自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

273 外伝56

最終更新:

tapper

- view
だれでも歓迎! 編集
770 :外パラサイト:2010/09/19(日) 12:41:57 ID:IG6u5Xig0
1484年11月18日 レスタン領コマホルク

コマホルクはジャスオ・レスタン国境の東側一帯に広がる森林地帯である。
アメリカ・南大陸連合軍はここで名将ルィキム・エルグマド率いるシホールアンル軍レスタン東部方面軍との泥沼の消耗戦に引き込まれていた。
シホールアンル軍にとっての幸運は、一つには11月に入ってまもなくレスタン地方を百年に一度の悪天候が襲ったため、連日の雨によって地面がぬかるみ、機甲部隊の進撃速度が大幅に落ちたことである。
そしてもう一つは、新型飛行挺ドシュダムの登場であった。
ドシュダムは国民総動員計画に基づいて企画された兵器の一つで、開発においてもっとも優先されたのはとにかく安く、早く作れることと昨日まで飛行挺など触ったこともない素人をも即戦力に仕立てあげることのできる扱いやすさである。
量産性を重視し、ケルフェラクの6割の出力しかない魔導機関でケルフェラクに準じた性能を要求されたドシュダム開発陣は徹底的に無駄を省いた軽量構造でこれに答え、戦闘性能に直接影響しない部分の安全性と耐久性は完全に犠牲にされた。
このため実戦部隊からは「緊急出力を使うと魔導機関がすぐ火を吹く」「急降下の途中でバラバラになっていく」といった苦情が数多くよせられた。
また複雑な二段式魔力過給器の採用を見送ったため、高高度での迎撃任務には使えないという欠点があるものの、低空ではケルフェラクの補助戦力として充分実用に耐えると評価された。
さらにケルフェラクにくらべ約4分の1のコストで生産できるうえ、訓練に要する時間は3分の1以下という無視できないメリットがあった。
ドシュダムの操縦系統がどれだけ簡略化されたものだったかを示す逸話として、捕獲したドシュダムのテスト飛行を命じられた米軍パイロットが「メーターの数がジープより少ない飛行機なんて怖くて乗れるか!」と叫んだというものがある。
かくして記録的な短期間で量産体制に移行したドシュダムは、多少の欠点には目を瞑り大量投入による物量戦でしゃにむに押しまくるという大祖国戦争的な運用によって、レスタン戦線の制空権を巡る戦いを、ほぼ互角の状態に持ち込んでいた。

曇天の空をドシュダムの編隊が特徴的な爆音を響かせて飛んでいく。
ケルフェラクの猛禽を連想させるシルエットとは明らかに異なる、蠅か虻のようなずんぐりした飛行挺が頭上を通過するのを森の中から見送ったファメル・ヴォルベルク准将はホッと息をついた。
「あいつが出てきてからやりにくくなったな」
単体でのドシュダムの性能はP-40後期型といい勝負といったところだが、とにかくどこにでも現れるうえ落としても落としてもすぐ代わりが飛んでくる。

771 :外パラサイト:2010/09/19(日) 12:42:43 ID:IG6u5Xig0
小型爆弾を搭載しての地上攻撃も盛んに行われ、カレアント将兵の間では「白死病」と呼ばれている。(白死病はカレアント南部に生息するムルカという名の蠅に似た虫が媒介する伝染病で、感染すると血液が白く変色し、三日以内に死に至る)
「予算食いのエアフォースは何やってんだまったく」
ファメルに続いて藪の中から這い出してきたのは第4機甲師団B戦闘団を指揮するバーナード・ジェンセン中佐だった。
二人はアメリカ軍とカレアント軍が隣接する戦闘区域での共同作戦の打ち合わせのため、最前線に近いフェモロンの町で会合を持ったところを局地的な反撃に出てきたシホールアンル軍に急襲され、部隊とはぐれて森の中を彷徨っていた。
この奇襲攻撃で師団長2人を含む多数の高級将校が48時間にわたって所在不明となり、前線部隊は一時的に指揮系統が麻痺していた。
「さて移動を続けよう、静かにな」
「わかってる」
ジェンセンの武器は腰のホルスターに収めたGIコルト一挺、ファメルの得物は右手に装着した三連刃の義手「ハン叔父さんスペシャル」のみである。
できれば敵とは会いたくない。
「本当に味方のところまで行けるのか?」
「私の土地勘に間違いはない」
「そいうや犬だったな」
「狼だ」
二人はあまり静かとは言えない調子で森の中を進んでいった。

ハタリフィクに設けられたシホールアンル東部方面軍司令部では、エルグマド大将と主だった幕僚がテーブルの上に広げた作戦図の周りに集まり、意見を戦わせていた。
「クレストロズ作戦は予想以上の成功を収めました、最先頭のベックラー大隊は国境を越えジャスオ領に7ゼルドも進出しております」
「うむ、もう充分だ、撤退命令を出そう」
エルグマドの言葉を聞いた幕僚の反応は納得の表情を見せるものと、驚き、あるいは不満気な表情を見せるものに分かれた。
「今回の作戦の主目的はあくまで敵を混乱させ、ジャスオ領から後退してくる友軍を援護するためのものだ。相手が南大陸軍だけならこのまま戦いの主導権を奪えるだろうが、敵には無尽蔵といってもいい戦力を持つアメリカ軍がついている。慎重過ぎるくらいが丁度いい」
そう言って地図を睨むエルグマドはぽつりと零した。
「それにしても気になる…」
「ダイバルブ中隊ですか?」

