弟で議論を重ねるのもいいけど、ほどほどにしないといけないよ。」

ファメル・ヴォルベルク准将は、ファルマント姉弟に対して穏やかな口調で言った。

「君達は姉弟であると同時に、同じ車輌のメンバーでもあるんだから、議論を重ねて互いに機嫌を悪くするのは良くないぞ。
話の続きは、一通り仕事が終わってからにしよう。」
「「ハッ!」」

ファルマント姉弟は張りのある声音でヴォルベルク准将に返した。

「健闘を、祈るよ。」

彼女は、2人にそう言い放つと、艦橋に戻っていった。

「ふぅ、相変わらず、旅団長閣下はカッコイイなぁ。」

エリラは憧れの表情を浮かべて独語した。

「姉貴、そろそろ装甲車に乗り込もうぜ。」
「そうね。車長が部下に遅れるんじゃ、示しが付かないしね。」

エリラはニカっと笑うと、早足で愛車に戻った。

それから10分後に、エリラの乗るM-6スタッグハウンド装甲車はリストヴァ・ビーチの海岸に上陸していた。
エリラは砲塔の扉から上半身を出して、部隊が揚陸される様子に見入っていた。

旅団を運んでいたLSTからは、旅団の主力兵器であるM3グラント戦車やM10駆逐戦車、M6装甲車等が
次々と海岸に下ろされていく。
エリラは、M6装甲車で編成された第3機械化騎兵大隊に所属している。
エリラは第3大隊の第2中隊第3小隊の中の3番車の車長を務めており、つい最近行なわれた、米第4機甲師団との
模擬戦では、第3小隊の僚車と共に対抗部隊を罠におびき出すという功績を挙げている。
ちなみに、エリラ車は模擬戦の最中に被弾して、乗員全員が戦死判定を受けているが、彼女はその雪辱を、この実戦で
晴らそうと、密かに意気込んでいた。

「この調子だと、正午までには旅団の全部隊が上陸出来そうですね。」

運転手を務めていた犬耳の女性兵がエリラに言う。

「そうね。午後からは本格的に前進出来るわね。」
「それまでに、シホールアンル軍の空襲を受けなければ良いんですけど。」

横から無線手のグルアロスが入ってきた。
軍務の際は、グルアロスは部下であるから、エリラとは自然に敬語で会話している。
彼女は視線を、揚陸中の味方部隊から背後にあるシホールアンル軍の海岸要塞に向ける。
エリラ達の上陸したリストヴァ・ビーチには、シホールアンル側の要塞砲が重点的に配置されていた。
上陸前の艦砲射撃の際、アメリカ戦艦のコロラド、ウェストバージニアを始めとする砲撃部隊がこの海岸地帯を攻撃したが、
未だに健在であった18門の要塞砲が猛然と反撃し、しばしの間激しい撃ち合いが繰り広げられた。
この時の戦闘で、米戦艦ウェストバージニアが主砲塔1基を使用不能にされたほか、左舷側の対空火器が全滅し、中破の損害を被った。
また、続行していた戦艦コロラド、重巡洋艦サンフランシスコも多数の命中弾を受け、コロラドは後部艦橋や対空火器を吹き飛ばされて
大火災が発生し、サンフランシスコは全主砲塔を失い、大破した。
被害は巡洋艦のみならず、駆逐艦などの小艦艇にも及び、米側は駆逐艦サンズが撃沈され、バルランド側は駆逐艦2隻が大破した。
だが、健闘したシホールアンル軍の要塞砲も、数で勝る連合軍側の砲撃部隊に次第に押され、交戦開始から20分が経過した頃には、
健在であった要塞砲は1つ残らず破壊された。
要塞砲が沈黙した後は、上陸予定地点に艦砲射撃が加えられたほか、陸軍機90機による銃爆撃が行なわれた。
その後、バルランド軍第32歩兵師団が上陸し、少なからぬ犠牲を払いながらも防御戦を突破した。

バルランド軍の部隊は、アメリカ側から供与された小銃や火器を効果的に使い、頑強に抵抗していたシホールアンル軍を
追い詰めつつあった。
バルランド軍部隊の猛攻の前に、シホールアンル軍部隊の中には独断で後退する部隊も現れ、リストヴァ・ビーチの
敵防御線は早くも崩壊しつつあった。
上陸作戦の第1段階はまず、成功と言えるだろう。
問題はこれからである。

「いかに大口径砲といえど、アメリカ戦艦の16インチ砲弾を食らっちゃおしまい・・・か。」

エリラは小さく呟きながら、破壊された要塞砲を見つめる。
コンクリートに似た分厚い石造りの要塞砲陣地は、米戦艦の集中砲撃を受けた事で、天蓋がまくれ上がり、
中から突き出ていた12ネルリ口径の砲身がぐにゃりと折れ曲がっている。
要塞砲陣地の内部にはまだ可燃物が残っているのだろう、破壊されてから2時間以上が経った今でも、
盛大に黒煙を噴き上げている。

