自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

300 外伝65

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tapper

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だれでも歓迎! 編集
626 :外パラサイト:2011/05/21(土) 09:04:55 ID:PYl3SWRU0
投下させていただきます

627 :外パラサイト:2011/05/21(土) 09:06:04 ID:PYl3SWRU0
アルトネスティ・グリムマーヴルはヴァンパイアである。
シホールアンル軍によって祖国を追われたアルトネスティ(以下アルトと略)はいま、妹アルクネストラ(以
下アルクと略)とともにアメリカ海軍夜間戦闘飛行隊VF(N)-91のパイロットとして空母ラングレイ
に乗り込み、祖国を解放するための一大作戦に望もうとしていた。

その夜は満月で、月齢がバイオリズムに大きく影響するヴァンパイアの性質から血が騒いでどうにも寝付け
ないアルトは、ラングレイの飛行甲板を囲むキャットウォークを、潮風にあたりながらぶらぶらと散策して
いた。
周囲に目をやれば水平線まで続く艦、艦、艦。
戦艦、巡洋艦、駆逐艦、掃海艇、ありとあらゆる種類の軍艦が一糸乱れぬ隊列を組み、水平線まで続く大艦
隊を作っている。
何度見ても畏敬の念を感じずにはいられない光景だった。
月明かりのもと夜の海を粛々と進む無敵艦隊の姿を目に焼き付けていたアルトだったが、低温に強い夜の一
族とはいえさすがに1月の夜風は冷たく、肌寒さを感じるようになってきたためハッチを潜って艦内に戻る。
ねずみ色のペンキで塗られ、幾つもの水密隔壁で区切られた通路を適当に歩いているうちに、アルトはひょ
っこり格納庫甲板に出た。
翼を折りたたんだネイヴィー・ブルーの艦載機がずらりと並んだ一角に、なにやら人の気配がする。
ちょっとした好奇心からヴァンパイアの超感覚で気配の主を探ったアルトは、いきなり眉をしかめた。
要修理機を並べておく区画にある工作機械の収納スペースから、ものすごく聞き覚えのある声が漏れてくる
のだ。
アルトが工作室の扉を開けると、やはりというか、中にいたのはアルクネストラであった。
この時間、この場所にアルクがいることも尋常ではないが、その格好はもっと尋常ではなかった。
アルクが着用しているのは、制服は制服でも海軍のものではなく、原型を留めぬほど改造された婦人警官の
制服だった。
ピカピカに磨かれた膝上丈の黒のブーツ、極限まで丈を短くし、サイドに深いスリットの入ったタイトなス
カート、胸元を大きく露出させた紺の上着の胸ポケットの位置には安っぽいブリキのバッジ、腰のホルスタ
ーにはお気に入りのコルト.38スーパーがぶちこまれている。
襟元を留めるのはボタンではなくボンデージスーツを思わせる金属のリングで、そこにネオン・ブルーのミ
ラーグラスが引っ掛けられている。
尻のポケットには交通違反の切符の束。
どう見ても婦人警官のコスプレした風俗のオネエサンです本当にありがとうございました。
「…何をしているの?」
ヴァンパイアの女戦闘機乗りは焦った顔で姉の腕を引っ掴むと、有無を言わさず部屋の隅まで引き摺ってい
った。
「ちょっとだけまっててね」
アルクはミラーグラスをかけた。

628 :外パラサイト:2011/05/21(土) 09:06:59 ID:PYl3SWRU0
髪にさっと指を走らせると、机の上に置かれたトースターほどの大きさの魔法映像記録装置のスイッチを切
り、それから艦内伝達系に接続されたマイクを掴んで宣告する。
「あなたは逮捕されたのよボブ、おかしな真似はしないように。十分後に電話をかけなおしなさい」
マイクの電源を切ると三脚つきの撮影用の照明器具の向こう側へ行って、壁からコンセントを抜く。
ミラーグラスを外して机の上に置くと、微妙に視線を外しながら姉に向き合った。
「い、いい晩ね」
「本当、踊りだしたいくらいだわ。で、そのイカレた格好の理由はナニ?月の光に酔ったとか?」
「まあそのいわゆるひとつの長期航海中のストレスに対する絶対理性と実践理性の相対的エントロピー保
存則がなんなんでありましてつまりは事態の推移を全力を挙げしっかりと見守っていこうと…」
アルトは無言で拳を固め、妹の両のコメカミに人差し指の第二間接を押し付けると、強力な“ぐりこ”を喰
らわせた。
「素直に歌いなさい」
「痛いです!歌います!」