772 :外パラサイト:2010/09/19(日) 12:43:39 ID:IG6u5Xig0
「やはり予備にまわした方が良かったかも知れん、今更だが胸騒ぎがする」
ツィッタ・ダイバルブ少佐は野戦指揮官としては優秀だがそれ以上に生粋のサディストであり、行く先々の戦場で数多の虐殺事件を起こしている。
エルグマドはジャスオ戦線から身体ひとつで脱出してきたダイバルブのもとに素行不良の兵士を集め、臨時集成中隊を編成していた。
腐ったリンゴは一箱にまとめ、そのうち適当な理由をつけて本国に送り返そうと考えていたのである。
だがクレストロズ作戦発動間際になって鉄道輸送中の503大隊が空襲を受け、列車ごと壊滅してしまったため、戦力の穴を埋めるためダイバルブ中隊も作戦に投入されることになったのだった。

「むっ!」
森の中を進むファメルとジェンセンの前に、いきなり黒い影が立ちはだかった。
素早く銃を抜くジェンセン。
「待て」
ファメルは発砲しようとしたアメリカ人を制した。
「安心しろ、これはコビトオーガだ」
コビトオーガは北大陸の山間部に生息するオーガの亜種でサイズは最大でも成人男性よりちょっと大きい程度、性格も温和で子供の頃から育てれば人間にも懐く。
コビトオーガはファメルとジェンセンを交互に見つめると、ついて来いといわんばかりに背中を向け、ゆっくりと歩き出した。
「お願いします、お姉ちゃんを助けてください!」
コビトオーガの案内で森の中の洞窟まで案内された二人は、シホールアンル軍の一隊に占拠された村から脱出してきた一人の少年と出会う。
少年の姉はほかの少女や人妻とともに村長宅に捕えられ、シホールアンル兵の慰みものになっているのだった。
「許っさんッッ!」
怒りに震えるジェンセンを意外そうに見つめるファメル。
かつてニューオルリンズで警官をしていたジェンセンは、性犯罪者に対して偏執的なまでの憎しみを持っている。
ホルスターから愛用のコルトを抜き、すぐさま村に乗り込もうとするジェンセンをファメルが押しとどめる。
「まあ待て、正面からぶつかっては人質の命が危ない。ここは策を用いるべきだろう」

村を占拠していたのはダイバルブ中隊の生き残り12名だった。
指揮官のダイバルブが昨日の戦闘で戦死したのをいいことに戦線を離脱し、老人と女子供しかいない寒村を占拠してサボリを決め込んでいたのだ。

773 :外パラサイト:2010/09/19(日) 12:44:32 ID:IG6u5Xig0
「お助け!お助けくださいましッ!」
村長宅の前でやる気なさげに歩哨に立っていた兵士の耳に絹を裂くような悲鳴が届いた。
村長宅は村の中央の噴水の置かれた広場の南側にある。
その広場に小型のオーガに追われた若い…というにはちょっと微妙な女性が走ってきたのだ。
オーガは噴水の手前で女性を捕まえると、兵士の見ている前で女性の服を剥ぎ取りはじめた。
「おい、アレ見てみろよ!」
歩哨は館の中にいる仲間に声をかけた。

「どうだ、私もまだまだイケてるだろう?」
眼帯を外した右目を前髪で隠し、右手の義手に布巻いてポーズを取るファメル。
カレアント軍の制服は胸の大きく開いた酒場の女給風の衣装に着替えている、具体的に言うと「荒鷲の要塞」のイングリット・ビット。
「寝言は寝て…いや、ルーマニア出身のネゴトワ・ネティエという女優がいてな…」
喉もとに三連刃を突きつけられたジェンセンは苦しい言い訳を口にする。
「さて少年、君のオーガに私を襲うフリをさせることは出来るかな?」
村外れの納屋に忍び込んだ三人と一匹は救出作戦の打ち合わせを始めた。
作戦といってもファメルとオーガで敵の目を引きつけ、裏から突入したジェンセンが人質を救出するという単純なものである。
(表に出てきたのは全部で9人か、上手くやれよジェンセン)
裸同然の恰好で地面を這いまわり、甲高い声で悲鳴をあげながら冷静に状況を見定めるファメルだったが、のしかかってきたコビトオーガが息を荒くしているのに気付いて冷や汗を流す。
(まさか本気になってるなんてことは…あるかも……)

(そろそろだな)
館の裏口から侵入したジェンセンは大広間のドアを蹴り開けた。
床にはあられもない姿で横たわる裸の女たち、その真ん中で寝ぼけ眼の兵士がノロノロとズボンに足を突っ込んでいる。
ジェンセンはポカンとした顔で立ち尽くす男の胸板に45口径弾を叩き込んだ。
続いて長椅子の陰から身を起こした二人目の兵士の頭を撃ち抜く。
背後で何かが物音を立てた。
ジェンセンは昔取った杵柄で複雑な方角計算を瞬時にやってのけると、右手の銃を左の脇の下にまわし、身を捻っての曲技撃ちでその音を狙って発砲した。
剣を抜いた兵士が左手で胸を押さえ、壁に背中を預けてズルズルと崩れ落ちた。
室内に生きている兵士はいないことを確認したジェンセンが表玄関にまわったときには、銃声で芝居の必要がなくなったことを知ったファメルが見物に出てきた兵士を制圧し終えていた。
一線を越えそうになったコビトオーガは急所を蹴られて悶絶している。
最後の兵士の心臓から義手を引き抜きいたファメルは高らかに勝鬨をあげた。
裸の美女が全身に返り血を浴びて咆哮する姿を見て、ジェンセンはこめかみを揉んだ。
「やっぱりケダモノだ…」
+ タグ編集
  • タグ:
  • 星がはためく時
  • アメリカ軍
  • アメリカ

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

目安箱バナー