「あたし達も、ああならないようにしなきゃ。」

彼女は、小声で自らの決意を述べた。
そのまま20分ほど時間が流れた。
グルアロスは、不意にとある無線通信を傍受した。

「ん?やけに慌てているようだが。」

彼は1分ほど、その交信に聞き入った。

「車長!」

彼は緊迫した顔つきになって、姉・・・もとい、上官であるファルマント軍曹を呼びつけた。

「どうしたの?」
「これを聞いて下さい!」

彼は無線機から流れる音声を彼女のレシーバーに繋いだ。


午前10時20分 プリシュケ

午前10時から始まったシホールアンル軍の攻勢は、まず、野砲から放たれる連続射撃によって幕を開けた。
第115旅団は、プリシュケ市街地と、東側の郊外に陣を構え、敵を待ち受けていた。
住民達は危険を察知して、早朝までには町を抜け出していたため、町には第726連隊と、グライダー降下した
砲兵隊及び、対空部隊が残るのみとなった。
南側のリミステミも同様であり、ここには第727連隊と落下傘砲兵中隊、対空部隊と旅団司令部が布陣している。
20分近くに渡って行なわれた事前砲撃の後、シホールアンル軍はキリラルブスを先頭に押し立てて進撃してきた。
第726連隊第1大隊B中隊所属のアールス・ヴィンセンク軍曹は、町の東側入り口にある橋の前の塹壕で配置に付いていた。
彼らの塹壕のは、鬱蒼と茂る林があり、前方には藪で覆われている。
その真ん中に開かれた道の向こうから、多数のキリラルブスが迫りつつあるのが見える。

「あれがキリラルブスっていうストーンゴーレムか。なんて気持ちの悪い動き方だ。」

アールスはあからさまに顔をしかめながら、そう吐き捨てる。
確かに、彼の言うとおりである。
これまで、戦車等の装甲車両を見慣れた者からの目線では、4足歩行で車体をガクンガクンと上下しながら動くキリラルブスは、
異形の怪物に他ならない。
傍目から見れば、まるで首無しの巨大な類人猿がのっしのっしと歩いているようだ。
キリラルブスを初めて目にする者にとっては、それほど印象に残る動きであった。

「敵との距離、2000メートルを割りました。」

部下の2等兵が、双眼鏡で敵の隊列を眺めながらアールスに報告する。
アールスも、胸に下げていた双眼鏡を手にとって、目の前の敵部隊を見る。

「キリラルブスの後ろに、7、8人の歩兵が続いている。中には、歩兵を乗せている奴もいるな。部隊の規模は、
少なくとも2個大隊以上か。」
「下手すると、連隊規模はいるかもしれません。」
「ほぼ同単位での戦闘か。敵にはキリラルブスという曲者が付いている分、俺達は不利だな。」

彼はそう呟きつつも、後ろで待機している2名の部下に目線を向けた。
2名の部下のうち、伍長の階級章を付けた女性兵はM1バズーカを担いでいる。
その隣にいる1等兵は砲弾の装填係である。

「しかし、俺達にも備えはあるぞ。どこまで戦い抜けるか、試してみるか。」

アールスは不敵な笑みを浮かべながら、前に顔を向けた。
敵部隊は、時速10キロにも満たぬ低速でじりじりと進みつつあり、距離は縮まっていく。
敵との距離が1.5キロまで迫った時、後方に布陣していた砲兵隊が砲を一斉に撃ち放った。
敵の事前砲撃の際にも、火点が暴露される事を恐れて沈黙していたM1A1榴弾砲だが、砲兵はここぞとばかりに撃ちまくった。
前進するシホールアンル軍部隊の周囲に次々と弾着が起こる。
あまり数は多くない物の、事前に照準を合わしていた砲兵隊の射撃精度は良好であった。
1台のキリラルブスが至近で榴弾砲の爆発を浴びる。
石の背中に張られた装甲板は乗員を守ったが、キリラルブスの4本あるうちの2本が砲弾穴に突っ込まれる。
唐突にバランスを崩し、右側に傾斜した状態でそのキリラルブスは止まった。
魔導士兼車長でもある操縦手が慌てて砲弾穴から足を抜こうとしたが、そこに別の砲弾が落下してきた。
1発の75ミリ砲弾は、体勢を立て直そうとしていたキリラルブスの操縦席に命中した。
命中した瞬間、3名のシホールアンル兵は肉片にまで砕け散る。
その直後、搭載していた予備弾薬に引火し、キリラルブスは大爆発を起こした。
別の砲弾は、後続していた歩兵の群れの近くで爆発する。
無数の破片が軽鎧を着た歩兵達に突き刺さり、ある者は瞬時に絶命し、ある者はすぐには死にきれず、悲鳴を上げて地面を転げ回る。

75ミリ榴弾砲の射撃は続けられ、前進するシホールアンル軍部隊に出血を強要していく。
またもや1台のキリラルブスが榴弾砲の爆発によって傷を負う。右の前足の至近に砲弾が炸裂し、前足の根本にひびが入る。
その時点では、このキリラルブスはまだ健在であると思われた。
だが、右の前足が地面に設置した瞬間、前足は重量の耐用限界に達し、20トン近くある体を支えきれなくなった。
いきなり、右の前足がぼきりと折れ、キリラルブスは大きく姿勢を崩す。
操縦手が異変に気付いたときには既に遅く、キリラルブスは前にへたり込むようにして擱坐した。
この擱坐したキリラルブスに、後ろから避け損ねた別のキリラルブスが激突した。
真後ろから突っ込んできたそのキリラルブスは、擱坐した僚車の操縦席を完全に押し潰してしまった。
砲兵隊の阻止砲撃によって、前進していたシホールアンル軍部隊は次々と斃れていく。
だが・・・・

