自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

275 外伝57

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tapper

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825 :外パラサイト:2010/10/09(土) 21:06:46 ID:IG6u5Xig0
1484年11月6日 ジャスオ領アナルセクス

雨の夜だった、風も強かった、雷もゴロゴロ鳴っていたがそこらじゅうで砲弾がどっかんどっかん爆発していたので兵士たちは気にも留めなかった。
アメリカ軍戦区とカレアント軍戦区が隣接するアナルセクスのとある村落。
臨時の中隊本部となっているいい具合に崩れかけた納屋の前に1台のジープが止まった。
「第3地区じゃねえ第4地区だ!第4地区に俺たちゃ2時間もいるんだ、第3地区じゃねえってば第4地区だよ!」
雨漏りし放題の納屋の中では、スキンヘッドを輝かせた軍曹がマイクに向かって唾を飛ばしながら怒鳴っている。
「命令がどうたらって俺の知ったことか!モリガン聞こえてんのか?手前ら俺達んトコへ砲弾(タマ)撃ち込んでんだ!」
どんどんヒートアップしていくハゲの背後で軋んだ音を立てて納屋の戸が開き、ドングリ眼の二等兵に先導され頭から雨合羽を被った人物が入ってくる。
「敵が何処だか俺が知るか!迫撃砲の射程をもっと先へ伸ばせ、以上だ!」
無線機が壊れるような勢いでマイクを放り出した軍曹が後ろを振り向くのと、雨合羽を脱いだカレアント兵の、ぴんと立った犬耳とややたれ目気味の整った顔が露わになったのはほとんど同時だった。
「ヘイ、ヘイ、ヘイ、これがホントの掃き溜めに鶴ってやつだな。で、こちらの別嬪さんはどなた様かな?」
「はい、カレアント第21戦車旅団B中隊のドナ・スラーマ少尉です。明日の作戦の打ち合わせにまいりました」
ドナはにっこり笑って右手を差し出した。

北大陸に進攻した連合軍の一翼を担うカレアント陸軍は2個軍11個師団の兵力をもって上陸し、アメリカ軍や他の南大陸諸国軍と肩を並べて戦っていた。
11月上旬、第13軍隷下の第3軍団に所属する第7機械化歩兵師団はジャスオ領内を横断し、レスタン国境に近いアナルセクスに到達する。
第 7機械化歩兵師団は合衆国からの武器援助を受け劇的に様変わりした後期カレアント軍の中でも特に実験的性格の強い部隊で、師団は2個自動車化歩兵連隊を中 核として砲兵、工兵といった支援部隊が付随するほか、独自の機甲戦力として第21戦車旅団(実質的には連隊規模)を持っていた。
第21戦車旅団は3個戦車大隊を基幹とし、これに旅団修理廠をはじめ各種兵站部隊が加わるというスタイルをとっている。
1個戦車大隊は2個戦車中隊、1個戦車中隊は3個戦車小隊から成り、旅団全体では78両の戦車を保有している。
北 大陸派遣軍の第二陣として8月の第1週にエルネイルに上陸した第7機械化歩兵師団は9月に始まったムダルジェ渓谷の突破戦で大いに戦功をあげたものの、第 21戦車旅団は一週間に及ぶ戦闘で保有する戦車の40%近くを失うという大損害を受け、補充と休養ののち戦線に復帰したのは10月中旬のこと。
そして現在はここアナルセクスでホレース・ヒュラー少将指揮のアメリカ陸軍第41歩兵師団サンセットと共同で任務にあたっていた。

