自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

354 外伝73

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外伝『女王陛下のダンスパーティー』


「それでは我らが『グレン・ミラー・オーケストラ』の次なる曲は『イン・ザ・ムード』!紳士淑女の皆様方、ごゆっくりお楽しみください!」

司会者が口上を喋り終えて舞台脇に下がると、舞台上の揃いの服を着込んだ男たちが陽気な曲を演奏し始めた。
この世界の人々にとってはどれも奇妙な形に見えるの何種類ものラッパ、演奏者の周りに並べられた、というより積み上げられたように見える幾つもの太鼓、指で弦を弾いているからには竪琴の一種なのだろうが、とてもそうは見えない奇妙な楽器。しかしそれを自在に操る男たちが奏でる音楽は観客たちを魅了し、虜にしてしまっていた。

「ホレイショ~、踊りだしたくてたまらないんだけど~」
「おやめください姫様!」

そしてここにもいわゆる『新世界からの音楽』の虜になってしまった人物が一人。
言わずと知れた我らがミレナ・カンレアク女王その人である。

そもそもなぜここにミレナたちがいるかというと、前線で活躍を続けるカレアント軍兵士を激励するついでに友軍であるアメリカ軍を視察して、面白そうな新兵器があれば『おねだり』しようと企んでいたミレナ女王が訪問したアメリカ軍部隊に、かの『グレン・ミラー・オーケストラ』が慰問に訪れていたためである。

1939年に結成され、リーダーのグレン・ミラーのもとで様々なヒット曲を演奏してきた『グレン・ミラー・オーケストラ』ではあるが、合衆国召喚後に起こったシホールアンルの奇襲攻撃により戦争が勃発。そしてミラー自身が1942年に陸軍に志願してしまうと、楽団の看板とも言えるバンドリーダーが不在という状況に陥ってしまった。しかし南大陸の諸国と同盟を結んだ合衆国が彼らと様々な分野で交流を始めると、この楽団にもチャンスが巡ってきた。
開戦後しばらく経ってから『南大陸諸国との文化交流と前線の兵士に対する慰問』というお題目の元結成された交流団に加わって、南大陸行きの切符を手にした楽団員たち。そんな彼らのもとにかつてのバンドリーダーから一通の手紙が届く。そしてその手紙に記されていた一文に、楽団員たちは大いに盛り上がった。
『ヴィルフレイングで待っている』

そしてヴィルフレイング、この地で昔の仲間たちと再開したミラーは、再開を喜び合うのもそこそこに、楽団の主だったメンバーを連れてなんと南西太平洋軍司令部に乗り込み、そこで陸軍と(偶然居合わせた)海軍のお偉方に向かって長広舌を振るったのである。

人間の歴史、そして軍隊の歴史における音楽の存在の大きさについて
南大陸諸国との交流において音楽がどれほど貢献できるか
自分自身が苦労して作り上げた楽団についての思い
そして最後に彼は思い切ったことを口にしたのである
私を交流団に加えてほしい、と。

この一件は様々なところに影響を及ぼした。ワシントンDCでは陸軍省と国務省の関係者が幾度も合同会議を行い、ヴィルフレイングでは南西太平洋軍司令部と交流団の代表者たちが連日夜遅くまで話し合いを続けた。一方南大陸諸国にはこの一件が『アメリカの一音楽家が陸軍や海軍のお偉方たちに直訴した』という形で伝わり、上は王族から下は庶民にまでミラーと彼の楽団の名が知れ渡ることになる。
結局彼の訴えは認められ、ミラーは陸軍軍人のまま交流団に参加することになる。交流団を組織した国務省に陸軍省が一歩譲った形となったが、交流団の現地での活動はそのかなりの部分を陸海軍に依存する以上、両者の調整役として双方に顔のきく人物が交流団に存在する(しかも軍人)ということは軍にとっても悪い話ではなかった。
かくして『完全編成』となった『グレン・ミラー・オーケストラ』は南大陸各地で現地の人々に対してアメリカ文化の宣伝を目的とした演奏会を行う一方、前線の兵士達には慰問演奏会を行い、前者からは驚きと賞賛を、後者からは感謝と喝采を受けた。やがて米軍と南大陸連合軍の反攻作戦によりシホールアンル軍が南大陸から追い出され、戦場が北大陸に移ると彼らはマルヒナス運河をまたいで活動することになる。
ある時はレースベルンで民間の音楽家たちと合同演奏会を開催し、その次はレスタン領内で陸軍兵士たちへの慰問演奏会を行う。政府高官や高級軍人顔負けのハードスケジュールをこなす彼らの名は、今や敵国であるシホールアンルにまで知れ渡っていた。