「こちら第1防衛線!阻止砲撃により、敵の損害は大なれども、敵部隊は依然前進中!」

通信兵が中隊本部に向けて報告を送るのを聞きながら、アースルは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。

「畜生め。シホットの奴ら、いくらでも居やがるぞ!」
シホールアンル軍は、砲兵中隊の砲撃を食らいながらも、損害なぞ知った事ではないとばかりに前進を続けている。
そこらに転がるキリラルブスや戦友の死体を乗り越えながら、敵は防御線との距離を詰めていく。
不意に、先頭を歩いていたキリラルブスがやにわに速度を上げた。
そして、距離が600メートルに近付いたときに急停止する。
その直後、胴体上の搭載砲から砲弾が放たれた。
唐突に、防御線のすぐ目の前に爆発が起こり、爆炎と共に煙と土砂が派手に舞う。
それをきっかけに、キリラルブスは次々と発砲を開始する。
1発の砲弾が、アースルの守備している塹壕の近くで炸裂する。ドーン!という轟音が鳴り、地面が揺さぶられる。
体に吹き上がった土砂が落ち、戦闘服が泥だらけになる。
キリラルブスは、砲撃を繰り返しながら防御線に近付く。そのキリラルブスも、後方の砲兵隊から砲撃を食らう。
距離が近付いた事もあって、迫撃砲弾も降ってきた。
榴弾砲や迫撃砲の攻撃によって、キリラルブスは近付く度に1台、また1台と擱坐していく。
とある1台のキリラルブスは、迫撃砲弾の炸裂によって操縦手が戦死し、動けなくなった。

残った2人の搭乗員は慌てて地面に飛び降り、後ろに向けて逃げようとするが、そこに榴弾砲が着弾して、この2人を抹殺する。
ある迫撃砲弾は、激しい砲弾幕の中を必死に付いてきた歩兵分隊の至近に着弾し、まとめて吹き飛ばした。

「いいぞ。この調子なら、シホット共の前進を止められるかも知れない。」

アースルは、半壊状態に陥った敵の前進部隊を見つめながら期待するように呟く。
だが、シホールアンル側も損害に構わず突き進む。
キリラルブスは停止、発砲、前進を繰り返しながら、ついに防御線より200メートルの位置に近付いてきた。
キリラルブスは、搭載砲を撃つだけではなく、いつの間にか追加された魔導銃を撃ち始めた。
複数のキリラルブスから七色の光弾が迸る。その光弾は、生い茂る林に隠れるようにした味方を追い立てるように注がれる。

「伏せろ!」

彼は、光弾の束が右側からこちらに向けて薙いでくるのが見え、咄嗟に部下達へ告げる。
アースルの声を聞いた部下達は慌てて伏せた。
アースル自身も伏せた直後、頭上を多量の光弾が通り過ぎ、光弾の命中を食らった木がバリバリ!と音を立てて引き裂かれ、
木屑や枝が地面に落ちる。
弾着が土砂を跳ね上げ、周囲に撒き散らされる。
攻撃は前線のみならず、砲兵隊にも及ぶ。
それまで、敵の前進部隊を撃ちまくっていた砲兵陣地に、シホールアンル側の砲兵隊が砲撃を加えてきた。
最初は見当外れの位置に着弾するが、照準は次第に合っていき、ついには1門の75ミリ砲弾が直撃弾を食らい、砲員共々粉砕された。
危険を察知した砲兵隊の指揮官は、急いで各砲兵陣地に退避せよ命じた。将兵が不承不承ながらも、砲兵陣地から退避し始めたとき、シホールアンル軍の大量の野砲弾が陣地に降り注いだ。
無人となった砲兵陣地は多量の野砲弾によって隙間無く耕され、砲兵隊の将兵にも少なからぬ死傷者が出てしまった。

「軍曹!大変です!」

通信兵がアースルに報告してきた。

「後方の砲兵陣地が、シホット共の砲撃で壊滅したようです!」

「くそ!」

アースルは罵声を漏らした。

「長時間、一方的に叩きまくるというのはやはり無理だったか!」

彼が悔しげな口ぶりで呟いた直後、10メートルと離れていない場所に砲弾が落下した。
ドーン!という爆発音が響き、爆風がドッと吹き込んでくる。
アースルは先ほどから伏せていたため、何とか無事であったが、それでも、背中の表面がごっそりと
もぎ取られそうになるほどの風圧を感じた。
アースルは爆風が収るまで待ってから、後ろに振り返った。

「おい、通信兵!しっかりしろ!」

彼は大声を出してそう叫んだ。先ほどまで、彼に刻々と情報を伝えていた通信兵が、脇腹から血を流して倒れていた。
アースルは慌てて通信兵を起こそうとするが、返事がない。
通信兵を仰向けにする。

「う・・・・軍曹、やられちまいました。」

通信兵は痛みに顔を歪めながら言う。

「待ってろ、今衛生兵を呼ぶ。衛生兵!衛生兵はおらんか!?」

アースルは周囲に向かって叫んだ。
しかし、いくら呼んでも衛生兵は来ない。彼は何度か叫んだが、衛生兵は一向に来なかった。
そのまま5分ほどが経って、ようやく衛生兵がやって来た。