826 :外パラサイト:2010/10/09(土) 21:07:50 ID:IG6u5Xig0
第21戦車旅団B中隊第1小隊1号車の朝はレナ・スラーマ軍曹の怒鳴り声で始まる。
「起きろラナ――――――――――ッ!」
カーキ色の毛布で出来た蓑虫の中からくすんだ茶色の犬耳が覗く。
「あと四十分…」
やる気なさげな声とともに蓑の中に消える犬耳。
「しゃんとしろ!何があと四十分だ!」
「あと五十分~」
「馬鹿者――――――――――ッ!」
両手を振り上げ真っ赤な顔で地団太を踏むレナの横をするりと抜けて寝ぼ助な妹の隣に立ったドナが優しい声で言った。
「今すぐ起きないとソナちゃんのデレッキ生演奏よ?」
「うわぁああああぁぁあぁあああぁぁぁ!」
死人も目覚めそうな悲鳴をあげて飛び起きるラナ・スラーマ一等兵。
ちなみにデレッキというのはバイオリンに似たカレアントの民族楽器で本来は美しく滑らかな音を奏でるのだが、奇跡の演奏家ソナ・スラーマ二等兵の手にかかると誰もが未来に向けて脱出したくなるような広域無差別音波兵器と化すのであったジーザス。
「あ~童貞食いてぇ~」
「おはよ~」
黒の下着姿で堂々と闊歩しているのはミナ・スラーマ伍長。
シナ・スラーマ二等兵に至ってはすっぽんぽんだ。
「お前たちには羞恥心というものが無いのかあぁぁ―――――ッ!」
目から怪光線を出しそうな勢いで激高するレナ。
「まあまあまあまあまあまあ…」
やんわりと宥めるドナ。
そんないつもとかわらぬ一日の始まりを瓶底眼鏡の奥の澄んだ瞳で見つめながら、ファナ・スラーマ一等兵はフォークの先で湯気を立てるジャガイモを一口頬張った。
「あ、美味しい…」

「はい、お早うございます。今朝の通達です」
輪になって朝食をとる一同を見回し、うふ、と意味不明の愛想笑いを振りまいてブリーフィングを始めるドナ少尉。
「今 日はアメリカ軍との共同作戦になります、行動開始は0930。砲兵隊の展開が間に合わないので事前砲撃はありません、空軍もこっちに回せる飛行機はないそ うです、まあ誤爆の心配が無いだけよしとしましょう。あとおそらく日暮れまで野営地には戻れないので、戦車の中で空薬莢に排尿するなんてことのないよう出 発前にはお腹空っぽにしておいてくださいね。」
「もうちょいソフトな言い方ってもんがあるだろが!」
「それでは今日も一日死なない程度に頑張りましょう」
「いやードナ姉(ネエ)相変わらずユルユルっスねえ~」
「無視するな―――――ッ!」
騒々しく囀りながら礼拝堂のごとく聳え立つやたらめったら背の高い戦車に乗り込んでいく7人の戦車兵。
砲塔上面のハッチから乗り込む3人。
長女のドナが車長席、次女のレナが砲手席、三女のミナが装填手席に位置を占める。
車体左側のサイドドアから乗り込む二人。
四女のファナが操縦手席、五女のソナが無線手席に腰掛ける。
右サイドドアから乗り込んだ六女のラナと末っ子のシナが車体右側のスポンソンに装備された75ミリ砲の砲座に着く。
他の南大陸同盟軍の主力戦車がほぼM4で統一されているのに対し、カレアント軍は「武装が多い方がたくさん撃てていいじゃなイカ」という素敵な理由で未だに多数のM3中戦車を愛用している。
最初は輸出モデルのグラント戦車が在庫一掃セール気味に送られていたのだが、戦闘による損耗の補充でストックが底を尽いたのでアメリカ側はM4の供給を申し出た。
と ころが戦闘と兵器に対して独特のこだわりを持つカレアント軍はM3を強く強く希望したため、この時期のカレアント戦車隊はアメリカ本土で訓練用に使われて いた中古のリー戦車と激戦を生き残ったグラント戦車、そしてリー戦車と平行して供給されたシャーマン戦車の混成となっていた。
ちなみにグラントは砲塔に無線機を積み乗員6名なのに対し、リーは無線機を車体に設置して専属の無線手が付くため定員7名である。
そして同じ家から出征した七人姉妹が乗り込むリー戦車の車体には、そのものズバリの「スラーマ家」というニックネームが書かれていた。
ここでスラーマ家の七姉妹が入隊した経緯を簡単に説明しておくと、上の三人はカレアント本国が戦場になっていた頃からの古参だが、下の四人は第21戦車旅団の編成と同じ時期に入隊した(比較的)若手である。
祖 国の半分が戦場となったにもかかわらずこうした動員が可能なのは、カレアントがそれまで手付かずに等しかった豊富な鉱物資源を合衆国に輸出して得た外貨で 国民の福利厚生を充実させ、多くの働き手が家族の面倒を退役軍人を中心としたボランティア組織に任せ後顧の憂い無く出征できるようになったためである。
破天荒な行動ばかりが強調されるネコ王女だが仕事はキチンとやっているのだ。
もっとも戦災孤児を慰問するプロレス興行で渋る親衛隊の女性士官に強引にお揃いのマスクを被せ、ストロングキャット1号2号として自らリングに上がるなんておふざけも相変わらずしているが。