それはともかく

「あ~楽しかった。やっぱりジャズはいい音楽よねホレイショ!なんというかこう、体の底から元気が湧いてくる音楽よね!」
「元気なのは結構なことでございますが陛下、少しは落ち着いた振る舞いを心がけて下さいませ。それがしはもう心配で心配で…」

米軍兵士達への慰問演奏会に『お邪魔』したミレナ一行(ミレナ女王とカラマンボ元帥、随行の武官と文官、そして護衛の親衛隊員達)は、女王一行の不意の訪問に慌てた米軍側が大急ぎで用意した宿舎の一角でくつろいでいた。周囲では文官たちが明日の予定について打ち合わせをしたり、親衛隊員たちが装備の手入れをしている。
そんな中

「明日は午前中ここに駐留するバルランド、ミスリアル両国の高級軍人たちと会談のあと午後からカレアント軍駐留部隊司令部と会議をする予定になっております」
「確かあちらのお偉いさんたちと一緒に食事もする予定なのよね……そうだ!」

いきなり大声で叫ぶと立ち上がるミレナ。彼女の顔には後に『ミレナいいこと思いついちゃったスマイル』(某親衛隊員命名)と呼ばれる笑みが浮かんでいた。
それを目の当たりにしたカラマンボ元帥が慌てて叫ぶ。

「陛下をお止めしろ、何としてでもお止めするのだ!」

しかし時すでに遅し。親衛隊員たちが動き出す前にミレナ女王は凄まじい勢いで宿舎を飛び出すと、運良く(いや、運悪く?)近くに停まっていた米軍のジープに飛び乗って姿をくらましてしまったのだった。武官たちが慌てて米軍と連絡をとって行方を突き止めようとしたが、彼女の行き先は全くわからなかった。

さて、無断借用した(盗んだとも言う)ジープで走りだしたミレナはというと……

「『グレン・ミラー・オーケストラ』の宿舎はどこ?」
「えーと、それでしたら…」

道行く米兵たちを片っ端からつかまえて『グレン・ミラー・オーケストラ』の宿舎の場所を聞き出そうとしていた。
ちなみに今のミレナは前線視察ということもあり、目立つドレスではなくカレアント軍の女性将校用新型制服を着用している。米軍の軍服の影響を受けたこの制服は華美なデザインであった旧型制服と違い、略綬(リボンバー)を採用するなどして旧型より機能的かつ簡素にまとめ上げられている(ただし軍全体にはまだ行き渡っていない)。そのせいで道行く米兵たちは目の前のジープを運転するカレアント軍の女性将校が、かの有名な『奔放姫』であるとは全く気づいてない。
こうして巧みに敵?の目を欺いたミレナは何事も無く目的地である『グレン・ミラー・オーケストラ』の宿舎に到着すると、警備の米兵と受付の団員を言葉巧みに丸め込み、代表者であるグレン・ミラー本人と一対一で会う直前までこぎつけたのであるが……

「へーいかあっ!」
「ホ、ホレイショ!う、うそ~っ」

そこに現れたのは親衛隊員の持つ担架で運ばれてきたカラマンボ元帥であった(あまりの心労で何故か持病の腰痛が再発してしまっていた)。

「姫様がそれがしを謀ろうなどとは千年、いや万年早い!今回はなんの企みがあってこんな騒ぎを起こしたのか、洗いざらい話していただきますぞ!」

綺麗に整えられた口髭を震わせて恐ろしげな形相でレミナに詰め寄るカラマンボ元帥。かくして始まったカラマンボ元帥のお説教タイム、しかしそれはある人物の登場によって中断されることになる。
そう、グレン・ミラーその人である。

部屋に入るなりただならぬ雰囲気に気付いたミラー。彼もカレアントの『お騒がせ女王』とその付き人の『お髭の元帥閣下』の噂は何度か耳にしていた。その噂の人物が目の前にいて、しかも何やら『やらかした』らしいこと、そしてどうやらそれはこの私に関係することらしい、ということに思い至った彼は、椅子の上でしょんぼりしているミレナに向かって話しかけた。