「怪我人だ!こいつを後方にに運んでくれ。」

「了解しました。おい、担架だ!」

衛生兵は、随行していたもう1人の衛生兵に指示を下しながら、背負っていた通信機を外した。
もう1人は畳んでいた担架を広げ、指示を下した衛生兵と共に負傷した通信兵を、そっと乗せる。
2人の衛生兵は、飛んでくる光弾を気にせず、通信兵を運びながら、足早に防御線から離れていった。

「軍曹!キリラルブスが100メートルまで接近しました!」
「歩兵は居るか?」
「ええ、何人かが張り付いています。」
「ふむ、そろそろだな。」

アースルは何かを期待するような口調で言いながら、左右を見回した。その時、藪から何かが弾けた。
ドン!ドン!ドン!ドン!という重々しい連射音が鳴り、4条の火箭がキリラルブスやその後ろに居る歩兵へ注がれる。
火箭は右側から流れてきたが、それと入れ替わるようにして左側からも火箭が飛んでくる。
キリラルブスの車体に火花や白煙が上がる。その後ろの歩兵達は手足が吹き飛ばされたり、体に大穴を開けられたりして地面に倒れ伏す。
中には頭が粉砕されたり、体が両断されたりする者もいる。
横合いから行なわれた突然の射撃に、キリラルブスにつきまとっていたシホールアンル歩兵達は短時間で掃討された。

「流石はミートチョッパーだ。シホールアンル兵にならなくて良かったぜ。」

アースルは、目の前で繰り広げられる凄惨な光景に半ば戦慄した。
防御戦の両側には、グライダーで運ばれた対空部隊のM55-12.7ミリ4連装機銃が1基ずつ配置されていた。
この2基のM55機銃は、敵が防御戦から100メートル以内に接近したときに、敵の歩兵を掃討するために使用すると決められていた。
M2機銃は敵が至近距離に近付くときではなく、もっと遠くに居る時に使った方が良いのでは?という意見が多かったが、
火点が暴露されれば敵の砲兵隊やキリラルブスに攻撃される恐れがあったため、敵を引き付けてから使用する事になった。
4連装機銃の威力は、シホールアンル歩兵にとってはまさに悪魔的であり、多くの歩兵は何が起こったのか分からぬまま、
12.7ミリの高速弾に撃ち抜かれた。
2基の4連装機銃による十字砲火によって、キリラルブスに付いていた歩兵はほぼ掃討された。
後は、24、5台のキリラルブスが居るだけである。

「よし、今だ!対戦車戦闘!」

アースルは好機とばかりに、待機していたバズーカ班に命じた。
敵弾の飛来を恐れて地面に伏せていた2名のバズーカ班は、水を得た魚のように勢いよく起き上がり、藪から飛び出した。
バズーカ砲の射手であるリケルナ・ジェスティム伍長にとっては、まさに待ち望んでいた瞬間だった。
藪の中から相棒と共に飛び出し、キリラルブスに向かって走る。キリラルブスは、搭載している魔導銃を別の所に向けて撃っている。
彼女は、目標に定めた最先頭のキリラルブスから60メートルまで近付いた所で止まり、発射態勢に入った。
ラスム・レンド1等兵が彼女のヘルメットを2度叩き、装填完了と伝える。
ジェスティム伍長はM1バズーカを発射した。
砲口からロケット弾が飛び出し、キリラルブスの胴体上にある搭乗員室を守っている装甲板に向かっていく。
ロケット弾は、キリラルブスに命中した。
爆発エネルギーは搭乗員室のさして厚いとは言えぬ装甲板をあっさりと断ち割り、内部に居た3人の搭乗員は瞬時に抹殺する。
車体上面から猛烈な火炎を吹き上げたキリラルブスは、瞬時に動きを止め、その場にへたり込んだ。

「よし!まずは1台!」

ジェスティム伍長は快哉を叫びながらも、次なる目標を探す。今度の目標は、防御戦の右側に突進しようとしているキリラルブスだ。
このキリラルブスは、4連装機銃があった位置に魔導銃を撃ち込んでいる。

「あいつを狙うよ。装填して!」

ジェスティム伍長はレンド1等兵に指示を下す。レンド1等兵は無言で頷きながら、持っていたロケット弾を装填する。
装填間際に、後ろ振り向いて人が居ないかを確認する。
この頃には、各分隊に居たバズーカ班が前方に出ては、前進を続けるキリラルブスにロケット弾を次々と撃ち込んでいる。
2.36インチのロケット弾がキリラルブスの前足に命中し、石の体が不格好な姿勢で擱坐する。
脱出を図った搭乗員は、逃げようとした瞬間に防御線にいる敵に狙い撃ちされ、絶命する。
とあるキリラルブスは、ほとんど至近距離と言っても良い場所にいる2名のバズーカ班目掛けて大砲をぶち込む。
一瞬にしてそのバズーカ班は肉片に変えられ、周囲には叩き折られたバズーカや血飛沫が飛散する。
別のキリラルブスは、仲間のキリラルブスと共に魔導銃で近寄るバズーカ班を掃射する。

