自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

333 外伝72

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「アリゾナ・シックス・ズールー、こちらリマ・ナイナー・マイク。攻撃を受けている、至急救援を!」
「落ち着けリマ・ナイナー・マイク、敵の兵力は?ゴーレムやキメラはいるのか?」
「違う!我々を襲っているのはゴーレムでもキメラでもない!あれは…あれは……ッ!」
「リマ・ナイナー・マイク、もう一度繰り返してくれ、何に襲われていると?リマ・ナイナー・マイク、くそ、応答しろ!リマ・ナイナー・マイク。こちらアリゾナ・シックス・ズールー!」
「馬をくれ !馬を! 馬の代わりにわが王国をくれてやろう!」
「…お前は何を言っているんだ?」
リマ・ナイナー・マイクことジム・マシューズ中尉が混乱のあまりリチャード三世のセリフを口走ってしまったのは彼が入隊前はオフ・ブロードウエイの役者だったからなのだが、アリゾナ・シックス・ズールーことリチャード・プラー少佐はもちろんそんなことは預かり知らない。

1485年(1945年)6月24日早朝、レスタン領リスワーガを発したアメリカ軍補給部隊は何者かの攻撃を受け、全員が行方不明となってしまった。
第6機甲師団司令部は情報収集と生存者の捜索のため第87騎兵偵察大隊に出動命令を下す。
午前8時32分、リスワーガ郊外で偵察活動中のM8装甲車が最初にそれの報告をもたらした。
「いたのであります…」
「何だ?何がいたんだ!?」
「自分の目が…信じられません!」
そして偵察小隊の装甲車も帰ってこない。
今度は第12軍団司令部から第9空軍に空中偵察の依頼がなされ、爆撃手の代わりに写真機を持った偵察員が乗り組んだ610中隊のA-20が発進する。
そして1時間22分後、第12軍団の司令部が置かれたリスワーガの街で一番大きなバリブトン・ホテルの一室で、ウォード・S・ボンスン少佐は飛行場からハーレーの単車をぶっ飛ばしてきた泥だらけの少尉から受け取った航空写真を食い入るように見つめながら呻いた。
「不味いぞ、すごく不味い…」
慌てて立ち上がったボンスンはデスクの上のマグカップを倒し、熱々のコーヒーをズボンにぶちまけてしまう。
「くぁwせdrftgyふじこlp;!?!」
「ああ、大変!」
火星語の絶叫を聞いて駆けつけてきた犬耳のメイド(CV:田中理恵)-勿論ホテルのメイドでありボンスンが個人で“囲って”いるわけではない-が狂ったように跳ね回るボンスンの腰にしがみつき、手にしたハンカチを股間に押し付ける。
そこに頭から湯気を出しながらジュリアス・コルト少将(CV:富田耕生)がやってきた。
「ボンスーン!航空写真はまだかぁっ!情報将校のクセに満足な情報も集められんとはどうなっとるんだこのデコッ!」
パニックを起こしたボンスンは無意識のうちに跪いたメイドの頭を両手で掴み、股間に押し付けてしまう。
コルト少将のコメカミに赤黒い血管が浮き上がり、普段は不機嫌そうに細められている目がクワッと見開かれた。
「この不埒ものが!」

大きな手が閃き、“早撃ちジュリアス”の異名をとった若かりし頃に劣らぬスピードで腰に吊るした45口径のリヴォルバーが引き抜かれる。
連続してあがる銃声。
だがコルト少将の腕の筋肉は昔どおり敏速に反応したが、接近戦に必要な直感的射撃技術は錆び付いていた。
6発の銃弾は大きく的を外し、ボンスンはコルト少将がシリンダーを外して空薬莢を排出している間にテラスを乗り越えて中庭に飛び降りた。
「逃げるなボンスン!弾丸が外れるだろうが!」
再装填を終えたコルト少将が後を追う。
床に落ちた写真には、リスワーガ~シェロニエ間を結ぶ幹線道路に居座る巨大生物-全長180フィートを越える角と背びれを生やしたガマガエルもどき-が写っていた。