「よろしければ私にも理由をお聞かせ願えませんか、陛下。察するに陛下はこの私に会うためにこの騒動を起こしたようですが、一体何のために私に会おうとなさったのでしょうか。どうやらよほど大事なことのようですが、それは一体?」

かけたメガネをキラリと光らせて彼女から目的を聞き出そうとするミラー。彼自身これまでの南大陸における公演で、楽団の宿舎に各国の貴顕淑女や市井の庶民が押しかけてきて騒動になったことを一度ならず経験している。しかも今回騒動を起こしたのは一国の指導者である女王、これはひょっとすると政治的に重要な物事に首を突っ込むことになるのではないか?とミラーは警戒していた。
しかし彼女が口に出したのは、そんな彼を呆然とさせるような内容のものであった。

「実は…明日開催する舞踏会でミスター・ミラーに演奏をしていただきたくて…」
「舞踏会ですと!それがしは聞いておりませんぞ陛下!」
「しょうがないじゃない!ついさっき思いついたんだから!」

ミラーそっちのけで言い合いを始める二人。思わず仲裁に入ったミラーが二人の話を聞いてわかったことは

1、明日カレアント女王一行はカレアント、バルランド、ミスリアルの軍人たちと会議を行う。
2、偶然にもここに『グレン・ミラー・オーケストラ』が来ている。
3、合同舞踏会を開催して三カ国及びアメリカの交流を深めたい。
4、『グレン・ミラー・オーケストラ』が演奏を行うことでアメリカ文化への理解が深まるし、何より舞踏会が盛り上がる(これが本来の目的らしい)。

ということであった。
あまりにも突拍子な上に虫が良すぎる提案。しかしそれ自体は実に結構な話である。問題は関係者、特に多忙なことで有名な『グレン・ミラー・オーケストラ』のスケジュールなのだが…
「何とかなりませんか?」
と椅子に座りながらその大きな瞳でミラーを見上げるミレナ、その視線をまともに受け止めたミラーの顔に困惑の表情が浮かぶ。しばらくして彼が口にした言葉は
「何とかしてみましょう」
という、実質的な敗北宣言であった。

こうして開催が決まった舞踏会。関係者がスケジュールの調整と開催準備にどれほど苦労したかは言うまでもない。かくして米軍、カレアント軍、ミスリアル軍、バルランド軍、そして『グレン・ミラー・オーケストラ』の関係者たちは噂に聞く『女王陛下の気まぐれ』に振り回されることになったのである。
そして次の日、突貫工事で飾り付けられた舞踏会会場で演奏を披露した『グレン・ミラー・オーケストラ』は舞踏会に参加した南大陸三カ国の軍人たちから賞賛と喝采を受けた。ひとしきり喝采を受けたあと、新たな演目に取り掛かろうとする彼らのそばに一人の親衛隊員が駆け寄って、バンドリーダーであるミラーに耳打ちをする。彼が頷くと同時に、ミレナ女王一行に割り当てられた席から揃いのカレアント軍新制服に身を包んだ一団の女性が会場中央へと進み出た。先頭に立つのは、言うまでもなくミレナ、そして彼女に従うのは親衛隊員たちである。
会場中央で二人一組になって整列した親衛隊員たちを背にしたミレナは眼前の四カ国の高級軍人たちを前にして話し始めた。

「皆様方、今回は私のわがままに付き合ってくださって、まことに有り難うございます。せめてものお礼として、私とカレアント女王親衛隊のダンスをご覧に入れましょう」

彼女の口上が終わるや否や、『グレン・ミラー・オーケストラ』の面々が早いテンポの舞踏曲を演奏し始める。南大陸各国の宮廷でよく演奏される舞踏曲をスウィング・ジャズ風にアレンジしたものだ。テンポの速い曲に乗って二人一組になった親衛隊員たちが軽快なステップを披露する。ダンス自体もスウィング・ダンス風にアレンジされていて、それまで古典的な宮廷舞踏会ばかり目にしてきた南大陸連合軍の軍人たちには新鮮なものだった。
そして何より