ほぼ遮蔽物のない場所に突出しているバズーカ班にとって、魔導銃に狙われる事は死を意味する。
たちまち、3チームほどのバズーカ班が撃ち倒された。

「小癪なアメリカ人め!この調子で皆殺しにしてやる!!」

キリラルブスの搭乗員は、次々と斃れ伏す空挺隊員に向かって嘲るような声音で叫ぶ。
そのキリラルブスに横合いからロケット弾が突き刺さった。乗員は何が起こったのか理解出来ぬまま爆殺された。
予備の弾薬に引火したキリラルブスは猛烈な爆炎を吹き上げ、その威力は、近くにいたバズーカ班はおろか、仲間の
キリラルブスですら吹き飛ばしそうな勢いであった。
他の仲間達とキリラルブスが死闘を繰り広げている中、ジェスティム伍長は2台目のキリラルブスを攻撃しようとしていた。
ヘルメットがトントンと、2回叩かれた。
彼女はバズーカの引き金を引く。
パシュン!という音と共に、2.36インチロケット弾が勢いよく飛び出す。
ロケット弾はキリラルブスの正面右にある魔導銃の取り付け位置に命中した。
爆発の瞬間、キリラルブスの車体から火炎と黒煙が上がる。しかし、致命弾には至らなかったのか、そのキリラルブスは
黒煙を吹き出しながらも4連装機銃座目掛けて走る。
だが、先の被弾で敵は魔導銃を破壊されており、キリラルブスは魔導銃を撃てなくなった。

「しぶといわね。もう1発食らわすよ!」

ジャスティムはレンドにそう命じ、砲弾を装填させた。三度、ヘルメットに装填完了の合図が伝わる。

「止めだ!」

ジェスティムは気合いを入れるように叫びながら、ロケット弾を撃ち出す。
撃ち放たれたロケット弾は、再びキリラルブスに命中した。
その瞬間、キリラルブスは車体上部から大爆発を起こし、しまいには体が真っ二つに分断された。

「これで2丁あがり!!」

ジェスティムはそう叫びながら、その美貌に女らしからぬ獰猛な笑みを浮かべる。

「さて、次」
「先輩!危ない!!」

彼女が次の獲物を狙おうとした時、レンドが彼女を横に引き倒した。その刹那、ブゥン!という音が鳴り、風圧が2人の体を叩く。
2人から20メートル離れた後ろで砲弾が着弾し、炸裂音と共に土砂が舞い上がった。

「危なかった・・・・キリラルブスの砲弾で、危うく串刺しにされるとこでしたよ。」
「うそ・・・・おっかねぇ・・・」

ジェスティムは、九死に一生を得た事を喜ぶよりも、心中で沸き起こった恐怖に身を震わせる。

「ひとまず移動するわ!」

彼女は恐怖心を振り払い、レンドに指示を飛ばす。

「あの擱坐したキリラルブスの陰に隠れよう。あそこなら、何も無い平原に居るよりは幾らかマシな筈。」
「確かに。そうとなれば早く行きましょう。まだ敵はうじゃうじゃ居ますからね。」

2人は同意するなり、足早に擱坐したキリラルブスへ向かった。
バズーカ砲が戦闘に参加し始めてから10分が経つ頃には、シホールアンル軍は完全に動きを止めていた。
アースルは、1台のキリラルブスが後退し始めている事に気が付いた。

「お、後ろに居たキリラルブスが逃げ始めたぞ。」

彼は、先とは打って変わった嬉しげな口ぶりで呟く。
その1台のキリラルブスに触発されたかのように、別のキリラルブスも後退を始める。
キリラルブスの近くに居た少数の歩兵もやはり、キリラルブスの後を追うようにじりじりと後退していく。

「おお、敵の前進部隊が後退を始めたぞ!」
「どうだシホールアンル野郎、新生レスタン軍の力を思い知ったか!!」

防御線の空挺隊員達は、後退していくシホールアンル軍を見るなり、次々に歓声を上げた。
だが、彼らの判断は間違っていた。
シホールアンル軍が後退を開始して5分ほどが経過した時、東の空から何かが現れた。

「・・・・なんてこった。ありゃ、敵のワイバーン隊だぞ!」

誰かが仰天したような口調で叫ぶ。
アースルは眉をひそめながら、東の空から飛んでくる飛行物体を睨み付ける。
翼を上下に動かしながら飛行している40以上の飛行物体。それは紛れも無く、シホールアンル軍所属のワイバーン隊の物だ。

「畜生、奴ら、航空支援を呼びやがったか!」

彼は憎々しげに叫んだ。
恐らく、シホールアンル側は余りの大出血に恐れを成して、待機していた航空部隊に支援を頼んだのであろう。
敵のワイバーン隊はあっという間に接近してきた。藪に隠されていた4連装機銃が真っ先に迎撃する。
対空機銃でもある4連装機銃は、正確な射撃で早くも1騎のワイバーンを撃ち落とした。
報復はすぐに返された。
6騎のワイバーンが3騎ずつに別れて、4連装機銃座に襲い掛る。
4連装機銃は近付かせてなるものかとばかりに機銃を撃ちまくるが、ワイバーンは航空機には無い超機動で射弾をかわし、
なかなか命中弾を与えられない。
機銃座が手間取っている間に、ワイバーンは距離300まで接近し、光弾を放った。
3機のワイバーンが通り過ぎ間際に光弾を放ち、機銃座を打ち砕く。
連続して発射された光弾は12.7ミリ機銃の銃身を叩き折り、装填機構を目茶苦茶に叩き壊した。
先の戦闘では、歩兵相手に悪魔的な威力を発揮した4連装機銃座だが、複数のワイバーンに狙われてはたまった物ではない。
短時間で2基の4連装機銃座が破壊されたあと、ワイバーン隊は次なる標的を、防御線に陣取る歩兵部隊に定めた。