827 :外パラサイト:2010/10/09(土) 21:09:27 ID:IG6u5Xig0
「それじゃあ前進」
キューポラから身を乗り出したドナが指揮棒代わりのお玉で操縦席の天井をコンコンと叩く。
このステンレスのお玉はドナのトレードマークで、カレアント特産の果物と物々交換でアメリカ軍の炊事兵から入手したものだ。
ちなみに果物を試食したアメリカ兵は体質が合わなかったらしく、激しい下痢と腹痛に苦しむことになるのだがこれは余談。
「低速前進…出撃」
「それ何のマネ?」
ドライブシャフトを跨ぐ車体中央の高い位置に設けられた操縦席で、眼鏡を光らせたファナが左右の履帯をコントロールする二本のシフトレバーを1速に入れ、アクセルペダルをグッと踏み込む。
28トンの鉄の騎兵は身震いしながら動きだした。

雨あがりのぬかるんだ大地を一列横隊で進む4両のM3中戦車。
共同作戦をとるアメリカ歩兵の一団が少し後ろから徒歩でついてくる。
歩兵の早足の速度で前進を続ける歩戦共同チームの前方に着弾の爆煙があがった。
「援護砲撃はなかったんじゃねーのか?」
「あれは砲兵隊じゃないわ、歩兵の81ミリ迫撃砲よ」
「道理でショボイ砲撃だと思った」
「てか微妙にズレてね?」
「アメリカさんの砲撃は弾ケチらないのはいいけど大味だからねえ」
「ねえ、なんか弾着がドンドン近づいて来てるような気がするんだけど…」
いきなり「スラーマ家」の2メートル横で地面が爆発した。
吹き上げられた土砂と小石が戦車の装甲板を叩く。
「近い!近過ぎる!」
「ファナちゃん全速!」
ドナが滅多に出さない本気で焦った声に素早く反応するファナ。
尻を蹴られた猫のように猛ダッシュするM3中戦車の周囲でドンチャカ弾ける迫撃砲弾。
「ドドドドナ姉(ネエ)どどどどうしよう?!?」
「運を天に任せて突っ切るしかないわ」
どのくらい走っただろう、いつの間にか砲撃は止んでいた。
「ところでここは何処?」
「私は誰?」
「ツマンネ」
ドナは車長用キューポラから頭を突き出し周囲を見渡した。
「他の戦車とはぐれちゃったわね~、でも歩兵は…」
目を擦って周囲で固まっている歩兵をじっと凝視したドナは静かにハッチを閉めた。
「落ち着いて聞いてね」
「何?」
「どったの?」
「ふぁっつはぷん?」
「周り全部敵」
「マジですかぁ――――――――――ッ!?!」