「いやはや凄いものですな、特にあの娘の胸の大きさは凄い!」
「いやあちらの方もなかなか…」
「しかしあの制服のスカート、ちと短すぎやしませんか?」

美人でかつプロポーション抜群の娘(しかも年頃)揃いの親衛隊員たちが、上は白のブラウス、下は紺色のスカート姿(ちなみに生脚)で踊っているのである。心身ともに健康な成人男性ならば目を奪われて当然の光景であった。やがて曲が終わり、踊っていた親衛隊員たちが再び整列すると、親衛隊員の列の中から進み出たミレナが再び話しはじめる。

「皆様、満足いだだけましたでしょうか?しかし女性ばかりの舞踏会というのもある意味味気ないもの、やはり殿方あっての舞踏会でしょう。遠慮は無用です、どうぞご参加になって」

その口上が終わりきらぬうちにあちらこちらで席を立ち、我先にと進み出る男たち、女王陛下の気まぐれのせいで睡眠時間を削られ、さらに刺激的なダンスを目の前で披露された彼らの理性のたがは少々緩みかけていた。さすがに乱暴狼藉に及ぶことはなかったが、お目当ての娘を見つけるや否や挨拶もそこそこに踊り始める。初めて踊るダンスにまごつく者も多かったが、そんな人物は親衛隊員がリードすることで事なきを得ていた。
だが、彼らの頭のなかからはあることがすっかり抜け落ちていた。疲れのたまった体で初めて経験するダンス(しかも彼らの知ってる宮廷舞踊よりいささかテンポが早い)を踊った場合、自分たちの体がどうなるのか、ということが。
そして数時間後

「うーんいい汗かいたわ!音楽は最高だし、みんなでこっそり特訓してきたダンスもお披露目できたし、コーラは美味しいし、何より煩いホレイショがいない、言うことなしね!」
「でもこんなことしちゃっていいんでしょうか…」

同じテーブルに着いているネコ耳の親衛隊員の不安げな声に、会場を見回すミレナ。あちこちのテーブルで様々な人種・国籍の男性軍人たちが椅子にぐったりともたれ掛かったり、テーブルに突っ伏したりしている。皆親衛隊員(とミレナ)とのダンスに参加した挙句、精魂尽き果てた男たちの成れの果てである。もちろんダンスに参加したのは彼ら自身の意志ではあるが、このような結末は彼らの誰一人として予想していなかったであろう。

「いいのよ、美人と心ゆくまでダンスができたんだから、彼らだって満足してるでしょ。いきなりでうまくいくか正直心配だったけど、今回の舞踏会、ううん『ダンスパーティー』は大成功ね、うん!」

こうして様々な方面に迷惑をかけながらも、大成功?のうちに幕を下ろした女王陛下主催の舞踏会であったが、このミレナの思いつきが予想もしない所で人命を救っていたことが程なくして明らかになる。その生命を救われた人物とは、なんと彼女の思いつきに振り回された人物(被害者とも言う)の一人であるグレン・ミラーその人だった。
ミレナのわがままに付き合う羽目になった彼と彼の仲間たちはその公演スケジュールを少なからず遅らせる羽目になったのだが、これを好機と見たのが彼らの『足』である輸送機の整備チームとパイロットたちである。これまでの強行軍で疲労が溜まっていたパイロットたちは久しぶりの休息をとって英気を養い。整備チームは酷使でガタの来ていた機体を徹底的に点検・整備した。この大規模な点検の際にミラーの専用機として用意されたUC-64輸送機に致命的な問題(燃料系統のトラブルだった)が発見されたのである。もしミラーがミレナ女王のわがままに付き合わずにこのままこの地を離れていたならば、確実に彼の専用機は墜落し、彼自身もその人生を終えていただろう。
この一件について、後に出版された回想録でミラーはこう述べている。

「あの時私が女王陛下の懇願に対して首を横に振っていたとしたら、私の人生はこの異世界の空の何処かで終わりを迎えていたことだろう。彼女は私をさんざん振り回したが、結果として私の肩に掛かっていた死神の手を振りほどいてくれたのだ。ある意味、彼女は私の命の恩人である」

こうして命拾いしたミラーは復員後も音楽活動を続け、アメリカ音楽界、そしてこの世界の音楽界に多大な貢献をするのであるが、それはまた、別の物語である。



外伝『女王陛下のダンスパーティー』  完

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