6月24日午後1時32分、暫定的に「トード」と名づけられた巨大生物に対する攻撃が開始された。
道路を迂回し、連続した低木の茂みに身を隠して接近した第89戦車駆逐大隊のM18戦車駆逐車3両が800ヤードの射程で76ミリ砲を発射する。
だがしかし、灰褐色の疣に覆われたトードの皮膚は、射距離1000ヤードで厚さ4インチの装甲板を貫通する威力があるM62A1被帽徹甲弾をピンポン玉のように跳ね返してしまった。
トードの鈍く輝く黒一色の瞳がギョロリと動いて大地を這う鉄の箱を捉える。
「後退だ、後退しろ!」
ジープに乗った小隊長が叫んだ。
「しかし逃げられないであろうことは確定的に明らか」
ゴールデン・アイアン・ナイト号の車長が真面目くさった口調で言う。
トードの口から身長の倍はあろうかという長い舌が飛び出し、卑猥な形状をした舌の先端から噴射される白い霧状の液体を浴びた戦車駆逐車はよく煮込んだオートミールのようにグズグズに溶解してしまった。
戦車駆逐車全滅の報に接したコルト少将は受話器を放り投げて叫ぶ。
「よかろう、ならば空爆だ!」

第33戦闘機大隊第112戦闘飛行中隊のカーチスP-40ウォーホーク12機は胴体下に500ポンド爆弾を懸架して高度900メートルを進撃していた。
33大隊は開戦から一貫してP-40を使い続けている部隊で、現在運用しているのは1944年12月から配備がはじまった最終モデルのP-40Qである。
実をいうと陸軍航空隊は1944年前半の段階で戦争は峠を越したと考え、1944年末を目処にP-40の調達打ち切りを予定していたのだが、レビリンイクル沖海戦の衝撃から戦時生産計画そのものが見直されることになった。
またカレアント以外の同盟国も戦闘機の供与を要求してきたことから、引き続きP-40の改良と増産が続けられることになったのである。

試作段階ではオイルクーラーの主翼前縁への移設、バブルキャノピーの採用といった思い切った改修を行う予定のP-40Qだったが、手の込んだ改修で時間を食うよりとにかく数が欲しいという軍の要求により、出来上がった機体は従来のP-40Nの発動機を新型のV-1710-121に換装しただけという新味のないものになった。
それでも離昇出力1425馬力、時間制限付き緊急出力1750馬力を発揮する新型エンジンへの換装に伴い最高速度は高度6000メートルで624km/hに向上し、上昇性能と加速性能もそれなりに改善されたP-40Qは陸軍パイロットから概ね好意的に迎えられ、中には「速度性能以外はP-51よりも上」と断言する戦闘機乗りもいた。

「よし、攻撃!」
極端に口数が少なく、命令を下す際に喋る台詞の平均も三小節以下というウォーレン・ピーズ大尉の号令一下、目標を左翼の下に置いた12機の戦闘機は順番にロールを打って爆撃コースに入った。
ダイブブレーキを持たないP-40は本職の急降下爆撃機のような急角度の降下を行うと機速がつき過ぎて地面に激突してしまう。
だが何年もP-40で飛んでいるピーズとその部下たちはカーチス戦闘機での効果的な爆撃の技法を完成させていた。
パイロットは機銃の照準器に標的を捉えながら45度の角度を保って降下を続け、標的が機首の下に入ると同時に引き起こしを始める。
そして高度計と睨めっこしながらタイミングを計り、機体が水平飛行に移行したところで爆弾を投下するのだ。
12機の戦闘機が投下した爆弾はそのほとんどが至近弾となり、怪物に直撃したものも何発かはあったように思われた。
だが煙が晴れてみると周囲の地面は爆発で掘り返されているにもかかわらず、トードは七色に輝く光の幕の中で全くの無傷だった。
「なん…だと……?」