「こっちに来るぞ!」

誰かが悲鳴じみた声を上げた。6騎のワイバーンが超低空で、横一列になって飛行してくる。スピードはやや遅めだ。

「みんな!ワイバーンの飛行進路から急いで離れるのよ!!」

聞き覚えのある声が響いたかと思うと、タコツボに隠れていた兵士達は慌てて飛び出した。
しかし、全員がタコツボから出る暇はなかった。
6騎のワイバーンは、陣地のある林の上空に到達するや、一斉にブレスを吹き掛けた。
ワイバーンの口から紅蓮の炎が吐き出され、それが林の木々や地面を舐める。
脱出のタイミングが遅れた数人の兵が、火炎攻撃に巻き込まれてしまった。

「ぎゃああああ!」
「た、助けてくれぇ!火がぁ!」

全身を炎に包まれた戦友達が、熱さに悶え苦しみ、のたうち回る。
聞くに堪えない断末魔の絶叫がしばし続いたが、その戦友達は地面に倒れ、やがて動かなくなった。
後方では爆発音が響いた。

「いかん、町が爆撃を受けている!」

アースルの横で、少尉の階級章を付けた男が叫ぶ。
プリシュケの市街地には、爆装した攻撃ワイバーンが襲い掛り、所構わず爆弾を放り込んでいた。
投下された150リギル爆弾が、無人の家屋を直撃し、瓦礫の山に変える。
別の爆弾は連隊の物資を集積していた家屋に命中し、少なからぬ数の食料や医薬品が一瞬にして吹き飛ばされた。
とある攻撃ワイバーンは、対空防御が無いのを見越して、ブレスを街道に居た旅団の将兵目掛けて吹き掛ける。
まさにやりたい放題の敵ワイバーン隊に、115旅団の将兵達はただひたすら、耐えるしかない。

「畜生、こっちの航空支援はどうしたんだ!」

アースルは苛立ち紛れに喚く。

「おい、通信兵から外した無線機を貸せ!」

彼は、負傷した通信兵の無線機を持っている兵を呼びつけた。アースルは、中隊長に航空支援の有無を問い質そうとした。
が・・・・・その必要はなかった。
西の空から、聞き覚えのあるエンジン音が響き始めたのはその時であった。


午前11時 ジャスオ領プリシュケ上空

第38任務部隊第1任務群から発艦した攻撃隊のうち、空母エンタープライズに所属する38機の第2次攻撃隊は、
午前11時を過ぎた時に目標地点へ到達した。

「こちら指揮官機。目標地点に到達した。エンタープライズ隊はこれより、115旅団の支援を開始する。戦闘機隊は
防御線を攻撃している敵の戦闘ワイバーン、並びに攻撃ワイバーンを。艦爆隊は平原地帯にいる敵の地上部隊を、
艦攻隊はカウペンス隊と共に、後方の砲兵陣地、並びに敵の後続部隊を叩け!」
「「了解!」」

無線機から、一斉に返事の声が響く。
この日、エンタープライズは早朝に、第1次攻撃隊48機を発艦させた後、上陸部隊からの要請を受けて、第2次攻撃隊である38機を発艦させた。
TG38.1からは、エンタープライズの他に、ヨークタウン、ホーネットからそれぞれ36機ずつ。
軽空母フェイト、カウペンスからはそれぞれ10機ずつが発艦している。
総計で130機の第2次攻撃隊は、上陸地点で戦闘中の連合軍部隊を支援する筈であったが、海岸上空に到達した直後に陸軍側から115旅団の
支援に当たって欲しいとの要請を受け、急遽エンタープライズ隊とカウペンス隊がプリシュケへ赴く事になった。
エンタープライズ隊は16機のF6Fと12機のSBD、12機のTBFで編成されている。
リンゲ・レイノルズ中尉は、第2小隊を率いながらケイン中佐の直率する第1小隊に後続していた。

「行くぞ!調子に乗っているシホット共を叩きのめしてやれ!それから、機銃を撃つ際には地上の味方に注意しろ!」

ケイン中佐の荒々しい声音がレシーバーから響いてくる。
編隊は小隊毎に別れ、第2小隊は今しも、白煙を上げる林に近付こうとしていた5機のワイバーン目掛けて突っ込んだ。

「あの編隊を味方の陣地に近付けさせるな!」

リンゲは小隊の僚機に指示を飛ばしつつ、横一列で飛行する5機の中から、一番左手に居る敵ワイバーンに狙いを付けた。
ワイバーン隊の方でも接近してくる4機のF6Fに気付いたらしく、一斉に向きを変えて上昇に転じる。
彼我の距離は急速に縮まる。リンゲは左手の敵ワイバーンから、真ん中の3番騎に狙いを変え、発砲のタイミングを計る。
距離が400メートルを切ったと直感したとき、リンゲは機銃の発射ボタンを押した。
両翼から6丁の12.7ミリ機銃が唸り、リズミカルな音と振動が機体に伝わる。
主翼の下面からは、6つの穴から吐き出された空薬莢が、微かに煙を引きながら空中に放り出される。
6条の火箭が3番騎に注がれた、と思われたが、弾は僅かに逸れたため、1発も命中しなかった。