828 :外パラサイト:2010/10/09(土) 21:10:40 ID:IG6u5Xig0
なんという安っぽい展開、味方の砲撃から逃げ回っているうちに「スラーマ家」は陣地を放棄し、後方の防衛拠点に向けて後退中のシホールアンル第241歩兵大隊の縦列に割り込んでいた。
あっけに取られたシホールアンル兵が我にかえる前にM3戦車に装備された全銃砲が一斉に火を噴く。
75ミリ砲の榴弾と37ミリ砲のキャニスター弾が歩兵をまとめて挽肉に変えていく。
さらに魔改造のカレアントの異名をとるほど戦車の武装強化に熱心なカレアント将兵の例に漏れず、「スラーマ家」も操縦席の左隣りに設置された2連装の前方固定機関銃を大威力の50口径に換装していた。
車体前部装甲板から銃身を突き出した二挺のブローニング機関銃が火を噴くと、でかい50口径弾を食らったシホールアンル兵がボーリングのピンのように吹っ飛んでいく。
もちろんシホールアンル兵もやられっぱなしではなく猛烈に反撃するが、火力の低い携帯式の魔導銃や弓矢では戦車の装甲には歯が立たない。
勇敢な兵士が何人か戦車に飛び乗ってハッチをこじ開けようと試みるが、車長用キューポラに装備された30口径機関銃を操るドナが正確な射撃でこれを撃ち倒す。
シホールアンル兵を蹴散らして前進を続けるM3戦車は鉄道操車場に突き当たった。
「機関車がいるよ!」
サイドドアの視察孔から周囲を見張っていたソナが線路上に停まった目標を発見する。
「ファナちゃん左旋回」
スポンソン装備の75ミリ砲の射界は左右各15度しかないため、いちいち車体を回して狙いをつける必要がある。
「発射」
車体砲手のラナがトリガーボタンを押すと、秒速619メートルで飛び出した徹甲弾が機関車を引き裂いた。
弾薬を積んだ貨車が次々と誘爆を起こし、地獄の釜の蓋が開いたような大混乱の中、悪鬼のごとく暴れまわるM3戦車。
まさに無敵、だが栄光は移ろい易い。
「ありゃ、弾切れだ」
「こっちもっス」
「右に同じ」
「ちょーっと調子に乗って景気よく撃ち過ぎた?」
「認めたくないわね、若さ故の過ちは…」
「ンなことより早く逃げないと!」
だが悪い事は重なるもので唐突にエンジンが止まった。
「故障した――――――――――ッ!?!」
「ドドドドナ姉(ネエ)どどどどうなっちゃうの?!?」
「そりゃあもちろん怒り狂ったシホールアンル兵に戦車から引きずり降ろされてわっふるわっふる-」
「それは『竜神スレ』だぁーっ!」
だが天は七姉妹を見捨ててはいなかった。
操車場の戦闘で起こった轟音と爆煙をたよりに、はぐれたアメリカ歩兵が追いついて来ていたのだ。
シホールアンル兵の注意が戦車に集まっている間に二手に分かれて側面に回り込み、両側から銃弾の雨を浴びせる。
シホールアンル兵は算を乱して遁走した。

829 :外パラサイト:2010/10/09(土) 21:11:30 ID:IG6u5Xig0
「おかげで助かりましたわ、これからは『キッチョムさん』って呼ばせてもらいますね」
「は?」
「それじゃあキッチョムさん、縁があったらまたお会いしましょう」
狐につままれたような顔で立ち去るドナを見つめるハゲの軍曹の隣に、頭を掻きながらレナが立つ。
「気にしねーでくれ、ウチのアネキは気に入った相手に “愛のニックネーム”を送るってヘンな癖があるんだ」
「キッチョムさん、ねえ…」
じゃあなと言って戦車に戻るカレアントの女兵士を見送った軍曹はまんざらでもなさそうだった。

戦争が終わったとき、生きて故郷に帰ることが出来たのはファナ・スラーマだけだった。
その後童話作家となったファナは、戦後30年目の年に自伝的小説「七人姉妹の戦車」を書き上げる。
ファナ・スラーマの生涯で唯一の長編小説となったこの本は、発表と同時に大ベストセラーとなり、ファナは数々の文学賞を受賞した。
ファナ・スラーマが63歳の生涯を終えた年、シホールアンル共和国のとある地方都市で老朽化した橋の架け替え工事中に川底から一台のM3中戦車が発見された。
消えかかったニックネームとシリアルナンバーから、スラーマ家の七姉妹が乗っていたものと判明したM3は綺麗に修復され、故郷の村の公園に展示されている。
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