6月25日午前6時
「戦車および砲兵隊は伸びる舌からの溶解液に阻まれ接近できず、航空攻撃もマジックバリアと思われる光る幕に無効化され現状打つ手無しであります」
「ぐ、ぐぬ~っ」
青筋立てて唸るコルト少将だがそれで事態が好転するわけではない。
怪獣は道路上に居座ったまま一歩も動かず、第6師団は負傷者の後送も出来ない状況だった。
バリブトン・ホテルの宴会場を模様替えした作戦室は重苦しい空気に包まれる。
「こんなこともあろうかと頼れる助っ人を連れてきましたぞ!」
能天気な大声とともに押し入ってきたのは情報部のフレッド・C・ベッカー大佐とOSSの非合法工作員、フレンチーことウォルター・F・ショート、そして最後に腋と臍を露出させた特徴的な民族衣装を着た、どことなく占い師か呪術師といった雰囲気の少女だった。
「助っ人というのはそのワキ…じゃないヘソ…もとい、少女のことかね?」
情報畑の人間はみな胡散臭いスパイ野郎だと思っているコルト少将がぶっきらぼうに尋ねる。
だがフレンチーはその程度では動じない。

「ご紹介しましょう、こちらサーナ・エコッチャさん。今回の“異変”解決のためにお呼びしました」
神秘的な緑の髪の少女はぺこりと頭を下げると同時に、背後から尻を撫でるフレンチーの鳩尾に毒針エルボーを打ち込んでいた。
「君はあのモンスターの正体を知っているのかね?」
幕僚の一人の問いかけに、サーナは厳しい表情で答えた。
「あれはスワゴン、古の神の一柱です」

「スワゴンは死と再生を司る神であり、500年に一度甦って人々に試練を与えると伝えられてきました」
街道を見下ろす丘の上に設けられた前線司令部のテントの前で、居並ぶアメリカ人の将官たちを前にサーナの語りは続く。
「君たちは何の対策も採らなかったのかね?」
「なにしろマイナーな神様ですし今の話も代々神官を勤めてきた私の家系以外、地元の人でも知っているかどうか…」
あははーっ、と困ったように笑うと途端に十代後半のあどけない少女の顔になる。
「動き出しました!」
砲隊鏡で監視していた伍長の報告に一斉に双眼鏡を手にする幕僚たち。
サーナは懲りずに尻を撫でにきたフレンチーの右手を捕まえ、無言で小指を折った。
トード改めスワゴンは間にオマン湖を挟んだダット山の山頂に据えられたクリスタルの放つ光に向かって、誘蛾灯に惹き付けられる羽虫のように一直線に進んでいく。
「神話ではスワゴンは軍神カナゴンに破れ、オマン湖に封じられたとされています」
作戦会議の中でサーナは言った。
「我が家に代々伝わるカナゴンの神力を宿したクリスタルの光でスワゴンをオマン湖に誘導し、湖底の遺跡に残された魔方陣を起動させることでスワゴンを封印できるはずです」
やがて湖に入ったスワゴンが両岸の中間点にきたところでサーナの詠唱が始まった。
日本神道の幣串に似たワンドを捧げ持ち、オペラ歌手顔負けの朗々たるソプラノで詠唱を続けるその姿は神々しささえ感じられ、魔力の高まりによって周囲に強風が吹き荒れ、着衣が捲れ上がって臍どころか下乳まで露わになっているというのに誰も気にしていない。
サーナの詠唱がクライマックスを迎えると同時に湖から黄金の光の柱が立ち上り、光が消えた後のさざ波ひとつ無い湖面には、スワゴンの姿はどこにも無かった。
「やった!性交…もとい成功だ!」
「合衆国は無敵だ!やはり最後に勝つのは我々なのだ!」
躍り上がって喜ぶ幕僚たちを横目で見ながらフレンチーは肩を竦めた。
「これは我々に対してあんまり思い上がるんじゃないというこの世界の神からのメッセージだと思うんだけどねえ」
「いい台詞いいながらお尻撫でないでください」

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