自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

285 外伝61

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79 :外パラサイト:2011/01/09(日) 17:29:21 ID:PYl3SWRU0
1484年(1944年)11月 レスタン領ドゥエイン

トミー・ハウプトマン中尉は第410爆撃航空群第597爆撃飛行中隊に所属するパイロットだった。
彼が飛ばしていたのはハヴォックの愛称で知られるダグラス社の軽爆撃機で、陸軍航空隊では攻撃機を表す
A-20の正式名称が与えられている。
597中隊が使用するのはA-20の決定版とも言えるG型で、1700馬力のライト社製エンジン二基を
備え、空載状態での最高速度は時速500キロを越える。
運動性能も双発爆撃機としては比較的良好なので、597中隊では所有する全てのハヴォックの爆撃手席を
廃止し、機首に20ミリ機関砲4門を据えた地上襲撃機として使っていた。
ハウプトマン自身はハヴォックを使っての超低空での殴りこみ作戦は大変気に入っていたのだが、残念なが
ら今日の出撃はツキに見放されていた。
シュヴィウィルグの飛行場を叩くために出撃した597中隊は、目標の遥か手前でシホールアンル軍のワイ
バーンによって戦闘機のカバーを引き剥がされ、丸裸になったところで廉価版飛行挺ドシュダムが襲いかか
ってきたのだ。
シホールアンル軍パイロットから皮肉を込めて「寒い棺桶」と呼ばれる-「ドシュダムの設計は無駄がない、
飛んでいるときは必ずどこかから隙間風が入ってくるから空調ははじめから付いてない」というジョークが
由来である-ドシュダムだが、流石に爆撃機に遅れをとるほどしょっぱい性能ではない。
さんざん撃ちまくられた彼の愛機はいま、航法士兼後部射手とともにドゥエインの町はずれに出来たクレー
ターの中で燻る残骸と成り果てていた。
無論597中隊もやられっ放しではなく、後部射手の反撃で三機のドシュダムを撃墜しているが、そのうち
一機は自ら飛行挺を駆って迎撃に参加した戦隊指令イモクッテ・ヘガデルネン大佐の乗機であった。
ヘガデルネンの戦死によって飛行第76戦隊を引き継いだ次席指揮官のウィブト・ビルッスグは自身の指揮
で戦果をあげることに執着しすぎたため12月23日の迎撃戦で戦隊を壊滅させてしまうのだが、これはず
っとあとの話である。

ハウプトマンは手の震えを抑えながら石畳の上をガタガタ揺られていく馬車の中で、自分の真向かいに座っ
た男のプロイセン時代を思わせる大仰な軍服を見つめ、ついで膝の上に置かれた鉄帽-頭突きをしたらその
まま相手を串刺しにできそうな角飾りがついている-に視線を移した。
男は墜落現場からハウプトマンを引きずり出した歩兵隊の指揮官で、アメリカ人捕虜の手足を縛り上げ、馬
車に放り込むとそのまま自分も乗り込んできたのだった。
長身で肌が青白く、薄くなりかけている髪をやや長めに伸ばしている。
顔立ちは整っているほうだが全身からにじみ出る酷薄そうな雰囲気が、ハウプトマンをどうにも落ち着かな
い気分にさせた。
「なぜすぐに首を刎ねないのかと思っているのかね?」
男が話しかけてきた。
どう答えていいかわからないハウプトマンが沈黙を守っていると、男は相手の思惑などお構いなしとばかり
に滔々と語りはじめた。

80 :外パラサイト:2011/01/09(日) 17:30:21 ID:PYl3SWRU0
「私としてはゼヒそうしたいのだがね、大変残念なことにそうはいかないのだよ。エルグマド司令官は大変
情け深い御方でね、『もし敵兵を捕虜にしたら場合は自分が捕虜になったときにして欲しいと思うような扱
いをしなければならない』とおっしゃる。じつにいい話じゃないかね、ウン?」
男はそこで言葉を切るとずいと身を乗り出し、互いの鼻先がくっつくほどの距離でハウプトマンを睨んだ。
「だがこの馬車が向かっているのはヴァルシナの保安隊本部だ、我々はそこで君の身柄を情報省に引き渡す。
連中の辞書に『温情』という字はないからな、君はそう遠くないうちにひとおもいに殺してくれと哀願する
ことになるだろう」
ハウプトマンは-自分でも意外なことに-動揺を顔に出すどころか、それは楽しみだと言ってほほえみを返
すことすらできた。