「しくじった!!」

リンゲはそう言ってから舌打ちする。反撃だ、とばかりに敵の3番騎もリンゲ機目掛けて光弾を放つ。
しかし、この光弾もリンゲ機の上方に逸れて1発もあたらなかった。
しかし、2番機と3番機の射弾はワイバーンに命中した。
互いの編隊が通り過ぎた直後、リンゲ小隊の損害はゼロであり、逆に敵の小隊は5騎中2騎が撃墜された。
最初の正面対決では、リンゲ小隊がポイントを挙げた。

「まずは2騎。さて、本当の勝負はこれからだぞ。」

彼は、溢れる闘志を感じさせながら、指揮下の小隊を反転させた。

「すげえ、敵のワイバーンが追いまくられているぜ!」

地上で新たなワイバーンの攻撃を受けようとしていた115旅団の将兵は、航空支援に現れた戦闘機隊が暴れ回る様子に見入っている。
アースルは、先ほどまで地上部隊を蹂躙していたワイバーンが、逆に追われる立場になった光景を見て、言いしれぬ快感を覚えていた。

「あの機体はF6Fだ。となると、海軍の所属機だな。」
「動きが良いですね。」

部下の1人が感心した口ぶりでアースルに言う。

「あ、また1騎落としましたよ。あの4機のヘルキャット、交戦開始から僅か5分で5騎中4騎を落としています。」
「常に2機1組の姿勢を崩していないな。それに対して、敵のワイバーンはパニックを起こして、バラバラで戦うもんだから、
各個撃破の憂き目にあっている。」
「どこの航空隊ですかね?動きからして、パイロットはかなり腕利きが揃っているようですが。」

部下がそう呟いたとき、唐突に上空で甲高い音が響き始める。

「ねえ、この音って、もしや急降下爆撃機?」

彼と一緒に、分隊を率いてワイバーンの攻撃から逃れていたテレス・ビステンデル軍曹がアースルに聞いてくる。
先ほど、敵のワイバーンの火炎攻撃から逃げろと叫んだのは彼女である。

「どうやらそのようだ。」

彼は肩をすくめながらテレスに答える。ふと、高空から急降下を敢行する航空機の編隊が目に入った。
航空機の編隊は、風防ガラスをきらめかせつつ、真下の目標に向けて殺到していく。
真下の目標は、15分前までアースルらも含む部隊と死闘を繰り広げていた地上部隊の生き残りである。
航空機の高度が下がるにつれ、心なしか、甲高い音が更に高くなっているように思える。
(この音を真下で聞かされたら、どれほど大きいんだろうか?)

アースルはふと、そんな事を思った。
彼が心中で目標となる敵に思いを馳せ始めた時、航空機の真下にいた目標に爆炎が沸き起こった。
航空機の編隊がこちらに向かってくる。アースルはその機影を凝視した。
エンジン音を吹かしながら近付いてくるその機体には見覚えがあった。機首にある小さめのプロペラスピナーにやや太めの胴体。
上空を通り過ぎると、その胴体の後ろは妙に細く、代わりに垂直尾翼はやや大きい。
開け放たれた座席からは、露わになったパイロットと機銃手が手を振っていた。

「ありゃ、ドーントレスだ。」
「ドーントレスって、ヘルダイバーよりも古い機体のあれ?」

アースルの言葉に、テレスは首を傾げながら聞いてきた。

「ああ、そうだよ。あのドーントレスだ。アメリカがこの世界に召喚されて以来、西はマオンド戦線から、果てはこの北大陸まで、
幅広く活躍してきた名機だよ。空母の中で、ヘルキャットやアベンジャーとセットで、あのドーントレスを運用しているのはごく少ない。
ましてや、40機近い機数の攻撃隊に混じって来るとしたら、あの航空隊の母艦は自然と限られてくる。」

彼は、悠然と飛行していくドーントレスを羨望の眼差しで見つめながら、テレスに言った。

「あれは、エンタープライズ。ビッグEと呼ばれる正規空母から発艦した航空機だ。俺達は、頼りになる連中に急場を救われたのさ。」
「ビッグEか・・・・・まさか、あのビッグEの航空隊が支援に来るとはね。」

テレスは微かに震えた口ぶりで呟きつつも、内心は安堵感で一杯だった。

第7石甲旅団は、第9歩兵師団と共にプリシュケの攻撃を担当していたが、部隊は予想外の大苦戦に見舞われていた。
旅団本部からは、前方300グレルの位置にある砲兵陣地が敵機の爆撃を受ける様子を見渡せる事が出来た。
10機前後のアベンジャーと思しき爆撃機は、それぞれが2発ずつの爆弾を砲兵陣地に投下している。
爆弾が落下し、炸裂する度に爆発音とそれに伴う振動が、旅団本部の天幕にまで伝わってきた。

「おのれ!味方のワイバーン隊は何をしておる!?」

旅団長であるオウグ・バーデルド准将は顔を真っ赤にして怒鳴った。

「は、はっ!味方のワイバーン隊は現在、敵の艦載機隊と交戦中であります。」
「艦載機隊と交戦中だと!?ならば、砲兵陣地を爆撃しとる敵編隊は一体何だ?あれはアベンジャーだ。艦載機だぞ!
艦載機と交戦中なら、なぜアベンジャーは砲兵陣地の真上まで来られるのだ!?」
「目下、ワイバーン隊は敵の戦闘機隊相手に苦戦しておりまして」
「もういい!役立たず共め!!」