-中略-

「…つまり同郷の艦隊司令部付き魔導将校とグルになってその破廉恥な格好で演じる一人芝居を有料で艦
隊の希望者に配信していたと?」
「… y e s 」
「貴女という娘はホンットに…」
再び渾身の力を込めた“ぐりこ”。
「イタイイタイイタイッ!!!」

-しばらくお待ちください-

「で、いつからこんなことを?」
「ん~とねえ、約三週間前からかな?今日は色情婦警、その前は色情修道女、その前は…」
「もういいわ…」
聞きたくないと言わんばかりに両手で妹を制するアルト。
「何故か婦警が一番ウケがいいのよね、口汚い言葉で罵りながら駐車違反の切符を切るの、こんなふうに」
すっかりゲロして開き直ったアルクは切符の束を胸の谷間に挟み、ノリノリで“せくしぃぽぉず”を決めて
みせる。
「アメリカの男ってみんな婦警に特殊な感情を持ってるのかしら?」
アルトは頭を抱えた。
前からブッ飛んだところのある娘だと思っていたが、まさかイメクラ紛いの商売に手を出していたとは。
「貴女、自分の人生真剣に考えてる?」
「もちろん」
即答だった。

629 :外パラサイト:2011/05/21(土) 09:07:56 ID:PYl3SWRU0
「あのねえ…」
呆れた顔で妹に意見しようとしたアルトは、妹が柄にもなくシリアスな顔をしているのに気付いて虚を突か
れた。
「ねえ、アルトは何か計画を持ってる?」
「計画?」
「そう、これからの人生について」
空中戦の最中でもおふざけを忘れないアルクが、これでもかというくらい真剣な顔をしている。
「この戦争はいつか終わる。1年先か2年先かは判らないけど私たちは勝つ、それは間違いない。でもその
後は?」
「ぐぬぬ…」
言葉に詰まるアルト。
「私は軍を辞めて国に帰るつもり。もちろんアメリカ人には義理があるし隊の仲間も気に入ってるから、レ
スタンが開放されてもこの戦争の決着がつくまでは除隊しないけど」
先天的に魔力を宿した紅玉のような瞳が真っ直ぐに見つめてくる。
アルトは息苦しさを感じた。
「私は故郷に牧場を買ってそこで暮らそうと思ってるんだ、だからこれは未来の牧場のための資金稼ぎ…っ
てナニよ、その化け物でも見るような目は?」
「いや…貴女意外と色々考えてるのね」
「アルトは真面目だけど目の前しか見てないのよ、そんなんだから未だに男の一人も…ってイタイイタ
イ!」
三度“ぐりこ”が炸裂する。
そこに突然戦闘配置を告げるベルが鳴り響いた。
「お前たち、出撃だぞ!」
工作室の扉が開き、飛行隊長のクリントン・タイラー少佐が現れる。
アルクの格好を見て顔色ひとつ変えないところを見ると、タイラーも顧客の一人らしい。
チクショウちょっといい男だなぁと思っていたのにと、心の中で血涙を流すアルトだった。
そんなアルトの苦悩などおかまいなしに、タイラーは早口で命令を伝える。
「すぐ支度して待機室に集合だ、俺とアルトの小隊で飛ぶぞ。」
「なにがあったんです?」
「ネオショーに敵編隊が接近してるらしい」
油槽船ネオショーは前日に機動部隊の艦艇に最後の洋上給油を行ったのち、駆逐艦シムスを伴って艦隊の後
方90マイルに後退していたのだが、艦隊側面で哨戒線を張っていた潜水艦ドラムのレーダーが、そのネオ
ショーへ向かう所属不明の飛行編隊を捉えたのだった。
「急ごうアルト!ネオショーの乗組員は上得意さんなんだ!」
「先に着替えなさいこの痴女!」
レーミア沖海戦開幕前夜のとある月夜のことであった。

追記-結局このあと緊急発進したVF(N)-91は会敵できず、戦後の調査でもこのとき当該空域で行動
中のシホールアンル軍部隊はなかったことから、この警報はレーダーの不調による誤報とされたのだが、一
部ではこのときレーダーが捉えたのは未知の巨大な飛行生物ではないかという説が根強く主張されている。
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