情報省の人間はラップ博士と名乗った。
ラップは髪を油でギトギトに固め、いかにも役人風の丸メガネを鼻の上に乗せた小男で、机のうえに肘をつ
いて某人類保管計画司令のポーズを作りながら、屈強な警備員二人に挟まれて立つハウプトマンを見上げ猫
撫で声で言った。
「ここで君に危害を加えるつもりはない」
表情は穏やかだが視線からは少しも温かみが感じられなかった。
「我々も日々学んでいる。君たちからは通常の尋問では三つの言葉しか聴き出せない、名前、階級、認識番
号。こちらとしても無駄な時間を費やす余裕はないのでね」
ラップはコキコキと首を鳴らし、もったいぶった仕草で煙草に火を点けた。
「君にはここで一泊してから、明日の朝一番の列車でデブレンツェの収容所に行ってもらう。そこで君は魔
法尋問官によって、全ての記憶を吸い出されることになる。運が良ければその過程でショック死できるが、
そうならなかった場合は…まあ想像にまかせるよ」
面会を終えたハウプトマンは警備員に小突かれながら階段を下り、監房の扉を潜る際には腰を蹴飛ばされた。
監房には窓はなく、壁が氷で出来ているかのように寒かった。
藁布団を敷いた寝台に木製の手桶、壁には鎖を繋ぐための金属の留め具が並んでいる。
夕食は塩漬け肉と固いパンが一切れずつ、そして小さなカップに一杯の水。
塩漬け肉のおかげで夜中に死ぬほど喉が渇くことになったハウプトマンは鉄の扉を叩いて牢番を呼び、水を
くれと頼んだ。
その結果、腹を立てた牢番から水の代わりに棍棒の一撃をもらうことになったが、気絶することで少なくと
も喉の渇きからは開放された。
翌日、ハウプチマンは夜明けとともに監房から引き出された。
手首と足首に枷をかけられ、ぎこちない足取りで駅へと向かう。
道路を掃いていた女たちがほんのいっとき箒を下に置き、ハウプトマンのために祈りを捧げた。
“可哀想な人、神様のご加護がありますように”
鎖で繋がれた飛行服姿の男一人と制服警官六人の行列は、人々の注目を集めながら駅前の広場までやって来
た。
突然この寒空に上半身裸で大樽を担いで運んでいた人夫が一人、行列の行く手を遮った。
「Gメン対香港カラテ軍団」で倉田保昭と名勝負を演じたガチムチの中国人俳優に驚くほどソックリな人夫
はハウプトマンを見つめ、知り合いに会ったように頷いた。

81 :外パラサイト:2011/01/09(日) 17:32:09 ID:PYl3SWRU0
次の瞬間、構内に停車していた弾薬車が爆発した。
どこからともなく一羽のハーピィが現れ、急降下して背後から警官隊に襲い掛かった
人夫が担いでいた樽を先頭の警官に投げつけた。
樽が割れ、中から出てきた黄色くて丸い-み■ん■人としか言いようが無い-生き物が警官に群がる。
いきなり背中に火のついた藁束を括り付けられた水牛に似た動物の大群が乱入してくる。
これらのことが一度に起きたため、駅前の広場はコンクリートミキサーに放り込まれたような大混乱に陥っ
た。
ハーピィは翼で突風を起こし、吉川晃司ばりの回し蹴りをはなつ。
人夫が大胸筋をゴリュゴリュいわせながら警官をなぎ倒す。
剣を突き立てられた■か■星■の身体から柑橘類特有のツンとくる汁が飛び散り、警官の顔に飛沫がかかる。
(寺田農の声で)「目が、目がぁぁぁぁぁッ!」
水牛はサイレンのような咆哮をあげながら滅茶苦茶に駆け回る。
状況の変化についていけず案山子のように突っ立っていたハウプトマンは、背後から肩を掴まれた。
振り返るとマントをはおり、麦藁帽子を被った男がいる。
「死にたくなければ一緒にこい」
「え、いや…アンタは?」
出来損ないの人形のような頭巾で顔を隠した男は、問答無用とばかりにハウプトマンの手を引いて煙の中に
飛び込む。
幾つもの路地と潜り戸を通り抜けハウプトマンが案内されたのは、旧市街地の狭い通りの迷路の奥深くにあ
る隠れ家だった。
蔓草の密生した柵に囲まれた中庭では、ガチムチ人夫とハーピィが先回りして待っていた。
「ようこそアメリカ人、我輩のことはスケアクロウと呼んでくれ」
頭巾の男はテーブルに腰掛け、紅茶に似た液体の入ったグラスを差し出した。
「こいつはウゴウゴ、こっちがルーガだ」
ウゴウゴと呼ばれた太マッチョは胸の前で両手を組んで頭を下げ、ルーガと呼ばれた鳥娘は凶悪なカギ爪の
付いた指を広げてVサインを作る。
「我々はシグランツァと呼ばれる組織、君たちアメリカ人に理解し易い言葉を使うと盗賊ギルドのメンバー
なのだ」
シグランツァの歴史は古く、その組織はレスタン領のみならず周辺諸国にまで根を張っている。
彼らは南大陸に逃げた亡命レスタン政府の依頼を受け、レスタン領内で撃墜されたアメリカ軍パイロットの
救出を行っていたのだった。
「飛行士ひとりにつき金貨二十枚、リスクに見合った仕事とはいえるな」
ハウプトマンが見た目は紅茶、味は気の抜けたコーラのような飲み物を飲み干すと、スケアクロウが立ち上
がった。
「さて、急かせて悪いが万が一ということもある。山の中のアジトに移動するぞ」
スケアクロウは井戸の蓋を持ち上げると、真っ暗な縦穴の底へと下りていく。
ハウプトマンはウゴウゴの無言の圧力に背中を押され、ためらいがちに後に続いた。

このあと一行はアリステア・マクリーンの小説顔負けの活劇の果てにアメリカ軍の前線にたどり着くことに
なるのだが、それはまた別の機会に譲ろう。
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