バーデルド准将は大声で主任参謀の答えを遮った。

「それよりも報告は?被害報告はまだ挙がらんのか?」
「もうしばらくお待ち下さい。只今集計中です。」
「急げ。このまま待機していても仕方がない。我々は早くここを突破して、海岸に向かわなければならんのだぞ。」

バーデルドは憤りを露わにした口調で幕僚に言い放つ。
彼が待っていた報告は、それから15分ほどで届けられた。

「閣下。被害報告の集計が出ました。」

天幕に入ってきた魔導士は、顔を青ざめながらバーデルド准将に報告しようとした。

「その紙を寄越せ。」

バーデルドはそう言いながら魔導士に歩み寄ると、持っていた紙をひったくった。

「・・・・・・・・・・・・」

彼は何度も何度も、その内容を読み返した。
(そんな・・・・いやしかし、我が旅団の部隊がこんな損害を受ける筈が・・・・)
バーデルドは、紙に書かれていた内容が嘘であると願いたかった。
しかし、紙に書かれていた損害報告は紛れも無く事実であった。
先の攻撃で、バーデルドの石甲旅団は2個大隊を派遣し、それに第9歩兵師団の1個歩兵大隊を付けて攻撃を行なわせた。
攻撃部隊の後方には急造ながらも、砲兵陣地を敷き、敵の砲撃にも対応出来るように準備していた。
だが、攻撃が始まるや、アメリカ軍の反撃は熾烈であり、攻撃部隊には次々と犠牲が出た。
一時は防御線をあと一歩で突破できそうになったが、敵の歩兵が持ち出したバズーカ砲によって押し留められ、ついには
部隊を後退させるに至った。
バーデルドは地上部隊の苦戦ぶりを見かねた末に、航空支援を要請した。
この航空支援はなかなかの成功を収めた物の、アメリカ側もまた、航空支援を頼んだためにワイバーン隊にも損害が出始め、
しまいには敵艦載機によって地上部隊、並びに砲兵隊までもが銃爆撃を食らってしまった。
バーデルドは部隊を一時後退させて、損害状況を確認した末に部隊を再編して、新たに攻撃を仕掛けようと考えた。
だが、味方の損害は、彼の予想を大きく上回っていた。
攻撃に参加した2個石甲大隊並びに、1個歩兵大隊は、どれもが手酷い損害を受けていた。
2個石甲大隊は、先発した石甲大隊が戦力の5割7分を失い、事実上の壊滅。後詰めであった石甲部隊も3割にも上る損害を
受けて戦闘力を大きく削がれた。
先発の石甲大隊に追従していた歩兵部隊は、実に7割の戦力を失い、実質的に全滅と言って良い大損害を被った。
砲兵部隊の損害も深刻で、支援砲撃に当たっていた砲兵大隊は、空襲によって戦力の過半を喪失している。
ワイバーン隊の損害は分からないが、観測兵からの報告からして少なくとも14、5騎は敵艦載機の餌食になっている。
対して、こちら側も敵の防御線や砲兵隊に対して少なからぬ損害を与えたと、攻撃部隊の生き残りの士官は口を揃えて
報告しているようだが・・・・・

「どうも、釣り合わないな。」

バーデルドは険しい顔つきを浮かべて呟く。

「損害が多く出ることは予想していたが、攻撃部隊が壊滅同然の被害を受けては、後の作戦にも支障が出る。」
「閣下。この際、予備として温存している第323石甲連隊を投入して、一気に攻撃を仕掛けては?」
「323連隊か・・・・・」

バーデルドは唸った。
先の攻撃では、324連隊が攻撃を担当している。
第7石甲旅団は、323石甲連隊と、324石甲連隊を主力に編成されている。
バーデルドとしては、324石甲連隊でプリシュケを突破した後、リミステミは歩兵師団で包囲した後に海岸へ向かおうと
事前に計画を立てていた。
だが、その計画は大幅に狂ってしまった。

「324連隊も、まだ6割ほどの戦力は残っています。それに323連隊と、第9歩兵師団の将兵も加えて攻撃を加えれば、
プリシュケの敵を押し潰すことは可能かと思われます。」
「ううむ・・・・だがなぁ。ここで戦力をあたらに失っては、海岸での戦闘でやりにくくなると思うのだが。」

バーデルドは躊躇する。しかし、幕僚は尚も食い下がった。

「そもそも、プリシュケを突破できなければ海岸に行くことすらかないません。ここはひとまず、全部隊を参加させた猛攻によって、
プリシュケの敵を叩き潰すべきです。その後、リミステミは事前の計画通り包囲したままで良いでしょう。」
「なるほど。君の言いたいことはよく分かった。」

バーデルドは頷いた。

「では、攻撃部隊を再編成しよう。編成が終わるまでには幾分、時間がかかるだろうから、その間は、ワイバーン隊に上空援護を頼む。
魔導士は先のことが起こらぬよう、ワイバーン隊に航空支援の強化を要請しろ。次の攻撃で敵を叩き潰す。」
+ タグ編集
  • タグ:
  • 星がはためく時
  • アメリカ軍
  • アメリカ

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

目安箱バナー